ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ” 作:速筆魔王LX
仲違い。
タッグマッチにおいてはそう珍しくもないトラブルだ。
しかしそれがまさか、あの“ザ・マシンガンズ”を破りチームワークは盤石と思われた“ジ・アドレナリンズ”の間で起こるとは。
「し……失望……ロビンがオレのことを……」
信頼していたパートナーに三行半を突きつけられ、テリー・ザ・キッドは愕然とする。
ロビンマスクのあんまりな物言いに、怒り狂ったのは対戦チーム“マッスルブラザーズ・ヌーボー”のカオス・アヴェニールだ。
「テメー、ロビンマスク! パートナーが不甲斐ないからって、なにもそこまで言うことはねえじゃねえか――っ!」
エプロンから怒声を放つカオス。
正義超人への憧れが強い彼だからこその感情論をぶつけるが、ロビンマスクはまるで動じない。
「フフフッ……あまいんだよカオス。私たちの標的は愛する妻に凶刃を振るい、未来の息子を消滅の危機に追いやる悪衆・時間超人! それをあともう一歩というところまで追いつめているんだ……ハートの弱い足手まといなど不要!」
かつてアイドル超人軍と呼ばれた者たちのリーダー格として厳しい意見を口にするロビン。
正義を貫くには、不要なものを切り捨てることも必要。ゆえにロビンは手を伸ばす。
「さあタッチだ! おまえが敵わなかったキン肉万太郎は私が倒してやる! このキン肉マンに勝利した男、ロビンマスクが!」
『あ――っとロビンマスク、キッドにタッチを要求! しかしキッドはもちろん、向かい合う万太郎も動こうとはしないぞ――っ』
横暴とも取れるロビンの判断。しかし正義超人としての使命を重んじれば、英断とも取れる。
問題となってくるのは戦力外通告をされたキッドの心中である。
「キッド……」
試合中ではあるが、キン肉万太郎は友人としてキッドを心配せずにはいられない。
「ハートが弱いか……それを言われちまったらな」
キッドは気落ちした様子でそうつぶやき、とぼとぼとロビンのもとへ歩いていった。
交代を求め開かれた掌を見つめながら。
拳を振りかぶる。
「バカにするんじゃね――っ!」
掌にタッチ――ではなく、そのいけ好かない仮面にガンッ!と鉄拳を叩き込んだ。
『な……なんとキッド、パートナーであるロビンマスクを殴りつけた――っ!』
仲違いどころの話ではない。これでは同士討ちだ。
だがキッドは一切悪びれる素振りもなく、大先輩であるロビンマスクに向かって堂々宣言する。
「テリー・ザ・キッドはネバー・ギブアップが信条だ! KOされたわけでもねえのに敗北を認めるなんざ、この両肩のスター・エンブレムを掲げる者として誇りが許さねえ!」
万太郎に負けた? 失望? ハートが弱い? 足手まといだ?
知ったことか。
勝ち負けを決めるのはロビンマスクではない、このテリー・ザ・キッド様だ!
