ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第094話 難攻不落の“高貴な構え”!

“究極の超人タッグ戦”決勝戦は、開始早々にネプチューンマンがケビンマスクを圧倒するという展開になった。

 このままKOによる一本目先取まで持っていきそうな勢いだったが、しかしネプチューンマンはそのチャンスを投げパートナーであるクロエに交代。

 こうして、リング上ではケビンマスクvsクロエという――“21世紀から来た者たちにとっては”夢のカードが実現する。

 

「……言葉が出てこねえ」

 

 ネプチューンマンの猛攻を受けながらもなんとか立ち上がったケビンマスクは、感慨のあまり言葉を失う。

 なんせ目の前に立つのは己を超人オリンピックのチャンピオンへと導いてくれた名伯楽。

 チャンピオンの座についた後はすぐに別れ、面と向かうのも久しぶりだが……どう接すればいいというのか。

 

「そんなものは不要だろう」

 

 クロエは短く言う。

 そうだ……どう接するもなにも、今は試合中。それも“究極の超人タッグ戦”決勝という大舞台。

 交わすべきは言葉ではなく拳。だからこそ、ケビンもクロエも構えを取った。

 

『さあ、ケビンマスクは両腕を前方に構えて打撃にも組みにもいけそうな万能のフォームですが……一方のクロエは両腕を下げ、海に浮かぶ海藻のごとくゆらりゆらりとたゆたっています。この過剰とも思える脱力ははたしてどういった意図があるのか――っ!?』

 

 ゆら~っとしたクロエの構えは、一見足元もおぼつかない危なっかしいフォームに思える。

 しかし対峙するケビンマスクには、その構えの正体がわかっていた。

 なにせ自分自身が超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝、キン肉万太郎戦で使用したフォームなのだから。

 

「“敵に後れて発す”戦略(タクティクス)No32ノーブルフォーム……!」

 

 相手より遅れて攻撃動作を開始しても、攻撃動作の完成は相手よりも早い。

 それが高貴な構え(ノーブルフォーム)だ。

 この構えにがむしゃらな攻めは厳禁。

 かつてケビンが万太郎を手玉に取ったように、今度はケビンがクロエに手玉に取られてしまうだろう。

 

「あの構え……それにケビンの反応……そうか、やつは……」

 

 観客席のロビンマスクは、クロエの構えとそれに対するケビンマスクの様子を見てなにかを察したようだった。

 だがそれに気づけたのはまだロビンマスクひとりだけ。

 傍らでは、ジェロニモとブロッケンJrが戦況を分析する。

 

「ふたりとも睨み合ったまま動かねえズラ。まるで時が止まっちまったみてえだ」

「いや……微かにだが動いている。互いに相手の一挙手一投足をつぶさに観察し、次の一手をイメージしているんだ」

 

 ふたりが言うとおり、リング上のケビンとクロエは余計な動きをせず、じりじりと攻めるタイミングを窺い合っている。

 超人レスリングではなかなかお目にかかれないシーンだが、それはまさしく武道における達人同士の見切り合いのようだった。

 

『あっ!』

 

 実況の意味不明な声がマイクに乗った。

 驚きが先行してしまったが、リングの状況を観客に伝えるべくすぐに適切な言葉を手繰り寄せる。

 

『ケ、ケビンマスク、電光石火のジャブ! しかしクロエ、それを読んでいたかの如く冷静に捌く!』

 

 まさしく“あっ”という間に、リング上の攻防が激化していた。

 ケビンマスクは両腕を使った高速ジャブでクロエにスピード勝負を挑むが、クロエは表情ひとつ変えず両腕でそれを防ぐ。

 奇襲が失敗したと判断するやいなや、ケビンは深追いせず後退した。

 

『また距離が生まれた――っ』

 

 ジャブを中断――すると見せかけてクロエの油断を誘い、もう一度前進。

 再び高速ラッシュを繰り出すが、そこまで読んでいたのかクロエも再びガードで対応する。

 

『と思ったら詰める! 攻のケビンに守のクロエ! 決定打にはならず――っ!』

 

 フェイントも通用しないと悟り、ケビンマスクは今度こそ後退する。

 クロエは動かず、じっとケビンの姿を正面に捉え続けた。

 

