ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

37 / 106
第037話 “奇蹟の逆転”は声援と共に!

「あ……あれは!」

 

 キン肉マンがロビンマスクに繰り出したその技を目の当たりにし、キン肉万太郎は声を上げた。

 

「“敵の両足首を我が手で捕らえ、敵の両腕を我が足で制すれば、迷うことなく動くこと(なみ)の如く、()つこと柱の如く、落ちること(かささぎ)の如く”……“疾風迅雷落とし”! 正式名称48の殺人技のひとつ“キン肉ドライバー”だ――っ!」

 

 自身も得意とするキン肉族伝統の必殺技(フェイバリット)、その創始者であるキン肉スグルが繰り出すオリジナルキン肉ドライバー。

 その迫力は凄まじく、胸の高鳴りが止まらない。

 逆さに捕らえられたロビンマスクはこのまま脳天をキャンバスへ突き刺されてしまうのか――

 

「ロビーン! 今こそ練習の成果を見せるときだ――っ!」

 

 エプロンサイドからキッドが呼びかける。

 パートナーの声援を受け、ロビンマスクは行動に出た。

 

「“(はや)きこと瀑布の(さま)に”」

 

 まずはキン肉マンの足のフックを外し、両足を脇で抱え込む。

 思わぬ抵抗に気が動転したキン肉マンは、ロビンマスクの両足を掴む手の力を緩めてしまう。

 

「“転ずることツバメの(さま)に”」

 

 ロビンはその隙を見逃さず、素早く両足を抜いた。

 こうなってしまえばあとはこちらのもの。

 自由になった両足をキン肉マンの首に巻き付け、体を強引に反転させることで降下を再開した。

 

「“重きこと(いかり)(さま)に”」

 

 上下の位置関係はそのままに、降下の主導権を握る。

 ロビンマスクはキン肉マンの首を両脚でクラッチした逆立ちのような姿勢でキャンバスへ着地した。

 

「ロビン・スペシャル――ッ!」

 

 着地のショックでロビンの両脚がキン肉マンの頸動脈に食い込み、吐血を誘う。

 これぞ、先の“宇宙超人タッグ・トーナメント”で初お披露目されたロビンマスクの新必殺技――ロビン・スペシャル。

 

『あ――っとなんとなんと! ロビンマスク、キン肉マンの必殺技であるキン肉ドライバーを難なく返し、自身の必殺技であるロビン・スペシャルをくらわせた――っ!』

 

 ロビンの脚に首を捕らえられたまま、キン肉マンは力なくこぼす。

 

「ネ……ネプチューンマン対策として、ロビンマスクがずっと温めていた技……」

「超人オリンピックや悪魔超人との闘いでも温存していたのは悪かったな……だが、もはや出し惜しむ理由はない」

「こ……光栄、だぜ……」

 

 ライバルの技の威力を称賛し、言葉は途絶える。

 頃合いと見たロビンマスクが脚のホールドを解き、キン肉マンの体がキャンバスに沈んだ。

 

『キン肉マン、再びダウンだ――っ!』

 

 起き上がってはこれない。

 キン肉マンの意識は闇にいざなわれようとしていた。

 

 

 

 父キン肉マンの沈みゆく姿を見て、万太郎は震え上がる。

 忌まわしき記憶を呼び起こされたショックで、顔面蒼白になっていた。

 

「お……同じだ~~っ! あのときとまったく~~っ」

「ど……どうしたっていうんだ万太郎? やけに震えているが……」

 

 事情を知らないカオスが万太郎を気遣う。

 傍らのミートは当事者ではないものの、その原因を知っていた。

 

「21世紀ミートの記憶によれば、今からずっと先の未来……第22回大会に該当する“超人オリンピック・ザ・レザレクション”が行われた際、万太郎さんはその決勝の舞台でロビンマスクのご子息であるケビンマスクと対戦……試合の中で渾身のキン肉ドライバーを放ちますが、あっさりと返されロビン・スペシャルによる反撃をくらってしまうんです」

 

 それまで、キン肉万太郎が絶対の信頼を寄せていた父の技キン肉ドライバー。

 ヘラクレス・ファクトリーの卒業テストでは実際に父キン肉マンに放ち勝利をもぎ取った技でもある。

 

「今、ロビンマスクが見せたキン肉ドライバー破りのムーブは……そのときケビンが見せたムーブとまったく同じなんですよ!」

 

 そんな大技が超人オリンピックという大舞台で破られたトラウマは根深く、今目の前で父親であるキン肉マンがケビンの父であるロビンマスクに同じような反撃をくらってしまったことが、あまりにもショックだった。

