ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第092話 決戦の日!

 ついに決戦の日が訪れた。

 富士山と並び立つように聳えるトーナメント・マウンテンには多くの人々が集い、テレビ中継のヘリが飛び、飲食の出店から様々な美味しい匂いが漂う。

 

『2週間に渡って熱戦を繰り広げてまいりました“究極の超人タッグ戦”もいよいよ本日が決勝ファイナル! 地鳴りのようなどよめきがトーナメント・マウンテン山麓を支配する――っ!』

 

 地鳴り――そう、まさしく地鳴りだ。

 決戦の舞台であるトーナメント・マウンテンに集まった人数は規格外、密集率は樹海の木々のようだった。

 

『本日の観客は先に行われました宇宙超人タッグ・トーナメント15万人……そして4日前に行われました“究極の超人タッグ戦”準決勝の20万人をはるかに凌ぐ観客数といわれておりますが、25万人なのか……いや30万人なのかまったく見当がつきません! それだけ記録的な観客の入りであります!』

 

 フランクフルトや焼きそばを手にさっさと始めろと騒ぐ者、仲間内で勝敗予想を行う者、それがエスカレートし軽い諍いを起こす者、チケットが手に入らず入口近くで乞う者……会場はまさに混沌の坩堝と化していた。

 

「マンターロ! マンターロ!」

「ネプチューンマン! ネプチューンマン!」

 

『あ――っと30万人の大観衆、決勝進出超人の入場前より大興奮――っ!』

 

 決勝戦に臨む超人たちはまだ控室で準備中だ。にもかかわらず、観客はフライングコールをやめない。

 観客のボルテージを保つため、実況が今日に至るまでの激闘を振り返る。

 

『思えば宇宙超人タッグ・トーナメントの優勝セレモニーが悪行・時間超人ライトニング&サンダーに壊されたのが2週間前。“世界五大厄(ファイブディザスターズ)”から伝説超人(レジェンド)新世代超人(ニュージェネレーション)、三つ巴であらためてのタッグトーナメント開催を提案され、宇宙超人委員会委員長によって“やり直し宇宙超人タッグ・トーナメント”の開催が認められ、当初はその新しく始まった超人タッグの覇権を狙い12チームと……リザーバー1チームを含む全13チーム26人もの強者が参加いたしました』

 

 悪魔超人や完璧(パーフェクト)超人の脅威が去った矢先に、時間超人なるものたちの襲来。

 さらに未来からの使者などというにわかには信じがたい者たちまで現れ、多くの者が混乱した。

 そのうえ超人タッグ・トーナメントをやり直すなど、超人レスリングファンたちは複雑な思いであったことだろう。

 

『しかし先の宇宙超人タッグ・トーナメントを上回る激しいチーム間の友情、思惑、欲望をはらみながら連日死闘が繰り広げられ、この2週間で行われました公式戦+リザーブマッチ1試合の計11試合の死闘によりましてあの13チームがたったの2チームに絞られてしまいました――っ!』

 

 結果はこの30万人を超える大観衆。

“夢の超人タッグ戦”から続く激闘の日々は、彼ら彼女らの心を釘付けにした。

 30万人の視線が一斉にトーナメント・マウンテンの頂上――決勝リングが置かれたウォーキューブに向けられる。

 

『……いよいよこのトーナメントマウンテン最高峰にありますトーナメントの要のウォーキューブにおきまして、闘いの神に選ばれし2チームによる“究極の超人タッグ戦”決勝戦が行われるわけであります!』

 

 決戦場となるウォーキューブのさらに上の位置には、前チャンピオンの“ザ・マシンガンズ”が引き抜けなかった黄金のトロフィーが今も埋まっている。

 そして今回その存在が明らかにされたトロフィーの底に貼りつく“完全無比の球根(コンプリートバルブ)”も、今か今かと最強タッグの手に渡る時を待っている。

 

『はたして、頂上に刺さる食べると各超人界を超越した史上最強の完全無比(コンプリート)超人になることができるというトロフィー球根(バルブ)を手にすることができるのは……青コーナーの超人タッグか? それとも赤コーナーの超人タッグか?』

