ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第098話 ネプチューンマン・リビルド!!

『万太郎のキン肉バスターがキャンバスに着弾! ネプチューンマンの首・背骨・腰骨・左右の大腿骨の五ヶ所を同時に痛めつける、まさしく五所蹂躙絡みだ――っ!』

 

 正義超人界のみならず、20世紀全体を象徴すると言っても過言ではないキン肉マンのフェイバリット・ホールド。

 息子である万太郎が繰り出すそれは、34年の年月を経ることでさらに研鑽されている。

 

「カハッ」

 

 万太郎の肩の上、逆さの開脚姿勢に捉えられていたネプチューンマンが血反吐を吐く。

 確かな手応えを感じ、万太郎は両大腿部を掴んでいた手を離した。

 

『ネプチューンマン、当然の如くダウーン!』

 

 そのまま立ち上がり、倒れ伏すライバルを黙って見下ろす。

 ダウンカウントが始まる中、客席のブロッケンJrがキン肉バスターについて語る。

 

「キン肉バスターはキン肉マンの代表的必殺技(フェイバリット)だが、7人の悪魔超人襲来時にバッファローマンに破られて以降は技を返される機会も増え、いまいちフィニッシュホールドになりきれない印象があった」

 

 ブロッケンの話を受け、未来から来たスカーフェイスとジェイドが続く。

 

「その印象は21世紀でも同様だ。やれ6を9にするだのやれ首のフックが甘いだの、ありとあらゆる対策が考案され、バスター返しがあたりまえになりつつあった」

「有名すぎるがゆえに研究する者も多かった結果だろう。だからこそ、キン肉バスターの派生技も多く生まれたわけだが……」

 

 元祖にして頂点。観戦超人一同はそんなフレーズを頭に思い浮かべた。

 中でもひときわ嬉しそうに笑みを作っていたのは、テリー・ザ・キッドだった。

 

「この万太郎のキン肉バスターは基本に忠実ながら、極限まで完成度を高めている! ネプチューンマンが素直にくらってしまうのも頷ける美しさだ!」

 

 キン肉バスターはまだ万太郎と出会って間もない頃――ヘラクレス・ファクトリーに潜り込んだ悪行超人アナコンダを目の前でKOしてみせた印象深い必殺技。

 そのときの鮮烈な姿をよく覚えているキッドだからこそ、「キン肉バスターはやっぱり強いんだ!」と少年のようにはしゃいでしまうのだ。

 

「…………」

 

 正義超人たちが盛り上がる中で、しかしひとりだけ難しい顔で沈黙している男がいた。

 キン肉バスター本来の使い手であるキン肉マンである。

 

「ヘイ、どうしたキン肉マン。本来ならおまえが一番に沸くべきシーンだろう。万太郎のキン肉バスターに不満でもあるのか?」

 

 怪訝に思ったテリーマンが問うが、キン肉マンは首を横に振る。

 

「不満などないさ。わたしの目から見ても見事なキン肉バスターだ」

 

 万太郎のことを猿真似パクリ野郎などと罵るキン肉マンはもういない。

 万太郎の放ったキン肉バスターは文句のつけようがなかった――が。

 

「だが……見事すぎる。あのネプチューンマン相手に、ああも見事なキン肉バスターが極まるものか?」

 

 そう、いかに万太郎のキン肉バスターの完成度が高かったとしても、相手はあのネプチューンマン。

 フィジカルやテクニックはもちろん、キン肉バスターという技への理解度もずば抜けているはずだ。

 キン肉マンの知る彼ならばありとあらゆる手でキン肉バスターに抗ったはず……だが、今の攻防はその兆候すら感じなかった。

 

「おいおい……ユーはまさか、ネプチューンマンがわざと技をくらったように見えるとでも?」

 

 テリーマンの問いかけに、キン肉マンは答えられない。

 かわりにロビンマスクが話に割って入った。

 

「キン肉マンの抱いた違和感はおそらく正しい。見ろ、万太郎のあの顔を……とても自慢の必殺技を成功させた直後とは思えない戸惑いの色を浮かべている」

 

