こちらバスキュラー・プラント前キャンプ・カンネー監視所   作:8たま

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中央氷原にあだ花は咲いた・後

 現場の駐機場では既に三群のMTが、三方を向いてにらみ合っていた。

 うち二つはドーザーである。

 作業用を武装したものもあれば、正規の軍用品もあり雑多な機種が数えた所十三機ある。

 もう一つはキャンプカンネー守備隊のMTで、盾を構えたBAWS製二脚型が三機。

 駐機場といっても吹き曝しの雪原に、それを示す標識と小屋があるだけの簡素なものである。既に黒焦げになったいくつかの残骸が転がり、その中にはまだ炎を噴き上げているものあった。

 

 そこに遠くから断続的な地響きと、大気を震わせるブーストの爆音が近づいてきた。

 

『はーい 現着』

 

 守備隊MTの無線機からは、気だるげな声が聞こえたはずだ。

 同時に守備隊側のMTが陣取る中に、雪煙を巻き上げて一機のオンボロACが降り立った。

 ボツリと外部スピーカーのスイッチが入り、突然キーンという耳をつんざくハウリング音が鳴り響く。

 

『どうしたのさぁ。朝から喧嘩しないでよぉ。やるなら機体から降りてステゴロでやりなさい。止めないから』

 

 保安官の説得なのか、懇願なのか、ぼやきなのか。それらが入り混じった声が響いた。

 彼女がここで帯びてる任務は、プラントの監視であるが、最近は治安維持が加わった。

 というよりは人が集まればトラブルはつきもので、自然とやらざるを得なくなり、事後承認という形で解放戦線本部から付け加えられたといったほうがいい。

 武力で鎮圧するのは最終手段。喧嘩があればまずはその場を静めるのだ。

 

『聞いてくれよ姐さん こいつらが』

『いやいや保安官、あいつらが』

 

 MTの外部スピーカーから、ドーザーの頭目とおぼしき二人の男の声が、異口同音に相手をそしる文句を並べた。それから堰を切ったように、双方がめいめいに水掛け論をはじめだす。

 

『ああー、静粛に』

『けどよぉ…』

『とりあず静粛に。話は一人ずつ聞くから』

『だがなぁ…』

『いいから静粛に』

『だからあいつらが…』

 

『うるせぇ!殺すぞッ!』

 

一向に黙らないドーザーにサムノッチも堪らず怒鳴ってしまった。

 

『……はい。みんなが静かになるまで、お姉さんは5分またされました』

 

 それは誇張で実際は一分ほどである。

 

『まずはMTから降りてくれないかな』

 

 そうは言ったが互いに疑心暗鬼になっているため、どちらも簡単には従わない。

 戦闘兵器が、互いに得物を突き付け合って並び立つ剣呑な光景とは裏腹に、なんとも牧歌的な説得がはじまる。

 それから二言、三言問答があったが両者とも頑としてMTは降りず、ならばといくらか譲歩して、とりあえず互いに武器を地面に向けてロックオンを外すというところで、事情聴取に応じることになった。

 双方の頭目が手下たちに指示をだすと、一機、また一機とそれに従ったが、最後の一機、RaD製MTトイボックスに乗った男はなおも渋る様子をみせた。

 しかし仲間に促され、この機体特有の機構を作動させダンゴムシのように丸くなった。

 

 さて、争いの発端であるが、この二つの集団は当初は協力してバスキュラープラントに潜ったのだという。

 昨日の夕べには引き上げて収穫物を勘定することになった。

 あらかじめ取り分は均等に分配することになっていたが、この日は思わぬ出物があった。

 それを換金するか、手元に残しておくかでまず揉めた。

 ここで売り払うより、他所に持っていったほうが、より高く売れるのだという。

 しかし双方とも引き上げてきたばかりで疲れていたため、その場は一時的な保管場所を確保したうえで、翌日に話し合おうとなった。

 

 そして今朝のことである。

 

 一時的に保管する倉庫を借りれたので、例のブツが入ったコンテナをそこに移そうとしたときに、見張っていた側に連絡が届いてないらしく——―

 

「そのままかっぱらって、バックレようと勘違いしてぶっ放した…というわけね」

 

 聴取が済むとサムノッチは、あきれたように言った。

 喧嘩っ早く、粗忽者ぞろいのドーザーらしいトラブルだ。

 

「さて、どうしようっかな」

 

