ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第007話 葛藤する老兵!

 間引きバトルロイヤル終了後。

 勝利した12チームは本戦トーナメントの抽選会が始まるそのときまで、各々の控え室で待機していた。

 

「さっきは無様な姿を見せてすまなかったな……セイウチン」

 

 椅子に座りながら、ネプチューンマンが消沈した様子でセイウチンに頭を下げる。

 先ほど見せてしまった失態を詫びたかったのだが、セイウチンは一向に気にしていない風だった。

 

「気にするこたぁねえだよ。同じ21世紀から来た仲間がやられたんだ……オラだって実は気が動転しちまって、泡でも吹いちまいそうなところだったんだ」

 

 笑いながらそう言うセイウチンには、相手を気遣う優しさが垣間見えた。

 

「それに、オラ嬉しかったんだ」

「嬉しかっただと?」

伝説超人(レジェンド)で大先輩であるあんたが、新世代超人(ニュージェネレーション)であるイリューヒンとバリアフリーマンの死にあれだけ憤ってくれた。オラたち、キン肉マンたち20世紀の正義超人にずっと詐欺師だのなんだの言われて針の筵を味わってきたもんだから、なんだか救われた気分だっただ……」

 

 否、ただの気遣いではない。おそらくは本心からの言葉なのだろう。

 イリューヒンとバリアフリーマンを失ったのは残念だが、彼らの友だったセイウチンは下を向いてばかりではないのだ。

 

「フッ……キン肉マンか」

 

 話題に出た男のことを思い、ネプチューンマンは苦笑する。

 

「あのニンニク臭い男は格別苦労するだろうが、伝説超人たちも愚か者ばかりじゃない。おまえたちのこともいつかは認めてくれるさ……生きた時代が違えど、同じ正義超人なんだからな」

 

 キン肉スグルという男は筋金入りの意地っ張りだが、ネプチューンマンは彼が後々心を開いてくれることを知っている。

 未来を語ることはできないが、せめてセイウチンは安心させてやろうと言葉を紡いだ。

 

「そういえばネプチューンマン。オラたちタッグとしての練習はほとんどしてねえってのに、なんだって先の間引きバトルロイヤルではあんなふうに立ち回れたんだ?」

 

 先の試合で見せたコンビネーション、そしてクロス・ボンバーのことを言っているのだろう。

 セイウチンの疑問はもっともだが、ネプチューンマンにとってはさして驚くほどのことでもない。

 

「オレがおまえに合わせた。ただそれだけのことだ」

「それだけって……それだけであんなに息ぴったりに?」

 

 話すまいと思っていたが……今のセイウチンには話してしまってもいいのかもしれない。

 ネプチューンマンはそう思い、やや軽い口ぶりで語ってみることにした。

 

「フッ……実はな、おまえは知らんかもしれないが、オレとおまえがタッグを組むのは今回が初めてじゃないのさ。おまえが技を出すタイミング、こちらにしてほしいムーブなど、手に取るようにわかる」

「はあ? なーに言ってるだ。あんた本当に耄碌しちまっただか?」

「クク……ジョークだよ、ジョーク。おまえまで時間超人たちのようなことを言わんでくれ」

 

 しかし、やはりそう簡単に信じてもらえる話でもない。

 よもや目の前にいる男が一度裏切り、その末に死亡、タイムスリップ中にさらにタイムスリップをして“究極の超人タッグ戦”をやり直しているなど……全容を語ったところで、ボケを疑われるのがオチだ。

 

 これ以上、耄碌したジジイと思われるのは御免被る。

 ネプチューンマンは腰を上げ、控え室の扉に向かっていった。

 

「どこへ行くだ?」

「今後のことで少し考えをまとめたい。抽選開始の時間までには戻る」

 

 それだけを告げ、ネプチューンマンはひとり控え室を出た。

 セイウチンには悪いが、考え事をするならひとりになりたい。

 なにせ“前回”を知るという秘密を抱えるのは己だけ。

 このアドバンテージを活かす方法は、誰にも相談できない。

 

(結局、トーナメントに参加する12チームの顔ぶれが変わることはなかった。イリュージョンズと火の玉飛爺隊の顛末が少し変わった程度か……これはつまり、未来はそう簡単には変わらないということなのか?)

