夜明け   作:まごまご4795

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ウマ娘 スティルインラブ 育成シナリオ 二次創作

※これはシニアのジャパンカップが終わった後の時間軸です。

どうか二人に幸多からんことを。



貴方を、君を愛してる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ッッ!!」

 

もう結合しかかっている【ソレ】は不意に囁いてきた。

 

『足りない……もっと……もっと チョ ウ ダ イ?』

 

ここでの走りを最後にするつもりでいた私は、更なる欲望の声に吞み込まれそうになる。

 

「こ、これ以上は……もう脚が……」

 

先ほどの殺し合いにも見えるほどの狂気の満ちた競り合いに、震えの止まらなくなってしまった脚。

 

元々自身が長くないことは確信していた。

 

『だぁって……未来なんていらないって言ったのはぁ……ア ナ タ でシょう?』

 

「…………」

 

このまま消え去る覚悟。脚が完全に壊れてしまうか、それとも『彼』の傍から離れるか。助ける方法が違うだけの話で、私自身のことなどどうでもいいのは事実だ。

 

ただ……

 

「せめて……最後の言葉だけは……」

 

あの人を破滅の道へと巻き込んでしまった。この先に続くのは何より恐ろしい結末であることを彼も理解しているだろう。

 

それでもあの人は。それをも知ったうえで私に全てを賭してくれた。それこそ狂気にも近いほどの優しさで。

 

そんなあの人に大きな傷跡を残してしまうのは、きっと贅沢すぎる願いだから。

 

「……ううん。わかった。最後まで付き合うわ。あなたの欲望がすべてを喰らいつくすまで……」

 

『フフフ……アッハハはハ!!アハハは!』

 

私はきっと……もう、笑えない。それでもどうか……

 

貴方は笑っていて。

 

だって、貴方の笑顔が……

 

大好きだから。

 

 

 

 

 

ここはどこで、俺は何をしているのだろう。

 

今がいつで、何をしていて、何が始まり、何が終わっていくのか。

 

ただ一つ確かなことがあるとすれば……

 

俺が、スティルインラブのトレーナーであるということだけだ。

 

思えばあの日が、すべての始まりで、すべての終わりだったのだろう。

 

視界が赤い。世界とは最初から赤かったのか。

 

赤。赤。赤。

 

目に映るもの全て、真っ赤だった。

 

でも、そんなことは気にしなくていい。すべては彼女の走りを見届けるため、この生を受けたのだから。

 

ジャパンカップの後、彼女から有馬記念へ出たいとの申し出があり、それを承諾した。

 

願ってもみない話だ。あのレースは一年の最後を飾る国内最高峰のレースと言っていい。

 

きっとそこで、彼女が見せてくれるのはきっと……

 

「……美しいんだろうな」

 

ジャパンカップの出走前以上の胸の高鳴りを抑えきれずにいる。何故ならば……

 

あの三冠ウマ娘の3人が出走を表明したのだ。

 

その全員を凌ぎ、喰らいつくした彼女はきっとこの世の者とは思えないほどの狂気的な輝きを放つに違いない。

 

「楽しみだ……」

 

何か小さな紙袋を手に、俺はトレーナー室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

中山レース場。ここにはたくさんの蹄跡、歴史が刻まれている。

 

不思議なことに、年末のこのレース場では必ずドラマが起こる。それはまるで三女神が毎年魔法をかけているかのように。

 

そして、その地に再び競争者として足を踏み入れる者がいた。

 

「彼女には二人にするように言われていたのだが、流石に受け入れるわけにはいかなくてね」

 

かつて皇帝と呼ばれたウマ娘が、今までにないほどの真剣な表情でそう告げた。

 

先日行われていたレースで、尋常ならざる気配に気づいていた彼女はあの二人を止めるため、この有馬記念へと出走を表明したのだ。

 

それもわざと目立つように記者会見で大きく。

 

「くだらん。怪物退治ならさっさと済ませてしまえばいいだろうが」

 

ルドルフの横に並び立ち、そうボヤいたのはナリタブライアンだ。

 

「アイツは自分の強さを制御出来ていない。そんなものを強さとは呼ばん。借り物の力に振り回されているだけだ」

 

苦々しい表情で、ブライアンはそう言った。

 

