ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第091話 タッグパートナーの帰還!

“究極の超人タッグ戦”決勝まで、あと2日。

“マッスルブラザーズ・ヌーボー”の練習場では引き続き万太郎がひとりでトレーニングに励んでいた。

 時刻は夕刻。屋外ゆえ夜間の照明は期待できず、そろそろ練習を引き上げなければいけなかったが、万太郎はトレーニング人形を相手に体を酷使し続けていた。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 尋常でないほどの汗を流し、リングの上はスリップしてしまいそうなくらいビシャビシャになっている。

 それほどの練習量――が、それもこのままでは無に帰すおそれがあった。 

 

「決勝まであと2日……しかし一向にカオスが回復したという連絡はない。万太郎さん、これはもう……」

 

 ずっと彼に付き添っていたミートが、心配そうに言葉をかける。

 決勝に臨む前に解決しなければならないパートナー問題は、未だに保留状態。

 どれだけ万太郎が己を鍛え上げようとも、ひとりではリングにも上がれないのである。

 

「わかってる。わかってるよミート……今のカオスはライトニングを助けるため体内のエキゾチック物質を放出してしまい、半死半生の状態。仮に戻ってきたとしても、満足にリングに上がれるかどうか……ましてや、相手はあの時間超人たちを倒したネプチューンマンだ。万全の状態でも勝てるかどうか怪しいっていうのに、カオスにこれ以上の無茶をさせるわけにはいかない」

 

 今日まで意地を張り続けていた万太郎だが、彼だってもうわかっていた。

 カオスと共に決勝のリングに上がることは……もう、望めない。

 それをわかった上でなお新パートナーを求められないのは、彼の存在があまりにも大きすぎるためだ。

 

「でもさ……ボクにはもうカオスしかいないんだよ。“地獄のカーペンターズ”や“2000万パワーズ”……“ジ・アドレナリンズ”といった強敵たちに勝てたのは、相棒がカオスだったからなんだ。あいつがいない決勝戦なんて、勝てる気がしないよ……」

 

 決勝戦はカオスと共に。

 万太郎の中の決意は揺るがない。それが不可能だと頭で理解していたとしても。

 

「万太郎さん……」

 

 ミートはそんな万太郎の弱々しい表情を見て、なにも言うことができなかった。

 キン肉万太郎という超人はここまでずっとカオスと共に歩んできたのだ。

 いくら理屈を重ねたところで、感情を納得させることはできない。それがミートにはよくわかった。

 

「見ちゃいられねえな」

 

 今の彼になにか言える者がいるとすれば――それは遠慮を知らない昔からの腐れ縁だけだろう。

 

「キ……キッド!」

 

 声をかけてきたのは、万太郎と同じ新世代超人(ニュージェネレーション)の古株テリー・ザ・キッドだった。

 準決勝で敗退した彼はポロシャツにジーンズ、おしゃれキャップという出で立ちでリングの前に立つ。

 その片手には有名ハンバーガーチェーンの紙袋が抱えられ、もう片方の手には食べかけのハンバーガーが握られていた。

 

「20世紀のハンバーガーもなかなか悪くない。おまえは牛丼屋を巡ってみたか? どうやらこの時代じゃカルビ丼はマイナーメニューみたいで、どこでも見かけないぜ」

 

 そう言ってハンバーガーにかぶりつくキッド。

 万太郎は深刻な表情から一転、悪友の姿を見て呆れたような表情を作る。

 

「怪我も治ってないのになにしてるのかと思えば、買い食いかよ。負けたからって余裕あるな~~っ」

 

 手元のハンバーガーを食べきったキッドは紙袋からドリンクを取り出し、ストローで啜りながら返す。

 

「ケビンマスクの救命に時間超人の討伐というミッションは達成できたんだ。伝説超人(レジェンド)とのわだかまりも消えた今、オレたち新世代超人組はあとはもう未来に帰るだけ……どうせなら思い出を作っておこうと思ってな」

 

 ただでさえタイムスリップなどという稀有な体験をしているのだ。

 自分たちが生まれる前の時代を満喫するというのも、レジャーとしては悪くない。

 

「本当なら、いつもの5人で遊び歩きたいところなんだが……セイウチンとチェック・メイトはまだ入院中、ガゼルマンは未来で留守番、キン肉万太郎様はまだ決勝戦が残っているからな。遊んでる暇なんてないか」

 

 キッドは「HAHAHA!」とアメリカンコメディドラマのように笑い飛ばす。

 

「こ、こいつ~~っ」

 

