ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第059話 “魔”の友情は潰えず!

『こ……これは――っ! この“究極の超人タッグ戦”の前身、“夢の超人タッグ戦”でアシュラマン&サンシャインの“はぐれ悪魔超人コンビ”がビッグ・ボンバーズを瞬殺し……さらにニュー・マシンガンズやマッスル・ブラザーズにも大打撃を与えたツープラトン、その改良型だ――っ!』

 

 サンダーを捕らえたままキャンバスに落ちてくるチェック・メイト。

 ライトニングを捕らえてそれを待ち構えるアシュラマン。

 数秒後の未来は決定的なその光景を見て、ロビンマスクとテリー・ザ・キッドが拳を振り上げる。

 

「地獄のコンビネーションPARTⅠ! 通常は上下のロメロ・スペシャルを衝突させる技だが……」

「この改良型は上段がチェックの必殺技(フェイバリット)“落爆人机”になっている! 威力は何倍にも膨れ上がっているはずだ!」

 

 これぞ、ザ・ナイトメアズ渾身のツープラトン。

 その名も――地獄のコンビネーションPARTⅠ“改”!

 まばたきの間もないまま、決着の瞬間が訪れる。

 

『今、リング上に激しい衝突音が鳴り響いた――っ!』

 

 四角いリングに土色の煙が舞う。

 

『これはチェック・メイトの煉瓦ボディから生じる土煙でしょうか!? リング上が粉塵に包まれております! はたしてザ・ナイトメアズのツープラトンは炸裂したのか否か~~っ!?』

 

 ツープラトンは炸裂したのか?

 リングにいる4人の超人は、はたしてどうなったのか?

 ギャラリーが固唾を呑んで見守る中、粉塵は風に吹かれて消えていく。

 

「あ……あああ~~~~っ!」

 

 声を出したのは、リングにおそらく一番熱烈な視線を注いでいたであろうネプチューンマン。

 彼の顔面には、大量の冷や汗が流れていた。

 それが意味するところは、すなわち――

 

『い……いない! ライトニングとサンダーの姿が消えている~~っ! 互いに衝突させるべき相手が消えてしまった結果、アシュラマンは空から降ってきたチェック・メイトの下敷きになってしまっている――っ!』

 

 超重量の“王様・馬・城(グランドスラム)”による圧殺。

 アシュラマンは味方から特大級のボディプレスをくらってしまったも同じ。

 それが結果だった。

 

「ガ……ガハァッ!」

「アシュラマン!」

 

 吐血するアシュラマンと、慌てて“王様・馬・城”形態を解き彼の上から離れるチェック・メイト。

 しかし時すでに遅し。

 アシュラマンの肋骨は粉々に砕け、吐血を見るに内臓へのダメージも深刻。

 よりにもよって、究極奥義である“王様・馬・城”の力を味方に振るってしまった。

 

 では、本来のターゲットである時間超人――“世界五大厄(ファイブディザスターズ)”のライトニングとサンダーはどこへ消えたのか?

 結論には、もはや誰もがたどり着いている。

 ザ・ナイトメアズから少し離れた位置で、嘲笑するような笑い声が木霊する。

 

「ジョワジョワ。“王様・馬・城”形態……なかなかの代物だが、それゆえに味方に及ぼす破壊力も絶大」

「ヌワヌワ。バカなやつらだぜ。ここ一番というところで技を誤爆しやがった」

 

 スゥ……と現れたのは、ライトニングとサンダーだ。

 彼ら時間超人が持つ緊急回避能力アクセレレイション。

 落爆人机だろうがロメロ・スペシャルだろうが関係ない。

 激突の寸前にそれを発動させてしまえば、結果はご覧の有様というわけだ。

 

『あ――っとライトニングとサンダーが腕組みをした状態で現れた――っ! これもやはり加速能力によるものか、傷ひとつない様子で不敵に笑っている~~っ』

 

