助けて! TS転生したらヤンデレ聖女様に執着されて困ってます! 作:ファクライ最中
「いやあ、聖女様が我らが教会にいらしただなんて」
「挨拶は結構。私は新しい聖女を見極めるのが目的ですので」
あの後、奇跡の力を感じ取ってか、司教様が慌てた様子でいらしました。
そしたら目撃されるのはアマリア様と、半泣きになっているエルを抱きしめてるおじさんの姿なわけで。まあ、何が起こったのか問い詰められるわけですよ。
正直に言ったら怒られるだろうなぁ、と思いながらも話そうとしたら、おじさんの言葉を遮るようにして、アマリア様が司教様に部屋に案内しろって言ったので。まあ、はい、こうなってます。
今は部屋に四人。おじさんの隣にエルが座ってて、アマリア様がおじさんたちの正面に座ってます。司教様は恐れ多いと立ってらしてますが、アマリア様は司教様に興味はなさそうっていう状況ですね。
おじさんもできれば立ってたいんですけどね。エルに服の裾掴まれてるし、アマリア様には名指しで立ち会うように言われてるしで、逃げ道がないんですよ。ええ、おじさんに一体何をさせようっていうんですかね。何もできませんよ。
「新しい聖女は病弱だ、だなんて笑止千万を耳にして来てみれば、やはり元気な様子。これについての申し開きがあるというのならば――同席を求めますが?」
「はっ! そ、それでは失礼いたします!」
ひえぇ~。一睨みで司教様を部屋から追い張らってしまわれた。
あっ、司教様! 去り際にこっちを睨みつけないでください! おじさんは何も悪いことしてないと思います!
できればおじさんも一緒に退室したかったんだけれども、それは到底許されない雰囲気。
これは、笑って許してもらえないか試すしかなさそうかなぁ。あはは……。
「あはは……」
「何を笑っていますの?」
「いえすみませんごめんなさい! おじさんが悪かったです!」
何に対して謝ってるのかわからないけれど、とにかく謝ろう。大丈夫、おじさんは知ってるよ。誠心誠意頭を下げ続ければ、大体の事は最終的には許してもらえるんだから。前世で実際にそうだったからね。
立ち上がって、九十度腰を曲げて全力で謝る。おじさんのこの謝罪で許してもらえなかったことは、数えるぐらいしかないんだから。
「……あの、顔を上げてくださいますか?」
「いえ、ごめんなさい!」
「いえ、その、怒ってませんので。むしろ、あなたには頭を挙げてもらわねば困ります」
……本当かな? ちらりと顔を上げてアマリア様の様子を見ると、本当に困ってる表情を浮かべてました。
嘘のようには見えないので、静かに顔を上げますと、ほっと安心した表情になってくれました。
「あなたが、聖女エリスの付き人である、ミーシャですね」
「は、はい。あの、おじさんの名前をご存じだったんですか?」
「ええ、一目でわかりましたよ。あまりにも、その、色々とついていらっしゃったので」
色々とついている? 何の事だろう。
エルがそっと視線を逸らしてたので、何かエルが悪戯でもしてたのかな? おじさんに心当たりはさっぱりないけれども。
「エル、悪戯したらダメじゃないか」
「……悪戯じゃないから」
「本当かなぁ?」
うーん、今エルを詰めても意味はなさそうかな。
それに、アマリア様を放っておくのはあまりに不敬だもの。後にしないとね。
「ここに来る途中、新しく生まれた聖女について話を聞いてきました。そして、その傍らには聖女が溺愛する娘がいるとも」
「溺愛なんて大げさですよぉ。エルとは、同じ孤児院で育った中で、姉妹みたいなものですから」
「姉妹、ですか……それにしては過剰な気も」
アマリア様がそっちエルの方へ視線を向けられた。
エルの方をちらっと見ると、ちょっとだけ不服そうにしてる。なんで?
