ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第097話 あの雨の中の言葉!!

『なんということだ~~っ! 万太郎とケビンの日英クロス・ボンバーがクロエにヒット! まさかクロス・ボンバーの総本山であるネプチューンマンチームが逆クロス・ボンバーの餌食になってしまうとは~~っ!』

 

 ケビンマスクのラリアットがクロエの正面から。

 万太郎のラリアットがクロエの後ろから。

 ふたりのラリアットが重なり合い、間に挟まれたクロエの首は激しい打撃音を奏でた。

 このままふたりが腕を離せば、クロエの首はポロッ……と落ちてしまうのではないだろうか。そんな気さえしてくる。

 

『い……いや! しかしどうしたことだネプチューンマン!? パートナーのクロエがクロス・ボンバーの直撃をくらったというのに、落ち着き払った様子で視線を送っているぞ――っ!』

 

 味方がクロス・ボンバーという絶対的ツープラトンをくらい放心している――わけではない。

 ネプチューンマンが落ち着いている理由は、このツープラトンが自分たちの敗北には直結しないと理解していたからだ。

 

「クロス・ボンバーはマグネット・パワーやオプティカルファイバー・パワー、オレの硬度10ダイヤモンド・アームを利用してこそ至高のツープラトン足り得るのだ。あんな見様見真似じゃとても必殺の一撃とはいかねえ。だが……」

 

 単純な威力が不足していることを指摘しながら、しかしノーダメージでは済まないことも承知している。

 

「地獄の三重刑で防御も回避も不可能にし、息のピッタリあったふたりによるサンドイッチ・ラリアット。KOまではいかずとも、その首につけた装着物を吹っ飛ばすには十分な威力を発揮する……」

 

 おそらく“ザ・坊っちゃんズ(ヤングマスターズ)”の狙いもクロエのKOではあるまい。

 彼らの真の狙いは、クロエのマスクだ。

 

『あ、ああ~~っ! 今、万太郎とケビンのクロス・ボンバーによってクロエのマスクが割れようとしている――っ!』

 

 直前にケビンが仕掛けた“地獄の三重刑”により、マスクマンであることが判明したクロエ。

 その前後逆になったままのマスクが割れるということは、つまり素顔が晒されるということ。

 

『マスクだけではない! 全身がひび割れ……まるで羽化しようとするサナギの如く、中から何者かが飛び出そうとしているぞ――っ!』

 

 ネプチューンマンが連れてきた謎のニューカマー超人……クロエは単なるマスクマンではなく、オーバーボディでもあった!

 だとしたらその正体はいったい誰なのか!? 我々の知る超人なのか!? それともただシャイなだけでやはり新人なのか!? 観衆の期待が高まる。

 

 そして――ついにクロエの全身が剥がれ落ち、内に潜んでいた新なる姿が現れた。

 

「ああ~~っ! あいつは……」

 

 ウォーキューブに熱烈な視線を注いでいたキン肉マンが、驚きの声を上げる。

 クロエの中から現れた人物は――丸みを帯びた頭部、無表情の仮面、黒尽くめのボディが特徴の、見知った超人だった。

 

『あ――っと“ファイティング・コンピューター”ウォーズマンだ――っ! 謎のニューカマー超人クロエはオーバーボディによる仮の姿……その正体はリタイアしたかと思われたイクスパンションズ二代目パートナー、ウォーズマンであった――っ!』

 

 正体を表したウォーズマンは、機械的な呼吸音を発する。

 

「コーホー」

 

 姿形が同じで、呼吸音も聞き慣れたそれならもう間違いない。

 ウォーズマン・カムバック。

 この衝撃の展開には、トーナメント・マウンテンに集った数々の超人たちも驚いていた。

 

「なに~~っ!? まさかクロエの正体がウォーズマンであったとは――っ!」

 

 目玉が飛び出そうなほど大きいリアクションをしたのは、まさかクロエがウォーズマンだったとは欠片も思っていなかったキン肉マンである。

 しかし、彼の周りにいる他の伝説超人(レジェンド)たちは違ったようだ。

 

「やはりか」

 

 とテリーマン。

 

「あいつめ、粋な演出を」

 

 とロビンマスク。

 

「弟子の前だからってはりきりやがって」

 

 とブロッケンJr。

 

「教え子に稽古をつけるような試合運びでわかったズラ」

 

 とジェロニモ。

 

「王子」

 

 ジトーっとしたミートの視線を感じ、キン肉マンはギクリと背筋を震わせた。

 まるでひとりだけ気づいていなかったみたいで格好悪いではないか……そう思ったキン肉マンは、腕を組み渾身のキメ顔を作った。

 

