触手モノ凌辱エロゲの黒幕に転生してしまった   作:ソーラン節

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作者はさよならを教えてが好き(感想ありがとうございます。めちゃくちゃモチベが上がります。あと誤字報告もとても助かっています。ありがとうございます)


俺はエロゲの主人公ではない

「お願い、せつないの。契くん……身体、触って……」

 

 霊川さんは俺の背にしなだれかかりそう言った。

 背中にふわりと柔らかい感触。首筋に彼女の濡れた髪が張り付く。耳に吐息がかかる。

 

「霊川さん……」

 

 ゴウンゴウン。彼女のピンク色の可愛らしい下着が入った洗濯機が回る音だけが響く。人のいない寮という空間で、男女二人であることを今になって意識してしまう。

 心臓は空回りを初め、血は頭に回らず下半身に集まっていく……。

 

 が、それでも必死に脳に血を回して考える。理性だ。理性を働かせるんだ。

 

 きっと、俺がエロゲ主人公だったら、この状況は据え膳で、彼女と性交渉をしないなんて選択肢は用意すらされていないことだろう。俺がプレイヤーなら鼻の下を伸ばしてウキウキでマウスをクリックしていたはずだ。

 

 もしこの世界がちょいエロ要素のある全年齢ラブコメ漫画なのだったなら、いい所まで行きそうな所で何かしらの乱入が起きて、なあなあになって終わるだろう。俺が読者なら気楽にページをめくっていたはずだ。

 

 しかし、この世界はエロゲの世界だ。だから当然えっちシーンに移行すればそれを邪魔するようなハプニングが起きることはない。

 そんなことをすればそれを期待してパンツを脱いだプレイヤーから顰蹙を買うことだろう。

 

 そして、俺はエロゲの主人公ではない。それはリュウマの役目だ。

 前世では散々陵辱エロゲをやっていたが、貞操観念はまともであるつもりだ。俺は、体はともかく中身は前世と合わせればおっさん。良識を持つ大人として、齢16の少女が魔物の媚毒による一時的な高揚に身を任せることを肯定できない。

 

 そうだ、俺はエロゲの主人公ではないのだ。だから、無責任に性行為に及んだとしても、その先に幸せな未来は保証されない。

 俺はこの身そのままこの世界に存在していて、このふざけた世界が俺にとっての現実で、そこには責任が付きまとう。

 

 エロゲでは、主人公は相手が未成年でも軽率に性行為をするし、決まって中に出す。それはエロゲのジャンルが陵辱だろうが純愛だろうが、ほのぼのだろうがシリアスだろうが変わらない。

 主人公が考えなしとか無責任とかそういう問題ではない。「エロゲの世界」とはそういうものなのだ。セックスは軽率に行い、避妊はしないのが当たり前の世界なのだ。

 

 そして、それは主人公がそれをしてもヒロインを不幸にしない運命(主人公補正)にあるから許される。

 

 現実世界ではコンドームなしの無計画な行為の果てにある未来なんて、十中八九不幸だ。

 そしてコンドームの有無に関わらず、勢いに任せた性交渉はトラブルを引き起こし、人間関係に禍根を残す。

 

 顕になった綺麗な体とその柔肌に伸びそうになる手を理性で押さえ込んで、怒張する股間を制服のベルトで押さえ込んで、俺は霊川さんに向き合った。

 

 ここが正念場だ。

 女性のお誘いを断るなんて前世合わせてしたことがないが、彼女を傷付けずに誤解がないようにきっぱりと断らなければならない。

 友達だったのに告白を断ったことが原因で以降付き合いがなくなったなんてよくある話だが、ここでそんなことを起こしてはならないのだ。だって霊川さん、放っておいたら魔物に食われる*1 んだもん。

 

 ここで、パーフェクトコミュニケーションを取らなければならないのだ。彼女を傷つけることなく、かつ俺が悪役になることもなく、自然にやんわりと「お断り」しなければならない。