 シングル技の最中に加速能力を使われればただ取り逃すだけだが、ツープラトンの最中に使われてしまうとこのように被害が味方に及んでしまう。

 なぜ時間超人がふたり組で襲来したのか、なぜこんなにもタッグマッチを得意としているのか、その理由の一端を思い知る結果となった。

 

「わ……わたしの判断ミスだ。あのタイミングならいけると……アクセレレイションでの回避はできないと見誤った」

 

 アシュラマンの消耗具合を前に気が逸ったのもあったが、時間超人は直前に放ったセパレーツボディ二重殺でふたりともダウンしていた。

 だがそれすら演技だったのだ。

 チェック・メイトにはそれが見抜けなかった。

 

「カ……カカカ……」

 

 グランドスラムの下敷きにされたアシュラマンが、満身創痍の様子でなんとか笑う。

 

「ミ……ミスをしたのは私だ。涅槃ツイストを仕掛けた際に見えた、アクセレレイション封じの一筋の光明……決着を焦らず、それをじっくり探求するべきだったのだ。頭ではわかっていた……頭ではわかっていたのになぁ……」

 

 魔界の王子の胸に去来するのは、後悔の念。

 あのときあの技を繰り出しておけば、あのとき攻撃ではなく防御を選んでいれば……という後悔は、超人レスリングの試合では多々あるもの。

 戦闘経験豊富なアシュラマンは、己の人生でも一番かもしれないそれを味わっていた。

 

「おまえがサンシャインの名を出し……地獄のコンビネーションを要求してきたことで、判断を誤った。や……やつの弟子であるおまえとなら……やつとの技を改良した私たちのツープラトンなら……時間超人どもを抹殺できるのではないかと……一瞬期待しちまった。そ……その結果が、このザマだ」

 

 そう言って、アシュラマンは感傷に浸る。

 犯したのは一瞬の判断ミス――強豪超人同士の試合では、それが致命傷となるのだ。

 

「ジョワジョワ~~ッ、正悪混合タッグなど所詮はこの程度よ」

「ヌワヌワ~~ッ、どっちつかずのチグハグコンビなんぞにオレたちの結束は崩せねえ」

 

 アシュラマンの戦線離脱を悟り、“世界五大厄”は勝利を確信したかのように言う。

 チェック・メイトはそうはいかないと果敢に立ち向かった。

 

「ザ・ナイトメアズはまだやれる~~っ! チェス・(ピース)・チェ……」

 

 左肩のボタンに手を伸ばし、対時間超人に効果的だった“(ルーク)”形態になろうとするが――

 

「リオン・フィンガ――ッ!」

 

 チェックの動きを読んでいたサンダーがいち早く仕掛けた。

 

『サンダーの左肩からライオンの爪のようなものが飛び出し、チェック・メイトの左肩にある(ルーク)の駒を跳ね飛ばした――っ!』

 

 駒を失ってはチェス・駒・チェンジは発動しない。

 だが駒はもうひとつある。

 

「グッ……チェ、チェス・駒・チェンジ!」

 

 右肩のボタンを押し“(ナイト)”形態に変身。

 馬の重量と四本脚を得て、サンダーに逆襲を仕掛ける。

 

「“ケンタウロスの黒い嘶き”――っ!」

 

 二本の前足を使った強力な前蹴りの連打。

 標的が巨漢のサンダーともなれば必中間違いなしと思われたが、ライオンマスクの超人は巧みなスウェーでこれを躱していく。

 

「ヌワヌワ、自分で仲間を手にかけてしまった動揺が抜けきれていないようだな――っ」

 

 サンダーはチェックの技に綻びが生じていることを指摘し、二本の前足を抱えるようにキャッチした。

 馬の巨体もなんのその。ダイナミックなムーブで“(ナイト)”チェック・メイトを後ろに反り投げる。

 

『サンダー、チェック・メイトに豪快なスープレックスを決めた――っ!』

 

「あ、ああ……あああああ~~~~っ!?」

 

