ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第051話 二度目の“シノバズ・ポンド・デスマッチ”!

“究極の超人タッグ戦”二回戦Bブロック第2試合――“ザ・ナイトメアズ”vs“世界五大厄(ファイブディザスターズ)”。

 その舞台は東京都台東区上野公園の不忍池。

 花見や祭り、デートに野鳥観察と様々な人々が様々な目的で集う人気スポットだ。

 しかし超人レスリングの歴史においては特別な意味を持つ場所でもある。

 

『上野公園の不忍池といえば、知る人ぞ知る超人格闘技の聖地。そうです、アイドル超人軍対7人の悪魔超人の対戦カードのひとつ、ロビンマスクvsアトランティスの対決が行われた地であります!』

 

 突如襲来した“7人の悪魔超人”、そのひとりである水棲超人アトランティス。

 ロビンマスクはこの地で壮絶な敗北を遂げ、池の畔にはふたりの死闘を讃える彫像が建てられている。

 

 ネプチューンマンが経験した“前回”の歴史では、ロビンマスクとの対戦が決定した時間超人たちがハラボテにこの不忍池での試合を提案した。

 今回の対戦相手は別の超人タッグになったが、すでに勝ち上がったロビンマスクへ精神的揺さぶりをかけたいのか、歴史は動かずこの地が二回戦最後の舞台となった。

 

 不忍池の中央に浮かぶ特設リングは、かつてのロビンマスクvsアトランティス――悪夢の“ウォーターデスマッチ”に酷似している。

 否、あのときよりも格段に凶悪なものとなっているのだ。

 それを説明するべく、大会運営委員長のハラボテ・マッスルがマイクを取る。

 

『この闘いは“シノバズ・ポンド・デスマッチ”で争われます! 池の中央に置かれたリングの周りより3メートル離れた水中には野生の熊を捕獲するための熊バサミが何百と沈められていて……水中に落ちたらおしまい、血の池にかわってしまうという地獄の趣向! 残虐な展開になることは必至であります!』

 

 ハラボテは観客への影響を考慮し、子供や心臓の悪い老人には退席を勧める。

 銭ゲバで知られるハラボテとしては非常に珍しい行動だったが、それも仕方がない。

 なにせこれから闘うのは残虐非道を地で行く時間超人。

 しかも対戦するのは悪魔超人の現首領格アシュラマン。

 正義超人チェック・メイトと組んでいるとはいえ、クリーンなファイトが繰り広げられるとは思い難かった。

 

「不忍池……私にとっては因縁の深い地だ。しかも池の中に大量の熊バサミとは……私がアトランティスと繰り広げた“ウォーターデスマッチ”より、何倍も過酷な試合となるだろう」

 

 客席では“ジ・アドレナリンズ”のロビンマスクが、複雑な心境で不忍池に浮かぶ蓮を見つめていた。

 

「ウォーターデスマッチについては、21世紀でパパに聞いたことがある。そのときロビンマスクが相手をしたアトランティスは露骨に水中が得意な水棲超人だったが、チェック・メイトもアシュラマンも時間超人もそういうわけじゃない……誰かが池の中に落ちたら一巻の終わりだぜ」

 

 相棒のテリー・ザ・キッドもこのデスマッチの凶悪性を察知したようだ。

 ハラボテの忠告どおり残虐展開は避けられないだろうというのが、アドレナリンズの見解だった。

 

「しかしまさか、ネプチューンマンの言っていた夢の出来事みたいなデスマッチが行われるなんてな」

「うむ。対戦チームこそ違ったが、やつには予知夢を見る力でもあるのかもしれんな」

 

 数日前、喧嘩男(ケンカマン)として現れいきなり夢の話をしていたやつのことを噂する。

 噂とは風に運ばれ本人の耳に届くもの。

 しかし今回は風に運ばれるまでもなく、当人がすぐ後ろで聞いていた。

 

「勝手に人の噂話をしてるんじゃねえ」

 

 アドレナリンズのふたりは振り向き、その姿を見て驚く。

 

「ネ……ネプチューンマン!」

 

 ネプチューンマンは全身各所に包帯を巻いた姿で登場した。

 足取りは重く、立ち姿勢にもどこか危なっかしさを感じる。

 

「あ……あんた、こんなところでなにをやっているんだ! あんたは先のヘルズ・ベアーズ戦で重傷を負った身……なのに見たところ、応急処置的な最低限の治療しか受けてねえじゃねえか!」

 

