ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第016話 荒ぶる傷面!!

『な……なんと未来からやってきた新世代超人(ニュージェネレーション)ジェイドが放ったのは、我々もよく知るアイドル超人軍の一角、ブロッケンJrの“ベルリンの赤い雨”だ――っ!』

 

 ジェイドがブロッケンJrの弟子であることを知らない20世紀の観衆が驚きの声を上げる。

 今までベルリンの赤い雨といえば、アイドル超人として知られるブロッケンJr、そしてその父親であるブロッケンマンの必殺技。

 それが、どこの馬の骨とも知らぬ新参超人の手から放たれれば驚愕も致し方ないというもの。

 

「ぬぅ~~~~っ」

 

 客席の中にひとり、その現実に不満を覚えている超人がいた。

 我らがキン肉マンである。

 

「ニュージェネレーションとかいうやつら……わたしたちの息子や弟子筋を騙るだけでは飽き足らず、超人レスラーにとって唯一絶対の至宝ともいえる必殺技(フェイバリット)まで盗みやがるとは~~っ」

 

 キン肉マンはジェイドのベル赤が師から伝授されたものなどとは露ほども思わず、ただのパクリと思い込んでいた。

 一方で、キン肉マンのすぐ近くで観戦していたベル赤本来の使い手、ブロッケンJrは閉口している。

 

「どうしたブロッケン! 一番に怒るべきはおまえだろう! あのパクリ野郎に一言言ってやらんかーい!」

 

 怒りをあらわにするキン肉マンとは対照的に、ブロッケンJrは落ち着いていた。

 

「違うんだキン肉マン……やつの“ベルリンの赤い雨”は、見様見真似のパクリ技で片付けられるような代物じゃねぇ。風を切る手刀のフォーム、炎を生む豪快な一振り……一朝一夕で身につくものではない。長年の研鑽を積み、ようやく会得することが可能なまさに『名刀』と呼ばざるをえない一撃だ――っ」

 

 それというのも、披露されたベルリンの赤い雨があまりのクオリティだったため。

 パクリの一言で済ませることはできない。

 ここから導き出される回答は――

 

「で、ではまさかあのジェイドという超人は、ブロッケンJrの……」

「それは……まだわからないが……」

 

 一つの可能性が頭をよぎるものの、ブロッケンJrはまだそれを認めることができずにいた。

 さらなる判断材料を求めるように、リングへ視線を注ぐ。

 

 放たれた渾身の“ベルリンの赤い雨”。

 しかしセイウチンは咄嗟に身を引き、その手刀を避けていた。

 炎を纏う手刀の回避は難しく、直撃を免れても多少の火傷と裂傷は負ってしまったが――

 

「さすがだなセイウチン。オレの“ベルリンの赤い雨”の間合いを見切り、完全回避とまではいかずともダメージを最小限に抑えるとは」

 

 セイウチンの運動能力を高く評価するジェイド。

 同時に、再び右手の手刀を振りかざしていた。

 

「だがオレの“ベル赤”は、単発で終わるようなチンケな技じゃねえ――っ!」

 

 セイウチンがぎょっとする。

 ジェイドは間断もなく、次なる一撃を放った。

 

「ベルリンの赤い雨――ッ!!」

 

 再度繰り出されるベルリンの赤い雨。

 セイウチンは立て続けの回避行動を強いられる。

 

『あ――っとジェイド、“ベルリンの赤い雨”の雨あられ! セイウチンに休む間を与えない――っ!』

 

 縦に一閃、横に一閃、斜めに一閃。

 あらゆる角度から繰り出されるベルリンの赤い雨は、そのどれもが必殺級。

 ところが――そのどれもが直撃には至らない。

 

『し……しかしセイウチン、これを冷静に回避! フットワークやスウェーを駆使し、ベルリンの赤い雨のことごとくを避けていく――っ!』

 

