ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第069話 父から受け継ぎしテクニック!

 試合はトーナメント・マウンテンの壁面に埋め込まれた巨大トーナメント表、その上から2段目――準決勝ウォーキューブ内のリングで行われる。

 観客たちは山の麓に設けられた客席からそこを見上げる形で観戦する。

 試合順が後になった“新星(ノヴァ)・ネオ・イクスパンションズ”もライバルたちの闘いを見届けるため客席に腰を落ち着けた。

 

「ネプチューンマン。カオスを気にかけているおまえには悪いが、オレはアドレナリンズを応援させてもらうぜ」

 

 隣に座るパートナーに、ウォーズマンが言う。

 ネプチューンマンは腕組みしながら答えた。

 

「別に構わんさ……だが侮るなよウォーズマン。オレが経験した前回の“究極の超人タッグ戦”では、マッスルブラザーズ・ヌーボーはこの準決勝でザ・マシンガンズを破っている。しかも勝者が敗者の覆面を剥ぐマスカラ・コントラ・マスカラルールでだ」

 

 美しい親子愛を見せつけられる結果となったあの一戦は、ネプチューンマンが正義の心を思い出すきっかけともなった。

 前チャンピオン“ザ・マシンガンズ”を破ったという実績の面ではどちらも対等。

 だがやはり、ネプチューンマンとしては“前回”の準決勝で与えられたインパクトが強く、どうしても“マッスルブラザーズ・ヌーボー”が勝つシーンが頭に浮かんでしまう。

 そんなネプチューンマンに、ウォーズマンは己の見解を述べる。

 

「おまえこそ侮るなよネプチューンマン。前回は二回戦で早々に時間超人と当たってしまい、惜しくも敗れたらしいジ・アドレナリンズだが……今回は二回戦でザ・マシンガンズとの対戦を経験し、そのタッグ経験値は何倍にもなっている。特にキッドのほうは前回とは比べ物にならないほどの成長を遂げたはずだ」

 

 師匠超えを目標に掲げるウォーズマンとしては、是が非でも“ジ・アドレナリンズ”に勝ち上がってもらいたい。

 そういった贔屓目はあるかもしれないが、それを加味してもアドレナリンズの勢いは脅威的だ。

 特に万太郎を意識するキッドの気合いは、キン肉マン打倒に燃えていたロビンマスクを想起させるものがある。

 

「グフフ……ロビンだけでなくキッドをもそこまで高く評価するか」

 

 ネプチューンマンは不敵に笑う。

 

「おまえのジ・アドレナリンズ評は正しい。だがそのうえで断言しよう。次の一戦、台風の目となるのは……キン肉万太郎だ!」

 

 自信満々といった様相のネプチューンマンに、ウォーズマンが意外そうな顔をする。

 

「カオスではなく……万太郎だと!?」

 

 ネプチューンマンがカオスに目をかけていたのは知っているつもりだったが、それを差し置いて万太郎の名が飛び出した理由はなんなのか。

 問う時間はなく、実況が準決勝戦の開幕を告げる。

 

『さあ、いよいよ始まります“究極の超人タッグ戦”準決勝第1試合! 決戦の地であるトーナメントマウンテンのウォーキューブへと続く花道、そこに真っ先に姿を現すのはいったいどちらのチームか。“ジ・アドレナリンズ”か? “マッスルブラザーズ・ヌーボー”か~~っ!?』

 

 入場セレモニーの開始である。

 扉が開く――レッドコーナーの控室だ。

 現れたのは、西洋騎士を思わせる鎧姿に鉄仮面の超人である。

 

『まず出てきたのは“仮面の貴公子”! ジ・アドレナリンズの一角ロビンマスクだ――っ!』

 

 ロビンマスクはデビュー当時から不動の人気を誇る超人。

 送られる声援の量はまさに怒涛。

 宿敵マシンガンズを下した今、今大会一番人気と言っても過言ではなかった。

 

『その歩みは先ほどの“綱引きの儀”とは打って変わって落ち着きを払った様子。他三人が若さあふれるニューカマーということもあり、彼にはベテランらしい熟達したファイトが期待されます』

 

 実況に対し、ロビンマスクは自嘲気味に笑う。

 

「フッ……ベテランらしい、熟達したファイトか。他三人の若々しさに感化された今の私が、はたしてそんな期待に応えられるかどうか……」

 

 ロビンの紹介が終わったタイミングで、今度は金髪の超人が控室から出てきた。

 

