ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第090話 現れたのは謎のニューカマー!?

“究極の超人タッグ戦”決勝進出チーム“マッスルブラザーズ・ヌーボー”が練習場にしている新宿の空き地。

 やがて都庁が建つ予定の空間に置かれたリングの上で、キン肉万太郎はひとりヒンズースクワットで汗を流していた。

 

「フン! フン!」

 

 彼の相方であるカオス・アヴェニールはこの場にはいない。

 先日の準決勝第2試合直後――命の危機に瀕した仇敵、悪行・時間超人のライトニングを救うためにエキゾチック物質を放出しすぎた。

 時間超人であるカオスにとって体内のエキゾチック物質は必須栄養素も同然。現在は著しい体力低下により、病院に入院中となっている。

 3日後に迫る決勝戦までに快復できるかどうかは……はっきり言って望み薄だった。

 

「万太郎さん……ひとりで黙々とトレーニングを続けていますが、決勝はもう3日後ですよ? そろそろタッグパートナーをどうするか決めないと……」

 

 リングの外で、彼ら“マッスルブラザーズ・ヌーボー”を最初期から見守ってきたミートくんが言う。

 大会運営委員長のハラボテ・マッスルは元のパートナーが試合に出られない場合、代理を立てるよう勧めてきた。

 現状のベストな判断としては、カオスに代わる新パートナーを擁立し準備期間を使ってタッグチームとしての精度を上げることだが――

 

「ボクはギリギリまでカオスを待つよ」

 

 万太郎は端からそんなことは考えていないとばかりに、スクワットを続けながら言った。

 その眼差しは力強く、ミートではなく東京の青空を眺めている。

 

「マッスルブラザーズ・ヌーボーの片翼はカオス・アヴェニールしかありえない。ここで代理を立てるのは、カオスに対する裏切りだ」

 

 この大会を通して、万太郎とカオスの友情は確固たるものとなった。

 トーナメント開始直後こそ、彼の素人丸出しのファイトにやきもきさせられたが……決勝まで来た今となっては、パートナー交代などとても考えられない。

 

「そ、そうは言いますが……現実問題、もしカオスの復帰が間に合わなければ決勝戦に上がることはできず、その場合は“新星(ノヴァ)・ネオ・イクスパンションズ”の不戦勝……しかしそれでは黄金のトロフィーを引き抜けず計画はご破算になってしまう~~っ」

 

 ミートはあくまでも現実主義者としての主張をするが、万太郎はスクワットをやめなかった。

 

「それでも、だよ」

「それでも、じゃないでしょ~~っ」

 

“マッスルブラザーズ・ヌーボー”が決勝に出られなければ、試合は成立しない。

 仮に対戦相手のネプチューンマンたちが不戦勝となっても、不完全な形で掴み取った優勝ではトロフィーが引き抜ける可能性は皆無に等しかった。

 そしてもしそんなことになってしまえば、寿命わずかなカオスを助けることはできず……時空船(タイムシップ)の燃料が切れている現状、新世代超人(ニュージェネレーション)の面々も未来に帰ることができなくなってしまうのだ。

 

「スカー、ジェイド……あなたたちはだいぶ元気になったでしょう。万太郎さんのパートナーを引き受けてはくれませんか?」

 

 ミートは万太郎のことを心配して来てくれていた新世代超人のふたり、“スーパー・トリニティーズ”のスカーフェイスとジェイドに声をかける。

 新世代超人の仲間の中で万太郎とタッグを組めるほどに回復しているのはこのふたりだけだ。

 ミートは藁にも縋る思いだったが、スカーもジェイドも乗り気ではないようだった。

 

「ネプチューンマンのオヤジにリベンジできるってのは魅力的だが……今じゃねえな」

「ああ。シングルならともかくタッグなら……リベンジはオレとスカーのスーパー・トリニティーズでだ。だから今、万太郎と組むわけにはいかない」

 