 キッドが歩み寄るが、ネプチューンマンは若者の気遣いなど無用とばかりに乱暴に彼を突き飛ばす。

 

「病院で寝てなどいられるか。この一戦だけは……オレはこの目で見届けなきゃならねえ。そうせねばならぬ義務がある~~っ」

 

 その鬼気迫る様子に、尋常ならざる覚悟を感じ取ったキッド。

 ロビンもまた同じく、だからこそ気遣いなど見せず問うべきことを問うた。

 

「ウォーズマンはどうした?」

「やつは病院で素直に治療を受けているさ」

 

 彼の新パートナーとなったウォーズマンは観戦には来ていないようだ。

 

「そうか……ならばみなまで言わん。放っておけキッド」

「ロ、ロビン……」

 

 ネプチューンマンと付き合いの長いロビンマスクがそう言うならば、もはやキッドに口を挟む余地はない。

 そうこうしている間に、試合開始の準備が整ったようだ。

 

『それでは只今より、“究極の超人タッグ戦”第ニ回戦Bブロック第2試合を開催いたします――っ!』

 

 リングアナがマイクを手に言い、入場ゲートを指し示す。

 

『まずはブルーゲートより、“ザ・ナイトメアズ”入場です!』

 

 一対の金剛力士像に挟まれた入場口から、なにかが出てくる。

 

『さあ……おどろおどろしい曲に乗って、今ブルーゲートより人影が見えてきた――っ』

 

 池の上に設置された入場ゲートは当然水面。

 となれば当然、その超人は舟に乗っていた。

 

『現れたのは一艘の和舟……そこに乗っているのは、黒尽くめのマントを被った怪しげな二人組だ――っ! 見るからに悪の化身とでもいうべき入場ですが、このふたりはアシュラマンとチェック・メイトなのか――っ!?』

 

 遠目からはマントの中の姿が見えない。

 だが舟がリングに近づくと、二人組は身につけるマントに手をかけた。

 

『あ――っと今、マントが取り払われた! 特徴的な六本腕に3つの顔は、やはりアシュラマン! そして両肩にチェスの駒を乗せた端麗な容姿の青年は、間違いなくチェック・メイトであります!』

 

 悪魔超人アシュラマンと、新世代超人(ニュージェネレーション)チェック・メイト。

 ふたり揃って“ザ・ナイトメアズ”の登場である。

 

『さあ~~~~っ、急遽行われたスペシャルリザーブマッチであの“ビッグ・ボンバーズ”をくだし、見事リザーバーとして抜擢されたザ・ナイトメアズのふたり! 本格参戦の時を今か今かと待ち構えていましたが、ニ回戦のシード枠だった“カーペット・ボミングス”が謎の失踪を遂げたことでさっそく出番が回ってきました! はたして本戦ではどのようなコンビプレーを見せてくれるのか――っ!?』

 

 アシュラマンもチェック・メイトも歓声にファンサービスを送るような真似はせず、どっしりと構えている。

 その様子を見て、客席のキン肉万太郎は複雑な表情を浮かべた。

 

「なんだいなんだい、チェック・メイトったらワルぶっちゃって……まさかあいつ、アシュラマンの影響を受けて悪魔超人に逆戻りしてんじゃないだろうな~~っ」

 

 友達が悪いオトナに影響を受けてしまったら心配もするというもの。

 そのオトナがあの極悪非道の権化たる再生・アシュラマンの若い頃の姿だというならなおさら心配は募る。

 しかし傍らのアレキサンドリア・ミートくんは万太郎を安心させるように言う。

 

「それは心配ないと思いますよ、万太郎さん。21世紀ミートの記憶によれば、チェック・メイトはあなたたち新世代超人の中でも随一の紳士的な超人。超人オリンピック・ザ・レザレクションでは最終予選の“二人三脚でZEIZEI!”まで残るものの、パートナーであった人間の安全性を優先したため棄権……“悪魔の種子(デーモンシード)”との闘いでは、性根の腐った悪魔にしか通れないというジェネラル・パラストのゲートバリヤーに、元悪魔超人でありながら門前払いをされたほど。正義の心は筋金入りでしょう」

 

 スカーフェイスやバッファローマンがいい例だが、元悪行超人というものは正義超人に転向しようとも元々使っていた残虐殺法が抜けきれないもの。

 だがミートの言うとおり、正義超人になってからのチェック・メイトは真の意味で品行方正。

 万太郎やキッドたちとつるんで夜遊びすることはあれど、真面目を絵に描いたような正義の超人だった。

 

