ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ” 作:速筆魔王LX
“究極の超人タッグ戦”二回戦最終試合、勝者は“
敗退した“ザ・ナイトメアズ”はアシュラマン、チェック・メイト両名ともに重傷を負い、病院に運ばれようとしていた。
「すぐ病院に搬送だ! 道を開けてくださーい!」
不忍池から担架に乗せられるチェック・メイト。
そんな仲間のもとに、もはや数少なくなってしまった
「チェック――ッ!」
担架の上で苦しむチェック・メイトの両肩からは、彼のシンボルであった
端正な顔は血でにじみ、肉は腫れ上がり……体のあちこちにはおびただしい数の傷ができあがっている。
まさしく激戦を終えた戦士の姿――されど敗者。
だからチェック・メイトは、ただこう告げる。
「敗者にはなにもくれてやるな」
その一言に、万太郎がハッとした。
以前、同じセリフをチェック・メイトから言われたことがある。
あれは超人オリンピック・ザ・レザレクション予選最終競技『二人三脚でZEI!ZEI!』での一幕――パートナーに選んだ人間の負傷を理由に、チェック・メイトはあと一歩というところでリタイアを決断した。
その際、チェックの心情に寄り添おうとした万太郎に放った言葉がこれだった。
どんな極悪超人を相手にしても、最後には優しさを振りまく万太郎……だが情け深いだけでは、この先の闘いには勝てない。
チェック・メイトはそう言いたかった――のだが、
「なんて……超人オリンピックのときのように、強気に言えればよかったんですがね……今はあのときよりも、悔しさが強い……」
このときのチェック・メイトは、素直に敗北を悔しんだ。
シノバズ・ポンド・デスマッチ――万全を期して臨んだこの一戦に勝利できれば、命の危機に瀕した友を救い出し、さらに恋い焦がれたライバルたちと全力の勝負ができるところだったのに。
「万太郎……キッド……残念です。準決勝や決勝で……あなたたちと相まみえたかった……」
己が変わるきっかけとなった超人、キン肉万太郎との再戦。
ナイトメアズの同胞レックス・キングを倒した強敵、テリー・ザ・キッドとの初対戦。
どちらも垂涎するほどのマッチメイク。
それを20世紀のタッグ・トーナメントという大舞台で実現できたならば、どれほど幸せだったろうか。
今となっては儚き夢である。
「どうか……わたしやアシュラマンに代わって……ケビンを救ってやってください……」
私欲は捨て、正義超人としての使命のみを託す。
万太郎はチェックの右手を、キッドは左手を握り、渾身の力を込める。
「うん!」
「任せろ!」
これもまた、友情の
一方、同じく担架で運ばれようとしていたチェック・メイトのパートナーのもとには――
「アシュラマン!」
同じ時代を生きた者として、ネプチューンマンとロビンマスクが駆け寄っていた。
アシュラマンは力なく笑う。
「カーカッカ……こ、これはおかしな光景だ。正義超人に
彼にとってはほんの数週間前、トーナメント・マウンテンを舞台にしのぎを削った間柄である。
正義、悪魔、完璧と、それぞれが異なる思想のもとに黄金のトロフィーを手にするべく奮闘した。
そこからまさか、時間超人という共通の敵が現れ、協力関係を結ぶまでに至るとは……思ってもみなかった。
「思えば夢でも見ているかのような数日だったぜ……未来から来たなどという超人が大挙して押し寄せ、その中にはつい先日死んだばかりの相棒の弟子に……私の老後の人生まで知るやつがいる……だ、だが不思議と充実した数日間だった……」
アシュラマンは今にも閉じかけている瞼をネプチューンマンに向ける。
「ネプチューンマン……やつらの能力は……」
時間超人討伐のサポートという義理を果たすため、伝えねばならぬだろう。
やつらの能力アクセレレイション――直接対決の中で導き出した、突破口を。
だがネプチューンマンは言語化は不要、とばかりに首を振った。
「ああ、わかっている」
だから安心して休め、盟友アシュラマンよ。
かつて“夢の超人タッグ戦”の決勝で会おうと約束したライバルに労をねぎらわれている気がして、悪い気はしなかった。
