ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ” 作:速筆魔王LX
『セイウチン、自慢の牙でマンモスマンのビッグ・タスクを止めたまではよかったが……なんとビッグ・タスクが突如回転、セイウチンの口周りをズタズタに破壊してしまった――っ!』
“ネオ・イクスパンションズ”vs“ヘルズ・ベアーズ”今日一番の出血が、マンモスマンのビッグ・タスク・ドリルによってセイウチンから飛び散った。
上野動物園のリングには血溜まりができ、セイウチンはそこに沈む。
マンモスマンは両腕を広げたポーズで舌なめずり。
ビッグ・タスクが吸ったセイウチンの血を「ウメーウメー」と味わい尽くす。
「な……なんてむごい……」
「こんな残虐ファイトが認められるのかよ……」
観客の多くは悲鳴を上げることすらできず、恐怖に身を縛られた。
序盤でクマちゃんかわいー!と黄色い声を上げていた女性ファンなどほとんど卒倒してしまっている。
「委員長、ヘルズ・ベアーズ……マイケルの可愛らしさ目当てで来場した観客がドン引きしていますが」
「あわわわわ……」
あまりにもむごたらしい試合展開に、ノックとハラボテが身を寄せ合って震え上がった。
衝撃を受けているのはウォーズマンだ。
ビッグ・タスクを口で止めようとして、まさかのドリル回転で反撃をもらう。
既視感のありすぎる光景に、トラウマがフラッシュバックする。これではまるで己のベア・クローで側頭部に消えない傷をつけられたラーメンマンのようだ。
「や……やりすぎだマンモス。セイウチンは未来の正義超人界を担う期待の新星。決してこんなところで再起不能の傷を負わせていい超人ではない~~っ」
マンモスマンがセイウチンに与えたダメージは、もはや致命傷の域を逸脱した即死級のものだ。
ピクリとも動かなくなってしまったセイウチンは、もしかしたらもう絶命しているかもしれない。
「なにを言っているんだウォーズマン。ネオ・イクスパンションズはオレたちの敵だ。敵はどんな手段を持ってしても叩きのめさなければならない~~っ」
愕然とするウォーズマンの反応が理解できないのか、マンモスマンは鬼気迫る形相で眼下のセイウチンを踏みつけた。
「そのためには、お上品な正義超人ファイトなんかじゃダメだ――っ!」
そこからさらに脚を上げ、勢いをつけたフットスタンプを落としにいく。
狙いは、すでに大量の血を吐き出している顔だ。
『あ――っとマンモスマン、セイウチンの顔面を踏み潰そうとする――っ!』
マンモスマンほどの巨漢が体重を乗せて頭を踏み砕けば、それは商品棚から落下したスイカのようになるだろう。
絶体絶命の窮地――そこへ、両腕を交差させ前に出したネプチューンマンが突撃する。
『ネプチューンマン、フライングクロスチョップでセイウチンを救出――っ!』
マンモスマンは衝撃でふっ飛ばされ、セイウチンの頭は砕かれずに済んだ。
だが、もはやセイウチンが重傷を負ったという事実は覆らない。
ネプチューンマンは後悔の念に苛まれながら、倒れ伏すパートナーを庇う。
「恐れていたことが起こってしまった……相手の皮膚を裂き、骨を砕く快感に酔いしれ……血の味を覚えてしまったマンモスマンは、もはや正義超人ではいられねえ」
そう言ったネプチューンマンに、わなわなと震えながら反論したのがウォーズマンである。
「バ……バカなことを言うな。確かに知性チームに在籍していた頃のマンモスマンは超人
耳障りのいい理想を口にするウォーズマン。
ネプチューンマンは首を横に振り、ウォーズマンに現実を突きつける。
「その導き方を誤ったのさ。こいつの本質は血に飢えたバトルマニア……そんなやつに正義超人らしいクリーンファイトやフェアプレー精神を押し付け、
断言するネプチューンマンに、ウォーズマンは。
「ア……ア、アア~~ッ」
自らの過ちを認め、悔いるように嘆いた。
膝からガクリと折れ、闘志を失ってしまう。
ネプチューンマンは自嘲気味に笑った。
「もっとも、そんなこいつのワルっぷりに一度は惚れ込んじまったオレが偉そうなことを言える立場じゃねえがな」
ここからは清算の時間だ。
マンモスマンの獣性を封じ込めて勝つ、あるいはウォーズマンの理想どおりの正義超人とする。