「て……鉄壁だ」

 

 ゴクリと息を飲み込んだのは、客席のテリーマンだ。

 

「ムウ……」

 

 真横では、彼のパートナーであるキン肉マンが緊張による汗を顔に浮かべながら言う。

 

「あのクロエという超人、まるで攻める気がないように思える。どこかそう、カメハメ師匠のような……ケビンマスクに稽古をつけてやっているような印象を感じるのう」

 

 キン肉マンにとっては名前しかわからない新参超人だが、はたして何者なのか。

 謎は深まるばかりだ……とそこで考察は完結し、ただ純粋に試合の行く末を見守る。

 だがキン肉マンのふとした言葉で、ロビンと同様に他の面々がある可能性に思い至った。

 

「稽古……」

「そうか、あいつ……」

 

 ジェロニモやブロッケンJrも答えにたどり着いたような口ぶりをする。

 その後ろで、ジェイドとスカーフェイスが囁き合う。

 

「どうやらみんな気づいたようだぜ」

「キン肉マンを除いて、な」

 

 はたして彼はどこで気づくだろうか。

 新世代超人(ニュージェネレーション)たちは試合とは無関係のところでおもしろがりながらも、同胞たるケビンに心配を寄せる。

 

「どうした? ノーブルフォームはおまえが得意としていた型だろう。己の戦法が攻略できないとは嘆かわしいな」

 

 リング上ではクロエがケビンを挑発するように言葉を投げていた。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 ケビンは構えを維持しながらも息を乱していた。

 久しぶりの試合ゆえの疲労、そしてネプチューンマンに与えられたダメージもあるが、それ以上にノーブルフォームのクロエを崩せない状況が、彼に精神的苦痛を与えていた。

 

『こ、この緊張感! 見た目以上に消耗が激しいのか、ケビンマスクに息切れが見られます! 彗星の如く現れたクロエという超人、試合直前にネプチューンマンから提供された情報によりますと、その異名は“難攻不落の鉄騎兵”とのこと! まさに名は体を表す! ザ・坊っちゃんズ(ヤングマスターズ)は鉄壁の防御力を崩せるのか~~っ!?』

 

 実況を耳にし、ニヤリと笑むネプチューンマン。

 一方で、キン肉万太郎は憤慨の意を示す。

 

「ネプチューンマンめ、デマカセ吹き込みやがって~~っ! それは本来ケビンマスクに付けられるはずの異名なんだぞ。あいつはこんなもんじゃない……こんなとき、万全のケビンマスクだったら……」

 

 ネプチューンマンの仕掛けたつまらない挑発に腹を立ててはいられない。

 そう思いながらも、最大のライバルであるケビンの不調を悔しく思う万太郎。

 もしも彼が万全だったらと想像し――かけるべき言葉を見つけた。

 

「ケビーン!」

 

 力の限り名前を叫び、疲労困憊のケビンを振り向かせる。

 

「2週間以上試合から離れ、攻撃の極意を忘れたか!? こういう攻めあぐねている局面、おまえはいつだって父親や師匠から受け継がれし心得をもとに切り込んでいっただろう!」

 

 万太郎の記憶にあるのは、超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝でのケビンとクロエのやり取り。

 彼らは事あるごとにその言葉を口にし、師弟共有の極意に則って技を放ってきた。

 

「攻撃の極意……受け継がれし心得……ああ~~っ! そ、そうか!」

 

 ケビンマスクは万太郎の言いたいことを理解し、クロエに背中を向けた。

 

「感謝するぜ! 万太郎!」

 

『どうしたケビンマスク!? 突然後方へと駆けていく――っ!』

 

 敵の外見に惑わされてはならない。

 万能の防御法など絶対にない。

 敵を測るは目ではなく、心に在り。

 だからこそ、ケビンはロープに身を預けた。

 

『あ――っとロープの反動を使うのが目的か――っ!』

 

 ロープを壁に見立てて蹴り、体を矢のようにピィーンと直立させて飛び出した。

 先端は鋭く伸ばした両掌。そこに回転を加えれば――

 

「攻撃の極意……それは! 天使のように細心に!」

「悪魔のように大胆に、だ――っ!」

 

