ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第088話 34年もののヴィンテージ・アーツ!!

『なんとネプチューンマン、ウォーズマンから拝借したベア・クローを装備し、掟破りの二刀流スクリュー・ドライバーを放った――っ!』

 

 回転するドリルの先端を手で掴んでおくことなどできない。

 ライトニングの両手は当然のごとく弾かれ、再始動した超人削岩機が頭部を狙う。

 

「ジョワッ!?」

 

『スクリュー・ドライバーは側頭部を穿つ――っ!』

 

 鋼鉄の爪がライトニングの右側頭部を抉り、鮮血を撒き散らす!

 

「ウギャアアア――ッ!」

 

 木霊するライトニングの絶叫。

 その凄惨極まる光景を見て、ミートくんは声を荒げた。

 

「ああ~~っ! あれはまるで、第21回超人オリンピック・ザ・ビッグファイト準決勝でウォーズマンがラーメンマンを再起不能にしたときの再現だ――っ!」

 

 あの闘将ラーメンマンを植物超人に追いやるほどの傷を負わせ、21世紀に至ってもトラウマを残し続けたスクリュー・ドライバー。

 20世紀の面々は、この技が頭部に炸裂することの恐ろしさを良く知っている。

 

「ジョ……ジョワ~~ッ」

 

『ライトニング、大流血の末ダウーン!』

 

 血溜まりの中に沈むライトニング。

 相手を油断させるための演技などでは断じてない、そう確信できる完璧なまでのダウンだった。

 

「感謝するぜ、ウォーズマン。おまえの残してくれたベア・クローが、勝負の決め手となった」

 

 スクリュー・ドライバーの体勢から着地し、ウォーズマンがよくしていた片膝立ちポーズを決めるネプチューンマン。

 右手のベア・クローを外し、ライトニングに対して向き直る。

 まだ勝ち誇ることはできない――敵はダウンカウントを待たず立ち上がろうとしているからだ。

 

「な……なにが決め手なものか~~っ。オ……オレの体内の……エキゾチック物質はまだまだ尽きてはいない……」

 

『ライトニング、血まみれになりながらも立ち上がった――っ』

 

 勝負は誰の目から見ても明らか。ここで無理に動くことは命に関わる。それなのになぜ動く!?

 観衆が驚くが、その誰もが順々にハッとしていく。

 そう、ライトニングにはどれだけ深手を負っても闘い続けられる手段がある。

 

「今一度味わうがいい! 時間を統べし者による圧倒的絶望を! 肉体時計逆回転(ボディクロックバックスピン)!」

 

 口腔内のエヴォリューション・マウスピースを噛み締め、右側頭部の傷穴から黒煙を放出させる。

 

『あ――っとライトニング、たった今抉られた傷を元通りに治すべく、またもや肉体時計逆回転を発動させる――っ!』

 

 禍々しい黒い煙の正体は、時間超人が体内生成するエキゾチック物質。

 この黒煙がループするように元の傷穴、すなわち体内に入ることで時間超人の肉体時計が逆回転を起こす。

 ダメージを受ける前の状態まで、肉体の時間を戻すことが可能なのだ。

 

「うあ~~っ、そんな~~っ」

 

 せっかくKO寸前まで追い詰めたというのに、また振り出しなのか――と頭を抱えたのは、キン肉万太郎である。

 ネプチューンマンの勝利を願ってやまない彼は祈るようにウォーキューブのリングを見上げ、気づいた。

 

「あ……あれ……なんかおかしくないか?」

 

 注視するのは、今にも肉体再生を果たそうとしているライトニング。

 サンダーを含め、その体の傷がインチキのように超回復するシーンはもう何度も見てきた。

 そこから来る経験が違和感を訴えている。

 

「あ、ああ……あああ~~~~っ! あれは――っ!」

 

 誰よりも大声で叫んだのは、正義超人界一の頭脳と言わしめる我らがミートくんだ。

 万太郎やミートだけでなく、トーナメント・マウンテンに集った誰もが異変の正体に気づき始める。

 