どちらも実現できなくなってしまった以上、かつてのタッグパートナーとしてはこの暴獣をここで止める必要があった。
『ネプチューンマン、瀕死のセイウチンを庇うようにマンモスマンの眼前に躍り出た――っ』
睨み合うネプチューンマンとマンモスマン。
言葉は無意味、合図も不要。
交わすのは超人として磨き上げてきた技のみ。
「ビッグブーツ!」
「ジャンピング・ニーパット!」
マンモスマンは右脚を高く掲げてのフロントキック。
ネプチューンマンはその大きな足裏に飛び膝蹴りを合わせた。
『脚対脚! これは互角か~~っ!?』
弾かれ合う両者の膝と足裏。
これで終わるまいと、今度は互いに肩を突き出した。
鏡写しのようなショルダータックルで激しくぶつかり合う。
『続いて肩対肩! ショルダー対決も引き分け~~っ』
いくらマンモスマンが巨体とはいえ、ネプチューンマンもフィジカル自慢で鳴らした超人。そう簡単に力負けはしない。
それを証明するために、自身が最も得意とする形で組みにいった。
『3度目の交錯はロックアップだ――っ!』
互いに肩を掴み頭を寄せ合う。
囁きが届く至近距離を利用し、ネプチューンマンは懺悔する。
「マンモスマン……思えばおまえにも不義理を働いた。ワルの道へと勧誘しておきながら、オレは結局、正義超人の心を捨てきれず、おまえを失望させてしまったのだからな」
前回の“究極の超人タッグ戦”終盤、ネプチューンマンはこのマンモスマンと“
セイウチンと同じく、彼もまた苦楽を共にしたタッグパートナーだったのだ。
「な……なにを言ってやがる?」
ネプチューンマンが突如ぶつけてきた慙愧の念に、しかしマンモスマンは意味がわからない。
それもそのはず、この時間軸において悪行超人の片鱗を見せていないネプチューンマンとマンモスマンの間に、そのような縁はないのだから。
「妻子も弟子も持たないおっさんのオレが……何事にも疑いを持たず、無垢にオレの言うことに従うおまえのことを……自分の子のように思っちまった。叶うことなら、今回の“究極の超人タッグ戦”ではセイウチンだけでなく……おまえとも納得のいく関係を築きたかった。だがそれは不可能なようだ……」
涙声になって感情を吐き出すネプチューンマン。
50過ぎのおっさんが突然取り乱し、死闘を演じている相手に向かって子供のようだのなんだの言い始めるのだ。
「き、気持ち悪ぃ」
マンモスマンにとっては恐怖以外のなにものでもない。
そんなマンモスマンの心情などお構いなしに、ネプチューンマンは喋り続ける。
「おまえに真剣勝負の素晴らしさを教えるのに、オレやウォーズマンでは力不足……それができるのはやはり、あの男を置いて他にない」
横目でチラリ、と客席のロビンマスクを見た。
彼とマンモスマンが同じリングに立つのは、もうしばらく後のこと。
「マンモスマン。おまえはそう遠くない未来、ロビンマスクという男との闘いに魂を燃やすのだ。だから……この場は退いてもらうぞ!」
マンモスマンの背筋に怖気が走る。
妄言ばかりを吐くジジイを黙らせようと、さらなるパワーを引き出した。
「パゴー!」
『ロックアップが解除された――っ』
ネプチューンマンは身を引き、距離を取ろうとする。
逃がすものかと長い鼻を振るうマンモスマン。
狙いは足もとだ。
『マンモスマン、長い鼻でネプチューンマンの足を払いにいく――っ』
地を這う蛇のような見事な足払い。
しかし――
『それを読んでいたネプチューンマン、ジャンプで躱した――っ』
ネプチューンマンもまた見事な跳躍で回避し、マンモスマンに飛びかかりながら左腕を振りかぶる。
「ジャンピング・
ジャンプの勢いを乗せたスペシャル喧嘩ボンバー。
元
「パ……パゴッ!」
ぐらりと揺れる巨体。
だがダウンには至らず、マンモスマンは下半身にぐっと力を込め踏みとどまる。
『あ――っと喧嘩ボンバーがヒットするも威力が足りないか! マンモスマンをダウンさせるにはいたらず~~っ!』
「クッ……」
着地しながら歯噛みするネプチューンマン。
マンモスマンはあの“世界五大厄”の猛攻をひとりで耐え切るほどのタフネスの持ち主。
やはりこの巨獣を倒すには必殺の威力を持つツープラトン――オプティカル・ファイバー・クロス・ボンバーしかないのか?