キッドは己の誇りを見せつけるべく、肩の装着物に手をかけた。
『お――っとキッド、両肩のプロテクターを外し、あのテリーマンと同じファイティング・スピリットの象徴、スター・エンブレムを露出させた――っ』
両肩のスター・エンブレムは偉大な父親、テリーマンとお揃いだ。
ファイティングスピリットの象徴であるその星を誇示し、キッドはさらに吠える。
「それになぁ――っ! ケビンマスクはあんたにとってカワイイ息子かもしれないが……オレにとってもかけがえのない親友なんだ! そんな親友のパパをひとりで闘わせたとあっちゃ、あとでケビンにぶっ飛ばされちまう! ひとりでいいカッコなんかさせるかってんだよぉ――っ!」
キッドの鉄拳の威力、そしてあまりの迫力に圧倒され、ロビンはエプロンサイドから落ちていた。
揺れる脳を落ち着かせながら、ロビンはなんとか這い上がる。
「そ、そうだキッド……弱気になどなるな~~っ」
出てきた言葉は、先程キッドが本当に欲しいと願っていた激励だ。
「おまえの絶対にナンバーツーになど甘んじないというそのハングリー精神……“究極の超人タッグ戦”開催直前の雨の日、私はおまえのその雑草魂に惚れたんだ……あのときの判断は正しかったと、今一度このロビンマスクに示してみろ!」
ロビンはキッドを見限ってなどいない。
最初からキッドを鼓舞するつもりだった。だがストレートに励ましたところで彼は立ち上がらなかっただろう。
相手がテリー・ザ・キッドという反骨心の強い超人だからこそ、ロビンはあえて悪態をつき闘争心を刺激したのだ。
「言われなくともやったらぁ~~っ!」
そんなことはもちろんわかっていた。
キッドはロビンの期待に応えるべく、衣服にまで手をかける。
『キッド、上半身の襟付きコスチュームを完全に脱ぎ去った――っ』
コスチュームを脱ぎ去ったキッドの姿は、テリーマンと同じような上裸。
21世紀では、上裸にレスリングパンツ一丁の姿は古くてダサい、もっとおしゃれに気を配ったコスチュームを身につけるべきだ――というのが一般的な考え方であり、キッドのスタンスもその例に漏れなかった。
そのキッドが、あえて上裸になることで覚悟を示し、泥臭く抗おうとしている。
「もう少しつきあってもらうぜ、万太郎――っ!」
見栄を捨てたキッドに残っているのは、より強固になった闘争心のみ。
それを十分に理解しているからこそ、万太郎は真っ向から受けて立つ構えを取る。
「悪いけどね、キッド……おまえにとっての親友は、ボクにとって命を預けあった大事な相棒でもあるんだ。ケビンを救う役目は、誰にも譲れないよ!」
友のために、友を倒す。
万太郎もまた覚悟を決め、後方のロープに向かって走り出した。
「技を借りるよ、ケビン!」
ロープに体を預け、反動による加速をつけつつ体勢を変えた。
『万太郎、後方のロープの反動を利用して……体を矢のようにピィーンと直立させて飛び出した――っ!』
先端は両掌を合わせた鏃のような形。
そのまま弾丸のごとく旋回して飛び出せば、かつてケビンマスクが万太郎に仕掛けた突撃技が再現される。
既視感のある光景に、ブロッケンJrが声を張り上げた。
「ありゃあ……二回戦でバッファローマンに放ったマンタロー・ベアー・クローか!?」
バッファローマンのロングホーンをへし折るべく、かつて実際にその角を折ったことがあるウォーズマンの二刀流スクリュー・ドライバーを模倣した技がマンタロー・ベアー・クローだった。
しかし数日間キン肉マンの左腕の中で鍛えられたストロンゲスト・ロングホーンはただの猿真似では破壊できず、万太郎はハリケーン・ミキサーによる手痛い反撃をもらったはず。