『こ……これはどうしたことだ――っ!? 先ほどまでは焚き火の煙のごとく勢いよく噴出していたエキゾチック物質が、今はガス欠を起こしたかのようにキレ悪く漏れ出ている――っ! その影響か、ライトニングの肉体は元に戻らず……出血も傷もそのままだ――っ!』

 

 右側頭部の傷穴から出た黒煙は、しかし体外に出てすぐ消えてしまう。

 実況が“ガス欠”と表現するように、まるで体内のエキゾチック物質がもうなくなってしまったようだった。

 

「バ、バカな~~っ! 純粋な悪行・時間超人であるオレのエキゾチック物質が枯渇するなどありえねえ――っ! なぜ肉体時計逆回転が発動しない!? なぜエキゾチック物質が満足に放出できない!? こんなのはなにかの間違いだ――っ!」

 

 ライトニングは本人はエキゾチック物質の枯渇ではなく、なんらかの影響で満足な量を放出できないと判断していた。

 エキゾチック物質が放出できないのであれば肉体時計逆回転は発動不可。傷が元通りに治らないのは道理。

 ネプチューンマンはこれを見越していたのか、冷静な口調で言う。

 

「ライトニングよ、おまえの認識は正しい。この事象は、サンダーのようなエキゾチック物質の生成不足によるものではない……噴出口のトラブルが原因だ」

 

 そう言い放ち、指で指し示す。

 黒煙がプスプスと漏れるその穴……ライトニングの右側頭部を。

 

「トラブルだと!? ま、まさか……」

 

 その傷穴は、ライトニングがこの20世紀にタイムスリップするために魔時角と呼ばれる角を折ってできた穴。

 しかし現在は別の傷も刻まれているのだ――たった今作られた、できたてほやほやの傷が。

 

「そう! 先ほどのスクリュー・ドライバーで穿ったのは、エキゾチック物質の噴出口……おまえたち時間超人が魔時角を折ったときにできる傷穴だ! そこをズタズタにされては、もはやエキゾチック物質を思うように放出することはできまい!」

 

 ひっつき虫作戦、出現位置予測、風によるエキゾチック物質の無効化……様々なアクセレレイション対策を施してきたが、これがファイナル・オペレーション。

 必殺スクリュー・ドライバーによる噴出口の破壊だ。

 

「そ、そうか~~っ! 水道だって蛇口が壊れてしまえば水が出すぎてしまったり、逆にまったく出なくなったりしてしまう!」

「加速能力にしても肉体時計逆回転にしても、エキゾチック物質はただ垂れ流しているだけではない! 精密なコントロールが必要になってくる!」

 

 ネプチューンマンの解説を聞いた万太郎とカオスは「その手があったか~~っ」と手を叩く。

 隣ではテリーマンとキン肉マンの黄金コンビがその老獪なる策謀に驚嘆していた。

 

「それができないということは……ライトニングはもはや致命傷を治す手立てがなく、加速能力による逆転も望めない!」

「時間超人としてのアドバンテージはほぼ無力化され……素の実力でネプチューンマンを倒さなければならないというわけか~~っ!」

 

 これで肉体時計逆回転はもちろん、アクセレレイションも完封された。

 そしてライトニングはすでに致命傷……イクスパンションズの勝機が見えたのである!

 

「だがネプチューンマンはおっさんだ! 体力はとうに限界を迎えているはず!」

 

 観客が盛り上がる中、ひとりだけ失礼なことを口走る若造がいた。

 

「スカー! あまりオレをおっさん扱いするんじゃねえよ!」

 

 怒鳴りつけるも、ネプチューンマンは内心嬉しくなって口元で笑う。

 悪ガキはそれくらい不躾なほうがいい。

 大先輩として、大きな背中を見せる甲斐があるというものだ。

 

「いくぜ!」

 

 ネプチューンマンはライトニングに接近し、拳打を放つ。

 

