ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第030話 21世紀式キン肉マン再生術!!

 多くの者が寝静まる深夜。

 とあるトレーニングジムでは今も煌々と明かりが灯り、中からは超人たちの驚嘆の声が漏れてくる。

 

「す……すっげぇ~~~~っ! 本当になくなった左腕の骨が再生した――――っ!」

 

 自身の左腕を高々と掲げ、自慢の筋肉の軸となる“骨”の存在感をありありと感じるキン肉マン。

 足元には全身から滴り落ちた汗が池のようになっており、場所も相まって相当過酷なトレーニングを実施した様子が見て取れた。

 

「それが21世紀の最先端トレーニング方法……『加圧トレーニング』だ」

 

 傍らに立つネプチューンマンは、数時間前にキン肉マンに勧めたトレーニング法の名を伝える。

 

 加圧トレーニング――それはまだこの世界には普及していない、21世紀の最先端トレーニング方法。

 腕のつけ根や脚のつけ根を適度に血流制限した状態で運動をすると成長ホルモンの分泌が促進され、軽い運動量でもまるでハードな運動をしたかのように驚異的な筋肉の増大を得られる。

 普通の人間にとっては抜群な筋肉増大効果のある加圧トレーニングを、超人、それも火事場のクソ力を持つキン肉マンが行えば“なくなった骨が再生する”ほどの効果を得る。

 

 ネプチューンマン同様、キン肉マンの傍らでトレーニングを見守っていた超人――バッファローマンは嬉しさのあまりむせび泣いていた。

 

「こ……こんなにめでたいことはねえ! キン肉マンからかつてオレが渡したロングホーン・ボーンを返却すると言われたときはふ、複雑な心境のあまり涙を流すことしかできなかったが……これならロングホーンを取り戻したオレはもちろん、キン肉マンも万全の状態で闘える! ネプチューンマン、おまえはオレたちの救世主(メシア)だ――っ!」

 

 ――数時間前、キン肉マンは左腕の骨の除去手術を行った。

 すべては“宇宙超人タッグ・トーナメント”の際、キン肉マンの左腕に埋め込まれたロングホーン・ボーン……元々はバッファローマンの角だったそれを、本人に返還するためだった。

 次の“マッスルブラザーズ・ヌーボー”戦、友であるバッファローマンには万全の状態で臨んでもらいたい。そういった優しさからくる行動だったが、キン肉マンはそれにより左腕の骨を失ってしまう。

 その事実を“前回”の経験から知っているネプチューンマンは、なくなったキン肉マンの左腕を再生させるべく、手術後のふたりに掛け合い加圧トレーニングの実施を勧めたのだ。

 すでに失われた歴史ではあるが、キン肉マンは“カーペット・ボミングス”戦の中で擬似加圧トレーニングを行うことにより実際に左腕の骨を再生させている。ネプチューンマンはそれと同じことを、前日の夜にやらせただけのこと。

 

「いや~~っ、まったくまったく。いきなりネプチューンマンが現れて、試合前でしかも手術後のわたしにこんなハードなトレーニングをしろと言ってきたときは何事かと思ったが……すごいもんだのう。未来の技術ってやつは」

 

 ネプチューンマンの背中を復活した左腕でバシバシ叩き、心の底から感心するキン肉マン。

 ひとしきり涙を流し終えたバッファローマンは、一転して呆れた様子を見せた。

 

「なに言ってやがる。最初は渋りまくった挙げ句、ネプチューンマンのことをネプチューンマンにそっくりなおっさんのモノマネ芸人だ、にゅーじぇねれーしょんの陰謀だ~、とかなんとか言って取り付く島もなかったくせに」

 

 バッファローマンの言うとおり、キン肉マンは最初、ネプチューンマンの言葉にまったく耳を貸さなかった。

 それをどうにかしてくれたのが、藁にも縋る思いでキン肉マンを救いたいと願ったバッファローマンなのである。

 

「オレひとりではこの男を説き伏せることは難しかっただろう……バッファローマン。一緒に説得してくれて感謝するぜ」

「加圧トレーニングとやらの効果性について、こんなにしっかりしたレポートを読まされてはな」

 

