ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第096話 自爆or奇策!?トラウマをパワーに変えて!

『弾丸の如く飛び出した万太郎、ケビンマスクの背中から激突し、さらに両腕をクラッチ! その勢いでオプティカルファイバーの管から脱出させたが……これは同士討ちにも等しい荒業だ――っ!』

 

 万太郎が繰り出したマッスル・ミレニアムは相手の両手首をクラッチした状態で背中から激突し、その勢いでロープに両太腿と顔面を食い込ませる必殺技(フェイバリット)。強靭なリングロープは技をくらった超人の体を弓なりに反らせ、背骨をも破壊してしまうだろう。

 この“究極の超人タッグ戦”では理由あって封印していたが……元々悪行超人時代のスカーフェイスに始まり、d.M.p(デーモンプラント)の生き残りTHE・リガニー、ノーリスペクト三人衆を打ち破り、超人オリンピック・ザ・レザレクションにおいてもウォッシュ・アス、バリアフリーマン、ヒカルドと強力なライバルを相手に次々とKOを量産した、まさに万太郎の連勝街道を支えてきた必殺技なのである。

 

『ネプチューンマンとクロエの左腕がかち合った! その間にケビンマスクは居らず! クロス・ボンバーは不発に終わった――っ!』

 

 マッスル・ミレニアムの突進力はオプティカルファイバー・パワーの拘束力を凌駕した。

 ターゲットを逃がしてしまった“新星(ノヴァ)・ネオ・イクスパンションズ”は、左腕同士を合わせた体勢で冷や汗を垂らす。

 

「ま……まさかマッスル・ミレニアムを味方であるケビンマスクに仕掛け」

「オプティカルファイバー・パワーからの脱出装置にするとは……」

 

 まったく予想できなかったクロス・ボンバー攻略法に、キン肉万太郎という超人の底知れなさを実感する。

 だが、ツープラトンから逃がすために相方に必殺技を仕掛けるという行為――それにはもちろん多大なリスクが生じるはずだ。

 

「万太郎とケビンは!?」

 

 ネプチューンマンとクロエは万太郎たちが飛んでいったロープのほうを見やる。

 マッスル・ミレニアムが決まれば、今頃ケビンマスクの顔面と両太腿がひしゃげ背骨が粉々になっているはず。

 それはもしかしたらクロス・ボンバーを素直にくらう以上の深手となっている可能性も考えられたが――現実はそうはならなかった。

 

『あ――っとあまりの勢いにロープ激突かと思われたケビンマスクだが……その寸前で体を大きく後ろに反らし、万太郎の頭を両手両足でキャッチしている~~っ!』

 

ザ・坊っちゃんズ(ヤングマスターズ)”のふたりはロープ手前ギリギリの空中で静止している。

 ケビンマスクは土壇場で両手首のクラッチを切り、万太郎の頭を受け止めることでブレーキをかけたのだ。

 その衝撃極まる光景に、新世代超人(ニュージェネレーション)の仲間であるスカーフェイス、テリー・ザ・キッド、ジェイドが大きく反応する。

 

「本来のマッスル・ミレニアムは相手の体を背中からクラッチしてロープにぶつける技だが、ケビンは激突寸前で勢いを殺し技を防いでいる!」

「あれは超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝でも見せたマッスル・ミレニアム破りのムーブだ!」

「万太郎にとっては自身の敗北を決定づけた苦い思い出のある技……それがまさか、ケビンマスクを助けるために機能するなんて!」

 

 そう――ケビンマスクは超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝戦、万太郎との試合の中でこのマッスル・ミレニアムを実際に破っている。

 そしてそれは勝利へのラストピースとなり、万太郎に初黒星を突きつけた。

 万太郎にとっては初の敗戦、さらにチャンピオンの栄光を逃すに至ったトラウマも同然の必殺技……直後の“悪魔の種子(デーモンシード)”コンステレーション戦でも通用せず、だからこそ封印していた技だったのだ。

 だがそんないわくつきの技であるからこそ、ケビンマスクを助けることができると思い万太郎はその封印を解いた。

 