 癇に障る言い方に、万太郎はわなわなと拳を震わせた。

 ぶん殴ってやろうかとさえ思った直後、キッドはドリンクをしまい真剣な表情を作った。

 

「ま、今のは負け犬のちょっとした嫌がらせさ。今日はおまえに大事なことを伝えに来た」

「大事なこと?」

 

 キッドのことだからどうせ夜の街にカワイコちゃんがいるとかそんなんだろう、と万太郎は思った。

 だが、彼の口から飛び出したのは思いもよらぬ言葉だった。

 

「カオスからの伝言だ。決勝戦について話がある……と」

「カ……カオス!」

 

 入院中のはずのパートナー、カオス・アヴェニール。

 キッドは彼に伝言を託されたというのだ。

 

 

 ◇

 

 

 万太郎、キッド、ミートくんの3人は大急ぎで超人病院に向かった。

 案内された一室にはカオスが寝かされており、呼吸器で繋がれている。

 

「カオス~~ッ!」

 

 その姿を見た万太郎は悲痛な叫びを上げる。

 カオスの顔色は土気色で、病人という表現がぴったりなほど衰弱していた。

 さらに目を引くのは、全身に浮かぶおびただしい量の赤い斑点である。

 

「こ……この赤い斑点は……」

 

 虫刺されなどではない、尋常でないということだけはわかる。

 この疑問には先に事情を聞いていたキッドが答えた。

 

「エキゾチックショック症……またの名をエキゾチック物質過多放出症……エキゾチック物質を大量に放出した後遺症らしい」

 

 エキゾチック物質の大量放出――準決勝のとき、ライトニングを救うために使ったあれだ。

 

「通常ならエキゾチック物質は体内でまた生成され回復するらしいが……15歳になる前に魔時角を抜いちまったカオスは新たにエキゾチック物質を生成する力がなく、現状は絞りカスみたいな微量のエキゾチック物質で生きながらえている……断言するぜ万太郎。カオスが決勝のリングに立つのは無理だ」

 

 そんなことはとっくにわかっていた。

 しかし今こうして、はっきりとした姿で知らしめられると……どうしようもなく悔しくなってくる。

 

「ウウッ」

 

 やはりカオスと共に“マッスルブラザーズ・ヌーボー”としてリングに上がることは不可能なのだと痛感する。

 その悔しさが、悲しさが、万太郎の瞳から涙を流させた。

 

「ま……万太郎。来てくれたか」

「カオス! 意識があるのか!?」

 

 万太郎の悲痛な声はカオスの意識を呼び覚まさせる。

 されど起き上がることはできないのか、仰向けに寝たまま今にも閉じそうな瞼を万太郎に向けた。

 

「悪いな。本当なら自分の足で戻ってやりたかったんだが……見てのとおりのこのザマだ。キッドが説明してくれたとおり、オレにもう決勝で闘うだけの余力はない。だ、だから……マッスルブラザーズ・ヌーボーは解散し、万太郎には新たなパートナーと決勝のリングに立ってほしい……」

 

 カオスから直々にそう言われてしまっては、もはや万太郎としては拒むことなどできない。

 

「わかった……わかったよカオス。だからおまえはもうなにも心配しなくていい。ボクがトロフィー球根(バルブ)を手に入れるまで、ゆっくり休んで待っていてくれ」

 

 カオスはこのまま休ませ、次に会うときはトロフィー球根をお見舞いの品として持ってくる。

 それが友としてできる精一杯のことだろう。

 

「フッ……そんなことを言っておきながら、本心では困っているんじゃないか? オレの代わりとなるパートナーなどいないと……無理に代役を立てるくらいなら、ひとりでもマッスルブラザーズ・ヌーボーとして出てやろうと……そんなふうに考えてる」

「そ、そんなことは……!」

 

 心の内を見透かされ、万太郎は慌てた素振りを見せる。

 

「キッドに頼んでおまえに来てもらったのは……ほかでもないオレから、万太郎の新パートナーとしてこの男を推薦したかったからさ」

 

 カオスはそう言って、視線を病室の奥に促した。

 カーテンの陰に隠れていた男が姿を表す。

 

「ああ~~っ、お……おまえは――っ」

 

 現れたのは、襟付きのロングコートを羽織った超人。

 特徴的なのはそのフェイス――まるで伝説超人ロビンマスクを思わせる鉄仮面は、21世紀で“難攻不落の鉄騎兵”と呼ばれたファイターの象徴だ。

 

「ケビンマスク!」

 

