下腹部に感じる暖かな心地よい感覚で目が覚める。この感覚には覚えがある。桃坂先生の治癒魔術だ。
「……! やっと目を覚ましたか、神童」
「……だから、その呼び方やめてくださいってグフゴホッ」
「あーはいはい、まだ治りかけなんだから喋らないの」
いつものやり取りをしようとした所でむせてしまう。うわっ、吐血してる。どうやら寝ている間に呼吸器系に血が溜まっていたらしい。
桃坂先生が布巾で俺の吐いた血を拭くのを申し訳なく思いながら眺める。
「それで、身体の調子はどう? 何か違和感は無い?」
「……この流れで喋らせるんですか。俺、吐血してるんですけど」
「君の身体の治癒能力見てたら心配も失せるよ。現代医療なら即死、治癒魔術使っても二、三日の延命が精々の大怪我を完治させてるんだから」
そんなに大きな怪我だったのか。そういえば、テンションが上がりすぎて必要以上にテンちゃんに対価を渡してしまった記憶がある。
無駄に心配をかけてしまい申し訳ない。
「体に住ませてる身体修復触手のおかげですね。……というか、治癒魔術使っても延命が精一杯というのは
俺は身体修復触手を使役している。
元々は
この身体修復触手では内臓や神経などの複雑で繊細な部分の修復はできないが、骨や筋肉、脂肪、血液程度ならすぐに治せる優れものだ。体は触手でできていた、というのもあながち嘘ではない。
「……まあね。とはいえ流石にたったの三日で完治とはいかないさ。というか多分完治は無理」
「三日も寝てたんですか」
流石に想定外すぎて驚く。そんな大怪我だったのか。
よく見れば、化粧で誤魔化しているものの先生の目の下には隈があった。俺の目が覚めた時も治癒魔術を使っていたし、恐らく文字通り寝る間を惜しんで俺の治療をしてくれていたのだろう。頭が下がる。
にしても三日か。前に対価として両腕を捧げた時でも一日程度で治ったのに……どうやら予想以上に酷い怪我だったらしい。
「逆にたったの三日で治ったのが異常だよ。生命維持に必要なもの含め臓器を殆ど持ってかれてたし、骨も肉も皮も穴ぼこだらけ。逆になんで生きてるのか不思議な状態なのに、中で蠢く触手によってひとりでに肉体が修復されていくのが不気味だったよ」
「不気味……」
こんなに可愛いのに?
「うわあっ急に口から触手を出すな! びっくりするだろ!」
「まあ、桃坂先生には分からないか……」
「おいそのムカつく顔をやめろ。私にセンスがないんじゃなくて君がマイノリティなだけだからな」
やはり桃坂先生とは話が弾む。リュウマや深穂ほど純粋無垢でなく、一般操魔師ほど倫理観が酷くない、丁度いい塩梅だから良いのだろう。弄りがいがあるし、弄っても罪悪感がない。俺と気が合うと言い換えてもいいかもしれない。
「はぁ、何にせよ君が元気そうでよかったよ。君の友人二人も散々心配していたからね。この後、放課後になったらいつも通りお見舞いに来るだろうから、その時に感謝しとくんだよ。二人も看護を手伝ってくれたからね」
「そうですか……そうですよね。本当、色々とありがとうございました」
「私はいいんだよ。報酬貰ってるからね」
桃坂先生はそう言って保健室の隅の方を見た。そこには、専用の植木鉢に入った感覚遮断触手くんがいた。しっかり先生から
なんだ、不気味なんて言いつつしっかり可愛がってるじゃないか。
「にしても、古木くんはともかく霊川さんの方は相当取り乱してたよ。それこそ、勉強も訓練も身につかないぐらいだった」
「あー……そうですか。彼女にも心配をかけましたね」
うーん、深穂かぁ……。
正直、自意識過剰かもしれないけど、彼女は俺のことを好いている気がする。それが友愛か恋愛か尊敬かは分からないけど、とにかく好意を感じるのだ。
例えば、毎日のように俺の分のお弁当まで作ってきてくれたり、ことある事に抱きついたり手を繋いだりのスキンシップをしてきたり、用事がない日に二人きりでお出かけのお誘いをしてきたり。
確証は持てないが、俺が想定していた以上に好意を向けられている気がする。
ただ、それだと困る。
リュウマとくっつかないと魔物を封じ込める時に困る、というのもあるが、そもそもそれ以前の話として、俺と彼女が恋仲になるというのはよろしくない。
