仮面ライダーガッチャード&デッドプール&ウルヴァリン デイブレイク・オブ・フューチャー・パスト 作:バリー
K地区での戦いの後の錬金アカデミーは、沈痛な空気に包まれていた。
デスマスクの攻撃で負傷したアトロポスやクロトー、そしてX-MENのメンバーを含めた戦士達がぐったりと倒れ込み、救護班が慌ただしく部屋中を駆け回っている。
室内には救助されたK地区の難民達もいたが、その顔は悲しみに沈んでいた。
一香の様に自分の親や子を攫われた者は絶望に打ちひしがれており、中には涙を流す者までいる。
そんな中、宝太郎は自身の手の中にある口琴を見つめていた。倒したラキネイレスの残骸からアトロポスが発見したものである。但馬の報告を受けた加治木によると、それで海岸沿いにある特殊シールドを解除出来るらしい。
そこからグリオンの城に乗り込む作戦を提案する宝太郎。しかし、りんねは口琴を彼の手から摘み取った。鍵がこちらの手に渡ったことは敵側も知っているはずであり、迂闊に動くのは危険だと彼女は判断したのだ。
すると、りんねの手から口琴が離れる。『宝太郎』がそれを握りしめていた。
「九堂は駄目だ…俺一人で行く。」
頑なに自分を戦わせようとしない彼に対し、りんねは我慢の限界が来ていた。
「いい加減、理由を教えて下さい!私も戦えます!」
その言葉を聞いた時、『ある光景』が『宝太郎』の脳裏にフラッシュバックする。
『無理だ…!グリオンには勝てない…!』
『一ノ瀬!弱気にならないで…!今度は私も戦える!』
「『あの時』も…九堂は俺にそう言った…」
『宝太郎』は、自分の世界の『九堂りんね』の末路について語りだした。
グリオンが宝太郎が持っていた全てのケミーとベルトを奪い、『暗黒の扉』を開く儀式を行っていた時。
仲間をグリオンに殺され続け、戦う手段も取り上げられて戦意を喪失していた自分の代わりに、りんねが仮面ライダーに変身し、囚えられたケミー達を単身で救ったこと。
その時に現世に降臨しようとしていた冥黒王の手で、彼女が致命傷を負わされたこと。
そして『ある言葉』を言い残して、自身の腕の中で息絶えてしまったこと。
「彼女の最期の言葉が、今も俺を苦しめる…不甲斐なかった俺への呪いなんだ…」
壮絶な話を聞いて、宝太郎とりんねはしばらく黙り込んだ。
それでも、宝太郎は彼と共に戦うという意思を曲げなかった。
「俺の仲間…九堂も…スパナも…ミナト先生も…自分の後悔や絶望と向き合って乗り越えました…俺も、辛い時があったけど、乗り越えられた…」
宝太郎は未来の自分の前に立つ。
「貴方が!俺の背中を押して、新しい未来を作ってくれたから!皆強くなれたんです!だから—」
「お前に何が分かる…」
「え…?」
「二十年間苦しんだ…俺の何が分かるっていうんだ!?」
『宝太郎』が宝太郎の胸ぐらを掴んで、怒鳴りつけた。長年蓄積されてきた怒りや悲しみなどの様々な負の感情が、彼の声に込められていた。
彼の怒号によって、騒然としていた周囲がしんと静まり返る。
「確かに分からない。」
静寂を破る声がした。
りんねが『宝太郎』のもとに歩み寄る。
「私が知っている一ノ瀬宝太郎は、真っ直ぐ前だけを見て…決して諦めたり立ち止まったりしないから…貴方も、『一ノ瀬宝太郎』じゃないんですか?」
彼女は宝太郎が、様々な困難を乗り越えてきたところを見てきた。
錆丸が冥黒の三姉妹によってドレッドに変身させられ、囚えられた時も。
過去のトラウマを刺激されたミナトが一人でグリオンを倒そうと先走り、錬金アカデミーの仲間と対立した時も。