 

 青コーナーと赤コーナーの花道の先には、それぞれ昇降式のゴンドラが新造されている。

 控室で準備が整った両チームは、このゴンドラに乗り花道に降りてくるといった寸法だ。

 

『そしてご覧ください。観客席では、キン肉マン、テリーマン、ロビンマスク、ブロッケンJr、ジェロニモと……正義超人軍の錚々たる面々がこの一戦を見守っております』

 

“究極の超人タッグ戦”の当事者たる伝説超人の面々は一同に会し、厳格な空気をまとって試合開始を待つ。

 

『さらにはテリー・ザ・キッド、ジェイド、スカーフェイスといった未来からの使者、新世代超人の面々もおります』

 

 もはや新世代超人と伝説超人のわだかまりも解けた。

 なればこそ、最後の観戦は正義超人として共に。

 

『ここには来られなかった同胞たち……ラーメンマン、バッファローマン、アシュラマン、セイウチン、チェック・メイト、イリューヒン、バリアフリーマンの無念を背負っているのか全員の眼差しに熱がこもっている~~っ』

 

 応援する観客、そして観戦する超人――どちらも準備万端。

 あとは定刻を待つだけという状況下で、ついに。

 

『ただ今より“究極の超人タッグ戦”決勝戦を執り行います!』

 

 実況が満を持して告げ、トーナメント・マウンテンに集った人々がワァァッと盛り上がった。

 

『赤コーナーより、“マッスルブラザーズ・ヌーボー”入場!』

 

 まず視線が集まったのは、赤コーナーのゴンドラだ。

 高い位置にあるゴンドラが今ゆっくりと降下を始め、花道へ降りてくる。

 外からはそのゴンドラの中は覗けないが、中には“マッスルブラザーズ・ヌーボー”がいるはず。

 

『さあ~~っ、マッスルブラザーズ・ヌーボーといえば、キン肉王族伝統の爆笑を狙った入場方法だが、この決勝という大舞台でキン肉万太郎はどうくるか~~っ!?』

 

 ゴンドラは地上まで降りきったところで停止。

 扉が開かれ、現れたのは――

 

『あ――っとキン肉万太郎、おふざけなし! キン肉王族伝統の戦闘スタイルで決勝戦に臨むようだ――っ!』

 

 胸に“KIN”の刻印を宿すコスチュームにマント、そして顔の下半分を覆うフェイスガード。

 そう遠くない未来、父キン肉マンも様々なシーンで着用することになるキン肉王族の決戦用の姿だ。

 ゴンドラから出てきた万太郎は、しかしたったひとり。

 これはあらかじめ決められていた演出。ゴンドラは再び上昇し、もうひとりの超人をつれて戻って来る。

 

『そして万太郎のあとに続くパートナーは誰が出てくるか!? 正パートナーのカオスはコンディションの悪化によりリタイア……交代が濃厚と噂されていたが――っ!?』

 

 観客への事前発表はない。だからこそ、“マッスルブラザーズ・ヌーボー”のファンは固唾を呑んで見守った。

 やはりカオスに出てきてほしい……だが準決勝後の状態を考えれば休んでいてほしい……様々な思惑が錯綜する中で、ゴンドラが停止。

 中からできたのは――青光りした鉄仮面と鎧を装着した、カオスではありえない超人だった。

 

『こ……これは、ケビンマスクだ――っ! 万太郎と同じ“新世代超人”のひとりですが、悪行・時間超人のふたりが彼の母となる予定のアリサを死の危機に追いやったため、自身も存在消滅の憂き目にあっていました。しかしアリサの容態が安定し、ライトニングとサンダーのふたりが倒れた今、万全の状態となってこのトーナメントマウンテンの地に降り立った――っ!』

 

 観客席から「えええ~~っ!?」という驚愕の声が沸き上がる。

 大会運営委員長ハラボテ・マッスルはマイクを取り、そんな観客たちの驚愕を大声で制した。

 

『キン肉万太郎から事前に話は聞いておる! マッスルブラザーズ・ヌーボーはパートナーをカオスから変更……新パートナーにケビンマスクを迎え、チーム名も“ザ・坊っちゃんズ(ヤングマスターズ)”と改める!』

 

 カオスは帰らず、まさかのパートナー変更!

