ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ” 作:速筆魔王LX
都内某所、“ジ・アドレナリンズ”が拠点としている練習施設にて。
テリー・ザ・キッドとロビンマスクのふたりは、来たるべき“ザ・マシンガンズ”戦に備えトレーニングに励んでいた。
「スリャア――ッ!」
トレーニング用のダミー人形相手にタックルの練習を繰り返すのは、チームリーダーであるテリー・ザ・キッドだ。
キン肉マンもテリーマンも共に足腰の強さは折り紙付き。
キッドお得意のグラウンド展開に持ち込むためには、何度タックルをやり込んだとてやりすぎということはない。
「…………」
一方で、相方のロビンマスクには覇気がなかった。
リングの端っこでロープに身を預けながら、視線は下、そして時折ため息。
とても宿敵との対決を二日後に控えた男とは思えない。
これにはさすがのキッドも心配し、練習の手を止めて声をかけた。
「ヘ~イ、どうしたロビン? 全然練習に身が入ってないじゃねえか」
頼れる相棒に心配されてもロビンマスクの顔色は晴れない。
わずかに視線を向ける程度の反応を見せ、またため息をついてしまう。
「ワイフのアリサさんや息子のケビンが心配なのはわかるが、次の試合はあの“ザ・マシンガンズ”なんだぜ。コンディションを完璧にして臨まねえと勝てるものもの勝てないだろう」
キッドは、ロビンマスクが妻子のことを心配するあまり練習に集中できないのだと推測していた。
だが、ロビンマスクはこう答える。
「違うんだ、キッド……」
彼の抱える悩みは、そんなに単純なものではない。
キッドから視線を外し、どこか遠くを見やるように天井を仰いだ。
「アリサやケビンのことも心配だが……私が今、一番に考えているのはマシンガンズのふたりのことさ。彼らは打倒・時間超人という目的を同じくする大事な仲間だ。組み合わせがそうなってしまったとはいえ、同じ正義超人同士で争っている場合ではない」
さすがはロビンマスク。正義超人、そしてアイドル超人軍のリーダーたる器の男だ。
確かに今は正義超人同士で争っている場合ではない。
本来なら、最大の敵である時間超人を倒すべくキン肉マンたちとは共闘するのが一番なのだろうが――
「それはそのとおりだが、トーナメントなんだから仕方がないだろ? アリサさんを救う鍵となるトロフィー
厄介なことに、キッドたちが立つ闘いの場は超人レスリングのリングの上。
闘いはタッグトーナメントという形式で行われ、だからこそ多くのルールが存在する。
そのルールに準じた上で勝つ――そうしなければ、たとえ時間超人は倒せてもアリサは救えないのだ。
だから残念ながら、マシンガンズや他の正義超人たちとも共闘して時間超人を袋叩きにするといったことはできない。
トーナメントでぶつかってしまったのなら仕方なし。
たとえ味方といえど勝たねば時間超人打倒にもトロフィー球根にもたどり着けない。
「それともまさか、抽選会でキン肉マンが言ったように時間超人退治はマシンガンズに任せちまうつもりか? オレはそんなの納得できないぜ!」
時間超人をこの手で倒し、黄金のトロフィーを山の頂から抜くのはオレたちだ!
若々しいガッツを見せるキッドだったが、ロビンマスクは激しく首を振った。
「違う~~っ」
仮面が首からすっぽ抜けるのではないかと思えるくらい激しく、首を横に振ってキッドの勘違いを指摘する。
「その心配はまったくの見当違いだ、キッド。むしろ私の考えは真逆……だからこそ困ってしまっている~~っ」
「ま、真逆?」
わけがわからず戸惑うキッド。
ロビンマスクは己の心中を訥々と語り始める。
「知ってのとおり、私にとってキン肉マン&テリーマンは尊ぶべき友人……であると同時に、技を競い合ったライバルでもある。特にキン肉マンは、何度も土をつけられいつかリベンジを、と心に誓った相手。一時は最愛の女性を捨て、謎のトレーナー超人バラクーダとしてウォーズマンに復讐の肩代わりをさせようとしたほどだ。それほど因縁深い相手を前に、血が騒がないはずはない」
テリー・ザ・キッドはロビンマスクの仮面の奥に闘志の炎を見た。
少なくとも完全に戦意喪失してしまったわけではないようだ。
「ロビン……安心したぜ」
「だが~~っ!」
キッドが安堵したのもつかの間、ロビンマスクは頭を抱えて悶え始めた。
「今の私に課せられた最大のミッションが、最愛の妻アリサと未来の息子ケビンの救命であることは否定できない事実! そんな境遇にありながら、ライバルとの闘いに胸を躍らせるなど……不謹慎にもほどがある~~っ!」
取り乱したように言い、キッドの両肩を持ってぶんぶんと揺らすロビン。
キッドはパートナーのあまりの狼狽ぶりに、言葉を失った。
「教えてくれキッド~~ッ! 私はいったいどうすればいい!?」