 実況とほぼ同時に悲痛な叫びを上げたのは、ネプチューンマンである。

 ケンタウロスの黒い嘶きをスープレックスで返す――これは忌まわしき“前回”、ネプチューンマンがセイウチンを取り戻しに来たチェック・メイトとの衝突で見せた攻防だ。

 シチュエーションが重なったのは偶然だろうが、ネプチューンマンとしては歴史が――悲劇が繰り返される予兆のように感じてならない。

 

「グウウ~~ッ」

 

 チェック・メイトはすぐに起き上がったものの、ダメージは明らか。

 チェス・駒・チェンジを維持することができず、頭部は元の“王様(キング)”に戻った。

 右肩には再び“馬”の駒が来る――その厄介な馬面を、ライトニングが補足していた。

 

「ジョワジョワ……諦めろ、正義超人チェック・メイトよ。おまえはアシュラマンという悪魔と組むには心根が優しすぎたのだ」

 

 パートナーを気遣う優しさ――本来タッグマッチには必要不可欠であろうその要素こそがザ・ナイトメアズの敗因だと、ライトニングは現実を突きつける。

 その狂気の鎌と共に。

 

「“煮えたぎる鎌(ボイリングシックル)”――ッ!」

 

 右腕からバリアフリーマンの頸動脈を掻っ切った鎌が飛び出し、馬の首を狙った。

 

『今度はライトニングが左手の鎌でチェック・メイトの右肩にある(ナイト)の駒を切断――っ!』

 

「グアア~~ッ」

 

 両肩の駒を跳ね飛ばされ、悲鳴を上げるチェック・メイト。

 技の大半を“馬”と“城”の形態変化から繰り出すチェックにとって、この損失の大きさは計り知れない。

 

『チェック・メイト、これでお得意のチェス・駒・チェンジを封殺されてしまった――っ』

 

 実況がはっきりとそう告げ、ザ・ナイトメアズを応援していた観衆の顔色が絶望に染まる。

 時間超人ふたりはそんな表情の変化を愉悦とし、あらためて勝機を捉えた。

 

「さあサンダーよ! そろそろいくか! 地震・台風・火事・戦争……世界四大厄よりも恐ろしいといわれる、我らが“五つ目”の厄! 地獄のメニューを!」

「オオ!」

 

 ライトニングの呼びかけに応え、サンダーが怯んでいたチェックを片手で持ち上げる。

 続けてダウンしていたアシュラマンも片手で拾い、リング上空に放った。

 

『あ――っと巨漢サンダー、アシュラマンとチェック・メイトのふたりを同時に抱え宙に放り投げた――っ』

 

 ザ・ナイトメアズのふたりが落ちてくるまでの時間で、“世界五大厄”はツープラトンの準備を整えようとする。

 攻撃の起点となるのは、やはり時間超人特有の加速能力だ。

 

「アクセレレイション!」

 

『ライトニングにサンダー、揃って口腔内の“エヴォリューション・マウスピース”を噛みしめる――っ』

 

 それぞれの鍵穴からエキゾチック物質が噴出。

 ふたりの体が溶け出し、しかし完全には消えない。

 

『さあ~~っ、またもやアクセレレイションによる時間の歪みが発生し……サンダーの背中に穴が開いた――っ! そこへライトニングが侵入――っ!』

 

 サンダーの背中に開いた穴にライトニングが足から入り、下半身が完全に埋まる。

 それはまるで、サンダーの背にライトニングが生えているかのような奇妙な姿だった。

 

「ジョワジョワジョワ――ッ!」

「ヌワヌワヌワ――ッ!」

 

『な、なんとぉ――っ! ライトニングとサンダーのふたりが合体し、ひとりの超人となった――っ!』

 

 超人タッグチームは数多く存在すれど、パートナー同士で合体するのは“世界五大厄”くらいだろう。

 観衆が目を剥くが、技の本番はこれからだ。

 

『その合体の間、宙に浮いていたアシュラマンとチェック・メイトが“世界五大厄”に向かって落下してくる――っ!』

 

 落ちてくるナイトメアズに抵抗する意思は感じられない。

 余力がないのか、それとも意識を失っているのか。

 どちらにせよ手を緩める時間超人ふたりではなかった。

 