「咄嗟のひらめきだったけど……信じてたぜケビン。おまえなら、あのときみたいにボクのマッスル・ミレニアムを無効化してくれると」

「背中から感じた猛烈な威圧感……それに両手首に感じた緩いクラッチ。一瞬でおまえのやりたいことはわかった。オレもまさか、二度もマッスル・ミレニアムを破ることになるとは思わなかったぜ」

 

 自爆の危険性があったとしても、パートナーを信じて技を放った。

 万太郎の判断は功を奏し、ケビンマスクは無事にリングへと帰還を果たす。

 

「さあ、ケビン! マスクを直して反撃開始だ!」

「おう!」

 

 地獄の三重刑で裏返されていたマスクを戻し、ケビンは万太郎の横に並び立った。

 

『万太郎のマッスル・ミレニアムでケビンマスクをクロス・ボンバーから脱出させるという奇策に出た“ザ・坊っちゃんズ”! 体勢を立て直し試合続行の構えだ――っ!』

 

 クロス・ボンバーを破られた“新星・ネオ・イクスパンションズ”のふたりは、ただただ感嘆する。

 

「技を破ってくれることを前提に、パートナーに必殺技をかけるなんてな……」

「一歩間違えば同士討ち。並の信頼関係でできることではない」

 

 これが21世紀最凶最悪の悪行超人である“ザ・デモリッションズ”を破ったタッグか。

 21世紀最強の正義超人コンビの肩書きに偽りなし。

 

「万太郎にケビン……決勝を闘うに相応しいタッグチームだ」

「ああ。燃えてきたぜ」

 

 ネプチューンマンとクロエは気を引き締め、ふたりに向かい合う。

 

「いくぞ万太郎! カオスから譲り受けたあの技でいく!」

「わかった! どーんと来い!」

 

 不調から脱したケビンが万太郎に合図を出し、ロープを駆け上がってムーンサルト気味に飛んだ。

 万太郎は上半身をわずかに前に倒し、降りてくるケビンマスクを背中で受け止めた。

 

『前かがみになった万太郎、その背中に仰向けのまま両足を前に突き出した体勢でケビンマスクがドッキングする――っ!』

 

“同志を察するはヘソに在り”――キン肉マンが“マッスルブラザーズ・ヌーボー”に教えたツープラトンの極意は、今“ザ・坊っちゃんズ”へと継承された。

 

「あれは、オレたちアドレナリンズやバッファローマン&ラーメンマンの2000万パワーズを苦しめたマッスルブラザーズ・ヌーボーのオリジナルツープラトン!」

 

 その技をくらったことがあるテリー・ザ・キッドは、万太郎とケビンマスクの重なった姿に空気抵抗を抑えた流線型フォルムの超特急を幻視した。

 

「ビッグフット・エクスプレス――ッ!」

 

『21世紀の最新鋭列車が今、発進~~っ!』

 

 2000万パワーズのロングホーントレイン、ジ・アドレナリンズのタッグフォーメーションAに打ち勝った実績を持つスーパーツープラトンが、“新星・ネオ・イクスパンションズ”を襲う。

 

「狙いはネプチューンマンだ!」

 

 走行を担当する万太郎はネプチューンマンに狙いを定め直進。

 ネプチューンマンは右に回避するフェイントを見せ、実質左に飛び退こうとする。

 が、万太郎はレールポイントを切り替え走行ルートを修正、再度ネプチューンマンを照準に収めた。

 

『ネプチューンマン、懸命に避けようとするが……ザ・坊っちゃんズのエクスプレスが執拗に追いすがる――っ!』

 

「クッ!」

 

 回避を見極められたネプチューンマンはそれ以上動くことができない。

 槍のように突き出されたケビンマスクの両足が、ネプチューンマンの胸元にヒットする。

 

『ネプチューンマン、轢殺――っ!』

 

 加速をつけた一撃はネプチューンマンの体を弾き飛ばし、宙を舞わせた。

 21世紀の最新鋭列車はこれしきの人身事故では運転見合わせとはならない。

 さらなる交通事故を生み出すため、残ったもうひとりの超人を狙う。

 

「ようし、お次はクロエだ!」

 

『ザ・坊っちゃんズ、続けてクロエに照準を定めた――っ!』

 