『ネプチューンマン、疲弊したライトニングに正面からパンチのラッシュを叩き込む――っ!』

 

 傷が治らないライトニングは満足な防御もできず、不格好に後退して距離を取った。

 

「ま、まだオレにはこれがある……煮えたぎる鎌(ボイリングシックル)――ッ!」

 

 右腕から鋭利な鎌を突き出し、相手の頸動脈を掻っ切っての一発逆転を目論む。

 

『ライトニング、まだ砕かれていない右腕の鎌でネプチューンマンの首を狙う――っ』

 

 全集中力を注いだ斬撃は、疲労困憊の老齢超人にはとても回避できない。

 だがライトニングの目の前に立つのは、疲労困憊の老齢超人などではない。

 元完璧(パーフェクト)超人にして齢60を超えてもまだ現役にしがみつく男、正義超人ネプチューンマンだ。

 

「ここだ。ロビンマスクやキン肉マンにずっと見せてやりたかったあの技を披露する場面は――っ」

 

 左側から振るわれる鎌に対し、ネプチューンマンはライトニングの右斜め上へ跳ぶ。

 ジャンプによる回避と当時にライトニングの左腕を左脇で掴み、それを支点に背後へ移動する。

 

『ネプチューンマン、跳躍とともに“煮えたぎる鎌”を躱し……そのまま左腕を取ってライトニングの背後に躍り出る――っ』

 

 鎌が干渉しない右手首を右手で掴み、両腕を封殺。

 自身の左脚はくの字に曲げてライトニングの首に引っ掛ける。

 さらに右脚はライトニングの右脇を通過させ足先で股間部を押さえた。

 

『左腕のみならず右手も取り、ライトニングの肩に乗って左脚で頸動脈を、右脚で胴体を締める――っ!』

 

 立ち姿勢を強制されたまま、両腕と頸動脈と胴体のフォーポイントを絞め上げられるライトニング。

 ネプチューンマンは狙っていた技がパーフェクトに極まったと判断し、高らかに技名を叫んだ。

 

喧嘩(クォーラル)スペシャル・ヌーヴォ――――ッ!!」

 

“新”喧嘩スペシャルと。

 

「ク……喧嘩スペシャル……」

「ヌーボーだって!?」

 

 自分たちのタッグチーム名と共通する技名に、“マッスルブラザーズ・ヌーボー”のふたりが反応した。

 

『なんとネプチューンマン、ここに来てまだ新技を隠し持っていた――っ! それはこれまでの必殺技(フェイバリット)の発展型……その名は喧嘩スペシャル・ヌーヴォ~~ッ!』

 

 喧嘩スペシャルという技をよく知るテリーマン、キン肉マンも衝撃のあまり目を見開く。

 

「その名のとおり、喧嘩スペシャルの発展型か! 相手を立たせたまま両腕を肩から痛めつける……ウォーズマンのパロ・スペシャルにも通じる見事な立ち関節!」

「こ、これはまさか21世紀の未来でネプチューンマンが開発した新技か~~っ!?」

 

 仰天するキン肉マンたちに対し、ネプチューンマンは絞める力を強くしながら言う。

 

「違うな! これはロビンマスクのロビン・スペシャル同様、古くから温めていた20世紀ネプチューンマンの隠し技! 喧嘩男(ケンカマン)時代はこれを使わなければいけないほどの対戦相手に恵まれず、完璧超人時代はタッグ戦ばかりで使う機会がなかったが……このような1対1の決着シーンこそこの技の出番! ライトニングよ! 脱出不可避の必殺技の前に沈め――っ!」

 

 この技は本来なら超人オリンピックのイギリス予選でロビンマスクに見舞おうとしていた必殺技。

 あのときは審判のロックアップで裁定した結果闘うに値しないと判断し撤退したが……もしあのまま闘っていたとしたら、ロビンマスクはこの技でマットに沈んでいたことだろう。

 喧嘩スペシャル・ヌーヴォーはネプチューンマンがそう自負するだけの必殺技なのである。

 