 

 会場の通路をゆったり歩きながら、ネプチューンマンは考えを巡らせる。

 

(このあとの抽選会、俺の知る歴史どおりなら時間超人共はシード枠に収まる。もし結果を変えられるならやつらはシードから引きずり下ろしたいところだ。少しでも時間超人撃破の可能性を上げるために……だが)

 

 次の“究極の超人タッグ戦”本戦トーナメントの抽選結果が“前回”と同じ組み合わせになるとは限らない。

 もし“前回”から結果を変えることができるのならば、我が身が直接“世界五代厄(ファイブ・ディザスターズ)”を叩きにいくこともできる。

 しかし、しかしだ。

 

(勝てるのか~~っ? この段階でやつら、悪衆・時間超人に~~っ? あの野郎共はまだまだ奥の手を隠し持っており、体力も充分……少なくとも、今のオレとセイウチンの“ネオ・イクスパンションズ”じゃ勝ち目はねぇ~~っ)

 

 ネプチューンマンは弱気になっていた。

 なにせ時間超人のふたりには一度煮え湯を飲まされている……どころか、富士山の火口に叩き落されマグマを飲まされるところだったのだ。

 セイウチンがまだまだ経験不足である事実、時間超人がまだ見せていない奥の手のことも考えれば、自分たちの勝算は皆無といってよかった。

 

(セイウチンのさらなる成長と時間超人の持つ能力への対策を盤石にし、そしてやはり“あの力”を使わなければ勝つことはできないか……だとすればこのあとの抽選会ではどう立ち回るのがベストだ? 時間超人は下手にシードから引きずり下ろさないほうがいいのか? 引きずり下ろしたとして誰が相手をする? 逆にオレとセイウチンはどのタッグと対戦すべきだ? そもそも超人委員会の用意する抽選用のガチャガチャマシーンを完全にコントロールすることはできねぇ~~っ。ウオー、いったいどうすればいいんだ――っ!)

 

 自分たちの実力、時間超人の危険度、伝説超人と新世代超人の不和、トロフィー球根(バルブ)狙いの悪行超人たち、銭ゲバの宇宙超人委員会……考えることが多すぎて、考えがまとまらない。

 最善手を模索するネプチューンマンが頭を抱え始めた、そのときである。

 

「チクショ――――ッ!!」

 

 通路の奥のほうから、誰かの大声と壁を殴りつけるような音が聞こえてきた。

 ネプチューンマンは曲がり角の陰に身を潜めながらその正体を探る。

 

(あれは……ブロッケンJr! それにジェロニモも!)

 

 通路の奥にいたのは、軍服軍帽の超人ブロッケンJrと、インディアン風の出で立ちをした超人ジェロニモ。

 共に伝説超人としては若者の部類のふたり。

 どうやら壁を殴りつけていたのはブロッケンJrのほうらしい。

 

「ブ、ブロッケンさん……そんなに壁を殴ったら拳がイカれちまうだ」

 

 興奮するブロッケンJrをジェロニモが冷静に諭しているようにも見える。

 荒く息をつくブロッケンJrの様子から察するに、彼の壁面殴打の理由は怒り、それに悔しさか。

 

「クソ……不甲斐ないぜ。あの胡散臭い新世代超人とかいう連中が仲間のために命を懸けて闘ったっていうのに、オレらはトーナメントに参加すらできず、ただ悪衆・時間超人の暴虐を見ていることしかできないなんてよ……」

 

 それはどうやら、ケビンマスクを救うために闘った新世代超人、そしてキン肉万太郎を救出するために我が身を犠牲にしたイリューヒンとバリアフリーマンのことを言っているようだった。

 彼らはただ万太郎を救いたかっただけではなく、グレートⅢ――カオスの将来性に懸けていたフシもあった。

 だからこそ、生き残ってくれていれば良き先輩としてカオスを導いてくれたかもしれないのだが……とネプチューンマンもまた悔しく思う。

 