 バッファローマンはネプチューンマンに読まされた書類の束を団扇のように扇いだ。

 キン肉マンに加圧トレーニングをさせるための材料だったが、本人は「こんなもん、ケツを拭く紙にしたる~~っ!」とやはり取り付く島もなかった。一緒にいたバッファローマンが理知的で助かったと言えよう。

 そのバッファローマンが、純粋な疑問からネプチューンマンに問う。

 

「しかしネプチューンマン、なんだって敵に塩を送るような真似を?」

「敵ではないさ。マシンガンズも2000万パワーズも、打倒・時間超人を目指す同志だ」

「だが、おまえはどちらかといえば新世代超人(ニュージェネレーション)とやらの味方じゃないのか? オレたちの相手はキン肉万太郎のいる“マッスルブラザーズ・ヌーボー”、キン肉マンの相手はテリー・ザ・キッドのいる“ジ・アドレナリンズ”だぜ」

 

 ネプチューンマンは遠い目をし、自身の考えをふたりに説明する。

 

「やつらの力は強大だ……オレとセイウチンの“ネオ・イクスパンションズ”を含め、どのチームが一番勝てる見込みがあるかなど見当もつかん。ならばここは、各チームのポテンシャルを最大限まで高める手助けをし、より実力のあるチームが上に上がるべきだろう……その過程で誰かが時間超人を成敗してくれるのがオレの理想だ」

 

 それこそが、ネプチューンマンの考える時間超人包囲網。

 あのふたりの恐ろしさを誰よりも知っているからこそ、ネプチューンマンはキン肉マンとバッファローマンに助け舟を出したのだ。

 

「オ……オレもキン肉マンも正義超人ではあるが、そんな大局的な視点での時間超人対策は考えていなかった!」

「ああ……トーナメントなんだからどこかで当たったとき倒せればいいだろう、くらいにしか」

 

 ある意味で純粋なふたりは、ネプチューンマンの考えを素直に感心してくれたようだ。

 

「フフフ……オレはおまえらふたりと違って若くないからな。こういう策を弄したくなるのさ。小細工は年寄りの役目……新世代超人を含め、若者は闘争心の赴くまま目の前の敵にぶつかっていけばいいのさ」

「ニュ……ニュージェネレーション……」

 

 ネプチューンマンが口にした単語に思うところがあるのか、キン肉マンは視線を床に落とす。

 ネプチューンマンの目的のひとつであるキン肉マンの骨の再生は成った。

 さすればもうひとつの目的である、“キン肉マンと新世代超人の不和の解消”も成し遂げたいところだ。

 

「キン肉マン。オレのことは21世紀の未来から来たネプチューンマンだと認めてもらえたようだが……おまえの息子であるキン肉万太郎については、考えは変わらずか?」

「あ、あたりまえじゃ~~っ! あんなマッスル・ドッキングもまともにできないやつ、わたしは息子だなど認めん! やつらが来たことこそが、すべての元凶だとさえ思っておる~~っ!」

 

 やはりこちらはそう上手くはいかない。

 特にキン肉万太郎の名はキン肉マンにとってのタブーも同然らしく、その名を出した途端、猛剣幕で罵倒を口にする始末だ。

 

「ハア~~ッ、まったくこの男は」

 

 想定していたとおりの結果ではあるが、さすがにネプチューンマンも呆れ果ててしまう。

 この男にはもっと、別角度から説き伏せなければ駄目なようだ。

 

「おまえが万太郎のことを認めないのは勝手だが、そんなことで次のジ・アドレナリンズ戦に勝てると思っているのか?」

「え? どゆこと?」

 

 明日の対戦チームであるアドレナリンズの名を出されたことで、キン肉マンの興味が向いた。

 ネプチューンマンは続ける。

 

「20世紀超人と21世紀超人の混成タッグ……おまえのライバルであるロビンマスクはテリー・ザ・キッドのことを未来から来た自分たちの後継者だと認め、積極的に未来の超人レスリング技術を取り入れている」

「ええ~~っ、ズル~~ッ!」

「その技術の中には、これから先の未来でおまえが開発する技もある……」

「み、未来のわたしが開発する技~~っ!?」

 