 サムノッチはそういって、しばし沈思黙考する。

この場合ブツが、どちらのモノであるか判断を示すということはしない。

 保安官の仕事は、街の秩序と安全を守ることであって、喧嘩の仲裁は治安上必要ならばやるだけなのだ。

 で、あるならば争いの種は街の外に放り出すべきであろう。

 

 そう彼女は判断した。

 

 そのために守備隊が双方の間に入って引き離し、例のブツを街の外れまで護送してやる。

 後は人気のないところで勝手に戦うなり話し合うなりしてくれというわけだ。

 

「――そんじゃまぁ、そういうわけでコイツは街を離れるまで、わたしらが預かるね」

 

 当事者は沈黙でそれに合意を示した。

 三者三様に互いを完全には信用してはないが、このまま潰しあっても損ばかりでどう転ぶかも判らない。

 ここは落としどころを探るのが賢明であろう。

 命と同様に頭の軽いドーザーでも、一党を率いるリーダー格ともなればその程度の料簡はある。

 そうこうしているうちに、追っ付けで守備隊側のMTがもう三機到着したので合計六機となった。

 サムノッチが指示を出すと、その内の二機が手に持った装備を下ろしコンテナに近寄って持ち上げようとした。

 

 その時である。

 

「ダメだッ!」

 

 拡声器に乗って男の怒声が響いた。

 

「そ、そいちゅはおれの、おれを呼んでりゅ」

 

 その声は半ば裏返り、たどたどしく呂律が回っていない。明らかに様子がおかしい。

 

「あ、不味い コイツは当てられてるんだ!おちつけ!」

 

 ドーザーの頭目がその男に通信で呼びかける。

 錯乱した声の主は、どうやら先ほどロックオン解除を渋っていたあのダンゴムシだ。

 頭目は呼びかけるがダンゴムシは、跳ね上がるようにして体を開き身を大きくそびやかすと、その胴体に牙の如く並べられた重火器があらわになった。

 

「クソッ!てめぇらハメようってんだな!」

 

 そう叫んだのはもう一方のグループを束ねる頭目である。その声に続いて彼の手下たちも一斉に武器を振り上げた。

 つられてもう一方も応戦の構えをとる。

 

「まて!こいつはコーラルで頭がやられて……」

 

 しかし弁解をする暇もなく、トイボックスが火を噴きだすほうがはやかった。

 既にめいめいトリガーに指をかけて狙いを定めており、ロックできしだいぶっ放す体制をとっていた。

 

 人差し指の緊張が一瞬で振り切り、屈伸運動を一度。

 

 パニックが口火を切れば、もはや収集はつかない。

 銃口が一斉に吠える。その火線の中央に先ほどコンテナを動かそうとした守備隊側のMT二機があった。

 二機とも運搬のために武装を一時的におろして丸腰であり、咄嗟のことで応戦することも、逃げることもままならず、その場に機体を伏せさせている。

 流れ弾が周囲に次々と着弾し、雪煙が立ち上がる。ドーザーの四脚軽MTがそこに照準を向けようとしている。

このタイプは小型ながら、両肩にグレネードを装備しており火力は侮れない。守備隊のMTではひとたまりもないだろう。

 

 万事休すか?

 

 否、その時である。

 

 ボンッ!

 

 破裂音とともに白煙が咲いた。煙は瞬く間に広がり軽MTを覆いつくす。

「目くらましのつもりか!」機内でパイロットは叫んだ。

 だが火器管制装置は、二機の守備隊MTのシグネチャーを捉えており、トリガーを引けば見えてなくとも当たる。はずだったがロックオンが解除された。

 

 ジャミング弾だ。

 

 細かく切られたアルミ箔や磁性体が煙の粒子に含まれており、これがセンサーを阻害しMTの火器管制装置を狂わせる。

 MTのグレネードは明後日の方向で炸裂した。と同時に白煙の向こうから人型の影が飛び出し軽MTを蹴り飛ばした。

サムノッチの乗機ポーラベアである。

 

 「わたしが片づけるから、みんなは掩護ね」 

 

 彼女がそういうが早いか、盾を構えた守備隊側のMT四機が二手に分かれて、取り残されたもう二機のMTを守るように囲み四方を睨んだ。

 サムノッチはシートに背中を深く預けた。

 

『コーラル管理デバイス起動』

 