『続いてチームリーダー、テリー・ザ・キッドの入場です! 一回戦と二回戦では祖国アメリカの星条旗をあしらったレスリングユニフォームを着用していましたが、今回は普段着ている襟付きのコスチュームにプロテクターを装着した、通称“ヘラクレス・ファクトリー・スタイル”で試合に臨みます!』

 

 慣れ親しんだ格好での出陣は、万太郎への対抗意識の表れだろう。

 その心理が見え透いているからこそ、スカーフェイスとジェイドは心配を募らせる。

 

「キッドのやつ、明らかに万太郎を意識してやがるぜ」

「あの過剰な対抗意識が裏目に出なければいいが……」

 

 花道を歩くキッドは、いつもよりファンサービス控えめ。

 それだけ闘争心を研ぎ澄ませているということだろう。

 トーナメント・マウンテンの真下までたどり着いたアドレナリンズのふたりは、専用の階段から準決勝のウォーキューブまで登っていく。

 ほどなくしてウォーキューブに到達し、準決勝のリングに上がった。

 

『ジ・アドレナリンズが今、トーナメントマウンテンの純白のリングにいち早くリングイン!』

 

 アドレナリンズの入場が終われば、次はその対戦相手の番だ。

 グリーンコーナーの控室に注目が集まり、すぐに扉が開いた。

 

『さあ、マッスルブラザーズ・ヌーボーも出てきたぞ! まずはキン肉マングレートⅢあらため、カオスが登場だ――っ』

 

 二回戦で鮮烈なデビューを果たした新進気鋭の超人、カオス・アヴェニールである。

 

「カオス――ッ!」

「カオス! カオス!」

「カオス、ガンバレー!」

 

 カオスに声援を送るのは、未来からやってきた二階堂凛子や、がきんちょハウスの子供たち。

 のみならず、これまでの闘いを見てファンになった多くの人々だ。

 

『あ――っとカオス、早くも大人気だ! 二回戦の2000万パワーズ戦での劇的な正体明かし、さらにはリング外に飛び散ったバーニングコートから観客を守るなど、素晴らしい正義超人っぷりを見せたことが影響しているのでしょうか!』

 

 人気者と言われても、経験の浅いカオスは愛想を振りまくことに慣れていない。

 それゆえなにも飾らない真面目な表情で、まっすぐに花道を歩んでいく。

 

『さあ~~っ、カオスに続きチームリーダーのキン肉万太郎が……おっと、なかなか出てこないが……?』

 

 カオスが花道をかなり進んでも、パートナーの万太郎は出てこなかった。

 なにかアクシデントでもあったのだろうか――観客が心配し始めた次の瞬間。

 半開きになっていた控室のドアをぶち破り、万太郎が巨大なバッファローに乗って飛び出してきた。

 

『な、なんだ~~っ!? 控室のドアをぶち破り、突如巨大な暴れ牛が飛び出してきた――っ! その背にはキン肉万太郎の姿が……これは“ファイティング・ロデオマン”の異名を持ったテリー・ザ・キッドのお株を奪うブル・ライディングスタイルでの入場だ――っ!』

 

 ダイナミックにもほどがある入場に、観客たちも歓声を上げる。

 

「“ファイティング・ロデオマン”がなんぼのもんじゃい! おまえなんてどうせ家の牧場のちっこいお馬さんくらいしか乗りこなせないんだろう! その点、このボクなら獰猛なバッファローだって乗りこなしてみせるぜ――っ!」

 

 本場のカウボーイも唸るようなテクニックでバッファローを駆る万太郎。

 しかし、そのスピードはバッファローが走っているにしては鈍い。

 というか――

 

『い……いや! しかしよく見ると万太郎が乗るバッファローはハリボテだ! 足も竹馬です! 花道をゆく姿もフラフラでスピートが乗っていない~~っ!』

 

 キッドとの対戦が決まったのはついさっき。

 そんな短時間に彼を意識してバッファローなど用意できるはずもなく、また万太郎にブル・ライディングの心得もなかった。

 

「のわ――っ!?」

 

『万太郎、コケた――っ!』

 

 だから必然、こうなる。

 会場は“どっ”と笑いが起こる。

 

「わははははっ!」

 

 客席のキン肉マンはそれでこそキン肉族だ、と大口を開けて笑っていた。

 

「あーあー、なにやってんだか」

 

 そんなキン肉マンのそばに、小柄な体躯の超人が呆れた素振りで歩み寄る。

 古くからキン肉マンに仕えてきたお付きのミートくんだ。

 

「ミート、おまえマッスルブラザーズ・ヌーボーのセコンドに付く予定だったんじゃ……」

 