だって俺中身おっさんだし……。着ぐるみを着た状態で子供から「大好き」と言われても困るのだ。それで着ぐるみの中からハゲデブのおっさんが出てきたら、子供は夢を壊され泣いてしまうだろう。
いやまあ、こんな心配杞憂に終わるかもしれないけどね。たぶん、自意識過剰だ。
ただ、万が一、彼女が本気で俺に、山田契に恋心を抱いているのなら、俺は包み隠さずに全てを打ち明けるべきだ。俺に前世の二十年以上の記憶があって、その半ばズルのようなアドバンテージで今まで有利に生きてきたことと、俺が今まで操魔師として行ってきたとても表には出せないような事柄を。
とはいえ、正直今回の一件で俺はかなり幻滅されただろう。今でこそ俺は触手達もテンちゃんも大好きだし可愛いと思うけど、もし俺が前世でテンちゃんや触手達を見たら腰を抜かして助けを呼ぶだろう。
少なくとも前世の俺なら、触手・陵辱・退廃の神様と仲良くやってるような人間と関わりたくない。それぐらいの厄ネタだ。
それも、彼女は目の前で阿九寺ちゃんがぶち犯されるのを目撃しているのだ。それを見れば、きっと百年の恋も冷めるだろう。
そんなことを考えていたら、勢いよく保健室の扉が開かれた。
噂をすれば影。現れたのは件の深穂とリュウマだった。
「「契!!!」」
「あはは、おはよう二人とも。……あれ、まだ放課後じゃないよね?」
「ええ、魔力探知で契が起きたことが分かったから飛んできたの!」
「俺も! 俺も分かったぞ契!」
「ふふっ、ありがとう。二人とも中々魔力探知が上手くなったね。でも授業を抜け出すのはよくないよ」
「授業なんて、契に会うことに比べたら大事なものか!」
「そうよ!」
相変わらず元気な二人に安堵と癒しを覚える。にしても、案外二人に引かれていないらしい。
「大事はないんですね、先生?」
「ああ。むしろ異常なくらい健康そのものだ。医者の私もドン引きするくらい健康さ」
「よかった……契、お前無茶しすぎだろ! 心配したんだからな!」
「……ごめん」
とはいえ、今回ばかりは俺が悪くてリュウマの心配が正しいので謝るしかできない。ドジって対価を多めに支払ったのは俺の落ち度だ。
「契が無事でよかった……。ほんと、心配したのよ……?」
「ごめん」
なんか思ったより心配してくれてるな……。普通、ウキウキで「死んだ!? うっひょー
……いやよく考えたら普通はそうならないわ。クソ、操魔師の倫理観に染まりかけてやがる。主人公陣営の倫理観で浄化しないと……。
「にしても契! あれ、凄かったぞ触手のやつ! あんな隠し球があったとは……」
「触手のやつ……ああ、テンちゃんのことね。まあ隠し球というか、この通り代償が大きすぎて中々使えない奥の手って感じかな」
テンちゃんは神様だ。だから当然、俺の体を対価にした所で召喚なんてできない。魔術的価値が釣り合わないからだ。
ではなぜあの時召喚できたかというと、あれは
つまり、「テンちゃん、今から吸血鬼陵辱するけど来ない?」「マジ!? 行く行く!」みたいな。あくまで俺は提案をして、テンちゃんがそれに乗っただけ、という形の召喚だ。
そして、対価として支払った俺の体はあくまで交通費みたいなものだ。神様という大きすぎる存在がこの世に顕現する際に、最低限必要となる贄。それが俺の体だった。
まあそんなわけで、交通費の支払いだけで死にかけるような上位存在をそうポンポン気軽に呼べるわけがないのだ。
「あれって神様よね? 契って神様と契約してたの……?」
「まあ、そういうことになるね」
「なんだ、知らなかったのか。操魔師の間ではコイツはそれで有名なんだよ。神と対等契約を結んだから、神童なんて異名で呼ばれてる」
うっ。恥ずかしいから隠していたことを桃坂先生に暴露される。
「そうなんだ……やっぱり契はすごいのね! なんで言ってくれなかったのよ?」
「いや、だって恥ずかしいし……」
稼ぎのいい兄弟にたかるニート、子供の学歴で偉ぶる親、金持ちの親の収入で遊んでイキる学生。得てして虎の威を借りる狐はダサい。正直、
というか神童ってなんだよ。「十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人」ってか? 転生者チートでスタートダッシュだけ決められた人生出序盤型の俺への当てつけか?