 ロビンマスクの実の息子にして、未来からやってきた新世代超人のひとり。

 つい先日まで消滅の危機に瀕し、X形クリアベッドごと時間超人に捕らわれていたケビンマスクが、ケロッとした様子で万太郎の前に現れたのである。

 

「カオス……おまえはボクにケビンと組めって言うのか~~っ」

 

 カオスが紹介するということはそういうことなのだろう。

 愕然とする万太郎に対し、カオスは言う。

 

「万太郎とケビンマスクのコンビは21世紀の未来では“ザ・坊っちゃんズ”として……あのアシュラマン率いる悪行超人軍団を倒したんだろう? 実績という面において、彼以上の適任はいない……」

 

 万太郎の新パートナーには誰が適任か。

 カオスなりに考え、導き出した結論がこのケビンマスクだった。

 

「そこにいるキッドにもどうか聞いてみたんだけど……彼は断固拒否してね。万太郎のおもりなんてごめんだってさ」

 

 名前を出されたキッドはぶっきらぼうに腕を組み、クチャクチャとガムを噛む。

 一度タッグ結成を拒み、直接対決で敗れまでしたのだ。

 カッコつけのキッドとしては、今さら万太郎とのタッグなど死んでも受けてはくれないだろう。

 

「オレ……いやワチキとしては、キン肉マンとの親子タッグなんてのも見てみたかったけど……試合が見れるかどうかも怪しいし、やはりここは……」

「い、いや!」

 

 万太郎はカオスの言葉を遮り、ケビンマスクに指をさす。

 

「おまえがそんなふうに気遣ってくれるのは嬉しいけど……ここにいるケビンマスクはつい先日まで肉体消滅の危機に瀕し、長期間X形クリアベッドの中で身動きの取れない状態だったんだ! 全身の筋肉は弛緩し、体力だって落ちているはず……とても満足に闘えるとは思えない~~っ」

 

 エキゾチック物質過多放出症に見舞われたカオスや準決勝のダメージが残るキッドよりはマシかもしれないが……ケビンマスクのコンディションも万全とは言えない。

 そう指摘するのだが、当のケビンマスクは仮面の上から耳をほじるような仕草で返した。

 

「うるせえよ……」

 

 悪ぶった態度は衰弱する以前の彼そのもの。

 ケビンマスクはそのまま、万太郎を挑発するように言う。

 

「万太郎。おまえも超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝のことを忘れたわけではあるまい」

「超人オリンピックの決勝……」

 

 その一戦は、日本vsイギリス――すなわちキン肉万太郎vsケビンマスクのことだ。

 

「あのときのオレは、オーバーワークによる疲労困憊の状態でおまえとの試合に臨んだ。しかしそのおかげで余分な力が抜け、静かに澄んだ水の如きノーブルフォームを貫くことができ……おまえは父キン肉マンが守ってきたチャンピオンベルトをこのケビンマスクに明け渡したんだよなあ?」

 

 そう――超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝のときのケビンマスクもまた、今と同じように万全の状態とは言えなかった。

 しかし彼はコンディションの不調をものともせず、最終的には万太郎を破ることでチャンピオンの座についたのである。

 

「そんな恥ずかしい過去を抱えながら、オレのコンディションの心配とは……ちゃんちゃらおかしいぜ」

 

 長く尾を引き続ける万太郎の精神的古傷を容赦なく抉り、ケビンマスクは優位に立とうとする。

 だが万太郎の表情は一切変わらなかった。

 反論はせず、代わりにケビンマスクの体を手で小突く。

 

「ウッ」

 

 たったそれだけ。

 掌でトンッと押した、それだけでケビンマスクの体はよろけ、尻もちをついてしまった。

 

「ほら見ろ。いつもみたいに悪態をついてオレはやれるぜってアピールをしたいんだろうが、ボクの目はごまかせない。軽く小突いた程度で尻もちをつくような病み上がり超人、とてもじゃないがパートナーにはしておけないよ」

 

 今のケビンマスクは、明確に超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝のときよりも調子が悪い。

 万太郎はそこを指摘したいのだ。

 

「た……確かにオレは万全じゃねえ。だが決勝まではまだ2日ある。それまでに必ずベストコンディションに戻してみせる~~っ」

 

 ケビンマスクはそう言いながら立ち上がろうとするが、またもやよろけて床に膝をつけてしまう。

 ただ立ち上がるだけでも困難な状態。とてもリングに上がれるとは思えない。

 

