ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ” 作:速筆魔王LX
“究極の超人タッグ戦”二回戦Bブロック第1試合。
対戦カードは“ヘルズ・ベアーズ”vs“ネオ・イクスパンションズ”。
舞台は東京、上野動物園。
21世紀にも存在する日本の代表的動物園には、多くの人々が集まっていた。
『ご覧ください、ここ上野動物園をグルリと取り囲む観客の長蛇の列! 人気のパンダや象を見にくるお客さんか? と思いきや、そうではありません! “究極の超人タッグ戦”二回戦Bブロック第1試合、“ヘルズ・ベアーズ”vs“ネオ・イクスパンションズ”! この一戦をその目に焼き付けんと集まった超人格闘技ファンであります!』
超人格闘技の試合はときに凄惨な出来事も巻き起こる刺激的な興行。
それをのどかな動物園内で行うというのは前代未聞、だからこそ観客たちはその試合内容に興味を惹かれた。
仕掛け人はもちろん、あの超人委員会委員長ハラボテ・マッスル。
“ザ・マシンガンズ”vs“ジ・アドレナリンズ”のときのように特殊ルールを採用しない……などということはなく、しっかり特設リングが用意されていた。
『それでは只今より“究極の超人タッグ戦”二回戦Bブロック第1試合を行います!』
ハラボテのアナウンスにより観衆にお披露目されたのは、一見なんの変哲もないリング。
しかしながら、入場ゲートからすぐにクレーン車が2台運び込まれてくる。
『それでは青コーナーより、ウォーズマン&マイケルのヘルズ・ベアーズの入場です!』
クレーン車が吊るすのは、円柱形の鉄檻。
中にはそれぞれウォーズマンとマイケルが捕らわれていた。
『赤コーナーより、ネプチューンマン&セイウチンのネオ・イクスパンションズの入場です!』
反対方向からも同じくクレーン車が2台登場。
そしてやはり、吊るされた鉄檻の中にネプチューンマンとセイウチンがいた。
『ようし! 4台のクレーン車よ、一斉に鉄檻をリング上へ降ろせ――っ』
ハラボテの指示どおり、4人の入った鉄檻はリングコーナーの四隅に降ろされた。
なんの変哲もなかったリングは一転、4つのコーナーにこれから対戦する超人4人を捕らえた檻がセットされた異質なものへと変貌する。
『只今より、ヘルズ・ベアーズvsネオ・イクスパンションズの試合方法について説明いたします!』
ハラボテはこの試合の特殊ルール――“アニマル・チェンバー・デスマッチ”について説明する。
まず試合が開始するとリングの天井に設置された円形のルーレットランプが回り、最初は2箇所に止まる。
止まった位置にいる超人の檻が開き、リングインを果たすことができるといった寸法だ。
残ったふたりの超人はその後5分経過するごとに再度ルーレットランプが点灯、ひとりずつリングインする。
つまりは時間差リングイン方式――順番が最後になってしまった超人は、10分もの間試合に手出しすることができない。
どちらかが必ず2対1のハンディキャップを背負うことになる、極悪な試合方式だった。
(アニマル・チェンバー・デスマッチ――今回はセイウチンが獣性を発揮していないためどうかと思ったが、ハラボテのヤロウ、しっかり前回の歴史と同じルールを持ち出してきやがったか。まったく、宇宙超人委員会ってのは20世紀でも21世紀でも悪趣味な連中だぜ)
ネプチューンマンは心中で毒づく。
このルーレットランプはランダムで止まるわけではない。
観客席の手元に置かれた無数のスイッチ、そのいずれかがルーレットの停止装置であり、つまりはスイッチを押したタイミングでどの超人がリングインできるかが決まる。
ハンディキャップを背負うのはどちらのチームになるのか、その決定権を観客に委ねるというのがまた、ハラボテのえげつないところだった。
(オレが辿った歴史では、マイケル、セイウチン、オレ、ウォーズマンの順で檻から解放された。しかし今回は二回戦の試合順が変わったこともあり、アニマル・チェンバーの開放スイッチを押す観客の顔ぶれも変わっている……観戦している出場チームもマシンガンズがおらず、代わりにアドレナリンズがいるしな)
この試合は檻からの解放順によって大きく展開が変わる。
