仮面ライダーガッチャード&デッドプール&ウルヴァリン デイブレイク・オブ・フューチャー・パスト 作:バリー
『24番ストリート駅』に辿り着いたウェイドとローガンは、カサンドラが起動させたタイムリッパーからエネルギーを吸い取り、虚無を除いた全ての時間軸を破壊しようとしていることをパラドックスから聞いた(使用可能にしたのは、カサンドラの拷問に屈した彼だったが)。
タイムリッパーを作動させるパワーは、地下室から供給された物質と反物質が合わさることで生まれる。
リッパーを止めるには、地下室にある二本の導管をショートさせなければならない。一人がそれらを繋いで回路を作れば、放出されるパワーでリッパーは破壊されるのだ。
しかし、この解決法には重大な欠点がある。
それは導管を繋いだ者は、消滅してしまうということだ。
体内に流れ込んだ物質と反物質が混ざり合うと、体が粉々になって死んでしまう—ヒーリングファクターを持つ者も例外ではない。
「私を疑っても、物理は信じろ…回路を作ることは出来ても、その者は必ず消え失せるぞ!」
地下道を通って制御室に向かうウェイドを、ローガンは「ちょっと待て」と呼び止めた。
「あのクソ野郎の話を聞いたろ?これが上手くいったとしても、死ぬんだぞ?永遠にだ。」
「だからこそ、オレがやる。」
「なに?」
ウェイドは覆面を脱ぎ、ローガンに素顔を晒す。
「いいか?アンタは巻き込まれただけ…アンタの言う通り、オレは騙した…アンタとアンタのお友達の仲間をダシにして、嘘をついた…アンタの力を借りたかったから…」
「嘘じゃない。『希望的観測』だろ?それに—」
ローガンはウェイドを見据えた。
「お前が連れ出してくれなかったら、俺はずっと逃げ続けていた。戦うこと、傷つくこと、そして誰かを守ることから。」
陰惨な現状から目を背けて、自らの殻に閉じこもっていた毎日。誰かの助けを求める声を無視していた日々。
理由が利己的なものだったとはいえ、ウェイドはそんな自分を怠惰な生活から引き離し、ヒーローとしての自分を取り戻すきっかけを与えてくれたのだ。
ローガンはウェイドにあるものを手渡す。それはウェイドの『家族』の写真。アジトの近くで、彼が落としたのを拾っていたのだ。
「俺はもう逃げたくない。自分を必要としている奴らに今度こそ報いたいんだ。X-MENとして。ヒーローとして。」
それが、かつて諦めた者が踏み出す一歩。
「いいか、俺は死にに行くんじゃない。希望を繋ぎに行くんだ。」
自棄になっての自殺ではなく、今にも壊されそうになっている誰かの世界を救うため。
ローガンの目からは、諦めや自己嫌悪というものが感じられなかった。
そこに宿っているのは、自らに課せられた使命を果たそうとする決意。
「俺にやらせろ。」
ウェイドが呆然としたまま頷くと、ローガンは彼の胸を拳で叩き、制御室のドアの方へ歩き出す。
その背中にウェイドは話しかけた。
「なぁ…」
ローガンが振り向くと、ウェイドは涙を浮かべたまま微笑んでいた。
「アンタと組むことが夢だったよ。そしてアンタは…『最高』のウルヴァリンだ。」
それを聞いたローガンはボタンを押してロックを解除すると、ウェイドの方をちらりと見る。
「お前の友達によろしくな。」
そう言い残して、ローガンは部屋の中に入る。
そして背後にある扉を閉めようとしたその時、顔面に赤い塊が飛び込んできた。
殴られたローガンが仰け反った隙に、ウェイドは持っていた消火器を床に投げ捨てると、すかさず彼の身体を掴んで部屋の外に追いやった。
そして今度は自分が中に入り、扉をバタンッと閉めて施錠する。
「扉を開けろ!」
「『崇高な犠牲』とかいうヤツがうるさくて、なんにも聞こえませ~ん!」
覆面を被り直していたウェイドが、ガラスの向こう側のローガンにおちゃらけた様子で返す。
「なんでこんなことをするんだ!?」
「だってオレちゃん、『マーベルの神』だもん。」
