ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ” 作:速筆魔王LX
準決勝前日。
ネプチューンマン、ウォーズマン、アレキサンドリア・ミートくんの3人は富士山を訪れていた。
といっても山登りが目的ではなく、足を踏み入れたのはその麓――鬱蒼と生い茂る樹海の一部分だった。
「ミート、こんなところに来てどうしようっていうんだ?」
先行するのはミートくんだ。
ネプチューンマンやウォーズマンよりもずっと小さく幼い彼は、しかし足場の悪さも気にせずぐんぐんと先を進んでいく。
説明はなく、ネプチューンマンとウォーズマンはついていくので精一杯……正義超人界最高の頭脳を持つ彼の行動に意味がないとは思えないが。
「おお、トーナメント・マウンテンが見えるぞ」
道中、ウォーズマンが視界の奥に富士山と並ぶ小さな山を捉えた。
トーナメント・マウンテン――それは富士山麓に突如として現れ、“宇宙超人タッグ・トーナメント”開催のきっかけとなった。
そしてそれが終わった現在、“究極の超人タッグ戦”準決勝の舞台として再び人が集まろうとしている。
「明日はあそこで、オレたち“
ネプチューンマンは相方のウォーズマンに目をやる。
「なんせオレとウォーズマンのタッグは急造も急造……お互いベテランではあるが、ファイトスタイルの違いもあり、他のタッグと比べたらコンビネーションにはまだまだ課題が残る」
相棒の的確な分析に、ウォーズマンも頷いた。
「イギリスのキャッチ・アズ・キャッチ・キャン……ランカシャーレスリングを得意とするネプチューンマンと、局所破壊による短期決着を狙うオレのスタイルは決して悪くはない。しかしそれゆえにタッグとしての化学反応は起こりづらく、一撃必殺となりうるようなツープラトンは生み出せていないのが現状だ……」
さすがは使用年数50年は超えているだろうファイティング・コンピューター。タッグ戦をよく理解している。
「タッグチームは少し歪なほうがちょうどいい。片方がパワーファイターならもう片方がテクニシャンといった具合にな」
練習時間は多いに越したことはない。
だからこそ無駄に時間は浪費したくないものだが……ミートの思惑やいかに。
「おふたりの心配はわかりますが、今はそれよりも解決しておきたいことがあるでしょう。ここはどうか、ボクを信じてついてきてください」
コンビネーション強化よりも先に解決しておきたいことなどなにがあるというのか。
ネプチューンマンとウォーズマンは互いに顔を見合わせ、しかし言われたとおりミートについていく。
そして、ついに目的地にたどり着いた。
「こ……これは!」
そこは富士山というよりもトーナメント・マウンテンの麓。
観客席からは離れた位置に、球体と四角錐を組み合わせたような大型建造物が建っている。
否――それは建造物などではなく、乗り物。
ネプチューンマンやウォーズマン、
「懐かしいぜ~~っ。稀代の知恵者、ミートによって設計された新世代超人のお手製タイムシップ! お台場のフジヤマテレビとオタクの聖地・東京ジャンボサイトをかけ合わせるという仰天アイディアには度肝を抜かれたもんだが……今は過去に渡るという一旦の役目を終え、オレたち未来超人のミッションが終わるまで休眠状態となっている――っ」
自分たちをこの地まで運んできた
ウォーズマンもうんうんと頷きながら過去を振り返る。
「ネプチューンマンは新世代超人の面々が乗り込んだ後で……そしてオレはタイムシップが飛び立った後、鉄塔よりその外壁にしがみついて密航したのだったな。そしてそのせいでミートが緻密に計算していたはずの積載量をオーバーしてしまい、あわや時空の海の藻屑となってしまうところだった……しかし幸運にもわずかに到着予定時間がズレるだけに済み、こうして無事に20世紀の地を踏んでいる」
ハハハハハッ、と笑い合うウォーズマンとネプチューンマン。
しかしすぐそばのミートは不機嫌そうに顔を顰めていた。
「他人事みたいに言って~~っ。あなたたちが密航なんてしなければ、到着時間がズレることもなかったんですよ。そうすれば時間超人の襲撃よりもっと前に到着することができ、
なんとか無事に到着できたからよかったものの、最悪時間超人と相まみえることなく新世代超人全滅なんて結末もあったのだ。
その原因を作ったネプチューンマンとウォーズマンの罪は重く、本人たちも反省するように目を伏せる。
「ウウ……」
「それを言われては返す言葉もない……」
しゅんとするベテランふたり。
若者にやんちゃを怒られる大人ほど滑稽なものはない。
「しかしミートよ……今さらタイムシップに連れてきたりしていったいどうするというんだ?」
まさか説教のためだけに足を運んだわけではないだろう。
ミートはそれを証明するように、難しそうな顔で時空船を見上げた。
「先日のネプチューンマンの話……あなたが前回“
「役に立つ? いったいなんの?」
問いかけるネプチューンマンに、ミートは真面目な声音で言う。
「ネプチューンマン、あなたの心臓を再生させるのにですよ」
冗談などではない、という意味を込め。
「なっ……!?」
予想もしなかった返答に、ネプチューンマンは口を開けて驚いた。
心臓を再生させる――長年の無理が祟り限界を迎えつつある、オレの心臓を?
