ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第089話 正義超人の覚悟!!

“究極の超人タッグ戦”準決勝第2試合、“新星(ノヴァ)・ネオ・イクスパンションズ”vs“世界五大厄(ファイブディザスターズ)”は“新星・ネオ・イクスパンションズ”が制した。

 肉体時計逆回転(ボディクロックバックスピン)の使いすぎでミイラのように干からびてしまったライトニングは、決着がついたにもかかわらずエヴォリューション・マウスピースを噛み、右側頭部の傷穴からエキゾチック物質を噴出させる。

 

「ライトニングがエヴォリューションマウスピースを! この期に及んでなにをするつもりだ!?」

 

 ウォーキューブを見上げるキン肉万太郎は警戒を強める。

 もしや二回戦のマンモスマンのように、試合結果に納得できず暴れようとしているのでは――と。

 すぐにでも飛び出そうとしたところで、しかしカオスが腕を伸ばしてそれを制した。

 

「わからない……だけど敵意はないと思う。そばにいるネプチューンマンが、あれだけどっしり構えて動向を見守っているから」

 

 確かに、怪しい動きを見せるライトニングの一番近くにいるネプチューンマンは微動だにしていない。

 されど視線をそらすことはなく、ライトニングの一挙手一投足を注視し続けていた。

 

「ジョワ~~ッ!」

 

 ライトニングの体内で生成されたエキゾチック物質は黒煙となって体外へ。

 スクリュー・ドライバーで抉られた傷口は治っていないはずだが、その量は試合中に見せたものと遜色ない。

 

「ケッ、さっきはあれだけプスプス言ってやがったエキゾチック物質が今はよく出やがる。これじゃオレが兄弟を救うために躍起になってるみてえじゃねえか~~っ」

 

 憎々しく言いながら、ライトニングはエキゾチック物質をコントロールする。

 黒煙がある方向に向かうように。

 そのある方向とは――先ほどリング上に這い上がってきた、兄弟と呼ぶ相棒の体だ。

 

「ライトニングの頭から出たエキゾチック物質が……」

「サンダーの体を覆い、肉体を元の状態まで戻そうとしている!」

 

 キン肉マンとテリーマンがライトニングの行動の意味を察し、驚きを口にする。

 エキゾチック物質を操り、時間に干渉する能力を持つ時間超人。

 ネプチューンマンが体験した“前回”ではすぐそこにある富士山の時を276年巻き戻し、“宝永大噴火”を再現させたことすらある。

 そんな超常の力を駆使し、ライトニングは……相棒の命を救おうとしているのだ。

 

「ラ……ライトニング……お、おまえ……なぜ」

 

 黒煙に包まれたサンダーの体が、みるみるうちに生気を取り戻していく。

 激闘で負った傷が癒えるまではいかなかったが、干からびていた状態からは脱した。

 ライトニング自身はミイラのような姿のまま、言う。

 

「な……なぜもへったくれもあるか。オ……オレは天涯孤独の悪行・時間超人……おめえみてえなママの幻影を追っかけてるような……あ、あまちゃんと共倒れなんざ、まっぴらごめんだ……」

 

 おまえが時間を弄んだ咎を受ける必要はない。

 ライトニングは口から出そうになった言葉を飲み込み、歩き出す。

 

「正義超人の血なんぞ引いてるおまえは……そこにいるネプチューンマンのように、友情だの絆だのに目覚めて連中とヨロシクやりゃいいさ」

 

 あるいは、それを望んでいるのかも知れない……自分でも本心がわからない。

 ただひとつ言えることは、兄弟には死んでほしくないということだけだ。

 

「じ……時間超人として……し、死ぬのは……オレひとりでいい」

 

 ふらふらな足取りで、なんとかリングを下りた。

 そうして向かうのは、ウォーキューブの外壁。

 そこから外を覗いてみれば、古くさい格好をした20世紀の大観衆がこちらを見上げている。

 

「あいつ……なにを!?」

 

 ネプチューンマンは一瞬呆気に取られ、しかしすぐライトニングの行動に危険性を感じ取る。

 ウォーキューブの壁際までたどり着いたライトニングだが――耐圧ガラスで作られたその壁は、試合開始と同時にネプチューンマンがワンハンド・スピン・スラムで破壊している。

 吹き込んでくる強風が、ここが地上から遠く離れた高所であることを教えていた。

 