「……いえ、あまり他人の関係に詮索を入れるべきではありませんね。不躾でした」
「いえいえ、お気になさらないでください。聖女様に関わることなんですから」
「ありがとうございます。やはり、あなたは心穏やかな方ですね」
「はえっ! いやぁ、おじさんはただのおじさんですよ」
あはは、と誤魔化すように笑う。合わせるようにアマリア様も笑ってくださった。
エルだけが不機嫌そうに頬を膨らませている。本当にどうしてしまったんだろうねこの子は。
「心配しなくてもあなたのお姉さんは取りませんよ」
「心配なんてしてませんので!」
「もう、エル。駄目じゃないか。先輩にあたる人なんだから、礼儀正しくしないと」
「ミーシャお姉さまはどちらの味方なんですか!」
もう、どうしちゃったんだろう。
アマリア様が気に食わないのかな? 人見知りするような年でもないと思うんだけれど。
「エル。おじさんはエルの味方だよ」
「でしたら――っ!」
「でも、同時にエルに今とても怒ってる。その理由を、わからないエルじゃないよね」
「……」
またふくれっ面になっちゃった。
仕方がない子だなぁ。
アマリア様に視線でエルを構う許可をもらう。すると、おじさんの視線を受けて、アマリア様はすぐに頷いてくれた。理解が早い人だぁ。
「エル。おじさんね、エルの事が好きだよ」
「……ミーシャお姉さま」
「でもね、おじさんは今のエルの事を大丈夫って言ってあげられない。ね? おじさんも一緒に謝ってあげるから、ね?」
「ごめん、なさい」
「うん、おじさんにじゃないよね。アマリア様に」
「……アマリア、さん、ごめんなさい」
「うん、よくできました」
そっと抱きしめて、頭を撫でてあげる。いつものように、エルはおじさんの胸の中に顔を埋め込む。
まったく、本当にこの子は。
「アマリア様。どうか無礼をお許しください」
「……最初から気にしてませんよ。今回の聖女は若いと話に聞いていました」
「寛大な御心、感謝いたします」
許してもらえてよかったねぇ。
こういう時、先輩に睨まれて何一つとして良いことなんてないんだから。
「ふふっ」
「どうかなさいましたか?」
「いえ、新しい聖女という言葉で不安でしたがあなたがいるようならば大丈夫そうですね。ミーシャさん」
「だと良いんですけど……」
ちょっとだけ、照れくさいかな。
でも、おじさんの存在がエルのためになってるって認められるのは嬉しいや。
「ミーシャさん。大切な妹さんと見知らぬ女性を二人きりにするのは不安でしょうが、少しの間だけ聖女同士で話がしたいのです。部屋の前で待っていただけますか?」
「そういうことでしたら。エル、失礼がないようにね」
「ミーシャお姉さま……」
「大丈夫、何かあればすぐに入ってくるよ」
最後にエルの頭を優しく撫でて、おじさんはそっと部屋から出て、その扉を閉めた。
× × × × ×
「……ふう、何を考えているのですか、あなたは」
「……私のミーシャお姉さまですもの」
やっぱり、この人、猫を被ってた。ミーシャお姉さまが部屋を出た瞬間、明らかに空気が変わった。
さっきまでのいい人振りからすっかり変わってますもん。
「やるにしても、加護はほどほどになさい。もしも彼女が普通の人間だったなら、倒れていてもおかしくない量でしたよ」
「っ!?」
目の前が暗くなっていくような感覚を覚えました。ふらつき、机に手を突いて、必死に堪えます。
ミーシャお姉さまが……倒れていてもおかしくなかった? そんなの、嘘。
「運よく相手が彼女であったので良かったですけれども……。はぁ、先が思いやられますわね」
なんで? 加護っていいものじゃないの? 勉強したのは、そういうものだって。
アマリア……さんはため息を吐きながら、教えてくれる。
「加護は聖女の奇跡の一端を渡すもの。相手の許容量を超えれば、過ぎたる力は毒となる。道理でしょう? お腹を満たすためにご飯を与えるのは良いですが、満腹の時に詰め込めば吐き出すのですから」
「……お姉さま」
そんな。私は、私はただお姉さまを……。
「正しい知識が必要ですね」
アマリアはニッコリと、人の好さそうな笑顔を浮かべてる。
やっぱり、この人は碌な人じゃなさそう。
「もしもあなたが知りたいのなら、教えてあげてもいいですよ」
「……別に」
「では、こう言い換えましょうか。彼女を自分のものにしたいのでしょう? その方法が知りたくはありませんか?」
――は?
私がずっと考えてきたことを、ずっと望んでいたことを、実現する方法があるっていうの?
「ご存じないようなので教えてあげますが――この世に聖女より権力を、武力を、能力を持っている存在などいません。」
そう言い切るこの人はやっぱり、聖女なんかには見えなかった。
私の目には、人を唆す悪魔にしか、見えなかった。
そのうえで、私は悪魔の手を取ることに決めたのでした。