 万太郎とタッグを組むということは、ネプチューンマンのチームと再戦するということ。

 一回戦で土をつけられた相手だからこそリベンジに燃えるかと思ったが、そこはタッグマッチ、どちらか片方だけというのは心情が許せないのだろう。

 スカーとジェイドはさらに続ける。

 

「それに、あそこまで意固地になった万太郎と即席タッグを組んでトロフィーのお眼鏡に叶うような強さを発揮できるとは思えねえ」

「キン肉マンのお付きの20世紀ミートならわかると思うが……息子のあいつの頑固さは父親並みだ」

「ああ~~っ! わかってしまう~~っ!」

 

 ミートは長年手を焼かされてきたキン肉スグルの顔を思い浮かべ、頭を抱えた。

 

 

 

 そんな彼らの様子を、離れた位置から眺める者たちがいた。

 キン肉マンとテリーマン――“ザ・マシンガンズ”のふたりである。

 

「ヘイ、キン肉マン。おまえは万太郎の代理パートナーに立候補しないのか? コンディンションはもう万全だろう」

 

 この場に訪れながら声をかけることもなく黙って見ていることしかしないキン肉マンに対し、テリーマンが言う。

 

「わ……わたしが万太郎と?」

 

 キン肉マンは思いもしなかったといった感じの表情を見せ、テリーは薄く笑う。

 そう、万太郎のパートナーはなにも新世代超人である必要はないのだ。

 

「この“究極の超人タッグ戦”、未来から来たミーたちの息子を名乗る超人が押し寄せてきたわけだが……そういえば純粋な親子タッグは一組もいなかった。ここでキン肉マン&キン肉万太郎のキン肉族親子タッグが誕生すれば、全国のファンが熱狂すると思うぜ」

 

 そう言って、テリーはキン肉マンの肩にポンッと手を乗せた。

 

「まさかこの期に及んで万太郎を息子とは認めない……なんて言わないだろう?」

「グムー……」

 

 最初こそ新世代超人を悪行超人の手先などと喚いていたキン肉マンだったが、数々の名勝負を見てきたことでその認識は改善されている。

 直接「万太郎よ! おまえこそ未来に生まれてくる我が息子だ!」とまでは言わないものの、心の奥底ではすっかり認めているはず。

 テリーはそう考えていたのだが、キン肉マンはふるふると首を横に振った。

 

「わたしとて、万太郎とタッグを組み闘ってみたい気持ちはある。だが今回はやめておこう」

「ホワ~イ? なぜ?」

 

 首を傾げるテリーマンに対し、キン肉マンは言う。

 

「万太郎にはカオスを始め、多くの友達がいる。わたしが手を挙げずとも、いざというときは彼らが万太郎の支えになってくれるさ」

 

 キン肉マンとて、万太郎とタッグを組みたい気持ちはある。

 だが、万太郎が2週間前にトーナメント・マウンテンの頂上に降り立ち今日に至るまで……彼のそばにはずっと多くの友人たちの姿があった。

 たとえ一時チームは別れようとも、21世紀で育まれてきた友情パワーは本物。それを差し置いてまで己が出る幕はないだろう。

 ゆえに、キン肉マンはカラッと笑う。

 

「友達同士で仲良くやっている中で、いきなり父親が首突っ込んできたらうざったいことこのうえないからの~~っ」

「ハハハッ、それは確かに。そんな父親にはなりたくないな」

 

 テリーマンもまた笑って返す。

 

「では、イクスパンションズ。ネプチューンマンのパートナーに立候補するというのはどうだ? 決勝という大舞台で息子の万太郎と闘えるぜ」

「ネ、ネプチューンマンの……!?」

 

 テリーが出してきた思わぬ代案に、キン肉マンはまたもやハッとさせられた。

 

「おまえ、二回戦でミーがキッドとガチンコファイトをしていたのを密かに羨ましがっていたんだろう。これはラストチャンスかもしれないぜ」

「ウウ……」

 