「こ、こんなもの……ジョワァ~~ッ」

 

 四肢を封じられたライトニングは、数々の超人がそうしてきたように力尽くでの脱出を図る。

 が、この新型喧嘩スペシャルは微塵も揺るがない。

 

『ライトニング、懸命に抗おうとするも力が入らないのか! まさに完全制圧というべき体勢で骨の軋む音を鳴らしている――っ!』

 

 まさにパーフェクトな完成度を誇る関節技。

 各関節が破壊されるのはもはや時間の問題か。

 

「な……ならば、アクセレレイションで……肉体時計逆回転で……」

 

 それでも、時間超人であるライトニングにはエヴォリューション・マウスピースという奥の手がある。

 どんな関節技であろうと口内の動きまでは制限できない。

 噛むことで発動できる時間超人の専売特許的能力ならば――

 

「無駄だっ! 頸動脈を脚で圧迫され、もはやエヴォリューションマウスピースの上下を入れ替えることすらままならないだろう! ただでさえおまえの魔時角の穴はベア・クローでズタズタにされたまま……自慢のエキゾチック物質も垂れ流すことしかできない!」

 

 頸動脈を締め上げるネプチューンマンの左脚は、ライトニングから咬合力すら失わせていた。

 右側頭部の傷穴から漏れるのは、エキゾチック物質ではなく鮮血のみ。

 

「ジョワ……ッ」

 

 メキメキメキ!という音が鳴り響き、ライトニングの全身が悲鳴を上げる。

 立ち姿勢を強制されていた両脚は力なく折れていき、右膝がキャンバスについた。

 そして――

 

『さらに力を込めるネプチューンマン! とうとう時間超人ライトニングの胸を、両腕のつけ根に亀裂が入るほど捻じる――っ!』

 

 ベキラ!

 それは肉が裂けた音か、それとも筋繊維が断裂した音、あるいは骨が破砕された音か?

 正解はすべてである。

 

『ライトニング、失神か――っ!? 胸から両腕にかけて大きな裂傷が走り、そこから鮮血が迸る――っ!』

 

 肉が裂け、筋繊維が断裂し、骨が粉々に破砕された音が、致命の傷にリアリティを与える。

 ライトニングは見たこともないような苦痛の表情を浮かべ沈黙。

 これ以上絞める意味はなし、とネプチューンマンは身を離した。

 

『ネプチューンマン、技を解いた――っ! しかしリリースされたライトニング、やはり完全に動けない――っ』

 

 喧嘩スペシャル・ヌーヴォーは完璧に極まった。

 通常ならば相手超人はこのままダウンし、テンカウントを迎えてKOとなるだろう。

 だが相手は己を一度殺したことがあるあの悪行・時間超人――念には念を入れるのがネプチューンマン流だ。

 

「このままダウンを許すオレではない」

 

 ネプチューンマンはライトニングが倒れる寸前、その首を右脇で抱え込む。

 さらに左手で腰のあたりを持って逆さに担ぎ上げた。

 

『あ――っとネプチューンマン、ライトニングをブレーンバスターの体勢に持ち上げ……後方に投げた――っ! その先はリングのコーナーだ――っ!』

 

 放られたライトニングが逆さまの状態でリングコーナーへ向かっていく。

 

「ベア・クローよ! 今一度、力を貸してもらうぞ――っ!」

 

 続けざまに、ネプチューンマンはあえて残していた左手のベア・クローを取り外しライトニングに向けて投げ放つ。

 しかしベア・クローはライトニングの脇を通り過ぎ、その向こう側にあるコーナーポスト奥の鉄柱に突き刺さった。

 またもやネプチューンマンのノーコン疑惑が? 否、そうではない。

 

 ネプチューンマンの振り上げた左腕がボワァと光った。

 

「オプティカルファイバー・パワー!」

 

 左腕から光の管が無数に伸び、逆さになったライトニングを貫通して奥の鉄柱へ。

 より正確には、鉄柱に突き刺さっているベア・クローに向かって伸びた。

 

