ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第041話 これが正義超人の真剣勝負!

“究極の超人タッグ戦”二回戦第2試合――勝者はジ・アドレナリンズ。

 

『お聞きください! 会場にいる全超人レスリングファンが悲願のキン肉マン打倒を成し遂げたロビンマスクに大歓声を送っています!』

 

 愛弟子の必殺技(フェイバリット)パロ・スペシャルで勝負を決めたロビンマスクは、しかし静かだった。

 試合終了直後の熱狂、ファンからの声援を受けながらも、ただじっとリングに立ち尽くす。

 そんな覇気のないロビンに、相棒のテリー・ザ・キッドが声を掛ける。

 

「ヘイ……ロビン。どうした? 勝ち名乗りを受けてるってのに、ずいぶんとテンションがローじゃないか」

「キッド」

 

 ロビンの肩に腕を回し、もう片方の手でドスドスと胸を小突くキッド。

 ロビンは言う。

 

「ああ……正直あまり実感がわかなくてな。観客の声を聞き、倒れ伏すライバルの姿を目にしても……」

 

 リングには両腕を肩から破壊されたキン肉マンが――対戦チーム“ザ・マシンガンズ”最後の一角が倒れている。

 ロビンマスクにとってキン肉マン打倒は悲願だった。

 それを成し遂げたというのに、実感がわかないとはおかしな話だ。

 

「へへ……夢でも見てるみたいってか? 頬でもつねってやりたいところだが……」

 

 キッドはドアをノックするような所作でロビンマスクの顔を叩く。

 

「この鉄仮面じゃな」

 

 鋼鉄の仮面は叩くといい音が鳴った。

 キッドは笑みをこぼしながら言う。

 

「夢でもなんでもねえ。ロビンマスクはキン肉マンに勝ったんだ。もっと誇らしい顔してくれ」

 

 パートナーから温かい言葉を送られ、

 

「それは違うよ……キッド」

 

 しかしロビンは首を横に振る。

 キッドの肩に手を置き、諭すようにこう続けた。

 

「歓声によく耳を傾けるんだ。勝利を称えられているのは私だけではない」

 

 田園コロシアム全域に響き渡る大音声。

 試合を見届けた観客たちの口からは、ふたりの超人の名が飛び出している。

 

「ロビン!」「ロビン!」「ロビン!」「ロビン!」「ロビン!」「ロビン!」

「キッド!」「キッド!」「キッド!」「キッド!」「キッド!」「キッド!」

 

 ひとりはロビンマスク。

 そしてもうひとりは、彼のパートナーを務めたテリー・ザ・キッドだ。

 これはタッグマッチ――だからこそ。

 

「この試合の勝者はロビンマスクではなく、ジ・アドレナリンズだ」

 

 全身にビリビリと伝わってくる音の衝撃。

 キッドは歓喜に震え、目尻に涙を溜めた。

 

「オ……オレは21世紀で開かれる“超人オリンピック・ザ・レザレクション”でも大した成績を残せず……栄光ってやつとは縁遠い暮らしを送ってきた。だ……だけどこの20世紀の地で、ようやく想いが報われた気分だぜ……」

 

 ロビンは感激するパートナーを思いやり、手を取る。

 

「さあ、あらためて勝ち名乗りをあげようじゃないか」

 

 そのままキッドの手を持ち上げ、ふたりで観客のロビン・キッドコールに応えた。

 

「勝ったのはオレたち、ジ・アドレナリンズだ――っ!」

 

『あ――っと今、勝利チームであるジ・アドレナリンズのリーダー、テリー・ザ・キッドが高らかに名乗りをあげた――っ!』

 

 勝利チームに相応しい祝福を享受するアドレナリンズのふたり。

 一方、敗者となってしまったマシンガンズのふたりはその陰でひっそりと悔しさを噛み潰す。

 

「立てるか、キン肉マン」

 

 テリーマンは倒れ伏すキン肉マンに肩を貸し、支えるようにして立ち上がらせた。

 

「す……すまない、テリー。あれだけ偉そうなこと言っておきながら、負けてしまった」

 

 申し訳なさそうに視線を伏せるキン肉マン。

 テリーマンも同じ顔をした。

 

「反省会なら戦犯はミーのほうさ。マシンガンズの強みは絶対的信頼関係から生み出される正確無比なコンビネーション……それが早々にひとり先走っちまって、ろくなツープラトンも出せないままリタイアだ。全世界のテリーファンに笑われちまう」

 

 テリーもまた、先に倒れてしまった者として責任を感じずにはいられない。

 しかし、キン肉マンはそんなテリーの反省を爽快に笑い飛ばした。

 

「ふふ……あ、あんなにテキサスブロンコ魂あふれるファイトを見られたんだ。文句を言うファンなどおらんわい。わたしだって、おまえを諌めようと思えばできた……だがリングに立つおまえの背中を見ていたら、邪魔をするなと言われている気がしてな……」

 

 キン肉マン自身、テリーとキッドの親子対決に心躍ってしまったのは否定できない。

 相手の術中にハマっているとは思いつつも、それがテリーの望みなら……と口出しをやめてしまった。

 