 二回戦……“ザ・マシンガンズ”vs“ジ・アドレナリンズ”の試合の中で、テリーマンは息子であるテリー・ザ・キッドとの真剣勝負に興じた。

 相棒のあのときの満足そうな表情を思い出してみれば、確かにそそられるものがある。

 ネプチューンマンも“夢の超人タッグ戦”で激闘を繰り広げたライバルのひとり。そんな男と組み、未来に生まれてくる息子と闘えるというのであれば魅力しかなかった。

 が、

 

「……いや。やはりそれもやめておくよ」

 

 キン肉マンはフッと笑う。

 

「わたしのタッグパートナーはやはりテリーマン、おまえだけだ。そう何度もパートナーを変えてトーナメントに出場しては、グレートマスクをおまえに託してくれたカメハメ師匠に叱られてしまうわい」

「キン肉マン……」

 

 キン肉マンはテリーマンとのタッグ“ザ・マシンガンズ”として“究極の超人タッグ戦”に挑み、二回戦で敗北した。

“夢の超人タッグ戦”から引き続きパートナーを務めてくれたテリーを捨て今さら新タッグに走るなど、亡き師匠に申し訳が立たない。

 

「それにな……たぶんネプチューンマンも同じなんじゃないかと思うんだ」

「同じ?」

 

 キン肉マンは虚空を眺め、この場にはいないライバルのことを思う。

 彼はきっと――

 

「万太郎と同じように……パートナーの帰還を待っているのではないかとな」

 

 

 ◇

 

 

 ところ変わって、“新星・ネオ・イクスパンションズ”の練習施設。

 体育館の中にぽつんと置かれたリングの上で、3人の超人が顔を突き合わせていた。

 

「いったいなんの用だ?」

 

 問うたのは、修復した仮面で目元を覆い、同じく修復された鉄鋲ベストを纏う“新星・ネオ・イクスパンションズ”リーダー、ネプチューンマンである。

 そして答えるのは、カナダとアメリカの盟友コンビ――“ビッグ・ボンバーズ”のカナディアンマンとスペシャルマンだ。

 

「なんの用だ、じゃない! あんただってわかっているだろう!?」

「“新星・ネオ・イクスパンションズ”のパートナー問題……それを解決するため、オレたちビッグ・ボンバーズが馳せ参じた!」

 

 ネプチューンマンのパートナーであるウォーズマンは、先の“世界五大厄(ファイブディザスターズ)”戦で力を使い果たしリタイアしてしまった。

 つまり今のネプチューンマンはパートナー不在。タッグマッチの祭典である“究極の超人タッグ戦”決勝に臨むためには、代わりのパートナーを擁立する必要があるのだ。

 だからこそ、カナディアンマンとスペシャルマンは「オレたちが!」と己を売り込みに来た。

 

「オレたちふたりはおまえが最も恐れ、警戒したチーム! どちらかひとりでも、タッグパートナーとしては申し分ないだろう!?」

「次の決勝戦、オレたちのどちらかがイクスパンションズの新メンバーとしてリングに立つ! すべてはビッグ・ボンバーズの捲土重来のために!」

 

 意気込むふたりに反し、ネプチューンマンは嘆息する。

 まさかリザーブマッチのときにおだてた影響が今になって返ってくるとは……運がない。

 

「悪いが悩んでいるんだ。冗談は他所でやってくれ」

「じょ……冗談だって!?」

 

 ネプチューンマンはふたりに背中を向け、リングロープを手に途方に暮れた。

 スペシャルマンはそんなネプチューンマンの覇気のない様子に憤ったが、カナディアンマンが肩に手を置き言葉をかける。

 

「待てスペシャルマン。あの思い詰めた表情をよく見ろ。やつはもしや……オレとスペシャルマン、どちらをパートナーにするかで悩んでいるんじゃないのか?」

「そ……そう言われればそんな気も……」

 