「もちろんわたしは最初から気づいていた」

 

 手遅れにもほどがある大嘘をかまし、伝説超人の面々がズコーッとずっこけた。

 先輩超人たちのコミカルなやり取りは他人のふりをして流し、新世代超人(ニュージェネレーション)たちはクールに語る。

 

「結局パートナーは変更してねえってことだ。なのにわざわざクロエのコスチュームまで持ち出して、あたかも別人のように振る舞うとはな。見かけによらずエンターテイナーだぜ、ウォーズマン」

 

 自身も演出面に気を配るタイプだからこそ、スカーフェイスはウォーズマンの行動を高く評価した。

 ジェイドもスカーの意見に同調しつつ、別の思惑もあったのだろうと推測する。

 

「おそらく不調が予想されたケビンマスクを奮起させる意図もあったんだろう。あいつの力を引き出す相手として、ウォーズマン……いやクロエ以上の適任はいない」

 

 なにせ21世紀でもウォーズマンが正体を明かしたのは超人オリンピック・ザ・レザレクションの優勝決定後。ケビンマスクとはクロエの姿で接した時間のほうが長いだろう。

 テリー・ザ・キッドは当時を思い返しながら、ゴクリと生唾を飲む。

 

「これは21世紀の超人レスリングファンなら垂涎のマッチアップだぜ。片や超人オリンピックチャンピオン、片やその立役者にしてレジェンドアイドル超人。これほどの師弟対決はそう拝めるもんじゃねえ」

 

 師弟対決。

 この“究極の超人タッグ戦”でも、ロビンマスクvsウォーズマンやジェイドvsブロッケンJrなど実現しそうでしなかった組み合わせがたくさんあった。

 それがまさか決勝戦で、しかも本来は参戦予定のなかった超人オリンピック現チャンピオン、ケビンマスクを絡めて実現してしまうとは。

 

「もうクロエとは呼ばねえ……ようやく正体を現したな、ウォーズマン」

 

 リング上、マスク狩りを果たしウォーズマンと対面することに成功したケビンは、万感の想いを込めてその名を呼ぶ。

 ウォーズマンはケビン、そして万太郎の顔を順々に眺め言う。

 

「万太郎にケビンよ。超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝戦が終わったあと……オレが去り際におまえたちに言った言葉を覚えているか?」

 

 問われた万太郎とケビンは、当時の記憶を振り返る。

 

「去り際の言葉……」

「ああ、覚えているとも」

 

 ケビンがチャンピオンベルトを腰に巻いたことを確認したクロエは、黙ってその場から立ち去ろうとした。

 しかしケビンが大歓声の中で力尽きたのを見て、ウォーズマンの正体を晒しながらも彼を救いに走ったのである。

 その後、ケビンに“ロビン・ザ・フェイバリット・コンプリート”OLAP編を託し……こう言った。

 

「オレはおまえらの親父たちのように惑星の大王になったり超人学校の校長なんて柄でもない。だが幸いオレはロボ超人で歳はとらない……案外、おまえたちの敵としていつか青コーナーに立っているかもしれないと。そう告げた」

 

 半ば照れ隠しの意味もあったセリフだったが……よもやこんな展開が待ち受けているとは、あのときは想像すらしていなかった。

 

「それが今、なんの因果か20世紀のこの地で現実のものとなった。コーチングの時間はもう終わり……ここからはウォーズマンとして存分に闘わせてもらうぜ!」

 

 ジャキン、とウォーズマンの左拳から鋼鉄の爪――ベア・クローが飛び出す。

 あのときリングから落下したケビンを救うために使った装備が、今度は本来の用途である戦闘に使われようとしていた。

 

『ウォーズマン、ベア・クローを出した――っ! クロス・ボンバーをくらった直後だというのにピンピンしているぞ――っ!』

 

 ウォーズマンが戦闘モードに入っているのを見て取り、万太郎とケビンは頷き合う。

 

「望むところだ!」

「かかってきやがれ!」

 

 偉大なる伝説超人にファイティングポーズを向け、臨戦態勢。

 ウォーズマンもベア・クローで攻め込むべく構えを取ろうとして――しかし何者かに肩をガシッと掴まれた。

 

「待て待てアホタレ。ひとりではしゃぎすぎなんだよおまえは」

「ネプチューンマン」

 

 超人オリンピック・ザ・レザレクションには一切絡めなかった超人、ネプチューンマンは蚊帳の外に置かれた疎外感からかムスッとした態度で言う。

 

「予想外のケビンの残虐殺法、地獄の三重刑からのクロス・ボンバーと、おまえのダメージは確かに蓄積されている。ここはチームリーダーであるオレの顔を立てろ」

 