 自慢の必殺技による連続攻撃が、当たらない。

 予想外の出来事に、ジェイドは焦りを覚えていく。

 

「なにやってやがるジェイド! セイウチンごとき、とっとと仕留めねえか!」

 

 さらに傲慢なパートナーは後ろから野次を飛ばす始末。

 必然、ジェイドは今度こそ決めなければと必要以上の力が入ってしまう。

 

「でや――っ!」

 

 過度な意気込みは技の綻びを生む。

 

「ダメだ――っ! 踏み込みが深すぎだ――っ!」

 

 観客席から、ベルリンの赤い雨の極意を知るブロッケンJrが叫ぶ。

 だがその言葉がジェイドに届くよりも先に、セイウチンはジェイドの胴を両腕で掴んでいた。

 

「スカー。抽選会の頃から言いたかったが、おめーちょっとオラのことをナメすぎだ~~っ」

 

 野次を飛ばしていたスカーフェイスを一睨みし、腰に力を入れてジェイドを持ち上げる。

 そのまま頭上高くジェイドの体を回し、股ぐらに腕を入れて豪快に投げた。

 

『セイウチン、突っ込んできたジェイドを悠々と担ぎ上げ、オクラホマ・スタンピードでスカーフェイスのいるロープ端まで投げる――っ』

 

 まさかの反撃をもらいダウンしてしまうジェイド。

 パートナーが目の前まで投げ飛ばされてきたのを見て、スカーは舌打ちをする。

 いや、舌打ちの原因はジェイドが反撃を食らったことよりも、セイウチンの態度にあった。

 

『あ――っとセイウチン! スカーフェイスを手招きして挑発! 出てこいと言わんばかりだ――っ!』

 

 普段は温厚で優しいセイウチンらしからぬ行動だった。

 それだけスカーフェイスの言動に腹を立てていたということだろう。

 

「ヤロウ~~ッ」

 

 低く見ていた相手に態度を大きくされ、苛立つスカーフェイス。

 そのすぐそばで、たった今セイウチンの実力を体感したジェイドが言う。

 

「ス……スカー。おまえも一度体感してみるといい。今のセイウチンはオレたちの知るセイウチンとは一味違う~~っ」

「ああ。わかったよ」

 

 相棒からの忠告を受け取り、リングに上がるスカーフェイス。

 そしてタッチをするのかと思ったら、強烈な蹴りでジェイドをリング外へ押しのけた。

 

『な、なんとぉ――っ! スカーフェイス、パートナーであるジェイドをリング外へ蹴飛ばしての交代だ――っ』

 

 素行の悪い超人であったとしても、タッグ戦ではまず見ないであろう蛮行。

 観客はもちろん騒然とし、蹴り飛ばされたジェイドは憤慨した。

 

「スカー、てめえ~~っ」

「だらしねえ姿を晒すほうが悪い」

 

 スカーは短く言い、悪びれる素振りも見せない。

 すぐさま戦闘態勢に入る。

 

『スカーフェイス、いきなりロープへ飛んだ――っ!』

 

 リングロープを使い、反動を活かす。

 電光石火の突撃。

 突き出した肩は、セイウチンを正面からふっ飛ばした。

 

『反動をつけてのショルダータックル! セイウチン、受け止めきれずダウーン!』

 

「“オラのことをナメすぎだ”だと~~っ? ナメすぎるだけの実力の差があるってことをわからせてやるぜ――っ」

 

 すぐに立ち上がったセイウチンだったが、試合巧者のスカーはそのタイミングに合わせパンチを繰り出す。

 

『怒り心頭のスカーフェイス、先ほどの挑発のお返しだとばかりに殴りかかる――っ』

 

 セイウチンはその腕を掴み、軽く跳んで両脚でスカーの肩を挟み込んだ。

 

『あ――っとセイウチンそれを読んでいた! スカーフェイスの振り下ろす腕をキャッチして、下からの腕ひしぎ十字固めだ――っ!』

 