 ロビンが言うとおり、リング上の万太郎はなぜか困惑している様子だった。

 会心の一撃が炸裂したというのに、あの反応はおかしい。

 いったいその理由はなんなのか――答えが出ないまま、10回目のダウンカウントが刻まれる。

 ハラボテが手に持った木槌でゴングを叩いた。

 

『ここでテンカウント! ゴングが鳴った――っ! “究極の超人タッグ”決勝戦時間無制限三本勝負の一本目は……“ザ・坊っちゃんズ(ヤングマスターズ)”キン肉万太郎がキン肉マンのフェイバリット・オブ・フェイバリット、王道のキン肉バスターで“新星(ノヴァ)・ネオ・イクスパンションズ”ネプチューンマンをKOするという形で先取した――っ!』

 

 ネプチューンマン、まさかのKO負けである。

 決勝戦は三本勝負――試合はまだ続くが、“新星・ネオ・イクスパンションズ”はこれで後がなくなってしまった。

 

『二本目に入る前にここでインターバルの10分が両チームに与えられます!』

 

 トーナメント・マウンテン全域に小休止の時間が告げられた。

 観客にとってはトイレ休憩なども挟める時間だが、ウォーキューブから視線を外す者は誰ひとりいなかった。

 キン肉マンたち同様、リング上の異変を感じ取り目が離せなくなっていたからである。

 

『さあ、見事一本先取した“ザ・坊っちゃんズ”ですが……これはどうしたことだ~~っ? キン肉万太郎、リング上に沈むネプチューンマンを見て呆然と立ち尽くしている――っ』

 

 一本目の勝敗が決しても、ネプチューンマンは倒れたまま起き上がってこない。

 まさか失神しているわけではないだろう。万太郎はそのまま喋り始める。

 

「キン肉バスターの体勢で降下する直前、もしかしたら6を9にするリベンジバスターで返されるんじゃないか。あるいはウォーキューブの天井を利用した(ネオ)キン肉バスターで切り返されるんじゃないか。そんな不安があったけど……いざ降下を始めてみると消し飛んだ。ネプチューンマンから、技を破ろうという意思が一切感じられなくなったからだ」

 

 万太郎が感じた印象は、先ほど麓のほうでテリーマンが言ったことと同じだった。

 

「ネプチューンマン! あんたもしかして、ボクら後進に勝ちを譲るため、わざとキン肉バスターの直撃をくらったんじゃないだろうな――っ!?」

 

 抵抗しようと思えばできたはずなのに、それをしなかった。

 万太郎はその理由を、ネプチューンマンの温情……若手の成長を期待するベテランゆえの心遣いではないかと考えた。

 悪行・時間超人の成敗という使命を果たした今ならば、ネプチューンマンが優勝に固執する理由は薄い。セイウチンを鍛え上げたように、この決勝戦の中で万太郎やケビンを鍛えようとしているのではと。

 それは昔の万太郎なら手放しで喜んだかもしれないが、今はカオスの命がかかっている。譲られた優勝では黄金のトロフィーが引き抜けないかもしれず、もしそんな事態になれば万太郎はネプチューンマンを許すことができない。

 

「クックック……」

 

 万太郎の怒気を孕んだ発言に、ネプチューンマンは苦笑いを浮かべた。

 

『ネプチューンマン、息も絶え絶えな様子でなんとか立ち上がる~~っ』

 

 キン肉バスターのダメージが残る体を奮い立たせ、万太郎の正面に立つ。

 

「買いかぶりすぎだ。オレはそんな優しいおじさんじゃねえよ」

「じゃあ……なぜ」

「嬉しくなっちまったのさ」

 

 万太郎にはネプチューンマンがなにを言っているのかわからなかった。

 

「あの瞬間、キン肉バスターの体勢に捕らえられたことで、ああオレは本当にキン肉マンの息子と試合をしているのだと……感動のあまり気が緩んでしまった」

「はあ~~っ?」

 