「それに、おまえがキッドとの対戦に熱を上げすぎちまったように、わたしもロビンとの対戦に私情を持ち込みすぎてしまった。あいつと出会った頃のわたしはフィニッシュ・ホールドもろくに持っていないダメ超人だったからな……キン肉バスターやキン肉ドライバーといった必殺技(フェイバリット)を引っ提げた今なら、あの頃よりももっと満足のいく闘いができるのではないか……あのロビンマスクに完全勝利を果たすことができるのではないかと心躍ってしまった」

 

 つまり、キン肉マンもテリーマンと同罪だ。

 恥ずべきは青臭い自分たち、褒めるべきは巧妙だった相手チーム。

 

「どこまで相手の思惑通りだったかはわからないが、今回はノセられたわたしたちの失態」

「そうだな。この試合、ジ・アドレナリンズの戦略勝ちだ」

 

 マシンガンズはそう結論付け、あらためてアドレナリンズのふたりに向き直る。

 見れば、ロビンマスクが握手を求め手を差し出していた。

 

「誰かさんが両腕をメタメタに痛めつけてくれたからのう。テリー、頼む」

「ああ」

 

 キン肉マンの軽口にテリーが笑い、マシンガンズの代表として手を差し出す。

 そして、両チームによる握手が交わされた。

 

「おめでとう、ジ・アドレナリンズ」

「ありがとう、ザ・マシンガンズ」

 

『あ――っとここでロビンマスクとテリーマンが固い握手! 互いの健闘を称え合っております!』

 

 その感動的なシーンに、田園コロシアム中の人々が拍手を送る。

 万太郎とミートはその美しいやり取りに感涙していた。

 

「うう~~っ! 父上のヤロウ、息子が見ている前で情けない姿を見せやがって~~っ」

「なに言ってるんですか万太郎さん。感動して泣いちゃってるじゃないですか。勝敗なんてどうでもいいくせに~~っ」

「そういうミートだって~~っ」

 

 涙で頬をぐしょぐしょにしながら言い合うふたり。

 傍らでは、カオスが身を震わせながら静かに感動していた。

 

「試合が終われば互いを褒め称え、なんの遺恨も残さない……これが、正義超人同士の本気のファイトか!」

 

 正義超人というものに憧れ続けていた身であるからこそ、この一戦はカオスの精神に大きな影響を与えた。

 

 そして客席のまた別の位置では、口元で笑みを浮かべながらも一筋の涙を流している超人がいた。

 ネプチューンマンである。

 

「ネプチューンマンのおっちゃん、あんた泣いてるだか?」

「うるせえ」

 

 セイウチンに指摘されながらもぶっきらぼうに返すネプチューンマン。

 

「カーカッカ。年を取ると涙もろくなると言うからな。あまりつついてやるな」

 

 隣にいたアシュラマンは涙など流す気配もなく、年老いた超人を笑う。

 

「しかし……ザ・マシンガンズがここで敗退するのは個人的には残念だ。あのふたりへのリベンジが果たせなくなってしまった」

 

 キン肉マンとテリーマンのふたりにただならぬ因縁があるアシュラマンは悔しそうな目でアドレナリンズを睨む。

 抽選会のときマシンガンズとの対戦ボックスを選ぼうとしたのはパフォーマンスではない。

 せっかくの機会、できることならあのふたりとも闘いたかったというのがアシュラマンの本音だ。

 

「だが、代わりに勝ち上がってきたのが正義超人軍のリーダー格であるロビンマスクと、テリーマンの息子だというならそれはそれで申し分ない。我々“ザ・ナイトメアズ”が叩き潰すに相応しい相手だ~~っ」

 

 悪魔は個人的な因縁に固執しない。

 敵視するのはキン肉マンやテリーマンという個人ではなく、正義超人そのもの。

 最終的な勝利者がアシュラマンであるならば、それはもはや悪魔超人軍の最強証明となるのだから。

 

「もう時間超人に勝った気でいるとは。余裕だなアシュラマン」

 

 ネプチューンマンはアシュラマンに対して言う。

 

「カーッカッカ! あたりまえだろう。我らナイトメアズの戦略は完璧。時間超人など恐るるに足らんわ」

 

 アシュラマンは試合観戦後の雑談になど興味なしと言わんばかりに、席から立ち上がった。

 

「行くぞチェック・メイト――ッ。明日の試合に備えてコンディションを万全にするのだ――っ」

「ええ」

 

 タッグパートナーのチェックもそれに続き立ち上がる。

 ネプチューンマンは続けて声をかけた。

 

「待てチェック・メイト。アシュラマンは自信満々……というより慢心すらしているように思えるが、おまえも同じなのか?」

 

 アシュラマンはずんずん進んでいくが、律儀なチェック・メイトは足を止めてネプチューンマンの質問に答える。

 

「彼と組むことになった当初は、“魔界の王子(プリンス)”と呼ばれるに相応しい傍若無人っぷりに散々手を焼かされましたが……タッグとして練習を重ねていくにつれ、彼の人となりもわかるようになってきました。高慢とも思える性格、悪魔超人筆頭格としての高すぎるプライド、それらを支える確かな実力、そして圧倒的カリスマ性……今では彼の在り方を、一概に否定できるものではないと思えます」