 抑揚のない機械音声に続いて、首筋に鈍く冷たい異物感が入り込み、脊髄の中を小虫の群れが這うような悪寒が走る。

 その不快な感触により彼女の顔に、わずかな苦悶の色が浮かび身をこわばらせる。

 首筋にインプラントされたデバイスの接続口に、プラグが刺さり機体とリンクされたのだ。

 同時に身体には、一瞬の浮遊感の後に突然膨張するような感覚がして、それが収まるとACの五感と五体がサムノッチと一体になった。

 

 時間にして一瞬である。

 

 突然湧きあがったECMの霧に向けて、ドーザーの火線が集まっていく。

 見境などない。味方でなければ吹っ飛ばすだけだ。

 その銃火の下を避けるようにポーラ・ベアは身を低くし、クラウチングスタートのような姿勢をとる。

 同時に短い吸気音がして、アサルトブーストが背中で爆ぜる。

 暴力的な急加速によって、サムノッチの体にズシンとGがのしかかる。

 耐Gスーツを着ていても生身の人間であれば、これで失神していたであろうが、彼女は第六世代型強化人間である。

 ACは一瞬の加速で弾かれたように射線を外すや、ドーザーグループの一方に突っ込む。

 

タタタタン タタタタン タタタタン

 

 短い連射音と共に四点射撃が三度。

 一群の中を駆け抜けながら、ACはバーストマシンガンを発射する。

 

 正面にいた二脚MTの右膝に三発。

 その脇をすり抜け奥にいた機の左腕から足にかけてそれぞれ一、二発。

 そして最奥で陣取っていた軽MTの左肩から頭部、右肩を薙ぐように弾丸を命中させた。

 

 ブーストを停止させる頃にはサムノッチの乗機は、ドーザーの群れを突き抜け、真後ろにつけていた。

 同時にクイックターンで素早く機体を旋回させる。

 これで背中を気にせず、一方のドーザー集団を挟撃できる形になった。

 その間に足を打ち抜かれた二機のMTは、スタッガー状態になっている。

 軽MTのほうは左肩を打ち抜かれただけで姿勢を保持しており、後ろを振り返ってサムノッチを捉えようとしたが、そのときにはもう眼前までACが迫っており間髪入れず蹴り飛ばされた。

 蹴り飛ばされた軽MTは、そのままスタッグしている二脚型の一台と衝突しもつれあって、雪の中に突っ込み黒煙を吹いた。

 

 強化人間の操るACは、たとえオンボロでも獰猛な肉食獣のように敏捷かつ有機的に動く。

 瞬く間に三機のMTを撃破すれば、残りは脆いもの。戦力が一瞬で半減したのだから、あとは守備隊側のMTと相手方のドーザーに打ち据えられてたちまちのうちに倒れた。

 

 だが、それでも残ったもう一方のグループは戦闘をやめない。錯乱したトイボックスが、あたりかまわず銃火を振りまきパニックになっているのだ。

 

 残らず鎮圧せねばならない。

 

 そう判断したサムノッチは、もう一発ジャミング弾を集団の中に打ち込む。

 統制を欠いた集団を片付けるのに、それほどの時間はかからない。

 ECMフォグが晴れぬうちに、サムノッチはまたアサルトブーストで飛びぬけながら、ある者には射撃で手足を打ち抜き、またある者は左手に装備されたスタンバトンで一撃を加えて昏倒させた。

 

 そうして最後にトイボックスが残った。

 

 トイボックスの正面には火器がずらりとならべられて、その火力密度は、スクラップのようなACには耐えがたいダメージを与える。

 ジャミング弾で妨害しても、目クラ滅法に打てばまぐれ当たりもする。さりとて後方は堅牢な装甲で覆われポーラベアの火器では容易には打ち抜けない。

 右にバーストマシンガンとジャミングランチャー、左にスタンバトン。

 街に被害を与えないように、威力を抑えた武装構成がここにきて手を縛っている。

 味方のMTはサムノッチの後ろで盾を構えて陣取っているが、彼らを弾除けにすることはできない。

 正面からでも打ち負けない火力か装甲。

 あるいは、背面からぶった切れるパルスブレードといった武器があればと彼女は思ったが、今、無いものねだりをしてもしょうがない。手持ちのカードでなんとかするしかないのだ。

 

「アレはおれの かえせ こい?こい! いくぞ」

 

 トイボックスは、なおも取り留めもない妄言を垂れ流している。

 コーラルに当てられた狂人の世迷言として聞き流していたが、アレとは今サムノッチの右後ろ側に転がってるあのコンテナのことであろうか? 