「恥ずかしくなんてあるものか! 契、お前が勝ち取った勲章じゃないか!」
「……うぅっ、ありがとうぅ……リュウマぁ……」
「泣いてる……ええ……神童呼び、そんなに気にしてたのか……」
なんというか、穢れを知らない純粋さから来る本心からの言葉が目に染みる……。俺、いつからこんなに擦れてしまったんだろうな……。
あと桃坂先生はそんな引かないでください。俺だって泣くこともありますから。
というかテンちゃん関連のこと、思ったより引かれていないな。……そうか、そういえばリュウマは陵辱エロゲの主人公で、深穂はそのヒロインだもんな。そりゃ、
とはいえこんな純粋な瞳で「触手のやつ」を褒められると、なんかちょっと変な気分だ。
それから、一通り心配のと安堵の言葉、それに対する謝罪と感謝の応酬を行った後、下校時刻が近くなってきたところで二人は寮に帰ることとなった。
ちなみに俺は念のためもう少し入院だ。といっても病院じゃなくて保健室にだけど。丸三日保健室に匿って治療してくれた桃坂先生には改めて感謝しなければならないな。
「契くん」
「は、はい」
そして帰り際、深穂が俺の手を両手で握り目を合わせてきた。その顔を赤らめて、何かを決意したかのような素振りで口が開かれる。
「そ、その、あの……私、頑張るから! 契くんのなら、どんなプレイでも受け止めるから!」
深穂はそう言うなり、俺の返す言葉も聞かずに保健室を去っていってしまった。リュウマもそれを追って出ていった。
「……君、吸血鬼倒す時何したの?」
「え、ええと」
テンちゃんにぶち犯すように命じて、全穴責め陵辱からのTSさせて分からせ陵辱しました。
◆
その翌日、桃坂先生による健康診断の結果完全健康体であるとお墨付きを貰った俺は、丁度学校が休みだったこともあり阿九寺との決戦があった場所を訪れた。うちの学園の生徒会室にある隠し通路を歩くと着く、阿九寺の拠点。
そこには、くんずほぐれつな阿九寺ちゃんとテンちゃんがいた。
「(自主規制)♡……っ!」
「■■■■■◆■■!」
「(自主規制)♡♡(自主規制)♡……!」
「■■◆■■■◆■■!」
「(自主規制)♡♡♡……っ!」
うおっすげえ。テンちゃんまだやってるよ。
俺が三日眠ってて今日はその翌日のわけだから、阿九寺もあれから今に至るまで四日間ぶっ通しで陵辱され続けているというわけか。
色々な液体に塗れて体が上気した阿九寺から漏れ出る音は水気が多く、その顔は恍惚に染まり切り、その嬌声は完全に快楽に堕ちたメスの鳴き声だった。
出来上がってるな。でもその割に
「あっ(自主規制)♡♡たしゅけ(自主規制)♡……っ!」
「■■◆■■■◆◆!」
阿九寺ちゃんの潤んだ瞳と目が合う。あれでいてまだ助けを求める余裕があるとは驚きだ。素晴らしいタフネスとメンタリティ。確かにテンちゃんとしても、あれは相当犯し甲斐があるだろう。
「邪魔して悪いね。俺に遠慮なく存分に楽しんでね!」
「■■◆■■■◆!!」
「いやっ(自主規制)♡♡まっ(自主規制)♡♡(自主規制)いやぁ(自主規制)♡♡♡……っ!」
「■■■■◆■■■◆!!」