 万太郎とケビンが言葉を合わせ、超人削岩機が完成する。

 

「マッハ・パルバライザ――ッ!」

 

『ケビンマスク、超人削岩機で回転しながら突撃を仕掛ける――っ!』

 

 今大会では万太郎やネプチューンマンも使用したマッハ・パルバライザー。

 この技のスペシャリストこそが、なにを隠そうケビンマスクなのである。

 その突進力と回転力は他の追随を許さず、クロエを正面から捉えた。

 が、

 

『な……なんとクロエ、矢のように鋭く伸ばされたケビンマスクの両腕を脇で捕らえ、その回転を封じ込めてしまった――っ!』

 

 右の脇で挟み込まれたケビンマスクの超人削岩機は、ピタッと回転が停止。

 そんな馬鹿な、と驚愕する万太郎を見ながら、クロエは失笑する。

 

「フッ……天使のように細心に、悪魔のように大胆に。まさかその言葉を万太郎に言われてしまうとはな。しかしマッハ・パルバライザーはオレが教えた技。いかに細心の注意を払い、大胆に切り込もうとも、このオレには通じない」

 

 ケビンマスクがマッハ・パルバライザーのスペシャリストならば、クロエもまたマッハ・パルバライザーのスペシャリストなのである。

 突進の軌道、どこを押さえれば回転が止まるか、そういった攻略に必要な情報は知り尽くしていた。

 

「これが本物の“天使のように細心に、悪魔のように大胆に”だ――っ!」

 

『クロエ、ケビンマスクを脇で捕らえたまま豪快なジャイアントスウィング――ッ!』

 

 直立状態のケビンを脇に抱えたままその場で大回転。

 ハンマー投げのハンマーのように振り回し、最後は空中に放った。

 

「ネプチューンマン!」

「ヨッシャア!」

 

 クロエが相棒に合図を出し、ネプチューンマンが意気揚々と飛び上がった。

 

『ケビンマスク、宙空へと放り投げられた――っ! その先へはネプチューンマンが向かっている――っ!』

 

 ネプチューンマンが空中で振り上げるのは、左脚。

 その脚部は彼のトレードマークであるレッグウォーマーが足首まで下げられており、鍛え上げられた脛が露出している。

 ネプチューンマンはこの脛をケビンマスクにぶち当てようというのだ。

 

「ターンオーバー・レッグ喧嘩(クォーラル)ボンバ――ッ!」

 

『ネプチューンマンの左脚が空中でケビンマスクの首を強打――っ!』

 

 逆さ状態で落ちてきたケビンに脚による喧嘩ボンバーを叩き込み、直下のキャンバスに落とす。

 凄絶な激突音が鳴り響き、コーナーに控えていた万太郎も思わず声を荒げた。

 

「あ……脚で喧嘩ボンバーを!?」

 

 そんな攻撃は想定すらしていなかった。

 だからこその動揺が万太郎を襲い、攻撃をくらったケビン自身はなすすべもなく倒れた。

 

「オレと対戦する超人は手技ばかりに警戒がいきがちだが、そういう相手にこそこういった足技が効く! 警戒していなかったまさかの攻撃は肉体だけでなく精神にも大ダメージを与えるのだ――っ!」

 

『ケビンマスク、ダウーン! まだ序盤ながら、新星(ノヴァ)・ネオ・イクスパンションズの痛烈なツープラトンを食らってしまった――っ』

 

 リング中央で大の字の仰向け状態でダウンを取られるケビン。

 クロエもネプチューンマンも追い打ちをする様子はない。

 無情なるダウンカウントが始まった。

 

「ウ、ウウ……」

 

 うめき声を上げながらも、なんとか起き上がろうとするケビン。

 まずは上半身。次いで下半身を立たせようとするが、どうしても時間を要してしまう。

 

「グウウ~~ッ」

 

 どうにかカウントナインで立ち上がったが、とても反撃に移れるような状態ではない。

 このままでは無駄にダメージを重ねてしまうのがオチ――そう判断した万太郎は、ついに決断する。

 