 突撃の勢いは衰えるどころかどんどん増している。

 バッファローマンにラーメンマンにロビンマスク、そしてついにネプチューンマンをも仕留めたツープラトンに対応できる超人など、もはや存在しない。

 

「ビッグフット・エクスプレスへの対策は……こうだ!」

 

 クロエも名だたる伝説超人(レジェンド)と同じ目に遭うかと思われたが、なんと彼は大胆にも背中を向けた。

 

『あ――っとクロエ、ビッグフット・エクスプレスに背を向けて走り出したぞ――っ!?』

 

 ネプチューンマンのように横へ回避するのではなく、後ろへの逃亡。

 だが無謀だ。

 ここは四角いリング内。すぐそこにはロープという名の壁があり、足を止められてしまう。

 誰もがそう思ったが、クロエは足を止めずそのロープを踏んだ。

 

『ロープを使って高く飛んだ――っ!』

 

 クロエの狙いはビッグフット・エクスプレスからの逃走ではなく、真上を取ること。

 空中で体勢を変えたクロエは肘を突き出し、追ってきた“ザ・坊っちゃんズ”に逆襲の一撃を入れる。

 

『ビッグフット・エクスプレスの屋根、すなわちケビンマスクの胸元にエルボー・ドロップを叩き込む――っ!』

 

 前方にのみ威力を集約させるビッグフット・エクスプレスでは、真上からの攻撃に対応することができない。

 つまりケビンマスクの胸元は無防備そのもの。一切の防御もできずエルボーをくらってしまう。

 そして真上からの攻撃が炸裂すれば、土台となっている万太郎の体も崩れてしまうという寸法だ。

 

「グアア~~ッ」

 

『エクスプレス崩壊~~っ』

 

 万太郎とケビンの合体体勢が解除され、ふたり揃ってダウンした。

 

「や、破られた! 私たちや2000万パワーズが破れなかった至高のツープラトンが……ついに!」

 

 この技に苦い思い出があるロビンマスクは、興奮のあまり拳を握り込んだ。

 至高のツープラトン破りを果たしたクロエは華麗に着地し、真理を言う。

 

「ビッグフット・エクスプレスがいかに21世紀の最新型超人列車であろうと、空は飛べん」

 

 それは21世紀の未来でも未だ実現に至っていない夢の科学だ。

 手痛い反撃をもらってしまった“ザ・坊っちゃんズ”だったが、ただのエルボーで沈むものかと全身に力を込める。

 

「さ、さすがは“漆黒の脳細胞”と呼ばれたクロエ……あの窮地に身を置きながら、冷静に対抗策を編み出し実行に移すとは」

「ふ、普通は列車が迫りくる恐怖でどう逃げればいいのかわからなくなり、直撃をくらってしまうはずなのに~~っ」

 

『ケビンマスクに万太郎、お互いの体を支えながら立ち上がってくる――っ』

 

 ふたりが立ち上がってくるのを見て、跳ね飛ばされたネプチューンマンも立ち上がってくる。

 しかしダメージは大きいだろう。クロエはパートナーの負傷を鑑み、言葉を投げた。

 

「ネプチューンマン、おまえは少し休んでいろ。オレは調子に乗り始めているケビンの出鼻をくじく」

「そいつはおまえにしか務まらねえ仕事だ。任せたぜ」

 

 ネプチューンマンは素直に引き下がり、“新星・ネオ・イクスパンションズ”陣営はクロエだけがリングに残った。

 それを見て、ケビンマスクが声を漏らす。

 

「フ、フフフ……」

「お……おい。いきなりなに笑ってるんだよ」

 

 急に笑い出した相棒に戸惑う万太郎。

 ケビンマスクは嬉しさを隠さぬ様子で答える。

 

「これが笑わずにいられるか。クロス・ボンバーという伝説的ツープラトンの脅威にさらされ、こちらの渾身のツープラトンは師によってあっさり返される。オレは今紛れもなく、正義超人のレジェンドコンビを相手にし、さらには超人格闘技の師匠と相対しているのだと思うとな……さっきから闘争心が疼いて疼いて仕方がねえ」

 