 感動して、気が緩んで、だからキン肉バスターの直撃をくらってしまった。

 万太郎でもしないような間抜けなミスを、ネプチューンマンは恥ずかしげもなく告白する。

 

「遠い昔……“夢の超人タッグ戦”でキン肉マン&テリーマンと対戦したときと同じ、トーナメントマウンテンの決勝リングで、今度はキン肉マンの息子やロビンマスクの息子と闘っている。若い頃に戻ったみてえで嬉しくて仕方がないんだよ……オレにこんな千載一遇の機会が訪れるなんて」

 

 親子二代に渡って超人タッグの優勝の座を争うなど、奇跡でも起きなければできぬ経験だ。

 ネプチューンマンはその奇跡を、タイムスリップによるやり直しという形で実現させた。

 

「万太郎。おまえにとっちゃなに言ってんだって感じだろうが、オレは本来なら“世界五大厄(ファイブディザスターズ)”……ライトニングとサンダーのふたりに惨敗していたはずだったんだ」

 

 前回の“究極の超人タッグ戦”でたどった歴史を万太郎に打ち明ける。

 

「な、なに言ってんのさ。あんたは4日前に行われた準決勝でライトニングとサンダーのふたりを相手に見事な勝利を収めたじゃないか」

 

 しかしもちろん、万太郎にはネプチューンマンの言うことが欠片も理解できないようだった。

 だが構わない。ネプチューンマンはなにも許しを請いたいわけではないのだから。

 

「それは本来ならありえなかった歴史。この“究極の超人タッグ戦”は……ある男の献身と、刻の神の数奇ないたずらによってもたらされた、もしもの展開なのさ」

 

 もしもあの対戦の勝敗が逆だったら。

 もしもアイツとアイツが組まずアイツと組んでいたら。

 もしもあのチームがシードだったら、トーナメントの組み合わせが変わっていたら。

 無数に考えられる“もしも”――ifの展開。

 この現実は誰かの都合のいい妄想かもしれない。

 それでもいいさ、とネプチューンマンは開き直る。

 彼にとっては、“今”こそが唯一絶対の現実なのだから。

 

「オレは今、そんなもしもの展開の先にいる。時間超人の討伐、ケビンマスクの救命……果たすべき仕事は果たした。あとは黄金のトロフィーを引き抜くために好勝負を演じるだけ……最終的な覇者となるのはおまえたち“ザ・坊っちゃんズ”でいい。心のどこかではそんなふうに思っていた」

 

 後進に譲る――いかにも大ベテランの先輩超人っぽくて格好いいではないか。

“究極の超人タッグ戦”決勝という輝かしい舞台をネプチューンマンの引退試合にする。

 それもいい……それもいいか?

 いいや、よくない。

 

「だがここにきて自覚したぜ。オレは……イチバンになりたいのだと」

 

 ネプチューンマンが試合前や試合後によく唱えていた言葉――ナンバーワン。

 思えば彼はまだその称号を正式に勝ち取ったことがない。

 50年以上も現役にしがみつき、ただの一度もだ。

 

完璧(パーフェクト)超人の再興! トロフィー球根(バルブ)の入手! 大恩人への恩返し! そんなお題目はどうでもいい! オレはただ、純粋におまえらに勝って超人界最強の……イチバンの栄光を掴みたいんだ~~っ!」

 

 ネプチューンマンは心のままに叫んだ。

 勝者になりたい。

 最強の称号が欲しい。

 勝ちを譲るなど一瞬の気の迷いだと、己を見つめ直すための述懐だった。

 

「ネプチューンマン、おまえ……」

「あれが……ネプチューンマンの本音か」

 

 老兵の叫びは、リングの外にいたウォーズマンとケビンマスクにも届いた。

 もちろんトーナメント・マウンテンの麓に集いし他のライバルたちにも。

 そして、今ネプチューンマンの目の前にいるキン肉万太郎は――

 