「仕方ねえだ。オラもブロッケンJrもお互い先の“宇宙超人タッグ・トーナメント”での傷が癒えてねぇ。それにオラのパートナーだったテリーマン先輩はキン肉マンとザ・マシンガンズを再結成したし……ブロッケン先輩のパートナーだったウルフマンは……」

「ああ、わかってる」

 

 ネプチューンマンにとっては34年前の出来事だが……“夢の超人タッグ戦”において、ブロッケンJrは突如乱入したケンダマン&スクリュー・キッドの襲撃にあい腹に風穴を開けている。それだけではなく、パートナーだった超人相撲の名手ウルフマンは絶命したままだ。

 ジェロニモもまた同じく、“はぐれ悪魔超人コンビ”に重傷を負わされたばかり。傷が癒えぬままでは今回の“究極の超人タッグ戦”に参加する意味はないと、エントリーを断念したのだろう。

 

「21世紀の超人たちやトロフィー球根狙いの超人の参戦で、トーナメントのレベルはグッと上がった。そんな中で手負いのオレたちが優勝争いに食い込める見込みはねぇ……だがよぉ、オレたちだってアリサさんを助けたいんだ。粉骨砕身で挑めば時間超人に手傷を負わせるくらいのことはできるはずだぜ」

 

 ブロッケンJrは拳を握り、打倒時間超人への激情を滾らせる。

 その鬼気迫る様子に、ジェロニモは押され気味だった。

 

「それはオラもそう思うだが……」

「……そ、そうか!」

 

 なにかを閃いたのか、ブロッケンJrはジェロニモの両肩を掴んで言う。

 

「ジェロニモよ! いっそのことオレたちでタッグを組み、“究極の超人タッグ”に乱入しちまうってのはどうだ!?」

「ら、乱入!?」

 

 思いもよらぬ提案にジェロニモは驚き、陰で見ていたネプチューンマンも思わず声を上げそうになった。

 

「ああ、そうだ。すでに出場が決まった12チームの誰かを襲撃して、枠を奪っちまうんだよ。そして一回戦から時間超人を狙いにいく! 襲撃する候補は、そうだな……あのジェイドとかいうヘルメット野郎のいるチームがいい。やつはどうにも信用ならねぇ」

 

 とんでもない計画を企てるブロッケンJr。しかもそのターゲットが未来の弟子であるジェイドとは。

 ネプチューンマンは出ていこうかとも思ったが、それよりも先にジェロニモが拒否反応を示した。

 ブロッケンJrの体を強く押し、怒気をまとった声で言うのだ。

 

「バカ言っちゃいけねぇ~~っ! あんたそりゃ、あの“はぐれ悪魔超人コンビ”やケンダマン&スクリュー・キッドの完璧超人組と同じことをしようってことか!? いくら時間超人討伐のためとはいえ、そんな正義超人の矜持に背くような真似にオラを誘わんでくれ!」

「な、なに~~っ」

 

 ブロッケンJrもここまで拒絶されるとは思っていなかったのか、ジェロニモに食ってかかろうとした。

 しかしジェロニモの感情のほうが勝り、ブロッケンJrの軍服の襟を掴んでさらに語気を強めた。

 

「あんたのパートナーだったウルフマンはその乱入のせいで命を落としたはずだ――っ! なのにあんたは、ウルフマンの見ている前でそんだらことができるっちゅーズラか――っ!」

「ウッ……」

 

 その迫力にブロッケンJrは言葉を失い、しゅんと肩を落とす。

 

「オラ、この前まで人間だったもんで……あんたほど正義超人の使命ってやつがわかってねぇかもしんねぇ。それでも絶対に譲れない一線ってもんがあるズラ」

 

 ジェロニモがブロッケンJrから手を離すと、ふたりの間にややの沈黙が訪れる。

 ほどなくしてブロッケンJrのほうから謝罪を口にした。

 

「悪かった……悪かったよジェロニモ。今はオレたちにできることを考え直そう」

「んだ」

 

 ブロッケンJrもジェロニモ、互いが信じる正義超人としての矜持を貫こうとしたのだろう。

 ネプチューンマンにも思うところがある。

 それについて考え始めた矢先、ふとある人物の姿が視界に入った。

 

(あれは……ジェイド!)