“究極の超人タッグ戦”最高責任者の口から告げられた決定事項に、観客たちは再度「えええ~~っ!?」と驚愕を示す。

 

『今、大会運営委員長のハラボテ氏により正式にタッグパートナー変更の発表がされた――っ! キン肉万太郎&ケビンマスクの新タッグ、その名は“ザ・坊っちゃんズ”――ッ!』

 

 実況から正式にチーム名がアナウンスされるも、観客の声は歓声とはとても呼べず、戸惑いの色が強くなっていく。

 まるでカオスからケビンマスクへのパートナー交代が受け入れられないかのように。

 

「おいおい……なんだか盛り下がってねえか?」

 

 そんな観衆のリアクションを見て、ブロッケンJrが心配そうに言う。

 彼の見解はまさにそのとおりで、このパートナー交代には落胆している者が多くいた。

 

「ケビンマスクって……ねえ?」

「ロビンマスクの息子っていうけど……」

「俺たちはクリアベッドの中でずっと消えかけてた姿しか知らないし……」

「カオスがよかった~~っ」

 

 ここは“究極の超人タッグ戦”の決勝舞台。

 望むのはやはり、この場に相応しい強豪超人の参戦だ。

 しかしながら、ケビンマスクの評価は20世紀の超人レスリングファンにとってそれほど高くはない。

 

「グウウ~~ッ、21世紀ではオレたち新世代超人の中でもトップクラスの人気を誇るケビンマスクが、こんなにも胡乱な眼差しを向けられるなんて~~っ」

 

 ケビンマスクとは古くからの付き合いであり、だからこそその強さをよく知っているスカーフェイスが悔しそうに唸る。

 その隣で、彼のパートナーであるジェイドが冷静にコメントした。

 

「無理もないさ。この時代の観客たちはケビンマスクのことなどなにも知らない……せいぜいロビンマスクの息子というネームバリューがあるくらいだ」

 

 ジェイドの意見には、テリー・ザ・キッドも同調する。

 

「それに比べ、カオスはこの大会で獅子奮迅の活躍をし、今や大人気超人なんだ。ファンボーイやファンガールたちの落胆も頷けるってなもんだぜ」

 

 新世代超人としては心情的に納得できない……が、時代が違うのだから仕方がない。

 はたして当事者たるふたりはどう思っているのか、キッドたちの視線は花道を歩き始めた“ザ・坊っちゃんズ”に向けられた。

 

「フッ……21世紀ではあんなに人気者だったおまえが、まさか観客たちに実力を疑われるようなハメになるなんてな」

 

 キン肉万太郎は薄く笑い、隣を歩く新参者の様子を窺う。

 

「なあに、超人レスラーのデビュー戦の観客の反応ってのはこんなもんだ」

 

 ケビンマスクは悔しがったりはせず、さっぱりとそう言った。

 

「この20世紀の観客にとっては“ケビンマスク”という超人は聞くのも見るのも初めてのグリーンボーイと同じ。未来での名声なんて通用しねえ。30万全観衆の前で実力を証明し、ケビンコールに変えてやるぜ」

「ハハッ。メンタル面のコンディションは絶好調みたいで安心したよ」

 

 それでこそケビンマスクだ、ボクのよく知るケビンマスクが帰ってきたんだ――と万太郎は嬉しく思う。

 観客たちの胡乱げな眼差しに晒されつつも、ふたりで花道を歩き抜けた。

 

『トーナメントマウンテンの麓までやってきた“ザ・坊っちゃんズ”、ここからはタッグ・トーナメント決勝進出チームに課せられた掟でありますが、自身の力で一番上のウォーキューブまで登らねばなりません!』

 

 準決勝のように階段は使えない。つまり、ロッククライミングだ。

 世紀の決戦の前になんという過酷な運動を強いるのか。

 文句の一つでも言いたくなりそうなところだが、万太郎とケビンはニッと笑む。

 

「ウォーミングアップには!」

「ちょうどいいぜ!」

 