 

「な……なぜ20世紀のロビンマスクが21世紀で披露されるキン肉ドライバー破りを再現できたんだ!?」

 

 カオスが当然の疑問を叫んだ。

 ミートはその答えを冷静に分析し、自らの考えを口にする。

 

「親子だから発想が似ているのか……いえ、おそらくは試合の中で王子がキン肉ドライバーを使うことを見越し、未来の闘いを知るテリー・ザ・キッドがあらかじめロビンマスクに教えていたに違いありません」

 

 キン肉万太郎vsケビンマスクの一戦はもちろんテリー・ザ・キッドの記憶にも鮮明に残っているだろう。

 リング外からしたり顔で視線を送るキッド、ライバルのダウンする姿を見下ろすロビン。

 キン肉マンはピクリとも動かず、無情にもダウンカウントが進んでいく。

 

「ち、父上~~っ」

 

 万太郎はそんな父親の姿に、なにを思うか。

 

 

 

 一方で、キャンバスに沈んだキン肉マンの意識は確かだった。

 しかし起き上がれない。

 肉体のダメージもあるが、それ以上にメンタルへのダメージが計り知れなかった。

 

(ま、まさかキン肉ドライバーが破られるとは……これがネプチューンマンの言っていた、未来の超人レスリング技術を取り入れるってことなのか~~っ)

 

 キン肉ドライバーが破られるのはキン肉マンにとっても初めてのこと。

 あの恐ろしき難敵、悪魔将軍をも打ち倒した必殺技が、よもやロビンマスクに破られてしまうとは。

 

(へへ……そういやネプチューンマンのやつ、こうも言っておったな……マッスルブラザーズ・ヌーボーと2000万パワーズの一戦をよく見ておけ、と……)

 

 あれは手に汗握る闘いだった。

 万太郎とカオスのチグハグなタッグワークには何度もやきもきさせられ、無意識の内にアドバイスなど投げてしまったほどだ。

 

 結果的にラーメンマンが死んでしまったのは悲しいが……去り際の友の顔がやり遂げた男の顔だったことも事実。

 それだけに考えてしまう。ラーメンマンの選択ははたして本当に正しかったのだろうか、と。

 

(ラーメンマンよ……あいつらはおまえが命を投げ出すほどの存在だったのか? み、未来の……正義超人界を担うほどの……)

 

 未来から来たなど馬鹿馬鹿しい。やつらは新手のペテン師だ。悪行超人の手先なんだ。

 そう思い込もうとしても、万太郎の勇姿やラーメンマンの満足げな表情が脳裏から消えてくれない。

 彼らを認められるほどの度量が己にあれば、ロビンマスクのキン肉ドライバー破りを攻略することもできたのだろうか。

 

「父上――っ!」

 

 ピクリと、手先が動く。

 己を父と呼ぶ声に、無意識で体が反応した。

 

 万太郎だ。

 客席にいるキン肉万太郎が、誰よりも大きな声でなにかを言っている。

 

「あんた、このキン肉万太郎をあれだけ罵倒しておいて、こんなところで膝を折るっていうのか――っ!? “奇蹟の逆転ファイター”の異名が泣くぞ――っ!」

 

 贔屓の超人が劣勢でいることに我慢ならず、罵声に近い応援を送る。

 なんてことはない、超人レスリングファンにはよくいるタイプの観客だ。

 しかし、やつはただのギャラリーではなく優勝を競い合うライバルのはず。

 それもこちらを敵視していた新世代超人(ニュージェネレーション)の筆頭であるはずなのに。

 

(な……なんで万太郎がわたしに声援を送る~~っ? やつはニュージェネレーションで……相手チームにいるテリー・ザ・キッドの仲間……応援するならわたしではなくアドレナリンズのほうではないのか~~っ?)

 

 そうだ、万太郎にとってはキン肉マンが負けてくれたほうが都合がいいはずだ。

 キン肉マンにはわけがわからず、しかし不思議と、その応援を聞き逃すまいと集中力を高めていた。

 

「立て――っ! 立ち上がり、勝ち上がってくれ――っ! ボクはもう、キン肉族が“ロビン王朝(ダイナスティ)”に敗けるのを見るのはごめんだ――っ!」

 

 そこに憎む気持ちは欠片もない。

 純粋な少年が口にするそれとまったく同じ。

 がんばれ、という応援がキン肉マンの胸に届いた。

 

(な……なぜだかわからないが……)

 

 キン肉マンは身を起こす。

 ここで倒れていてはキン肉マンの名が廃る。

 