そんな失敗を経験しているにもかかわらず同じ技を繰り出すなど、愚策にもほどがある――とブロッケンJrは思ったが、両隣にいたジェイドとスカーフェイスは彼の勘違いを正す。
「形は同じだが、おそらく万太郎が頭に思い浮かべているのはウォーズマンではない!」
「あれは万太郎の21世紀でのベスト・パートナー……ケビンマスクの技だ!」
天使のように細心に、悪魔のように大胆に――畏怖を捨てた思い切りの良い突撃は、未来において別の名を持つ。
万太郎は回転しながら叫んだ。
「マッハ・パルバライザー!」
超人オリンピック・ザ・レザレクションという激闘の中で散々見てきた、21世紀の最新型超人削岩機。
技の正体を知るキッドは、回避の素振りを見せずその場で受け止めようとした。
だが、思い切り反動をつけたマッハ・パルバライザーは素手で受け止められるような代物ではない。
『万太郎の超人削岩機が向かってきたキッドを蹴散らした――っ!』
キッドをぶっ飛ばしながら直進を続ける万太郎。
その先はロープを越え、リングの外だ。
『あ――っと万太郎、その勢いのままリング外に――っ!? いや! ロープを掴み踏みとどまった――っ!』
全力のマッハ・パルバライザーはブレーキが効かないのが難点。
万太郎はなんとかロープを使ってリングアウトを回避するが、その復帰作業には致命的な隙が生じてしまう。
「ウオオ――ッ!」
そこを狙い突進してきたのは、たった今ぶっ飛ばしたはずのテリー・ザ・キッドだった。
『なんと――っ! 万太郎が体勢を立て直すよりも先に超人削岩機に跳ね飛ばされたキッドが襲いかかる――っ!』
多量のアドレナリンがダメージをダメージと認識させていないのか、キッドは即座の反撃に移ってきた。
万太郎の体勢はまだ整ってはいない。だがここで慌てるのは相手の思うつぼ。
ギリギリまで引き付けてから、振り返りざまに脚を振り上げる。
「ドリャ――ッ!」
『万太郎、ここは冷静に後ろ回し蹴りで迎撃~~っ!』
キッドの猪のごとき突進をたやすく捌いてみせる万太郎。
ネプチューンマンが評したとおり、シャネルマンとの特訓を経た万太郎は格段に強くなっている。
がむしゃらな攻撃など、逆に大技の隙を与えるだけだ。
「万太郎! そろそろオレにもやらせろ!」
「わかってらぁ!」
おもむろにロープの上に登るカオス。
その間、万太郎はキッドの両大腿部を抱え上半身ごと持ち上げた。
『あ――っと万太郎、キッドの体をパワーボムの体勢でかかえ上げ……ロープ上段からカオスが飛んだ――っ!』
万太郎の上で宙返りを見せるカオス。
落下の途中、捕らえられたキッドの首をフックする。
『キッドの首にカオスが右腕を引っ掛けた――っ!』
カオスの体重がキッドの首にかかったタイミングで、万太郎がパワーボムを発動。
「くらえ――っ! マンカオ落とし――っ!」
パワーボムにネックブリーカードロップをかけ合わせた融合技だ。
『マッスルブラザーズ・ヌーボーのツープラトンが炸裂――っ!』
脳天を突き刺されたキッド。
激突音の大きさはトーナメント・マウンテンを揺るがすほど。
万太郎もカオスも確かな手応えを感じ、すぐにキッドから手を離した。
『キッド、再びダウーン!』
案の定、キッドはキャンバスに沈む。
失神はしていない。
だがすぐには起き上がれまい、とダウンカウントが始まった。
が、
「なっ……!?」
ワ~ン、とカウントが進んですぐ、キッドは跳ねるように起き上がったのだ。
『あ~~っとキッド、ダウンカウントたった1秒ですぐに立ち上がった――っ! ここにきてゾンビのようなタフネスを見せつけている――っ!』
ターンオーバー・キン肉バスターにマッハ・パルバライザー、そしてついにはツープラトンまで決まったというのに……なぜ立てる!?