 中身がなんだかしらないが、どうやらヤッコさんは、これにご執心らしい。

 

 これは使えるかも。サムノッチの脳裏に策がひらめいた 

 

 HMD(ヘッドマウントディスプレイ)に表示されたインジケイターはジャミングランチャーの再装填が完了したことを示す。

 同時にサムノッチはトリガーを引く。たちまちのうちにトイボックスの周囲にECMフォグが張られた。

 ACはそれを突っ切って一撃を見舞いにくるだろうか?

 トイボックスのパイロットは錯乱しながらもそのような勘が働き、最大限に広く火器を乱射した。

 

 しかしサムノッチはそうはしなかった。

 

 鋭い吸気音に次いで、アサルトブーストの咆哮が爆ぜる。

 煙幕を脇目に鉄火をすり抜け、ACを走らせた先にあるのは例のコンテナ。

 それを飛距離が最大になるように、真横からつま先で掬い上げるようにしてを蹴っ飛ばす。

 蹴りあげられたコンテナは横にひしゃげ、放物線を描いてトイボックスの後ろに落下し、地面をバウンドしながら転がり、転がりながらパネルをまき散らし、その中から反りのある棒状の物体が放り出され地面に突き刺さった。

 

「おおおぉん うっぉう⁉」

 

 奇声を上げながらトイボックスの注意が、そこに向けられる。

 放り出されたブツが、なんであるかは今は考えない。

 サムノッチは今一度アサルトブーストを起動した。

 エネルギーゲージは、既にレッドゾーンに差し掛かっているが躊躇しない。

 飛び出したポーラベアは左腕に装備されたスタンバトンの出力を最大限に引き上げて、コアロッドをトイボックスの右斜め後ろから腰部に突き立てた。

 

 雷鳴のごとき音を立て、アーク放電がほとばしる。

 

 コアロッドから直接打ち込まれる、数百万ボルトの高圧電流。

 トイボックスは背をピンと伸ばし、身もだえるような動きを見せるが、そこで腰が抜けたように三本の足から力が抜けてその場にへたり込んだ。

 

 サムノッチのHMDに警告表示がともる。

 それはスタンバトンが、コアロッドを打ち付けた衝撃で接触不良を起こし再充電が不可能となったことを示していた。

 

 一瞬の静寂。

 

 トイボックスは膝を屈し、同時に上体も崩れ折れ、ゆっくりと地に突っ伏しようとした。

 しかし、そのときである、またも電流が走ったかのように機体がびくりと動き、倒れるすんでのところで、右腕を地に着け体を支えた。

 そしてもう一方の腕に並んだガトリングが火を噴き、腰に取り付くポーラベアを打ち据える。

 だが、脇腹あたりにしがみついたACは火器の死角に入っており、弾丸は機体の背中に張り出した部分をわずかに削り取り、雪煙を打ち上げただけだった。

 

 ポーラベアは連続でアサルトブーストを起動したことにより、エネルギーは尽き、緊急チャージに入っている。

 

 もはや離脱はままならない。

 

 今はちょうど火器の死角に入っているから無事でいられるが、離れようとすれば、たちまちのうちにハチの巣にされるだろう。

 悪あがきに故障したスタンバトンを二度、三度と殴ったり突き立てるが、ただの金属棒となったバトンを腕の力のみに任せて殴っても、悪あがきにしかならない。

 

「離しぇ!はナセ・・・」

 

 トイボックスは、上体をなんとか起こしたものの、下半身は不随となったようで、左手で腰にしがみつくポーラベアを殴りつける。

 そのたびにサムノッチのHMDに移した出された景色はゆがむ。

 元より光学センサーの一部は作動しておらず、視界はいくらか狭まっており、残された目がとらえた映像も、さらにちらつき狭まっていく。

 緊急チャージはまだ終わらない。

 

 このまましがみついていても、埒があかない。

 かといってできることは不規則に相手を揺さぶって、パイロットを煽る嫌がらせのような攻撃くらいだ。

 

 考えあぐねたサムノッチの視線が泳ぐ。

 目の端に先ほど蹴っ飛ばしたコンテナから、放り出されたモノが映る。

 一見すると鎌のような反りのついたブレードが、地面に刺さっている。

 眼を引いたのは、その基部と思しき部分である。

 ジョイント部分があり、これは一目でAC用の汎用規格であることがわかった。

 