ネプチューンマンが知る“前回”と同じ順番になるとは限らないが、はたしてどうなるか。
『ようし、ココで皆さんスイッチオンじゃ~~っ!』
勢いよく回るルーレットランプ。ほどよいタイミングでハラボテが合図を出した。
観客の多くはそのタイミングでスイッチを押す。
正解のスイッチを握るのが誰かはわからないが、ルーレットは緩やかに速度を落としていった。
『あ――っと観客のスイッチオンによってルーレットランプの回るスピードが落ちていく――っ! さあ、最初にチェンバーが開かれるのは~~っ』
観客たちが見守る中、ついにルーレットランプが停止。
真下にいる超人の檻が開き、第一のリングインを果たした。
その超人は――
『さあ~~っ、アニマル・チェンバー・デスマッチ一番目のリングインは“ヘルズ・ベアーズ”マイケルだ――っ』
クマのヌイグルミ超人マイケル。
パフォーマンスのつもりか、風船を持参していたマイケルはスキップでリングの中へ入っていく。
そして、鉄檻に捕らわれた状態のネプチューンマンに風船をひとつ差し出した。
「グフフ、ありがとうよ……」
まるで遊園地のマスコットキャラのようだ。
ネプチューンマンは気持ちだけ受け取り、腕組みをしながらルーレットランプのほうを見やる。
すでに第2のルーレットは回っていた。
『さあ、ルーレットランプが選ぶマイケルの対戦相手は~~っ!?』
徐々に速度が落ちていくルーレットランプ。
今、ネプチューンマンの真上を通過し……その隣の位置で止まった。
『マイケルに続いてリングインするのは“ネオ・イクスパンションズ”セイウチンだ――っ!』
鉄檻が開き、勢いよく飛び出すセイウチン。
「ウオオオ――ッ!」
リングインと同時に咆哮。
前日にネプチューンマンと調整を行い、気合は十分。
今日のセイウチンは燃えていた。
一方で、素直に喜べないのはネプチューンマンだ。
最初に解放されたのはマイケルとセイウチン。これはネプチューンマンが持つ記憶と合致する。
(むう……やはりチェンバー開放の順番も前回の歴史通りか。しかしセイウチンが魔道に落ちていない以上、試合内容は前回のようにはならねえ)
前回は獣性を抑えられなかったセイウチンがいきなりマイケルに襲いかかるという開幕だった。
だが今回はそうはならない。打ち合わせは済んでいる。
「わかっているな、セイウチン」
「ああ、任せてくれだ」
ネプチューンマンの声を受け、ゆったりとした足取りでマイケルに歩み寄っていくセイウチン。
スローモーションのような挙動で両手を前に出した。
『あ――っとセイウチン、手四つからの力比べを挑む気か!?』
構えだけなら今にも組みにいきそうな体勢だが――セイウチンからは力強さが感じられない。
そんな状態のまま、マイケルに触れる。
『い……いや! セイウチン、マイケルの手を優しく取り……』
手を掴む――ではなく、“お手々を握る”とでも表現したくなるようなソフトタッチだった。
「ラン♪ ラン♪ ラン♪」
「クゥーン?」
セイウチンはそのまま歌を口ずさむ。
マイケルは不思議そうに首を傾げ、しかし次第に調子を合わせていく。
「ランラララン♪ ランラララン♪」
そして、あろうことか――ふたり一緒に踊りだしたのである。
『な、なんとぉ――っ!? セイウチン、マイケルの手を取ってダンスを踊りだした――っ!?』
軽快なメロディを口ずさみながらステップを踏むセイウチンとマイケル。
セイウチとクマの可愛らしいやり取りに、多くの女性ファンたちが笑顔になった。
驚いているのはライバル超人たちである。
「なにやってんだ――っ!? セイウチンは――っ!」
客席のキン肉万太郎はセイウチンの目的がわからず困惑した。
この場でセイウチンの狙いを把握しているのはただひとり、ネプチューンマンのみである。
(この試合の鍵は、マイケルの獣性を極力刺激しないこと! 前回の試合では、セイウチンの流血ファイトによって血の味を覚えてしまったがゆえにやつが暴走……お上品なウォーズマンの教育方針に嫌気が差し、ワルだったオレに寝返るという前代未聞の裏切りを働いた! となれば、この試合ではできるだけ流血を避けたい……理想はオレとセイウチンのふたりがリング上に出揃ったところで、マイケルを優先的に絞め落とすことだ!)