『ライトニングはアシュラマンをリバースフルネルソンに、サンダーはチェック・メイトをリバースフルネルソンにキャッチする!』

 

 背中合わせの状態でそれぞれの敵を捕らえ、サンダーの脚部がその場で旋回する。

 

歴史消滅(ヒストリーイレイザー)!」

 

『あ――っと合体超人、あらゆる災害(ディザスターズ)を超越する凄まじい大回転をくわえる――っ!』

 

 ジャイアントスイングにも似た大回転。

 しかしそのまま横に投げ飛ばすのではなく、アシュラマンとチェック・メイトの真上に投げ出された。

 

「行け――っ! 地獄の底へ――っ!」

 

『遠心力の限りを尽くしてナイトメアズを空中高く放り投げた――っ!』

 

 合体のパワーを利用した投げ技は、ふたりを通常ではありえないほどの高さまでいざなう。

 続けてサンダーは後ろ側に手を回し、背中側にいるライトニングの手を掴んだ。

 

『そしてサンダー、合体するライトニングの両手首を取り上空めがけ投げ飛ばす――っ!』

 

 背中の空洞から引っこ抜かれたライトニングは、ナイトメアズを追うように上昇。

 その過程で再び体が溶け出した。

 

『ライトニングの体が液状になり、一瞬にして消える――っ!』

 

 アクセレレイションによりライトニングが移動する場所は――ナイトメアズよりさらに高い位置。

 アシュラマンもチェック・メイトも逆さまの状態で、ライトニングに膝を掴まれた。

 

『アシュラマンとチェック・メイトの真上に現れたライトニング、凄まじい力でふたりの片足を折り曲げ逆立ち状態のまま落下――っ! それをサンダー、仰向けの状態で両足を開脚させて待ち受ける――!』

 

 折り曲げた片足には組んだ両手が添えられ、アシュラマンとチェックは団子のような丸まった体勢を強制される。

 そんな回避はおろか、受け身も取れないような状態でサンダーのビッグブーツに叩きつけられればどうなるか。

 まさしくヒストリーイレイザーの名のごとく、歴史から消滅してしまうだろう。

 

「正悪崩壊の終曲(フィナーレ)――ッ!」

 

 サンダーの両足に、アシュラマンとチェック・メイトの身が叩きつけられた。

 その激突音は正義と悪魔の歴史が崩壊する終焉のメロディー。

 これこそが、今回の“究極の超人タッグ戦”では初お披露目となる“世界五大厄”最大の奥義である。

 

『と、とんでもない衝撃~~っ! シノバズ・ポンド全体が揺れ、大波が立つ――っ!』

 

 不忍池の水がすべて飛び散ってしまうんじゃないかというほどの衝撃だ。

 アシュラマンとチェック・メイトはピクリとも動かず、ただ血反吐を吐くのみ。

 正悪崩壊の終曲が決まり、一旦は解放された両者だが――

 

「まだだ~~っ」

 

“世界五大厄”の厄はまだまだ終わらない。

 サンダーはアシュラマンの胴に背中側から手を回した。

 

『サンダー、アシュラマンの体を逆さに抱えあげ……そのままブリッジの体勢を取る――っ』

 

 自身の腕や頭を使うのではなく、逆さにホールドした相手の足を使ってのブリッジ。

 安定性抜群の橋を作り上げ、相棒であるライトニングもその仕掛けに参加する。

 

「ジョワ!」

 

『ライトニングはブリッジするサンダーの大腿部で倒立! そのすぐそばにはサンダーに掴まれ力なく胸部を晒すアシュラマンがいる――っ』

 

 ライトニングは逆立ち状態から、捕らえられたアシュラマンに言葉を放る。 

 

「敢闘賞を送ってやるぜ“ザ・ナイトメアズ”。“伝説”破壊鐘(はかいしょう)を破壊し、エヴォリューション・マウスピースやオレの真の姿を引き出した功績は見事なものだ~~っ」

 