いや、ただ立つだけではこんなにも驚きはしない。
恐ろしいのは、キッドの表情がノーダメージを疑ってしまうほどに平然と笑っているところだ。
「あわわ……」
万太郎はこれまで多くの超人と闘ってきた。規格外のタフネスを持つ超人など珍しくもない。
だけどキッドは違うだろう。同じ
「どうした? 人を化け物みたいに見て……まだまだこんなもんじゃ終われねえよな~~っ?」
チェック・メイトにスカーフェイス、ノーリスペクト三人衆にアシュラマン等――万太郎の脳裏に数々の難敵たちが思い浮かぶ。
怖い――よりにもよって一番付き合いの長いテリー・ザ・キッドに、そんなありえない畏怖を感じてしまう。
観客席では、万太郎と同じような印象を抱く超人がいた。
彼らと同じ
「む……むちゃくちゃだ。回避も防御も回復も考えない特攻……なぜパートナーのロビンマスクはキッドを止めないんだ?」
定石に従うならば、キッドの行動は悪手にもほどがある。
試合巧者のロビンマスクがそれをわからぬはずはないし、ジェイドには彼が暴走するチームリーダーを止めない意味がわからなかった。
困惑する未来の弟子に、ブロッケンJrは己の見解を述べる。
「超人には皆、それぞれ闘いにおける信念というものがある。それがいかに非合理的なものであったとしても、他者がとやかく言う権利はないのさ……キッドのように、強さの骨子となっているものであるならなおさらな」
信念を捻じ曲げた闘い方はそれこそ悪手となりうる。
GO FOR BROKE(当たって砕けろ)。
キッドは己の信念に従い、アドレナリンを爆発させた。
「万太郎――っ! オレはおまえに勝ち、ナンバーワンになってみせる――っ!」
意気込みを口にし、姿勢を低くしながら突っ込むが――
『キッドがタックルにいった――っ! しかしダメージが響いているのか、明らかにスピードが足りていない――っ』
その速度は実況の目から見ても明らかに低下している。
「そんな破れかぶれのタックル!」
万太郎は情けを見せず、序盤でカオスがそうしたようにキッドのタックルを上から押し潰した。
背中側から胴に腕を回し逆さまの体勢で持ち上げる。
『万太郎、向かってきたキッドの体をキャッチし……抱えて跳び上がる――っ!』
ウォーキューブの天井付近まで高く舞い上がる万太郎。
そこから仕掛けるのは、キン肉バスターと並ぶ48の殺人技の代表格だ。
「いくぞ! キン肉ドライバー!」
逆さにしたキッドの両脇に足をかけ、両足首を掴む。
二回戦ではキン肉マンが繰り出すも、ロビンマスクに攻略されてしまったキン肉ドライバー。
父の無念を晴らすため、また万太郎自身もかつてケビンマスクに破られたトラウマを払拭するため、ここは意地でも成功させたい。
そんな万太郎の“力み”を、キッドは利用する。
「ここだ――っ!」
両手両足のクラッチがまだ不完全な内に、大きく身を捩って拘束を解く。
『な、なんとキッドが! リング上空でキン肉ドライバーのセットアップを振りほどいた――っ!』
キン肉ドライバーから逃れたキッドはすぐさま万太郎の背中側に躍り出た。
「この技を仕掛けるには高さがいる! だからオレはやけっぱちになったフリを装い、あえて万太郎お得意の空中からの激突技を誘って……カウンターで発動させることを狙っていたんだ!」
そう、ここまでの一連の流れはキッドの仕掛けた罠。
筋肉のつきにくいテリー一族では困難な高所からの激突技を成立させるべく、万太郎の技を利用したのだ。
狙いはわかった。しかし万太郎は腑に落ちない。
「キ、キッドの得意技にこんな高度から仕掛けられる技なんてないだろ~~っ」
キッドの得意技ならすべて頭に入っている。
脳内で検索をかけても、ここから繰り出しそうな技など思い浮かばなかった。
「昨日までのオレと思うな――っ!」
キッドは猛々しく吠え、万太郎の両足を取った。
手慣れた動作でその足を四つ葉に固めていく。
『あ――っとキッド、なんと空中で万太郎の脚をテキサス・クローバー・ホールドに固めた――っ!』
馬鹿な、テキサス・クローバー・ホールドはグラウンドでこそ真価を発揮するサブミッション。こんな高所で仕掛けたとて意味はない。
万太郎はそう考えた、が。
キッドはそこからさらに上体を反らせ、万太郎の両肩に自身の両足をフックさせた。
『テキサス・クローバー・ホールドを維持したまま大きく上体を反らし、万太郎を胸から落とそうとしているぞ――っ!?』
テキサス・クローバー・ホールドで両足を封じ、肩を抑えたことで両腕の動きも奪った。
四肢を完全にロックした状態で胸から落とせば、受け身不可能の恐ろしき激突技が完成する。
「くらえ――っ! テリーマンとジェロニモ……ニュー・マシンガンズとのスパーリングで編み出した、オレの
これぞ、先日のスパーリングでジェロニモに現地観戦を断念させるほどのダメージを与えた新技。
偉大なる先輩コンビをリスペクトして名付けられたその技の名は――
「ニュー・マシンガンズ・カウベル・スタンピード――――ッ!」
ガガァン!