 

 数日前まではアシュラマンに振り回されてばかりで目を回していたチェック・メイトだったが、今は一転して評価をあらためたようだ。

 

「タッグとしての信頼関係は築けているようだな」

 

 このふたりの相性を良しと考えていたネプチューンマンは、にやりと笑った。

 チェック・メイトは語る。

 

「先の試合……キン肉マンに対して闘志を燃やすロビンマスクを見て、不謹慎ながらわたしも思ってしまったのですよ。かつて己を倒したライバルにリベンジを果たしたい……この“究極の超人タッグ戦”という大舞台で、勝利を得たいとね」

 

 チェックの発言に、ある超人の顔が思い浮かんだのがセイウチンだ。

 

「それってまさか……万太郎のアニキにだか?」

 

 言葉で問うと、チェック・メイトは頷いた。

 

「ええ、そうですね。万太郎はわたしが正義超人に転向するきっかけともなった友であり、最大のライバル……アシュラマンはジ・アドレナリンズ狙いのようですが、わたしはぜひマッスルブラザーズ・ヌーボーと対戦してみたい」

 

 この会場内のどこかにいるであろうふたりを想う。

 

「しかし万太郎と同じくらい闘ってみたい相手が他にいます」

 

 そう続け、セイウチンの顔を見た。

 

「そ……それは?」

 

 チェックにしてはどこか攻撃的とも思える視線に、セイウチンはおっかなびっくり訊く。

 チェック・メイトは答えた。

 

「あなたですよ、セイウチン」

「ええ~~っ!? オラぁ~~っ!?」

 

 思いもしなかった発言に、セイウチンはひっくり返りそうなほど驚いた。

 チェック・メイトはいたって真面目に、セイウチンへの敵意――いや、ライバル心を燃え上がらせる。

 

「ネプチューンマンが来る前、わたしがあなたをタッグパートナーに誘ったのを覚えているでしょう? あれはなにも消去法で勧誘したわけではない。ネプチューンマンと同様に、わたしはあなたの身体能力や格闘技術を高く評価していたんです……あなたと組めば、イリューヒン&バリアフリーマンやジェイド&スカーフェイスにも比肩しうる強力タッグチームになれると、そう直感したんです」

 

 ほんの少しボタンを掛け違えれば、チェックはセイウチンと組んで“究極の超人タッグ戦”に参加していたかもしれない。

 もしもはもしも。

 チェックは振り返るべき過去ではないと切って捨て、セイウチンとの関係を見つめ直す。

 

「しかし! 今は同じ“究極の超人タッグ戦”二回戦に駒を進めたライバル同士! しかもタッグパートナーにはふたりとも伝説超人(レジェンド)を迎えている! この対等の条件下でセイウチン、ぜひともあなたとしのぎを削ってみたい! そう、同じ新世代超人(ニュージェネレーション)のライバルとして!」

 

 正面から堂々とライバル宣言をされ、さすがのセイウチンも受け止めざるを得ない。

 友達だと思っていたチェック・メイトの敵意――ライバル心を。

 

「オ……オラが、チェックのライバル……」

 

 言葉を口に出し、今一度噛みしめる。

 その様子に満足したのか、チェック・メイトは微笑みマントを翻した。

 

「明日の試合、ネオ・イクスパンションズの健闘を祈ります」

 

 明日行われる二回戦後半の2試合、初戦は“ネオ・イクスパンションズ”vs“ヘルズ・ベアーズ”だ。

 チェックの期待に応えるためには、まずネプチューンマンと共にウォーズマンたちに勝たなければならない。

 去りゆくチェック・メイトの背中を見つめながら、しかしセイウチンは不安げに肩を落とす。

 

「行くぜセイウチン。オレたちも明日の試合に向けて調整だ」

「んだ……」

 

 ネプチューンマンはそんなパートナーに声をかけ会場を後にするが、足取りは重い。

 これはどうやらモチベーションを上げてやる必要がありそうだった。

 

 

 ◇

 

 

 田園コロシアムのはずれ。

 リング上のリングの周囲も大盛り上がりを見せる中、勝者の姿が豆粒程度にしか映らぬ遠方の位置で涙を流す超人がいた。

 

「コーホー」

 

 機械的な呼吸音を発しながら軽い拍手を送るのは、“ファイティング・コンピューター”ウォーズマンである。

 彼はヘルズ・ベアーズのひとりとしてではなく、このときばかりはロビンマスクの弟子として師を称えた。

 

「おめでとう……ロビン」

 

 ロビンの長年の雪辱を最もよく知る者として、祝福せざるをえない。

 もはや自分事のように嬉しい、ゆえの涙。

 後輩である新世代超人たちには決して見せられない姿だった。

 

「クゥ~~ン」

 

 そんなウォーズマンの後ろで、クマのヌイグルミ超人マイケルが鳴き声を発する。

 その無機質な瞳は、どこかつまらなそうにウォーズマンの背を見ていた。

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