ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第063話 かつて全米を震撼させた男!

 敵か? 味方か? ザッ・シャネルマン!

 

「シャネルマンだって!?」

 

 シャネルマンと名乗ったその男を前に、とりあえず復唱してみる万太郎。

 が、己の口で唱えては見たものの、そんな名前は聞いたことがなかった。

 聞き覚えがあったのは、隣に立つこの男――カオス・アヴェニールである。

 

「ワチキは超人レスリングのオタクだから知っているぞ。ザ・シャネルマン……いやザッ・シャネルマンといえば、かつてアメリカはニューヨークに突如現れた謎の残虐超人……超人評議会(WSC)のチャンピオンだったビューティー・ローデスの襲撃に始まり、目的不明のままWSCの地区チャンピオンたちを次々と破壊して回った、知る人ぞ知る隠れ強豪超人だ……」

 

 博識なカオスによって明らかになる、シャネルマンの知られざるエピソード。

 よもや20世紀のアメリカにそんな強豪がいたとは、と周囲がどよめく。

 

「フフフ……」

 

 不敵に笑うシャネルマン。

 カオスは続けて言う。

 

「そしてその正体はキン肉マンだ」

「なーんだ父上か」

 

 ズコーッとずっこけるシャネルマン。

 しかしすぐに立ち上がり、大げさなくらい豪快に笑った。

 

「ハッハハハハ~~~~ッ! このオレ様がキン肉マンだと~~っ!? 冗談じゃねえ! あんなドジ超人と一緒にされちゃかなわねえや!」

 

 さぞかし胸につかえるセリフだろうなぁ、とミートは思った。

 アメリカ遠征時に一緒になって変装をしたミートはもちろんその正体に気づいている。

 シャネルマンとは、超人評議会と超人同盟を潰すために超人協会が放った刺客。正体はキン肉マンであり、計画がバレぬようにと超人協会会長ドーロ・フレアースが彼に変装を施した姿なのだ。

 カオスのオタク知識がすごすぎてわざわざミートが口を挟むまでもない。王子の目的もわからないし、とミートは口を噤む。

 

「日本ではあまり知られてねえがよぉ! 本国アフリカじゃ泣く子も黙る残虐超人シャネルマンとして恐れられているんだぜ!」

 

 シャネルマンはあくまでもキン肉マンとは別人という体で話を進める。

 

「オレは幼い頃から超人世界一に憧れていた! しかしアフリカではその夢は叶いそうにない……そんなとき、日本で世界最大級の超人レスリング・トーナメントが開催されると聞いて駆けつけてみれば、タッグマッチという話じゃないか! 残念ながらパートナーのいないオレでは大会に参加することはできない! ならばせめて、チャンピオン候補のコーチ役を買って出ることで名を上げてやろうと考えたのだ! “究極の超人タッグ戦”優勝チームの裏にシャネルマンありとな――っ!」

 

 聞き手であるマッスルブラザーズ・ヌーボー、そのひとりである万太郎は鼻をほじっていた。

 

「フーン、そういう設定か」

 

 でっかいのが取れた。フーッと息を吹いて吹き飛ばす。

 そんな万太郎に、ミートはこそっと耳打ちする。

 

「万太郎さん、あの……」

「わかってるよミート。こういうときの父上には適当に付き合ってやるのが一番だ」

「さ、さすがは親子……よくわかってらっしゃる」

 

 シャネルマンの捏造設定はともかく、飛び出した提案は思わぬものだった。

 カオスは問う。

 

「コーチ役ってことは、キン肉マン……ああいや、シャネルマン。あんたがオレたちマッスルブラザーズ・ヌーボーを鍛えてくれるっていうのか?」

 

 シャネルマンは頷いた。

 

「そのとおり。ネプチューンマンくん、アレを」

 

 アシスタント役のネプチューンマンがある道具をシャネルマンに渡す。

 それは4本の細長い木材を四角く組み合わせた――組み木。

 ただの真四角ではない。それは開いたり閉じたりすることができ、使い方しだいでパンチを弾いたり挟み込んだりが可能なのだ。

 

「これぞ! あの日本のハンサム超人キン肉マンもハワイで師匠に散々しごかれたという……“カメハメ特訓木人”!」

 

 自身が師にそうしてもらった経験を活かし、見様見真似で後輩をしごいてやろう――それが不甲斐なくも途中で戦線離脱してしまった正義超人の在り方だ。

 シャネルマンはそう思い立ち、ここへ来た。

 チーム名に“マッスル・ブラザーズ”の名を入れる彼らに肩入れするため。

 

「さあ! キン肉万太郎にカオスとやら……打ち込んでこーい!」

 

 あのキン肉マン、いやシャネルマンが自分たちを鍛えようとしてくれている。

 万太郎もカオスも胸が熱くなるのを感じ、頷き合った。

 

「おお――っ!」

 

 そして、ふたりで一斉に飛びかかった。

 