 おとなげなく感情を表に出しながらも、状況判断は的確だ。

 ウォーズマンにダメージがあるのは事実。

 だからこそベア・クローは一度しまい、ザ・坊っちゃんズに背を向ける。

 

『お――っと新星(ノヴァ)・ネオ・イクスパンションズ、ウォーズマンを下げてネプチューンマンが出るようだ――っ』

 

 相手チームの動きを見て、ザ・坊っちゃんズも戦略を練り直す。

 判断をくだしたのはチームリーダーの万太郎だ。

 

「ネプチューンマンが出るならボクがいく。ケビン、おまえは対ウォーズマンに備えて少しでも休憩しておけ」

「恩に着るぜ万太郎」

 

 ケビンマスクがリングアウトし、万太郎が一歩前に出る。

 

『ザ・坊っちゃんズはケビンが下がり万太郎! ここでチームリーダー対決となった――っ!』

 

 キン肉万太郎vsネプチューンマン。

 ケビンマスクとウォーズマンほどではないが、このふたりにも並々ならぬ因縁がある。

 

「キン肉万太郎……セイウチンはこの大会でおまえと闘うことを望んでいた。決勝までつれてくることは叶わなかったが、イクスパンションズの魂はひとつ。やつの執念も背負い挑ませてもらうぜ」

 

 ネプチューンマンは万太郎のことをアニキと呼び慕っていた相棒の顔を思い出し、意気込みを伝える。

 一回りも二回りも年下の後輩を無碍に扱わず、リスペクトした上で闘いに臨むというのだ。

 

「ネプチューンマン……あんたいいやつだな~~っ」

 

 すでに反省しているとはいえ、セイウチンのことを洗濯超人などと揶揄した過去がある万太郎は素直に感心する。

 ところが、

 

「そしておまえには恨みもある」

「へ?」

 

 ネプチューンマンが途端に鬼の形相になった。

 形が変わらないはずのマスクが歪み、内なる怒りをあらわにする。

 そう、まるで――“宇宙超人タッグ・トーナメント”で超人師弟コンビと対戦した際、ロビンマスクから軽く挑発されただけで「こ……殺せ! 武道よロビンマスクを生かして帰すな!」と激昂したときのようだった。

 

「なんせおまえは“宇宙超人タッグ・トーナメント”でオレと武道を倒したキン肉マンの息子。おまえの親父がいなければ、オレは今頃、完璧(パーフェクト)超人の首領(ドン)として21世紀の超人界を牛耳っていたかもしれねえんだからな~~っ」

 

 怒りの理由は、若かった頃の野望を打ち砕いた万太郎の父キン肉マンへの恨み。

 万太郎自身には特に恨みはない。が、彼がキン肉マンの息子であること自体が罪なのだ。

 

「前言撤回~~っ! おっさんの逆恨みカッコワル~~ッ」

 

 万太郎はへっぴり腰でネプチューンマンの恨み言を非難するが、老人は若者の正論など受け入れないものだ。

 

「逆恨み上等! そろそろいかせてもらうぜ!」

 

 ネプチューンマンはグワッと両腕を掲げながら駆け出した。

 

「し……審判のロックアップか!?」

 

 万太郎は何度も見てきた構えから相手の行動を予測し、対処に移ろうとするが――

 

「いや、おまえの実力はよくわかっている。ゆえに審判は不要!」

 

 ネプチューンマンはそこからさらに構えを変える。

 右腕を下げ、左腕をより高く掲げた。

 

『ネプチューンマン、左腕を上げた――っ』

 

 繰り出すのはもちろん、彼ならではの豪腕ラリアットだ。

 

喧嘩(クォーラル)ボンバ――ッ!」

 

 迫りくる強力必殺技(フェイバリット)に、万太郎は漏らしそうなくらいビビりまくっていた。

 

「ひえ~~っ! お手柔らかに~~っ!」

 

 と、いうのはポーズ。

 カオスの想いを背負って挑む決勝戦において、万太郎に臆病風は吹いてない。

 

「ハッ!」

 

 攻撃が届く寸前、万太郎は上半身を後ろに倒してネプチューンマンの左腕を空振りさせる。

 

『万太郎、ブリッジで喧嘩ボンバーを回避――っ!』

 

 ブンッ!!と空を切る喧嘩ボンバー。

 伝家の宝刀を避けられ、しかしネプチューンマンはなおも走り続けた。

 

『お――っとネプチューンマン止まらない! 勢いのままロープに突っ込み……反動を利用して返ってくるぞ――っ!』

 