だがセイウチンはもう――
「パゴーン!」
一瞬の絶望と、それによる隙。
パワフル・ノーズが蠢く。
『ネプチューンマン自慢の左腕が長い鼻に絡め取られた――っ』
攻撃直後の隙を縫い、マンモスマンがネプチューンマンの左腕に鼻を巻き付ける。
『そのまま上空高く放り投げられる――っ!』
リング上空を舞うネプチューンマン。
追うようにマンモスマンも飛んだ。
ネプチューンマンの胴をキャッチし、技に入る。
『マンモスマン、空中でネプチューンマンをカナディアン・バックブリーカーの形に捕らえた――っ!』
背中から肩に担ぐ形で降下。
そのまま重厚な2本の足で着地すれば――
「マンモスパワー・バックブリーカ――ッ!」
通常のバックブリーカーに、パワフル・ノーズによる放り投げのパワー、そして高い位置からの落下の衝撃を加えた、マンモスマンのスペシャルホールドが完成する。
背骨が折れる不快な音が鳴り響き、ネプチューンマンが血を吐いた。
手応えあり、と拘束を解くマンモスマン。
ネプチューンマンは当然のようにダウンしてしまう。
「グウゥ~~ッ」
しかし――未だ闘志の炎は消えない。
うつ伏せの体勢から片肘を立てて身を持ち上げようとしていた。
『ネプチューンマン、根性で立ち上がろうとするが――っ!?』
ガッツを見せるロートル超人に、若いマンモスマンは顔を歪めて苛立った。
「パゴゴ――ッ!」
這いつくばるネプチューンマンを立たせまいと、頭をボールに見立てて蹴り込んだ。
『マンモスマン、その巨大な足でサッカーボールキックの雨アラレ! ネプチューンマンを蹴りまくる――っ!』
リンチにも等しい一方的な攻勢。
もはやマンモスマンに対戦相手を気遣う心、フェアプレー精神など一切ない。
あるのはただ、眼前の敵をぐしゃぐしゃにしたいという破壊衝動だけだ。
「ウ、ウウ……」
獣と化したパートナーを見て、ウォーズマンは狼狽する。
ネプチューンマンの警告は正しかった。
マンモスマンは相手を痛めつける快感に目覚めてしまい、自分はそれを止めることができなかった。
34年前、“キン肉星王位争奪サバイバルマッチ”で見せつけられた圧倒的なパワー。
それを正義超人軍の益にできればと知略を巡らせたというのに、結果はこのザマだ。
このままではセイウチンにネプチューンマンという、新世代超人と
こんなとき、己を見出してくれた師ならどうする――?
