ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第052話 複雑怪奇なる六本腕戦法!

“究極の超人タッグ戦”二回戦Bブロック第2試合――“ザ・ナイトメアズ”vs“世界五大厄(ファイブディザスターズ)”開戦。

 リング上に立つのは、六本の腕に3つの顔を持った悪魔超人。そして獅子の仮面を被った巨漢の時間超人だ。

 

『さあ~~っ、“ザ・ナイトメアズの先発はアシュラマン。対して“世界五大厄(ファイブディザスターズ)”はサンダーが出るようだ――っ』

 

 まずはアシュラマン対サンダー。

 アシュラマンが取るのは、右3本、左3本の腕を前に突き出す構え。

 対して、サンダーは大きく動くことなくじりじりとアシュラマンに近づこうとする。

 

『アシュラマン、その六本腕を活かして相手を牽制します。サンダー、これは距離が詰めづらそうだ』

 

 迂闊に攻めれば6本もある腕のどれかから攻撃をくらうことは必至。

 それがわかっているからこそ、サンダーは仕掛けるタイミングに迷っている。

 そんな対戦相手の思考を嘲笑うがごとく、アシュラマンは6本の腕のどれでもなく、右足を繰り出した。

 

『お――っとこれは鋭いロー! アシュラマン、サンダーが躊躇する隙を突きローキックのラッシュを叩き込む――っ』

 

 6本の腕ではなく、どの超人にも備わった“脚”による攻撃。

 サンダーの下半身にビリビリとした衝撃が伝わっていく。

 

「ヌゥ~~ッ」

 

『サンダー、これはたまらないとばかりに逃げた――っ』

 

 逃げるサンダーを見て、アシュラマンは愉快げに笑う。

 

「カーッカッカッカ。私と初めて相対した下等超人は皆一様にこの六本腕を恐れそちらにばかり警戒がいく。結果、足もとがおろそかになり狙い放題となるわけだ。どうやら時間超人もその例に漏れないようだな――っ」

 

 挑発を受け、サンダーの顔が怒りに歪んだ。

 

「テメー、オレが下等超人だと~~っ」

 

 狙いどおりのリアクションに、アシュラマンは威勢を良くする。

 

「ド下等超人と訂正したほうがいいかな!?」

 

 足もとの警戒も怠れないぞとアピールしておいてからの、六本腕。

 開いた掌がサンダーの顔とボディ、前面を広く打つ。

 

『アシュラマン、今度はサンダーの顔面を狙って掌底の嵐だ――っ!』

 

 大きく突き飛ばされるサンダー。

 その巨躯はロープまで下がり、ぐいーんと跳ね返ってくる。

 

「ヌワッ!」

 

『サンダー、ロープの反動を使いラリアットを仕掛けにいく――っ』

 

 パワーファイターであるサンダーが放つラリアット。

 この“究極の超人タッグ戦”で猛威を振るったネプチューンマンやキン肉マンのそれと遜色ない破壊力を持つ。

 

「パワーならオレのほうが上だ――っ!」

 

 そんな強力なラリアットが迫ろうとしているのに、アシュラマンは不遜な態度で笑みを崩さない。

 

「それはパワー以外はあなたのほうが上ですという意味か――っ?」

 

 サンダーのラリアットは右。

 ならばこちらも右だ。

 ただし――こちらの右は3本ある。

 

『あ――っとアシュラマン、右側の三本の腕をひとつに束ねた――っ』

 

 上段、中段、下段の3本の右腕が捻じれ、糸を編むように一体となる。

 極太の一本腕と化したそれは、巨漢超人のサンダーの右腕よりもデカい。

 

波羅蜜多(はらみった)ラリアット――ッ!」

 

 正面からラリアットを打ち付け合うアシュラマンとサンダー。

 相打ちはありえない。破壊力に勝るほうが相手をぶっ飛ばす。

 勝ったのは――

 

『ラリアット対決を制したのはアシュラマンだ――っ!』

 

 アシュラマンの振るった豪腕がサンダーの首を打ち、巨体に尻もちをつかせる。

 ほんの小手調べ、意識を刈り取るまではいかなかったが、サンダーは苦虫を噛み潰すような表情を見せた。

 