 ブリッジ体勢から立て直した万太郎は、戻って来るネプチューンマンに気づいていない。

 実況が騒がしくしたところでようやく気づき、振り返ってぎょっとした。

 

『連続の喧嘩ボンバーで万太郎を狙う――っ!』

 

 反射的に両腕を縦に構え、回避ではなくその場に踏みとどまることを選んだ。

 

「だ……打撃技にはこれだ!」

 

『万太郎、肉のカーテンで待ち構える――っ!』

 

 準決勝でテリー・ザ・キッドのブロンコフィストをも耐えきったキン肉族自慢のガードポジション。

 破壊力抜群の打撃技に対して鉄壁の防御技。大注目の矛盾対決に観客が一気に沸くが、

 

「いかーん! それは悪手だ万太郎――っ!」

 

 唯一、肉のカーテンと喧嘩ボンバーの両方の技をよく知るキン肉マンが判断ミスを訴える。

 そうこうしている間に、ネプチューンマンのボンバーが万太郎を捉えた。

 

「喧嘩ボンバー・リターンズ!」

 

 万太郎はその一撃を盾と化した両腕で受け止め、ガードは崩れない。

 しかし――万太郎の体を支える“足”が衝撃に耐えきれず、強制的にキャンバスから離された。

 

『あ――っとネプチューンマン、返ってきた喧嘩ボンバーで万太郎をガードごと吹っ飛ばした――っ!』

 

 宙を浮き、勢いのまま飛んでいく万太郎。

 その先は四角いリングの隅、コーナーポストだ。

 

『万太郎、背中からコーナーに激突~~っ!』

 

 肉のカーテンで前面は守った。

 だが結果として、万太郎は背中にダメージを負う。

 

「首を狩るつもりで放ったのだが、さすがはキン肉族の至宝、肉のカーテンだ。ガードを壊すことはできなかったか」

 

 喧嘩ボンバーを振り抜いた体勢で、ネプチューンマンがニヤリと笑う。

 

「しかしそれを支える足腰がな……ガードごと吹っ飛ばされては意味がない。下半身のトレーニングをオススメするぜ」

 

 先輩超人として後輩に優しくアドバイスを送るが、聞こえているかどうかは怪しいものだ。

 

「ウウ~」

 

 万太郎はひたすら痛みに耐えているのか、肉のカーテンを構えたまま苦しそうに唸っている。

 

「グフフ……喧嘩ボンバーと肉のカーテンの対決は引き分けといったところだが、被った被害はおまえのほうが大きそうだな~~っ」

 

『ネプチューンマン、座り込む万太郎ににじり寄る――っ』

 

 コーナーで亀のように固まっている万太郎が罠を張っている可能性も否定できない。

 ネプチューンマンが慎重に距離を詰めていく一方で、万太郎はある感慨に耽っていた。

 

「これがネプチューンマンの喧嘩ボンバー……効くなぁ~~っ」

 

 ヘラクレス・ファクトリーの授業でも名前が挙がることが多かった伝説超人ネプチューンマン。

 特に彼の必殺技である喧嘩ボンバーは、超人界でもトップレベルの打撃技と教えられていた。

 

「でもさすがキン肉王族始祖キン肉タツノリ様が遺してくれた肉のカーテン。まだまだ余裕で立ち上がれるぜ――っ」

 

 そんな喧嘩ボンバーを相手に、一族伝来の肉のカーテンが負けていない。

 その事実を嬉しく思い、立ち上がるためのエネルギーにした。

 

『万太郎、立ち上がった――っ!』

 

 万太郎の左腕には、先ほどクロエの仮面を剥ぎ取った感触が残っている。

 そして対峙しているのがネプチューンマンであるというならば、仕掛ける技はこれしかない。

 

「今度はボクのボンバーをくらえ! マッスル・ラリアット――ッ!」

 

 左腕でのリベンジ・ラリアットだ。

 電光石火の一撃は相手に避ける間を与えず、正確にターゲットへと届く。

 

『万太郎の左腕がネプチューンマンの喉元にヒット――ッ!』

 

 決まった――万太郎はそう確信するが、1秒後にそれが錯覚だったと知る。

 

『あああ~~っ! しかしネプチューンマン、微動だにせず! 涼しい顔で万太郎を睥睨している~~っ!』

 

 首にラリアットをくらえば、普通は体が後ろに倒れ仰向けにダウンする。

 なのにネプチューンマンの体は倒れるどころか一切傾かず、ギロリと万太郎を睨みつけた。

 

「これしきでボンバーを名乗ろうなどとは片腹痛い」

 