彼女は強者との戦いを何よりも求める。そしてスティルの走りには彼女の望むような強さが宿っているとは到底思えなかったのだろう。

 

「あはは、でも実際こうして一緒に出走してくれてるワケじゃない?優しいなぁ」

 

「……やかましい」

 

あっけらかんと笑いながらブライアンをからかう3人目の三冠ウマ娘。自由奔放な彼女は、本来ならあのラモーヌと同じく深くは触れないところにいるはずのウマ娘だった。

 

態度はそれぞれ違うが、ここに集った理由は皆同じものだった。

 

「……らしくないよね。ルドルフはともかくブライアンとアタシは」

 

「すべてのウマ娘に幸福が訪れるようにと、常日頃から動いているつもりだが……今回ばかりは私のエゴなのかもしれないな」

 

長きに渡り、彼女が掲げている夢。それは今もなお続いており、しかしスティルインラブを見ていると彼女はその理想から外れかかっている唯一の例外とも言える。

 

だが、二人にとってそれが幸せなのだとわかっていても、行動を起こさずにはいられなかったのだ。

 

あの二人が、戻れなくなってしまう前に何としても……

 

「連れ戻さなくてはな。さぁ、行こうか」

 

言の葉を紡いだところで止まらないというのなら。

 

彼女たちが、魂で直接語り合うことのできる場所はレースだけだ。

 

ターフを駆ける者にしか、走りにありったけを注げる者にしか、伝えられないことがある。

 

虚心坦懐。彼女と彼を、あるべき場所へと。

 

 

 

 

 

有馬記念レース前地下バ道を歩いている二人。

 

「ええ……もうすぐですよ。トレーナーさん」

 

もうすぐ、とは果たして何を意味しているのだろうか。

 

時間が、感覚が、焼け焦げてボロボロと崩れ落ちていっている。

 

彼女の言っている、もうすぐ とは一体なんなのだろうか。

 

「無理なお願いを聞いてくださり、ありがとうございます。ですが、今日はジャパンカップ勝利以上のものを捧げることをお約束いたしますね」

 

それはもう走る前からわかっている。だって、それを見るために命を繋げてきたと言ってもいいのだから。

 

クラシック三冠ウマ娘3人との直接対決する有馬記念。ジャパンカップを超えてしまうほどの夢の舞台に違いない。

 

「ああ……ふふふっ……血が、血が滾ってしょうがないの……」

 

彼女は嗤っていた。

 

だが、俺は。

 

そんな彼女を何よりも……

 

……何よりも?

 

 

 

 

 

 

――――――――――

※ランダムイベント 想いのカップケーキ(ご飯イベント)から引用

 

「……トレーナーさん、それは……?」

 

スティルインラブのおやつにどうかと思い、動画で見た簡単なカップケーキを作って持ってきた。

 

「美味しくできた……はず」

 

「まぁ……ふふっ。もっと、自信を持ってください」

 

「ですが、よいのですか……?せっかく美味しくできたカップケーキを、私に……」

 

「そのために作ったからね」

 

「……わ、私のために……?」

 

(私が……お菓子が好きだと、ご存じで……それで、わざわざ……?私のことを……想って……)

 

「あっ……」

 

(……っ、いけない……!嬉しくて、声を上げそうに……落ち着いて、気持ちを伝えなくては……)

 

「スティル?」

 

「と……とても嬉しいです。本当に……本当、です」

 

「……ありがとうございます。大切にいただきますね……」

 

 

「はぁ……本当に美味しいです。口の中に広がる甘さに、優しさを感じて――」

 

「…………」

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「……後味を、楽しんでおります。ふふ……幸せ……」

 

スティルインラブはカップケーキをひと口食べては、『美味しい』とこちらに微笑んでいた。……幸せそうだ。

 

「はぁ……美味しくて……いつもより少し……食べるペースが、早くなったような……ふふ」

 

「お腹いっぱいじゃない?」

 

「い、いえ……まだ食べられます……その、食べたいです。残したくは……ありません……」

 

テーブルの上には、まだたくさんのカップケーキが残っている。一気に食べるには多い気もするが……。

 

「これは冷やしても美味しいよ」

 

「本当……ですか?」

 

「で、では冷蔵庫で冷やして、とっておくことにします。冷やした味わいも……楽しみです」

 

「ふふ……貴方の想いが込められたカップケーキ……」

 

「誰にもとられないよう……名前を書いておかなくてはいけませんね……」

 

 

 

 

―――――――――

「……?トレーナー……さん?」

 

何故今になって思い出すのだろう。あの暖かな日々を。

 

何故今になって焦がれているのだろう。彼女の嬉しそうな微笑みを。

 

全ては焼け落ち、灰になって消え去ってしまっているはずなのに。

 

何故?何故?何故?