「ネプチューンマン。知ってのとおり、ボクはキン肉星第58代大王キン肉スグルの息子だ」

 

 その肩書きを口にすることで気高き風格をまとい、言葉を紡ぐ。

 

「王子様だからね。ヘラクレス・ファクトリーに入れられる前は、大王妃ビビンバ……母上の厳しい教育で、その肩書きに足る礼節を身に着けさせられた。だからなのかな。ボクにはどこか、あなたを偉大な伝説超人(レジェンド)のひとりとして敬う気持ちがあったのだと思う」

 

 麓のほうでスカーとジェイドが「そんなのあったか……?」「さ、さあ……」と囁き合っていたが、リング上のふたりには聞こえない。

 万太郎は続ける。

 

「でも、その本心を聞けた今、そんなつまらない遠慮はなくなったよ。あなたは伝説超人である前に、同じリングに立つひとりの超人。そこにいるケビンや……セイウチンとなんら変わらない、ボクのライバルなんだって心から理解したから」

 

 普段の万太郎に敬意があったかどうかはともかく、ネプチューンマンは彼の言葉に感激していた。

 

「こ、こんなロートルのオレをライバルと……それに、おまえがあれだけ見下していたセイウチンのことも……ライバルと認めてくれるっていうのか?」

 

 万太郎は目を瞑り、ここに来れなかった弟分のことを――セイウチンのことを思い浮かべる。

 彼の想いはネプチューンマンが受け継いでいる。ならば相手にとって不足などない。

 カッと目を見開き、返答としてこの言葉を口にする。

 

「へのつっぱりはいらんですよ!」

 

 言葉の意味はわからんがとにかくすごい自信だ――ネプチューンマンはそう感じずにはいられなかった。

 

「あいつめ」

 

 自分がよく口にするフレーズを勝手に真似され、キン肉マンはひっそりと笑んだ。

 

「立ち上がったのなら一度戻れ、ネプチューンマン」

 

 話の切りがよくなったところで、ウォーズマンがネプチューンマンを呼び戻す。

 現在はインターバル中。10分という限られた時間は体力回復と作戦立案に努めるべきだ。

 ネプチューンマンは万太郎に背を向け、自陣へと帰還する。

 

「悪い、ウォーズマン。くだらないおっさんの感傷で貴重な一本目を奪われちまった」

 

 頭を下げるネプチューンマンに、ウォーズマンは呆れた様相で返す。

 

「まったくだ。おまえは事あるごとにおっさんおっさんと自分を卑下してばかり……スカーにロートル扱いされて怒れる立場にないぞ」

「ウウ……」

 

 ネプチューンマンも自覚があるのか、まるで叱られた子供のように肩を竦めた。

 

「なんてな」

 

 ちょいワルオヤジの貴重な姿を見られたことで、ウォーズマンはフッと笑う。

 

「タッグ結成の際にも言ったが、オレだっておっさんだ。おまえの気持ちは伝わったさ……二本目、取り返そうぜ」

「ウォーズ……」

 

 パートナーの失態を咎めるつもりなど、ウォーズマンには初めからない。

 ここにいるのは時空船に密航するなどという身勝手を働いたおっさんコンビ。

 どちらかがどちらかを偉く言える立場ではない……ふたりは一蓮托生だ。

 

『二本目開始ゴングまであと1分! あと1分!』

 

 インターバル終了間近のアナウンスが響き、“新星・ネオ・イクスパンションズ”と“ザ・坊っちゃんズ”の両チームが準備を整える。

 双方、次の作戦は決定した。

 新星・ネオ・イクスパンションズは先取された一本を取り戻すため、ザ・坊っちゃんズは二本目を取りストレート勝ちを決めるため、闘志を滾らせる。

 

『さあタッグルールでは二本目先発超人レスラーは一本目が終わるときにリングで闘っていた超人に権利があります! “ザ・坊っちゃんズ”はキン肉万太郎! そして“新星・ネオ・イクスパンションズ”は当然一本目で取られたネプチューンマンが先発となります!』