 ネプチューンマンがセイウチンと発動した“オプティカルファイバー・クロス・ボンバー”。

 そしてウォーズマンと力を合わせ放った“100000000(ワンハンドレッドミリオン)パワー・喧嘩(クォーラル)スクリュー・ドライバー”。

 

 2大ツープラトンのときと同じオプティカルファイバー・レールが、本人の左腕とコーナーの鉄柱を連結する形で築かれたのである。

 

「先に放った“100000000パワー・喧嘩スクリュー・ドライバー”により、ベア・クローにはオプティカルファイバー・パワーが浸透している! なればこそ、パートナーが新たにオプティカルファイバー・パワーを展開せずともこういう芸当ができるのだ! さあ、我が友の残したフェイバリット・ウェポンを利用しての疑似ツープラトンで……幕引きの一撃とさせてもらおう!」

 

 もちろん、投げ放たれたライトニングは逆さ状態のままその場に停止。

 傍目には宙に浮いているようにも見える不可思議な格好のまま、怨念の捌け口となることを決定づけられた。

 一度殺された恨み、仲間をやられた恨み、散々ジジイだのなんだの罵倒してくれた恨み、その他諸々――“究極の超人タッグ戦”2周分の、積もりに積もった怨念を。

 

「死ね――っ! 悪行・時間超人!!」

 

 今こそ“前回”のリベンジを果たすとき!

 ネプチューンマンは猛然と駆け込み、ダイヤモンドアームと呼ばれた左腕をライトニングの首に叩きつける。

 

「オプティカルファイバー・ターンオーバー喧嘩(クォーラル)クロス・ボンバ――――ッ!!」

 

 逆さの状態のライトニングを喧嘩ボンバーとコーナーの鉄柱で挟み込む、シングル版クロス・ボンバー。

 オプティカルファイバー・パワーによる必中効果はガゴッ!という快音を生む。

 あまりの威力に鉄柱が折れ曲がり、ライトニングが吐血した。

 

「ジョッ……」

 

 そして、うつ伏せに倒れる。

 ピクリとも動かない。

 会場を静けさが支配する。

 

「沈んだ……時を自在に操り、何度も我々の前に立ち塞がってきたあのライトニングが……」

 

 そうこぼしたのは、ケビンマスクと共にウォーキューブを見上げるロビンマスク。

 彼がバラクーダとして立ち向かった仇敵は、宿敵であるネプチューンマンが成敗してくれた。

 そのことを証明するかのように、ウォーキューブの天井からひらりと何かが落ちてくる。

 試合開始前にネプチューンマンが天井に貼りつけたマスク狩りのコレクションマントだった。

 

「マスクも顔の皮も狩らんさ」

 

 今回の“究極の超人タッグ戦”においては、何者の仮面や顔が貼りつくこともなかったただのマント。

 それが今、導かれるようにライトニングの上に降ってきた。

 傷だらけの体を衆目から遠ざけるように、マントがライトニングの体を覆い隠したのだ。

 

「このマントは最初からライバルの労をねぎらうために使おうと思っていた」

 

“究極の超人タッグ戦”準決勝第2試合――臨んだのは完璧超人ではなく、正義超人ネプチューンマン。

 なればこそ、勝利するときも正義超人ネプチューンマンとして勝利するのが筋である。

 

「試合終了~~っ! ネプチューンマンの……“新星(ノヴァ)・ネオ・イクスパンションズ”の勝ちじゃ!」

 

 ハラボテが高らかに宣言し、自ら木槌を振り上げる。

 カン!カン!カン!ゴングは三度叩かれた。

 

『あ――っと今、大会運営委員長ハラボテ・マッスルの手により終戦のゴングが鳴らされた――っ! “究極の超人タッグ戦”準決勝第2試合、今大会が開かれるきっかけともなった未来よりの刺客、悪行・時間超人コンビ“世界五大厄(ファイブディザスターズ)”を倒したのは……同じく未来からやってきたネプチューンマン&ウォーズマンのベテラン正義超人コンビ“新星・ネオ・イクスパンションズ”だ――っ!』