ネプチューンマンにはミートがなにを言っているのか理解できない。
「次の準決勝、マッスル・ブラザーズ・ヌーボーもジ・アドレナリンズも二回戦よりさらに強くなってリングに上がってくるでしょう。世界五大厄は言わずもがな。しかしあなた方“新星・ネオ・イクスパンションズ”だけは、ネプチューンマンの老いによる内蔵ダメージの蓄積という懸念があり万全とは言えない……逆にそこさえクリアしてしまえば、より盤石な時間超人包囲網ができあがります」
ミートの分析は正しい。
が、それは理想論に過ぎない。
現実問題、心臓の再生などどうやって行うというのか。
「簡単に言うが、オレの心臓は前回の“究極の超人タッグ戦”でもカオスがエキゾチック物質で肉体を巻き戻し、ウォーズマンの“命の欠片”とも言うべきデバイスの力を借りたことでようやく再生できた代物だ。20世紀の未発達な医療技術ではどうしようもないし、時間もない……休眠中のタイムシップひとつでどうこうできるものではないぞ」
ネプチューンマンは正論を投げるが、そんなことはミートとて百も承知。
正義超人軍のブレインたる少年はネプチューンマンの思考の上をいく。
「前回の“究極の超人タッグ戦”準決勝第2試合において、ライトニングとサンダーはエキゾチック物質で富士山を噴火活動していた江戸時代の頃の状態に戻した。それと同じ要領で、カオスはネプチューンマンを“死時計の刻印”で心臓を貫かれる直前まで戻したのでしょう? 時間超人が生成するエキゾチック物質には時間を戻す力がある……実際、あなた方もその力を利用してこの過去の地にやってきたはずです」
確かに、エキゾチック物質にはそういった力がある。
だがそれは時間超人の専売特許であり、ここにいる3人は皆エキゾチック物質などというエネルギーとは無縁の存在だ。
いや、まさか――だからここに来たということなのか?
「そしてこのタイムシップには、エキゾチック物質をタイムワープに必要な反物質エネルギーへと変換する反重力エンジンが搭載されています! 21世紀ミートが設計し、新世代超人の皆さんが造り上げた未来の設備……これに最先端のコンピューターを搭載したウォーズマン! あなたの手が加われば、エキゾチック物質を上手くコントロールし“ネプチューンマンの心臓のみを健康だった頃に戻す”ことが可能なんじゃないですか!?」
ミートは背後の時空船“ケビンマスク号”を指し、その目的を言い放った。
「タ……タイムシップを使って!」
「オレの心臓を健康な頃に戻すだと――っ!?」
ウォーズマンもネプチューンマンもミートの案に大声を出して驚いた。
それくらい、彼の提案は突拍子もないものだったのだ。
直接可能か不可能かを問われたウォーズマンは慌てて答える。
「待てミートよ! 確かにおまえの言うことは可能かもしれない……オレのファイティング・コンピューターも同様の計算を叩き出した! しかし一点、おまえは重要な見落としをしている!」
ウォーズマンはミートのプランの問題点を指摘する。
「このタイムシップのエネルギー源となっているのは、21世紀の荒川土手に現れた時間超人ライトニングとサンダーがキン肉万太郎たちに宣戦布告をし、タイムワープの発動とともに折っていった2本の魔時角のはず! その魔時角から放たれているエキゾチック物質は20世紀にタイムワープしたことでもうほとんど残っていない……ネプチューンマンの体を完全回復させるだけの力など!」
最大の問題はエネルギー不足である。
目の前のタイムシップは、いわば使いかけの電池。
そんなもので老超人の体を健康な状態に戻すなど、虫が良すぎる話だ。
もちろん、ミートもそれは理解している。
「完全回復……は、無理でしょうね。ですから心臓のみ、数日分だけでも時間を戻すことができれば大成功といったところです。ネプチューンマンほどの超人なら、それだけでもパフォーマンスは大きく向上……“新星・ネオ・イクスパンションズ”の戦力は爆発的に増強されるのでは?」
ミートは初めから根本の問題を解決しようとしているわけではない。
言うなれば、これは応急処置。
しかしこの応急処置により、次の一戦は万全の状態で闘える。
その意味は計り知れないほど大きく、だからこそネプチューンマンは唸った。
「ミートの言っていることは正しい。しかし……しかしだ。今タイムシップに残されたエキゾチック物質を使ってしまっては……」
目の前にあるのは使いかけの電池――だが使いかけにしておいたのはきちんと理由がある。
ミートは冷や汗を流し、しかし口元で笑う。
それはスリルを楽しむかのような表情だった。
「ええ。おそらくタイムシップはその機能を失い、あなたたちが未来に帰るためのエネルギーは枯渇してしまうでしょうね」