 やがてトイボックスは殴ったり、もがいてるうちに、しがみつくポーラベアに、もたれかかるようにして体を起こしてきた。

 上体を支えるために、地につけていた右腕が自由となる。

 指の代わりのように、ずらりと並んだガトリングの銃口が、サムノッチの眼前を埋め尽くす。

 

「もう、どうにでもなぁれッ!」

 

 彼女はそう叫ぶや、操作パネルにある安全カバーが取り付けられたボタンを、カバーごと叩きつぶした。

 左腕のスタンバトンがパージされる。

 同時にトイボックスの右腕が火を噴かんとするが、そこにポーラベアの右腕が伸び銃身を掴み上げる。

 轟音と共に右腕が細切れになるが、射線が一瞬それた。

 その隙にポーラベアは、一瞬膝のテンションをゆるめ機体を沈み込ませる。

 ポーラベアにもたれかかっていた、トイボックスは急に支えを失ったためバランスが崩れた。

 同時にACはブーストを一瞬吹かして、トイボックスから離脱し左腕を伸ばす。

 

 その先には、地に突き立ったあの鎌がある。

 

『AC用パーツ接続確認』

 

 ただそれだけのことを告げる抑揚のない機械音声が、サムノッチには福音の如く聞こえた。

 

 

veni...veni...veni

 

 

 何かが聞こえた?いや、視えた?五感のどれで捉えたかわからない。名状しがたき声。

 それはサムノッチの意識を一瞬でよぎり、過ぎ去ると同時にそんなことがあったことすら彼女は忘却していた。

 

 

 鎌を装着したポーラベアは、腰だめに上体を左にひねり、身をたわめる。左腕に装着された鎌が血のように紅いきらめきを放つ。

 

 支えを失ったトイボックスは、右腕をまた地に着け、左腕をポーラベアへとむけようとしていた。

 

 その銃口が弾丸を吐き出すより早いか、ACの腕が振り抜かれた。

 同時に紅い閃光が、水平に広がり、奔り、放たれる。

 紅い光波は眼前のまっすぐにとび、トイボックスの左腕もろともに腰をすり抜け、一瞬で虚空へと消え去った。

 

 がらり。

 

 機械の躯体の左腕が落ちる。

 やや間をおいて、胴体が腰から二つに分かれて崩落した。

 

 何が何だかわからないが、あの一閃によって眼前の敵は両断され突っ伏した。

 同時にまた警告音がなる。それはポーラベアのジェネレーターが、オーバーロードして停止したことを示していた。

 

 ポーラベアは膝を地に着け、糸が切れた傀儡のようにうつぶせに倒れこんだ。

 

 バシュンッ!

 

 やや間があって、背中のコクピットハッチが弾け飛ぶ。

 電源を失ったために開くことができず、緊急用のエジェクション・ボルトが作動したのだ。

 ハッチを止めているボルトに詰められた火薬が点火し、物理的に強制パージしたのである。

 

 突っ伏したACの背中からのっそりと人影が立ち上がる。

 パイロットスーツの胸元を開くと、タバコの火が灯り紫煙を吐き出した。

 

 

 「ヤバっ なにこれ?」

 

―――

 

 

「嬢ちゃんにしちゃ 不手際じゃないか」

「手厳しいなぁ」

 

 オンボロACでこれだけの数を相手にして、右腕を吹き飛ばされた程度で済んだのだから損害としては軽微な方だ。

 死人もトイボックスのパイロットと、到着前の戦闘で数人が死んだくらいでそれほど多くはだしていない。

 それでも機能停止して突っ伏したACをみるにつけサ、ムノッチにしては、下手を打ったほうだと彼女の横にいる老婆レディ・ゴーラウンドは言うのだ。

 確かに死に体で転がっているのは恰好が悪い。

 敵が残っていれば、止めを刺されていたかもしれない危うい状況ではあった。

 

 そうした光景の中で、蹴散らされたMTから守備兵に銃を突き付けられたドーザーのパイロットが次々と引きずりだされ、小銃でケツをつつかれながら引っ立てられていく。

 

「面倒起こすなと言ったのに悪い子ちゃんねぇ……」

 

 サムノッチは彼らに聞こえるように言って、転がったMTを指さし出入りのの商人に問うた。

 

「おばあちゃん、あれいくらで買い取ってくれる」

「ふむ、そうさねぇ…きちんと見てみないとわからないがこの程度の損傷具合なら」

 

 そう言いながらタブレットに表示された電卓を叩く。

 