 

 通路の奥のさらに奥側、新世代超人のひとりジェイドが、ネプチューンマンと同じように物陰からブロッケンJrたちの様子を窺っていた。

 

(ジェイドは師匠であるブロッケンJrを慕っていた。トーナメント出場を前にしても、全盛期の師匠が気になって仕方がないってところか)

 

 師匠の動向を見守る弟子という構図に、ネプチューンマンは思わず笑ってしまう。

 師といってもこの時代のブロッケンJrはまだまだ若者の部類。

 このふたりの関係もまた、“前回”とは違う結果が訪れるかもしれない。

 

「フッ……戻るか」

 

 ネプチューンマンは三人に気づかれぬよう、元来た道を戻った。

 

(それにしても……なんとも立派な正義超人魂じゃねえか、ブロッケンJr。時間超人に手傷を負わせるためだけにトーナメントの乱入を考えるとは。そうだな……やはりここは、時間超人をシードから引きずり下ろすことが最優先だ。試合数が増えればその分やつらの負担も増し、トーナメントが進むにつれて消耗していく……誰が対戦するかは二の次! このあとの抽選会ではまずはそこに全力を注ぐ!)

 

 ブロッケンJrの闘志に触発されたネプチューンマンは、そう方針を決定した。

 打倒時間超人のチャンスは多ければ多いほどいい。

 そのためには多少、正義超人の矜持に背く手段も取らなければならないだろう。

 

(ん……? あれはジェイドとスカーフェイスのタッグ、スーパー・トリニティーズの控室か)

 

 通路を歩く途中、扉が半開きになっている控え室が見えた。

 扉に書かれたタッグ名を確認し、怪訝に思う。

 ジェイドは先ほど外に出ているのを見かけたため、この中には――

 

「ジェイドの野郎――ッ! どこで油を売ってやがる――っ!」

 

 スカーフェイスただひとりだった。

 ネプチューンマンはおそるおそる部屋の中を覗く。

 そこには案の定、不在のパートナーに怒り狂うスカーの姿があった。

 

「チッ、もうすぐ本戦トーナメントの抽選会だってのに、ミーティングを放り出しやがって。自分勝手な野郎だぜ」

 

 スカーの気持ちはわからないでもない。この時期のジェイドは師匠の全盛期の姿に興奮し、協調性を欠いている面がわずかにあった。

 とはいえ、それをスカーが言える立場ではないとも思うのだが。

 

「まあいいさ。誰と対戦することになっても関係ねぇ。オレたちをペテン師扱いする伝説超人……歴史に名も残ってねぇ有象無象のタッグ……たとえ同じ新世代超人だとしても……勝ち残るのはオレたちスーパー・トリニティーズだ~~っ」

 

(うん……?)

 

 スカーフェイスが独り言を口にする様子を観察しながら、ネプチューンマンは冷や汗が流れ出るのを感じた。

 20世紀の女性ファンにはハンサムと評されたスカーフェイスの相貌が、悪っぽく歪む。

 それは、ただ勝利を求めるだけの表情ではなかった。

 

「そしてトーナメント・マウンテンの頂点に立ち、トロフィー球根を手に入れる。完全無比の超人遺伝子(ゲノム)を内包し、食えば“完全無比(コンプリート)超人”になれるという球根をな~~っ」

 

 ネプチューンマンは気づいてしまった。

 スカーフェイス&ジェイドのスーパー・トリニティーズといえば、ネプチューンマンが“前回”一回戦で闘ったタッグチーム。

 その闘いの中で、スカーフェイスがどんな蛮行に走ったかを。

 

「時間超人など所詮、オレさまが栄光を掴むための踏み台よぉ~~っ」

 

 そう。

 この時期のスカーフェイスは新世代超人でありながら……悪行超人のようにトロフィー球根の魔力に取り憑かれていたのだ!

 

「あ、あ……あああ~~~~っ!」

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