ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ” 作:速筆魔王LX
ヘルズ・ベアーズ。
1号のマイケルと2号のベルモンドから成るコンビ。
お揃いのクマのぬいぐるみを……それも超人レスリングの場には相応しくないファンシーなデザインのものを着込み闘う、異色の超人タッグチームである。
間引きバトルロイヤルにおいてはサバンナ&ゴリマックスをKOする活躍を見せたこともあり、経歴不明ながら早くも多くの超人レスリングファンを獲得している存在だ。
「クゥーン」
その独特な媚びたような鳴き声を発しながら、ヘルズ・ベアーズのふたりは与えられた控え室で帰り支度を進めていた。
彼らは明日、川崎球場でメテオマン&スプートニックマンの“チーム・コースマス”と対戦予定。
試合を明日に控えた超人を邪魔しに来るような無粋なファンはいない。
「邪魔をするぜ、クマちゃんたちよ」
いや、いた。
ノックもしない不躾さでもって、その仮面に鉄鋲ベストの男はいきなり部屋に入ってきた。
「ネ……」
「ネプチューンマン!」
突然の来訪者に驚きながらも、素早くファイティングポーズを取るヘルズ・ベアーズ。
いかに可愛らしい姿をしているとはいえ、“究極の超人タッグ戦”エントリー選手。
アポもなくライバルが部屋に押し入ってきたとなれば、取るべき対応はもちろん撃退に決まっている。
「お――っと、そう警戒しなさんな。オレはなにも殴り込みに来たわけじゃねえ」
しかしネプチューンマンは両手を上げ、敵意の欠片もない様子を示した。
「明日の一回戦が始まるまで暇なもんでな……そう、遊びに……」
それどころか、口元で笑みを作り友好的な態度を表現してみせる。
仮面に隠れて見えないが、ひょっとしたら目も笑っているのかもしれない。
「遊びにきたんだ」
ニコッ、というおおよそネプチューンマンには似つかわしくない笑み。
マイケルとベルモンドは互いに顔を見合わせ、数秒沈黙。
ややの間を置き、ふたりともバンザイをした。
「ワァ~~イ! ワァ~~イ!」
「ネプチューンマンが遊びにきた――っ!」
立派な体躯を持ちながら、子供のようにはしゃぐマイケルとベルモンド。
ネプチューンマンはそんなふたりを前に笑みを絶やさず、怪しげに「グフフ……」と声を発していた。
「あそぼ――っ、あそぼ――っ」
「ねーねー、なにしてあそぶ――っ?」
ネプチューンマンを囲いリズムよく回るクマちゃんたち。
彼らは間引きバトルロイヤルの場でも終始こんな調子だった。
見た目は無邪気なクマのぬいぐるみ……しかしネプチューンマンは、これが道化を演じているだけにすぎないと知っている。
「フフフッ……猿芝居、いや熊芝居もそれくらいにしてもらおうか」
常ならばもう少し付き合ってやってもいいところだが、今は時間が惜しい。
ネプチューンマンは核心を突くべく、ふたりのクマの内のひとり――ベルモンドを指差し言う。
「このネプチューンマンはおまえの正体に気づいている。ここは腹を割って話そうじゃないか、ヘルズ・ベアーズ2号・ベルモンド……いや、ウォーズマン!」
ウォーズマン。
口にした名は、未来・過去問わず超人ならば誰もが知っているであろうビッグネームである。
第21回超人オリンピック・ザ・ビッグファイトの準優勝者にして、あのロビンマスクの弟子。
21世紀の未来で暮らす者たちからすれば、ケビンマスクを超人オリンピック・ザ・レザレクション優勝に導いた名セコンド。
ファイティング・コンピューターの異名を取るロシア――この時代ではソ連――の強豪ロボ超人。
それこそが、目の前にいるクマの着ぐるみ……ベルモンドの正体だとネプチューンマンは言っている。
「知っているぞ。おまえはオレと同じく
なにせネプチューンマンには“前回”の記憶があるのだから間違えようがない。
ヘルズ・ベアーズ2号ベルモンドは明日川崎球場で行われる一回戦、チーム・コースマス戦でその正体を明かす。
だがそれでは遅い。遅すぎるのだ。
だからネプチューンマンは貴重な時間を割いてここに来た。
なによりもウォーズマンの身を按じるがゆえに。
一方、ベルモンド本人はそんなことを言われるとは思ってもみなかったのか。
ウォーズマンという名にも、ネプチューンマンの問いかけにも無反応。否定も肯定もない。
まるで本当にただのクマのぬいぐるみになってしまったかのように、その場に硬直した。
「クゥ~~ン」
「クゥ~~ンじゃねぇ」
誤魔化そうとしたようにも思える鳴き声を発してきたが、ネプチューンマンは取り合わない。
とはいえベルモンドも一筋縄ではいかず、またもや物言わぬクマのぬいぐるみになってしまう。
徹底的な黙秘。半ば予想していた対応に、ネプチューンマンは怒りもせずただ口元を緩めた。