 

 ネプチューンマンにはさっそくリベンジの機会が訪れる。

 だがキン肉バスターでKOされたということは、五箇所の骨に大打撃を受けたということ。

 そのダメージは10分程度で完全回復できるものではなく、だからこそ万太郎はゴングが鳴ると同時に駆け出した。

 

「よっしゃあ! このいい流れのままいったるぜ――っ!」

 

『万太郎、キン肉バスターのダメージが残るネプチューンマンへ再びラリアットの構えだ――っ!』

 

 これみよがしに掲げた左腕を、大振りでネプチューンマンの首元へ持っていく。

 

「くらえネプさん! マンタロー・ボンバー!」

 

 一本目のときは微動だにせずこれを受け止めてみせたネプチューンマンだったが――

 

『あ――っとネプチューンマン、今度は吹っ飛んだ――っ!』

 

 やはりキン肉バスターを受けたダメージが大きいのか、盛大にぶっ飛ばされてしまう。

 背中でキャンバスの上を滑り、さっそくのダウン展開となった。

 

「グググ~~ッ」

 

 だが啖呵を切った手前、いきなり情けない姿を晒すことはできない。

 ネプチューンマンは表情に苦痛をにじませながらも立ち上がる。

 

「ダメ押しでもう一撃いくぜ――っ!」

 

 万太郎は追撃のラリアットを放ちにいく。

 一方のネプチューンマンは正面を向いたまま、しかし右腕を後ろに伸ばしていた。

 その手にウォーズマンの手が触れる。

 

「好き放題にはやらせないぜ、万太郎!」

 

 言いながら、ウォーズマンがロープを潜ってリングイン。

 二本目の開始直後、パートナーと交代するためにはまず対戦相手の体に触れなければならない。

 ネプチューンマンの狙いは最初からこの条件を満たすこと――調子づいている万太郎の相手はウォーズマンに任せようと考えていた。

 

「トタラァ――ッ!」

 

 ウォーズマンは掛け声と共に跳び、両足を突き出した。

 ラリアットで突っ込んでいった万太郎はそれを正面からくらってしまう。

 

『ウォーズマンのドロップキックが万太郎を跳ね除ける――っ!』

 

 ぶっ飛ばされるも、受け身を取ってダウンを拒否。

 

「こ、ここでウォーズマンか~~っ」

 

 体勢を立て直しながら戦闘モードを対ネプチューンマンから対ウォーズマンに切り替えるが――目の前にいたはずのウォーズマンがいない。

 視界にいるのはニヤリとした笑みを浮かべるネプチューンマン。しかし彼はロープの向こう側だ。

 ウォーズマンはどこに――と考えた、一瞬の隙。

 悪寒は背後から来た。

 万太郎の両大腿部にウォーズマンの両足が差し込まれ、両腕が掴まれ上方向に引っ張られる。

 腰に感じる重量が、背中にウォーズマンが乗っていることを確信させた。

 

「パロ・スペシャル――ッ!」

 

『ネプチューンマンに代わり出てきたウォーズマン、電光石火の仕掛けで万太郎にパロ・スペシャルを極めた――っ!』

 

 ウォーズマンに背後を取られるということは、彼のフェイバリット・ホールドであるパロ・スペシャルを許すということ。

 万太郎は己のやらかしを自覚し、技から脱しようともがくが……両脚も両腕もセメント漬けにされたように動かなかった。

 パロ・スペシャルを成功させたウォーズマンが嬉々として喋り始める。

 

「イチバンの栄光が欲しい……結構じゃないか! なにを隠そう、このオレも栄光とやらには縁遠い男! 超人オリンピックではあと一歩というところで敗れ……宇宙超人タッグ・トーナメントでは一回戦敗退! キン肉星王位争奪サバイバルマッチではキン肉マンチームの一員として優勝の手助けこそしたが、途中離脱してしまいその瞬間には立ち会えなかった! ネプチューンマン! おまえの気持ちは痛いほどよくわかるぜ~~っ!」

 

 ウォーズマンの実力は誰もが認めるところだが、彼の人生はトロフィーやベルトに恵まれなかった。

 しかしこの試合に勝利すれば、ネプチューンマンと共にイチバンの栄光を掴み取れる!

