ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ” 作:速筆魔王LX
阿修羅面“怒り”。
キン肉マンやテリーマンなど、数々の正義超人を震え上がらせた恐怖の象徴。
21世紀では誰が言ったか『あの世の道標』『野辺の送りのお題目』とも言われている。
『これまでは冷酷な嘲笑を浮かべていたアシュラマンフェイスですが、その顔が一転、不動明王を彷彿とさせるド迫力フェイスに変化した――っ!』
不忍池に浮かぶリングから発せられる、身の毛もよだつような恐ろしい空気。
その空気を誰よりも感じ取り、誰よりも震え上がったのは、21世紀でアシュラマンと対戦経験のあるキン肉万太郎だった。
「ア……アア~~ッ。アシュラマンの阿修羅面“怒り”……まさか20世紀のこの地でまたあの恐ろしい顔を見ることになるなんて~~っ」
万太郎は池の畔からただ観戦しているだけだというのに、すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られた。
一方、実際にリングに立っている時間超人“
その迫力に一切怯むことなく、果敢に立ち向かっていく。
「おもしれえ! 序盤やられた借りを返してやるぜ――っ!」
サンダーは自身に食い込んだ熊バサミを力尽くで引っ剥がし、傷だらけの身で前進した。
『世界五大厄、“怒り面”アシュラマンに対しサンダーが迎え撃つ――っ』
“怒り面”アシュラマンvsサンダー。
開幕と同じマッチアップだが、この“怒り面”アシュラマンはあのときとは別人だ。
「阿修羅・蓮華打ち~~っ!」
『アシュラマン、6本の腕を駆使して掌底の乱れ打ちだ――っ』
唯一無二のストロングポイントを惜しみなく使う。
六本腕から繰り出される掌底の連打は、もはや壁。
サンダーはその強烈な攻撃を正面からくらいながらも、自慢のタフネスを活かして耐える。
まさに肉を切らせて骨を断つ――サンダーは掌底の豪雨の中、強引に手を出した。
『サンダー、咄嗟にアシュラマンの腕の1本を掴んだ!』
一本でも掴めばこちらのもの。
ここから投げるか、いやまず折るのもいいか、とサンダーがほくそ笑む。
不動明王のごとき怒り面は、そんなにやついた笑みを許さない。
『しかしアシュラマン、それは囮だと言わんばかりに残った腕でサンダーの顔面と脇腹にバックハンドブローを叩き込む――っ!』
1本掴まれようとも腕はあと5本ある――これぞ六本腕の真骨頂。
『サンダー、たまらずダウーン!』
今大会随一の巨漢を打撃で沈めてみせる“怒り面”アシュラマン。
怒りの衝動はときに人知を超えたパワーを生み出すのだ。
「カカア――ッ!」
『アシュラマン、軽快にロープを駆け登っていく――っ』
感情のままに攻め込むのが“怒り面”ではない。
その場その場で最適の攻撃手段を選び取ってこそ、正義超人どもを震え上がらせることができるのだ。
『ロープ上で跳躍し、最高点から体重の乗ったフライング・ボディプレスをサンダーに落としていく――っ!』
リングロープを利用した飛び込み技。
キャンバスで仰向けになっているサンダーは避けようと身を捩るが、体を反転させるのが精一杯だった。
サンダーの背にアシュラマンが落ちてくる。
「グハッ!」
『サンダー、避けられない~~っ!』
吐血して倒れ伏すサンダー。
このままテンカウントを待ってもよさそうな有り様だが、アシュラマンの怒りはそれでは収まらない。
サンダーの体を仰向けに返し、右足を掴んで自身の両脚を絡めた。
『大ダメージが窺えるサンダーに対しアシュラマン、膝十字固めで追い打ちを……い、いや! これはただの膝十字固めではない~~っ』
通常、膝十字固めは2本の腕で相手のふくらはぎをロックするが、アシュラマンは中段と下段の両腕4本でロックしている。
それだけではなく、上段の左腕でサンダーの首をドラゴンスリーパーに締め上げ、上段の右腕はサンダーの右腕を固める。
これらの複雑な固め技が、悪魔超人の専売特許ともいえる1000万パワーで繰り出されるのだ。
「涅槃ツイスト――ッ!」
この技にかかれば、まさしく涅槃――失神という形ですべての苦しみから解放されるだろう。
『4本の腕でサンダーのふくらはぎをロックし、もう2本の腕でサンダーの首をドラゴンスリーパーに締め上げる複合技だ――っ! 宇宙広しといえど、アシュラマンにしかできないオンリーワンの固め技が炸裂~~っ!』
以前行われたテリーマンやキン肉マンとの試合、そして“夢の超人タッグ戦”でも披露されることはなかった美技に、不忍池の超人レスリングファンは大興奮。
