助けて! TS転生したらヤンデレ聖女様に執着されて困ってます!   作:ファクライ最中

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1話目 考えてることなんてわからない

 前世の記憶を持っていたからといって、全員が全員主人公になりたいわけじゃないと思うんだ。

 特に、おじさんはそう思う。平凡な日常が一番大切だと理解しているからこそ、物語のように波乱万丈な人生が全てじゃないと思っている。

 おじさんはもうおじさんではないけれど。前世で築き上げてきた色々なものは失ってしまったけれど。それでも、記憶ばかりは残ってる。

 

 何が言いたいのかって? 要するに普通で平穏なのが一番だよね~。ってことが言いたいのです。

 明らかに問題を起こしそうな、貴族と思われるお嬢様三人組がこちらに歩いてきているけれども。何事もなければいいなって。

 

「そこの! そこのお前」

 

 当然、何も起きないわけはなくて。

 真ん中を歩いている、ひときわ豪華な身なりの子がおじさんの目の前までやってきて、こちらを指さしてきた。

 

「はい? おじさんのことですか?」

「おじ……? そうです、そこのお前です! お前ですね、平民の身ながら、聖女様のお世話役を担っているという不敬な娘は!」 

 

 聖堂のお掃除中、こうやって絡まれるのはこの教会にやってきて何回目だろう。

 おじさんは思わずため息を吐いてしまうのでした。

 

「ちょっと! アルデマリー様が話しかけているのに、不敬でなくて!」

「そうよそうよ!」

 

 左右の取り巻きの方々が騒ぎ立てる。

 ごめんよ。人と話してるのにため息は駄目だったよね。失礼だったね。おじさんが悪かったよ。

 幾らここ数日全く同じ展開に見舞われ続けてても、幾ら既視感に襲われてても駄目なものは駄目だよね。こらえ性がないおじさんでごめんよ。

 そんな思いを込めて頭を下げて謝っていたら、素直すぎるって怒られた。理不尽だぁ。

 

「それでおじさんに何の御用でしょうか?」

「そのふざけた一人称は何なんですの!」

「それは……おじさんは、おじさんですから……」

「訳が分かりませんわ!」

「ひぃん。おじさんなだけですぅ……」

 

 いやね、おじさんはおじさんじゃなくて今は女の子なのはわかってるの。理解してるの。

 でもさ、ついこの前までお世話になっていた孤児院の下の子供たちが、おじさんって言うと喜ぶのさ。だから、ついついおじさんって言うようになって、今ではすっかり癖になって……。

 孤児院を離れてこの教会に移った時に、直そうとはしたんだよ? でもさ、そうすると“あの子”が悲しい顔するからさ。だからもう、おじさんはおじさんなんだよね。

 実際、孤児院の面倒見てくれてたパルメルさんからも、本当のおじさんみたいだねぇって言われたこともあるぐらい、おじさん仕草は抜けてないし。

 

「もう、話が通じませんわ。よいですか聖女様のお側には平民で孤児のあなたなんかよりももっと相応しい方がいるのですから、自分からお世話役を辞退するのが筋というものではなくて?」

「そうなのですね。例えば、どのような方が相応しいのでしょう」

 

 あっ、噂をすれば陰。おじさんからすれば、いつもの事だけれど。

 ひょっとしたらどこかでずっと様子を伺ってるんじゃないかって思っちゃうぐらい、間がいいのか悪いのか。

 質問を返したのがおじさんじゃないって気が付かないまま、アルデマリーさん? は高らかに宣言してしまう。

 

「そう、それは例えばグリフィス侯爵家の娘である私、アルデマリーのような……はい?」

「ふふ、平民で孤児は相応しくない、ですか。――わたくしも、平民で孤児ですよ」

「せ、せ、聖女様っ!?」

「ごきげんよう」

 

 高飛車お三方の後ろにいたのは、おじさんがいた孤児院で、妹のようによく可愛がっていたエリスことエル。今は、教会の聖女様になってしまったけれど。本人の希望もあって、おじさんの中では今でもかわいい妹のままだ。

 

「わあ、すっかり様になったねぇ」

「ミーシャお姉さま!」

「うんうん。ミーシャおじさんだよー」

 

 おじさんが声をかけると、嬉しそうに駆け寄ってきてくれる。

 そして、胸にぽすんと顔を埋めて、擦りつけてくる。可愛いなぁ。そっと抱きしめてあげる。

 エルは一通りおじさんの腕の中を堪能すると、顔をするりとアルデマリーさんたちの方に向けた。

 

「この方はわたくしのお姉さまなのです。無礼なことは、聖女の名において許しませんよ?」

「し、失礼いたしました!」

「あなたはグリフィス侯爵家……の方でしたね?」

「……っ! 急用を思い出しました! この場は、これにて失礼させていただきます。聖女様、どうかごきげんよう。貴女たち、行きますわよ!」

 