 躊躇も泣き言もなく、岩肌を手で掴み壁面を登っていく。

 万太郎はケビンと共に、ケビンは万太郎と共に、時に励ましの声をかけ、時に競争し、ふたりほぼ同時にウォーキューブへとたどり着いた。

 

『さあ――っ、今、キン肉万太郎とケビンマスクが決勝のウォーキューブにリングイン!』

 

 2週間ほど前、キン肉マン&テリーマンの“ザ・マシンガンズ”とネプチューンマン&ビッグ・ザ・武道の“ヘル・ミッショネルズ”が優勝を争ったリング。

 万太郎は父と同じ舞台に立てることを喜ばしく思い、またケビンは父がたどり着けなかった景色を眺め感慨に耽る。

 そして一方のタッグチームが入場を果たしたということは、もう一方のタッグチームの入場が始まるということ。

 

『続いて青コーナーより、“新星(ノヴァ)・ネオ・イクスパンションズ”入場!』

 

 万太郎たちが来た方向とは逆の花道……その先にあるゴンドラが降り、ひとりの超人を運んでくる。

 現れたのは、2大会連続で決勝進出という快挙を成し遂げたパーフェクトな男だ。

 

『出た――っ! ネプチューンマンです! 鉄鋲ベストにマントの見慣れたスタイルで今、青コーナーから続く花道を練り歩いてくる――っ!』

 

 マントを翻しながら歩くネプチューンマンに、ファンサービスはない。

 万太郎同様、早くも戦闘モードに入っていた。

 

『宇宙超人タッグ・トーナメントに完璧超人コンビ“ヘル・ミッショネルズ”として彗星の如く現れ、その圧倒的な実力で我々超人レスリングファンを魅了したネプチューンマン……幻となった決勝戦ではキン肉マン&テリーマンのザ・マシンガンズに敗れ、完璧超人の仲間たちに敗北を知らせるための人狼煙となって爆死! 壮絶な最期を遂げました』

 

 聞こえてくるアナウンスは、34年後の未来からやってきたネプチューンマンにとっては大昔の出来事だ。

 されどこのトーナメント・マウンテンの地に立ってみれば、昨日のことのように思い出せるではないか。

 戦闘モードのスイッチを入れたつもりだったが、どうしようもなく口元がニヤけてしまうネプチューンマンだった。

 

『しかし直後に開催されることとなった“究極の超人タッグ戦”では、新世代超人と同じく34年後の未来から、正義超人として復活したニュー・ネプチューンマンとしてカムバック! あるときは新世代超人の期待株セイウチンと……またあるときは同じく34年後の伝説超人ウォーズマンと組み、熟練のタッグワークで我々を大いに熱狂させてくれました!』

 

 緊張やプレッシャーとは無縁。まさに熟達者と呼ぶべき佇まいは、2大会連続ファイナリストの肩書きに相応しい。

 客席のキン肉マンはそんなライバルの様子を羨ましさ半分、誇らしさ半分で見守る。

 

「不思議なものだのう。一月前は顔も知らなかったような男が、この短期間で多くの名勝負を繰り広げ、今では正義超人界の重鎮のような存在感を放っている」

 

 そう言うキン肉マンに、最も古い時代の彼を知るロビンマスクが続けた。

 

「もともとやつはそれほどの器だ。単純に加齢により増した風格も手伝っているのだろう。味方としては頼もしいことこのうえない」

 

 己の命に妻の命、そして未来に生まれてくる息子の命まで救ってみせた偉大なる伝説超人。

 この恩はそう簡単には返しきれないだろう……そんな男が今から息子のケビンと優勝の座を争うというのは、ロビンマスクとしては複雑な想いもある。

 もし彼のパートナーが変わらずウォーズマン――ロビンにとっての弟子、そしてケビンにとっての師である男だとすれば、自分はどちらを応援すればいいのだろうか。

 贅沢な悩みだとは思いつつも、ロビンマスクは悩まずにはいられない。

 

『さあ~~っ、そのネプチューンマンのパートナーであるウォーズマンですが、カオスと同じく準決勝での消耗が甚大……リタイアの可能性が囁かれていました。はたしてウォーズマンは試合に出られるのか!? ネプチューンマンの後に続き出てくる超人はいったい誰なのか~~っ!?』