 キン肉マンは言う。

 彼らふたりは“究極の超人タッグ戦”が始まる前、ミートが新世代超人(ニュージェネレーション)との協力を訴えたことがきっかけで絶縁状態となっている。

 絶縁状を叩きつけた張本人であるキン肉マンとしては、この対面は気まずいものがあった。

 

「その予定だったんですが……万太郎さんがジ・アドレナリンズとの試合にセコンドはいらないと断りまして。聞けば未来に行われる超人オリンピック・ザ・レザレクションで万太郎さんがケビンマスクに敗北したときも、不幸な巡り合わせでボクがセコンドに付けなかったそうです。ロビンマスクにはなるべくそのときと同じ条件で勝ちたいと……」

 

 ミートもまた気まずそうに頬を掻く。

 

「というわけで、出戻りのような形にはなりますが……不肖ミート、今一度王子のお傍に置かせていただきたく思います」

 

 そう言って大仰に傅くミート。

 そうまでされては、キン肉マンも無碍にするわけにはいかない。

 

「ふ、ふん。よかろう。わたしも毎日のパンツを洗う手が足りなくて困っていたんだ」

 

 主人としての面目を保つためにも偉そうに言うが、その声色は喜色に富んでいた。

 隣りにいたテリーマンはフッと微笑む。

 

「やれやれ、素直じゃないな」

 

 キン肉マンとミートが一応の仲直りを果たしているその間、“マッスルブラザーズ・ヌーボー”はウォーキューブに繋がる階段を登っていた。

 

『さあ、アドレナリンズのふたりに引き続き、マッスルブラザーズ・ヌーボーのふたりもウォーキューブに入ってきたぞ!』

 

 すぐさまリングに上がる万太郎とカオス。

 先に待ち構えていたアドレナリンズと顔を突き合わせた。

 

『四者が睨み合う――っ』

 

 眼光鋭く敵意を放つ両チーム。

 特に万太郎とキッドの間にはバチバチと火花が散っているようだった。

 

「キッド~~ッ」

「万太郎~~ッ」

 

 もはや待ったなし。

 頃合いと見たハラボテが木槌を握る。

 

『それでは只今より、“究極の超人タッグ戦”準決勝第1試合を開始する!』

 

 カーン!

 爽快な金属音が鳴り、ついに準決勝の幕が上がった。

 

『今、大会運営委員長ハラボテより開戦のゴングが鳴らされた――っ』

 

 勢いよく前に出たのは、アドレナリンズのテリー・ザ・キッドである。

 

「さっそくオレからいくぜ!」

 

 キッドの瞳は一直線に万太郎を見据えていた。

 

「出てこい万太郎! ヘラクレス・ファクトリーの真の実力ナンバーワン超人は誰か、この一戦でわからせてやる!」

 

 これ以上ないほどストレートに万太郎を挑発するキッド。

 だが万太郎は簡単にヒートアップしたりはせず、冷めた目でキッドを見た。

 

「よく言うよ。成績じゃガゼルマンやセイウチンより下のくせに」

 

 万太郎は20世紀の少年漫画によくいるような熱血漢ではない。

 21世紀の時流に沿った、どこか斜に構えたところがあるイマドキの若者だ。

 ナンバーワン決定戦なんてダサくて暑苦しい。そんな思考だからこそ、キッドの挑発にも乗るわけがなかった。

 

「カオス……ここは」

「ああ。わかってる」

 

 万太郎が目で合図を出すと、パートナーのカオスが前に出た。

 

『お――っとマッスルブラザーズ・ヌーボー、キッドの挑発を無視してカオスが先に出るようだ――っ』

 

「おい! ビビったか万太郎!?」

 

 誘いを蹴った万太郎に、キッドは怒鳴り声を上げる。

 しかし万太郎はまるで意に介さず、べろべろば~と変顔でキッドをおちょくってみせた。

 

「ボクは対ロビンマスクのために体力を温存しとかないといけないんだ。キッドなんかに構ってるヒマないんだよ~ん」

 

 ぐぬぬ……と顔を歪ませるキッド。

 怒ってくれるなら好都合。怒れば怒るほど、キッドは動きに精彩を欠くことだろう。

 

「そういうことだ。まずはこのカオスを倒し、万太郎を引っ張り出してみせるんだな!」

 

 カオスはキッドの出鼻をくじくべく、自ら間合いに踏み込んでいった。

 まず繰り出すのは、スピードを意識したパンチである。

 

『カオス先制! 軽快なフットワークでキッドに接近し、ジャブを打っていく――っ!』

 