なにをバカな、とネプチューンマンは声を荒げる。
「そ……それでは意味がない! この闘いはケビンマスクの命を救い、時間超人の野望を挫くためのものだったはずなのに……おまえはその役目を果たした新世代超人たちに、元の時代に帰らず20世紀に骨を埋めろという気か!?」
万太郎たち新世代超人は決死の思いで……未来を救うために過去へタイムワープしてきたというのに、あまりにも残酷な仕打ちだ。
いや、問題はそれだけではない。
ウォーズマンが言う。
「素直に骨を埋められるならまだいい! いずれ訪れる未来ではキン肉万太郎やテリー・ザ・キッド、ケビンマスクたちが赤ん坊として生を受ける! そんなときに未来から来た彼らが残っていれば、量子力学でいうところの対消滅が発生し……結局歴史から存在が消えてしまうんだぞ――っ!?」
時間超人の暴虐を食い止めるために闘っているというのに、量子力学による対消滅で死んでしまっては討ち死にも同じ。
消滅の危険性があるのは、これから生まれてくる若者たちだけではない。
ネプチューンマンが続けて言う。
「オレやウォーズマンもだ! 近々復活予定の20世紀のオレたちが消えてしまえば、“キン肉星王位争奪サバイバルマッチ”でキン肉マンに加勢する手がなくなってしまう! 時間超人を倒せたとしても、邪悪神たちに正義超人界が脅かされてしまってはまるで意味がないではないか~~っ!」
ネプチューンマンもウォーズマンも、この時間軸では近日中に復活予定だ。
両者の存在は後々行われる闘いに大きく影響する。
今日さえ凌げればそれでいい。明日のことは明日の自分がなんとかしてくれる――など、ミートの考えとは思えない。
「そこでトロフィー
もちろん、ミートには勝算があった。
ただしそこには、相応のリスクがつきまとう。
「時間超人以外の3チームいずれかがトロフィー球根を手に入れれば、カオスが時間超人として完全復活してくれます! そうなればエキゾチック物質を新たに生成することも容易となり、その力を使ってエネルギーの尽きたタイムシップを再び動かすことも可能となるわけです!」
熱弁を振るうミートに、ネプチューンマンもウォーズマンも一瞬固まる。
ナイスアイディア!とはとても言えない。
「つまりミート……おまえはカオスの復活を当てにして」
「今ここでタイムシップのエネルギーを使い果たそうというのか……帰れなくなる危険性を冒してまで」
それはどちらかといえば、悪魔のようなひらめきだ。
しかしミートとて覚悟の上。
だからこそ小さな体で精一杯の勇気を振り絞っている。
「もとより、トロフィー球根が時間超人の手に渡ってしまえば、未来に帰ったとてそこは彼らの天下……ボクたちに明日はありませんよ。ならばこのミート、ここは少しでも勝率を上げるために一世一代の大博打を打つ覚悟です」
勝つか負けるか、0か10。
狂気の瞳を携え、ミートはイクスパンションズのふたりを見る。
「もちろん、こんなことを言っているボク自身は20世紀の超人なので……他人の命をベットしているも同然の極悪なギャンブルですがね。とはいえ、21世紀から来た皆さん全員の了承を得ている時間はない。だからこれは、大博打というよりは大悪事……ネプチューンマンとウォーズマンには、その片棒を担いでもらいたいんですよ」
協力者ではなく、共犯者になってくれ――とミートは言っているのだ。
ネプチューンマンは苦笑いを浮かべる。
「まったく……オレはとんでもないやつに大事な話を盗み聞きされちまったみてえだ」
だが――おもしろい。
ワルを気取りたいオヤジにはぴったりの役目ではないか。
「乗るぜミート。ウォーズマン、おまえも協力してくれ」
「ネプチューンマン」
一足先に決断したパートナーに、ウォーズマンはどう応えるべきか考える。
そのときふと、タイムシップの外観が目に留まった。
そこには、ソースせんべい用のソースで書かれた船の名前があった。
「ケビンマスク号。万太郎が名付けたのか……いい名前だな」
愛弟子の名を冠する船を眺め、ウォーズマンもまた決意を固める。
「いいだろう。オレたちはもはや一蓮托生だ。時間超人にトロフィー球根を掻っ攫われたときは三人揃ってみんなに土下座でもなんでもしようぜ」
ネプチューンマン、ウォーズマン、ミートの3人の心は同じ。
未来を救うためには悪行・時間超人を倒すしかない。そのためには手段など選んではいられないのだ。
決戦は明日、富士山に並ぶあのトーナメント・マウンテンにて。
前哨戦として、ネプチューンマンたちは一世一代の賭けに打って出る。
次回準決勝組み合わせ決定。あなたの予想は?
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