しかしながら、唯一この技をくらったことがあるキン肉万太郎はまるで自分事のように震え上がっていた。
「あ……あの技は~~っ。3人の超人をひとりで相手にするも同然の絶対不可避の絞め技……時間超人でも逃げられやしない~~っ」
記憶にも新しい
最終的に試合に勝ちはしたが、この技は自力では攻略できていない。
失神KOはつまらないとした再生・アシュラマンが自ら技を解くという温情を働かせたのだ。
万太郎のオーバーリアクションはリング上の20世紀アシュラマンにも伝わっている。
「カカカー。キン肉マンの息子は未来の私との対戦にだいぶ苦い思い出があると見える。だがしかし、実際のところおまえは脱出不可能ではあるまい。さあ、また鬣を回転させて切り抜けるか? それともアクセレレイションか? なんにせよ即座に対応してみせるぜ」
怒り面のまま軽く笑い、沈黙しているサンダーに問いかける。
この涅槃ツイストは撒き餌にすぎない。
アシュラマンの真の狙いはサンダーに手の内を出し尽くさせること。
ネプチューンマンからの情報をインプットし、そして実際に闘ってみたことで、時間超人の実態もだいぶ掴めてきた。
特にアクセレレイションのからくりについては、もう少しでなにかが見えそうな予感がある。
なればこそ、アシュラマンはサンダーを追い込みどう対応するかを見ようとしていた。
「グググ~~ッ」
今すぐ失神してもおかしくはない、苦しげなうめき声。
サンダーの取った行動は――
「ア……アクセレレイション!」
口腔内のマウスピースを噛みしめる、だった。
『あ――っとサンダーの頭部にある穴からエキゾチック物質が放出され、技に固められた肉体が溶け出していく――っ』
サブミッションにかけられている最中のアクセレレイションは緊急脱出装置として働く。
いかに関節を極められようとも消えてしまえば無意味――だがしかし、そこに異変が生じた。
『な……なんだ~~っ!? サンダーの体が溶け出すと同時、アシュラマンの体も溶け出したぞ――っ!?』
肉体消失の予兆である液状化。
本来それは時間超人のみに起きる現象のはずだが、技をかけているアシュラマンにまで同じ現象が起こったのである。
『今……サンダーとアシュラマンがほぼ同時に消えた――っ! ふたりはどこへ!?』
試合中のリングから超人がひとりもいなくなるという異例の事態。
一部始終を眺めていたジ・アドレナリンズのロビンマスクとテリー・ザ・キッドは目を白黒させる。
「こ……これはいったい!?」
「どういうことだ!?」
20世紀と21世紀の強豪超人であるふたりにも理解が及ばない。
ほどなくして、リングの上のほうで変化が起こる。
『ああ――っ、リングの上空にサンダーの肉体が現れた――っ』
消失していたサンダーが出現したのだ。
しかし彼はどういうわけか、頭を真下にした天地逆転の体勢になっていた。
『続いてその少し上の位置に、アシュラマンも出現――っ』
実況の言うとおり、さらに上空に膝を折りたたんだ状態のアシュラマンが現れた。
アシュラマンはそのまま、真下にいるサンダーの両足裏に自身の両膝を当てる。
『逆さになったサンダーを両膝で捕らえ、アシュラマンが降下する――っ』
相手を逆さにした状態で全体重をかけるアシュラマンのスペシャル・ダブル・ニードロップ。
六本腕を備えるからこそ、見た目以上の重量をかけることが可能なこの技の名は――
「阿修羅稲綱落とし――――っ!!」
サンダーの頭部がキャンバスに大激突。
首の骨が軋む嫌な音が鳴り響き、獅子の相貌が苦しげに歪んだ。
「ヌワァ~~ッ」
『サンダー、再びダウンだ――っ』
白いのキャンバスの上で大の字になるサンダー。
その周囲には吐血による赤が点々としている。
アシュラマンは息を整えながら、“怒り面”を元の“笑い面”に戻した。
しかしながら、その顔は笑みをまとってはいない。
「い……今のはいったい……?」
見せる表情は困惑だった。
今の阿修羅稲綱落としに繋がる一連の流れ……
サンダーは確かにアクセレレイション――時間超人のみが使えるはずの加速能力を行使した。
だが実際にはサンダーだけでなく、アシュラマンも同時に1コンマ先の未来へと移動したのである。
時間超人ではなく悪魔超人であるアシュラマンが、なぜ……と、池の畔から見守るネプチューンマンは思う。
「じ、時間超人と一緒にアクセレレイションしたってのか……? オレは知らねえぞ、あんなのは……どうやったんだアシュラマン~~ッ。今の攻防は時間超人攻略の最大の鍵となる――っ」
“前回”で見てきた時間超人の闘いの中でも、こんなシーンはなかった。
アシュラマンならでのは特殊能力か? なんらかの化学反応が起こったのか? 他の超人に再現は可能なのか?