ウェイドは扉のガラスに右手を重ねる。
「それか、『スポック』。」
薬指と小指をくっつけた状態で手を開く。
「どっちかな?」
そしてローガンの前から姿を消した。
かと思いきや、すぐに現れてしばらくクロールやエスカレーターなどのパントマイムをする。
「ゴメン!どうやら死ぬことにビビってるみたいだ!」
愉快そうに笑っていたが、その声は僅かに震えていた。
マスクをしたのは、これから『死』に向かう自分の表情を隠すためか。そうすることで、ローガンの罪悪感を軽減させようとしているのか。
とんだ大馬鹿野郎だ、とローガンは歯噛みする。
「俺が行く!」
「オレの友達によろしく言っといてくれ。」
そして、ウェイドは今度こそ扉の前から姿を消した。
「ウェイド!馬鹿な真似は止せ!お前死んじまうぞ!」
扉を叩く音と自身を止めるローガンの怒鳴り声に構うこと無く、ウェイドは歩を進めていく。円状になっている迂回路を経由して、物質と反物質が流れる二本の柱型の装置がある中心地に辿り着いた。それぞれが中で流れる粒子によって、青とオレンジ色に輝いている。
ローガンは扉のガラスに拳を叩き続けるが、大きなヒビが一筋入っただけで一向に割れる気配がしない。
「お前が犠牲になることはない!」
「これは『自分のため』じゃないんだ…」
ウェイドは、青く光っている方の装置を見据える。
「『必要とされている』からやる…!」
装置を殴りつける。破壊されたところから、蒸気が吹き出した。
中の導管を複数掴んでそのまま引きずり出す。そしてその束を右手首に巻き付けると、ウェイドは装置に足をかけて踏ん張り、両手を使ってさらに引き伸ばしていく。
上階にある別室。置かれたタイムリッパーの前に、カサンドラは立っていた。
コートをまくって露出させた両腕には器具が取り付けられており、タイムリッパーと導管で繋がっている。
部屋の壁や天井がほどけて、無数の糸になっていく。彼女は次元を壊す力に、恍惚の表情を浮かべていた。
TVAの司令室でB-15が、地下鉄の駅でパラドックスが『時間軸安定率』と書かれたモニターを固唾を呑んで見つめていた。
時間軸安定率—53%
時間軸安定率—44%
メーターが徐々に数値を減らしていく。
ローガンが制御室のドアに体当たりする。鋼鉄製のドアが僅かに凸むが、それでもまだ獣の侵入を阻み続けている。
ある程度の長さになった導管を右手で掴んだまま、ウェイドは反対側の装置に左手を伸ばす。しかし、中々届かない。
両足を動かして無理やり距離を詰めようとするも、僅か数ミリ程度しか縮まらなかった。
制御室のドアが再び衝突音と共に凸む。
タイムリッパーから体内に流れ込むエネルギーに、カサンドラは快感の余りに白目を剥いて笑みを浮かべる。次元のほつれが加速する。
ウェイドが唸り声を上げながら腕を伸ばす。
衝突音。ドアの凸みがさらに突き出る。
時間軸安定率—39%
「間に合わない…」
モニターを見ているパラドックスは悲嘆する。
時間軸安定率—24%
ドアの壁が轟音を立てながら、大きく突き出る。
ウェイドの苦悶の声。
激突音が響く。ドアがもう少しで破られそうになる。
時間軸安定率—12%
モニターの前で部下と顔を見合わせ、パラドックスは絶望の声を漏らした。
「おしまいだ。」
地下室にて、ウェイドは今握っている導管に視線を戻す。
時間軸安定率—08%
右手にありったけの力を込めてさらに導管を伸ばそうとする。
時間軸安定率—05%
びくともしない。伸ばした左手も届かない。
右腕に粒子が流れ込み、そこから青い光が漏れ始める。
時間軸安定率—03%
ウェイドの左腕が左手に掴まれる。
視線を向けると、そこにはローガンの顔があった。オレンジ色に輝く装置目がけて素早く、彼は右の拳から爪を展開する。
反物質が爪を通して、ローガンの体に流れ込む。その衝撃でスーツが破れて上半身が露わになった。
ウェイドは彼の姿を改めて確認し、しっかりと彼の手を握りしめる。