「のわ~~っ! ふたりいっぺんに来るな! ひとりずつにしろ――っ!」

 

 ふたりがかりで来ることは想定していなかったらしいシャネルマン。不格好にカメハメ特訓木人を操り、マッスルブラザーズ・ヌーボーの攻撃を捌いていく。

 

「あーあー。コーチとか師匠とか慣れてないのに無茶しちゃって」

 

 呆れたように言いつつも、ミートはシャネルマンの行動を嬉しく思っていた。

 あれだけ新世代超人(ニュージェネレーション)のことを嫌っていた彼が、まさかコーチ役を買って出てくれるなんて。

 ミートの心情がわかるのか、ネプチューンマンは共感するように言う。

 

「マッスルブラザーズ・ヌーボーと2000万パワーズの試合……それにジ・アドレナリンズ戦の最中に受けた息子の声援……そしてなによりキッドを信じるロビンマスクに負けたのが効いているのか、やつはキン肉万太郎を認めつつあるのさ」

 

 ミートはうんうんと頷いた。

 

「でも面と向かってそれを言えるほど王子も素直じゃありませんから。あんなアメリカ遠征の際の古い変装を持ち出して力を貸してくれようとしているんですね。これ、ネプチューンマンの案ですか?」

 

 ネプチューンマンは笑いながら首を横に振る。

 

「いや……オレが万太郎とカオスの様子を見に来たら、こいつはすでに物陰でこそこそふたりを見ていてな。仕方ないからオレが仲介役を買って出てやったのだ」

 

 ネプチューンマン自身、まさかシャネルマンが来ているとは思ってもみなかった。

 計算外ではあるが、プラスかマイナスかでいえば間違いなくプラス。

 彼が力を貸してくれることはきっと大きな意味を持つはずだ。

 

「オレの本来の目的は……」

 

 ネプチューンマンの視線は、憧れの超人とのスパーリングに笑みを見せる若者に向いていた。

 

「カオスですね」

 

 ミートはネプチューンマンの秘密を知る者として彼の目的を察し、リングの外からタイミングを待った。

 

 

 ◇

 

 

 ところ変わって、とある病院。

 病室ではロビンマスクの妻、アリサが医師と話をしていた。

 

「いやあ本当に、奇跡としか言いようがありません。あんな重篤の状態からこんなに回復するなんて」

 

 医師は言う。

 アリサはベッドの上だったが、顔色はよく、笑みを振りまく余裕すらあった。

 

「本当に。私に血液を提供してくれた方になんとお礼を言っていいか」

 

 数日前、彼女は時間超人の凶刃に倒れ生死の境を彷徨った。

 しかし息子であるケビンマスクの血を輸血し、彼が身につけていたピアス――未来の高濃度酸素吸入器を治療に役立てることですっかり回復したのである。

 さすがはあのロビンマスクのパートナー。国外追放という憂き目にあいながらも彼に寄り添い、アフリカで暮らしていたところを捨てられてもなお愛を失わなかった女傑。心身ともにタフだ。

 

 そんな愛する妻の様子を、ロビンマスクは病室の外から窺っていた。

 中に入ろうとする気配はない。

 

「奥様に会われていかれないのですか?」

 

 病室で話しているのとは別の医師が、ロビンに尋ねる。

 

「アリサの容態はまだ絶対安心というわけではないのでしょう?」

 

 ロビンはそう問い返すことで返答した。

 

「今、私がアリサに会えば……数日前、時間超人の凶刃に裂かれたトラウマがフラッシュバックし、未来からやってきたケビンマスク……将来我ら夫婦が授かるベイビーが今も命の危機にさらされているという事実を再認識してしまうかもしれない。今のアリサにそういった心的外傷は命取り……最悪、ショックのあまり容態が急変してしまうこともありうるでしょう」

 

 ネプチューンマンの影響か、ロビンの思考は常に最悪を想定するにこしたことはないというものになっていた。

 

「ですから、次に私がアリサと会うのは時間超人を倒し、“究極の超人タッグ戦”に優勝したとき……未来の息子とその友達を連れて、彼女のお見舞いに行きますよ」

 

 そう言って、ロビンは医師に背を向ける。

 首だけ振り返り、一応念押ししておいた。

 

「どうかくれぐれも、テレビ中継を見せるなどして“究極の超人タッグ戦”の情報を伝えないように!」

「ええ、もちろんです」

 

 医師は責任感の感じられる顔で頷き、ロビンは安心して病院をあとにするのだった。

 

 正面玄関を出て、少し歩く。

 アリサの容態が安定すれば、息子であるケビンマスクの消滅は遠のくはず。もし時間超人との直接対決になり、ネプチューンマンが夢に見たシノバズ・ポンド・デスマッチのような状況になったとしても、ケビンに気を取られるあまり戦略が崩れる……といったことは起こりえないだろう。

 

「ロビン」

 

 そんなことを考えながら歩いていたロビンに、声をかける者がいた。

 

