助けて! TS転生したらヤンデレ聖女様に執着されて困ってます!   作:ファクライ最中

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2話目 聖女様とはなんなりや

 おじさんたちがお世話になっている教会は、この国の王都にある、この国の中では一番大きな教会です。そのため、人の数も一番多いそうです。

 本来聖女はヴァンランス教導国と呼ばれる、教会の大本に行かなければならないらしいのですが、今回はエルが聖女覚醒前に病弱だったことを受けて、少しここで様子を見てから移動となるそうで。

 

 聖女というのは、教会の宗教的に重要な意味を持つだけでなく、絶大な力をその身に秘めているそうです。それらは聖女の奇跡と呼ばれているそうです。

 おじさんは見たことありませんが、死にそうなぐらいの怪我を治したり、雨を降らしたりもできるし、魔物を殲滅したりもできる。他にも聖女になると寿命が延びるだとかなんとか。まあ、人類を越えた人類になる、みたいな感じらしいんだって。おじさんには、よくわかりませんでした。

 おじさんにとって、エルはエルのままなので。

 

 聖女様は伝承にも出てくるので、その御力を持ってこの地に蔓延ってた悪しきものを討伐されたのだとか。その残滓が魔物として、今もなおを人を襲っているというのが風説です。

 

 では、ヴァンランス教導国に行かず、この教会にいる間に何をするのかと言われると、エルの方は聖女としてのお勉強になります。今後聖女として人々を助けるので、必要なあれこれを勉強しているわけみたいだね。偉い偉い。

 

 おじさんは何をしてるのかって? おじさんは……。

 

「お嬢さんありがとうねぇ」

「いえいえ。おじさんが手伝えることなら何でも言ってください」

 

 基本、雑用です。

 本来の役割はエルのお側付き、世話係なんですけれど、なんか偉い人たちの間で色々と考えることがあるらしくて。基本的には、教会のお掃除や洗濯ものとかの雑用をやってます。

 今は道に迷ってらしたおばあさんを礼拝所へ案内している最中って感じ。

 

 エルが一人で寂しくないようにってことで、おじさんも村の孤児院を離れて付いてきたわけだけれども、結局離れてる時間の方が多いんだよね。

 その分、エルの方から会いに来てくれるんだけれども。寝る前なんかは、毎回寝かしつけないと寝てくれなくて、少しだけ困っちゃうかな。孤児院の時よりも甘えん坊が加速してるみたい。それだけ聖女としてのお勉強が大変なんだってことなんだとは思うんだ。おじさんに甘えるだけで、今後の人々のためになるなら安いものだよね。

 

「それでは、こちらの道を進めば着きますので」

「ありがとうねぇ。お嬢さんはこの後は?」

「おじさんはまだ掃除が残ってますので、戻ります」

「あらまあ、邪魔しちゃったのかしら。ごめんなさいねぇ」

「いえいえ、お気になさらないでください。では、よき祈りを」

 

 別れの言葉をおばあさんに言って、掃除に戻ります。教会の前の掃除なので、朝の早いうちに終わらせないと。人が溢れかえるころになってからだと遅すぎちゃうから。

 教会の人と言っても、国の一番大きな教会ともなれば、そこで働く人たちも結構な身分であることが多くて。

 まあ、なんていうか、そういう損な役回りがおじさんに押し付けられるのは当然で。ははは……。

 

「こら、持ち場を離れてどこへ行ってたの!」

「ごめんなさい。礼拝所へおばあさんを案内してまして……」

「言い訳はいいからさっさと掃除に戻れ!」

「はいぃ~」

 

 ……まあ、こうなるよね。

 おじさん以外に掃除の要員も増やしてくれないし。虐めなのかなぁ、虐めかもしれない。

 まあ、おじさんが被害を被る分にはいいんだけどね。孤児院のみんなや、エルが元気ならおじさんはそれでいい。

 

 さて、それじゃあ教会前まで戻ってきて来れたし、掃除の続きをしますか。

 ……この量、一人で終えられるかなぁ。

 

「ミーシャお姉さまっ♪」

 

 とりあえず手を付けられるところから始めよう、と思ってたら、エルがやってきた。

 おやおや、いつもならこの時間は寝てる時間なのに。

 一人で着替えたのかな? 純白の聖女衣装に少し皺が寄っちゃってる。

 

「おや、おはよう、エル。今日は早起きさんだね」

「うん! ミーシャお姉さまより早起きしようと思ってたんだけれど……」

「あははは、それは残念だったねぇ」

 

 普段エルを寝付かせてからおじさんは別部屋に移って寝てるけど、流石にエルよりも遅起きするわけにはいかないかなぁ。立場もあるし、子供はいっぱい寝るものだよ。

 おじさん? おじさんも確かにまだ若いんだけれどね。どうしても、年長者って気持ちが強くてね。これも、おじさん仕草なんだろうけれど。

 

「寝込みを襲いたかったのに……」

「うん? どうかした?」

「ううん! なんでもなーい!」

 

 小声で何かぽつりとエルが呟いた。上手く聞き取れなかったけれど、何だろう?