 

 実況アナウンスが勝利チームの名をコールし、ネプチューンマンはウォーキューブの外側――すなわちトーナメント・マウンテンの麓の観衆に顔を向ける。

 右手の人差し指を立て、それを天高く突き上げた。

 

「ナンバ――ワ――ン!」

 

 ナンバーワン――オレがイチバンだ、と世界に知らしめるために。

 

「ネプチューンマン! ネプチューンマン!」

 

 大胆不敵、しかし納得せざるをえない実力をたった今見せつけられ、観客たちは堰を切ったようにネプチューンマンの名を唱え始めた。

 彼の勝利を信じて疑わなかった者、さすがに年齢が……と思っていた者、誰もが皆等しく熱狂している。

 

『お聴きください! この大迫力のネプチューンマンコールを! 多くの観客が、そしてこのトーナメント・マウンテンの頂きを目指した超人たちが、ネプチューンマンの勝利を称えております!』

 

 トーナメント・マウンテンはもちろん、すぐそばの富士山にまで届きそうな大声援。

 矛先となっているウォーキューブのリング脇には、身動きは取れないものの意識だけは保っている超人がいる。

 

「ま……まだ目は見えないが……声は聞こえてくるぜ。かつてないほどの大音声(だいおんじょう)……勝ったんだな、ネプチューンマン……」

 

 チームリーダーである彼の勝利は己の勝利。

 ウォーズマンとネプチューンマンの“新星・ネオ・イクスパンションズ”は“世界五大厄”に勝利した。

 師であるロビンマスクの、そして弟子であるケビンマスクの命を救うというミッションは今、達成されたのである。

 

「は……半分機械の体に涙が染みやがる。こんな気持ちはケビンが超人オリンピックのチャンピオンベルトを奪取したとき以来だ……師匠と弟子を救うため、はるばる未来から馳せ参じてみたが……ほ、本当にいいものだな……タッグマッチってやつは……」

 

 誰にも気づかれないところで涙を流すウォーズマン。

 今は相棒を労ってやることもできないが、許せ……と念じ、意識を閉ざす。

 

「ジョワ……」

 

 ウォーズマンとは逆に、リング上には閉じかけていた意識を回復させた者がいた。

 たった今敗者の烙印を押された“世界五大厄”、ライトニングである。

 

「ま……まだだ……オレたちはまだ……トロフィー球根(バルブ)を手に入れちゃいない……」

 

 ライトニングはキャンバスの上を這って進み、どこかへ向かおうとしていた。

 

「食せば……完全無比(コンプリート)超人になれるという……トロフィー球根(バルブ)を……な……なんとしても……手に入れなければ……」

 

“究極の超人タッグ戦”優勝の証である黄金のトロフィー。

 そしてその底にこびりついている“完全無比の球根(コンプリートバルブ)”は、このトーナメント・マウンテンの頂上に刺さっている。

 

「時間超人が……超人界を支配することはできず……こんな古くせえ時代に来た意味も……ない……」

 

 ライトニングは這い、1センチ進む。

 ここはまだトーナメント・マウンテン準決勝のウォーキューブ。

 どんなに垂涎しようとも、その手がトロフィーにかかることはないのだ。

 

「ライトニング……」

 

 そんな仇敵の動向に気づいたネプチューンマンは、しかし止めたりはせず憐れむような眼差しを向けるのみ。

 ライトニングは進む。1センチでも2センチでも、その手がトロフィーに近づくことを願って。

 

「ト……トロフィー球根を手に入れなければ……サ……サンダーの……傷が癒せねえじゃねえか……」

 

 ライトニングの目尻にキラリと光るものが見えた、次の瞬間だった。

 ボコボコ――と、まるで湯が沸騰するように、全身各所に気泡が発生し、それが一斉に弾けた。

 

「ジョワ~~ッ」

 