 さすがのキン肉マンも気になったのか、慌てた挙措で小道具を用意し始める。

 女物のワンピースを着てカツラを被り、口紅を厚めに塗って、つけまつ毛をしてからぱっちりウインク。

 おしりをフリフリ振りながら、女装した姿でネプチューンマンに媚びを売る。

 

「ねえねえネプチューンマンのオジサマ~~ッ、教えて教えて~ん? あれ? よく見たら口元のおヒゲに渋みが増したんじゃない~~っ? いやーんダンディ~~ッ」

 

 もちろんネプチューンマンはそんな色仕掛けには乗らない。

 片手を突き出し、キン肉マンを遠ざけた。

 

「ダメだ――ッ、オレが21世紀についておまえに教えられることは、加圧トレーニングと息子のこと、それに牛丼が値上がりすることくらいだ――っ」

「なにィ――ッ!? 牛丼が値上がり――っ!?」

 

 色仕掛けを拒否されたことよりも、ネプチューンマンがついでのように言った一言がキン肉マンにとってはショッキングだったようだ。

 

「そりゃわたしのよく行くガード下の店もか――っ!? ロビンの好きな養老乃瀧は――っ!?」

 

 なんせキン肉マンは全日本牛丼愛好会会長。

 未来の牛丼情報ともなれば、意地を捨てでも入手しておきたいのである。

 が、これはギャグ漫画だった怪獣退治編ではなく究極の超人タッグ編だ。

 

「そこはどうでもいいだろうが――っ!」

 

 バッファローマンはどこからともなく取り出した紙ハリセンでキン肉マンをスパーンと引っ叩いた。

 衝撃で女装アイテムが全部吹っ飛んだキン肉マンは、何事もなかったかのように腕組みをして格好つける。

 

「グムー。ロビンがこの加圧トレーニングのような未来の技術でパワーアップしているというのは正直恐ろしいが……わたしとて“宇宙超人タッグ”チャンピオン。馬場でも猪木でも持って来いってんだ」

 

 強がるキン肉マンに、ネプチューンマンはまたもやため息をついた。

 

「わかっちゃいねえな。おまえが真に警戒しなければならないのはロビンではなく、テリー・ザ・キッドのほうだ」

「な、なぬ――っ、あのヤンキー超人だと――っ?」

 

 キン肉マンとしては完全ノーマークだったのか、意外そうな反応だ。

 ネプチューンマンは彼にキッドの存在を意識させるため、さらに詳しく説明し出す。

 

「やつは知ってのとおりテリーマンの息子……おっと、おまえにとっては自称が付くか。キッドは親父であるテリーマンに対抗意識を燃やしているが、それ以上にキン肉マン、おまえのことを強く意識しているんだぜ」

「そ……そりゃまたいったいなんで?」

「テリーマンの存在さ。あの男はおまえの相棒として、常にマシンガンズの二番手に甘んじてきた……トロフィーの大きいのはキン肉マンばかりで、小さいのはテリーマンのもの。これから先の未来でもそれは変わらない。キッドにとって、おまえは大好きなパパが一番を目指さなくなった元凶ともいえる。やつはそれが我慢ならないのさ……」

 

 テリー・ザ・キッドという男はコンプレックスの塊のような超人だ。

 その思想はヘラクレス・ファクトリー入学の頃からであり、キン肉万太郎たちと共に悪行超人と闘う中で一旦は捨て去ったらしいが、この20世紀にタイムスリップしてきたことで再燃したように思える。

 

「キッドがキン肉万太郎ではなくロビンマスクと組んだのもそんな反骨精神からだ。21世紀の正義超人界でも、やつはおまえの息子である万太郎の後塵を拝してきたからな。マシンガンズのⅡ世タッグみたいな扱いをされるのが嫌だったのだろう……」

「知るか~~っ、そんなもん! とんだ逆恨みじゃないか!」

「それだけ影響力の強い存在になっているってことさ、未来のおまえは」

 

 相手は悪行超人ではないが、ロビンマスクもテリー・ザ・キッドもキン肉マンを憎く思っていることには変わりない。

 執念からくる刃のように研ぎ澄まされた闘争心の怖さを知るキン肉マンは、難しそうに顔をしかめるのだった。

 