 悪行・時間超人の過去改変による肉体消滅という憂き目に遭い、意識はありつつも手出しはままならない歯がゆさを長らく感じていたケビンマスク。

 辛抱に辛抱を重ねた末に、こんなおもしろいファイトに巡り合うことができた。

 バトンを渡してくれたカオスには感謝してもしきれない。

 

「だがさすがに、あの高慢ちきなツラをしたマスクが気に入らなくなってきた。あのボケナス、ネプチューンマンじゃねえがそろそろマスク狩りのひとつでもしてやりてぇところだ」

「ひゃ~~っ! 実の師匠に言うなぁ~~っ」

 

 万太郎はケビンマスクの傲岸不遜な物言いを嬉しく思い、ある妙案を思いつく。

 

「だったらこういうのはどう? ゴニョゴニョ……」

「……おもしれぇ。乗ったぜ、その作戦」

 

 耳打ちで打ち合わせを済ませ、“ザ・坊っちゃんズ”の作戦が決まった。

 万太郎とケビンは悪童のような笑みを作り、実行に移る。

 

「よし、任せた!」

 

『万太郎がリングアウト! ここで再び、試合はクロエ対ケビンマスクの組み合わせとなった――っ!』

 

 リングに残ったケビンマスクを見て、クロエはフッと笑う。

 

「オレに勝ちたいというおまえの心情は理解できるが、ここは判断ミスだな。オレはおまえのことを知り尽くしている……直接対決では勝ち目はないぞ」

「オレのことを知り尽くしている……か。大層なことを言いやがる。だがそれは正義超人時代の話だろう?」

 

 確かにクロエがケビンマスクと出会ったのは超人オリンピックの直前、彼がd・M・pから足を洗った後だ。

 当時のケビンはまだ父ロビンマスクへの確執を抱えていたが、属性でいえば正義超人だったのは間違いない。

 

「知っているかクロエ? オレがかつて“d・M・p最大の禍”と異名をとるほど恐れられた男であったことを」

 

 だから、そう――ケビンが人間のプロレスラーを惨殺し、仲間に「いい殺しっぷり」と言わしめたほどの悪行超人だった事実を知らないのだ。

 

「トアァ――ッ!」

 

 ケビンマスクは肩を突き出しながらのタックルでクロエに襲いかかった。

 ただのショルダータックルと侮るなかれ、ケビンの肩には鋭い凶器が取り付けられている。

 

『あ――っとケビンマスク、鎧の肩につく鉄鋲でクロエの胸を突く! 極悪ショルダータックルだ――っ!』

 

 胸からの出血に、クロエが慌てて距離を取る。

 

「ググッ……」

 

 だが弟子であるケビンの思いもよらぬ一面を垣間見、精神的動揺から動きが緩慢になっていた。

 人間を殺したことならクロエ、いやウォーズマンとてある。

 しかしそんな大昔の過去は、半ば黒歴史……残虐ファイトと共に封じていた。

 それはケビンも同じと思い込んでいたが――

 

『ひるんだところに目潰し!』

 

 クロエのパッチリとした双眸に、容赦なく指が突き刺さる。

 激痛で顔を覆うクロエ。その隙だらけの股ぐらにケビンの蹴りが炸裂する。

 

『続けて金的蹴り!』

 

 全身に電流が走ったような痛み。ロボ超人とて金的は痛いのだ。

 クロエは完全に動きを止め、痛みが引くまでじっと耐えた。

 その間も、ケビンは猛攻を続ける。

 

『バックに回り……カナディアン・バックブリーカーのように抱えた――っ!』

 

 相手の胴を両手で担ぎ上げ、肩に乗せて背中を極めるのが通常のカナディアン・バックブリーカーだが――

 

「これをただのカナディアン・バックブリーカーと思うか――っ! くらえ~~っ! d・M・p式カナディアン・バックブリーカ――ッ!」

 

 ケビンマスクはクロエの背中を肩ではなく頭頂部に乗せる。

 彼の頭頂部――誕生と共に父ロビンマスクから与えられた鉄仮面には、鋭利な突起が備わっていた。

 