「や……やりづれえ」

 

 これが6本の腕を持つ超人、アシュラマンか――と、サンダーは対戦相手を憎らしく思う。

 その後ろ、エプロンに控えているライトニングはまるで暇な見物客のように笑った。

 

「ジョワジョワ……腕が六本もある超人との対戦などなかなかないからな。しかしサンダーよ、さっきの“パワーならオレのほうが上だ”は少々小物くさかったぞ」

「ヌワ~ッ、あまりイジってくれるな兄弟。ついついあいつのマイクに乗せられちまった」

 

 パートナーの軽口に、サンダーは腹を立てたりはしない。

 まだまだ余裕があるからこそ、一切ダメージを感じさせない挙措で立ち上がった。

 

「アシュラマンよ、これはどう捌く――っ!」

 

 身を低くした体勢で走り出す。

 狙いはアシュラマンの足もとだ。

 

『サンダー、低空タックルで崩しにかかる――っ』

 

 テイクダウンからのグラウンド展開が見え透いている。

 アシュラマンは鼻で笑った。

 

「どう捌くもなにも……」

 

 熟練の格闘超人らしくドンと構え、ただタイミングを合わせる。

 

「膝で迎撃し!」

 

 向かってきたサンダーの顔面にニーキックを叩き込んだ。

 それだけでサンダーのタックルは停止し、反撃の隙が生まれる。

 

「上から潰してしまえば!」

 

 身を低くしていたサンダーに上から覆いかぶさり、脇で抱え込むように首を捕獲。

 そのまま後方に体重移動し、サンダーを豪快に反り投げる。

 

『アシュラマン、突っ込んできたサンダーをフロント・ネックチャンスリーで投げた――っ』

 

 サンダーの巨体が宙を舞う。

 今の体勢からならキャンバスに脳天を突き刺すのが効果的だったが、この特殊ルールではさらに効果的な戦術が存在する。

 狙いはシノバズ・ポンドへの落下。

 熊バサミが仕込まれた水中にサンダーの身を落とすことだ。

 

「ヌワ――ッ」

 

 リングから飛び出したサンダーだったが、土壇場でロープを掴む。

 強靭なワイヤーが仕込まれたロープはサンダーの落下を阻止し、その身を弓矢のように弾き飛ばした。

 

『あわや場外かと思われましたが、サンダー落ちない! ロープを使いリングに舞い戻る――っ』

 

 サンダーによる逆襲の超人砲弾。

 並の超人なら油断しているところだろうが、百戦錬磨のアシュラマンはそれすら予想していた。

 軽い跳躍とともに回転し、飛び後ろ回し蹴りを放つ。

 

「トア――ッ」

 

『アシュラマン、舞い戻ってきたサンダーを今度はローリング・ソバットで迎撃!』

 

 アシュラマンの足裏がサンダーの顔面を穿ち、超人砲弾を叩き落とした。

 さすがのサンダーも顔面への直撃は効いたか、キャンバスに倒れる。

 

「ググ~~ッ」

 

 うつ伏せになり、すぐには起き上がれない。

 だがアシュラマンの追撃を防ぐためにはじっとしているわけにはいかなかった。

 

『サンダー、這いつくばりながら距離を取ろうとする――っ』

 

 2本の足で立つアシュラマンと、両手両足で体を支えるサンダー。

 有利不利の明確な構図が生まれ、有利側のアシュラマンはまた笑う。

 

「カカカ。スタンディングよりグラウンドがお好みか?」

 

 アシュラマンの特徴的な六本腕はなにも打撃専用というわけではない。

 相手が立ち上がらないというなら好都合、ギャラリーにその意味を教えるときだ。

 

「ならば付き合ってやるぜ――っ!」

 

 うつ伏せのサンダーに被さり、まずは上段の両腕でクロス・フェイスロック。

 右中段と右下段の腕で、相手の右腕をアームロック。

 左中段と左下段の腕で、相手の両脚を交差させた逆エビ固め。

 最後に両脚で相手の左腕を挟み込む。

 

「阿修羅金剛絡み――っ!」

 