「ああ~~っ!」

 

 その悲鳴は誰のものだったか。

 ウォーキューブの壁に空いた穴をひとりの超人が通過し、足場を失う。

 

『あ――っとライトニング、ウォーキューブから身を投げた――っ!』

 

 重力に導かれるがまま落下していくライトニング。

 すでに死に体の彼には飛行も着地も適わない。

 

「ラ……ライトニング――ッ!」

 

 サンダーは涙を流しながら叫ぶが、彼自身も助けに向かえるほどの回復は果たしていなかった。

 もはや激突死は避けられない。

 誰もがそう思い身を固くしたが、たったひとり動いた者がいた。

 

「エヴォリューションマウスピース!」

 

 その超人の名は、カオス・アヴェニール。

 彼はベルトのバックルに収納していたマウスピースを取り出し、口腔内にセット。

 

「アクセレレイション!」

 

 駆け出すと同時に、左側頭部を覆っていたヘッドギアが外れた。

 隠れていた左側頭部の鍵穴から黒い煙が――時間超人が体内で生成するエキゾチック物質が噴出し、ヘッドギアを押し出したのだ。

 カオスは黒煙を撒き散らしながら走り、やがてその身は液状化して消えていった。

 コンマ1秒先の時間へ渡り、現れたのは――空中、落下するライトニングのすぐそば。

 枯れ木のようなその身をキャッチし、衝撃を受け止める。

 

「カオスが……ライトニングを助けた!?」

 

 パートナーの取った思わぬ行動に、万太郎は口を開けて見上げるしかない。

 両腕で抱きとめられたライトニングは、弱々しい姿を晒しながらも悪態をつく。

 

「て……てめえ~~っ、カオス……なんの真似だ」

「なんの真似か、だと? 見てわかんねえのか。ひとりで勝手に満足して死のうとしている大バカ野郎を助けようとしてるんだよ」

 

 カオスは気丈に言い返し、ライトニングから手を離した。

 せっかく助けたのに態度が気に入らないからとリリースしたのではない。

 ライトニングを救うには、ただ落下を阻止するだけでは不可能――だからこそ。

 

「ウオオオ――ッ!」

 

 気合いを込め、カオスはエキゾチック物質を大放出。

 先ほどの一瞬の加速能力に気づけなかった観衆たちも、ここであらためて彼の正体を目の当たりにする。

 

「オオ! カオスがヘッドギアを外した箇所にある傷穴からエキゾチック物質が!」

「カオスも時間超人だったのか!? い、いや……そんなことよりも!」

 

 スカーフェイスとジェイドが、カオスの放出したエキゾチック物質の奇妙な動きに注目する。

 

『カオスの放出しているエキゾチック物質が、とぐろを巻いた形になっていき……ライトニングをベッドのように包みこんでいく――っ!』

 

 空中で形作られた黒煙のベッドは、重傷人のライトニングを静かに寝かしつける。

 しかしながら、これの実態はベッドなどではない。

 もし病人を寝かせようものなら「ぎょえ~~っ」と言いながら卒倒してしまうだろう。

 

『カオスのエキゾチック物質に囲まれたライトニングが、凄まじい勢いで回転を始めた――っ!』

 

 怪我人をいたわらない大回転は、カオスが遂げようとしていた復讐の形なのか!?

 もちろんそんなことはない。

 彼が抱える復讐心……親を殺され故郷を滅ぼされた凄絶な過去を知る万太郎は、目の前で起こっている現象を言葉にする。

 

「ボ……肉体時計逆回転の使いすぎて干からびてしまったライトニングの体が……元の肌色状態まで戻ろうとしている――っ!」

 

 そう、ライトニングを寝かせた黒煙のベッドは反時計回りに回転していた。

 まるで時を巻き戻すかのようにだ。

 

「ジョ……ジョワ……」

 

 生粋の時間超人であるライトニングは、もちろん自身に起ころうとしている事象の正体を知っている。

 だがその事象を起こそうとしている超人の意図はまったく理解できなかった。

 

「オ……オレはおまえの両親を惨殺し……故郷の同胞たちも皆殺しにした大罪人だぞ。てめえはそんなオレを殺したいほど憎んでいたはず……現におまえは試合前、自身が正義・時間超人の生き残りであることを告白し、散々オレに恨み言を吐いていたじゃねえか」

 