藁にも縋る思いなのだろう。今のロビンマスクには恥も外聞もなかった。
だからといって、人生経験の浅いキッドにナイスな答えが出せるかといったらノーである。
ロビンが抱える悩みは正義超人として、いやひとりの男としてあまりに難題だった。
(ロビンは今、愛する家族を守りたい気持ちと、ライバルに勝ちたい1人の超人レスラーとしての気持ちで板挟みにあっているんだ……ただ全盛期のパパに挑んでみたいと願うオレでは、かける言葉が見つからねえ)
言葉を失うキッド。
こんなとき、ロビンともっと親交の深い友ならなんと言うのだろうか。
そんなことを考え始めた、そのときだった。
「まったく、見ちゃいられねえな」
いつの間に入ってきたのか、ふたりのいるリングにひとりの超人が歩み寄ってくる。
その姿を見て、キッドもロビンも驚き目を見開いた。
「ネ……ネプチューンマン!?」
現れたのは、“ネオ・イクスパンションズ”のネプチューンマンである。
そう、ネプチューンマン――なのだが、彼はおかしな格好をしていた。
いつもの仮面はそのままに、首から下、鉄鋲ベストとレスリングパンツ姿をトレンチコートですっぽり覆い隠している。
とても褒められたセンスではない。いやいやしかし、目上の相手にファッションについてとやかく言うのは失礼だろうとキッドは口をつぐんだ。
「なぜおまえがここに?」
ロビンマスクはシンプルな問いを投げかける。
「知己が己を見失っているようなのでな。ケツを叩きにきた」
ネプチューンマンはシンプルさとはかけ離れた答えを返した。
「今の話は聞かせてもらった。ロビンよ。おまえはマシンガンズと闘うことに葛藤を抱えているな? 時間超人との対決を差し置いて、ライバルとの闘いに熱を上げてよいものかと」
「あ、ああ……そのとおりだ」
ネプチューンマンはふたりが立つリングには上がらず、かわりに周囲をぐるぐると周りながら続ける。
「そしてキッド。おまえはロビンの感情を抜きに、一超人レスラーとして伝説のタッグであるマシンガンズに挑みたいと思っている。親父であるテリーマンに認めてもらいたいという想いもあってな」
「そ……それは……」
ロビンマスクとテリー・ザ・キッドの想いを言い当て、フッと笑うネプチューンマン。
探偵の真似事をして悦に浸りたいのか。否。万太郎ならともかく、彼はそんな子供っぽいことはしないだろう。
「だがマシンガンズと闘う闘わない以前に、おまえたちはひとつ、ある重大な見落としをしている。オレはそれを教えにきた」
ネプチューンマンの目的が、キッドには読めない。
彼と縁の深いロビンマスクもそれは同様らしく、口から出るのは質問ばかりだ。
「それはいったい……?」
「夢を見てな……」
遠い昔を述懐するように、ネプチューンマンは語り出した。
「夢の中では、ロビンマスクにとっての因縁の地、上野公園の不忍池でシノバズ・ポンド・デスマッチなどと称した“ジ・アドレナリンズ”vs“
「やけにディテールの細かい夢だな」
キッドのツッコミを無視し、ネプチューンマンはその夢とやらの話を続ける。
「ロビンマスク、夢の中のおまえはあろうことかやつらの提案したデスマッチを受け入れ……しかし案の定、ケビンマスクを不忍池に落とすまいと奮闘するあまり試合内容がおろそかになり、わずか11分で決着という惨敗を喫することとなったのだ……」
ネプチューンマンはそこで言葉を区切った。
彼が見た夢とやらはそれで終わりらしい。
キッドは感想を言う。
「悪趣味な夢だぜ。それでネプチューンマン、あんたはいったいなにが言いたいんだ?」
夢の中で自分たちが時間超人に負けたからなんだというのか――キッドはそう言いたかった。
ネプチューンマンはそんなキッドの心中を察してか、挑発的に言う。
「わからんのか? おまえたちでは世界五大厄には勝てんと言いたいのだ」
半ば予想していた言葉が、予想以上にストレートに放たれる。
ロビンとキッドは、
「なっ……!?」
「なにィ――ッ!?」
真正面から実力をけなされ、黙っていられるほど冷めてはいない。
ネプチューンマンはニヤついた笑みを浮かべ、さらに言う。
「時間超人を倒せん実力のくせに、その前に倒さなければならないマシンガンズとの闘いに躊躇しているとは片腹痛い。まったく滑稽で見ていられんな――っ」
「勝手なこと言いやがって! オレたちの実力がわかってねえってんなら、この場でその体に教え込んでやろうか!?」
「よせキッド、試合前だぞ!」
怒りのあまりネプチューンマンに飛びかかろうとするキッド。
ロビンマスクはそれを慌てて止めようとする。
「それだ」
そのふたりの構図を指し、ネプチューンマンはこう続けた。