 

 ネプチューンマンを降ろしたゴンドラは再び上昇、降下し、次なる超人――ネプチューンマンのパートナーを運んでくる。

 中から出てくるのははたしてウォーズマンか否か。

 テリーマン、ジェロニモ、ブロッケンJrがそれぞれ予想を口にする。

 

「先の準決勝でウォーズマンが放った二刀流スクリュー・ドライバー……あれは7人の悪魔超人として来襲したバッファローマン相手にも放ったことがある、やつの捨て身の一撃だ。しかも今回はオプティカルファイバー・パワーまで併用している……精根尽き果ててしまったとしても不思議じゃない」

「だども、科学の進歩は早いっちゅーズラ。もし34年後の科学技術が、ウォーズマンの体を二刀流スクリュー・ドライバーにも耐えられる体にパワーアップさせているとしたら……なに食わぬ顔で出てきてもなんもおかしくねえ」

「ネプチューンマンはここにいる誰にも新パートナーとしてのタッグチーム参加を打診してこなかった。やつに釣り合うほどの超人なんてそうそういねえ……オレはこの時点で、ウォーズマンの復帰は間違いないと予想しているぜ」

 

 パートナー交代などと簡単には言うが、これから始まるのは“究極の超人タッグ戦”の頂点を決める決勝戦。

 ネプチューンマンの相棒が務まる超人など限られているが、強豪といわれる正義超人のほとんどが観客席にいる。

 その情報を鑑みれば答えはふたつ。

 ウォーズマンが戻ってきているか、もしくは――

 

『あ……現れたのは、まったくのニューカマーだ――っ! こ、この超人はいったい誰なんだ――っ!?』

 

 完全なる新顔の超人をパートナーに抜擢するという可能性だった。

 ゴンドラの中から出てきたのは、王冠を被ったような容貌に宮廷服のごときコスチュームの超人。

 体格はスマートながらもしっかり筋肉がついており、立ち姿は威風堂々。

 手違いで乗り込んだ大会運営スタッフなどではない、れっきとした格闘超人であることが窺えた。

 

「お、おい! マジかよ!」

「あ……あいつは~~っ!」

 

 これに大きく反応してみせたのは、新世代超人のテリー・ザ・キッドとジェイドである。

 彼らふたりは現れた宮廷服姿の超人を、21世紀に行われた“超人オリンピック・ザ・レザレクション”で目撃していた。

 一方で、キン肉マンやテリーマン、ロビンマスクは新世代超人とは別の驚きを得る。

 

「な、なんじゃ~~っ? ネプチューンマンのやつ、ここにきて無名の新人をスカウトでもしてきたのか――っ?」

「いやそんな、まさか……ネプチューンマンに限って、そんな苦肉の策を仕掛けてくるとは考え難い。オレたちが知らない未知の強豪のはず」

「テリーマンの意見に賛同だ。あの謎の超人……30万人の観衆に晒されながらもまるで動じていない。おそらくは相当に場馴れしているのだろう」

 

 伝説超人の面々は、ネプチューンマンが決勝の場に新人をつれてきた……と解釈したようである。

 現れた推定ニューカマーの素性を知るキッド、ジェイド、スカーは先輩たちに聞こえぬようこっそり囁き合う。

 

「キン肉マンたちはあいつの正体に気づいていないのか?」

「そういや、中身はともかくあの外見は見たことがないはずだしな……」

「おもしろいから正体が発覚するまで黙っていようぜ……」

 

 その正体に気づいたのは新世代超人の3人だけではない。

 未来の自分から膨大な量の知識と記憶を託された20世紀ミート――アレキサンドリア・ミートくんもまた、ネプチューンマンたちの思惑を察しフッと笑う。

 

「パートナーの変更はなし。やはり、あなたたちふたりで決勝に臨みますか……キン肉王族に仕える者としてボクはザ・坊っちゃんズを応援させてもらいますが、共犯者として健闘は祈っておきますよ。ネプチューンマンにウォーズマン」

 

 もちろん30万人の大観衆の反応は伝説超人たち寄りだ。

 入手困難なチケットをもぎ取り現地観戦したというのに、我々は今から新人のデビュー戦を見せられるのか?