要は時間稼ぎであるが、相手を刺激してはいけないというのが厄介な点だ。
みっともなく逃げ回るという手もあるが、ここはマイケルのファンシーなキャラクターを利用するのが得策だろう。
「悪いがそれまでは平和的に、道化を演じてもらうぞ……セイウチン」
ネプチューンマンの読みどおり、マイケルはセイウチンとのダンスに夢中になっている。
「キャ! クマちゃんカワイイ――ッ」
「セイウチンもキュートよ――っ」
観客の反応も上々。
この試合はマイケルの可愛らしさ目当てで観戦に来た客も多く、消極的試合運びによるブーイングは生まれがたい。
「ムググ――ッ。これではアニマル・チェンバー・デスマッチの意味がないではないか――っ」
「しかし委員長、これはこれでお客さんのウケがいいようですし……」
野性味あふれる動物的ファイトを期待していたハラボテもノックになだめられ押し黙ってしまう。
興行的に成功しているなら超人委員会としても文句が言えないというわけだ。
このまま5分間、セイウチンとマイケルのダンスショーが続くのか――?
あいにく、そうはいかない。
マイケルのパートナー、ウォーズマンが黙っていなかったからだ。
「マイケル!」
ウォーズマンが叫び、呼応するようにマイケルの目が光った。
ダンスの途中でおもむろに飛び上がり、空中で体を回転させて――セイウチンに蹴りを入れた。
『あ――っとマイケル、ダンスの最中に突如跳躍! セイウチンへ後ろ回し蹴りだ――っ』
「ぐあっ」
不意を突かれることになったセイウチンは口から出血。
尻もちをつき、不格好に喘いだ。
「クマちゃんどうしたの――っ!?」
「きっとステップを間違えちゃったんだわ――っ!」
マイケルの女性ファンたちが心配そうに声を掛ける。
「クゥーン」
マイケルはわかっていない様子で小首を傾げた。
セイウチンもそんなマイケルに逆襲したりはせず、笑って立ち上がる。
「は、はは……焦ることはねえだよマイケル。タッグマッチの本番はお互いのタッグパートナーが揃ってから……ここはもう少しオラとダンスをしながら遊ぶだよ」
そう言って、再び歩み寄る。
マイケルはセイウチンの優しさを好ましく思ったのか、正面から抱きついた。
「クゥ~~?」
「そうそう、こんなふうに腰に手をやって」
セイウチンの腰のあたりで手を組み、そのまま後方へ反り投げる。
『マイケル、セイウチンをフロント・スープレックスで投げた――っ』
結果、セイウチンの頭はキャンバスに突き刺さった。
これはダンスではない――れっきとした超人格闘技の技だ。
「なにやってるんだセイウチン! クマ公はとっくに戦闘モードに入っているぞ――っ!」
万太郎が声を張り上げるが、セイウチンのスタンスは変わらない。
「ウググ……」
起き上がっても反撃に転じたりはせず、マイケルを刺激せぬよう敵意を抑えた。
鉄檻内のネプチューンマンは、パートナーの姿をハラハラしつつ見守る。
「こらえろよ~~っ、セイウチン。やつの獣性を刺激することだけは避けるんだ――っ」
いかにセイウチンが傷つこうと、これが最善のマイケル対策なのは間違いない。
ヘルズ・ベアーズに勝利する、のみならず、ウォーズマンの安全を守るには、マイケルの暴走を阻止することが最重要だ。
「オ……オラはネプチューンマンを信じるだ……」
この作戦は双方納得の上に行われている。
だからこそ、セイウチンはどれだけやられっぱなしになろうとも反撃の意思を見せないのだ。
マイケルにとってそんなことは関係ない。
相手が無抵抗なら、ただ蹂躙するのみ。
マイケルはセイウチンの両脚を掴んで持ち上げる。
『マイケル、セイウチンの両脚を掴んで豪快なジャイアントスウィング――ッ』
豪気なお父さんがやんちゃな息子をあやすかのようなぶん回し。
だがしかし、どんな虐待親父であろうと息子を鉄の檻に向けて投げ放ったりはしないだろう。
『あ――っとネプチューンマンの閉じ込められているチェンバーにぶつけた――っ!』
ネプチューンマンの目の前で肉が潰れ、骨が砕ける音が鳴った。