 パロ・スペシャルをかける腕にも力がこもるというものだ。

 

「ウォーズマン、テメー! このケビンマスクを超人オリンピックのチャンピオンに導いたという栄光では不満か!?」

 

 ウォーズマンの21世紀での実績を誇らしく思っているケビンはこの物言いに納得できず、言葉を荒くした。

 無礼な弟子に、師匠は真っ向から言い返す。

 

「不満だな! その栄光は他でもないおまえ自身のもの! オレはオレの手で、オレ自身の栄光を掴み取ってみせる! ネプチューンマンと共にこの“究極の超人タッグ戦”を優勝するという形でな――っ!」

 

 正義超人の中では寡黙な印象のあるウォーズマンが、はっきりと野望を口にする。

 トーナメント・マウンテンに集った古参ウォーズマンファンは胸がじ~んとするのを感じた。

 

「そのためにはまず万太郎! おまえの親父が自力では抜け出すことができなかったパロ・スペシャルで……冷たいキャンバスの上に沈んでもらう! 思い出せ! かつてケビンのOLAPに成すすべもなくやられた忌まわしき記憶を――っ!」

 

 パロ・スペシャルは二回戦でキン肉マンがKOされた技。

 そしてパロ・スペシャルの兄弟とも言える技、OLAPは万太郎に初黒星を与えることとなった屈辱的必殺技だ。

 両腕が捻じ折れそうな痛みはどちらも共通している。

 

「アガガガ~~ッ!」

 

 万太郎は苦痛を隠すこともできず、表情と声で絶体絶命を表した。

 ウォーズマンが見せたまさかの主張に、伝説超人の中では若輩であるブロッケンJrがオイオイと頭を振る。

 

「この会場にいる全超人の中で最も高齢であろうふたりが……いくらなんでもおとなげなさすぎんだろ!」

 

 ブロッケンJrとしては、後進に席を譲れとまでは言わないがもう少し年齢に見合った態度を取ってほしかった。

 そんな彼の意見を否定したのが、ブタ鼻のこの男。

 

「そうか? わたしはむしろ、あのふたりに親近感がわいた」

「キ……キン肉マン!」

 

 ブロッケンJrとは対照的に、キン肉マンはネプチューンマンとウォーズマンの主張に感銘を受けていた。

 傍らに立つテリーマンとロビンマスクに言う。

 

「のうテリーにロビンよ。わたしは立場的には万太郎を応援するべきなのだろうが……もうこの際どんなふうに思われても構わんから言わせてもらうぜ」

 

 すぅっと息を吸い込み、高い位置にあるウォーキューブまで届けようと声を絞り出す。

 

「まだ生まれてもいない未来の息子より、わたしは勝利を渇望する友達を応援してやりたい! 親になってもいないのに親の気持ちなんて知るかぁ! がんばれウォーズマン! ネプチューンマン!」

 

 キン肉マンは万太郎たち新世代超人(ニュージェネレーション)のことをとっくに認めている。

 それを踏まえた上で、ウォーズマンとネプチューンマンのふたりに声援を送るのだ。

 テリーとロビンは親友の気持ちを理解し、各々の考えのもと同じように声を張り上げる。

 

「ミーも前大会でネプチューンマンと激闘を演じた身! ここはイクスパンションズを応援させてもらうぜ!」

「ならば私はザ・坊っちゃんズだ! ケビンよ! ロビン王朝(ダイナスティ)を継ぐ者としての意地を見せてみろ!」

 

 盛り上がる伝説超人たちを見て、新世代超人の面々も黙ってはいられない。

 スカーフェイスとジェイドのふたりも負けじと声を張った。

 