 セイウチンの全体重がかかり、右腕から崩れていくスカーフェイス。

 ダウン展開に持っていかれるのはまずい。

 どうにか片膝立ちの体勢を維持しようとする。

 

「ウオ……」

 

 小癪な関節技など正面から打ち破ってやる。

 そんな意気の窺える力が、スカーの全身に込められた。

 

『ああっと! スカーフェイス、腕ひしぎ十字固めから逃れるため立ち上がろうとするが――っ』

 

 観戦していたロビンマスクとテリー・ザ・キッドが、スカーの抵抗を見てそれぞれ異なる反応をする。

 

「いかん! 立っては逆に腕が伸び切り技が深くかかってしまう……ここは相手に密着して凌ぐのが鉄則だ――っ!」

「い……いや! まずいのはセイウチンのほうだ! スカーフェイスはあんなお上品な腕ひしぎ十字固めが極まるようなタマじゃねえ!」

 

 ロビンは超人レスリング的な観点で、キッドはスカーフェイスという人物をよく知る者として、当然といえる見解の相違だった。

 そして今回の場合――正解を言い当てたのはキッドのほうである。

 

『おお――っ! スカーフェイス、右腕にセイウチンをぶら下げたまま立ち上がっていく――っ!』

 

 腕ひしぎ十字固めなどなんのその。

 スカーフェイスは右腕に組み付いたセイウチンを高々と持ち上げ、そのまま振り下ろす。

 

「ヘルリバー・プランジ!」

 

 セイウチンの背中が、突き立てられたスカーの片膝に強打される。

 

『な……なんという怪力! スカーフェイス、腕十字を極めていたセイウチンを自身の膝に叩きつけた――っ!』

 

 たまらず腕ひしぎを解除、キャンバスの上をゴロゴロと転がり距離を取るセイウチン。

 自由になったスカーフェイスはダメージも薄く、余裕の表情を浮かべていた。

 

「ククク……たいしたものだぜセイウチン。今の一瞬、オレに腕ひしぎ十字固めが通じないと判断するやいなや、ヘルリバー・プランジから逃れるため即座に技を解除しようとしたな? 結果的には間に合わずダメージを負ったが……いいぜ、認めてやる。たしかにおめーはもう洗濯係のセイちゃんってわけじゃなさそうだ」

 

 雑魚と侮っていた相手を、対等なライバルとして認める。

 なんと高潔な精神だろう。

 観客が感動を覚えようとしたその瞬間。

 

「……と、言うとでも思ったか――っ!」

 

『スカーフェイス、セイウチンにビッグブーツ――ッ!』

 

 スカーはその巨大な足裏をセイウチンに見舞う。

 追い打ちをかけたところで、今度は後ろのジェイドを怒鳴りつけた。

 

「実際に闘ってみてわかったぜ、ジェイド! すべてはおまえの失態だってな――っ!」

「な、なにィ~~ッ」

 

 憤るジェイドに、しかしスカーは厳しく指摘する。

 

「さっきの闘い、おまえはセイウチンが実力者であるがゆえに遅れを取ったように演出していたが……劣勢の理由は別にある! おまえはお友達であるセイウチンを“ベルリンの赤い雨”で切り裂くことをためらい、無意識のうちに手加減をしていたんだ――っ!!」

 

 それはジェイドにとっても否定できない部分があったのか、言い返そうとした彼の口は言葉を飲み込んでしまう。

 

「グ、グウウ~~ッ」

 

 代わりに出てきたのは、悔しそうな唸り声だった。

 その様子を見て、客席のブロッケンJrは心配そうな表情を浮かべた。

 

「ベルリンの赤い雨は対戦相手の超人を切り裂き、リングに血の雨を降らすまさに必殺のフェイバリット。確かに友人に放つには危険すぎる技かもしれねえが……だ、だからといってよぉ。あのヘルメットのあんちゃんは“究極の超人タッグ戦”を勝ち進むつもりがないのか?」