二人に物質と反物質が流れ込み、身体の表面が赤熱化していく。
時間軸安定率—04%
モニターを見つめるB-15の心臓は、早鐘を打っていた。
時間軸安定率—05%
タイムリッパーに繋がれているカサンドラが、苦悶の表情を浮かべる。暴走したエネルギーによって、彼女の身体にヒビが入っていく。
逆再生したかのようにほつれが部屋の一部にへと形成し直す。
時間軸安定率—06%
地上ではデッドプール軍団とピーター、そしてガッチャードPと彼に抱えられているホッパープールが『何か』を感じ取ったのか、駅がある方角に顔を向けていた。
ガッチャードPのホルダーから二枚のケミーカードが飛び出し、一目散にホームの方に向かう。『価値のある行動』を取る二人に力を貸すために。
駅内でのパラドックスや部下達はモニターに釘付けになっており、浮遊するカードが自身の側を通ったことに気づかない。
時間軸安定率—07%
赤熱化したウェイドとローガンの身体に亀裂が走り、光が漏れ出す。大量のマグマが噴き出す寸前の地殻の様に。
カサンドラが装置に繋がれた両腕を引っ張り、抵抗する。
時間軸安定率—02%
時間軸安定率—01%
だが、二人のエネルギーがそれを上回る。
時間軸安定率—02%
時間軸安定率—03%
火花が乱舞する嵐の中心地で、ウェイドとローガンは必死に世界を繋ぎ続ける。
ほつれが完全に収まり、タイムリッパーの背面にある壁が元通りになる。そしてカサンドラがいる部屋の柱のタイルなどが剥がれ始める。
体内で暴れ狂うエネルギーがウェイドとローガンの身体の亀裂を広げ、意識が飛ぶような灼熱の痛みを二人に味わせる。
ふと、彼らの脳裏に様々な光景が浮かび上がってくる。走馬灯、というものだろうか。
『アンタこそ、X-MEN。だって、『ウルヴァリン』だ。』
ダイナーでウェイドが、ローガンに向けた言葉。
『オレんとこじゃ、ヒーローだったよ。』
カサンドラとの決戦前日でのローラとの会話。
『お前がどう思おうと俺は…間違いだらけの男だ。』
『ローガンはいつもそうだった—』
そして彼女はこう続けた。
『そうじゃなくなるまでは。』
場面は変わってTVA。
神聖時間軸を救うために働くか、自分の世界と死の運命を共にするかという二択をパラドックスに迫られた。
『ウェイド…!キミはこれで遂に、皆の役に立てるんだ! 』
ああ、クソ野郎。アンタの言う通り、オレは今役に立ってる。MCUは人気が下り坂だが、終わりの時は今じゃない。
『アンタのガッチャを応援したいから。』
ガッチャードPの顔が浮かぶ。
『死んだら、叶えられなくなるでしょ?『誰もが求めるマーベルの神』に。』
まさか死んで叶うなんて、滑稽なことだろう。願わくば、彼には生きて『ガッチャ』を掴んで欲しい。恋人はいるのだろうか?いるのなら、顔を合わせて話せると良いな。
記憶の奔流は留まるところを知らない。
家族との誕生会。恩師や仲間との交流。敵との過酷な戦い。己の無力さを突きつけられた瞬間。出会い。別れ。絶望。希望。怒り。悲しみ。喜び。
様々な記憶が、二人の脳内を駆け巡る。
ウェイドは一人の女性の姿を見た。自らに欠けていたものをパズルのピースの様に埋めてくれた運命の相手。顔が醜くなっても、自分を愛してくれた恋人。別れた後も自分を思い、支えてくれた家族の一人。
—ヴァネッサ—
彼女と愛し合った記憶が浮かび、ウェイドは涙を零す。
—一目会いたい—
ローガンの脳裏に眼帯の男が映る。悪しき者の手によって体の一部を無くし、全てを奪われた少年。世界を守れなかった自らに対する怒りを抱えながら、贖罪のために戦い続ける青年。今も晴れぬ苦悩に苛まれながら、自らの命も顧みずに孤独に突き進んでいく悲しき戦士。
—ホウタロウ—
傷を負いながらも敵に刃を振るう彼の姿を見て、記憶の中のローガンは手を伸ばす。
—お前の未来を救いたい—
アジト内で撃たれたカサンドラにローガンが語りかけている。