「ケビン、作戦変更だ。おまえに勝負勘を取り戻してもらうためにも、序盤は任せるつもりだったが……あのふたりのエンジンのかかり方が予想を大きく超えている。このままじゃ一方的に痛めつけられるだけだ」

 

 試合序盤はケビン単独で乗り切る。

 それがザ・坊っちゃんズの作戦だったが、もはや改めざるをえないだろう。

 

「ま、万太郎……しかし……」

 

 ケビンマスクは劣勢を感じながらも、素直に承服することができない。

 彼にだってプライドがある。決勝戦の先発を務めておきながら、いいとこなしで交代はあまりに情けなかった。

 

「悔しい気持ちはわかるけど、ここは任せてくれよ。相手はおまえの師匠と、おまえのダディが終生のライバルと認めた相手。でもボクだって、おまえの最高最大のライバルなんだぜ。そんな3人がこれから目の前のリングで闘うんだ……間近で見ているだけでも、寝ていた勝負勘が飛び起きてくるだろうよ」

 

 万太郎はケビンの気持ちを汲みながらも、チームリーダーとして厳しい判断を下す。

 そして同時に、パートナーを気遣う優しさを見せるのだ。

 

「言いやがる」

 

 この時代に訪れる前の万太郎からは想像もできなかった言葉だ。

 おそらくは“マッスルブラザーズ・ヌーボー”――ド素人だったカオスとタッグを続けてきたことで培われた経験なのだろう。

 頼りになる。そう思わせるだけの眼差しを感じ取り、ケビンマスクは万太郎のもとに駆け寄った。

 

「なら任せたぜ、相棒」

 

 交代を求める掌に自らの掌を合わせ、万太郎が力強く頷いた。

 そして、ロープを背に背面跳び――キン肉マングレートを思わせるマーシャルアーツパフォーマンスでリングインを果たす。

 

『あ――っとザ・坊っちゃんズ、ここで万太郎に交代だ――っ』

 

 華麗に着地してみせた万太郎は、ずんずんとリングの中央に進んでいく。

 

「さあ――っ、“究極の超人タッグ戦”決勝のリングにキン肉万太郎様がやってきたぞ――っ」

 

 対する“新星・ネオ・イクスパンションズ”は、引き続きクロエが相手となる。

 ケビンとクロエに因縁があるように、万太郎とクロエにも並々ならぬ因縁がある。

 なにせ万太郎が敗北した超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝――対戦超人のケビンマスクのセコンドについていたのがこのクロエなのだ。

 直接のライバルではないものの、リベンジをしたい相手であることは変わらない。

 クロエにも万太郎のそういった対抗心がわかっていた。

 

「フッ……万太郎。おまえにオレのノーブルフォームが崩せるかな?」

 

 なればこそ、あのときのケビンマスク戦を再現するかのようにノーブルフォームで待つ。

 その余裕たっぷりな態度が癪に障ったのか、万太郎はムカッとした表情を見せクロエに向かっていった。

 

「ンリャア――ッ!」

 

『おお――っと万太郎、クロエに強烈な右ローを放つ――っ!』

 

 万太郎の下段蹴りがクロエの左脚を打つ。

 鋭い一撃だったがノーブルフォームを解除するほどのものではない。

 

「お次はこれだ――っ!」

 

『万太郎、今度は逆足でミドルキックを放った――っ!』

 

 余裕を崩さぬクロエに対し、万太郎は脇腹を狙う。

 これはさすがに防がねばならぬだろう。

 

『クロエ、右腕を下げ、さらに右脚を上げてのガード!』

 

 そして防いだ直後に反撃だ――と、そこまで考えて。

 クロエは己の判断ミスを悟った。

 

「アホが見るブタのケツ――ッ!」

 

『あ――っと万太郎のミドルキックの軌道が突然ハイキックの軌道に変化した――っ!』

 

 中段をガードするためにおろそかになってしまった上段が、万太郎のハイキックに射抜かれる。

 クロエは頭部に直撃をもらってしまい、大きく体勢が崩れた。

 

「こ……これは! 超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝で万太郎がノーブルフォームのケビンマスク相手に見せたムーブだ!」

 