 悩ましげなネプチューンマンの背中から、ビッグ・ボンバーズのふたりはメッセージを感じてならなかった。

「オレとフィジカル面で釣り合うのはやはりカナディアンマンか? いやいやスペシャルマンの突進力も捨てがたい……」と思案に暮れているようにも思える。

 

「オレとスペシャルマンそれぞれのファイトスタイルや特性、自分との相性、相手がキン肉万太郎であることや、やつが連れてきそうなタッグパートナーまで諸々考慮し、どちらが最適か脳細胞をフル回転させ吟味しているに違いないぜ」

「さ……さすが元完璧(パーフェクト)超人だ」

 

 スペシャルマンはウ~ンと唸り、口内のツバを飲み込んだ。

 これが決勝を目前に控えた強豪超人の佇まいなのか、と。

 

「ここはおとなしく待とう。ネプチューンマンの決断を」

「ああ」

 

 実際のところ、ネプチューンマンはビッグ・ボンバーズなど歯牙にもかけていない。

 考え事をしているのは間違いなかったが、それはふたりのことなどではなく……勝負の場から下りることとなってしまった大恩人のことだ。

 

(カオス……まさかあんなことになってしまうとは)

 

 カオス・アヴェニール。

“前回”の闘いでネプチューンマンの命を救い、偶発的とはいえやり直しの機会を与えてくれた正義・時間超人。

 彼は自らを犠牲にし、ライトニングを……ネプチューンマンが打ち負かした復讐対象を救うという行動に出た。

 

(オレたちは殺し合いをしているのではない。わかり合うために闘っている……あんな大層なことを言っておきながら、オレはウォーキューブから身を投げようとするライトニングを止められなかった。なんとなく、あいつがああするだろうことは予想できたってのにな)

 

 あのとき、ライトニングは重傷の身を押してパートナーのサンダーを救い、ふらふらの足取りでウォーキューブの外へ身を投げだした。

 それを呆然と見送ってしまったのがネプチューンマンだ。大急ぎで駆けつけ、羽交い締めでもなんでもして止めることはできただろうに。

 

(結果、オレはオレの命を救ってくれた大恩人に……またもや命を削るような無茶をさせてしまった。ああならないように裏でいろいろ糸を引いてきたというのに、なんという詰めの甘さ……これではなんの恩返しにもならねえじゃねえか)

 

 準決勝が始まる前は復讐鬼となることを懸念していたカオスが、まさか親の仇を殺すのではなく命がけで救うことになるなど……予想できるはずもない。

 後悔は大きいが、後悔ばかりしていられないのが現在の状況。

 時間超人は倒した。ロビン親子も救った。

 残された命題は、カオスへの恩返しだけである。

 

(こっからオレにできるのは、カオスの命を救うため……黄金のトロフィーに認められるような強さを決勝の対万太郎戦で見せつけること。しかしそれにはオレが十全に力を発揮できるタッグパートナーの存在が必要不可欠……ウォーズマンやセイウチン以上のパートナーなど……)

 

 それが存外難しい。

 後進の育成も兼ねてスカーフェイスやジェイドに声をかけるか? “キン肉星王位争奪サバイバル・マッチ”で組んだこともあるキン肉マンやロビンマスクはどうだ? マンモスマンを連れ戻すというのはさすがに無謀すぎる願いか? この際後ろのふたりでも……いやない。

 

「邪魔するぜ」

 

 懊悩しているところに、また来訪者が現れた。

 ネプチューンマンが振り向き確認する。

 それは意外な男だった。

 

「お、おまえは……」

 

 服装は宮廷服とも思える詰襟のジャケット姿。

 頭部には王冠を思わせる装飾が施されており、どこか貴族然としている。

 出で立ちからして人間ではなく超人なのは間違いないだろうが……ネプチューンマンには心当たりがあった。

 