狼狽するネプチューンマン。
一方で、このアクセレレイション返しを重く見た超人がいた。
ライトニングである。
「かわれサンダー。もはやこれ以上アシュラマンを調子づかせてはおけねえ」
「きょ……兄弟」
普段は余裕たっぷりにジョワジョワと笑うライトニングが、怒気を放ちながらサンダーに手を差し出す。
いや、これはもはや怒気というより――殺気。
目の前のアシュラマンを殺す、とその糸のように細い目が訴えていた。
「我ながら不甲斐ねえ。任せたぜ」
サンダーは盟友の放つ剣呑な雰囲気を悟り、潔く手を差し出した。
“世界五大厄”の掌が合わさり、選手交代となる。
『あ――っとサンダー、ここでライトニングにスイッチ――ッ!』
ロープを潜り戦場から離脱するサンダー。
代わるライトニングはリング内にいきなり入るのではなく、トップロープの上に登った。
「ジョワ――ッ!」
『ライトニング、ロープ上段からフライング・ボディアタックだ――っ』
仕掛けるのは、身軽なライトニングならではの空中殺法である。
「そんなもの――っ!」
アシュラマンは殺意など浴び慣れている悪魔超人。気圧されることなどありえない。
右構えの姿勢から迎撃に入った。
『アシュラマン、3本の右腕を縦一列に揃えストレートパンチを放つ――っ』
ライトニングの前面を捉えるパンチの壁。
自ら飛び込んだライトニングは当然避けることなどできない。
『な……なんとぉ――っ! ライトニングの腹部にアシュラマンの3本の腕が突き刺さっている~~っ』
アシュラマンのストレートパンチともなれば、超人の肉体を貫通するほどの破壊力があるのだ。
腹部を貫かれたライトニングは、しかしダメージを受けた様子もなく、的はずれなことを言う実況に反応する。
「ジョワジョワ、節穴め~~っ。おまえはわかるよなあアシュラマン。まるで手応えなど感じぬことに」
「ヌウ……」
ライトニングがやせ我慢をしているのではないことは、技を仕掛けたアシュラマンの冷や汗を見ても確かだった。
現にライトニングの腹部からは出血がない。
腹部を貫いたというよりは、“穴に腕を通した”というほうが適切と思える。
「これはアシュラマンのパンチがオレの体を突き破ったわけではない! オレがアクセレレイションで自ら体に空洞を作り、アシュラマンの3本の右腕を捕らえたのだ!」
ライトニングは時間を操り肉体を自在に変化させることができる。
自ら飛び込むことでアシュラマンのパンチを誘い、開腹させた腹部でそれを受け止めた。
いわば普通の超人が腕や脚でそうするように、腹でアシュラマンの腕をクラッチしてみせたのだ。
「チックタック、チックタック」
ライトニングは怪しげになにかを口ずさむ。
チクタクチクタク……それは、時計の秒針が進む音に似ていた。
「アシュラマン。おまえはどうやら寝た子を起こす目覚まし時計を鳴らしてしまったようだな」
アシュラマンの右腕3本を捕らえたまま、ライトニングの全身が罅割れていく。
アシュラマンはなにもやっていない。
これはライトニングが、真の姿を見せるための予備動作だった。
「チックタック、チックタック……目覚まし時計とは、甘い夢を断ち切る現実の恐怖のこと。未来での敗北が決定づけられている惨めな悪魔超人よ。潔くここで死ぬがいい!」
ライトニングの全身に走っていた罅が一斉に割れ、中から別の超人が現れる。
『なんと――っ! これまでライトニングの外側を覆っていたのはオーバーボディで、その外皮の下から新しいボディが出現した――っ!』
眉なし口なしの白い容貌。
胸や背中に刻まれた謎のタトゥー。
凶悪な突起の付いたショルダーパッド。
鎌のようなものが備えられたガントレット。
これまでの黒い全身タイツのような姿からは一変、その姿は死神を想起させた。
「チックタック、チックタック……もはやオーバースーツは不要。ここからはオレの真の姿……“キラーエリート”となった姿で相手をしてやる」
ついにあらわになったライトニングの正体。
オーバーボディを脱いだ体から放たれる殺気は先ほどの比ではない。
「あ……ああ~~っ」
悪魔超人であるあのアシュラマンが、思わず震え上がる。
それほどの異様が、自身の右腕を捕らえて離さない。
『ライトニング、腹部の穴にアシュラマンの腕3本を挟み込んだまま全身を捻り始める――っ』
雑巾を絞り上げるように、自らの身体をツイストするライトニング。