うーん、こりゃもう四日コースかもな。ま、何にせよ二人とも幸せそうでなによりだ。
さて、覗きなんて無粋なことはせず*2に俺はさっさと帰るかな。
そうして、帰ろうとした所にか細い声が一つ届いた。
「……ひっく……ぅぇぇ……」
その声の方を向いてみると、そこには触手に拘束された森凛がいた。
「あっ……」
そういえば、彼女は阿九寺と戦った際に触手を使って拘束していたのだった。
それで、その拘束を解かないまま俺は気絶してしまい、その後三日間意識がないままだったから、当然触手に拘束を解除するように命令をだしていなかったわけで。
……やべっ。
急いで触手に拘束を解くように指示すると、彼女が倒れ込んでくるので抱き支える。
綺麗だった青髪はボサボサになっており、目は泣き腫らして充血している。身体からはすえた匂いがして、垂れ流しだったらしい排泄物が染み込んだスカートは股下からが変色していた。
「ごめん! 気づいてあげられなくて本当ごめん! もう大丈夫だから、ええと、とりあえず水飲む……?」
「ううぅ……ううぅ……ひっぐぅぇぇぁ……」
本格的に精神が参っているらしい彼女の背を擦りながら、落ち着くのを待つ。
数分、あるいは数十分そうした後に、彼女はやっとまともな言葉で喋りだした。
「もう、もうダメだと思ってぇぇ……もうずっと、目の前で阿九寺会長だった人が化け物に犯され続けててぇ……わたっ、わたしっ、会長の手下だったからっ、私も触手に拘束されてたからっ、次は私だと思ってぇぇ……」
「そっか……そっかぁ……いや、ほんとごめん。君が危害を加えられるようなことはないから安心してね……」
森さんが泣きじゃくりながら、嗚咽混じりに語る内容は予想よりも悲惨な四日間だった。
そりゃそうか。触手で拘束された状態で目の前で阿九寺がエグい犯され方してるのを見せられ続けたら、言外に「次はお前だ」と言われてるようなものだ。
普段のクールで端的な話し口調が完全に崩れている彼女の背中をさすり続ける。本気で怖かったのだろう。事故とはいえ、とても申し訳ないことをしてしまった……。
「途中でっ古木くんとか深穂ちゃんとかっ……た、助けに来てくれたけどぉ、しょっ、触手が私のこと離さなくてぇぇ……」
森さんを拘束していた触手が俺のことを見て胸を張っている。
偉い? ボク、ちゃんとこの人のこと拘束しておいたよ! 褒めて! と言っている。
あー、うん。偉いな、よくやった。お前は何も悪くないよ。悪いのは運の巡り合わせというか……そうだな、阿九寺が悪いよ阿九寺が。テンちゃんしっかり懲らしめといて。
「たっ、たすかると思っでなぐでぇ……っ! うぅ……ひっぐぅぇっく……ありっ……あ゛り゛がどう゛や゛ま゛だぐん゛ん゛ん゛!!」
涙と鼻水を垂れ流しながら俺のことをひしと抱きしめる森さんを抱きしめ返し、よしよしと頭を撫でる。
ごめん、完全にマッチポンプだこれ。
一瞬だけ陵辱の手を止めたテンちゃんが、なるほどそういう風に調教するのか、流石相棒だぜ! という目で見てくる。やめて。違うから。
阿九寺ちゃんのその後は次回です。TSわからせファンの皆様につきましてはお待たせして申し訳ありません。