『続いてレッドゲートより、“世界五大厄”の入場です――っ!』

 

 リングアナがナイトメアズとは逆方向の入場ゲートを指し示す。

 そこからも一艘の和舟が――“世界五大厄”を乗せた舟が登場した。

 

『出てきてしまった――っ、地震・雷・台風などのあらゆる災害よりも恐ろしいとされる災害コンビが! ロビンマスクの息子と囁かれる超人、ケビンマスクが眠るX形クリアベッドを持ち込んでの入場です!』

 

 サンダーが担ぐケビンマスクは相変わらず消滅の危機に瀕していた。

 確認できるのは上半身のみ、それも両腕はすでに消えている。

 もし不忍池の中に落ちるようなことがあれば、ただでは済まないだろう。

 

『今大会の前身となった“夢の超人タッグ戦”決着直後、トーナメント・マウンテンの頂上でトロフィーに手をかけたザ・マシンガンズのもとに突如襲来、正義超人軍を相手に大立ち回りを見せ……最終的にはロビンマスクの妻であるアリサさんに大怪我を負わせた極悪コンビ! トーナメント開始前に行われた間引きバトルロイヤルでは21世紀から来た精鋭イリューヒン&バリアフリーマンを葬るという悪行を重ねております! 2対2のタッグ戦を見せるのはこの試合が初……いったいどんなコンビネーションが繰り出されるのか――っ』

 

 不忍池にはブーイングの嵐が舞う。

 空き缶やサンダル、植木鉢に生卵に漫画本など、モラルのない観客たちから次々に物が投げ込まれる。

 時間超人のふたり、ライトニングとサンダーはそんなものものともせず涼しい顔だ。

 

『今、ライトニング&サンダーの乗った舟がリング脇に到着――っ』

 

 舟からリングに上がろうとする“世界五大厄”。

 

「おっと、ケビンの観戦席を用意しなくっちゃな!」

 

 しかしその前に、サンダーがX形クリアベッドをリング上空へ投げ入れた。

 そしてライトニングと構えを揃え、手から光線のようなものを放つ。

 

「ジョワ――ッ」

「ヌワ~~ッ」

 

 光線は上空に舞ったケビンマスクを操作し、リング上に設置されたフックに引っ掛けた。

 

『なんと~~っ! ケビンマスクの消えゆく肉体の入ったクリアベッドが、“シノバズ・ポンド・デスマッチ”リング上の鉄骨の梁から一本のロープで吊り下げられた――っ』

 

 時間超人のまさかの行動に、池の向こう側にいたロビンマスクが強く反応する。

 

「ケ……ケビ~~ン!」

 

 ネプチューンマンが見た予知夢のような状況が現実となり、酷く狼狽するロビンマスク。

 別の箇所ではミートくんが冷や汗を流していた。

 

「あ……あ、ああ~~っ!」

 

 正義超人界の頭脳といわれた彼だからこそ、その仕掛けの凶悪さにいち早く気づく。

 

「ケビンの入ったクリアベッドを吊り下げるロープは一本のロープに見えますが実は二本のロープを複雑に結びつけてある(トラップ)のロープ……だから衝撃によってそのロープの結び目がほどければクリアベッドは池に転落してしまう――っ!」

 

 これでは高さを活かした技のことごとくが制限されてしまう。

 いや、技の発動自体は可能だろうが、それによってケビンマスクが池に水没してしまうことは必至。

 かつてアトランティスによって水の底に沈められたミートくんのボディパーツのように……そしてそれを防ごうとしては、やはりアトランティス戦のロビンマスクの二の舞いになるだろう。

 

「あなたたち、なんという非道な真似を~~っ」

 

 先にリングインしていたチェック・メイトが、たった今リングインしてきた時間超人ふたりを睨みつける。

 ライトニングとサンダーはもちろん悪びれたりもせず、愉快そうに笑った。

 

「ジョワジョワ……チェック・メイトよ。おまえもお友達がすぐそばで観戦してくれていれば気合が入るだろう?」

「ヌワヌワ……そうだ、そのとおり。それともまさか、お友達の前で無様にやられる姿は晒したくないか? ならば拒否してもいいが」

 

 自分たちでやっておきながら、逃げ道を提示する“世界五大厄”。

 この10万人にも及ぶ観衆の中、そんなプライドを捨て去るような真似はできまい――とふたりは嘲笑う。

 