 当時の試合を近くで観戦していたテリー・ザ・キッドが叫ぶ。

 おそらく万太郎も意識してこのムーブを繰り出したのだろう。

 だが、だとすればこの後に待ち受ける展開は――

 

「あのときのリベンジのつもりか? ならばこちらも受けて立つまで」

 

 ハイキックをくらったクロエはあえてそのまま横向きに倒れ、キャンバスに左手をつける。

 

『クロエ、キャンバスに片手をつき自らの体を旋回させる――っ』

 

 そして左腕を軸にして全身を回し、上下反転。

 ブラジル格闘術カポエイラのような挙動で、逆さのまま蹴りを放つ。

 

「クロエトルネード――ッ!」

 

『体を逆さにしての旋回蹴りが万太郎の頭部を直撃――っ!』

 

 頭部攻撃をやり返されてしまった万太郎が体勢を崩す。

 クロエは続けざまに倒立し、両腕をバネにして飛び上がった。

 

「トアタ――ッ!」

 

『さらに飛び上がってのオーバーヘッドキック――ッ! 頭部への2連打でさしもの万太郎もダメージ必至か~~っ!?』

 

 万太郎の額に突き刺さるクロエの足先。

 ダウンはしなかったもののヨロヨロと後退し、ロープにもたれかかる結果となった。

 

 消極的なファイトを嫌い、だからこそ血気盛んに攻める――その判断こそノーブルフォームの格好の餌。

 万太郎が犯した過ちは、ケビンマスク戦のときとまったく同じだった。

 

「な……なにをやっている万太郎! ノーブルフォームへの対抗策はそうじゃないだろう! あのときだってミートの代理セコンドを務めていた農村マンにたしなめられていたじゃないか――っ!」

 

 いくら万太郎がアホとはいえ、こんなにも学習能力がないとは思えない。

 ケビンマスクは悲痛な面持ちで叫ぶが、万太郎はむしろその反応を期待していたかのように微笑む。

 

「ヘヘ……そのとおり。だいぶ客観的に試合が見られるようになってきたじゃないか」

 

 万太郎はアホではあるが、試合中にミスをしたからといっておちゃらけるようなやつではない。

 それを知るケビンは、相棒の言わんとすることを察しハッとした。

 

「万太郎……おまえ、まさかわざと……」

 

 勝負勘が鈍っているパートナーをあえて外に出し、醜態を演じることで自分を客観視させる。

 タッグチームのリーダーとしての采配が、ケビンマスクの眠っていた観察眼を呼び起こす。

 

「教えてくれよケビン。対ノーブルフォーム……おまえだったらどうする?」

 

 相棒に助言を求める万太郎。

 ケビンはかつての名セコンド・クロエに倣い、適切な指示を選び取る。

 

「クロエは澄ました顔をしているが……さっきの万太郎のハイキックは相当効いている。ならば、機を見るに敏!」

 

 ノーブルフォームに迂闊な攻めは厳禁――という先入観を捨て、今こそ勇気を持って攻め込むべきと判断した。

 

戦略(タクティクス)No33“千手千万殺”ビーストフォームだ――っ!」

「オーケイ!」

 

 万太郎は応え、高貴な構えのクロエに対し野獣のごとき勢いで突っ込んでいった。

 その頬っ面にスピード重視の拳を叩き込む。

 

『万太郎の右ジャブがクロエの顔面にヒット――ッ!』

 

 ジャブは当てることに特化した打撃。威力は度外視でとにかく顔面打ちを成功させる。

 さすればより強力な一撃を与える隙が生まれるだろう。

 

『続けて左のストレートも入る――っ!』

 

 右のジャブで作り出した隙に左のストレートパンチ。

 それが成功したならば、今度は左のジャブで隙を作り右のストレートパンチ。

 

『あ――っと! 凄い! 凄い! 万太郎の左右の連打が正確無比にクロエの顔面にヒットする――っ!』

 

 執拗なまでの顔面狙いに、クロエはなすすべもなく滅多打ちに遭う。

 その攻防を観察していたネプチューンマンは、パートナーがやられているにもかかわらず嬉しそうに微笑んでいた。

 