 

 まだこの時点では師匠でもなんでもないブロッケンJrの言葉は、ジェイドには届かない。

 彼がそんなふうであるから、リング上のスカーフェイスは言いたい放題だ。

 

「こと悪行超人退治においてはエリート扱いを受けてきたおまえも、正義超人同士の闘いではとんだあまちゃんだぜ――っ! 無理もねえか。新世代超人同士で闘うなんてめったにないからな――っ!」

 

 新世代超人と呼ばれる21世紀の正義超人は、悪行超人の魔の手から人々を救うのが絶対の使命。

 超人オリンピック・ザ・レザレクションのような例外を除けば、そもそも対戦する機会が稀だった。

 

「オ……オレたちの目的はケビンマスクの母、アリサさんを傷つけた憎っくき悪衆・時間超人の成敗だ! 新世代超人でも伝説超人(レジェンド)でも……正義超人いずれかのタッグチームが勝ち上がれればそれでいいじゃないか――っ!」

 

 ジェイドはそう主張する。

 目的は打倒・時間超人。

 トーナメントの仕様上セイウチンと闘うことにはなったが、心血を注ぐべきは友の打倒ではない。

 

「綺麗事抜かしてんじゃね――っ! そんな譲り合いの精神はお呼びじゃねえんだよ! 悪衆・時間超人を倒すのも、トーナメント・マウンテンの頂きからトロフィー球根(バルブ)を引き抜くのもオレたちスーパー・トリニティーズだ! 本気で闘う気がねえってんならオレに任せて見学でもしてな――っ!」

 

 スカーフェイスはジェイドのそんな生半可な覚悟を叱りつけた。

 その様子を見て、ひとり静かに思案に暮れる超人がいる。

 そう――ネプチューンマンである。

 

(ふむ……流れは違うが、スカーフェイスがジェイドに失望し、タッグパートナーとして見限ろうとする展開はオレが辿った歴史に酷似している。オレたちが悪行超人として相対せずとも、こうなってしまうのか……これは歴史の必然ってやつなのか? いずれにしても、だ)

 

 ジェイド&スカーフェイスとの対戦は二度目となるネプチューンマン。

 ふたりの心の奥底を知るからこそ、ここは己が割って入るべきだと判断した。

 

「まったく見ちゃいられねえな――っ」

 

 わざとらしく大声で言い、スカーフェイスの注目を攫う。

 ネプチューンマンの発言を自身への同調と受け取ったスカーは、気を良くした態度で話しかけてきた。

 

「フッ……あんたも同意見かい、ネプチューンマン先輩。そうだよな~~っ、歴戦の戦士であるあんたにとっちゃ、ジェイドはあまったれもいいとこだ」

「そっちじゃねえ」

「では……パートナーであるセイウチンのことか? ジェイドに手を抜かれていることにも気づかずオレという実力派相手に調子に乗ってたもんな」

「そっちでもねえ」

 

 スカーの言うことのことごとくを否定し、反感を買う。

 そして、そのイラつきを隠そうともしない顔に人差し指を突きつけた。

 

「見ていられねえのはおまえだ――っ、スカーフェイス。悪ぶって粋がっているおまえを見ていると、昔のオレを見ているようでイライラするぜ――っ」

 

 大胆不敵な発言に、さしものスカーも「なっ……」と驚愕を顔に浮かべる。

 ネプチューンマンはそのままリングに上がり、セイウチンの代わりに前に出た。

 

「セイウチンにジェイドよ。これがタッグマッチであることは百も承知だが、あえて言わせてもらうぜ」

 

 危険な思想を持った新世代超人、スカーフェイスを正すため。

 ネプチューンマンは、決意のもとにこう宣言する。

 

「手を出すな。しばしの間、オレはスカーフェイスとシングルマッチをやらせてもらう」

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