 チェック・メイトはぐぬぬっ、と悔しそうな表情を作る――が。

 隣に立つこの男は無表情だった。

 

「アシュラマン」

 

 ずいっと前に出る魔界の王子(プリンス)

 真上に吊られたケビンマスクを見て、口を開く。

 

「私たち“ザ・ナイトメアズ”の答えは……こうだ――っ」

 

 アシュラマンがクリアベッドに向かって六本の腕を振るった。

 

「竜巻地獄――っ!」

 

 他の超人よりも本数の多い腕を一気に振るうことで大気を揺るがし、風を巻き上げる。

 そうやって生じた竜巻が、リング上のケビンマスクを包みこんだ。

 

『あ――っとアシュラマンの六本の腕が起こした竜巻がケビンマスクの入ったクリアベッドを捉え、ロープの結び目をほどいてしまった――っ!』

 

 ぎょっとする一同。

 だがクリアベッドはそのまま不忍池に落下……とはいかず、空を舞った。

 

『そ……そしてなんと! ケビンマスク入りのクリアベッドが竜巻に乗ってどこかへと運ばれていく――っ』

 

 ケビンのクリアベッドはどこへ向かうのか。

 多くの人々がその行方を目で追い、やがてクリアベッドは池の畔までやってきた。

 

「ケビン!」

 

 力強くその名を呼んだのは、ケビンマスクと瓜二つの容姿……というか仮面を被るロビンマスク。

 竜巻はロビンの呼びかけに応えるかのように消え、クリアベッドを彼の目の前へと落とす。

 

「ケビンマスクのクリアベッドが……」

「ロビンマスクの前に!」

 

 ロビンの両端にいたキッドとネプチューンマンが驚きをあらわにする。

 

『こ……これはどういうことか――っ!? ケビンマスクが眠るクリアベッドの行先は池の畔、観客席で観戦していたロビンマスクの目の前だ――っ』

 

 アシュラマンの放った“竜巻地獄”が、よもや囚われの息子を父親のもとに送り返すとは。

 悪魔の慈悲とも言うべき再会に、ロビンは喜びを噛みしめる。

 一方、リング上ではサンダーが怒りの形相でアシュラマンを睨みつけていた。

 

「てめ~~っ、アシュラマン。オレたちの提案するデスマッチを拒否するって言うのか~~っ?」

 

 プライドの高い魔界の王子がケビンマスクを救出するとは思ってもみなかったらしく、傍らのライトニング共々憤慨の意を示す。

 先の“宇宙超人タッグ・トーナメント”決勝でその兆候はあったというが、やはりアシュラマンが正義に目覚めたという噂は本当だったのだろうか――?

 そういった期待を持つ正義超人ファンも多くいたが、アシュラマンは大げさに肩を竦めてとぼけてみせた。

 

「んん~~っ? “シノバズ・ポンド・デスマッチ”ならもちろんやってやるぞ? 時間超人とやらが熊バサミに捕らわれた際の悲鳴はぜひとも聞いてみたいしな。しかし、それとこれとは別問題。冷静に考えて、リングの真上にあんなバカでかいものが置かれていては邪魔ではないか」

 

 正論を吐くアシュラマン。

 時間超人の非道な行いを咎めるでもなく、ケビンマスクが可愛そうと綺麗事を言うでもなく――ただ、邪魔だと。アシュラマンはそう言ってのける。

 彼は決してケビンマスクを助けたのではない。

 試合の邪魔になる障害物を撤去しただけである。

 

「そもそもチェック・メイトのお友達だかなんだか知らんが、ロビンマスクの息子がすぐそばで観戦するからなんだというのだ? 我々にどんな利点がある? よもや本当にやる気が漲ってきていつも以上の力が発揮できるとでも? リングに試合と無関係のものを持ち込むなら、そのあたりを懇切丁寧に説明してもらいたいものだな~~っ」

 

 あの悪衆・時間超人を相手に挑発的な言動を取るアシュラマン。

 まさに悪魔超人ならではの小憎たらしい所業。とても正義超人には真似できない。

 

「ジョワ~~ッ、こいつオレたちをおちょくりやがって」

「ヌワ~~ッ、人を小馬鹿にするような態度が気に入らねえ」

 

 ライトニングとサンダーは上手い反論ができず、不快感を募らせる。

 正義超人だったらバカ正直に乗ってきたであろうデスマッチの提案は、しかし悪魔には通じなかった。

 闘う前から敗北感を与えることに成功し、アシュラマンは精神的優位に立つ。

 

