黒羊と炉心溶融の円舞曲   作:アベルシアロン

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青い珊瑚礁の輝き

「いやあ、融くん。絶景だね〜」

 

羊くんが女性だらけの店内を見て、にっこりと笑った。

 

僕達は今、巷で噂のパティスリーに来ていた。店内はキラキラと輝いて女子高生に受けそうな装飾だ。勿論、イートインも充実している。可愛らしいテーブルが並べられている。

このパティスリーはチーズケーキが丁度良い甘さで美味しいと有名だ。僕としては山盛りのパフェの方に興味があったのだけれども。

開店前から並んでいたけど、長い列が出来ていて少し待つ事になった。羊くんと話していれば待ち時間も直ぐに過ぎて、テーブルへ案内される。

椅子に座って、メニューを開く。様々なケーキの名前が写真と共に並べられていた。特に興味が唆られる物はなかったので、パフェのページへ飛ぶ。五種類の果物をふんだんに使ったパフェが乗っていた。いちご、ぶどう、メロン、りんご、マンゴー。どれも美味しそうだ。

 

「おねーさーん。注文良いかな?」

 

羊くんはにこやかに笑って店員を呼び止めた。店員は少し固まってからこちらへと歩いてきた。緊張しているのが窺える。

 

「俺、ぶどう山盛りまんまる満月パフェで、」

 

羊くんが僕に視線を寄越す。僕はりんごのパフェを指差した。

 

「融くんが常夏のりんごバケーションパフェで」

「か、かしこまりました!ぶどうのパフェとりんごのパフェですね!」

 

店員は走っていなくなった。今頃バックヤードで顔を赤くしているんだろう。

羊くんは僕が言うのも何だが、イケメンに分類される顔である。それにコミュ力がくっついていればモテるのも当たり前だ。羊くん自身は余り好んでいないようだったけど。羊くん曰く本気になった人間ほど怖い物はないらしい。

 

「楽しみだね〜。そう言えば、甘い物だけを食べるなんて久しぶりだよな。いっつも酒のついでに摘んでるぐらいだもんね」

 

羊くんが上機嫌で言葉を並べていく。久しぶりの休みに僕の心も少し浮足立っている。仕事を詰め込んで、無理にでも上司を言いくるめて、休みを取った甲斐があった。

店員が目を輝かせながらパフェを運んできた。羊くんの前にぶどう山盛りまんまる満月パフェを、僕の前に常夏のりんごバケーションパフェを丁寧に置いた。羊くんが明るく笑ってお礼を言った。店員の声が気持ち上擦っている。

僕は何も言わずパフェを口に含んだ。

羊くんが不快に思わなければ僕に被害が来る事は相当な事がない限り一切ない。よって、僕が気にする必要も欠片一つない。

口の中でとろけるホイップクリームが濃厚なミルクの味をしっかりと舌に残して行った。

美味しい。やっぱり、見立て通りだった。

 

「うん。ホント、美味しいね〜。あ、これウサギちゃんかな?満月クッキーの上乗ってるのカワイ〜」

 

羊くんは砂糖菓子のウサギを容赦なく口の中に入れた。甘過ぎたようで、その後直ぐにクッキーを口に放り込んでいたけど。

 

「やっぱ、飲み物必要かな。ちょっとそこのおねーさん。トロピカル珊瑚礁サイダー二つお願いできる?」

 

ハッキリと返事をした店員はしっかりと注文を確認していなくなった。彼女はイケメンを気にしない事ができる人材か。でも、じっと見ていたし、野次馬根性はあったらしい。なんか、逞しいな。

 

「融くんもご機嫌だね〜」

「この前、寝たフリして女の子の相手を僕に任せた癖に、良く言う」

「はは、そんだけ喋れりゃ、ご機嫌でしょ」

 

羊くんはパフェに乗っていた、皮をむかれて黄色になった巨峰をクリームごと僕の口に押し込んだ。

巨峰自体の味をクリームが邪魔してる訳でもなく、かと言って味が分離している訳でもない。クリームが程良い重さで舌に乗って溶けた。巨峰の果汁が溶けたクリームに絡まって一等良さを引き出している。

要するに美味しい。つい、顔が綻んでしまう。

 

「あ、ありがとね〜」

 

羊くんがサイダーを運んできた店員に笑顔で手を振った。

ころころ変わる上機嫌な羊くんのファンサについていけなくなった僕は諦めて黙々とパフェを口に運ぶ。

羊くんがぐいぐいとサイダーを僕の方へ押し付けてくる。無視してパフェを食べていれば、諦めて自分のパフェを食べ始めた。

サイダーが窓から入ってくる陽の光に照らされて青色の海面のように輝いた。

サイダーを手に取ってストローを咥え、パティスリーを目立たせている大きな窓へ目を向けた。

大きな雲が地平線に揺られている。残りを埋める深い空の青がサイダーの青に反射して上に乗っていた安っぽい砂糖漬けのチェリーを玲瓏とさせた。

途端に響き渡る悲鳴。後ろを振り返ると真後ろの席で人が倒れていた。

 

「あちゃー、不味いねぇ」

 

羊くんが言葉に似合わない真剣な声色で呟く。僕の側に寄って、すぐにその場から立って現場から離れた。僕を人混みに紛れ込ませると現場に近付かないようにと声を掛けていた。先程、女の子が110番に連絡していたから僕がやる事も特にない。