 

 だから俺は、彼女の火照った肩に手を当てて、もう片方の手を頬に添えてその目を正面からしっかりと見て言った。

 

「霊川さん、君は綺麗だ」

「え、ええ……?」

 

 とろんと蕩けた瞳が揺れる。エロい。まだ媚薬効果が切れていないのだろう、心配だ。

 パーフェクトコミュニケーション。パーフェクトコミュニケーションだ。成功のイメージだけを頭に浮かべながら、言い慣れない素直な気持ちを言葉にしていく。

 

「正直、俺は君に好感を持っている。できるなら身体を重ねたいとすら思う。君は魅力的だ」

「……え、えへへ……」

 

 霊川さんが蕩けた顔でふにゃりと笑う。エロい。かわいい。

 

 原作では、彼女は主人公であるリュウマと散々すれ違っていた。具体的には、リュウマの照れ隠しの拒絶反応をまともに受け取って傷ついたり、自分に魅力がないのか悩んだりしていた。

 なんならその悩みを魔物につけいられ、話がバッドエンドに向かうことすらあった。

 

 おそらく今ここで、返答や振る舞いを間違えれば俺は彼女との間に意味の無い禍根を残すことになってしまうだろう。

 それが原因で彼女が思い悩んだり、俺のことを拒絶したりすれば、きっとそこに魔物が入り込んでバッドエンドが近づく。それだけは防がなければならない。

 

 だからここで、彼女に魅力がないだとか、俺が彼女を嫌っているだとかの誤解を事前に否定して、少なくとも俺と彼女の間にそんなくだらないすれ違いが起きないようにする必要がある。

 その為に、彼女のお誘い自体は嬉しいもので、彼女は女性として魅力的で、俺は好意を抱いていることを懇切丁寧に説明していく。

 

「君は誠実で優しくて、それでいて心に折れない芯を持っている。高潔かつ不屈だ。汚れた世界の諦観に染まった大人ばかり見てきた俺にとって、そういった青臭い心を忘れかけていた俺にとって、君は酷く綺麗で、美しかった」

「はい……」

 

 霊川さんは今、媚毒の影響でまともに思考が回っていないので理屈をこねくり回しても意味が無い。だから逆に、本心を精一杯ぶつける。

 こんなことをするのはいつぶりだろうか。人の説得に本心と熱意を使うなんて、きっと前世の若い頃以来だ。

 

 霊川さんは少しずつ冷静さを取り戻してきたのか、俺から目を逸らして俯く。正気に戻った結果今までの行動に対する照れが来たのだろう。

 しかし、ここまで来てなあなあで済ませるわけにはいかない。俺はすぐさま彼女の顎をこちらに寄せて、目を合わせる。

 

「赤く燃える髪と瞳に、絹のように細かい肌。人形のように可愛らしい整った顔。春の空のようなほんのり甘くて澄んだ匂い。全てが眩しいくらい綺麗だよ」

「はぃ……」

 

 霊川さんの顔の赤さが増す。恐らく照れている。

 俺の言葉を聞いて照れる程度には理性が戻ってきている。ここまで来れば、俺の言葉を受け入れてくれるはずだ。

 

「だからこんな半ば事故のような形で、勢いに任せて君と肉体関係を持ちたくない。もし触手の媚毒による被害が完全に治ってもまだその気のままだったら、今度はちゃんと段階を踏んでそういうことをしよう」

「はぃぃ…………」

 

 こてんと頷いて下を見る霊川さんの頬と肩からそっと手を離す。どうやら、踏みとどまってくれたみたいだ。よし、楽しく話せたな。

 かくして、俺は霊川さんの()()()をかわすことに成功したのだった。

 

 その後は、体内に残る媚毒への耐性を付けるために彼女に俺の魔力を讓渡して一時的に魔力量を増加させ、力の入らない彼女を抱えて保健室に行った。

 