『さあ~~っ、リング上では早くも壮絶な舌戦が繰り広げられております! 一触即発、気合十分! あとはゴングが鳴らされるのを待つばかりだ――っ』

 

 まったく盛り上げてくれる――と、リングを遠巻きに眺めるネプチューンマンは思った。

 ケビンマスクが眠るクリアベッドを手で擦りながら、彼とアシュラマンの因縁を振り返る。

 

「21世紀の未来の話だが……アシュラマンはケビンマスクにとって、ほんの少し前に死闘を演じた相手。そんな男に窮地を救われるとはな」

 

 ネプチューンマン同様、未来の出来事を知るテリー・ザ・キッドも深く頷いた。

 

「21世紀のアシュラマンは怨念めいていてただひたすらに恐ろしかったが……20世紀のアシュラマンはなかなか粋なことをしてくれるぜ」

 

 この男なら、相手が時間超人とはいえなにかやってくれるかもしれない。

 

「ケビン……」

 

 ネプチューンマンとキッドがリング上に期待の眼差しを注ぐ中、ロビンマスクはひとり静かにX形クリアベッドに触れる。

 上半身のみという痛々しい姿で眠る未来の息子ケビンマスクに、返事が望めないことを承知で声をかけた。

 

「おまえのマミー……アリサは小康状態を保っている。すべては一回戦のとき、おまえが我が身を犠牲にして血液を提供してくれたおかげだ。本当にありがとう……」

 

 硬く冷たいクリアベッドを抱きしめながら、ロビンマスクは最愛の息子に語り続ける。

 

「ケビン。おまえやアリサが死という魔物と闘っているように、我ら正義超人も悪党と闘っているんだ。いいや、正義超人だけではない……今リング上では、おまえの友達であるチェック・メイトと、いずれおまえと因縁ができるらしい悪魔超人アシュラマンが、すべての元凶である時間超人を成敗しようとしている。どうか、私と共に見守っていてくれ」

 

 ここでチェック・メイトとアシュラマンが時間超人を倒してくれれば、すべては丸く収まる。

 クリアベッドから解放されたケビンをこの手で抱く夢は、もしかしたら数時間後には叶うかもしれない。

 そんなふうに思いを馳せるロビンマスクは、息子の顔を見るうちにハッとした。

 

「ケビン……おまえの仮面に付いている、これは……」

 

 ケビンマスクが被る仮面は、おそらく未来の己が息子のために作り上げる特製のマスクだろう。

 その耳元あたりに付いている、葉っぱの形をしたピアス……なんてことはない小洒落たアクセサリーが、ロビンにある気づきをもたらした。

 

「ア……アリサのオペを担当してくれたドクターは、ケビンの血液を“血中酸素がふんだんな血液”と称していた。未来に生まれてくる我が息子……未来の私が作るだろうマスク……不忍池……アトランティス……あ、あああ~~っ! そ、そうか――っ!」

 

 なんらかの確信を得たロビンマスクだったが、今はまだ行動を起こすわけにはいかない。

 共に見守ってくれと言った手前、目の前の試合を決着まで見届ける義務がある。

 そうこうしている内に、定刻となった。

 

『ではあらためて……“シノバズ・ポンド・デスマッチ”の開始じゃ!』

 

 ハラボテが勢いよくゴングを叩き、カーンという快音が鳴り響く。

 

『あ――っと今、上野公園で行われるBブロック第2試合のゴングが高らかに鳴らされた――っ!』

 

 二回戦最終試合開始。

 正義・悪魔連合軍“ザ・ナイトメアズ”と、時間超人コンビ“世界五大厄”。

 はたしてシノバズ・ポンドに沈むのはどちらのチームか――?

 

「先発はわたしが」

 

 ザ・ナイトメアズの先鋒にはチェック・メイトが名乗りを上げた。

 だがしかし、すぐにアシュラマンが3本の腕で前に出ようとしたパートナーを制する。

 

「いいや、私が行かせてもらう」

 

 アシュラマンの瞳は熱く煮えたぎるマグマのような色をしていた。

 その眼光が射抜く先は、もちろん“世界五大厄”。

 悪魔超人眼中になしと正義超人殲滅を声高にする愚かな新参者ふたり……やつらを惨めに這いつくばらせたくてたまらないのだ。

 

「チェック・メイトよ。サンシャインの弟子であるおまえに見せてやろう……魔界の王子(プリンス)と恐れられた私の、全盛期バリバリ悪魔超人流ファイトを――っ」

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