羊くんが一息ついているのを見ていると、足元を小学生くらいの男の子がすり抜けて行った。

 

 

―――

 

コナンが事件現場を見ていると紫色のパーカーの人が近寄ってきた。この店には珍しい男性の客だ。しかも、イケメン。煙草の臭いが軽く残っている。喫煙者なのだろうか。

それにしても、どこかで知っている臭いな気がする。何の銘柄だろうか。

 

「あんたさぁ、俺が離れろってんの。警察待っててよ。無駄に触らない方が良いし」

 

へらりと笑い、しゃがんでコナンと同じ目線になると有無を言わせない笑顔で、な?と後ろを指差した。

男性は確かに先程から人を現場から遠ざけていた。

コナンは大人しく後ろに下がった。余りにも正論で対抗する術を持たなかったからだ。

 

「早く警察来ないかな〜」

 

男性は連れの男性の方へ戻って行った。男性客が珍しいのか女性客は男性達を避けて待機していた。

 

佐藤刑事達は直ぐに到着した。このパティスリーが警視庁から大して遠くなかった為だ。

佐藤刑事はコナンを見つけると、またいるのねとため息をついた。そこに嫌悪は宿っておらず多少の心配が窺えた。

先程の男性の笑顔が怖く見えた所為なのか普段は考えないような事を考えてしまっている。コナンが怖く見える笑顔なんて早々ある訳がない。コナンは男性へ警戒を強めた。

しかし、佐藤刑事達が来てからというもの、コナンが自由に現場捜索しようと止める事はなかった。完全に警察に委ねているのだろうか。

コナンが現場の証言を集める為に女性の一人に話を聞いていた時、疑われているような事情聴取に苛立ちを覚えたらしい。話を聞いていた女性がこの場に二人しかいなかった男性達を指差して、甲高い声で理不尽に毀謗したのだ。

青色のパーカーの男性、初谷融来と言うらしい。その前に先程の紫色のパーカーの男性。彼は藤木羊と言う。彼が守るように立ちはだかった。初谷は俯いて藤木のパーカーの裾を掴んでいた。

 

「なんて言ったの?もう一回聞かせて?」

 

藤木が明るくへらりと笑いながら初谷の頭を撫でて言う。顔を上げた初谷は心底面倒くさそうな顔で目を逸らしていた。

そこからは藤木の独壇場だった。

ひらひらと舞い踊る言葉の数々。反論の隙も与えない流麗な音の並び。嘘は言っていないが、真実も少ししか散りばめられていない。

コナンは理解しているにも関わらずその言葉に飲まれそうになっている事を自覚して恐怖を覚えた。

 

「じゃあ、捜査の邪魔になるだろうし、ここまで」

 

話を切り上げた藤木は満足そうに初谷を連れて捌けていった。

コナンは二人を追って話しかけた。

 

「お兄さん!さっきのお話すごかったね!どうやってやったの?」

 

藤木はコナンと同じ高さにしゃがんでにっこりと笑うと人差し指を上げて頬にくっつけた。あざといけれど、良く似合う仕草だった。

 

「うーん。君が真似するには難しいかもだけど、コツぐらいなら教えてあげられるよ。よく聞いときな?」

 

少し悩むようなポーズをしてニヤリと笑う。

 

「先ずは、相手を見てどんなタイプか見極める。主に言葉で行けるタイプ、行動に目が行くタイプ、どっちでも大丈夫なチョロいタイプ」

 

藤木は指を三本立てた。

 

「基本的には言葉で行けるし、チョロいから気にしなくていいよ。ある程度行けば、性格の相性みたいな所あるしね」

 

手をひらひらと振るとぴょっと肩をすくめた。

 

「次に、相手が何を言いたいか理解する。これで掴みから自分が持っていきたい所までのパスを繋ぐ。ここがちゃんと考えられれば後はもう簡単。自分が思った通りの行動を、自分が寸分違わずやるだけ」

 

うん。全然分からなかった。いや、理屈としては分かるけど、実行できるかとはまた別だよな。

 

「お兄さん、天才なの?」

「天才?違う、違う。こんなの努力すれば誰でもできるようになるって」

 

天才は皆揃ってそう言う事を言うんだ。無理だろ。

藤木からふわりと香る煙草の臭い。とても独特な、好みが分かれるような。

 

……ゴロワーズ?

辿り着いてしまえばそれにしか思えなかった。ゴロワーズなんて珍しい物を吸っているのはアイツぐらいしか思いつかない。もしかして、藤木も、

 

「でも、お兄さんすごいから、お仕事でも活躍してそう!」

「あー。プライベートで仕事の話されるのあんまり好きじゃないんだけど……。まあ、上司のサポートは得意かな」

 

反応はいまひとつ。クロかシロか難しい所だな。

 

「お話ありがとう!」

「いーえ。気にすんなよ」

 

その後、証拠と犯人を見つけ、無事に事件は解決した。

犯人が連行される時、少しの視線を感じて後ろを振り向いた。すると、ウインクをする紫色のパーカーの男性とその後ろで酷く不安げにこちらを見つめる青色のパーカーの男性がいた。

紫色のパーカーの男性は一瞬だけ剣呑に目を光らせ、青色のパーカーの男性を連れていなくなった。

 

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