「なんだおまえ。ネプチューンマンは今取り込み中だ。邪魔するなら帰ってくれないか」

 

 一方で、カナディアンマンには覚えがない。

 部外者としか思えない者の急な来訪に、敵意を放ちながら応対する。

 

「おっと……まさかそのままの意味で受け取られてしまうとは。では手短に要件を言おう。ネプチューンマンのタッグパートナーに立候補しにきた」

 

 来訪者は簡潔にそう告げた。

 

「な……」

「なんだって!?」

 

 ビッグ・ボンバーズはまさかの対抗馬が現れた危機感から、威嚇するように声を張り上げる。

 

「ふざけるな! ネプチューンマンは3日後、“究極の超人タッグ戦”決勝戦のリングに上がるんだぞ! その大事な一戦のタッグパートナーに、おまえみたいなどこの馬の骨ともわからんやつが立候補だあ!?」

「次の決勝戦は名だたる強豪超人たちがしのぎを削った闘いの終着点! 名を売りたいのかなんなのか知らないが、君みたいなニューカマーがいきなり立てるようなリングじゃないんだぞ!」

 

 この後に控えるのは世紀の一戦。

 いくらネプチューンマンがパートナーに困っているとはいえ、誰でもいいというわけではない。

 名乗りを上げるのであればそれ相応の実力が必要だ。そう、たとえばネプチューンマン直々に正義超人界の秘密兵器とまで言わしめたビッグ・ボンバーズのような。

 

「言っていることはわからんでもないが……そもそもなぜおまえたちふたりがここに?」

 

 謎の来訪者はビッグ・ボンバーズのふたりをまるで場違いな者であるかのように言う。

 

「もちろん、オレたちふたりがネプチューンマンの新パートナーに立候補しているからだ!」

「君よりも先にな! すべてはビッグ・ボンバーズの捲土重来のため!」

 

 カナディアンマンとスペシャルマンは威勢よく答えるが、来訪者の反応は渋い。

 言葉を探すような間が数秒、やがてそれは発せられる。

 

「悪いが、カナディアンマンにスペシャルマン……おまえたちふたりでは実力不足だ」

 

 結局うまい言葉が見つからなかったのか、来訪者の男は率直にそう告げた。

 

「な……なにぃ~~っ!」

「このヤロウ! なら実力不足かどうか……その身にわからせてやるぜ――っ!」

 

 スペシャルマンがその場で憤り、血の気の多いカナディアンマンが突っ込んでいく。

 リングを飛び出し向かってくる265センチの巨漢。

 並の超人なら迫力に気圧され後退りそうなものだが、謎の来訪者は一切引かなかった。

 

「挑発の意図はなかったが、致し方なし!」

 

 引くどころか自ら飛び込み、カナディアンマンの懐に入った。

 下から左のエルボーを繰り出し、顎を打ち上げる。

 カナディアンマンの脳が揺れ、来訪者はそのグラついた首に飛びついた。

 両腕を組んで首にかけ、上半身を被せることで締め上げる。

 

「ロシアンシックルチョーク!」

 

 メキメキメキという不協和音。

 来訪者の下半身は床から離れ、カナディアンマンの体に組みついている。

 すなわち、全体重がカナディアンマンの首にかかり痛めつけている状態だ。

 

「へ……変形のチョークスラム! カナディアンマンの頸動脈が完全に極められている!」

 

 その電光石火の妙技に、出遅れたスペシャルマンが驚愕。

 

「グアッ……」

 

 パートナーの発した悲鳴とも言いがたい音は、失神を意味していた。

 

「お……落ちた! カナディアンマンが!」

 

 巨体が崩れ落ち、スペシャルマンは呆然とする。

 助けに入る暇もなかった。

 それだけの早業……この見慣れぬ男、素人ではない!