(あの男の声援を耳にすると、不思議とパワーが湧いてくる――っ)

 

 キン肉ドライバーを破られたくらいでなんだ。

 万太郎の前でダウンした姿を見せる理由にはならないじゃないか。

 我ながら意味のわからない理屈で、だが結果として確かに、キン肉マンは立ち上がった。

 

『あ――っとキン肉マン、10カウント寸前で立ち上がった――っ!』

 

 ダウンカウント9。ゴングが鳴る寸前だった。

 ライバルの復活をずっと見守っていたロビンマスクは、仮面の下で笑みをほころばせる。

 

「火事場のクソ力を持つおまえが、この程度で沈むとは思っちゃいないさ」

 

 キン肉マンがこの程度で終わるはずがないことは、ロビンが一番よく知っている。

 立ち上がってきたことに驚きはない。

 これはタッグマッチ、今度はシングル技ではなくツープラトンで沈め直すのみ。

 

「だからこちらも、容赦なく追撃を仕掛けせてもらう――っ」

「いくぜー、ロビン!」

 

 ロビンの戦意に呼応するように、彼の背後でテリー・ザ・キッドが跳んだ。

 空中でくるりと身を翻し、仰向けの姿勢でロビンマスクの肩に降下する。

 ロビンはこれを両手で受け止め、そのまま肩に載せるようにして固く捕らえた。

 

『こ、これは――っ!? ロビンマスクがパートナーのテリー・ザ・キッドをタワーブリッジに極めている――っ!?』

 

 本来敵にかけるべきタワーブリッジを味方にかける。

 ロビンの正気を疑いたくなるような行動は、しかしツープラトンの予備動作にすぎない。

 技の名は“タッグ・フォーメーションA”。

 タワーブリッジで固めたパートナーの体をしなりにしならせ、そのまま投げつける荒業である。

 

「カーカッカ! ウォーズマンと組んでいたとき“ヘル・ミッショネルズ”相手に繰り出したアレか!」

「同様の技は一回戦の“鬼哭愚連隊”戦でも見せています!」

 

 あるときはウォーズマンと、あるときはテリー・ザ・キッドと共に繰り出したロビンマスクの代表的ツープラトンに、ザ・ナイトメアズのふたりが歓声を上げる。

 

 対応に窮したのはキン肉マンだ。

 先日の一回戦では“鬼哭愚連隊”のザ・ガオンをKOした一撃。

 受け止めるべきか? それとも躱すべきか?

 

「ヘイ、キン肉マン!」

 

 迷うキン肉マンの後ろから、心強いパートナーの声が聞こえてきた。

 

「テリー!」

 

 振り向くと、そこには自分の体にリングロープを巻きつけたテリーマンがいた。

 

「タッグ・フォーメーションAの対策はしておいただろう! 早くこい!」

 

 元の状態に戻ろうとするリングロープを腕力で無理やり押さえつけているテリーマン。

 ひと目見ただけで、相棒がなにを伝えたいのかは察せられた。

 

「くらえ――っ! タッグ・フォーメーションA!」

 

 ロビンマスクがテリー・ザ・キッドを投げ放つ。

 キン肉マンは後ろのテリーマンを飛び越える形でリング外へ避難。

 

『あ――っとキン肉マン、リング外に飛び出しテリーマンを思い切り引っ張った――っ』

 

 否、避難などではない。

 これはロープでぐるぐる巻きになったテリーマンをパチンコの要領で弾き出すための動作。

 外側に目一杯引っ張ったロープはに元に戻ろうとする力が働き、巻き込んだテリーをリング内へ撃ち出す。

 

「マシンガンズ流“アンチ”タッグ・フォーメーション!」

 

 キッドは横向き縦回転。

 対し、テリーは頭から突っ込む形で螺旋状に回転している。

 キッドが野球のストレートボールだとしたらテリーは銃の弾丸。

 ぶつかって打ち勝つのは、はたしてどちらか。

 

『テリーマンとテリー・ザ・キッドが互いに回転しながら衝突し合う――っ!』

 

 衝突の瞬間、両者は肘を突き出し相手を弾こうとする。

 

「テキサス・トルネード・エルボー!」

「テキサス・ツイスター!」

 

 結果、互いの肘と肘がぶつかり合い、全身も激突。

 派手な衝撃音を奏でてキャンバスに落下した。

 

『こ……今大会最大級の交通事故、更新――っ! テリーマンとキッドの正面衝突は相打ちだ――っ!』

 

 ツープラトン対決は引き分け。

 どちらもKOには至らない。

 いや、あるいはふたりともこのまま起き上がらないことも考えられる。

 それくらい激しい衝突だった。

 

