ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第003話 大後悔の果ての決意表明!

 奥多摩山中――

 

 暗闇が支配する洞窟内。

 明かりが一切ない闇の中に、セイウチンは立たされていた。

 視覚はまともに機能せず、頼れるのは聴覚と嗅覚だけ。セイウチンは開き直り目を閉じていた。

 

 バサバサッ!

 

 チスイコウモリの羽ばたく音が聞こえる。

 セイウチンの新鮮な血を求め、今にも襲いかかろうとしているのだ。

 

 キィ――――ッ!

 

 羽音はより大きくなり、対象の急接近を知らせる。

 セイウチンはカッと目を見開き、聴覚を頼りに跳躍からの蹴りを放った。

 

「ウォオ――ッ! スラァ――――ッ!」

 

 鞭のようにしなやかな脚が、チスイコウモリを一撃で叩き落とす。

 故郷アイルランドの海ではクジラを仕留めたこともあるセイウチン自慢の蹴り技。

 それはチスイコウモリのような素早く小さな獲物であっても逃れられない。

 

「グフフ……だいぶ感覚が冴え渡ってきたようだな」

 

 暗闇の中からネプチューンマンが出てくる。

 この視覚を封じた環境下でのトレーニングは彼が考案したものだ。

 通常の超人レスリングの鍛錬では決して養えない、野生の感覚。彼はそれを磨こうとしている。

 

「ネプチューンマン……こんなことをやっていて、オラ本当に強くなれるだか? もっと他のみんなみたいに、ツープラトンの練習とかをしたほうがいいんでねぇが?」

「フフ……ツープラトンか……」

 

 強豪タッグの理想像とかけ離れた鍛錬方法に、セイウチンは不安を感じていた。

 しかしタッグパートナーにして己を見込んでくれた正義超人の大先輩、ネプチューンマンは不敵に笑うのみ。

 

「オレたちのコンビネーションのことならなんの問題もない。今はこれが一番のトレーニングになる」

「け、けども……」

「獣性は封印する……と言いたいところだったが、やはりセイウチンの実力を引き出す鍵となるのはそこだからな。元の木阿弥にならぬよう気をつけつつ、ある程度は“闘う獣”になってもらわねば」

 

 やはり一世代前の超人だからか。ネプチューンマンの言うことはどうにも論理的ではなく、精神論が先にきているというか……前時代的だ。

 そう感じてならないセイウチンだったが、彼はここで反抗するほど協調性に欠ける青年ではない。いい意味で真面目、お利口なのだ。

 

 そのセイウチンの視線は、足元に落ちたチスイコウモリへと向いている。

 まだ息があるのか、ピクピクと微動する様を見て哀しそうな表情をしていた。

 

「コウモリがかわいそうか? お前の血を吸おうとしたコウモリだぞ」

「だども、オラたちがこの洞窟に来なければ、こいつらが傷つくこともなかっただ。縄張りに土足で踏み入ったのはオラたちだから、申し訳なくて」

「セイウチン……」

 

 そんなセイウチンの様子を見て、ネプチューンマンは心を痛める。

 

 セイウチンに引き続き鍛錬を続けるよう指示し、ネプチューンマンはひとり洞窟を出た。

 月夜の下、散々後悔したはずの過去を今一度振り返り、繰り返しの後悔に浸る。

 

(理性のかけらもないただの獣……などと評価していたかつてのオレが馬鹿のように思えるぜ。こいつの慈愛に満ちた精神は、まさしく正義超人界の宝。しかし……それだけでは、悪衆・時間超人に勝つことはできない)

 

 かつてセイウチンにした仕打ちは猛省すべきだが、だからといって過保護に指導しては強くはなれないだろう。

 セイウチンの潜在的ポテンシャルを引き出す鍵が獣性であることは疑いようのない事実。

 重要なのは加減だ。正統派正義超人レスラーとしての強さと、獣としての強さ……その塩梅を見極めなければならない。

 

「ところで……チェック・メイト。いつまでそこでオレたちを覗いているつもりだ?」

 

 洞窟からやや離れた地点で、ネプチューンマンは茂みのほうへ声をかけた。

 すぐにガサガサと草をかき分ける音が鳴り、奥からひとりの超人が現れる。

 

「気づかれていましたか」

 

 セイウチンと同じく未来からやってきた新世代超人、名をチェック・メイト。

 両肩にチェスの駒、馬と城を載せた姿が特徴的な若者だ。

 

「最初は気づかなかったがな。あいにく今回は二回目だ」

「どういう意味です?」

「気にするな」

 

 そう、“前回”の歴史でも、チェック・メイトはネプチューンマンについていったセイウチンを心配しこの場に現れた。

 前回はネプチューンマンがセイウチンを利用せんと目論んでいたために、それを知ったチェック・メイトが激昂、敵対する展開となった。

 そしてネプチューンマンはチェック・メイトを軽くひねり、セイウチンとのクロス・ボンバーで顔の皮を剥ぐという凶行に出たわけだが、もちろん今回はそんなつもりは毛頭ない。

 