「ま……多くは求めん。ただおまえは明日のジ・アドレナリンズ戦の前に、その目でよく見ておくべきなのだ。マッスルブラザーズ・ヌーボーvs2000万パワーズの試合を!」

 

 明日、“ザ・マシンガンズ”vs“ジ・アドレナリンズ”より前に行われる二回戦第1試合。

 その闘いが陰謀論に染まったキン肉マンの頭を塗り替えてくれるだろうことを、ネプチューンマンは期待していた。

 

「わ、わたしの息子を名乗るインチキにゅーじぇねれーしょん&ニセグレートと……」

 

 キン肉マンはバッファローマンのほうを見やる。

 

「ここにいるバッファローマン、そしてモンゴルマンのタッグの試合を……」

 

 自称息子と師のマスクを無断で継ぐ謎の素人vs無二の友人コンビ。

 応援するほうも明確なその試合を前に、しかしキン肉マンは複雑そうな表情を作った。

 バッファローマンはそんなキン肉マンの心中を思い、豪放磊落の謳い文句のとおりさっぱりと笑って見せる。

 

「フッ……なんだかんだで新世代超人のやつらを買ってるんだなネプチューンマン。しかしオレたちに助力してくれたことで、贔屓の連中が惨めに敗けちまうかもしれないぜ?」

「それならそれで、おまえらがトーナメントを勝ち進み時間超人の討伐を果たせばいい。ただなバッファローマン。おまえとモンゴルマンが注意すべきはなにも新世代超人だけってわけじゃないぞ」

「そりゃまさか、あのビビリのグレートⅢのことを言ってるのか?」

「さて、どうだかな」

 

 2000万パワーズのふたりは一回戦の“マッスルブラザーズ・ヌーボー”vs“地獄のカーペンターズ”戦を観ている。

 であるならば、すでに感じているはずだ。グレートⅢの秘められしポテンシャルを……彼がただの素人ではないことを。

 

 布石は十分に打った。

 ここらが潮時だろうと判断し、ネプチューンマンはふたりに背中を向ける。

 

「雨も上がったようだし、そろそろお(いとま)させてもらおう。明日の二試合、楽しみにしてるぜ……」

 

 そう言って、ひとり先にジムを退室するのであった。

 

「食えないおっさんだぜ」

「グ……グムー」

 

 残されたバッファローマンとキン肉マンはネプチューンマンの残した言葉を胸に刻み、明日の試合を迎える。

 

 

 ◇

 

 

 雨がやんだ夜道。

 ネプチューンマンは濡れた道を歩きながら、明日行われる二試合に思いを馳せていた。

 一番気がかりなのは、キン肉マンとキン肉万太郎の関係だ。

 

(わかっちゃいたが……あの親子がわかりあうことだけは、いくらオレが苦言を呈したところでどうにかなるものでもねえな)

 

 マシンガンズの相手がカーペット・ボミングスからジ・アドレナリンズに変わり、試合順も入れ替わったことがどう影響するか。

 そればかりはネプチューンマンにも読めない。

 なにせネプチューンマンは妻子を持たぬ身……友情はまだしも、家族の絆というものについては図りきれないところがあった。

 

「待て」

 

 ひとりで夜道を歩いていると、ふと何者かに声をかけられた。

 20世紀の深夜は21世紀ほど出歩く者が多くない。24時間営業の店も少ないし、娯楽も限られているからだ。

 そんな時間にいったい何者か――と一瞥してみれば、正体は一目瞭然。

 その男は、隈取りに辮髪、そして拳法着をトレードマークとしていた。

 

「おまえは……モンゴルマン」

「少し時間をもらおうか、ネプチューンマン」

 

 先ほどまで話していたバッファローマンのパートナー、蒙古の超人モンゴルマンである。

 

(ちょうどいい。こいつのことだけは、正直なにも思い浮かばず困っていたところだったんだ)

 

 ネプチューンマンはこの邂逅を渡りに船と思い、要求に応じた。

 

(モンゴルマン……いや、ラーメンマンの命を救う手立て。なにか掴めりゃいいが)

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