『初めて、このスーツを…誇らしいと思った。X-MENの証だ。』
彼は自信を持って告げる。
『俺はX-MENだ。』
ウェイドとローガンは互いの顔を見つめる。そして頷いた。
二人は感じたのだ。相棒の記憶を。思いを。
握りしめ合う手に力が籠もる。
ふと背中に温かな感触がする。まるで誰かに抱きつかれている様な優しい感覚。そこにいるのはヴァネッサ?それともジーン?夢か幻か。しかし、背面に感じる熱は本物だ。
—生きて—
声が聞こえた様な気がした。実際にはしなかったのかもしれない。だが、そうだったとしてもそれで二人の活力が更に湧いてきたことは事実。
突風が加速し、二人がいる通路のフェンスが飛ばされる。
時間軸安定率—14%
時間軸安定率—37%
モニターのメーターの数値が劇的に上昇する。
時間軸安定率—59%
時間軸安定率—78%
体内に流れ込むエネルギーが許容量を越え、カサンドラの首が壊れたロボットの様に激しくぶれ始める。
ウェイドとローガンの首も凄まじい勢いで震え、体の亀裂が全身に広がっていく。
加速する三者の震え。亀裂。
時間軸安定率—81%
既にタイムリッパーからは大量のエネルギーが炎の様に吹き出している。
時間軸安定率—95%
カサンドラのポケットが一瞬光った。
時間軸安定率—100%
タイムリッパーが爆発した。
地下にあった制御室は天井が破壊され、吹き抜けの様になり、各所からバチバチっと火花が散っている。あちらこちらに垂れ下がる何本かのケーブルからは噴き出した火の粉の塊が、床に落ちている焼け焦げたウェイドの家族写真に降り注ぐ。
入口付近で唖然としていたパラドックスは自身の名を呼ぶ声で、我に返った。
「パラドックス!」
B-15が部下のミニットマン達を連れて、駅になだれ込む。
「ご多忙のようで。」
「いやぁ、仕事なので…」
「ここで、奇妙な数値が観測された。承認されてないタイムリッパーのこと知らないわよね?」
「ああ…ええ…タイムリッパーとやらのことは何も知りません!カサンドラ・ノヴァに聞くことです。私の認識では虚無空間に収容されているはずだったのに、何故かここに来て、私の脳を弄んだ!なんでこうなったのか…」
「関与してないのね?」
「彼女を止めましたよ?ええ、うん、もちろん!だが力及ばず!あの二人は諦めずに彼女を追った!部下であり…友達…!」
パラドックスは、言葉を紡ぎ続ける。
「止めたのに…『身体が消滅して死ぬぞ』と。だが、彼らは行った!まるで…ヒーローの様に…!」
心にもない言葉が、流れるように口からスラスラと出て来る。
「そういうやつらなんだ…!使命を果たすためなら、身の危険も顧みない!」
芝居がかった口調でパラドックスは、二人の偉業を可能な限り褒め称える。目に涙を浮かべるのも忘れない。ウェイドに殴られた鼻の痛みを意識すれば、こんなことは容易いものだ。
「こうして今、我々がここに立っているのは…!彼らがヒーローだった!そのことの証だ!」
パラドックスの部下達が二人の死に心を痛めて、視線を床に落とす。
その一方で彼は、自らの罪を知る者がこの世にいないという喜びを隠しながら話すことに必死だった。
最も悲しみに塗れた声とは裏腹に、彼の口角は僅かに釣り上がっているのだが。
「今さらどうしようと彼らは帰ってこない…」
「神は蘇ったよ、ベイビー!!」
「クソッ!!」
地下室に繋がる入口から、二人の人物が出て来た。一人は全身赤タイツのウェイド。そしてもう一人は、上半身裸のローガンだ。
破壊された配線から舞い落ちる火花が、スポットライトの様に彼らを照らす。
「アンカーを見つけた。」
「俺達は無事だ、このクソ野郎。」
マスクを脱いだローガンが、パラドックスを睨みつける。
パラドックスの部下達がローガンの肉体に釘付けになった。
「うっとりしちゃう…」
モニター付近に座っていたTVAの女性隊員が、汗で濡れた彼の胸筋に恍惚とした表情を浮かべる。