 

「うっ……痛っ……」

 

「まぁ……トレーナーさん、……大丈夫ですか?」

 

彼女が倒れそうになる俺を支えてくれた。そうして彼女の温もりに包まれる。

 

俺が見たかったものはこれから始まる。そう、倒れている場合ではない。

 

それが見られれば、あとのことはどうなろうと……構わない。

 

不意に、手から落ちた何かが、床にカサリと落ちる。それは紙袋で、中身が少し床に散らばった。意識もしていなかったそれを見ようとしたとき、何かが訴えかけてきた。

 

「―――――――」

 

あの声にならない声が聞こえ、視界にまた靄がかかる。だけどその時だけは何故かそれを見なければならない気がした。

 

カップケーキだ。

 

「あ……トレーナーさん……それは……」

 

スティルもそれを見て、驚きの表情を浮かべた。

 

「もしかして……今日も作ってきてくださったのですか……?」

 

それ自体は何の変哲もないただの簡素なカップケーキ。無意識のうちにあの時と同じように作っていたのだろう。

だが、何故今日に限ってここに持って来ていたのだろうか。先ほど不意に思い出していたあの日々が、再び脳裏によぎる。

 

俺が、本当に見たいものは……ナニ?

 

彼女の狂気的な走り……?それは本当だ。彼女がレースに勝ってみんなに知ってもらうこと?それも本当だ。彼女は皆に愛されるべきだから……

 

あい される べき ?

 

心臓が押しつぶされそうなほどの激痛に見舞われる。しかし、彼女に抱き留められているので自分の胸を押さえられず、スティルを抱き返す形になってしまう。

 

「ふぁっ……ト、トレーナーさん……?!痛ッ……」

 

彼女は最初動揺していたが、あまりに強い力で抱きしめ返したため、スティルは苦悶の表情を浮かべる。

 

彼女も俺も、もうすぐ枯れ果ててしまう。最後の言葉だけでも伝えなくてはならないと、かき混ぜられ続ける思考を必死で無理やりまとめ上げる。

 

ナニを、伝えナくてはイけない?

 

「スティル……」

 

「は、はい……なんでしょうか……?」

 

その言葉は、気が付いたらあふれ出していた。

 

「俺は……君を」

 

 

 

「愛してる」

 

 

 

「なっ……」

 

俺が、本当に何より欲していたものは……

 

「君の笑顔が、好き……なんだ」

 

彼女の笑顔、彼女の優しさ、彼女の……想いだった。

 

「…………ッ!!!!」

 

その時、ゾクリと背筋が凍る。憤怒に満ちた感情が表情を見なくても伝わってくる。

 

「……つまらない。……アナタの魅せられていた狂気は……その程度のものなの?」

 

かつてないほど凄まじい殺気。抱きしめられていた力が骨が折れそうなほどに強まる。今まで聞いたこともないほどの底冷えするような声に身がすくむ。

 

でも、それでも何とか言葉を返した。

 

「時間がかかった、けど……やっと……やっと気付けたんだ」

 

「最期に、伝えられて……良かった……」

 

「……ッ!いいわ。腐った果実はいらないの」

 

「がはッ……うあぁぁぁぁ!!」

 

ミシミシと、体中が悲鳴を上げる。ここで狂気に魅入られたあの気持ちを翻したとき、こうなることは分かっていた。

 

彼女と俺はもうすぐ終点にたどり着く。どのみち遠からず果てるのなら、後悔のないように伝えておきたかっただけ。

 

真紅に染め上げられた視界が徐々に滲んでいく。

 

それは、まるで世界の終わりのような……

 

そんな光景に見えた。

 

 

 