「フッ……このオレが直々に赴いてもまだ正体を明かすつもりはないか。まあそれでもいい。オレは別におまえのクマちゃんごっこをイジりにきたわけじゃねぇからな――っ」
そう言って、ネプチューンマンはベルモンドに接近する。
耳元に顔を近づけ、声のトーンを落とした。
意図は、もうひとりのクマ……マイケルに悟られぬため。
「オレはおまえのパートナー、マイケルについて忠告を伝えに来たのだ」
「……ッ!」
きょとんとしているマイケルを尻目に、ネプチューンマンはベルモンドにのみ聞こえる声量で続ける。
「ヘルズ・ベアーズ1号・マイケルの正体……もちろんオレはそっちにも気づいている。おまえがやつをパートナーに選んだ意図もな。そのうえで言わせてもらうが、やつはおまえに制御できるようなタマじゃねぇ。今のままの関係では、いつか手痛い裏切りに遭うぞ」
「裏切り……」
ベルモンドが低い声で反応した。
なにかを思案するような雰囲気を漂わせながら、つぶらな瞳でネプチューンマンを見つめる。
そして、長い間を置いてからこう答えた。
「マイケルは大切なトモダチだよ」
トモダチ。
パートナーとの友情を信じて疑わない、純真で無垢な発言だった。
「フッ……そうかい」
ネプチューンマンは自然に笑みを作った。
ここまでのやり取りでベルモンド――ウォーズマンのスタンスはわかった。
彼があくまでクマちゃんに徹するというのであれば、この場で執拗に食い下がるのは悪手だろう。
「ならば今のおまえと話すことはもうねぇ~~っ。次はおまえがそのヌイグルミを脱いだとき……オレたちの最終目的である時間超人打倒についてあらためて語り合うとしようぜ――っ」
ベルモンドからの返答はない。
ただ「なに言ってるの?」とでも言いたげな感じに首を傾げるだけだ。
徹底して道化を演じる、あっぱれな役者ではないか。
「……忘れんうちに礼だけは言っておく。デバイスをありがとうよ」
去り際に、“前回”に受けた恩に対する感謝だけを残す。
もちろん、返ってくる言葉はなかった。
控え室を出たネプチューンマンは、ヘルズ・ベアーズの今後について思案する。
(時間超人も脅威だが……マイケルの存在も無視することはできん。やつの獣性はオレの計画の障害となりうる。そしてその被害に一番見舞われるのは、他でもないパートナーのウォーズマンだ。やつを失うのは惜しい……)
先の忠告どおり、ネプチューンマン最大の懸念はマイケル――その正体たる超人である。
やつが正体を明かすとき、それはウォーズマンにとってもネプチューンマンにとっても運命の転換点となる。
未来を知るネプチューンマンにとっては、最悪の展開を避けるためにもウォーズマンと足並みを揃えたいのが本音だった。
(しかし、やつもやつで頭の固い
ロビンマスクの弟子、ウォーズマン。
“宇宙超人タッグ・トーナメント”、そして“前回”と……直接対決の末に二度もその命を奪った、ネプチューンマンとは因縁浅からぬ間柄だ。
もともと馬が合う男とも思わない。ならば下手に手を取ろうとせず、好きにやらせておくのも方法のひとつだろう。少なくとも今回は敵ではないのだから。
(幸い、オレがセイウチンの獣性をセーブしている以上、かつての“ヘル・イクスパンションズ”vs“ヘルズ・ベアーズ”戦みたいなことにはならないだろうが……用心するに越したことはない。やつの悪行超人としての才覚が、時間超人に利用される……なんて最悪のケースも考えられるからな)
注意を払うべきは、やはりマイケル。
やつの恐るべき本性が表に出ないよう、上手く立ち回る必要がある。
(もし、マイケルが暴走しウォーズマンが危機にさらされるようなことになれば……そのときはオレが)
ネプチューンマンは後悔を握り込む。
それは“前回”の経験の中で、セイウチンへの仕打ちに並ぶ恥ずべき点だった。
もしセイウチンと同様、マイケルとの関係性もやり直せるのなら――と考えないでもない。
が、今はまだそのときではないだろう。
会場を出たネプチューンマンは、外で待っていたある男と接触する。
「遅いですよ、ネプチューンマン」
声を放る男は、時間に厳しい、遅刻など絶対にしないようなタイプだ。
良くも悪くも真面目、だが決して融通が利かないこともない。
ゆえに悪事の片棒を担いでもらうのに最適……もとい、協力者として信頼できる。
「おお、待たせたな」
ネプチューンマンが返事を返す。
目の前の、両肩に馬と城のチェス駒を載せた若き超人に。
「チェック・メイト」
その男は、ネプチューンマンが体験した“前回”の“究極の超人タッグ戦”には参戦できなかった男。
しかし今回の“究極の超人タッグ戦”においては、場をひっくり返すキーパーソンとなる。