「活かせよ……」
アシュラマンはそれだけをこぼし、目を閉じた。
ザ・ナイトメアズのふたりが救急車に乗り込み、不忍池を離れていく。
それを見送りながら、ネプチューンマンは力強くつぶやいた。
「活かすとも。おまえがくれたアクセレレイション攻略の糸口。オレたちが必ず確かなものにしてみせる」
敗者は去り、そこには勝者のみが残った。
大会運営委員長ハラボテ・マッスルはマイクを取り、不忍池に集う人々に向けてアナウンスを始める。
『以上をもって“究極の超人タッグ戦”準々決勝上野公園決戦、全試合がつつがなく終了した!』
上野動物園を舞台にしたアニマル・チェンバー・デスマッチ、そして不忍池を舞台にしたシノバズ・ポンド・デスマッチ。
どちらも壮絶な激闘の末、予想の及ばぬ結果となった。
先日行われた田園コロシアムでの2戦も合わせ、まさに“究極の超人タッグ戦”二回戦に相応しい内容であっただろう。
『それではここで、優勝への剣が峰“究極の超人タッグ戦”準決勝進出を決めた四大チームをあらためて紹介しておこう!』
そう、この地には先に駒を進める権利を得た4チームが集っているのだ。
『まずはキン肉万太郎&カオスの“マッスルブラザーズ・ヌーボー”!』
モンゴルマン&バッファローマンの2000万パワーズに勝利したふたり組。
いきなり紹介された万太郎は慌ててマッスルポーズを取り、観衆にアピール。
パートナーのカオスは自然体でクールにキメていた。
『最初は21世紀からやってきたニュージェネレーションという存在がインチキくさく、人々より懐疑のまなざしで見られていた万太郎&カオスでありましたが……二回戦この大会の優勝候補の一角に挙げられていた2000万パワーズと真っ向から渡り合い、それに勝利するというアップセットを起こし一気に観客の信頼を得て今や大人気チームとなった――っ!』
そう、もはや万太郎とカオスをダメ超人コンビと揶揄する観客たちはいない。
2000万パワーズに勝利した褒賞は、それだけ大きなものだったのだ。
『続いてロビンマスク&テリー・ザ・キッドの“ジ・アドレナリンズ”!』
ご存知“仮面の貴公子”と、“ファイティング・ロデオマン”の異名を取る若者ふたり。
ロビンとキッドは互いの腕をクロスさせ、盤石のチームワークを表現していた。
『20世紀&21世紀の新旧スター超人タッグがここまできました! 二回戦ではあの“夢の超人タッグ戦”優勝チームである“ザ・マシンガンズ”に激勝……テリー・ザ・キッドは父親であるテリーマンとテキサス流ファイトを繰り広げ、ロビンマスクは因縁の相手であったキン肉マンを弟子の技であるパロ・スペシャルでKOするという、まさに今大会のベストバウトメーカーであります!』
なによりも前チャンピオンであるマシンガンズを倒したという事実が計り知れない。
今のアドレナリンズは、もはや優勝候補筆頭と言えた。
『続いてネプチューンマン&ウォーズマンの“
常のネプチューンマンなら腕を振り上げ観衆にアピールしただろうが、現在の彼はとてもそんな雰囲気ではない。
セットで紹介されたウォーズマンは現れず、たったひとりで静かにその存在感を放つ。
『ウォーズマンは治療中とのことでこの場は不在ですが、ネプチューンマンがいます! 先の“ヘルズ・ベアーズ”戦では、チームリーダーのウォーズマンがまさかのギブアップを宣言……その結果を受け入れられないマンモスマンが暴走、3対1の延長大乱闘の末にイクスパンションズ本来のメンバーだったセイウチンが無念のリタイア……新パートナーに対戦相手だったウォーズマンを迎えるという、まさに激動の展開を経てここに立っております!』
セイウチンの無念、そしてアシュラマンとチェック・メイトの無念。
引き継いだものは多く、だからこそネプチューンマンの決意はさらに燃え上がる。
『続いてライトニング&サンダーの“世界五大厄”!』
たった今激闘を終えたばかりの時間超人ふたり。
サンダーは再びケビンマスクの眠るX形クリアベッドを回収し、乱暴に肩に担ぐ。
ライトニングはオーバースーツを脱ぎ捨てた“キラーエリート”スタイルで身が竦むような威圧感を放った。