 まあ、子供が何でもないっていうのなら、あんまり無理やり聞き出そうとしちゃ駄目だよね。この年頃のこの秘密ってのは、とても大切なものだから。

 大人になると、そういう些細なことでワクワクもできなくなるからねぇ。

 

「お姉さまはここで何を?」

「掃除だよぉ」

「……ここを、お一人で?」

「……そうだねぇ」

 

 エルが言いたくなるのも分かるぐらい、教会の正面は広い。大きな教会だからね。

 でも、訪問者が最初に見るのがここだから、汚い状態にはできない。

 やらないとなんだよねぇ。できるかどうかじゃなくて。ほうき一本でやらないといけない。

 

「……えい!」

「うわぁ!」

 

 エルが指を指し示すと、無風だった教会前に、急に風が吹き始める。

 パタパタと音を鳴らす服の裾を咄嗟に抑えるのがおじさんにできたことだ。

 隣にいるエルちゃんは大丈夫かと思うと、エルちゃんの方は風の影響をまるで受けていないみたいに、何事もなくそこに立ってる。

 

 風は、不思議なことに無秩序に吹き荒れるのではなく、まるで意思を汚れを掬い取るように、一か所にゴミを集めていってくれた。

 おじさんが一人でやったら何時間もかかりそうな場所の掃除を、たったこんな一瞬で……。

 これは……ひょっとして、聖女の奇跡?

 エルが、おじさんのためにやってくれたのかな?

 

「……エル、今のは、エルがやったの?」

「うん。……お仕事、邪魔しちゃった?」

 

 やっぱりそうみたい。

 エルが聖女様だって、正直今まであんまり実感がなかった。けれども、今のを見せられちゃうと……。

 私はそっと視線をエルの視線の高さに合わせて、エルの肩に両手を置く。エルの体がびくりと震える。

 落ち着いてもらえるように、ゆっくりと言葉を選んで話した方が良さそうかな。

 

「エル、奇跡はこういうことに使ってはいけないよ」

「……でも、お姉さま困ってたから」

「ううん。でも、奇跡は特別でないといけないんだ。でないと、奇跡で救われなかった人たちが、あまりに辛いでしょう?」

 

 エル自身が、こぼしたことがある様に。

 そういうと、エルは自分が何をしたのか理解した様子で、でも、納得はできてないみたいだった。

 

「……でもお姉さまのためだもん」

「親しい人だからと言って、特別扱いしてたらキリがないよ。親しいから救って、嫌いだから救わない、なんて聖女様は嫌だろう?」

「…………」

 

 黙っちゃった。

 仕方がない子だなぁ、もう。本当に、愛おしい子だ。

 肩に置いた手をそっと背中に回して、エルの事を抱きしめてあげる。

 

「ありがとう、嬉しかったよ。でも、おじさんだって自分の事は自分でできるんだ。おじさんのこと、嘘つきだっておもうかい?」

「……思わない」

「信じてくれてありがとう。じゃあ、エルも約束してほしいな。奇跡は、本当に大事なことにしか使わないって」

「うん」

 

 ああ、もう泣きそうになってるだなんて。可愛いなぁ。

 そっと背中に回してた手を頭に回して、撫でてあげる。

 エルはまたぐっとおじさんの胸に顔を押し付けてくるけれど、黙って受け入れる。

 

 そうやっていると、どこからか拍手の音が聞こえてきた。

 何だろう? と周囲を見回すと、礼拝所へお送りしたおばあさんが拍手をしながらこちらへ歩いてきているのが見えた。

 

「おばあさん? また道に迷われたんですか?」

「その節はありがとう。でも、騙してごめんなさい」

「へ?」

 

 再び風が吹き荒れる。今度は何!?

 

「姿を偽っていたこと、謝罪します。ですが、見たかったものは見られました」

「はぇ……?」

 

 風が収まると、そこにいたはずのおばあさんの姿はどこにもなくて。

 そこにいたのは、聖女しか纏えないはずの、純白の衣装を身にまとった空色の髪をなびかせる女性。

 

「第五聖女エリスがどんな子か見に来たのですが、大変良いものが見られました」

「……あの、もしかして、なんですけれども」

「申し遅れましたね。私の名前はアマリア。第三聖女、アマリアです」

 

 アマリア、さま。エルの様子を見にいらした?

 聖女様って、複数いらしたんですね。おじさんは、知りませんでした。

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