『アシュラマンの6本の腕と2本の脚を駆使した拷問的サブミッションが炸裂~~っ!』

 

 6本の腕で相手の全身各所を隈なく固める、アシュラマンならではの関節技。

 2本の腕しか持たないサンダーでは、抗うすべはない。

 

「ヌ……ヌワワ~~ッ!」

 

『サンダー、終始劣勢! このままアシュラマンのストレート勝ち濃厚か――っ!?』

 

 時間超人の関節がバキボキと悲鳴を上げる。

 完全に固められてしまったサンダーに、観客たちはリザーブマッチのときのようなスピード決着を想像した。

 一方、その見事な関節技に恐怖の声を上げる姿もある。

 

「ウ……ウウ~~ッ」

 

 不忍池の畔から試合を観戦する、キン肉万太郎だ。

 万太郎は傍らのミートが心配するほど青ざめていた。

 

「大丈夫ですか万太郎さん? ずいぶん顔が青いようですけど……」

 

 昨日の“2000万パワーズ”戦のダメージが抜けていないのだろうか、とミートは思う。

 残念ながらそれは不正解。

 万太郎の顔が真っ青になっているのは、肉体ではなく精神的な不調によるものだった。

 

「だ……大丈夫なもんか。あの六本腕を活かした独特すぎるファイトを見ていると、今にもあのときの……“悪魔の種子(デーモンシード)”とのミートのボディパーツ争奪戦最終戦で再生(リボーン)・アシュラマンと闘ったときの悪夢が蘇ってくる。あ……悪行超人との試合は数多くこなしてきたけど、ボクの思い出の中ではあの試合がダントツで恐ろしい……」

 

 万太郎は21世紀の未来で復活した再生・アシュラマンと死闘を繰り広げたばかり。

 d.M.p(デーモンプラント)の精鋭ナイトメアズとの対決、H・F(ヘラクスレス・ファクトリー)一期生二期生入れ替え戦、火事場のクソ力修練(チャレンジ)、超人オリンピック・ザ・レザレクション――死闘と呼べる闘いは数あれど、恐怖を与えられたという意味ではアシュラマン戦に匹敵するものはない。

 

「あのアシュラマンは21世紀でボクが闘った再生・アシュラマンとは別人だってわかってはいるけど……正直、ザ・ナイトメアズが準決勝に勝ち進んだとしても、アシュラマンとだけは当たりたくないよ」

 

 それだけ万太郎のアシュラマンに対する苦手意識は強かった。

 一方、彼のパートナーであるカオス・アヴェニールは神妙な顔つきをしていた。

 

「カオスはどうしたんですか?」

 

 ミートが訊くと、カオスが口を開く。

 その目はリング上のアシュラマンとサンダーではなく、エプロンサイドのライトニングを見ていた。

 

「いや……いくらなんでもライトニングが余裕を見せすぎている気がして。さっきからサンダーはアシュラマンに手も足も出ていないっていうのに、技のカットに入る気配もタッチで交代する気配もない……」

 

 これはタッグマッチ。

 パートナーが関節技で破壊されようとしている今の状況下、控えのライトニングが傍観しているのはおかしい。

 

「確かに……時間超人にはなにか秘策があるのかもしれません」

 

 ミートは言い、不忍池に浮くリングに注目する。

 タイミングよく、ライトニングが動きを見せた。

 

「おいサンダー、そろそろいいんじゃねえか?」

「ヌワヌワ、そうだな兄弟」

 

 拘束されているパートナーを助けにいったりはせず、ただ声を掛ける。

 助けなど最初から必要としていない――このサンダーという超人には阿修羅金剛絡みに抗うすべがあった。

 

「リオン・クリニエール!」

 

『なんだ~~っ!? サンダーの顔の周りの鬣が丸ノコギリのように回転したぞ――っ!?』

 

 サンダーは雄ライオンのような仮面をつける超人。

 その雄々しき鬣の意匠は、高速回転することにより切れ味鋭い凶器となる。

 フェイスロックなど極めていては腕がズタズタに裂かれる――が、アシュラマンはすでに腕を離していた。

 