万太郎の胸板がキャンバスに激突し、両足の骨が粉砕、筋繊維が断裂する。
「ゴハアッ!」
口からは大量の血が飛び散った。
『す……凄まじい逆転の一撃~~っ! ウォーキューブ内に轟音が響き渡り、今度は万太郎がキャンバスの海に沈んだ――っ!』
キッドの大技が炸裂し、力なくダウンする万太郎。
ワ~ン、ツ~、スリ~。
決着へ向けてのカウントが始まる。
「おいおい……おいおいおい……! 魅せてくれるじゃねえか、キッド先輩よ!」
かつてテリー・ザ・キッドと直接対決し彼を破ったことがあるスカーフェイスは、前のめりになって“先輩”の敬称を復活させる。
当時はキッドが掲げていた“テキサスの暴れ馬”の異名を相応しくないと剥奪し、彼が繰り出すテリー一族伝統の技の数々をパパの猿真似と一蹴した。
しかしどうだ、たった今万太郎に放った技は。
あの頃のキッドからは想像もできない、未来の息吹を感じさせるオリジナル・ホールドではないか。
「すげぇ……今なら文句なしだ。おまえこそ正真正銘の“テキサスの暴れ馬”だぜ」
「スカー……」
隣にいたジェイドは、当時スカーフェイスに欠けていた心……ライバルへの尊敬の念が蘇ってくれたことを嬉しく思う。
そんな後輩の熱烈な眼差しには気づかず、ヘラクレス・ファクトリー一期生の看板を掲げる先輩は――
「よ……ようやく倒れやがったか。し、しかしオレも無茶をした……本来ならもうちょっと威力を出せたはずなんだけどな……」
へへっ、とはにかみながら、キッドは倒れ伏す万太郎を見下ろす。
手応えはあった――が、100点満点と呼べるほどの出来栄えではなかった。
やはり誕生したばかりの新技。経験値が不足しているし、直前でダメージをもらいすぎたのもいけない。
「そうだ……この一撃じゃ、想定していた威力は出せなかった。となれば、当然」
ダウンカウントが進む。
決着となるテンカウントの一歩手前、ナインカウントでその身は起き上がった。
「立ち上がってくるよな、万太郎」
キン肉万太郎が2本の脚で立ち、キッドに向き直る。
「あ……あたりまえだ~~っ!」
その闘志は微塵も揺らいではいない。
まだまだやれるぜ、と肋骨が砕けているであろう胸を大きく張る。
その尋常ならざるガッツを目にし、客席のテリーマンは息を呑んだ。
「キッド渾身のニュー・フェイバリットを食らって立ち上がってくるとは……あれを食らったジェロニモはしばらくダメージが消えず、今日の観戦も断念したというのに」
シングル用の技ゆえ発動機会があるか不安だったが、決められればKOは堅いだろう――そう踏んでいた新技を耐えるとは。さすがキン肉マンの息子と言わざるを得ないタフネスだ。
テリーマンの感嘆をどう受け取ったのか、隣のキン肉マンも大きく頷いてみせた。
「あたりまえだ。やつの根性はこのわたしも認めるところ……伊達にキン肉族伝統のマスクは被っておらん!」
ウォーキューブを見上げるキン肉マンの視線は、テリーマンのほうを向いてはいなかった。
もはや一瞬たりとも万太郎から目を離すまい。そんな意思が感じられる。
「キン肉マン……おまえ……」
そこにはもう、新世代超人をインチキ呼ばわりしていた頑固者の面影はない。