「早く右腕を抜くんだ、アシュラマーン!」
不吉な予感を察知したチェック・メイトが忠告を飛ばし、
「無駄だ! キラーエリートとなった兄弟の技からは逃れられねえ――っ!」
サンダーは勝利を確信したかのような威勢で叫ぶ。
そして、惨事は次の瞬間に起こった。
「ギャアアア――ッ!」
『あ――っとライトニング、アシュラマンの3本の右腕を捻り切った――っ!』
絶叫と共に顔を歪めるアシュラマン。
捻り切られた3本の腕はライトニングの作った空洞からぼとりと落ち、役目を終えた穴は塞がっていく。
3本もの腕を失ったアシュラマンは、切断面から鮮血のシャワーを吹き上げていた。
『アシュラマン、大出血――っ! なんということでしょう! 不忍池の中央で血の海ができてしまった――っ!』
他の超人に比べ3倍の数の腕を持つアシュラマンだからこそ、それを失った際の出血量は多い。
いや、腕が切断されたのだ。出血量云々ではなく、普通なら激痛で意識を保つことすら難しい。
それをわかっているからこそ、ライトニングは勝負を決めに来た。
「もはや勝負は決した! 死ね――っ! アシュラマン!」
『ライトニング、アシュラマンにトドメを刺さんと飛びかかる――っ!』
再びロープ上段に登り、そこからのフライング・ボディアタックだ。
そこまでしなくともアシュラマンはもはや触れただけで息絶える――誰もがそう思った。
しかし、悪魔超人の代表としてこの“究極の超人タッグ戦”に立つ彼は折れない。
それどころか、にやりと口角を上げ、ダメージなど感じさせない動きで右足を振り上げた。
『な……なんとアシュラマン、冷静にハイキックでライトニングを迎撃した――っ』
アシュラマンの上段蹴りでキャンバスに叩き落されるライトニング。
「バカめが~~っ。悪魔の演技に騙されおって。この私にとって腕の1本や2本や3本、取れることなど日常茶飯事よ――っ」
とんでもないことを言いながら、アシュラマンは捻り切られた右3本の腕に力を込める。
ズズズ……と蠢く3つの切断面。
本来なら神経や骨が覗いていそうなそこから、それらとは異なる器官が生まれようとしていた。
『なんだ――っ!? アシュラマンの右腕があった3つの切断面から、なにかが生えてくる――っ』
腕があった場所から生えてくるものといえば、なにか。
当然、腕である。
『う、腕だ――っ! しかしこれはアシュラマンの腕ではない! 右下段と右中段に、別人のものと思しき新たな腕が生えてきた――っ!』
右下段には、やや細いが確かな筋肉のついた腕が。
右中段には、飛行機のような翼を備えた機械的な腕が。
「あれは……ラーメンマンの腕か!?」
「その上のやつは、イリューヒンのものか!」
ロビンマスクとキッドがその正体に気づく。
確かにこのふたつの腕はラーメンマンやイリューヒンのものと特徴が一致するが、なぜそれがアシュラマンの体に生えてくる?
それはアシュラマンの持つ能力に秘密があった。
「カーカッカッカ! そうだ、私はすでに死亡している超人から腕を奪えるのだ! 今回はこの“究極の超人タッグ戦”に参戦しながら、志半ばで倒れていった正義超人の腕を使ってやろう!」
先に行われた“宇宙超人タッグ・トーナメント”でも、アシュラマンは右3本の腕を失った経験がある。
そのときも正義超人――ウルフマンにジェロニモ、そしてプリンス・カメハメの腕を奪い闘った。
また同じメンツの腕を揃えるのも芸がない。だからこそのラーメンマン、そしてイリューヒンというチョイスだ。
そして失われた腕はあと1本。
アシュラマンは自慢の六本腕を揃えるべく、残った右上段に力を込める。
『あ――っとそして、最後に右上段にも腕が生えてくるが……ん、んんんん――っ!?』
実況が目を擦り確認する。
アシュラマンの右上段の位置に、新たな腕が生えてくる。
話の流れでは、それはすでに退場した正義超人の腕であるはずだが……とてもそうは思えない。
これは腕というより――体だ。
より厳密には、裸体の上半身。
筋肉はあるが肋骨の浮き出た胸板、禿頭に白眉毛、しわくちゃの顔。
それはこの“究極の超人タッグ戦”最序盤、間引きバトルロイヤルで敗戦したバリアフリーマンの姿に似ていた。
『ア、アシュラマンの右腕上段の位置に……腕ではなく、ヨボヨボのお爺さんが生えてきた――――っ!!』
アシュラマンは新たに生えてきた自らの右腕を見て、驚愕のあまり叫ぶ。
「ゲ……ゲェ――――ッ!?」