 言っている最中も、ライトニングの体はみずみずしさを取り戻していく。

 土気色だった肌は元通りに、萎んでいた筋肉も膨れ上がろうとしていた。

 

「そんな復讐鬼ヤロウが、どうしてオレを助ける……それも、なけなしのエキゾチック物質を使って」

 

 カオスは答えない。

 7歳で魔時角を折った彼は時間超人としては未熟。

 エキゾチック物質のコントロールに必死で話している余裕などなかった。

 

「てめえはまだ体が未成熟な子供の頃に魔時角を折った……そのためオレたちのように体内で新たなエキゾチック物質を生成することはできず、今ある絞りカスを使い切ってしまえばあっという間に死亡してしまうはずだ――っ」

 

 ライトニングがしたその指摘は、トーナメント・マウンテンに集った観衆の耳に届いた。

 

「なっ……」

「なんだって~~っ!?」

 

 大きく反応したのは、ケビンマスクとロビンマスクの親子である。

 つまりカオスは……命を賭して、自らの両親を殺した男を救おうとしているのか!?

 

「そうだカオス! おまえがそこまで体を張る必要はねえ――っ!」

 

 ウォーキューブの割れた外壁から顔を出し叫んだのはネプチューンマンだ。

 

「おまえが今後も生き続けるには、トロフィー球根(バルブ)が必要不可欠! そしてオレたちが“世界五大厄”を倒したことにより、トロフィー球根は間違いなく“新星・ネオ・イクスパンションズ”か“マッスルブラザーズ・ヌーボー”の手に渡る! おまえがここで無茶をしなければ、確定で命が繋げるんだぞ――っ!」

 

 カオスを大恩人と仰ぐネプチューンマンとしては、ここで彼に無理をさせるわけにはいかない。

 このままでは忌まわしき“前回”、富士山の火口に落とされたネプチューンマンを救うためエキゾチック物質を出し切った過去を繰り返してしまうだろう。

 ネプチューンマンはカオスを見て――カオスもまた、ネプチューンマンを見た。

 

「だが、そうしなければライトニングが死ぬ……」

「!」

 

 カオスは苦しそうにしながらも、優しげな瞳を浮かべていた。

 

「わかったのさ……冷酷非道を気取っていたこいつらにも、絆や友情はあったんだって。傷ついたお互いを悲痛な面持ちで見るライトニングやサンダーを目にしたら……居ても立っても居られなくなった」

 

 感じ取れるのは、覚悟だ。

 これまでの人生で何度だって見てきた――正義超人としての覚悟。

 

「オレたちは殺し合いをしているんじゃない。わかり合うために闘っているんだ。それを刻みつけてくれたネプチューンマンの前で……おまえを死なせることなんてできねえ~~っ」

 

 試合が終わればノーサイド。正義超人は憎しみで闘ってはならない。

 確かにそんなことを言いはしたが、だからといって一族を皆殺しにした相手を命がけで助けるなど。

 

「カオス……おまえは、なんという……」

 

 ネプチューンマンの瞳から涙がこぼれる。

 カオス・アヴェニールとはこういう男だ。

 こういう男だからこそ、“前回”あれだけの悪虐を働いたネプチューンマンを助けたのだ。

 

「ジョワ~~ッ、戻っていく……体が、肉体時計逆回転の咎を受ける直前まで――っ」

 

 黒煙によるベッドの回転は徐々に弱まっていく。

 ライトニングの姿はもうミイラとは呼べず、サンダーと同じように生気を取り戻していた。

 

「生きろライトニング! 正義に目覚めろとまでは言わねえが……死んで逃げるなんてのは許さねえ! おまえは生き延び、贖罪を果たすべきなんだ!」

 

 ライトニングがサンダーを救ったように、カオスがライトニングを救った。

 アヴェニール王国を滅ぼし、どうせ野垂れ死ぬだろうと見逃した子供が、まさか自身の命を救うなどとは。

 許しがたし。

 

「ふざけるな! オレは生粋の悪行超人だぞ! サンダーのような半正義超人とは……」

「おまえはそのサンダーをひとりぼっちにするつもりか!」

 

 ライトニングは悪行超人の矜持を見せようとするが、即座に言い返され言葉を失ってしまう。

 

「ウウ……」

 

 サンダー。

 天涯孤独だったライトニングを兄弟と呼び慕ってくれた、無二の相棒。

 半正義超人だからなんだ、あいつはいつだって悪行・時間超人として共に闘ってくれたではないか。

 