 

「スペシャルマン。おまえも実力不足を確認してみるか?」

 

 倒れ伏すカナディアンマンを足もとに置き、来訪者は睨みをきかせる。

 スペシャルマンはごくりと息を呑み、飛び出した。

 しかし来訪者には挑みかからず、そばに転がっているカナディアンマンを抱き起こし、

 

「ビ……ビッグ・ボンバーズの捲土重来は……」

 

 肩に担ぐ形で、ネプチューンマンと来訪者に会釈。

 

「また今度……ということで」

 

 そのままそそくさと退場していった。

 残された来訪者とネプチューンマンが視線を交わす。

 

「追い払うような形になってしまってすまなかった。もしかしてスパーリングパートナーとして呼んだのか?」

「いいや、押し売りだ。むしろ助かったぜ」

 

 ネプチューンマンはビッグ・ボンバーズとは違い、この男を無碍に扱ったりはしない。

 リングに上がってきても追い出すことはせず、正面から向かい合った。

 

「それよりよく来てくれた。なんと呼べばいいか……いや、その格好で来たということは迷うまでもないか」

 

 ネプチューンマンは顎に手を添え、一瞬だけ考える。

 言葉を選び、その名を口にする。

 

「歓迎するぜ。“クロエ”」

 

 クロエ――その名は20世紀では知れ渡っていない名だ。

 それもそのはず、正体は21世紀の超人オリンピック・ザ・レザレクションであのケビンマスクを優勝に導いた名セコンド。

 だがそれすらも仮の姿で真の正体は……力を使い果たし病院で休眠中と思われた、“ファイティング・コンピューター”ウォーズマンである。

 

「しかしおまえ、コンディションは大丈夫なのか? そのオーバーボディ、よもや不調を隠すためのものではあるまいな?」

 

 正パートナーの帰還を喜びつつも、無理をしているのではないかと訝るネプチューンマン。

 戻って来るだけならなにもオーバーボディを身につける必要はないはず……返答によっては、やはりリングに立たせるわけにはいかない。

 

「ネプチューンマン。おまえはキン肉星王位争奪サバイバルマッチのあと、人里を離れ隠遁生活を送っていたようだが……その間肉体の研鑽を怠っていたわけではあるまい。オレだって同じだ。この身はバージョンアップを重ね、耐久力が向上している。あの一撃で生命力のすべてを使い果たしたなどと思われては心外だな」

 

 ウォーズマン、いやクロエからの返答はさっぱりとしたものだった。

 やせ我慢とも思えない。むしろ思いのほか元気そうで、イラッとしたほどだ。

 ネプチューンマンはクロエの背中をバシッと叩き、大声で返す。

 

「おめーが『これが最期の一撃だ!』みたいなノリで倒れたからだろうが! 心配して損したぜ!」

 

 これだけの軽口が叩けるのであればなんの憂いもない。

 ウォーズマン完全復活――つまりは“新星・ネオ・イクスパンションズ”の完全復活だ。

 とはいえ、疑問は残っている。

 

「それで、じゃあなんのためにそんな格好で現れたんだよ」

 

 不調を隠すためでないのだとしたら、クロエの姿で帰ってきた意味はなんなのか。

 超人のオーバーボディには正体を隠したいという目的が多分に含まれるが、決勝の場でウォーズマンがそれをやる意味はないように思える。

 

「盛り上げ好きのハラボテへのサービス……そして」

 

 どうやらクロエ自身、確かな理由はないようだった。

 それでも言語化するならば――

 

「予感さ」

 

 クロエの姿になることで、ドラマが生まれるような気がしたから。

決勝直前!ここまでのあなたの推しファイトは?

  • ザ・マシンガンズvsジ・アドレナリンズ
  • イクスパンションズvsヘルズ・ベアーズ
  • ザ・ナイトメアズvs世界五大厄
  • ヌーボーvsジ・アドレナリンズ
  • おっちゃんズvs世界五大厄
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