ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ” 作:速筆魔王LX
『“伝説”
“伝説”破壊鐘が破壊され、サンダーの左手には鐘を吊り下げていたL字型の木枠だけが残る。
当人は未だポーン駒に変身したまま、移動も一歩しかできず絶体絶命の窮地に陥った。
「サンダー、左肩のボタンを押せ!」
相棒のライトニングが助け舟を出す。
先ほどのチェック・メイトの変身を見て、チェス・
サンダー自身もそれに気づいた。が、遅い。もう少し気づくのが早ければ……と悔しさをにじませながら右手を左肩に伸ばした。
「グウウ~~ッ、チェス・駒・チェンジ!」
いつの間にかそこにあったスイッチを押すと、左肩にあった自身の頭と、首の位置にあったポーンの鉄兜がそれぞれ体内に引っ込んだ。
『サンダーの変身が解ける――っ』
頭部の位置が元通りになり、サンダーの身にまとわりついていた鎧も消え失せる。
下半身もチェス駒の土台から2本の脚に戻った。
「クッ……元凶はこいつか!」
サンダーは左肩にくっついていたポーンの駒を引っ剥がし、不忍池に投げ捨てる。
そうこうしている隙に、悪馬式誉れ落としを決め着地したアシュラマンが追撃に入る。
「一念三千手刀――っ!」
ただし先端の刃は3枚。それで狙うは、“伝説”破壊鐘があったサンダーの左手だ。
『アシュラマン、すかさず3本の腕を束ねた三連手刀でサンダーの左手に残った鐘の木枠を切断!』
あのL字型の木枠も凶器となりうる。相手の武器は徹底的に破壊するのがアシュラマン流だった。
「ヌワワ~~ッ」
『サンダーの左手が元の形に戻っていく――っ』
破壊された破壊鐘、切断された木枠は元の人体には影響を及ばさないのか、サンダーの左手は元のとおりだ。
しかし次なるインチキアイテムが出てこないのであれば重畳。アシュラマンはほっと息をつく。
「フゥー。ようやく耳障りな音が消え去ったわ。1から10まで信用していたわけではなかったが、やはりネプチューンマンの寄越した情報は完璧ではなかったようだな」
“伝説”破壊鐘など、ネプチューンマン・テキストには載っていなかった。あとで文句を言ってやらねば。
「ヌワ~~ッ、ま……まさか完全なる強度を誇る“伝説”破壊鐘が破壊されるとは~~っ」
サンダーは“伝説”破壊鐘に絶対的な自信があったようで、それを攻略されたショックが抜けきれていないようである。
背後のライトニングは険しい表情でチェック・メイトを睨みつける。
「解せねえな。チェック・メイトは熊バサミだらけの池の中に落ちたはず。なのになぜ無傷で這い上がってこれた?」
アシュラマンと共にリングに降り立ったチェック・メイトに外傷は見当たらない。
どうやって熊バサミから逃れた? 超人委員会が熊バサミの設置を忘れたのか?
その答えは、水中カメラで確認してみるしかないだろう。
『さあ~~っ、ここで不忍池内に設置していた水中固定カメラを確認してみましょう! シノバズ・ポンドでなにが起こったのか? チェック・メイトはいかにして熊バサミのトラップから逃れたのか? ビデオをスロー再生してみたいと思います』
そう、大会運営は水中戦が行われることを想定し、事前に不忍池内に特製の水中固定カメラを設置していた。
観衆の多くが狭い実況席に群がり、20世紀の旧式テレビモニターに視線を注いだ。
『池の中に転落し、あわや熊バサミの餌食になるかと思われたチェック・メイトでしたが……』
チェック・メイトは先ほどまで“伝説”破壊鐘で苦しんでいたというのに、水の中では一転して落ち着いた様子を見せている。
そんなチェック・メイトを狙い、無数の熊バサミトラップが襲った。
「チェス・駒・チェンジ!」
しかしチェック・メイトは自身の左肩にあるスイッチを押し、堅牢な“
熊バサミに噛まれるが、その刃は肉に食い込むことなく弾かれていった。
『なんと自分の体を頑強な煉瓦ボディに変え、熊バサミを防いでおります!』
ルーク・チェック・メイトはそのまま水中を泳ぎ、水面を目指す。
「
浮上寸前で自身の体をバラバラに解体。
無数の煉瓦片に分け、勢いよく飛び上がった。
水中カメラが捉えていたのはそこまでのようである。
『そしてレンガボディを複数のパーツに分け、水面に浮上。リングに舞い戻り、サンダーの周囲を取り囲んだようであります!』
不忍池の中で行われていた隠密行動。
実況で一部始終を知った“
「ヌワーッ、“伝説”破壊鐘に苦しんでいたのは演技か!」
「おかしいと思ったんだ。しかしそうなると、サンダーの姿が変身したのは……?」
池に落ちたのは時間超人の目を欺くためだとして、どうやってサンダーを強制変身させたのか。
その決定的瞬間は、水中カメラではなく普通の中継カメラが捉えていた。