「ネプチューンマンにはオレたちがリベンジを果たすまで負けてもらっちゃ困るが……新世代超人が軒並みやつに負けるのもおもしろくねえ!」

「万太郎! いやあえて万太郎先輩! おまえには新世代超人だけでなく、ヘラクレス・ファクトリーの威信もかけて勝ってもらうぜ!」

 

 正義超人たちがそれぞれ贔屓の超人に声援を送っている。

 自分たちも負けていられない、応援だったら自分たちの領分だ――と30万人以上の超人レスリングファンが後に続いた。

 

「マンターロ! マンターロ!」

「ウォーズマン! ウォーズマン!」

「ケービーン! ケービーン!」

「ネプチューンマン! ネプチューンマン!」

 

『トーナメント・マウンテン周辺はボルテージMAX! 観客による大声援がリングで闘う4人の超人を鼓舞し、それぞれの勝利を願う――っ!』

 

 二本目が始まって早々に開かれた、大応援合戦。

 なにも知らない富士山の登山者たちが驚いてしまいそうなほどの声量だった。

 テリー・ザ・キッドは涙ぐむ両目を擦り、言う。

 

「へへ……みんなアドレナリン全開じゃねえか」

 

 自身は万太郎とケビンの名をコールしながら、周囲の盛り上がりを我が事のように嬉しく思った。

 

「盛り上がってますけど、万太郎さんは絶賛大ピンチ中ですよ!」

 

 途中、ふと我に返ったミートくんがリング内の現状を伝える。

 そう、万太郎はさっきからずっとパロ・スペシャルの破壊力に抗い続けているのだ。

 

「グウ~~ッ、これがウォーズマンのパロ・スペシャル。ケビンのOLAPに勝るとも劣らない究極のサブミッションだ……父上が自力で技を外せなかったのも納得だよ」

 

 万太郎は麓から聞こえてくる応援の声を糧に、なんとかKOを免れていた。

 しかし崩れるのも時間の問題だろう。

 技の掛け手であるウォーズマンはそう読み、ギブアップを問いかける。

 

「フフフ……観念したか?」

「まさか。耐久年数が過ぎてさっき自分がOLAPくらったときのことを忘れたのかい?」

 

 苦しそうな表情や声とは裏腹に、万太郎の言葉は強い。

 なぜならば、彼には頼れる相棒いるのだから。

 

「ちと荒っぽくいくぜ、万太郎」

 

 ザ・坊っちゃんズの片翼――ケビンマスクがトップロープに立つ。

 OLAPにかけられたクロエをネプチューンマンがジャンピング・ニーパットで救出したように。

 ケビンはリング上のウォーズマンめがけて大きく跳躍した。

 

「超人ロケット――ッ!」

 

『ケビンマスク、ロープの反動を利用した突貫技でパロ・スペシャルをぶっ壊した――っ!』

 

 この宇宙超人タッグ・トーナメントの時代、ロビンマスクやウォーズマンが愛用したヘッドダイブ。

 ケビンマスクは父と師匠の名残がある技で、見事パートナーの窮地を救ってみせた。

 

「これはタッグマッチだ! どんなに完璧な技もパートナーの助けがあればたちまち崩壊してしまう!」

「そしてタッグとしてのチームワークならボクとケビンに一日の長がある! それを教えてやるぜ!」

 

 ウォーズマンが怯んでいる隙を突き、ケビンと万太郎が新たなセットアップに入る。

 ウォーズマンの体をふたりで逆さに抱え上げ、それぞれ左右で分担した。

 右足をケビンが、左足を万太郎が掴んで固定し、ふたりで組んだ肩に首を載せる。

 

『ザ・坊っちゃんズ、ウォーズマンをダブルのキン肉バスターに捕らえたまま上昇――っ!』

 

 準決勝では万太郎とカオスが“Wキン肉バスター”の名で仕掛けたツープラトン。

 同様の技は“夢の超人タッグ戦”でもキン肉マン&テリーマンのザ・マシンガンズが使用しており、その際はこの名で呼ばれていた――

 

「バスター・バリエーションPART5!!」

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