 

――――――――――

「……その人を離して……!!」

 

「なぁに?今になって出てきて。極上の果実がようやく完成しそうだったのに……」

 

心底つまらなさそうに、もう一人のワタシがそう吐き捨てトレーナーさんを投げ捨てるように地面に転がしてしまう。

 

今にも消えてしまいそうな私の意思。きっとすぐにでも抑え込まれてしまうだろう。

 

それでも、譲れない想いが、確かな絆が、切なる願いが、ここに確かに在った。

 

後少しでも痛めつけられれば、彼は消えてしまう。

 

「それ以上、傷つけるのは許さない……!!」

 

「あッハ!!何言ってるの?アナタ自身も気づいてイるんでしょう?もう、アナタたちはこの世界からいなくなるノ。壊しても、放っておいても、結末は変わらないのに!!」

 

「……極上の果実が欲しいんでしょう?私が、……貴女に捧げるわ」

 

「へぇ……?何をするつもり?」

 

ワタシが何を渇望しているのかは自分が一番よく知っている。

 

レースで強者とのぶつかり合い、その先にある魂と魂がしのぎを削るあの瞬間。

 

そしてその果てにすべてを喰らいつくす、あの赫き胎動を。

 

「……奪わせない。あの人の心だけは……!!」

 

「そう……せいぜい……楽しませてよねェ?!」

 

どうか待っていて。心の奥底に沈められていた私をその言葉で目覚めさせて下さった……

 

 

 

最愛の人。

 

 

――――――――――

喰らいあい、奪いあった。

 

あまりにも醜い、お互いの欲望を、魂を、燃え果てるまでぶつけ合った。

 

一つの器に、あまりにも大きすぎる二つの存在。それは元々、一つになりかけていたハズだった。

 

だが、ほんのわずかに残されていた意思が結合を拒み、か弱かったその心にもう一つの魂に抗う力を与える。

 

それは果たして正しいことだったのか、諦めていたあの人との再会を渇望した私は……

 

自身のすべてを振り絞り、抗い続けた。

 

 

 

 

 

――――――――――

「はぁ……はぁっ……!!」

 

「…………」

 

抵抗し続け、荒々しくなった呼吸。だが、最後まで一歩も譲りはしなかった。

 

彼の一番の望みをすぐ傍で叶えたい、その一心だけを灯火として。

 

「……本当に勝手。恐れて、抑え込んで。必要になった時だけ都合よく呼び出して。挙句最後には奪い取ろうだなんて」

 

「……え?」

 

いつものワタシと明らかに違う声音。狂気に身を委ねた悦楽を、今の声からは微塵も感じなかった。

 

まるで、何もかもうまくいかなくて拗ねてしまっている子供のような。そんな声に聞こえる。

 

思えば、私がワタシと面と向かって分かり合おうとしたことなど、数えるほどしかなかった。

 

そんなことができるはずもないと、自分自身が半ば諦めていたからだ。

 

「アナタの、勝ちよ」

 

「……は?……え?」

 

ワタシの存在が、自分の体から消え始めていることに気が付く。

 

眠るのではない。完全なる決別になることを本能が感じていた。

 

けれど、初めて心からの本音を曝け出したワタシに、思わず手を伸ばしてしまう。

 

「ま、待って……!ど、どうして今頃になって……そんな……!」

 

「アナタはその灯火で抗って、そして勝ち取った」

 

「納得なんかしてない。認めたくもない。……でも」

 

自身の体から離れ、歩き出すワタシは、ほんの少しだけこちらを向いて、

 

「彼を……本当に、心から愛しているのなら、勝手にすればいい」

 

一筋の涙を零した少女は、その言葉を最後に光の粒子となって消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

「…………」

 

残されたのは静寂。

 

募る思いや考えたいことが数えきれないほどあるけれど、今は何よりも先にしなければならないことがある。

 

「……トレーナーさん……ごめんなさい……」

 

私はその場にへたり込み、大粒の涙を零しながらそう吐き出した。その謝罪には、幾多の意味が詰まっていた。彼には伝えたいことも聞かせて欲しいこともある。それを成し遂げるために。

 

「……帰りましょう。トレーナーさん……」

 