「もういい、そのテカテカおっぱいを引っ込めな。この、アバズレ男。」
ウェイドが椅子にかかっていたTVAの隊員服をローガンに着させると、彼女は残念そうに鼻を鳴らした。
パラドックスは彼らが消滅すること無く、この場に戻ってきたという事実で未だに混乱している。
「どういうことだ…どうやって生き残ったんだ?」
「だよな?一人は死ぬはずだった。マドンナの曲もかかってなかった。だけど、デッドプールとウルヴァリンが手を繋いで、そこに—」
ウェイドとローガンは背中に張り付いていた『何か』を取り出す。
「仮面ライダーの相棒の力が合わされば、不滅になるんだよ。」
「ケアリ~!」
「フェニックス!」
彼らの手に握られていたのは、二枚のケミーカード。ウェイドの『ケアリー』とローガンの『インフェニックス』が得意げに鳴いた。
二人が回路を作ったことでエネルギーによる負担が軽減され、そこに二体のケミーがヒーリングファクターの作用を強化することで、彼らは肉の形を保てたのだ。
「このデッドプールを虚無に戻して。」
B-15の指示を受けたミニットマン達が、タイムスティックを作動させてウェイドに近づこうとする。
「チョイ待ち!なに?」
いきなりのことに彼が戸惑っていると、地下鉄駅の入口から声がした。
「いいや!彼はこの時間軸育ちだ!俺と同じくここがホーム!」
駆けつけたのは、彼と同じく赤いスーツを着たピーター。
「貴方は…?」
「『ピータープール』。『ピーター』って呼んで欲しい…貴女には是非。」
彼はB-15に熱い視線を向けた。視線に捉えられた彼女もピーターから目を離せずに見つめる。
しばらくの沈黙。
「一体、何を見せられているんだ!?」
パラドックスが静寂を破る。
「貴方は、未承認のタイムリッパーを作動させた罪で裁かれる。連れて行って。」
ミニットマンが、パラドックスを取り押さえた。
B-15はタイムパッドを操作して、彼らの背後にタイムドアを展開させる。
「アンタらに意気地がないから、私がやったまでだ!『危険分子』が湧いてくる以上『剪定』を続けなければ、大変なことになるんだぞ!クソッ!『クォーツァー』がしくじらなければ、こんな真似はせずに済んだのに!」
喚き散らすパラドックスはミニットマン達に連行され、タイムドアの向こうへと消えていった。
B-15はウェイドとローガンの方に向き直る。
「感謝します皆さん。」
すぐさま、ウェイドは最敬礼。
「お辞儀は結構。貴方はオメガレベルのミュータントをここに連れてきた。」
「どいたま。」
B-15は視線をウェイドから、ローガンに移す。
「貴方もこの時間軸には来てはいけなかった。」
「いいや歓迎だ。」
「そして貴方!」
最後にピーター。
「そのスーツ、メッチャセクシー…!」
「申し訳ない。」
その時、ピコピコという電子音が響く。B-15が持っていたタイムパッドに目をやった。
「見せたいものがあるの。すんごいもの。」
「ボーイスカウトのケビン隊長と同じセリフだ。」
タイムパッドの画面がウェイドに向けられた。そこに映されているのは、彼の故郷の時間軸を現す線。TVAに連れて来られた時、パラドックスに見せられたものだ。
左にへとゆっくり縮んでいたその線が、今は右にへと急速に伸び続けている。
「貴方の世界が再生している。貴方がしたことは自分の世界を救った上に時間軸を消滅の危機から救った。では、また。貴方達の今後の活躍も期待してるわ。」
立ち去ろうとするB-15達に、ウェイドは「待って!」と呼び止めた。
「オレ達が虚無から脱出出来たのは…世界から忘れ去られたある連中のお陰だ。あと、ガッチャなデップーとイナゴちゃん。アイツらが元の世界に戻れるよう、何か手はない?」
「…検討してみるわ。」
「ああ、それともう一つ。この友達に約束したんだ。TVAが彼の時間軸の悲劇を修正してくれるって。それってどうかな?」
「過去を変えろって?」
B-15は眉をひそめた。
「だって、彼は世界を救った。」