「チ……チクショウ。どうせなら試合が始まる前まで肉体を戻してもらいたかったぜ。そうすりゃ、今すぐその首を掻っ切って逃げてやるってのによ……」

 

 悔しそうに言うライトニングの目尻には、涙が溜まっていた。

 

「ジョワッ……」

 

 口からうめき声が漏れ、双眸が閉じられる。

 肉体時計逆回転の後遺症はなくなったが、ネプチューンマンから受けたダメージはしっかり残っている。

 痛みから逃れるため、ライトニングは意識を手放したのだ。

 

「ライトニング……よかった……」

 

 そんな相棒の様子を感じ取り、サンダーはリング上で伏す。

 追うように瞼を閉じ、意識を閉ざした。

 

『ライトニングとサンダー、一命は取り留めたようだが……ここで完全に気絶した――っ』

 

 沈黙した“世界五大厄”。

 されど死したわけではない。

 この結果を受け、各人が動いた。

 

「すぐに救急搬送だ! 急げ!」

「はい!」

 

 宇宙超人委員会が用意した救急スタッフがウォーキューブ内に駆けつけ、サンダーを運び出していく。

 地上でも同じく、ライトニングが救急車に乗せられていった。

 

「こうしてはいられない……」

 

 ウォーキューブ内でしばらく呆然としていたネプチューンマンは、割れた壁から外に飛び出した。

 超人特有の身体能力で高所から軽やかに着地し、最も気にかけるべき超人のもとへ向かう。

 

「カ……カオス!」

 

 エキゾチック物質の大量放出という無茶をやってのけたカオス・アヴェニール。

 彼はパートナーであるキン肉万太郎に抱きかかえられ、体を横たえていた。

 

「カオス……おまえ、大丈夫なのか?」

 

 ネプチューンマンがおそるおそる訊くが、どうやら本人の意識はハッキリしているようだった。

 カオスは衰弱した様子を見せながらも笑みを作った。

 

「ハハハ……騒ぎすぎだよ、ネプチューンマン。ちょっとエキゾチック物質を使いすぎただけ……まだまだ命の灯火が消えるには早いさ」

 

 空元気には違いないだろうが……今すぐに命の危機が訪れるような状態ではなさそうだ。

 ネプチューンマンはホッとし、息をつく。

 

「それより、あっちに顔を見せてやってくれ。きっとあんたと話したがってる」

 

 カオスが指で指し示した先には、彼がずっと救いたがっていた親子がいた。

 万太郎がカオスをそうしていたように、ロビンマスクが衰弱したケビンマスクを抱きかかえている。

 そこには仲間の生還を喜ぶスカーフェイスとジェイドの姿があった。

 

「ケビーン! おまえ、無茶な真似しやがって――っ!」

「何日間もXの体勢で溶液漬けだったんだ! 普通なら動くこともままならないはずだぜ!」

 

 ケビンマスクの救命は新世代超人(ニュージェネレーション)にとっての最重要ミッション。

 それを果たし、衰弱状態とはいえ仲間が無事に戻ってきた喜びはひとしおだろう。

 20世紀の正義超人であるキン肉マンもまた仲間の息子が生きて帰ってきたことを喜び、ケビンの背中に彫られたスパイダーネスト・タトゥーを叩いていた。

 

「これがロビンマスクの息子か――っ! ごっつい彫り物しとるの――っ!」

「こらキン肉マン! バシバシ叩くな!」

 

 父親のロビンマスクはキン肉マンの乱暴な振る舞いを叱りつけた。

 ネプチューンマンもまた、その騒々しい輪の中に入っていく。

 

「ケビンマスク」

「ネ……ネプチューンマン」

 

 ケビンマスクは自身を解放してくれた張本人とも言える相手を前に、頭を垂れた。

 

「あんたには感謝してもしきれないが……言わずにはいられない。本当にありがとう」

 

 ロビンマスクの倅、“難攻不落の鉄騎兵”ケビンマスク。

 ネプチューンマンの下調べではもっとぶっきらぼうな若造だと思っていたが、目の前のケビンからは伝説超人(レジェンド)を敬うような誠意が感じられる。

 彼を変えたのは父か、友か、あるいは……師か。

 