 あらゆる打撃系格闘技の基本、それがジャブだ。

 威力は度外視、当てることを重視したパンチの速射砲。

 それらは来るとわかっていても容易に捌けるものではない。

 

「フッ! フッ!」

 

 カオスの拳がキッドの顔面を打つ、打つ、打つ。

 防御は間に合わず、回避を試みてもすぐに距離を調整される。

 確かな技量の感じられる先制攻撃に、エプロンサイドに回ったロビンマスクが感嘆する。

 

「間合いの取り方が上手い……2000万パワーズとの一戦と比べても、明らかにレベルアップしている。キッド! 下から崩せ――っ!」

 

 ロビンの助言を受け取り、キッドが身を低くした。

 

「おらぁ――っ!」

 

『キッド、タックルにいった――っ!』

 

 電光石火でカオスの腰に掴みかかるキッド。

 通常ならこのまま倒されてしまうだろうが、カオスは重心を低くしてタックルの衝撃に耐える。

 

「読んでいたぜ!」

 

 予測していたからこその迅速な対処が、キッドのタックルを潰した。

 

『しかしカオス、キッドの上から覆いかぶさりテイクダウンを阻止~~っ!』

 

 腰にしがみつきながらも倒せないキッド、そして腰にしがみつかれながらも倒れることのないカオス。

 お互いに腰を取り合い、力をぶつけ合う。

 

『あ~~っと膠着状態! キッドとカオス、お互い腰の強さで張り合っているぞ! どちらが相手をキャンバスに倒すかの勝負が始まった――っ!』

 

 体勢的にはカオスがやや有利。

 だがタックル勝負となれば、キッドのほうにこそ分がある。

 

「なめるな――っ! テリー一族は足腰の強さが最大のウリ……有象無象のそこらの超人が張り合えるもんじゃね――っ!」

 

 キッド、そしてその父テリーマンは、スピニング・トゥホールドやテキサス・クローバー・ホールドなど多種多様なグラウンド技を得意とする。

 それらの技を発動するためには相手を倒すことが必須。ゆえに、その最適手段であるタックルは人一倍練習を行うのだ。

 何万回と繰り返してきた努力の結実。カオスの身が倒されるのは必然だった。

 

『あ――っとキッドがカオスをテイクダウン!』

 

 膠着状態となってしまえば、テリーマンの血を引くキッドには敵うまい。

 超人レスラーのオタクであるカオスにとって、そんなことは初めからわかりきっていた。

 だからこそ、倒されても慌てたりはせず次の手を打つ。

 

『い、いや!? これはカオスの罠だ! すぐさま体を反転しキッドを逆マウントポジション!』

 

 相手のマウントポジションが完成する前に、体勢を入れ替えて逆にマウントポジションを取る。

 仰向けになったキッドの腰の上でカオスが馬乗りになり、抵抗ができないようバランスを整えた。

 

「させるか――っ!」

 

 その途中で、キッドの腰がブリッジを描くように持ち上がった。

 

『キッド、腰の強さだけで上に乗ったカオスを跳ね上げる――っ』

 

 馬乗りになっていたカオスはもちろん落馬。

 しかしそう対処されることすら見越していたのか、即座に思考を切り替えキッドの足先に手を伸ばした。

 

『振り落とされたカオス、すぐにキッドの足を取りに行く――っ』

 

 キッドの両足首を掴み、そのまま持ち上げる形で自身も立ち上がろうとした。

 

『これは、アンクルホールド……いや! キッド、すぐに足を抜いて躱した――っ!』

 

 経験豊富な超人レスラーならば、予備動作のひとつで相手の仕掛けたい技がわかるもの。

 カオスの手から逃れたキッドの両足は、すぐさま逆襲のための矛となる。

 

「セリャ――ッ!」

 

『カオスの顔面に蹴りを入れつつ起き上がる――っ!』

 

 倒立気味に繰り出したキックはクリーンヒット。

 カオスはたまらず距離を取り、体勢を整えるべくあらためて立ち上がった。

 それならば、とキッドも立ち上がって構える。

 

『勝負は再びスタンドに!』

 

 開幕のスタンド対決はカオスのジャブによる先制から始まった。

 同じ轍は踏まない。

 キッドは極限まで身を沈めた体勢から、駒のように旋回する回転蹴りを繰り出した。

 狙いはカオスの足である。

 

『今度はキッドの地這い脚(アースクリップキック)だ! カオスを転ばせる――っ』

 

 スタンディング勝負と思わせてからのグラウンド再戦。

 キッドは素早くカオスの左脚を取り、必殺技(フェイバリット)を仕掛けようとした。

 

「いくぜ! スピニング・トゥホールド!」

 