「ケビン。次の決勝戦はトロフィー球根が手に入るかどうかの大事な一戦なんだ。もし不甲斐ない闘いを見せてしまえば、黄金のトロフィーは引き抜けず……トロフィーに付いた完全無比の球根(コンプリートバルブ)でカオスの命を救うことができなくなってしまう」

 

 パートナーを交代するうえで、最も難しいのがそこだ。

 ただ闘うだけではダメ。タッグマッチの優勝者として、誰もが認める強さを証明しなければならない。

 

「それだけじゃありません。カオスが復活しなければ、みなさんが未来に帰るために必要な燃料……タイムシップ航行のためのエキゾチック物質が足らず、未来への帰還すら叶わなくなってしまう。そうなれば皆さんはこの時代に留まらざるをえず、いずれ生まれてくる未来の自分たちと鉢合わせてしまうでしょう。その結果、量子力学でいうところの対消滅が起こり……ある意味では、時間超人に超人界を支配されるより恐ろしい未来が訪れてしまうかもしれません」

 

 ミートが情報を補足することで、長く戦線を離れていたケビンマスクに事の重大さを伝える。

 万太郎の新パートナーという役割には、とんでもない重責がつきまとうのだ。

 

「ケビン。それでもおまえは、ボクのパートナーとして決勝のリングに立つっていうのか」

 

 今一度その覚悟を問う万太郎に、

 

「ウウウ……」

 

 ケビンマスクは顔をうつむかせ、答えを口にすることができない。

 万太郎はやれやれと首を振る。

 カオスの推薦があろうとも、当の本人がこれでは……と、この話は終わりにしようとした。

 

「わかっちゃいねえな、おふたりさんよ」

 

 そこに割って入ったのが、テリー・ザ・キッドだった。

 口に含んでいたのはフーセンガムだったのか、ピンク色のバルーンを作り皆の注目を誘う。

 

「これをケビンマスクのワガママだとでも思ってるのか? 違うな。これは新世代超人全体を見たうえでの戦略的判断なのさ」

「ど……どういうことだ?」

 

 ペッとガムを包み紙に吐き出して捨て、キッドは万太郎の目を見る。

 

「万太郎。おまえは“究極の超人タッグ戦”が始まる前、オレたち新世代超人でタッグを組むことになったとき……まずスカーに声をかけてフラれ、次にオレとのニューセンチュリー・マシンガンズを検討したよな?」

「ウ、ウン」

「だがおまえ、本心ではこう思ったんじゃないか? ケビンマスクと組めれば……と」

「そ……それは」

 

 押し黙る万太郎。

 図星ではある……が、それは言ってもしょうがないことなので言わなかった。

 

「この時代に来た目的はケビンマスクの救命。もちろん今にも消えかかっているケビンと組んで闘うなど叶うはずもない。だが21世紀の未来でおまえが最も信頼を寄せ、最も力を発揮できると思っていたのは間違いなくケビンマスクだったはずだ。なんせケビンは超人オリンピック・ザ・レザレクションの決勝でおまえと死闘を演じ、“悪魔の種子(デーモンシード)”との闘いでは“ザ・坊っちゃんズ”として強敵アシュラマン&ボルトマンを打ち破った。実力面でも実績面でも……そして結束の面でも、おまえたちは新世代超人最強のタッグチームだ」

 

 新世代超人がこの時代に来る前の闘い――アシュラマン&ボルトマンの最凶タッグ“ザ・デモリッションズ”を倒したという圧倒的自信、そして信頼感が、万太郎にケビンマスクとのタッグを考えさせた。

 キッドの言う新世代超人最強のタッグチームというのも大げさではない。万太郎やケビン本人はもちろん、それは他の新世代超人の面々も認めるところだろう。

 

「そんな最強の相棒が帰ってきたってのに、なにが不満だってんだよ!?」

 

 だが、キッドの言っていることは理想論だ。

 万太郎は反論する。

 

「それはケビンが万全だったらの話だろう!? 今のケビンと組むくらいならキッド、おまえと……」

「いいや、不調を加味してもだ! 断言するぜ! キン肉万太郎のポテンシャルを最大限発揮でき、タッグチームとして黄金のトロフィーも唸るような試合を見せられるのは……テリー・ザ・キッドでもジェイドでもスカーフェイスでもない! ここにいる半病人のケビンマスクだ!」

 

 怒鳴りながらケビンマスクを指差すキッド。

 言っていることが無茶苦茶だ。いくらなんでも半病人と組むくらいなら他の超人のほうが……いや。

 

 あるいは、それが正解なのではないか。

 