「過去があってこそ今の彼がある。」
B-15は微笑みながら、きっぱりと言った。
「修正すべきことはない、Mr.ウィルソン。ローガン。」
踵を返し始める彼女をウェイドは再び止めた。
「あーそれじゃあさ、代わりに頼みがあるんだけど—」
『アース-DBW-0726』—ローガンと『宝太郎』の故郷。
荒廃した街並みが広がっている日本で四角いオレンジ色のゲートが開き、中からウェイドとローガンが出て来る。TVAで新調されたコスチュームの赤と黄色が、とても鮮やかに映えている。
「東◯よ!オレちゃんが来た!スーツはサイズピッタリもっこりなし新品の香り~!ちなみに、これ二回目ね。ピストルもご覧の通り、しっかりおニュー!コラボ先に会うなら、身だしなみはキチッとしなくちゃな!アンタも全盛期のヤツまた着れて、嬉しいだろ?」
「ケツを触られまくったけどな。」
「そりゃあ、ディズ◯ーも見せたがるほどの国宝だよ?『フューチャー&パスト』や『X-MEN ZERO』で何人のゲイ達が、オカズにしてきたと思う?ブーツのCMの時なんか、絶対天国にイッたファンが多いよ。」
ウェイドの下ネタトークにローガンはため息をついた。
「なんで、俺の世界でグリオンと戦おうって決めたんだ?せっかく『アンカー』ってヤツになったんだから、俺をこのままお前の世界に置いておけばいいじゃないか。そんで家族と楽しく暮らせばいいだろ?」
「確かに、アンタと一緒にアルのアパートに行って、そこでヴァネッサ達とパーティして最後エンディングロールっていうのが一番かもしれない。」
「だったら—」
「でも、それじゃあダメなんだ。だって、この作品は『仮面ライダーガッチャード&デッドプール&ウルヴァリン』だよ?
それに、とウェイドはマスクを取る。
「オレは、『アンタの世界を直せる』と約束した。ここでなあなあにしちまったら、オレの世界を救うのを手伝ってくれたアンタに申し訳ない。アンタだって、自分の世界のヤツらのこと気にかけているんだろ?」
それを聞いたローガンは言葉を詰まらせる。
「借りを返したいんだ。協力させてくれ…『過去』をなかったことには出来ないけど、『今』から少しでもマシな未来に進めることは出来るはずだ。」
その真剣な眼差しに、ローガンは射抜かれる。
彼がしばらく目を離せずにいると、後方から別の声がした。
「私も一緒に行く。」
振り返ると、そこには一人の少女がいた。ローラだ。
「私も手伝いたいの…ローガンの世界を救うのを。」
呆気にとられているローガンに、彼女は距離を縮める。
自分を見上げる少女の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。
「ほら、パパに親孝行をしたいっていう可愛い娘の願いだよ?」
ローガンはウェイドを、そしてローラを見る。
彼らは目をそらすこと無く、そのままローガンに視線を向け続けていた。
やがて彼はフッと笑うと、前へと歩き始める。
「足手まといにはなるなよ?」
ウェイドとローラは顔を見合わせて笑うと、彼の後に付いていった。
『スポット・ディメンション』―そこは光と闇の狭間にある異空間である。
紙の様に真っ白なこの場所には、大小様々な黒い穴があちこちに空いており、そのどれもが違う次元へと繋がっている。
通常、この異空間に有機物や無機物が入り込むことはまずないのだが、今ここには前者と思わしき物体が漂っていた。
もし遠くからそれを見つけた者がいたら、赤と灰色と黒が入り混じった『何か』の正体を探るべく近寄るだろう。
しかし、その『何か』がどんなものか知ってしまった途端、発見者は恐れをなし、近寄る前よりもさらに遠くの場所に逃げ出すだろう。
何故ならそれは、かつて人間『だった』肉塊だからだ。
頭の右半分には眼球がなく頭蓋骨の大半が剥き出しになっており、左半分は僅かに残った皮膚によって顔の原型をとどめてはいるが、唇にあたるものほとんどが消失し、歯頸が露わになっていた。唯一残されている左目も光が失われて、生牡蠣の様に白く濁っている。