引き続き実況席の旧式テレビモニターにその映像が映し出される。
『あ――っとここです! セパレートしたボディの一部がサンダーの肩になにやらチェスの駒のようなものを取り付けております! これがサンダー変身のキーアイテムとなったようだ――っ』
ちょうどチェック・メイトの右手らしき部分が密かに忍び寄り、ポーンの駒を装着、スイッチをカチッと押している。
やはりサンダーの変身はチェック・メイトの仕業だったのだ。
「そう……それはわたしがチェス・駒・チェンジするための外付けのチェス駒……中でもそれは、チェス駒の中でも最弱とされるポーン。かつてわたしと対戦したキン肉マンの息子、キン肉万太郎はわたしのチェス・駒・チェンジを真似しようとチェス駒を奪い、しかしそれが最弱のポーンであったがために逆に隙を晒してしまう結果となった……」
チェック・メイトは悪行超人時代、
そして観客席にいる万太郎のほうを見て、こう続けた。
「今回はそのときの経験が……友との闘いが、わたしに“伝説”破壊鐘攻略のための奇策を授けてくれました」
視線を投げられた万太郎は、感動で背筋が震える。
「超人レスラーとしてはまだまだひよっ子だったあの頃のボクの……悪ふざけみたいな作戦が、チェックとアシュラマンを救った」
成長した今となっては恥ずかしさのほうが勝る、未熟な時代の思い出。
しかしチェック・メイトにとっては大切な友との出会いであり、正義超人に転身するきっかけともなった出来事なのだ。
その話を聞いたアシュラマンは、さっぱりと笑う。
「カーッカッカ。目でなにかを訴えているのはわかったが、まさか体をバラバラにして騙し討ちとはな。ザ・ニンジャやミスターカーメンのような真似をする。それでこそサンシャインの弟子、21世紀の悪魔超人だ」
「わたしは正義超人です」
大事なところなのでしっかりと訂正を入れつつ、ザ・ナイトメアズは体勢を整える。
ずいっと前に出たのは、苦痛から解放されたアシュラマンだ。
「ともあれ、これでやつらのインチキ能力はひとつ潰した。ここは私がさっきの礼を……」
チェック・メイトはそのアシュラマンの前にバサッとマントを広げ、歩みを止める。
「ここはわたしに任せてもらいます」
丁寧ながらも強い口調で言い、先んじて一歩を踏み出した。
「やつらに見せてやりますよ。21世紀の正義超人、
アシュラマンの応答はなく、しかし口元で笑みを浮かべる。
なにも言わないまま、ただパートナーの掌にタッチした。
『ザ・ナイトメアズ、ここでアシュラマンからチェック・メイトに交代――っ』
対戦チームが交代したことで、それまでエプロンで控えていた“世界五大厄”のライトニングも動きを見せる。
「おもしろい。ならばチェック・メイトの相手はオレがしよう」
相棒の言葉にサンダーは頷き、後ろに掌を出した。
タッチが成立し、ライトニングがムーンサルトでリングインを果たす。
『世界五大厄はサンダーからライトニングに交代するようだ――っ』
チェック・メイトvsライトニング。
最初に仕掛けるのはどちらの超人か。不忍池の周囲にいるギャラリーが固唾を呑んで見守った。
『ライトニング、まずは軽快なステップでチェック・メイトをサークル状に囲んでいく――っ』
フットワークを使い攻め時を窺うライトニング。
チェック・メイトは下手に動かず、目でライトニングの動きを追った。
しかしながら、ライトニングのステップはチェックの死角を突く。
「ジョワ!」
『背後から蹴り――っ』
ライトニングは視線の届かない後ろ側に回り、飛び蹴りを放つ。
視界から消えた――というならば、目のついていない背後にいるだろうことは予測できる。
チェックは冷静に身を屈め、気配を頼りに肩を突き出した。
『あ――っとしかしチェック・メイト、低い姿勢で避け、肩を当ててライトニングを崩した――っ』
ライトニングの蹴りは空を切り、チェック・メイトに肩をぶつけられたことで体勢を崩し着地にも失敗してしまう。
チェック・メイトはうつ伏せになったライトニングの両脚を交差させ、自身の右足を差し込み関節をロックした。
『ライトニングの両脚をインディアン・デスロックに極める――っ』
ありふれた関節技だ。
ライトニングはすぐに技を解除しようと動く。
「こんな何の変哲もないインディアン・デスロックなど――っ」
上半身を起こそうとし、しかしその首は背後から回したチェック・メイトの両手でホールドされる。
『なんとチェック・メイト、ライトニングの足をインディアン・デスロックに固めたまま、ショルダー・ネックブリーカーも仕掛けた――っ!』
それぞれは単純な技ではあるが、複合させることで2倍以上の威力を生み出す。
インディアン・デスロック+ショルダー・ネックブリーカー。
技の名は、チェック・メイトの友の名を冠する。