『お――っと通常のカナディアン・バックブリーカーは相手を肩に担ぎ上げるが、このd・M・p式は仮面の頭頂部の突起物を相手の背中に刺して担ぎ上げるものだ――っ!』

 

 クロエの背中から鮮血が飛び散り、ケビンマスクの仮面が赤く染まる。

 悪行・時間超人が退場しもう見ることはないと思われた残虐ファイトが、悪童ケビンマスクの手により“究極の超人タッグ戦”に帰ってきた。

 正義超人の在り方にこだわり続けたカオスの代役、そしてロビンマスクの息子という大看板を背負いながらやりたい放題やるケビンに、昔なじみのスカーフェイスも舌を巻く。

 

「オレも元は悪行超人。d・M・pではケビンと一緒だったから“d・M・p最大の禍”と異名されたやつの残虐さはよく知っているぜ。やつは正統的な試合も天才的だがラフファイトをやらせてもズバ抜けている!」

 

 もしもケビンマスクが悪行超人のままだったならば、21世紀の超人界は今頃彼の天下だったかもしれない。

 そう思わせるだけの恐ろしさが、決勝のリングで発揮されていた。

 

「とんでもねえ“乱暴者の精神(ランペイジ・スピリット)”……やはりこいつ、紛うことなきロビンマスクの息子だ~~っ。血は争えねえとはよく言うぜ~~っ」

 

 34年前、そして“前回”と数多くの悪行を重ねてきたネプチューンマンも、ライバルの息子が見せる残虐性に冷や汗をかいた。

 

「どうだクロエ――ッ! オレの手の内をよく知るおまえでも、オレが悪行超人ばりのラフファイトを仕掛けてくるとは思ってもみなかったんじゃねえのか――っ!」

 

 d・M・p式カナディアン・バックブリーカーを極めながら、ケビンはクロエに問う。

 

「そ、そのとおりだ……オレの頭脳でも、この攻撃は計算し切れなかった。だが相手が悪行超人のような輩と想定するならば、新たな対処の方法も生まれてくる!」

 

 クロエとて、ケビンマスクの経歴をまったく知らなかったわけではない。

 少々面食らってしまったがそれだけ。すぐに気持ちを切り替え、然るべき対応に出た。

 

『あ――っとクロエ、自身を担ぎ上げるケビンマスクの手に己の手をかける! これはもしや、指折りを狙っているのか――っ!?』

 

 背中の痛みをものともせず、フリー状態の手を使って腰にあるケビンの指を取ろうとする。

 

「チィッ!」

 

 ケビンもクロエの意図を察し、発動中の技にこだわらず背中から仮面の突起物を抜いた。

 

『ケビンマスク、技を解除しクロエをキャンバスに放り投げる!』

 

 雑なボディスラムではあったが、直前に急所攻撃の連打をくらっていたクロエは受け身に失敗。

 

「クッ……」

 

 ダウン状態から体勢を立て直そうとするが、先にケビンが追撃に出た。

 

『攻撃の手を緩めないケビンマスク! 立ち上がろうとするクロエの背中に強烈キック――ッ! そこは先ほどd・M・p式カナディアン・バックブリーカーで痛めつけた箇所だ――っ!』

 

 傷口狙いの追い打ちこそ残虐ファイトの王道。

 正統派正義超人からはかけ離れた邪道っぷりに、観客のリアクションも上々だ。

 

「キャー!」

「えげつねえ!」

「いくらなんでもやりすぎだ――っ!」

「それでもロビンマスクの息子か――っ!」

「ヒュー! さすがロビンマスクの息子だぜ――っ!」

 

『観客からは怒号! 悲鳴! 絶賛! 様々な声が飛ぶ~~っ!』

 

 ケビンマスクの端正なマスクに惹かれていた女性ファン、悪行超人の闘いが大嫌いな正義超人応援団、ロビンマスクの息子というブランドを高く見ていた者、ロビン一族の残虐性を知る古参――30万人もいれば反応は実に様々だった。

 残虐ファイトに対抗するためには残虐ファイトが必要――クロエは“世界五大厄(ファイブディザスターズ)”戦の攻防を思い出し、一時的に正義超人の殻を破る決心をした。

 