首から下にある上半身も同じく中身を隠すものが消失しており、そこからは肋骨の一部や肺、心臓を覗かせている。腹部からは腸や千切れた血管、神経が空中で垂れ下がっており、骨盤から下が消失していた。首から伸びたままはいいものの何処にも繋がらなかった脊椎には、下半身から剥がれた肉片がところどころこびり付いている。
腕は左肩から伸びているものしか残っておらず、しかもそれは辛うじて細い肉の繊維や皮で繋がっているだけで手首から下にある骨の重みでゆらゆらと虚空を揺れていた。
この肉塊はかつて『虚無』で邪知暴虐の限りを尽くしてきた人物『カサンドラ・ノヴァ』の成れの果てである。
彼女がどうして今の状況になったのか。
タイムリッパーが爆発したあの時、そこから流れていた物質と反物質、そして彼女のコートの中のクウガライドウォッチに秘められていた『ライダーの歴史』が何らかの反応を起こし、彼女をこの異空間に飛ばしたのだ。
彼女もウェイドやローガンと同じく、『仮面ライダー』によってもたらされた奇跡で生き残った―最も、それは『最悪』の奇跡だったが。
爆発に巻き込まれて損壊したカサンドラの姿は、もはや死んでいると判断するのが自然な状態である。
だが、彼女は生きていた。胸の中央にあるクウガライドウォッチからは植物の様な根が広がり、彼女の心臓を打ち鳴らしている。
ウォッチに秘められたアマダムの力が爆発によってバラバラになった彼女の肉体を復元し、生命力を与えている。しかし、イレギュラーな事態が起こったせいか、その働きに異常を来していた。
肉体は不完全なところで再生が止まり、生命エネルギーだけが恒常的に流れ込んでいる。その結果、引き千切れた身体の各所から来る耐え難い痛みを味わい続けることになるのだ—永久に。
カサンドラは一言も声を発していないが、実際彼女には凄まじい程の激痛が絶え間なく襲っている。だが、ウォッチの効果で死ぬことも出来ず、生ける屍として当てもなく漂うばかり。
せめて、スポット・ディメンションに空いている穴のどれか一つに彼女が入れれば、救いの手は差し伸べられるのかもしれない。生き地獄を終わらせ、苦痛から解放してくれる者が現れるのかもしれない。
果たして、そんな者が本当に現れるのか?それはカサンドラを含めた誰にも分からない。彼女にはその様なことを考える余裕すらなかった。
下水道に流されたゴミの如く、カサンドラは穴だらけの空間を彷徨い続けるのだった。
ガンビットを含めたレジスタンスの一同は、困惑していた。
元の世界の大地を踏みしめた瞬間、突如灰色のオーロラが自分達を飲み込み、未知の場所に連れてこられたのだ。
彼らは辺りを見渡すが、何処もかしこも巨大なオーロラのカーテンで覆われているのみ。
ガンビットは、自分達を拉致したと思われる目の前の人物を睨みつける。
「アンタ、一体何モンだ?オレ達を
ガンビットは持っていたカードにエネルギーを込める。残りのメンバーも戦闘態勢に入った。
「いいや。俺は『破壊者』だ…『通りすがり』のな。」
「破壊者?」
困惑するガンビット達に、
「お前達に協力してもらいたいことがある。」
来週は、ついにガッチャード側と合流します。
《用語紹介》
・『アース-DBW-0726』
今作オリジナル用語。
・『スポット・ディメンション/Spotted Dimension』
コミックでは、様々な場所に通じる穴が無数にある亜空間。スパイダーマンのヴィランである『スポット』が全身穴だらけの姿になった原因の一つであり、彼の能力の源でもある。
『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』ではなんと、他の次元にアクセス出来ることが判明する。このことに気付いたスポットは、マルチバースを脅かす強敵に変貌することに…