暗黒の扉を開こうとするグリオンによって全てのケミーとドライバーを奪われ、戦えなくなった時も。
ギギストによってマルガムと化した親友のホッパー1を、已む無く手にかけてしまった時も。
宝太郎は、人間やケミーの可能性を信じて行動し続けた。だからこそ、新たなる力や仲間を手に入れて強くなり、沢山のものを救えたのだ。
だから今目の前にいる『一ノ瀬宝太郎』も—同じ様に希望に向かう道を進める筈。
りんねの言葉を聞いた『宝太郎』は、自身の左手にある指輪に目をやる。オレンジ色のアルケミストリング。この世界のりんねの遺品である。
もし九堂が生きていてここにいたら、今の自分に彼女と同じ言葉をかけるのだろうか。
「一緒に戦おうよ、『デイブレイク』…未来の俺!」
目の前で手を差し伸べた少年を、『宝太郎』—『デイブレイク』は見つめた。二十年経つに連れて、手放してしまった『希望を信じて進む心』を持った自分。彼の言葉は、長きに渡る絶望で冷え切ってしまったデイブレイクの炉に、温かな火を灯した。
「そうか…そうだよな。俺と九堂は…!」
デイブレイクは宝太郎の手を掴んだ。
「行こう…未来を取り戻しに!」
熱い意志が宿った彼の言葉に、宝太郎とりんねは笑みを浮かべた。その時だった。
「どうやら、そっちは大丈夫そうだな。」
一人の男がアカデミーに入ってきた。差し色に青が入った黄色いスーツを身に纏っている髭を生やした西洋人。年はデイブレイクよりも一回り以上離れている様に見えるが、その体格はがっしりとしており老いというものを全く感じさせない。
「誰…?」
突然の来訪者に宝太郎達が困惑していると、デイブレイクが声に驚きを滲ませて目の前の男の名前を呼んだ。
「ローガン…!」
「え、この人が!?」
宝太郎は黄色いスーツの男が、X-MENのメンバーの話に出ていた『ローガン』であることを知って、眉が跳ね上がった。
彼は恋人のデスマスクのせいで、消えない心の傷を背負って戦えなくなっている筈。
しかし、今のローガンは痛みや困難を既に乗り越え、脅威に立ち向かう覚悟を決めた『戦士』としての顔をしている。
「テツオから全て聞いている。グリオンのところに乗り込むらしいな。俺も協力する。」
「お前…どうして…?」
「まあ、色々あったんだよ…『アイツら』とな。」
「『アイツら』?」
デイブレイクが疑問符を浮かべたその時だった。
「どーも、皆さんはじめまして!日本では『無責任ヒーロー』としてお馴染み!『デッドプール』です!このキャッチコピー、あんま好きじゃない人多いけど。キミ達を助けるために、オレちゃんマーベルから来ました!」
突如、全身赤タイツの変質者が、鋭い目をした少女を連れて叫んだ。
シリアスな空気に似つかわしくない声に、ローガンは眉間を抑えてヤレヤレと首を振る。自己紹介ぐらいは真面目にやるだろうと、期待していた自分が馬鹿だった。
呆気にとられている周囲に構うこと無く、ウェイドは辺りを見渡す。
「おーおー、懐かしい顔が勢揃い。ドミノ、ホ〇キンとの撮影はもう終わった?賛否両論あるけど、オレはあの作品好きだよ?ヴァニッシャー、ここじゃ顔出しが長くて予算大変そうだな。ギャラは何?ルアックコーヒー一年分?そして、ドーピンダー!アンタもいたんだ?会えて嬉しいよ!結局キルステ◯ンは、マイクラの続編に出たの?」
そのまま彼は宝太郎、りんね、デイブレイクに近づいた。
「そっちの三人はメインキャスト?それじゃ、拳を突き出して。こう。友情のグータッチだ。オレちゃんはオッペンハイマーじゃないから、アジア人にも分け隔てなく接するよ?これはアカデミー賞ものだ!よろしく!」
「は、はぁ…」