 そう――この試合、ザ・ナイトメアズは“伝説”破壊鐘にアクセレレイション、そしてライトニングのオーバーボディと、時間超人の隠し玉を3つも引き出した。

 本来ならば段階的にお披露目しようと思っていた数々の要素、それをたった一戦で網羅されてしまったのだから、ライトニングとしては素直に讃えたくもなる。

 そしてだからこそ、殺してやりたい~~っ、という怨念が増すのだ。

 

『倒立するライトニングの両足が鋭利な針状になった――っ』

 

 足の先端部分のみを変形させる、名付けてレッグニードル。

 標的を抱えてのブリッジ。その上で倒立するライトニング。時計の針のような刃。

 これらを視界に収め、ロビンマスクはわなわなと体を震わせる。

 

「あ……あれは! 我が妻アリサを生死の淵に立たせる要因となった……地獄の儀式“死時計の刻印(デスウォッチ・ブランディング)”に入る体勢だ――っ!」

 

 崩壊の終曲が決着用のツープラトンだとするならば、こちらはトドメ用。

 対戦相手に抵抗する力がなくなったのを確認し、確実に抹殺するために使用する技だ。

 その脅威を知るひとり――リング上のチェック・メイトは、アシュラマンの危機に動いた。

 

「サ……サンシャインヘッド……」

 

 この時間、この地には生存していない、かつての師のことを思い浮かべる。

 幼少期の自分を徹底的に鍛え上げてくれた、しかし価値観の変化から袂を分かつこととなってしまった、生粋の悪魔超人。

 彼が以前口にした言葉を頼りに、一縷の望みを託す。

 

「アシュラマンを守ってくれ――っ!」

 

 装着していたマントを外し、今まさに“死時計の刻印”が執行されようとしているその場へ放る。

 

『あ――っとチェック・メイト、ライトニングとサンダーのツープラトンからアシュラマンを守らんと自身が装着するマントを投げ入れた――っ!』

 

 狙いはアシュラマンとライトニングの狭間。

 おそらくはレッグニードルを阻もうという意図だろうが――

 

「バカめ! そんな薄っぺらいマントで我らの必殺の一撃が防げるものか――っ!」

 

 ライトニングは構わず針状になった両足を振り下ろす。

 

「“死時計の刻印(デスウォッチ・ブランディング)”――ッ!!」

 

 淀みなく振り下ろされたレッグニードルの一撃。

 チェック・メイトの投げ込んだマントは狙いどおりアシュラマンとライトニングの間に割って入ったが、だからなんだ。

 ペラペラの布などたやすく貫かれてしまい、凶刃はターゲットに届く。

 

『チェック・メイトの抵抗むなしく、針と化したライトニングの両足がマント越しにアシュラマンの心臓を突き刺した――っ!』

 

 ついに訪れてしまった凄惨な光景に、チェック・メイトは顔を青くして叫ぶ。

 

「アシュラマ――ン!」

 

 マントは貫かれたアシュラマンの身を覆い隠すが、そんなものはなんの意味も持たない。

 せいぜいがショッキングなシーンに耐えられない観客が目を背ける時間を稼げた程度の恩恵。

 時間超人のふたりは視覚情報など必要ないとばかりに勝ち誇った。

 

「ジョワジョワ~~ッ、手応えアリだ。悪魔の命が尽きる音が聞こえるぜ――っ」

「ヌワヌワ~~ッ、バカなヤロウだぜ。悪魔なんぞお呼びじゃねえのに首を突っ込むからこうなる~~っ」

 

 今日の不忍池は風が強い。

 チェックの放ったマントは突き刺さったレッグニードルの刃でビリビリと破れていく。

 

『さあ~~っ、“死時計の刻印”によって裂かれたチェック・メイトのマントが今、風に吹かれ飛んでいく――っ』

 

 不忍池のどこかへと飛んでいったマント。

 哀れな死体へと成り果てたアシュラマンが、衆目に晒される。

 

「あ……あああ~~っ!」

 

 愕然とするチェック・メイト。

 レッグニードルはアシュラマンの体に深々と突き刺さっていた。

 ただし――心臓のある胸ではなく、右腕にだ。

 