『そして、今しがたアシュラマン&チェック・メイトの正悪混合タッグを葬り去った悪衆・時間超人であります! ライトニングはオーバーボディを脱ぎ捨て“キラーエリート”と呼ばれる真の姿をさらけ出し、サンダーは再びロビンマスクの息子、ケビンマスクの入ったクリアベッドを担いでの登場だ――っ』
不忍池の畔に集った勝者たち。
交わす言葉は、ない。
交わすのは意思を込めた視線だけで十分だ。
『さあ~~~~っ、不忍池のモニュメントであるロビンマスクvsアトランティスの彫像の前で、七者4チームが睨み合う――っ』
これはトーナメント。
タッグパートナー以外は全員が等しく敵である。
『い……いや!?』
が、今回ばかりは状況が違った。
これは優勝というたったひとつの席を懸けた闘いであるのと同時に、悪行・時間超人攻略戦でもあるのだ。
『4チーム中の3チーム……キン肉万太郎、カオス、ロビンマスク、テリー・ザ・キッド、ネプチューンマンの5人は全員、時間超人を睨みつけている――っ! 未来から来た仲間であるチェック・メイトを痛めつけられた恨みか、前大会でライバルとした立ちふさがったアシュラマンの無念を受け継いだか、敵意の集中砲火だ――っ!』
これぞ、ネプチューンマンがかねてより理想としていた時間超人包囲網。
しかし当の時間超人ふたりは、敵意を剥き出しにしてくる正義超人たちを嘲笑う。
「ジョワジョワ、嫌われたものだな」
「ヌワァ~~ッ、心地いいくらいだぜ」
さすがは観客のブーイングをファンファーレのように扱う悪行超人。どこ吹く風だ。
一触即発の空気を感じ取り、ハラボテがやや慌てて話を進める。
『では、準決勝の場所と日時を発表する!』
4チームの意識がハラボテに向く。
いよいよ黄金のトロフィーが近づいてきた準決勝、その舞台ははたして。
『今日より三日後の5月13日より、超人タッグの聖地トーナメントマウンテンで執り行う!』
トーナメントマウンテン。
それは、富士山の麓に突如出現した超人タッグ史におけるいにしえの場所。
この大会の前身“宇宙超人タッグ・トーナメント”の舞台ともなった山である。
『そして対戦カードだが……やはり1億4000万年の歴史を持つ超人タッグの古代伝説に倣って、トーナメントマウンテン内においての“綱引き抽選の儀”で執り行う!』
綱引き抽選の儀。
仰々しい名称のそれのことは、ネプチューンマンがよく知っている。
なにせ彼は“夢の超人タッグ戦”と“前回”で、2回に渡りこの綱引き抽選を経験している。
「リング中央で複雑に絡み合っている二本の綱があり、それぞれのチームが四方向に伸びたその綱を一本ずつ選択し一気に引き合う……どのチームがどのチームと当たるかは誰にもわからない、まさに綱のみぞ知る伝説の抽選方法だ」
“夢の超人タッグ戦”で2000万パワーズと、“前回”で時間超人ふたりと綱を引き合ったときの感触は、今でもネプチューンマンの手に残っている。
よもや三度目の機会が訪れるとは、と興奮する己がいた。
『それでは準決勝カード抽選“綱引きの儀”は、今日より三日後トーナメントマウンテンで準決勝前に行う! 公開で行いますので一般観客の皆様もぜひ多数のご来場を!』
ハラボテがそうアナウンスし、不忍池に集った超人レスリングファンが盛り上がる。
準決勝に進出する超人のひとり、カオス・アヴェニールはライトニングとサンダーを睨みながら言う。
「その日になるまでどのチームと当たることになるかはわからないってわけか……」
他のチームは端から眼中にないとでも言いたげな顔だった。
そんなネプチューンマンにも勝る敵意を感じ取ったのか、ライトニングは挑発気味に笑う。
「ジョワジョワ……おまえら一致団結しているつもりかもしれないが、わかっているのか? トーナメントの仕様上、おまえら3チームの内2チームは次で潰し合うことになる……オレたちばかり気にかけた結果、正義超人同士で共倒れなんてことにならなきゃいいがな~~っ」
「なに――っ!」
模範解答のように憤るカオス。
それも無理からぬこと……カオスが時間超人を敵視していたのは、“前回”の記憶とも一致する。
彼は彼で、ライトニングとサンダーに並々ならぬ感情を抱いているのだ。