「どうも…」
テンション高めで接してくる彼に対し、宝太郎とりんねが困惑しながら返事をした。
拳を突き合わされたデイブレイクは、混乱した顔でローガンに問う。
「ローガン…こいつは一体何者なんだ?」
「『助っ人』だ…一応な。お喋りだが、悪いヤツじゃねぇ。保証する。」
「そうそう。コミックでは金次第で誰にも味方しちゃうだの、多重人格だの言われてるけど、こっちのデップーは違う!オレちゃんが付くのはいつもヒーロー側だし、何やるにしてもソロだ。アソコの相手もね?ちなみに、この女の子は『ローラ』。七年ぶりに戻ってきたBISHOUJO版ローガンだ。彼女、将来月の女神様にもなる予定だってよ。」
ウェイドの傍らにいたローラは、デイブレイクに右手を差し出す。彼はおずおずと右手を伸ばし、彼女と握手を交わした。
「いやー、ローたんのメンタルケアが終わって、そっちのニック・フューリーもなんか知らないけどやる気を取り戻して、マジで神タイミングだ!ストーリーが進みやすい!後は、グリオンっていうヤツをサクッと仕留めて、皆でシャワルマを食べる!これで決まりだ!」
ウェイドはデイブレイクの肩に手を置くと、軽薄な態度から一転して真剣な口調で彼に語りかける。
「安心しろ、ホウタロウ。アンタと仲間の無念は、オレ達が一緒に晴らしてやる。平和な未来を絶対に取り戻す。神は救いを求める祈りに必ず応えるものだからな。」
「自分のこと、『神』って言った。」
「言っちゃったね。」
傷だらけのドミノとベドラムからツッコミが漏れるが、デイブレイクはウェイドの声に秘められた思いをしっかりと感じ取っていた。
彼もまたローガンと同じく『ヒーロー』なのだということを、心で理解できた。先程手を握りあったローラもそう。
一方りんねと宝太郎は、ウェイドに対して疑惑の目を向けている。
「あの人、ホントに大丈夫なのかな?」
「うーん…」
「ホッパー!」
「あっ、ちょっ!?ホッパー1!?」
物珍しい格好の者が来て、興味をそそられたのだろうか。宝太郎のカードからホッパー1が勢いよく飛び出した。
「うおおおおっ!!会いたかったよ、イナゴちゃん!バイオシン社のところのヤツらとは大違いだ!一生キミに尽くすよ、『新たなる支配者』!」
「ホッパ~!」
自分のところに向かってきたホッパー1に感激し、頭を撫でるウェイド。
それを見た宝太郎は笑みを浮かべた。
「大丈夫だと思う。ケミーとあんなに仲良くなれてるもん。」
悪意を持った人間に触れたケミーは、結合してマルガムになる。しかし、ウェイドとホッパー1はそうはなっていない。
共に人間とケミーの絆を目にしてきたりんねは、宝太郎の判断を信じた。
「今さらだっていうことは分かっている…だが、もう一度だけチャンスをくれないか?今度こそ俺は、X-MENとしての責務を果たしたいんだ。助けを求めているヤツら…苦しんでいるヤツらのためにも戦って、希望を繋げたい!」
「もちろんだ、ローガン…一緒に戦おう!あの頃の様に!」
差し出されたローガンの手をデイブレイクはがっちりと掴む。
ツァイトガイストを含めたX-MEN達は、彼らのやり取りを微笑みながら見ていた。
「いいね、このシーン!マーベルと東◯。X-MENと仮面ライダー。ウルヴァリンとガッチャード。二大ヒーロー夢のアッセンブルだ!ああ~、カメラ持ってくれば良かった…!」
ウェイドは鼻をすする。最近涙脆さが進行してきた。
そのすぐ後、彼らによって心を動かされた者達が立ち上がる。
「私も連れて行って!」
一香だ。
「武器なら使える!私も皆を助けたいの…!」
「俺も行かせてくれ!」