『な、なんとこれは――っ!? “死時計の刻印”が貫いているのは、アシュラマンの心臓ではない~~っ! 右上段……バリアフリーマンのボディが生えていた箇所から別の巨大な腕が生え、致命傷を避けるべく急所をガードしている――っ!』

 

 並の超人のものにしては大きく太く、角張った腕。

 だからこそレッグニードルがアシュラマンの心臓に届くまでの盾として機能している。

 

「あれは……若かりし頃のサンシャインヘッドの腕!」

 

 アシュラマンは死した超人の腕を奪う――それは先の“宇宙超人タッグ・トーナメント”で死亡した元パートナー、サンシャインとて例外ではない。

 あれはおそらく、アシュラマンが自発的に呼び寄せたわけではないだろう。

 チェック・メイトの願いに応えてくれたのか、それとも未来の弟子に言われずとも自らそうしたのか。

 どちらかはわからないが、確かに言えることがひとつだけある。

 

「デ……“悪魔の胎内(デーモンウゥーム)”での闘い……サンシャインヘッドがアシュラマンに言っていたことは真実だった。悪魔にだって、友情はある……」

 

 かつてサンシャインは、悪魔超人として対戦相手を抹殺することよりもパートナーを救う選択肢を優先した。

 この時間軸においてはそう遠くない過去の話。超人墓場に送られても彼の考えは変わっていないのだ。

 

「それを確認できただけでも、この闘いに臨んだ意義はあった……」

 

 願わくば、わたしも若かりし頃のサンシャインヘッドと会ってみたかった。

 そんな夢を思い描きながら――チェック・メイトの意識は闇に没する。

 

『チェック・メイト、完全にダウンだ――っ!』

 

 うつ伏せの状態で失神してしまうチェック・メイト。

 もはや起き上がってはこれないだろう。

 

「カカカ……あやつめ、死してなお人助けなんぞしやがって……あ、悪魔の風上にもおけねえ……」

 

 勝手に動いた右腕を忌々しく思いながら、アシュラマンは毒舌を吐く。

 しかしながら、その表情はどこか嬉しげだった。

 

「み……未来の……いつ頃になるかわからんが……楽しみにしてるぜ。おまえと、また……打倒・正義超人に燃える日々を……」

 

 未来を知るということはそう悪いものではない。

 変えたい未来もあれば、変わってほしくない未来だってある。

 今は亡き、しかしいずれ蘇ると知れた相棒のことを思いながら、アシュラマンは意識を閉ざす。

 

『アシュラマンもまた、完全に意識を失ったようだ――っ!』

 

 死時計の刻印に二度打ちはない。

 ライトニングとサンダーは潔くアシュラマンを離し、それぞれリングの上に立った。

 

「チィ~~ッ、アシュラマンを仕留め損ねるとは……」

「いいじゃねえか兄弟。アシュラマンは所詮、悪魔超人……正義超人に敗戦続きの存在など、オレたちが歴史を抹消する価値もない」

 

 アシュラマンへの殺意をみなぎらせていたライトニングは不満そうだったが、サンダーがそれをたしなめる。

 彼らの真の標的は正義超人。死にぞこないの悪魔ひとりに固執するのも滑稽だ。

 

「それに、オレたちの恐ろしさを衆目に知らしめるという当初の目的は果たせたようだしな~~っ」

「ジョワ~~ッ、確かに」

 

 池の向こう側に対して睨みをきかせるサンダーとライトニング。

 震え上がらない観客などおらず、憩いのスポットとされる不忍池は不穏な空気に包まれた。

 闘う者がいなくなったのを察し、ハラボテがゴングを鳴らす。

 

『ここでゴングです! リザーブマッチから駆け上がり参戦した正義・悪魔混合コンビ“ザ・ナイトメアズ”でありましたが……今大会の大目玉“世界五大厄”の前に惜しくも敗れ去った――っ! そしてこれにより、二回戦の全試合が終了! 準決勝へとコマを進める4チームが出揃いました――っ!』

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