 首に食い込んでいた万太郎の左腕を掴んで外し、

 

「万太郎、おまえには……人生の先輩としてお仕置きが必要なようだな~~っ」

 

 続けて万太郎の頭部を掴んだ。

 

『ネプチューンマン、万太郎を首相撲に捕らえ……』

 

 相手の頭を掴むことで動きを制限し、密着に近い状態から技を放つ首相撲。

 ネプチューンマンが選んだ技とは――

 

「悪い子だ! 悪い子だ! 悪い子だ!」

 

『超至近距離からヒザ蹴りの連続攻撃だ――っ!』

 

 相手を「悪い子だ!」と叱りつけながらの膝蹴り連打。

 鋭い攻撃の数々が、寸分たがわず万太郎の腹部に吸い込まれていく。

 

「あれはムエタイ式のヒザ蹴り……チャランボ!」

「ガゼルマンの得意技じゃねえか!」

 

 ヘラクレス・ファクトリー出身のジェイドとテリー・ザ・キッドが、タイムワープミッションを辞退した優等生の姿を連想する。

 ネプチューンマンとガゼルマンに接点などないはず……なのになぜ!?

 

「セイウチンの隠れた実力に目をつけた際、主要な新世代超人のスペックはリサーチさせてもらった。無論、その技もだ。どうだ万太郎。お友達の技は痛かろう?」

 

 肉体面だけでなく精神面への攻めも巧みなネプチューンマンは、あえて万太郎と親交の深いガゼルマンの技を使うことで万太郎に屈辱を与えようとしていた。

 経験豊富なネプチューンマンだからこその試合運びに、さすがのキン肉万太郎もてんてこ舞い――とは、ならなかった。

 

「ヌウ……!」

 

 ネプチューンマンの表情が歪む。

 その理由は、先ほどまで痛めつけていた万太郎の腹部にあった。

 

『あ――っと万太郎、ネプチューンマンのヒザ蹴りを両手でキャッチした――っ!』

 

 ネプチューンマンの目論見は外れ、万太郎は冷静にガゼルマンの技に対応していた。

 

「ネプチューンマンのオリジナル技ならともかく、よりにもよってアホ仲間のガゼルマンの技でやられるわけにはいかないよ」

 

 万太郎にとってガゼルマンはヘラクレス・ファクトリーの同期であり、一緒に遊び歩くほどの友人。

 だが対抗心を燃やすライバルでもあるのだ。

 未来に帰って一部始終を話すとき、「実はガゼルマンの技にやられちゃってさ~」などというエピソードがあればどうなるか……あのキザったらしい顔つきが得意満面になるのは想像に易い。

 そんなむかっ腹が立つ未来を避けるべく、万太郎はネプチューンマンを振り払った。

 

『万太郎、首相撲を切り……ネプチューンマンの胴を掴んで前進――っ!』

 

 反撃のタックルは、しかしテイクダウンが目的ではない。

 万太郎の狙いはグラウンド勝負ではなく空中戦だ。

 

『そして抱え上げると同時にジャンプ――ッ! これは~~っ』

 

 抱え上げたネプチューンマンの体をくの字に曲げ、万太郎は次のアクションに備える。

 

「今から繰り出す技は多くの超人を仕留めてきた技だが……多くの超人に破られてきた技でもある! この技を正直にくらうか! それともなんらかの方法で返してくるか! 対戦相手の力量を量るための試金石でもあるんだ――っ!」

 

 ネプチューンマンは万太郎が繰り出そうとしている技の正体に感づき、語調を強める。

 

「てめえ~~っ、まさかこのオレを審判するつもりか~~っ」

 

 万太郎はネプチューンマンの身を頭上まで持ち上げ、一瞬リリースして上下を反転。

 逆さになった相手の両大腿部を両手で掴み、首を肩の上に載せた。

 

「受けてみろ、父上キン肉マンから伝えられし伝家の宝刀……五所蹂躙絡み!」

 

 首、腰骨、背骨、左右の大腿骨の計五箇所を同時に極める――ゆえに五所蹂躙絡み。

 正式名称を知らぬ者など、トーナメント・マウンテンの麓に集いし30万人の中には誰ひとりいないだろう。

 

 この技を見て前のめりになったのは、テリー・ザ・キッドである。

 

「グラビティでもターンオーバーでもない! これは……王道の!」

 

 万太郎がシングルでこの技を使うのはいったいいつ以来か。

 キッドは己に勝利し進んでいったライバルの本領発揮に、人知れずガッツポーズを作った。

 友の視線を受けながら、万太郎が叫ぶ。

 

「またの名を……キン肉バスタ――――ッ!!」

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