「本来、こういう挑発に乗るのはキッドではなくロビンマスクのほう……チームリーダーのキッドはそれを冷静に諌める。それがジ・アドレナリンズというチームの形だったはず。その関係がいつの間にか逆転してしまったのは、やはり対マシンガンズを意識しすぎてしまっているせいではないか?」
夢をきっかけとした馬鹿馬鹿しい挑発から一転、冷静にアドレナリンズの異変を指摘するネプチューンマン。
キッドもロビンもハッとさせられ、お互いに自らを恥じた。
「ソ……ソーリー、ロビン。熱くなりすぎた」
「いやキッド、私のほうこそ……」
先にキッドが謝り、続けてロビンも頭を下げる。
己を見つめ直すいいきっかけになった。これで解決――とは、この男がそうはさせない。
「そのとおり。問題なのはキッドではなく、ロビンマスク。おまえのほうだ」
今度はアドレナリンズのふたりではなく、ロビンマスクひとりを指した。
現在のジ・アドレナリンズにおける“がん”はおまえだと、ネプチューンマンは指摘する。
「愛する妻や息子を救いたい。動機は立派だが、昔のおまえを知るオレから言わせてもらえばまったくらしくない! 少なくとも“狂乱の貴公子”と呼ばれた頃のおまえなら、家族のことなど顧みず闘いに没頭し敵に向かっていったはずだ――っ!」
あろうことかロビンマスクの高潔な精神を否定し、自分勝手な戦闘マシーンのように言うネプチューンマン。
しかしロビンマスク本人にも思うところがあるのか、すぐには言い返せない。
「ロビン……いまのおまえに足りないのはかつてのような荒々しさ! 貪欲に勝利を求めにいくハングリーさ! 正義超人のリーダーとしてなら今のままでも充分かもしれないが……対マシンガンズ、対時間超人を意識し、さらに“ファイティング・ロデオマン”テリー・ザ・キッドのパートナーを務めるのであれば! おまえは“
「ラ……“
正義超人随一の切れ者、何事もスマートに事を運ぶことに定評のある英国紳士ロビンを指して、乱暴者とは。
一部のファンから反感を買いそうな物言いを、ネプチューンマンは堂々と本人に突きつける。
「此度の闘い、窮地に追いやられているのはおまえの愛する者たちなのだ。ならばキン肉マンやテリーマンに託すことなど考えず、己が
――
その称号は、7人の悪魔超人や悪魔六騎士、悪魔将軍……古くは怪獣との闘いでキン肉マンがよく掲げていたものだ。
ロビンマスクよ、そのヒーローにはおまえがなれ。
と、ネプチューンマンはそう言ってのける。
ネプチューンマン――いいや、ネプチューンマンではない。
ロビンとキッドの前に立つ男はおもむろに仮面を取り、加齢の感じられる素顔を晒した。
着ていたトレンチコートも豪快に脱ぎ、中から現れたのは鉄鋲ベストではなくレスリングシングレットだった。
「そ……その姿は!?」
ロビンマスクが驚きを見せる中、ネプチューンマンと思われた男はリングに上がる。
「今からスパーリングを行う。キッドよ、一旦リングを下りろ。ロビンマスク、まずはおまえだ。言ったであろう……オレは、いや“私”は、知己のケツを叩きにきたのだと!」
一人称を使い分けることで、彼はネプチューンマンとは別人であることを主張した。
いや、コスチュームを変えようともここにいるのはネプチューンマンだ。
キッドはそう思い、彼の要求を突っぱねる。
「バ……バカなこと言ってんじゃねえ! オレたちもあんたも“究極の超人タッグ”本戦出場選手なんだぜ! いくら二回戦では対戦しないからって、こんなスパーリングが認められるか!」
「それならなんの問題もないな。今の私は“ネオ・イクスパンションズ”のネプチューンマンではない……知る人ぞ知るイギリスの強豪超人、
喧嘩男。
それはネプチューンマンが
そんな大昔の名前と姿を持ち出しスパーリングなど、いったいなにが狙いなのか。
キッドには意味がわからず、途方に暮れるようにパートナーを見た。
「無茶苦茶言うぜ……おい、ロビン。どうするよ?」
キッドの呼びかけに、ロビンは答えない。
懐かしき姿になにを思ったか、リングを下り部屋の片隅へと向かう。
そこには清掃用具入れがあった。
ギッ、と古めかしい音を鳴らしてロッカーを開け、中からモップを取り出す。
そしてモップの先端部分を引きちぎった。
「ロ……ロビン……?」
パートナーの不可解な行動に怪訝な顔をするキッド。
ロビンはそんな視線などまったく気にする素振りもなく、トレードマークの鉄仮面を外し、引きちぎったモップを自分の頭に被せた。
そうやって振り向いてみれば、まるで顔全体を覆うほどの長髪になったようではないか。
「ならば私も、“ジ・アドレナリンズ”のロビンマスクとして立つわけにはいかないな」
そう口にするロビンマスクは、もはやロビンマスクではない。
その男の名は、この時代において残虐非道の名トレーナーとして多くの者の記憶に残っている。
ロビンマスクが“変身”したその姿の名は――
「このスパーリング、Mr.バラクーダとして務めよう」