あの紙袋を拾い上げ、彼を抱きかかえて、私は地下バ道を後にした。

 

 

 

【有馬記念出走が取り消しになった……】

 

 

 

 

 

――――――――

「……う、うぅん……」

 

暗闇に沈んでいた意識が少しずつ浮かび上がってくる。

 

最初に視界へ飛び込んできたのは、真っ白な天井と、そして……

 

「……トレーナーさん?」

 

……スティルインラブだ。俺と目が合う。

 

少しの間。そして持っていたタオルを落とし、彼女は瞳から涙を溢れさせた。

 

「トレーナー、さん……!!」

 

「む、んぎゅ!!」

 

すごい勢いで飛びついてきたスティルインラブを受け止め、抱きしめ返すが、

 

凄まじく強い力でぎゅうっとされてしまったので、またもや骨がミシミシしだす。

 

「んごほぉ、スティル、ちょ、ちょっと緩めて……」

 

「あっ……その、ごめんなさい……」

 

慌てて彼女は力加減を調節してくれた。

 

今ので大分意識がはっきりしてきたので、周りの様子を見てみる。

 

恐らくここは病室だ。そして自分の身に何があったのか記憶を手繰り寄せてみる。

 

状況を確認してみると、一番の変化を見落としていたことに気づく。

 

……あの真紅に染まっていた世界が、赤黒くドロドロとしていた思考が。

 

どこまでも澄み渡っていて心地よかった。そしてそれが、何を意味するのかも何となく察しがつく。

 

それでも本人に聞かずにはいられない。

 

「スティル、えっと。あの地下バ道で一体何が……」

 

「……あ、それは……」

 

彼女は自身の涙を拭い、あの日何が起こったのかゆっくりと教えてくれた。

 

 

 

 

 

入院して一週間が経過していたこと。

 

彼女が、【スティルインラブ】の中に存在していた『本能』と、死闘の末に決別したこと。

 

三冠ウマ娘の三人が有馬記念に出走した理由が、スティルを全力で止めるためだったということ。

 

本来なら終わりかけていた自分たちを繋ぎとめたのは、他ならない俺自身の言葉であったこと。

 

無事だったカップケーキがとても美味しかったこと。

 

「最後のやつだけちょっと違くない?」

 

「あ、えっと……それはでも、私にとっては……大事なことだったので……」

 

突っ込みつつも、大事なきっかけであったことは勿論自覚がある。

 

陽だまりのような暖かな日々の記憶が巡り、本当に伝えたかった想いを口にすることができたのは間違いなくあの瞬間があったからこそだ。

 

「……ご自身の意識が消えかかっていたあの時でも、貴方が私を想っていて下さったのがわかったんです……だから、私は……」

 

「……戦うことができた」

 

スティルはその言葉を嚙みしめるように目を閉じる。

 

優しすぎる彼女が本能と正面からぶつかり合った時、成す術もなく呑み込まれてしまうと、そう勝手に思ってしまっていた。

 

けれど、それは違っていたようで。

 

「……トレーナーさんをワタシに奪われたくない、なんて。きっと、深い欲望に囚われてしまっているのは、きっと、私の方なのだと思います……」

 

レースの度に本能に頼り切りで、その上であの子に俺を奪われたくない、と。

 

あまりに身勝手で、あまりに強欲で、あまりに我儘な彼女の選択を、俺は……

 

「いいんじゃないかな?」

 

「……え?」

 

肯定した。

 

スティルがぽかんとしている間に、俺は構わず続ける。

 

「欲望に正直でいいと思う。身勝手でいいとも思う。だってそれは紛れもなく、自分のしたいことを、より行動に表せるようになった証拠だから」

 

「君の本能に魅入られているのは今でも変わらないよ。けど、君があの子を止める判断をしたこと、俺は尊重する」

 

「……私の、したいこと……」

 

残念だと思う気持ちが、無いと言えば嘘になる。

 

力強い走りに魅せられるという、トレーナーであるからこその本能は間違いなく存在していた。

 

だから、走りよりもあの想いを取ってしまった俺は、きっとトレーナーとしては失格なのかもしれない。

 

だが、それもまた身勝手な欲望だろう。

 

「ある意味おあいこじゃない?」

 

「……あ、ふふっ、そう、かもしれませんね……」

 

笑いあう俺達。身勝手同士だし、気持ちが通じ合うのも早いのかも?