 超人オリンピック・ザ・レザレクションの決勝で激闘を演じ、“ザ・デモリッションズ”に勝つため命を預けあったケビンマスクならば……たとえコンディションが万全でなかったとしても、他の超人とタッグを組むよりいい結果を残せるのではないか。

 万太郎は心の中でそう思わずにはいられない。

 

「それが、万太郎……おまえのことをヘラクレス・ファクトリー時代から見てきたキッドの……友達の判断さ」

「カオス……」

 

 葛藤する万太郎に、現在のパートナーであるカオスはフッと微笑みを見せた。

 

「オレもキッドに強くケビンマスクを推されたんだ。オレは彼のことをよく知らないが……おまえが彼に並々ならぬ感情を向けていたことはよく知っている。現タッグパートナーとしては嫉妬しちまうような……そんな強い絆を感じてならなかったよ」

 

 開幕のセレモニーや“ザ・マシンガンズ”vs“ジ・アドレナリンズ”戦、“シノバズ・ポンド・デスマッチ”に“綱引きの儀”のときなど……万太郎は時間超人サンダーが持ち込むX形クリアベッドを常に注視し、中にいるケビンマスクの容態を気にかけていた。

 それを隣で見続けてきたカオスだからこそ、言葉とは裏腹に万太郎がケビンの帰還を喜んでいることをわかってしまう。

 

「頼む、万太郎」

 

 ケビンが諦めきれないといった声音で言い、万太郎は視線を向ける。

 自分を負かしたチャンピオンは、病室の冷たい床に両膝をつけ頭を下げていた。

 

「オレはこの闘い、みんなの足を引っ張るばかりでなんの役にも立ってねえ。これは最後のチャンスなんだ……汚名を返上させてくれ」

 

 日本式の誠意の表し方――DOGEZAってやつだ。

 常のケビンマスクなら絶対にやらないだろう仕草に、万太郎の胸が締めつけられる。

 

「いや……違う。オレ自身の汚名なんてどうでもいい。オレはそこにいるカオスに、この手で恩返しがしたいんだ!」

 

 しまいには涙まで流し、万太郎に思いの丈を打ち明ける。

 命の危機に晒され、ずっと囚われの身だったケビン。己はなにもできない中、どんどん倒れていく仲間や大先輩たち。ようやく蘇ったというのに、今度は己を救うために奔走してくれた恩人が命の危機に瀕している。

 そんな状況下でなにもできないのは、あまりにも悔しい。

 悔しくて悔しくてたまらない。

 ケビンマスクの想いは、痛いほどよくわかった。

 

「どうかオレを……おまえの隣に立たせてくれ、万太郎!」

 

 ついには額を床に擦りつけるケビンを見て、万太郎はふるふると首を横に振った。

 自らも床に膝をつけて姿勢を低くし、ケビンマスクの肩を叩く。

 

「頭を上げてくれ、ケビン」

 

 泣きっ面の元相棒に――いや“新相棒”に、チームリーダーとしての心強い言葉を投げる。

 

「ボクを誰だと思ってるんだ? 素人同然のオタク野郎だったグレートⅢをここまで引っ張ってきた名タッグマッチプレイヤー、キン肉万太郎様だぜ。股間にイチモツ手にニモツ……今さら病み上がりのお荷物ひとり背負ったって、こっぱみじんのミジンコちゃんよ!」

 

 これが万太郎なりの励まし、そして新パートナー快諾の表現なのだということは、すぐに伝わった。

 ケビンマスクは鉄仮面の目元に涙を残したまま言う。

 

「こ、この野郎……言葉の意味はよくわからんが頭にくる言い方しやがって」

 

 お互い意地っ張りの負けず嫌い。

 それがキン肉万太郎とケビンマスクというコンビだ。

 21世紀において、人は彼らふたりをこう呼んだ――

 

「やろうぜ! 21世紀の名タッグチーム“ザ・坊っちゃんズ(ヤングマスターズ)”の再結成だ!」

 

 こうして、“マッスルブラザーズ・ヌーボー”は“ザ・坊っちゃんズ”と名を変える。

 来たるべき決勝戦、“新星(ノヴァ)・ネオ・イクスパンションズ”との対戦に臨むふたりが決定した。

決勝直前!ここまでのあなたの推しファイトは?

  • ザ・マシンガンズvsジ・アドレナリンズ
  • イクスパンションズvsヘルズ・ベアーズ
  • ザ・ナイトメアズvs世界五大厄
  • ヌーボーvsジ・アドレナリンズ
  • おっちゃんズvs世界五大厄
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