そして、もうひとつ。“前回”といえば――
「どうしたネプチューンマン。やけに空を気にしているようだが……」
時間超人ではなく空を見上げるネプチューンマンを怪訝に思い、ロビンマスクが声をかけた。
空は雲もまばらな快晴。
突如雷雲が押し寄せてくるような気配はない。
「なに……オレの取り越し苦労のようだ」
ネプチューンマンが体験した“前回”の二回戦終了直後。
不忍池にはあの悪魔の領袖・大魔王サタンが現れた。
サタンはそこで時間超人や完璧超人――悪行に落ちていたネプチューンマン、正義を裏切ったマンモスマンと結託し、キン肉マンに秘術“
(オレが悪行落ちせず、マンモスマンの裏切りも防げたおかげか……それとも悪魔超人であるアシュラマンを引っ張り出せたおかげか……どうやら今回の“究極の超人タッグ戦”では、大魔王サタンは現れないようだ。ここまで順調に来てるのに、あんな部外者に横槍を入れられちゃたまらねえからな。この三日間は時間超人対策に全力を注ぎたい)
ネプチューンマンは未だ誰にも話せぬ思惑を胸に秘め、空から視線を外す。
『では三日後、5月13日12時だぞ! 各チーム遅れることがないように! 解散!』
ハラボテが念入りに忠告し、各陣営が不忍池から去っていく。
ネプチューンマンはひとりで上野公園を歩いた。
(さて……この三日間をどう使うか)
二回戦前ほどではないが、やるべきこと、やっておきたいことは山ほどある。
“前回”というアドバンテージがあるからこそ、この準備期間は有意義に使わなければならない。
(前回は……まだまだ赤ん坊だったマンモスマンを完璧超人に仕上げるため猛特訓したんだったな。が、今回はタッグパートナーも違えば準決勝進出チームの顔ぶれも違う……オレが準決勝で当たる相手も、前回は時間超人たち“世界五大厄”だったが……今回もそうなるとは限らん)
ザ・マシンガンズの退場、ジ・アドレナリンズの参戦、そしてマンモスマンの不在。
“前回”と異なる箇所は多く、だからこそ同じ展開が起こる可能性は低いだろう。
(三日後の準決勝……オレの命が尽き、一度“究極の超人タッグ戦”が終わった日。オレはそれを、今度こそ勝利という結果で乗り越えなければならねえ。“
荒ぶる富士山の火口まで訪れネプチューンマンを生かそうとしてくれた“前回”のカオス。
友達を助けるという願いを託し散っていたセイウチン。
彼らに報いることこそが、ネプチューンマン最大の責務である。
(そのためにしなければならないこと……そうだな、まずは)
上野公園の出口で、ネプチューンマンは足を止めた。
歩道の先に、黒を基調としたボディを持つ超人が立っている。
(対話か)
その超人――“ファイティング・コンピューター”ウォーズマンは、ネプチューンマンに近づいてくる。
「マンモスマンがいつの間にか姿を消したらしい。ひょっとしたら、三日後の準決勝の地に再び現れるかもしれん」
マンモスマンはアニマル・チェンバー・デスマッチのあと、病院に運ばれていったはずだった。
それが消えた理由については、思い当たるフシがある。
ネプチューンマンが体験した“前回”の準決勝でマンモスマンが見せた“
「それはねえな。マンモスマンを連れ出したのはおそらく、ここから先の未来で若かった頃のオレたちが闘うことになるアイツだ。再会もおそらくそのとき……この時間軸じゃまだ死んでるオレたちには悪いが、今回の一件でマンモスマンには恨まれちまっただろうからな。例のサバイバルマッチでは本来の歴史以上に苦労することになるだろうぜ」
21世紀の超人たちがタイムワープしてきた影響で、後々行われるサバイバルマッチの展開も変わってくるだろう。
だが今はなによりも“究極の超人タッグ戦”、そして対時間超人だ。
「時は来た。すべてを話してもらうぞ、ネプチューンマン」
ウォーズマンは厳格に言う。
……ネプチューンマンの覚悟は決まった。
同じ21世紀の
ウォーズマンなら、あるいはネプチューンマンの罪を受け入れてくれるかもしれない。
「いいだろう。ここから先、おまえの協力は必要不可欠……是が非でも共犯者になってもらうぞ、ウォーズマン」