「よしてくれ。オレは本来なら、おまえに礼を言われる立場にない。その感謝はすべて、オレの相棒を務めてくれたおまえの師匠にくれてやってくれ」

 

 ネプチューンマンはケビンマスクに促すように、視線を横にやる。

 そこには、サンダー同様ウォーキューブから運び出されたウォーズマンがいた。

 

「やつがいなければ、この一戦に勝つことはできなかったのだから……」

 

 担架の上に横たわる彼に意識はない……おそらくこの大会中に戻って来ることはできないだろう。

 

「ウォーズマン……」

 

 ケビンマスクは救急車が発進するその瞬間まで、師の勇姿を目で追い続けた。

 

 試合が終わり、怪我人は搬送され、日が落ちる。

 本日予定されていたプログラムはすべて終了した。

 となれば、大会を取り仕切る者としてはマイクを取らざるをえない。

 

『皆、静粛に! それではあらためて告知をさせてもらう……』

 

 ハラボテ・マッスルがトーナメント・マウンテンに集った20万人の観客に、そしてなにより今日の勝者たちに対し、今後の予定をアナウンスする。

 

『“究極の超人タッグ戦”決勝戦、“マッスルブラザーズ・ヌーボー”vs“新星・ネオ・イクスパンションズ”は……今より4日後、準決勝と同じくここトーナメント・マウンテンの決勝ウォー・キューブ内にて行う!』

 

 準決勝が終了したということは、“究極の超人タッグ戦”は残すところあと一戦。

 前身である“夢の超人タッグ戦”でザ・マシンガンズとヘル・ミッショネルズがそうしたように、トーナメント・マウンテンの頂上に最も近いリングで優勝チームを決める闘いが行われる。

 

「け……決勝戦!」

 

 この場に残ったふたり――“マッスルブラザーズ・ヌーボー”のキン肉万太郎と“新星・ネオ・イクスパンションズ”のネプチューンマンは、資格を持つ者として息を呑んだ。

 しかし万太郎のほうは乗り気ではないのか、覇気のない顔つきで言う。

 

「え~! でもさ~。諸悪の根源だったライトニングとサンダーは倒したわけだし、ケビンが復活したってことはアリサさんの容態も安定したってことでしょ? 無理に決勝戦やる必要なくない?」

 

 そう主張するが、すぐさまミートくんが飛んできて怒鳴りつけた。

 

「なにを言ってるんですか――っ! あなたにはまだ、エキゾチック物質欠乏症にかかっているカオスを延命させるっていう重大なミッションが残っているでしょう! “究極の超人タッグ戦”優勝者の証であるトロフィー球根を手に入れなければ、後の未来に現れる間隙の救世主も誕生しなくなってしまうんですよ――っ!」

 

 前日に時空船に残されたエキゾチック物質を使い切り、ネプチューンマンの心臓を再生させるという博打に出たミートくんとしては賭けが成功するか否かの瀬戸際だ。説教にも熱が入る。

 

「わ、わかってるってば~~っ」

 

 そんなミートの事情を知らない万太郎は眉根を下げる。

 

「でもほら、残ったのは同じ目的を持った正義超人同士……ここは穏便に、どっちがトロフィーを引き抜くか話し合って決めない?」

 

 血を好まない万太郎らしい提案だ。

 だがネプチューンマンは首を振る。

 

「いや、トロフィーはこのトーナメント・マウンテンを勝ち抜いた真の強者しか認めまい。談合で選ばれた勝者などでは、数日前のライトニングやサンダーのようにトロフィーを引き抜くことはできないだろう」

 

 この“究極の超人タッグ戦”の起こりはまさにそれ。

 時間超人が来襲したことにより、“夢の超人タッグ戦”覇者であるザ・マシンガンズが最強とは呼べなくなった。

 ゆえに黄金のトロフィーは引き抜かれることを拒絶し、あらためての最強タッグ選定を望んだのである。

 

「ウ~ン」

 

 腕を組み困ったような声を出す万太郎。

 いつもの臆病風に吹かれたわけではない。

 おそらくはカオスの体のことを考え、闘いを回避する道を探しているのだろう。

 ネプチューンマンはハラボテに向き直り言う。

 

「しかしハラボテ委員長よ。万太郎の言うことにも一理ある。オレたちのパートナーであるウォーズマンとカオスは両方とももはや闘える状態ではない。談合とは言わずとも、ここはルールを変更しオレと万太郎のシングルマッチで優勝者を決めてはどうか?」