「なにを黙って見ている、ウォーズマン!」
縋るように師のことを考えていたら、若い時代の本人が声をかけてきた。
「ロ……ロビン!」
振り返ると、ロビンマスクが己を叱りつけるように怒鳴っていた。
「21世紀のおまえのことはよく知らんが……我が愛弟子であるウォーズマンは、ゆくゆくは私の後を継ぐ正義超人軍のリーダー足りうる器として育ててきた! そんな男が、たかだか素行不良の超人ひとりの教育に失敗したくらいでへこたれるな! おまえはヘルズ・ベアーズのチームリーダーとして……マンモスマンの師として、責任を果たせ!」
ロビンに怒鳴られるなどいったいいつ以来か。
懐かしい気持ちでいっぱいになり、ウォーズマンの肩が震え上がる。
「師としての責任……」
よもや34年の時を経て、再び師に教えを授けられるとは。
ネプチューンマンの言うとおり、己は慢心……いや、調子に乗っていたのかもしれない。
ケビンマスクという最高の弟子を育成できたことで、己に導けない超人はいないと……愚かにもそう錯覚してしまった。
「いくら使用年数を重ねても、あんたには敵わないな……」
過ちを認め、前を向く。
それを教えてくれた師、ロビンマスクに敬意を払う。
「わかったぜロビン! オレはこの地にマンモスマンを連れてきた者としての責任を果たす!」
決意を込めた眼差しでマンモスマンを見て――その背中に飛び蹴りを食らわせた。
『あ――っとウォーズマン、ドロップキックでパートナーであるはずのマンモスマンを強襲――っ!』
ウォーズマンの予想外の乱入。
これには叱咤したロビンマスクも驚きを見せた。
「な……なにをするウォーズマン!」
しかし一番驚いたのは背中を蹴られたこの男だ。
サッカーボールキックによるリンチをあろうことか味方に邪魔されたことで、マンモスマンは声を荒げる。
「牙を収めろ、マンモスマン! 試合はもう終わりだ!」
ウォーズマンは悪びれず、厳格にマンモスマンを制した。
「ネプチューンマンよ!」
KO寸前のライバルに呼びかけ、己が出した結論を伝える。
「ギブアップを宣言しろ!」
試合最中の――降伏勧告。
それがウォーズマンの答えである。
「おまえのパートナーのセイウチンはすぐにでも治療が必要なほどの重傷……このトーナメントを勝ち進んだとて、キン肉万太郎やテリー・ザ・キッドといったライバルたちとは満足に闘えまい!」
勝敗は決した、これ以上の闘いは無意味だ――と、説く。
ウォーズマンは心優しき超人だ。
同胞の血が不必要に流れることは良しとしない。
「時間超人の討伐もまた同様! だが、おまえたちの意志はオレたちが受け継ぐ! 今一度マンモスマンとのタッグの在り方を見つめ直し、正義超人としてケビンマスクを救ってみせる!」
使命はおまえたちの代わりにオレたちが完遂する。
それが正義超人同士がトーナメントで闘うということなのだと、強く言い聞かせるようだった。
そんな一方的な思いをぶつけられたネプチューンマンは――
「オ……オレはもう二度と“
ウォーズマンの意に背くように立ち上がってきた。
「オレは一度、最低な形でセイウチンを裏切ってしまっている……しかしその後、世界五大厄に敗れ、死の淵にいたところをカオスに救われた。そして誓ったのだ……もう二度と友は裏切らんと」
言葉の意味はよくわからないが、戦意は欠片も衰えていない。
絶対劣勢のこの状況下で、未だに勝利を諦めていないのだ。
なにが老兵を戦場に駆り立てるのか――ウォーズマンにはもうわかっていた。
「だ……だからオレは、約束を果たす! オレとセイウチンのタッグ……ネオ・イクスパンションズをイチバンにするんだ! そのためには、こんなところで負けていられねえんだよ~~~~っ!」
熱意を滾らせ、ネプチューンマンは言い放つ。
ウォーズマンは唸った。
「この凄まじき勝利への執念……正義超人としての使命感ではない。トロフィー
己は大きな誤解をしていた。
ネプチューンマンを突き動かすものは、正義超人として最も高潔な精神。
友を思いやる心。
それがわかれば、もはや残された選択肢はひとつしかない。
「いいだろう! ならばハラボテよ、ギブアップするのはオレたちだ!」
「へ?」
急に呼びかけられた大会運営委員長ハラボテ・マッスルがきょとんとする。
ウォーズマンはリングの中央に立ち、観衆全員に聞こえるよう右腕を上げて叫んだ。
「我らヘルズ・ベアーズはこの試合を放棄する! ギブア――――ップ!!」
――ギブアップ。
敗北を認め、勝負を降りる際に取る合図。
こんなに元気いっぱいに言うセリフではない――が、ウォーズマンは確かにその言葉を口にした。
ハラボテはぽかーんと口を開け、隣にいたノックを肘で小突く。
ノックもまたぽかーんとしたまま、持っていた小槌でゴングを叩いた。
カンカンカンと、試合終了を告げる音色が鳴り響く。
やや間を置き、実況も反応した。
『な……なんということだ――っ! 前代未聞! 圧倒的優位に立っていた“ヘルズ・ベアーズ”リーダー・ウォーズマンが今、高らかにギブアップを宣言! これにより、“究極の超人タッグ戦”二回戦Bブロック第1試合の勝者は“ネオ・イクスパンションズ”に決定した――っ!』