「お仲間のセイウチンを取られて不満か? お前はセイウチンとタッグを組もうとしていたものなぁ――っ」

「それもありますが……ネプチューンマン。率直に言って、わたしはあなたを信用していません」

 

 ネプチューンマンにとって最大の気がかりは、チェック・メイトの自分に対する心象である。

 いかにこちらに敵対する意思がないとはいえ、それで信頼が得られるほどチェックも単細胞ではないだろう。

 

「あなたは我々と同じく命の危機にあるケビンマスクを救うため……その原因である時間超人たちのロビンマスク襲撃を防ぐため、タイムシップに密航した。しかしなぜ密航などしたんですか? おかげでわたしたちは時空船の重量オーバーにより、危うく時空の海の藻屑となる憂き目にあった。あなたほどの名のある超人なら、我々は最初からケビンマスク救命のメンバーとして歓迎していましたよ」

 

 ネプチューンマンの行動の不可解さを指摘するチェック・メイト。

 当人は口を噤み、ただ耳を傾ける。

 

「先刻はここがあなたの最も光り輝いていた“宇宙超人タッグ・トーナメント”だと知り、気づけば潜り込んでいたと説明されていましたが……あまりにも合理性に欠ける行動です」

 

 若者からの糾弾が終わり、ネプチューンマンはわずかに視線を落とした。

 

「フフ……耳が痛い」

 

 それは本心からのぼやきだった。

 なぜあんなことをしてしまったのか。己に問いかけてみても、満足のいく答えは返ってこない。

 ゆえにネプチューンマンは、ただありのままを伝えることしかできなかった。

 

「だがな、チェック・メイト。おまえのような若い超人にはわからんだろうが、人ってやつは必ずしも合理的に行動できるわけではない。正規の手段で時空船に乗り込めばいいのに密航なんて非合理な手段を取っちまうこともあるのさ……オレみたいな勢いだけのジジイは特にな」

 

 若さゆえの過ちという言葉があるが、老いゆえの過ちというものも確かにあるのだ。

 それを誰よりも痛感しているネプチューンマンは、自嘲気味に己の愚かさを認める。

 

「わたしはなにも、そこまで言うつもりは……」

 

 その哀れな姿に、心根の優しいチェック・メイトは申し訳なさを感じたようだ。

 もとより年長者には敬意を払うタイプの礼儀正しい超人。それ以上の叱責は飛んでこなかった。

 

「時にチェック・メイト。おまえ、タッグ戦はどうするつもりだ? パートナーはまだ見つかっていないのだろう」

 

 頃合いと見たネプチューンマンは、話を切り替える。

 

「わたしは万太郎と組みますよ。彼のセイウチンへの態度は気に入りませんが、ケビンマスク救命のチャンスを棒に振るうわけにはいきませんからね」

「残念だが、それは不可能だ」

「なぜです?」

「万太郎はすでに別のタッグパートナーを見つけている。そしてその男は究極の超人タッグ戦における台風の目……時間超人討伐のためのキーマンとなるだろう」

 

 ネプチューンマンの言葉に、チェック・メイトは怪訝な顔を作った。

 

「あなたがなぜそこまでここにいない万太郎の動向を把握しているのかは知りませんが、だからといって出場を諦めるつもりもありません。新世代超人のみんなと組めないのであれば、ロビンマスクと組んだテリー・ザ・キッドのように、伝説超人の誰かと……」

「そうだな……それも悪くない。だがチェック・メイト。ここはぜひ、おまえにやってもらいたいことがある」

 

 究極の超人タッグ戦の“やり直し”を決意した直後、思いついたあるひとつのプラン。

 そのために必要なピースのひとつ、新世代超人チェック・メイト。

 彼の協力を仰ぐべく、ネプチューンマンは……冷たい地面の上に膝をついた。

 

「ネプチューンマン!? なにを!?」

「今生の頼みと……以前しでかしたことへの謝罪だ」

 

 そのまま両手も地面につけ、深々と頭を下げる。

 ジャパニーズ土下座スタイル。

 まず形の上で最上の誠意を見せつけ、信用を勝ち取らねば。

 

「どうかこの場は、正義超人ネプチューンマンを信じて力を貸してほしい」

 

 よもや伝説超人のひとりであるネプチューンマンが土下座をするなどとは。

 

「よ……よしてください!」

 

 ネプチューンマンの思いもよらぬ行動に動揺したチェック・メイトは、慌てて彼を立たせようとする。

 

「わたしとて、元は悪行超人だった身。正義超人へ転向したあなたの気持ちがわからないわけではない。わかりました。わたしにできることならなんだって手伝いましょう」

 

 かくして誠意は伝わった。

 チェック・メイトの生来の人の良さに多少……いや多分につけ込む形にはなってしまったが、ネプチューンマンの気持ちに嘘偽りはない。謝罪をしたいという意思も、力を貸してほしいという願いも本物だ。

 

「ありがとう……チェック・メイト。感謝する」

 

 ゆえにネプチューンマンは、ほくそ笑んだりはしない。

 セイウチンというパートナーに、チェック・メイトという協力者。

 ふたりの強力な仲間を得て、老兵は2度目の究極の超人タッグ・トーナメントへと向かう。

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