 

 ネプチューンマンとてこれ以上カオスに無茶をさせたくはない。ゆえの提案だった。

 しかしハラボテは渋い顔をする。

 

「気持ちはわかるが……ネプチューンマンよ、それは無理な提案じゃ。超人古代文書によれば、黄金のトロフィーは“協力と調和のシンボル”……引き抜くには、この地で開催されるタッグトーナメントでナンバーワンの座についた強者ふたりの力が必要不可欠。仮に君や万太郎のどちらかが優勝したとて、ひとりではビクともせんじゃろう」

 

 トロフィーを引き抜く条件は、タッグでの最強を示すこと。

 そうでなければ完全無比の球根(コンプリートバルブ)も入手できない。

 だがそれには、どうしても瀕死のパートナーに奮闘を強いることになる。

 

「ウウ……」

 

 ネプチューンマンは因縁の相手に勝利したばかりとは思えないほど狼狽した。

 やはり重傷のウォーズマンやカオスを無理やりリングに立たせるしかないのか……ふたりはリングの端にでも寝かせ、ネプチューンマンと万太郎で実質シングルマッチという形にしてはどうだ?

 そんな裏技じみたやり方でトロフィーが納得するとは思えない。口にするのもバカバカしい案だった。

 

「幸いなことに、君らはふたりともヌーボーとイクスパンションズのチームリーダー。カオスとウォーズマンが出場できないのであれば、代理を立てでもタッグで決勝戦に臨んでもらわなければならん。キン肉マンのパートナーがプリンス・カメハメからテリーマンに代わったように……あるいは、ネプチューンマンのパートナーがセイウチンからウォーズマンに代わったように……じゃ」

 

 それはハラボテなりの心遣いか、悩めるネプチューンマンと万太郎に妥協案を提示してくる。

 それなら黄金のトロフィーも認めてくれるだろう、と。

 

「代理を立てでも……」

「タッグで……か」

 

 ネプチューンマンと万太郎は、あくまでも一案としてそれを受け取った。

 代理など立てたくない、だからといって相棒に無理をさせたくもない……そんな葛藤を胸に、答えを保留にする。

 

 

 

 

 

 そういった“究極の超人タッグ戦”決勝進出者たちのやり取りを、遠巻きに眺める超人たちがいた。

 

「聞いたか、スペシャルマン」

「ああ、聞いたよカナディアンマン」

 

 ひとりは265センチの巨体を誇るカナダの雄、カナディアンマン。

 もうひとりはアメリカンフットボーラーのような出で立ちの相棒、スペシャルマン。

 ふたり合わせて技巧コンビ“ビッグ・ボンバーズ”だ。

 

「ネプチューンマンのパートナーであるウォーズマンは先の一戦で渾身の一撃を放ち、大きく消耗している……おそらく4日後の決勝戦には間に合わないだろう」

「となれば、ネプチューンマンは新たなタッグパートナーを擁立せざるをえないわけだが……その場合、ネプチューンマンは誰を指名するか」

 

 話の一部始終を聞いていたカナディアンマンとスペシャルマンは、互いに視線を合わせる。

 

「決まっている」

「ああ」

 

 本人たちの感情はどうあれ、もはやパートナー交代は避けられない。

 その事実が、ふたりに大いなる期待をもたらしていた。

 期待――いや、もはや確信と言ってしまってもいい。

 

「やつが最も警戒した男たち……オレとおまえのビッグ・ボンバーズ、どちらか一方だ」

「ふたり同時に……とはいかないのが残念だが、ついにきたな。オレたちビッグ・ボンバーズの捲土重来の機会が」

「なに、オレたちふたりは永遠のコンビだ。どちらか一方が活躍すればカナダにもアメリカにも錦を飾れるぜ」

 

 ネプチューンマンは新パートナーとして、おそらくカナディアンマンかスペシャルマンのどちらかを指名するだろう。

 アシュラマンの登場によってリザーバーの席から蹴落とされたビッグ・ボンバーズだったが、満を持して“究極の超人タッグ戦”に参戦するときが来たのだ。

 

「いこう! ネプチューンマンのもとに……すべてはビッグ・ボンバーズの捲土重来のために!」

 

 捲土重来を為さんがために。

 ビッグ・ボンバーズのふたりは自分たちを評価してくれた盟友のもとに駆けた。

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