檻の外側で、大切なパートナーが崩れ落ちている。
「セイウチン!」
「わかってる……わかってるだよ」
セイウチンの意識は確かだった。
しかし頭からは血を流し、目は虚ろ……すでにかなりのダメージを受けてしまったことが窺える。
「ほうらマイケル、もう一度手を取って……」
マイケルに向き直ったセイウチンは穏やかに呼びかけるが、クマの中身に凶暴な古代獣を飼う超人は拳を固めていた。
「クゥーン」
可愛らしい鳴き声を発しながら、超人ボクシングの選手も唸る高速ジャブを繰り出した。
『マイケル、なおもセイウチンにラッシュをかけていく――っ』
タコ殴りにされるセイウチン。
その異常な光景を前に、観戦していた超人タッグチーム――昨日“ザ・マシンガンズ”との一戦に勝利し、先に準決勝進出を決めた“ジ・アドレナリンズ”が騒ぐ。
「なぜだ――っ! なぜセイウチンは反撃をせず、ネプチューンマンもそれを咎めない――っ!?」
ロビンマスクにはセイウチンやネプチューンマンの意図が読めない。
一方、セイウチンのことをよく知るテリー・ザ・キッドはこんな仮説を立てた。
「セ……セイウチンはオレたち
あいにくその考察は的はずれなものだった。
“ネオ・イクスパンションズ”のふたりがなにをしようとしているかなど、他チームにはわかるはずもない。
マイケルの正体が凶悪な暴獣であると仮定した上で挑むミッション……その過酷さは、リングに立つふたりだけにしかわからないのだ。
「クゥ~ン! クゥ~ン!」
セイウチンが反撃してこないのをしっかり理解しているのか、マイケルは攻撃をジャブから大振りなハンマーパンチに切り替えた。
常のセイウチンなら回避はもちろん、カウンターを入れることすら容易な攻撃だ。
しかしそれをするわけにはいかない。取れる選択肢は防御のみ。歯がゆさが身を縛る。
「ぐぅ……あ、あと1分半……なんとか耐えねば……」
素人のように丸まることしかできないセイウチンは、その言葉を口にすることである技を思い浮かべた。
「耐える……そ、そうか!」
なにかに気づいたセイウチンは、両腕を縦に構え顔の前に出した。
両脚はわずかに広げ、衝撃を大地に逃がすべく重心を落とす。
ボクシングにおけるピーカブースタイルに酷似した防御態勢だった。
『あ――っとセイウチン、ガードの構えを変更した途端、急に鉄壁とも呼べるほど堅牢になった――っ』
マイケルはセイウチンの顔面を狙うが、盾のように構えられた前腕が絶妙に邪魔をし、攻撃を防いでいる。
どっしり構えることで体が弾き飛ばされることもなく、まるでセイウチンの足がその場に根差したようだった。
「あ……あれは! ボクや父上が得意とするキン肉族秘伝のガードポジション……“肉のカーテン”だ――っ!」
万太郎が大きく反応する。
とにかく耐えなければいけない今の状況下、セイウチンが導き出した最適な防御技が、この肉のカーテンだった。
今まで万太郎の試合を多く見てきたセイウチンだからこそ実現できた、完成度の高い見様見真似。
マイケルは攻略法が見つからないのか、がむしゃらに殴り続けることしかできない。
『ここで5分経過――っ!
セイウチンは目標である5分を凌ぎ切った。
3人目の超人を解放するためのルーレットランプが、リング上で目まぐるしく回り始める
あとはこのランプがネプチューンマンの上に止まり、“ネオ・イクスパンションズ”が揃えばミッションは達成したも同然だ。
『ルーレットランプによって選ばれた3人目の超人は……』
観客の誰かが押したスイッチにより、新たなチェンバーが開かれる。
一歩、キャンバスの上を踏みしめた超人の足は――過剰とも言えるほどに黒かった。
「コーホー」
機械的な呼吸音が、セイウチンに向けて発せられる。
それは終焉を知らせる鐘の音か、セイウチンは現実を夢と疑いたくなった。
『あ――っと、リングに降り立ったのは“ヘルズ・ベアーズ”チームリーダー、“ファイティング・コンピューター”ウォーズマンだ――っ!』