 弾けた気泡からはライトニングの超人パワーが放出され、あっという間にミイラのように干からびてしまう。

 

「ライトニング! おまえ……」

 

 思わぬ事態に駆け寄るネプチューンマン。

 ライトニングはこの事態を半ば想定していたかのように、震える声を出した。

 

「ああ……そうか。これが……神の摂理に逆らったオレたちに対する罰か……」

 

 リング上にいるライトニングの異常を察知したのか、リング外にいた男も今にも絶えそうな声を絞り出す。

 

「きょ……兄弟……」

 

 ロープを掴んでなんとかリング上に這い上がってきたのは、先に戦線離脱したはずのサンダーだった。

 その巨体はライトニングと同様に干からびてしまっている。

 

「サンダー! おまえまで……」

 

 試合終了後、時間超人ふたりに起こった謎の異変の正体はなんなのか。

 困惑するネプチューンマンに対し、ライトニングは言う。

 

「じ……時間というものは常に先へ流れていくもの……この流れを……加速減速させる程度はオレたちにとってたやすい……し、しかしすでに流れた時を逆流させるのは……神業にも等しい難作業だった……」

 

 時の逆流――ネプチューンマンはそのワードですぐ答えに思い当たった。

 

「肉体時計逆回転は、おまえたち時間超人にとってもおいそれと連発できる技ではなかったと」

 

“世界五大厄”がこの試合で初披露し、何度も繰り返し使っていた回復手段。

 それは“前回”の闘いでは使われなかった技だが、やはり温存していたのにはそれ相応の理由があったのだ。

 

「オ……オレたちは肉体への負担を……ど、度外視して……奥の手を少し使いすぎた……すぐにトロフィー球根で回復させればいいと……そういう算段だったが……ほ、本来なら……決勝で使うべき技だったんだ……」

 

 ライトニングは後悔を感じながらネプチューンマンを見やる。

 

「お……おまえたちが……あまりにも強敵だったから……つい……これが決勝のように思っちまった……」

 

 見やるだけ――もはや睨みつけるだけの力もないのか。

 ネプチューンマンが言葉をなくしていると、

 

「ジョゲボッ」

「ヌワゴボ……」

 

“世界五大厄”は限界を知らせるように吐血した。

 

「ライトニング! サンダー!」

 

 ネプチューンマンは衝動的に駆け寄り、ライトニングの身を抱きかかえようとする。

 

「なんのつもりだ……とっととトドメを刺せ……」

 

 ライトニングはなけなしの力でその手を振り払い、労いのマントも蹴飛ばした。

 明確に拒絶されながらも、ネプチューンマンは枯れ木のようになったライトニングの腕を掴む。

 

「正義超人は対戦相手を殺すために闘っているわけじゃない。わかりあうために闘っているんだ」

 

 激闘を闘い抜いたライバルが、命の危機に瀕している。

 それを見過ごすのは、正義超人の矜持に反することだ。

 

「試合が終わればノーサイド。なんの遺恨もない」

 

 ロンリー・クロック・キャノンの一撃で割れたネプチューンマンのマスク。

 その箇所からは、曇りなき眼が浮かんでいた。

 だからこそ――悪行・時間超人であるライトニングは拒絶するのだ。

 

「ほ……施しは受けねえ」

 

 再度ネプチューンマンを振り払い、震える体を強引に立たせた。

 もはや歩くこともままならないが、立ち上がれさえするのであればやるべきことがある。

 

「オレたちは……たったふたりの悪行・時間超人……いついかなる時も……オレたちは……た、たったふたりで助け合い、闘い抜いてきた……信じられるのは……兄弟だけだ……」

 

 喧嘩スペシャル・ヌーヴォーで破壊された両腕は満足に上がらない。

 だが問題ない。

 時間超人の魔技を発動させるためのアイテムは口の中にセットされたまま――あとは噛むだけでいい。

 

「エヴォリューションマウスピース!」

 

 ライトニングの口腔内を保護するマウスピースが、怪しげな光を放った。

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