『そして自身の得意技へ~~っ』

 

 テリー一族の体格に合った先祖代々伝わる至宝のごとき関節技。

 しかしながら、必殺技の発動にはどうしても大きな挙動が必要となる。

 とりわけパフォーマンス癖の強いキッドのスピニング・トゥホールドは「これから大技を仕掛ける!」という見栄が仇となり、ダメージの蓄積していない試合序盤では弱点として突かれる傾向があった。

 

「技への移行が遅い!」

 

 カオスは見事にその弱点を突き、キッドが脚を差し込む前に抵抗する。

 

『あ――っとカオス、両脚を大きく振り回し、キッドを蹴散らした――っ!』

 

 暴れるカオスの脚を抑えておくことができず、キッドはスピニング・トゥホールドを諦め後退した。

 カオスはその隙に立ち上がり、ふたりは三度スタンディング状態で向かい合う。

 

『両者の間に再び距離が生まれます!』

 

 仕掛けては返し、仕掛けては返す――準決勝第1試合の立ち上がりは拮抗していた。

 この展開はイメージとズレるものだったのか、キッドは険しい表情を浮かべる。

 

「カオス……2000万パワーズの試合を見た限りは勢い任せで経験値に欠ける印象があったが、基礎のレスリングテクニックもしっかりしてやがる。パパ……テリーマンに幼い頃から手ほどきを受けていたオレがたやすく崩せないとは」

 

 あのバッファローマンやラーメンマンと渡り合った相手だ。

 決して侮っていたわけではないが、それでも予想以上。これでデビュー間もないとは。

 キッドの畏怖を交えた称賛に、しかしカオスは喜ぶこともなく失笑する。

 

「フッ……パパか」

 

 口にした単語は、自身の実力に関するものではなかった。

 

「なにがおかしい!?」

 

 試合中に父の名を出したことを馬鹿にされたのだと思い、キッドは声を荒げる。

 だがそれは勘違いだ。

 

「おかしくなんてないさ。ただ似ていると思ったんだ」

 

 カオスは穏やかな表情、穏やかな口調でそう言う。

 

「似ている……オレとカオスが?」

 

 キッドはカオスのことをほとんどなにも知らない。

 万太郎がこの20世紀の地で見つけ出した知られざる実力者――その実力のルーツは、実はキッドと非常に近しいものがあるのだ。

 

「オレも尊敬する父、ミニッツ・アヴェニールに幼い頃から格闘技の手ほどきを受けていた。ひとつ技を覚えるたびに褒められ、頭を撫でられてから誇らしげにたかいたかいされていたっけな……」

 

 アヴェニール王国の王族として生まれ、国王であった父に直接鍛えられてきたカオス。

 反抗期など訪れる前のことだ。父の愛には子の愛で応え、円満な親子関係の中で力を磨いてきた。

 テリーマンを語るキッドを見ていると、カオスはどうしてもその頃の自分を思い出してしまう。

 

「父から教わった技術に強い自信と誇りを持つキッドには、親近感を覚えるよ」

 

 楽しい思い出を振り返るような――しかしもうそんなときは戻ってこないというような哀愁を漂わせながら。

 

「カオス……おまえ……」

 

 多くを語らずとも、キッドはカオスの言う尊敬する父になにがあったのかを察した。

 それに比べ、父の若い頃と真剣勝負を繰り広げ、今もそばで見守ってもらえているキッドのなんと幸福なことか。

 キッドが己を恥ずかしく思い、一瞬目線を伏せた――その瞬間だった。

 

「ゆえにテリー一族に教えてやるぜ! アヴェニール一族秘伝の超人レスリングテクニックってやつを!」

 

 カオスは表情から瞬時に哀愁を消し、後ろのリングロープを駆け上がる。

 

『カオス、ロープ上段から跳んだ――っ!』

 

 トップロープの反動を活かした大跳躍。

 カオスは元々グレートマスクを被っていた。狙いは初代グレートの得意としていた空中からの蹴り技か。

 キッドは打撃に対抗するためその場で身構えるが、カオスのジャンプ幅は大きく、標的を軽々飛び越した。

 蹴らず、着地したのは――背後。

 

『キッドの背後に降り立ち……その胴体をキャッチする――っ!』

 

 一瞬で背後に回るための大ジャンプだったか!

 キッドが気づいた頃にはもう遅い。

 背中側から胴に両腕を回したカオスは、そのまま美しい曲線を描いてキッドを後ろに反り投げる。

 王に鍛えられ、王に褒められた、カオスが一番得意とするその技は――

 

「キングジャーマン!」

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