 

これほどの好き放題をやったのだから、きっといずれ清算しなくてはならない日が来るだろう。だが、残念な気持ちこそあれど、後悔はない。

 

「やっぱり、君の笑顔が見たいな」

 

「……!!あう……」

 

自分の瞳の色に負けないくらいに頬を真っ赤に染めた彼女は恥ずかしそうに俯く。

 

そんなスティルの手を取り、耳元で告げる。

 

「スティルからの返事が聞きたいかも」

 

「……!!そ、それは……」

 

説明しなくても、何のことを言っているか彼女は分かったようで、オロオロし始める。

 

しかし、やがて意を決したように、こちらをまっすぐ見つめてくる。したいことを正直に表現できるようになった今の彼女ならきっと大丈夫。

 

「……わ、私は、貴方を……」

 

「今でも……そして、これからも……」

 

その日、彼女が語ってくれた想いを、未来永劫ずっと忘れない。

 

「―――――――」

 

この物語の結末はすでに決まってる。……そのはずだった。

 

過去は変えることができない。俺達にできるのは、これから描く未来を変えることだけだ。

 

そのために、今、この時から再び歩き出そう。

 

俺達二人ではない、皆が笑顔になれる未来へと―――――

 

 

 

fin

 

 

 




まずは最後まで読んでくださってありがとうございました。
ウマ娘のシナリオ関係でこういったものを書くのは初めてだったので、拙い部分も多々あったかと思いますが、それでも付き合ってくださった方に感謝を。
先に言っておきたいことがあるのですが、スティルのシナリオ自体は歴代の中でも屈指のクオリティだと思っています。
決して否定したいわけではありません。悲しみも恐怖も切なさも、全部ひっくるめてキャラ設定と共に、お話にきっちり落とし込んだライターさんの腕には脱帽しております。
多分正しいとか正しくないとか、そういうレベルの話じゃないんだと思います。
なのでこれは、自分が描いた二人と同じく身勝手な願いですw
ていうかあの話のあとに元気にライブしてるスティルを見て、どう受け取ればいいんだっていう感情が……ww
ちなみに自分、おユニがめちゃくちゃ好きで、あの子のシナリオの終着点にとんでもない答えが出ていたのですが、それを参考に身勝手なら身勝手なりの変わり方を書いてみましたw
愛ってすげぇよなぁってw
本編のスティトレは手の施しようの無いほどに壊れてしまっていたと思うのですが、魅入られた狂気を超える動機が必要なんじゃないかと考えました。
…………そんなの突然ぽっこり生えてくるわけないだろうが!!(血涙)
大分弱くないかと思いつつもカップケーキ君にお願いしました。君、その役割重すぎない?www
いやまぁ勿論カップケーキの奥にある想いがって話なんですよ。ホントにカップケーキでああなってたらそれもうギャグだから……w
ともあれ仕上がっているシナリオに対して、こういうことをするのは無粋だと分かっているのですが、やっぱり二人には日の当たる場所で、たくさんの人たちに囲まれて欲しかったという思いが強まっていくばかりだったので、こうして吐き出した次第ですw
カイチョーは本編だと、ラモさんに手ェ出すな言われて身を引いているのですが、結局譲らなかったカイチョーにしてみました。
巻き添え喰らったブライアンとシービーが気の毒ですがw
結果的にはスティルは出走を辞退したので、多分裏でブーちゃんがルドルフにギャーギャー言ってるんじゃないかな?w
おユニやアドグルちゃんは関わりの深い子たちなので、正直介入させようかかなり迷ったのですが、あくまで二人の身勝手、ということでそれを意識してラストにもっていきました。
一応、スティルより前の子だけを意識的に集めてみました。本編でも牝馬三冠として話に介入してきたのはラモさんだけだったと思うので。
多分この世界線の場合、スティルはラストランがビリでそのまま引退、そんでトレーナーと結婚して花屋でも開くのではないかなと思います。
そこにやってくる小さいウマ娘の子……
それがジューダになるって感じですかね?
ダラダラ書いちゃってすみません。ここまで見てくださって、改めてありがとうございました!!
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