「ま……まだまだ~~っ」

 

 だが――テリー・ザ・キッドは立ち上がる。

 

『キッドが先に立ち上がる――っ』

 

 ダメージは大きい。

 脚はガクガクと震え、頭もグワングワンと揺れていた。

 

「キ……キッド。なにがおまえをそこまで……」

 

 片膝立ちの状態で、テリーマンがキッドを畏怖するように言った。

 問われたキッドは小気味良く笑い、まだまだやれるぜといった表情を見せつける。

 

「へへっ、なんせオレのママはジャパニーズ……このテリー・ザ・キッドには侍の血ってやつが流れてるのさ」

 

 キッドは一瞬、リングそばの客席でカメラを構えている翔野ナツ子を見やった。

 今から数年後、テリーマンは彼女と結婚しキッドを授かるのだ。

 なぜ立ち上がれるのかと問われれば、親譲りの侍魂があるからだと答える。

 この返答に、テリーマンの対抗心は燃え上がった。

 

「ミ……ミーだって、愛する女性が日本人で、頼れる相棒が日本出身だ。サムライスピリッツを持っていないわけではない~~っ」

 

 二本の脚でしっかりと立ち、キッドの間合いに踏み込む。

 キッドもテリーマンの闘志を感じ取り、一歩踏み込んだ。

 

『お――っと、テリーマンとテリー・ザ・キッドがリング上で睨み合う! 互いにファイティングポーズを取ったまま……こうやって鏡合わせのように立つと、まるで親子と見紛うほど顔つきがよく似ている――っ』

 

 ふたりの距離感はインファイト。

 パンチやキックはもちろん、投げ技も寝技も仕掛けにいける間合いだ。

 そんな状況で、テリー・ザ・キッドが繰り出すのは――拳。

 

「テリーマン……オレはあんたに勝ちたいんだ――っ!」

 

 何の変哲もないストレートパンチをテリーマンに見舞う。

 防御も回避もできただろう。

 しかしテリーはあえてそれを頬で受け、すぐに自分もやり返した。

 

「気持ちだけで乗り越えられるほど、このテリーマンの壁は低くねえ――っ!」

 

 左の頬を殴られたから、右の頬を殴り返す。

 キッドはそれを甘んじて受け、反撃の反撃とばかりにまたもやパンチを繰り出した。

 おまえがそうくるなら反撃の反撃の反撃だ、とテリーマンもさらなる顔面パンチで返す。

 

『あ――っとテリーマンにテリー・ザ・キッド、スタンディングでの壮絶な殴り合いに突入――っ! 互いにノーガード! これだけ泥臭いシーンはこの“究極の超人タッグ戦”でも初めてではないでしょうか――っ!?』

 

 共に顔面狙い、攻撃はパンチのみ。

 ガードの意思はなく、両脚はキャンバスに固定したまま動かさない。

 それは超人レスリングでも素人の喧嘩でもなく、意地と意地のぶつかりあい。

 

「なんて非合理な!」

「キン肉マンもロビンマスクもなんで止めねえだ――っ!?」

 

 チェック・メイトとセイウチンは声を荒げた。

 彼らは超人レスリングというものの格闘体系が完成された21世紀の超人レスラー。

 こんな技術もへったくれもないようなダメージ度外視の攻防は理解ができない。

 ふたりの傍ら、ネプチューンマンは親子の殴り合いを見てつぶやく。

 

「誰にも止められねえさ……」

 

“前回”を知るからこそ、キッドとテリーがなにを思い殴り合っているのかがわかった。

 

 チェック・メイトやセイウチンと同様、観客の大多数はキッドとテリーの行いに戸惑いの声を上げている。

 キン肉万太郎とカオスももちろんそうだ。この殴り合いにどんな意味があるのかてんでわからない。

 しかしこの少年は――ありとあらゆる超人の歴史を知り、伝承や儀式作法にも詳しいアレキサンドリア・ミートくんには、テリー・ザ・キッドとテリーマンがなにをやっているのか理解できた。

 

「あ……ああ~~っ! そうか――っ!」

「な、なんだミート! どうしたんだ!?」

 

 大声を上げて自らの気づきを伝えるミート。

 彼の中にある知識と、目の前のふたりの行動が一致したのである。

 

「これは……大昔から伝わるテキサス男が強さを誇示しあう試合方法! 一番原始的で勇気が試される……こざかしい投げ技なんてない、ただ殴って蹴り合うだけ、最後に1人リングに立っていた者だけが勝ちとなる……“テキサス・フィスト・デスマッチ”だ――っ!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。