『しかしアシュラマン、それを事前に察知したのかいち早く技を解除。腕を裂かれあわや大怪我というところでしたが、出血を見るに軽傷で済んだようです』

 

 実況が言うとおり、アシュラマンのダメージはわずかな出血のみ。

 関節技から逃れたサンダーは立ち上がり、同じく立ち上がったアシュラマンと睨み合う。

 

「ヌワヌワヌワ……よく技を解いたなあ。オレの鬣が回転することをあらかじめ知っていたように思える」

「ある情報筋があってな。おまえたちふたりの闘い方は試合前にインプット済みだ」

「ネプチューンマン・テキストとかいうやつか? さて、中身はどこまで信憑性があるかな?」

 

 サンダーの言葉に、アシュラマンは眼光を鋭くした。

 エプロンサイドのライトニングが怪しげに笑う。

 

「ジョワジョワ……あのジジイがなんらかの方法でオレたちのデータを手に入れ、おまえに横流ししていることは知っている。その狙いはおまえたちにオレたちを始末させることだろう……魔界の王子(プリンス)なんて大層な肩書きを持っている男が、ロートルの使い走りをさせられているとはな。惨めなものだぜ」

 

 二回戦が始まる前、ネプチューンマンがアシュラマンたちに提供した“ネプチューンマン・テキスト”。

“世界五大厄”の得意技や保有能力、独自の戦法などはすでに頭にインプットされており、大いに役立っている。

 そのときのやり取りはどういうわけか本人たちに露見してしまっているらしい。

 

 だが慌てることはない。

 もちろん見え見えの挑発に乗ってやる必要もなく、アシュラマンは余裕を見せつけるため歯を覗かせた。

 

「カーッカッカッカ。なんだ、どこかで出歯亀でもしていたか? バレているなら話が早い。おまえたちは早急に新技でも開発し、私たちに抗ってみせることだ。でなければ楽勝すぎて張り合いがない」

 

 手の内がバレているから、対抗されないよう新技で攻める――超人格闘技の世界ではそれを付け焼き刃という。

 現実的には不可能な対策を提示し、アシュラマンは“世界五大厄”の出方を窺った。

 ライトニングとサンダーは、

 

「ジョワジョワジョワ」

「ヌワヌワヌワ」

 

 笑う。

 ただ不気味に笑う。

 

「グ……ググウ~~~~ッ」

 

 気分が悪そうに唸ったのは、池の畔にいるネプチューンマンである。

 万太郎と同じく顔は青ざめ、じっとりとした汗が吹き出ていた。

 

「どうしたんだネプチューンマン。すごい汗だが……」

 

 ライバルの尋常ならざる様子に、ロビンマスクが戸惑いを見せる。

 だがネプチューンマン自身、その質問への答えは持ち合わせていない。

 

「じ……自分でもわからん。しかしライトニングとサンダーのあの余裕たっぷりな姿を見ていると……猛烈に嫌な予感が押し寄せてくるのだ。なにか……なにか重大なことを見落としているのではないかと」

 

 この予感の正体は、いったいなんなのか。

 ネプチューンマンの疑問は、すぐに最悪の形で氷解することとなる。

 

「ヌワヌワ――ッ。ではショウの開幕だ――っ」

 

 リング上のサンダーが左腕を掲げる。

 なんの変哲もない巨漢超人の左腕、その肘から先が、グニャ~と変形していく。

 形を変えたその姿は――

 

「“伝説”破壊鐘(はかいしょう)~~~~っ!」

 

『あ――っと、サンダーの左腕が吊り鐘の形に変化した――っ』

 

 L字型の木枠に吊られた鐘。

 おおよそ超人レスリングの試合で出すものとは思えないアイテムだった。

 

「はあ? なんだそれは」

 

 場違いなものを見せつけられ、アシュラマンが怪訝な顔をする。

 一方で、さっきまで滝のような汗を流していたこの男――ネプチューンマンは不透明だった不安の正体を掴み取り、大声で叫んだ。

 

「あ……ああ~~っ! そ、それはいけない~~~~っ!」

 

“伝説”破壊鐘。

 それは時間超人の手札の中でも最凶最悪の能力だった。

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