「ノーブルフォームに迂闊な攻めは厳禁、仕掛けるなら慎重になるべし……しかし今の一瞬、クロエの守備にダメージによる綻びができていたのをケビンマスクは見逃さなかった。対ノーブルフォームの定石にとらわれず的確に状況を見極めたケビンマスクも見事だが……眠っていたケビンの観察眼を叩き起こしてみせた万太郎もいい仕事をした。おもしろくなってきたじゃねえか、ザ・坊っちゃんズ」

 

 念願の決勝戦を闘うというのに、対戦チームがへっぽこでは張り合いがない。

 ケビンマスクに対して彼をよく知るクロエを出したのは、まさにケビンが覚醒するのを期待してのこと。

 ザ・坊っちゃんズには“ザ・デモリッションズ”と対戦したとき以上の強さを発揮してもらわなければならない。

 ネプチューンマンの目論見はハマり、万太郎とケビンはタッグチームとして強敵となりつつあった――が、リング上のクロエも当て馬で終わるつもりはなかった。

 

『しかしクロエもやられっぱなしではない! 万太郎のストレートパンチを肘でカット――ッ』

 

 万太郎のパンチが弾かれ、攻撃のテンポがズレる。

 ここまでの流れは、万太郎がケビンマスク戦で経験したビーストフォームとの攻防そのまま。

 あのときディフェンス側だった万太郎は農村マンの授けた“赤ちゃんチューチュー”作戦による擬似肉のカーテンでケビンのビーストフォームを凌いだが、まさかクロエはそんな展開をなぞりはしないだろう。

 

「ここだ」

 

 万太郎自身、相手が因縁深いクロエだからといってケビンのモノマネで攻め続けるつもりはない。

 パンチを肘でカットされることは想定内――だからこそすぐさまその場にしゃがみ、蛙跳びの要領で頭を突き出す。

 

『万太郎、身を低くしクロエの腹部にヘッドバットを突き上げる――っ!』

 

 ただのヘッドバットでは終わらず、クロエの腹に頭をめり込ませたまま上昇。

 

「ああ――っ! あの形は――っ!」

 

 客席にいたミートくんが大声で反応を示す。

 リング上空まで上がった万太郎とクロエの姿は、遠目から見ればまるで――

 

『こ……これは! カタカナの“イ”の字だ――っ!』

 

 一画目がクロエで、二画目が万太郎の、“イ”の字。

 キン肉万太郎がまたなにかおかしなことを始めると察した観衆が、期待感のこもった眼差しでウォーキューブを見た。

 

「続いてこれだ! マンタロー・ストレッチ……またの名をマンタロー一番搾り――っ!」

 

 万太郎はその期待に応えるように、クロエと背中合わせになって片足で相手の両足首をロック。

 同時に両腕で首を掴んで絞り上げれば、“世界五大厄(ファイブディザスターズ)”戦で親友チェック・メイトが使ったストレッチ技のオリジナルがお披露目となる。

 

『空中でスタンディング状態の鎌固め! その様はまるでカタカナの“ロ”の字だ――っ!』

 

 カタカナの“ロ”、つまりは真四角に見えるほどの鎌固めは、クロエの背骨を極限まで反らせダメージを与える。

 だがこの技はこれで終わりではない。

 万太郎は鎌固めを解除し、今度はクロエの両腕を両脇で捕らえる。

 さらにクロエの両足首に自身の両足をかけ、逆さ状態で開脚させれば、その姿はカタカナの“ハ”のように映った。

 

「最後はマンタローハカイ落とし!」

 

 万太郎はクロエをその状態に固めたまま、キャンバスへ降下していく。

 

『両腕と両足を駆使してクロエを“ハ”の字に固めるサブミッション! この見たこともないような連続技は~~っ』

 

“イ”の突き上げヘッドバット、“ロ”のマンタロー一番搾り、“ハ”のマンタローハカイ落とし。

 これぞ、万太郎が21世紀で対戦した超人・クリオネマンの必殺技(フェイバリット)x・y・z(エグザイズ)クラッシュ”に対抗すべく編み出したオリジナル・ホールド。

 

「マンタロー“イ・ロ・ハ地獄巡り”――――っ!!」

 

 超人レスリングの花形である必殺技が、ついに“究極の超人タッグ戦”決勝のリングに着弾した。

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