「お……おまえは……」

 

 ロビンは驚く。

 その黒尽くめの超人は、先日リングの上で見た顔だ。

 だがこうやって試合の外で向かい合うのは初めて……いや、久しぶりと言ったほうが適切か。

 

「ウォーズマン!」

 

 万感の思いを込め、その名を呼ぶ。

 ウォーズマンは返事をせず、黙って頷いた。

 

「おお……」

 

 ロビンはウォーズマンに歩み寄り、その体を直に観察する。

 まさしくウォーズマンのボディだ。偽物でもそっくりさんでもなんでもない。

 ただ傷の数が多い……おそらくはこれから先の34年間で刻まれる傷なのだろう。

 

「ウォーズマン……本当に、ウォーズマンなんだな」

「ああ」

 

 目の前にいるのは、未来からやってきた21世紀型ウォーズマン。

 ヘルズ・ベアーズとして“究極の超人タッグ戦”に参加し、現在は“新星(ノヴァ)・ネオ・イクスパンションズ”ネプチューンマンの新パートナーに抜擢された。

 

「少し……話をしないかロビン。“究極の超人タッグ戦”のこれからについて」

 

 そんな未来からやってきた弟子と、語らう機会ができるとは。

 ロビンマスクに断る理由はなかった。

 

 

 ◇

 

 

 マッスルブラザーズ・ヌーボーとシャネルマンの特訓は熾烈を極めた。

 ひたすら張り切るシャネルマンに、相手が相手であるため熱が入るカオスと万太郎。

 体力の消耗はどちらともに激しく、だからこそ早めに休憩の時間が訪れた。

 

「少し話がしたい。顔を貸してくれるか?」

 

 汗を拭い、水分補給をするカオスにネプチューンマンが声をかける。

 

「ネプチューンマンがオレに?」

 

 カオスはなんだろう、と不思議そうな顔をしていたが、素直に応じてくれた。

 万太郎やシャネルマンには聞かれぬよう、リングから少し離れた位置へ移動する。

 そうしてネプチューンマンとカオスが完全なる1対1になったところで、誘った側が話を切り出した。

 

「単刀直入に言おう。カオス……おまえは時間超人だな?」

 

 突拍子もない発言に、しかしカオスは愕然とした表情を見せた。

 

「な……なぜ……」

 

 時間超人といえば、“世界五大厄(ファイブディザスターズ)”――ライトニングとサンダーのふたりを指す肩書きだ。

 が、実際はそうではない。

 時間超人とは、種族。

 ライトニングとサンダー以外にも存在しているのである。

 

「おまえが装着しているヘッドギア……その下に隠されている鍵穴のような傷跡は、まさしく時間超人が生まれながらに持っている“魔時角”を折った跡。おまえはライトニングやサンダー同様、未来からこの時代にやってきたのではないか?」

 

 その傷跡は、二回戦で行われた“2000万パワーズ”戦で衆目に晒されている。

 もっとも、この段階でカオスが時間超人などという答えにたどり着けた者は皆無だろう。当の時間超人、ライトニングとサンダーとて気づいてはいなかったはずだ。

 ネプチューンマンも詳しく事情を聞いたわけではないが、“前回”カオスに命を救ってもらったときのやり取りから、彼が時間超人という種族であることだけは判明している。

 

「ネプチューンマン! オレは……」

 

 カオスは慌てた様子で弁明を試みるが、ネプチューンマンはそれは無用とばかりに手で制した。

 

「おっと、早とちりをするなよ。オレは別におまえがやつらの仲間だなどと言いたいのではない。おまえは正義の心を持った時間超人で……ライトニング&サンダーとは明確に敵対している」

 

 時間超人には正義・時間超人と悪行・時間超人がおり、カオスは前者。

 されど時折彼が覗かせていたどす黒い感情は、どちらかといえば後者寄り。

 

「そしてその敵意の正体は……やつらへの復讐心だな」

 

“前回”の記憶を手繰り寄せながら、ネプチューンマンはカオスの内面に切り込む。

 このやり直しの機会を経験するに至った、きっかけの大恩人。

 彼に恩返しするためにも、その過去は正しく知っておきたい。

 

「そ……そこまでわかってしまうのか」

 

 カオスは思い詰めた様子で目を伏せる。

 おそらくは秘密にしておきたかったのだろう。

 同じく隠し事を抱える身としては気持ちがわからないでもないが、そういうわけにはいかない。

 

「よければ詳しく話してくれないか。他言はしない……もちろん万太郎にもな」

 

 ネプチューンマンは最大限配慮したお願いを投げるが、カオスは観念したように首を振る。

 

「いや……いい機会だ。万太郎にも話しておくべきなのだろう」

 

 カオスはリングの上で休んでいるパートナーを優しく見つめ、自らの過去を語る決意をした。

 その横顔は、なにかを諦めているようで……ネプチューンマンを不安にさせるものがあった。

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