 大会運営を務める宇宙超人委員会もその胡乱な空気を感じ取り、ノックがハッとする。

 

「委員長! あの謎の男、正悪両方の超人データベースと照合してみましたが……該当する者はいません! もしや超人ではなく、人間かも……もし人間を決勝の舞台に上げたとなれば、宇宙超人委員会の沽券に関わります!」

 

 もしやウォーズマンのリタイアによりパートナーに困ったネプチューンマンが、ハッタリ目的でそこらへんにいる人間をお飾りの新パートナーに仕立て上げたのでは――と邪推するノック。

 傍らにいる委員長、ハラボテ・マッスルは手元の木槌でノックの頭をポコンと叩いた。

 

「アホか。この大舞台でネプチューンマンがそんな血迷ったことするはずなかろう。我々はただ、彼らを信じて送り出してやるだけじゃよ」

 

 これまで数多くの彼らの勇姿を見届けてきたハラボテは、判断を誤らない。

 ただ己の仕事を果たすため、マイクを取る。

 

『ネプチューンマン! 君の後ろに続く彼がウォーズマンに代わる新パートナーということでよろしいかな!? もしそうであるならば、彼の名前と新タッグチーム名を発表してもらおう!』

 

 ハラボテの問いに対し、ネプチューンマンは答える。

 

「こいつの名はクロエ。チーム名は変わらず、“新星・ネオ・イクスパンションズ”でいかせてもらうぜ」

 

 ゴンドラから出てきた宮廷服の超人――クロエが花道を進み、ネプチューンマンに追いつく。

 そうやってふたり並び立ってみれば、早くも強豪タッグチームの風格が感じられた。

 

『ネプチューンマンの口より新パートナーの名前が告げられた――っ! その名はクロエ! 新生“新星・ネオ・イクスパンションズ”として、“究極の超人タッグ戦”決勝のリングに挑みます!』

 

 ネプチューンマン&クロエの“新星・ネオ・イクスパンションズ”は歓声巻き起こる花道を進み、トーナメント・マウンテンの壁面に到達。

 互いに目配せし、同じタイミングで岩肌に手をかけた。

 

『先にウォーキューブにリングインしたザ・坊っちゃんズ同様、ネプチューンマンとクロエもトーナメント・マウンテンの外壁を自力で登り決勝の地へ向かいます!』

 

 危なっかしさなど欠片も感じないロッククライミングに、観客たちの期待感が高まっていく。

 30万人を超える大観衆……その中で最も期待を寄せていたのはほかでもない。

 対戦チームである“ザ・坊っちゃんズ”だろう。

 

「たぶんそうなるんじゃないかと思ったけど……まさか本当にそうなるなんて」

 

 ウォーキューブの中から、トーナメント・マウンテンを登ってくるネプチューンマンたちを見下ろす万太郎。

 その隣にいるケビンマスクは、猛烈な武者震いに襲われていた。

 

「万太郎……あらためて感謝するぜ」

 

 声まで震わせ、今日この日にリングに上がることができた喜びを噛みしめる。

 

「オレがこの試合に臨む動機は、カオスを始めとしたみんなへの恩返し……しかしたった今、それに勝るとも劣らない強い動機が……いや。下心とでも言うべき個人的な欲が生まれちまった」

 

 少なからず予想――いや期待していたマッチメイクではある。

 ネプチューンマンのパートナーとして、引き続きウォーズマンが参戦してくるのなら。

 それはケビンマスクにとっては願ってもない、宿命の対決となるだろうと。

 

『“新星・ネオ・イクスパンションズ”、リングイーン!』

 

 そして今、トーナメント・マウンテンを登りきったふたり組が決勝ウォーキューブのリングに入ってきた。

 鉄鋲ベストのマスクマンに、宮廷服のようなコスチュームの超人コンビ。

 ケビンはクロエに視線を向け、言う。

 

「よもやオレに、師匠超えの機会が訪れるとはな」

 