 保健室の先生は俺が事情を話す前に、一目見て魔物による被害だと気づき対応してくれた。

 霊川さんは先生による治癒魔術を受けた後だいぶ楽になったらしく、すぐに寝てしまった。

 

 まあ、色々あったがこれにて本当に一件落着というわけだ。

 

 

 その後、俺は途中から授業に参加した。

 教師とクラスメイトには、貧血で倒れた霊川さんを介抱していたら遅刻したというストーリーを話しておいた。

 ちなみにリュウマはその嘘のストーリーを信じきっていた。そういう所だぞ。

 

 霊川さんは放課後になってやっと目を覚ましたらしい。保健室の先生からの呼び出しに応じ、リュウマと二人で迎えに行く。

 道中、リュウマに事情をぼかして伝える。

 

「その、霊川さんなんだけど、俺が彼女に会いに行ったとき魔物に襲われてたんだ。なんとか助けは間に合って命に別状はないけど、魔物の魔力にあてられて調子が悪いみたい」

 

 一応、嘘は言っていない。

 

「そうだったのか!? なんでもっと早く言ってくれなかったんだ」

「いや、お前これ聞いたら保健室に突撃するだろ。今は霊川さん、安静にしとかないといけないから」

「うっ、それは、確かにそうだな。……すまんな、守ってくれてありがとう。俺らは契に助けて貰ってばかりだな」

 

 チョロい。そんな簡単に丸め込まれて大丈夫だろうか。

 ……まあ大丈夫じゃないから原作で幾度となくNTRされてるんだろうな。何かこう、騙されないようにする訓練とかした方がいいのだろうか。

 

 保健室につくと、ぼんやりとベッドに腰掛けた霊川さんが待っていた。

 目と目が合うと、顔を赤らめて逸らされた。

 ……覚悟はしていたが、やはり避けられている。善人に拒絶されるのはつらいものがある。

 

 とはいえ、この後最低でも寮までは送らなければならない。心身共に疲労した今の状態の彼女では、魔物に会ったら抵抗できずにやられてしまうだろう。

 寮なら結界が貼ってあるし、使役した触手も多めに配置してあるから安全だ。だからそこまで付き添った方がいい。

 

「霊川さん、今から寮に帰るけど、歩ける?」

「え、ええ……」

 

 霊川さんは赤面した顔を手で覆って、か細い声で答えた。恐らく完全に正気に戻った今になって羞恥心が湧いてきたのだろう。

 

 その後、俺たち三人は内股でモジモジと歩く霊川さんに歩調を合わせてゆっくりと寮へ帰った。

 道中リュウマが何度か肩を貸そうとしていたが、彼女は結局最後まで断った。そして代わりにというべきか、俺に手を繋ぐように頼んできた。

 

 まああれだけの事があったのだ。心細さを埋めるために手を繋ぎたくなることもあるだろう。……だけどなんでリュウマじゃなくて俺なんだ。

 

 もしかしたら、この世界での深穂とリュウマの間には恋愛フラグが立っていないのかもしれない。

 ハッピーエンドにたどり着くには深穂ルートが一番簡単だから、この世界でもそれを目指す予定だった。が、これでは計画を立て直す必要があるかもしれない。

 そんなことをぼんやり思案しながら、彼女の細くて柔らかな手を離さぬように強めに握って歩いた。

 

 その後はよたよたとした足取り──察するに、まだ媚毒が抜けきれていないのだろう。これ以上異性が干渉すべきではない──で寮に戻っていく霊川さんをリュウマと二人で見送った。

 

「今は一人にさせてあげよう。あと、今後はこういうことがないように、なるべく霊川さんを一人にさせない方がいいね」

「ああ、そうだな。……つっても、今回は生徒会長がいるから大丈夫だと思ったんだが……迂闊だったな」

 

 その生徒会長が駄目なんだよ!!

*1
比喩

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