「マンタローストレッチ!」
キン肉万太郎との対戦時、ほかでもないチェック自身が彼からくらった技だった。
あのときは自分から関節を外すことで技から逃れたが、それは痛みに鈍感だった当時のチェック・メイトだからこそできた芸当。
技をかけるチェック自身の技量もある。このチェック版マンタローストレッチは容易には攻略できない。
「なめるな!」
しかしながら、ライトニングも参戦したばかりでまだまだ体力があり余っている。
多少のダメージは承知の上で、無理やり首と脚のクラッチを外した。
『ライトニング、強引に技を解除――っ』
すぐさま起き上がり、体勢を整えようとするライトニング。
『しかしチェック・メイト、ライトニングの背後から離れない!』
技を外されることは想定内。
ならば体力を消耗させるためにも、どんどん次の技を繰り出すのみ。
チェック・メイトはライトニングの胴を背後から抱え、後ろに放り投げた。
『これは投げっぱなしジャーマンか~~っ!?』
狙いは不忍池への落下か――ライトニングはそう考えたが、チェックの目論見は別。
ライトニングの体がチェックから離れようとしたその瞬間、彼は両足首をキャッチした。
『い……いや! ライトニングの体が離れる寸前にその両足首を掴み直し、開脚させて投げた――っ!』
「大人のジャーマン!」
これはかつて、新世代超人スカーフェイスが
一度目の投げで加速をつけ、すぐに開脚させることでしっかりと自身の体重を乗せて叩きつける。
「ジョワ~~ッ」
『ライトニング、脳天直撃と股裂きのダメージで苦悶の表情だ――っ』
このダブルコンボには、さすがのライトニングも悲鳴を上げた。
まだだ。チェック・メイトの攻勢はこの程度では終わらない。
『チェック・メイト、攻撃の手を緩めない! 今度はライトニングの体をフロント・ネックロックの形に抱えて跳ぶ――っ!』
掴んだ首を支点に、空中でライトニングの体勢を逆さに変える。
左手は首をクラッチし、右手は右大腿部を持って固定。
そこから空中で竜巻のような捻りを加え、背中から落とす。
「トルネード・フィッシャーマンズ・スープレックス!」
超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝でケビンマスクが万太郎相手に放った強化版フィッシャーマンだ。
『見たことのない技の数々! これが21世紀の超人レスリングなのか~~っ!?』
未来から来た同胞たちの技を次々と披露してみせるチェック・メイト。
彼は新世代超人の代表として時間超人の討伐に臨んでいるのだ。
「言ったでしょう! 新世代超人の底力を見せると!」
沸き上がる不忍池の観客たち。
トーナメントを勝ち残っている数少ない新世代超人のひとり、テリー・ザ・キッドは口笛を吹く。
「ヒュー! 万太郎にスカーフェイス……それに今のはケビンマスクの技だ! チェックのやつ、ニクいことしやがるぜ!」
友達の奮闘する姿を見て、キッドのアドレナリンは爆発寸前。自分もリングに乱入にしたいほどだった。
最新鋭の連続攻撃を食らったライトニングは、声に苦痛を含ませながらも対戦相手の技量を称賛する。
「ジョワ~~ッ、さすがは新世代超人の中でも実力派として知られるチェック・メイト。古くさい技ばかり使う20世紀の
そして、立ち上がる――のではなく、低い姿勢で構えた。
腰を落とし、両手もキャンバスにつけ、上半身も伏せる。
まるで蜘蛛を思わせるようなポーズ。
そんな怪しげな姿勢のまま、ライトニングはなにかを取り出した。
「このオレも本気を出す意義があるってもんだ~~っ」
それは、おどろおどろしい意匠をしたマウスピースだった。
ライトニングはその正式名称を高らかに叫ぶ。
「“エヴォリューション・マウスピース”!」
マウスピース――本来ならボクシングで歯の破損や顎の骨折など口腔内の外傷を防ぐための道具。
しかしライトニングが持つそれは、時間超人にとってのパワー増大装置というのが正体だ。
ライトニングが口を開け、エヴォリューション・マウスピースを装着する。
「アクセレレイション!」
キーワードを口にし、右側頭部の鍵穴のような傷口から煙が噴出。
続いて全身が液状化し――忽然と姿を消した。
「消えた!?」
驚くチェック・メイト。
試合中の超人がいきなり消える意味がわからず、その姿を探す。
そうしている間に、ライトニングはチェック・メイトの背後に浮き出るように現れた。
「ジョワ!」
出現と同時、胴に腕を回し、チェック・メイトの体を後ろに反り投げる。
見事なブリッジを描きながら、チェックの脳天がキャンバスに突き刺さった。
『な……なんだ~~っ!? ライトニングの姿が消え……いつの間にかチェック・メイトをジャーマン・スープレックスで投げている~~っ!』