息子の奮闘をハラハラしつつも見守る……そういった父親の様相だった。
「勝てよ~~っ、万太郎~~っ」
ごくり、と生唾を飲み込むキン肉マン。
一方のウォーキューブ内では、テリー・ザ・キッドが立ち上がってきたライバルを見て嬉しさを噛み締めていた。
「へへっ、おもしれえ! さあ、立ち上がったんならラウンドツーといこうぜ万太郎!」
「自分もダウンしたの忘れてるんじゃないのか!? ラウンドスリーくらいだろ!」
闘志が衰えていないのはどちらも同じ。
万太郎もキッドも体勢を整え、再び攻撃を仕掛けようとした。
しかしそのとき、両者の肩をパンっと叩く者たちがいた。
「ふたりだけで盛り上がりすぎだ」
「はりきりすぎだぞ万太郎」
ロビンマスクとカオス・アヴェニールである。
『あ――っとロビンマスクにカオス、双方同じタイミングでパートナーの肩を叩いてのタッチだ――っ』
この試合は万太郎とキッドのふたりだけのものではない。
特に今はどちらも大技をぶつけ合い、疲労困憊のKO寸前。ここは交代して休ませるべきだ。
ヒートアップしていた両者もそれを理解するだけの冷静さは残っており、だからこそおとなしく引き下がった。
『さあ、リング上は再びロビンマスク対カオスというマッチアップになった――っ』
これまでの試合展開を振り返り、カオスは考える。
「この試合、おそらく体力的に一番元気なのはロビンマスクだ。万太郎が回復する時間を稼ぎつつ、少しでもロビンを削り試合終盤を有利に進めねば」
“マッスルブラザーズ・ヌーボー”の勝利のため、戦略を練るカオス。
目の前にいるロビンマスクは大ベテラン超人。
経験の浅い超人にはつらい相手かもしれないが、データが豊富に揃っているという見方もある。
幼い頃から超人レスリングにどっぷりだったカオスにとっては、攻略法を編み出すことなど造作もない。
「いくぜ!」
手札を整えたカオスが駆け出した。
狙うのは――いや。
『お――っとどうしたカオス、勢いよく飛び出したかと思ったら急ブレーキだ――っ』
カオスはロビンマスクの間合いに入る直前で足を止めた。
ロビンは別段、なにもしていないように見える。
『ロビンマスク、隙のない立ち姿でどっしりとカオスを待ち構える。カオス、これは攻めづらいか――っ?』
実況を始め、観衆はロビンのあまりの隙のなさが原因でカオスが攻撃を躊躇したのだと判断した。
だが事実は少し異なる。
「あ、ああ……あああ~~っ!」
カオスは冷や汗を流し、口を開けて狼狽した。
相手に隙がないというだけではこうはなるまい。
「な、なんだ!? どうしたカオス!?」
パートナーの変調を感じ取り、万太郎が声をかける。
カオスはロビンから視線を外さぬまま、小さく応えた。
「み……見える」
「見えるって、なにが?」
カオスが見ているもの――それは、本来ならばありえないもの。
一言で片付けるとするならば、幻視。
壮絶な人生を歩んできた彼の記憶に、最も大きな存在として刻まれているものを見た。
「見えるんだ――っ! ロビンマスクが我が偉大なる父……ミニッツ・アヴェニールに重なって見える~~っ!」
打倒すべき相手が、死んだはずの父親に。
その不可思議な現象に、カオスは足を止め困惑するしかなかった。