「こんなところかね」

「やっす」

「修理費くらいにはなるだろうさ そっちの見積もりも出しておこう」

「タマ張ったのに割にあわないなぁ・・・というわけで」

 

 一か所に集められたドーザーたちにサムノッチは向き直った。

 

「あんたたちが拾ってきた物は全部没収ね」

「そんな・・・姐さん殺生な!マシンも取られて、こいつも抑えられちゃこっちは飯の食い上げだ」

「あんたら簀巻きにして雪原に放り出してもいいんだよ?帰りの足代くらいは残してあげるから。命あってのモノダネじゃない」

 

 サムノッチはにべもなく言った。

 

「いや、しかし、これじゃ日干しに……」

 

 命があっただけでは良しとせずなお未練がましく金品に縋りつく。

 ドーザーというのはそういうものだ。 

 意地汚く思慮もなく、欲望を叶えるのに手順というものを踏まず、目先のものを無造作につかみ取ろうとする。

 

 それならば――

 

「総員着剣!」

 

 サムノッチはドスを効かせた声音で、ドーザーたちを取り囲む守備兵にそう命じた。

 彼らは整然と銃剣を小銃の先に取り付ける。

 

「構え!一歩前へ」

 

 命じられるがままに隊列は銃剣を構えて前に出る。白刃がかれらに迫りドーザーたちの顔が青ざめていく。

 

「さらに前へ・・・もう一歩いっとこうか」

 

 ドーザーたちの鼻先に金属の冷たい感触が走る。

 銃剣はもう一歩で、鼻の穴から脳髄まで、刺し貫ける距離まで迫っている。

 

「わかった!全部やる!勘弁してくれ」

「よろしい。おブタちゃん用のスイート―ルームを用意したわ。しばらくくつろいでいっててね」

 

 ドーザーは厄介事の種であるが同時に、その上前を刎ねる保安官にとっては儲けの種でもある。

 生かしておけばまた銭を運んでくる。

 だが甘く接して舐めれてもいけない。

 適度に痛めつけて絞りとり、たまに飴を与えて手懐ける。こんな僻地にしてはそう悪くない役得である。

 

「これで元はとれそうかい?」

 

 そんなやり取りをしているうちにレディ・ゴーラウンドはいつのまにやら押収品の見積もりを済ませており、その査定額を表示したタブレットを見せてきた。

 彼らが回収した液化コーラル、拾ったガラクタ、それらの見積もりとしては妥当な額だろうと思った。

 

「おばあちゃんにしちゃ負けてくれるね」

「お互いもちつもたれずだからね。足元みすぎて買い叩くなんて不義理はしないさ。末永くごひいきにね」

 

 アコギなようで、このクソババアこういう気配りができるから、顧客は中々離れないのだろうとサムノッチは思った。

 そんなやり取りをしているうちに撤収作業は進んでいく。今、丁度、守備隊のMTが擱座したポーラベアを引き起こし輸送用トレーラーまで引きずっていた。

 

「それよりだ……アレ」

 

老女が指さす先をサムノッチは見やる。そこにはポーラベアの左腕に装着された鎌があった

 

「なかなかの出物じゃないか」

「あれはなんなの?」

「こいつは見た所、技研の遺産だね。コーラルから取り出したエネルギーを用いるブレードだよ。そうそうお目にかかれるもんじゃない」

「へぇ そりゃすごい」

「こいつを売ってくれるなら」

 

そういいながらレディはタブレットを叩いた

 

「これだけ払おう」

 

サムノッチはそれをさっと一瞥して、尋常ではない数字が表示されているのを知り、また二度見、三度見した。

0がいくつあるだろうか。通貨単位はなんだ?この業突く張りがそんな額を提示するわけがないと頭から決めてかかっている。

 

「そんなに欲しいの?」

 

サムノッチは老婆の顔をまじまじと見つめながら問いただした。

 

「欲しいねぇ」

 

 サムノッチはしばし押し黙って機体のほうを眺めた。

 コーラルブレードの血のように赤黒い刃が雪の照り返しを受けて鈍く光っている。

 

veni...veni...veni...

 

 ふと、また何かがサムノッチの意識をよぎり、そして記憶にとどまることなく霧散した。

 

「……あげない♡」

 




RANK 》 -
レディ・ゴーラウンド//AC モウカリマッカ

交易商を営む老女。手広く商っており、独自の情報網をもつ。
キャンプカンネーに出入りする業者の一人。傭兵稼業はセミリタイア。

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