 クロエ――その正体はケビンマスクのセコンド、そして師匠を務めたウォーズマンである。

 まさか彼にとっては馴染み深い21世紀のスタイルで現れるとは思ってもみなかった。

 クロエは実はマスクマン。ゆえに表情を変えず……いや一見変わらないように見せつつ、心中を語る。

 

「奇妙な話だ。準決勝が始まる前は、オレ自身が決勝でロビンと闘い師匠超えを果たすことを望んでいた。それがなんの因果か、一転して師匠超えを狙われる立場になるとはな」

 

 感慨深そうな相方を見て、ネプチューンマンも気分が高揚するのを抑えられない。

 口元でニヤけながら、ウォーズマンとケビンマスクの関係性を羨ましく思う。

 

「グフフ、妬ける話じゃねえか。ライバルとはまた違う、弟子から向けられる敵意か。オレも21世紀でおまえたちみたいな師弟関係のひとつでも持っておくんだったぜ」

 

 まるで他人事みたいに言うネプチューンマンを見て、ケビンマスクは言う。

 

「蚊帳の外にいられると思うなよ、ネプチューンマン。あんたはオレを救ってくれた最大の功労者だが……その前に、我が敬愛するダディの終生のライバル。しかも戦績上はダディが負け越している……ロビン王朝(ダイナスティ)の者としては、是が非でも負けるわけにはいかねえ」

 

 命を救ってもらったからといって手は抜かない。それが正しき格闘超人としての在り方だ。

 もちろんその考えはパートナーの万太郎も同様である。

 

「それにネプチューンマン。あんたにだってセイウチンという弟子がいるだろう。あいつだって、いつかはあんたと闘って勝ちたいと思っていたはず……未来に帰ったら、挑戦を待ち続ければいいさ」

 

 ウォーズマンに希望を託し、道半ばで散っていたセイウチン――万太郎は大切な仲間の存在を忘れてなどいない。

 苦楽を共にした後輩の姿は、ネプチューンマンの心にも大きな存在として残り続けている。

 

「ケビン、万太郎……おまえら」

 

 これも加齢によるものか――思わず涙ぐみそうになってしまったネプチューンマンだったが、そんな格好悪いことはすまいとグッと堪えた。

 ウォーキューブの外、30万人の大観衆に視線を転じ、これまでの日々を振り返る。

 

(ついにここまできちまった。老醜を晒した末、“世界五大厄”に敗れ惨めな死を遂げたオレが……神のいたずらによりやりなおしのチャンスを与えられちまった。そして、その結果は上々……仇敵だったライトニングとサンダーを撃破し、ケビンマスクやアリサの命は繋げた。あとはトロフィー球根でカオスやセイウチンを回復させてやれたら万々歳だ)

 

 失敗した過去をやり直したい。

 人生の中で誰もが一度は妄想するだろうことを実際にやってのけ、ついに理想を叶えたネプチューンマン。

 僥倖……などという言葉では生ぬるい。己は世界で最も幸福な存在と言えるだろう。

 

(そうだ。オレの目的はもう果たせた。トロフィー球根を手にするのはオレでなくともよい……未来のことを考えるのであれば、次世代を担うキン肉万太郎とケビンマスクこそがトーナメントマウンテンの頂に立つべきだろう。これ以上を望んだら罰が当たる。老兵はただ去るのみ……)

 

 そろそろ自重し、身を引くべきだ。歳のせいかそんなふうに思う。

 

(……と、言えれば楽だったんだろうがな)

 

 思ったのは、しかし一瞬だ。

 ネプチューンマンが後進に席を譲るなどという殊勝なことができる超人であれば、初めからここまでたどり着いてはいない。

 

「悪いが、“ザ・坊っちゃんズ”」

 

 あらためてウォーズマンと共に並び立ち、対戦チームの“ザ・坊っちゃんズ”と向かい合う。

 先輩後輩ではなく、優勝の座を争う唯一無二のライバルとして。

 

「イチバンになるのはオレたち“新星・ネオ・イクスパンションズ”だ」

 

 淀みない覚悟で、そう宣言するのだった。

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