「グウッ……ケビン! おまえが残虐ファイトで来るというなら、こちらも……」

「おっと、なら残虐ファイトは一旦やめだ」

 

 しかし、ケビンマスクはそんなクロエの決心を袖にする。

 傷口狙いをやめ、引き続き背後から仕掛けるのは――裸絞だ。

 

『あ――っとケビンマスク、クロエをチョークスリーパーホールドに極めた――っ!』

 

 スタンディング状態でのチョークスリーパー。

 

「あれ~~っ? なんか既視感が」

 

 客席のキン肉マンを筆頭に、観客のほとんどが「さっき見たような……」という感想を抱いていた。

 

「野郎……まさか!」

 

 ネプチューンマンがケビンマスクの狙いに気づき、表情に怒りをにじませる。

 チョークスリーパーはつい先ほどネプチューンマンがケビンマスクに仕掛けた技だ。

 より正確には、チョークスリーパー状態から後ろに反り投げるスープレックス――

 

「地獄の三重刑その1――っ!」

 

 そう、ネプチューンマンの必殺技である“地獄の三重刑その1”を、ケビンはクロエにやり返したのだ。

 

『チョークスリーパーをかけながらのスープレックス! なんという意趣返し! これは先ほどケビンマスク自身がくらわせられたネプチューンマンの必殺技だ――っ!』

 

 もちろんこのまま単発で終わるつもりはない。

 ケビンマスクはダウンしたクロエの頭部に手をかける。

 

「さあ、お楽しみはこれからだ」

 

 先ほどケビンがやられたのはスリーパー・スープレックス――“その1”だけではない。

 ならば“その2”と“その3”もお返しするのが平等というものだろう。

 だからケビンはクロエの頭を両手で掴み、ぐるりと回した。

 

『ク……クロエの顔がケビンマスクの手によって前後逆転! これは衝撃! なんとクロエはマスクマンであった――っ!』

 

 王冠を被った王族のような容貌がいとも簡単に背中側を向き、見ていた者が「ええ~~っ!?」と驚きをあらわにする。

 これでは地獄の三重刑は完成。

 数分前のケビンと同じように、クロエは視覚と聴覚、そして声を失ったはずだ。

 

「声をなくし、耳も聞こえず、目も見えない! おまえのパートナー、ネプチューンマン自慢の地獄の三重刑! 知覚の大半を奪われたままでは、次に来る技を避けることはできねぇ――っ!」

 

 ケビンは弱体化したクロエにさらなる攻撃を――仕掛けず、なぜか大きく距離を取った。

 

「ケビンのやつ、あそこからいったいなにを!?」

 

 ロビンマスクにはケビンの意図が読めない。

 あの状態からならタワーブリッジにロビン・スペシャル等、将来ロビンが息子にも伝えようとしていた技が入れ放題のはず……その優位を捨ててまで距離を取ることに、いったいどんな意味が!?

 

「万太郎! 出番だ!」

「待ってたぜ相棒!」

 

 注目が集まる中、ケビンマスクが取った行動はパートナーへの指示出しだった。

 万太郎はケビンの行動の意味を正しく解釈し、彼の対角線上に移動する。

 ふたりの間には、マスクを反転させられ混乱中のクロエがいた。

 

『あ――っとケビンマスクと万太郎がそれぞれリング端に、中央に立つクロエを挟んで左腕を構える――っ!』

 

 またしても既視感のある光景……が、ザ・坊っちゃんズのふたりが“ソレ”をやるなど観衆の理解が追いつかない。

 

「あ、あの坊っちゃんども……まさか!」

 

 ネプチューンマンはケビンと万太郎が発動させようとしているツープラトン、その先に待つ結果を予想し、動くべきか迷った。

 

「いくぜ――っ!」

 

 迷っている暇などない――ザ・坊っちゃんズのふたりはそう言わんばかりに、素早くスタートを切る。

 左腕を掲げながらの疾走。

 前と後ろから同時に仕掛け、ターゲットの首を分断する勢いでダブル・ラリアットを叩きつければ――

 

「日英クロス・ボンバ――ッ!」

 

 日本とイギリスの代表超人による、豪華コラボレーションが完成する。

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