 アルデマリーさんはさっと顔色を悪くして、お連れのお二人を連れてどこか行っちゃった。

 ふう、何事もなく終わって良かったぁ。孤児院が恋しいよ。ここに来てから絡まれてばっかり。

 でもまあ、今はおじさんの事より可愛い可愛い妹分を労ってあげないとだよね。

 

「勉強頑張ってるんだねぇ」

「うん! スー、ハー。ミーシャお姉さまの香り……」

「おじさんの臭いなんてろくな臭いしないよぉ」

「そんなことありません! とっても安心できます!」

「恥ずかしいよぉ」

 

 うぅ、こんな子だったかなぁ。

 おじさんの記憶にあるエルは、体が弱くてよく横になってる内気な子だったのに……。 

 

「スー、ハー。スー、スー、スー」

「エル、ちょっと吸い過ぎだよぉ」

「……ミーシャお姉さまは、エリスの事がお嫌いですか?」

 

 あまりに臭いを嗅がれるのは恥ずかしいので、そろそろ引きはがそうと肩を掴むと、うるうると潤んだ瞳で見上げられる。ううっ、そんな顔されるとやめさせられないよぉ。

 もしかして、聖女教育が大変すぎて少しでも気を紛らわしたいのかな。

 

 そうなら仕方がないので、ぽんぽんと頭を軽く叩いて、撫でてあげる。無言の許可に、エルは一掃ぐりぐりと頭をおじさんの胸に押し付けてくる。

 なんか、猫にマーキングされてる気分。前世では公園の猫にはやたらと好かれる性質だったなぁ。

 そんなことを思いながら、エルが満足するまで待つことにしようかな。

 

 エルは病気で寝込みがちだったから、こうやって元気に歩き回れるようになって人肌が寂しいんだろうなと思う。においを嗅ぐってのは、建前で。

 懐かしいなぁと、エルの頭を撫でながら、のんびり孤児院の頃の生活に思いを馳せる。気が済めば、解放してくれると信じて。

 

 

 × × × × ×

 

 

 お姉さまお姉さまお姉さま。ミーシャお姉さま。

 絶対にわたくしのものです。わたくしだけのものです。

 お姉さまの二つの果実の感覚を堪能しながら、わたくしは全力でお姉さまにマーキングをします。

 聖女となったことで自覚した、わたくしの神聖力。その加護を、全力でお姉さまに擦りつけます。絶対に誰にも上書きさせません、わたくしの証でお姉さまを覆いつくして差し上げます。

 

 ふふふ、わたくしだけの、わたくしのためのお姉さま。

 孤児院にいた時は、どうしても、みんなのお姉さまでした。だって、ミーシャお姉さまはとても面倒が良くて、要領も良くて、物知りで、なんでもできた。パルメルさんだって、ミーシャお姉さまを頼ってた。

 

 でも、わたくしが聖女になったから。聖女として、孤児院から教会に移ることになったから。

 一人で新しいところに行くのは怖いと言って、無理やりお姉さまを連れていくことにしたの。――孤児院から離れられればわたくしだけのお姉さまになってくれると思って。

 

 その考えは、半分は当たって半分は外れました。

 孤児院のみんなは私たちを快く送ってくれたけれど、教会の方に問題があるだなんて。

 聖女となったわたくしは元病弱な平民の孤児なのに、その付き人は平民で孤児なんて認められないのですって。

 あり得ない話ですよ! わたくしとお姉さまを引きはがそうとする陰謀がそこら中に渦巻いているのです。

 

 ですので、わたくしは策を講じました。――お姉さまに喧嘩を仕掛けてきた人たちを、ことごとくわたくしが追い返せばよいのだと。そうすれば、いつかきっと、みんなもわたくしのお姉さまへの思いを理解してくれますよね? わたくしから、お姉さまを奪おうなんて考える人はいなくなりますよね?

 これだけ聖女が大事にしている人を、変に扱う人なんていませんよね? だって、平民の、病弱な、孤児が元々だったとしても、平民の、孤児が側に寄るのが許されないぐらい、聖女は大事な存在なんですから。

 

 ふふ、ふふふふ。

 ああ、そうやって、周りのみんなにお姉さまとわたくしの関係を認めてもらったら。

 その時は……お姉さまの子をわたくしが産むこととしましょう! 結婚式を挙げるのです!

 交わって、一つになって、ふふ、ふふふふふ。

 今から将来が楽しみ。

 

 だから、その時を待っててくださいね、ミーシャお姉さま。

 あなたを、絶対に手放しませんから。

 だから、今ばかりは、この香りを堪能することを許してください。

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