今度はドーピンダー。
「足ならもう平気だ!このまま、何もせずにジッとなんかしてられねぇよ!」
彼の場合は『宝太郎』が重傷を負いながらも、自分を助けてくれたという事実を知ったことも影響しているのだろう。
「分かった…共に戦おう。」
そう言うと、デイブレイクは一香に口琴を託した。それを見たりんねは笑みを浮かべる。
こうして八人の戦士達が、未来を取り戻すための戦いに出向くことになった。
「いやあ六年ぶりじゃない、こういうの?違いはハンドルと助手席の位置。後ろは寂しくない。さて、何から話そうか?ダブステップの現在?『スター・ウォーズ・スターファイター』の出来?」
ウェイドとローガン、そしてローラの三人はドーピンダーが運転するタクシーに乗って、宝太郎―ガッチャード達のゴルドダッシュの跡をつけていた。ウェイド達が乗っている車は、アカデミーのバリケードに使っていたタクシーの残骸に、デイブレイクが『DBマッドウィール』を憑依させたものである。
運転席にいる別の次元の友に、ウェイドは助手席からフランクに話しかけていた。
これから敵の戦地に乗り込もうとしているというのにお喋りを止めないのは、自分や周りの緊張を少しでも和らげるためか。後部座席にいるローガンとローラは、そう思った。
助手席のウェイドはふと、ドーピンダーの前に貼られていた写真に目が止まった。赤い服を着たインド系の女性が、可愛らしい笑みを向けている。
「そこに写っている子、なかなかイイじゃん。」
「ああ、『ギータ』だ。お守り代わりに持ってる。形見なんだ。」
馴れ馴れしく話しかけてきたウェイドに対し、ドーピンダーは嫌な素振りも見せず明るく返した。
「俺のお嫁さんになる筈だった女さ。でも―」
「従兄弟に取られた?」
「ああ、『バンドゥー』がまんまとアイツのハートを盗んでいっちまったんだ。そしたら、二人ともグリオンの襲撃に巻き込まれてな…新居が雲の上になった。」
「それは…お気の毒に。」
「ホントは、オレがバンドゥーを殺したかった。そうすれば、ギータを取り戻せたのに。グズクズしてたせいで、どっちも駄目になっちまった。」
「おおっふ、そうか…」
「いっつも、こうだ。何かをしようとしても、勇気が出ない。怖くて何にも出来なくて…それで最後は手遅れになる。」
ドーピンダーは涙ぐんだ。
「このままじゃダメだって、思い切ってレジスタンスに入ってみた…まあ、酷いもんだよ。敵を前にすると、ビビっちまって銃の狙いが定まらなくなる。」
不甲斐ない自分が悔しくて、ハンドルを握る手に力が籠もる。
「結局、俺は変われなかった…X-MENや仮面ライダーみたいなスーパーヒーローになるっていう夢は、夢のまた夢。正直今も足が震えてる。このまま海に向かって車ごと飛び込んじまいそうだ。アンタらみたいに勇気に溢れた人間が羨ましいよ…」
ドーピンダーが羨望と自己嫌悪が入り混じった声で呟くと、ウェイドは彼に身を乗り出した。
「ドーピンダー。オレから見れば、アンタにはヒーローになるためのスーパーパワーが十分にある。『勇気』っていう名前のな。」
「いやあ、そんなこと—」
「ないなら、そもそもアンタはこんなところにいない。戦うことを自分から選んだ時点で、アンタの心はエンジン全開だ。ただちょっと、アクセルを踏む力が弱いだけなんだ。」
ウェイドが口を開く度に、ドーピンダーは無意識に引き込まれていった。
「いいか?『勇気』があるヤツっていうのは、恐怖を感じないヤツのことじゃない。怖くても前に進もうとする意思を持っているヤツのことを言うんだ。アンタは絶対ヒーローになれる。スーパーパワーはもう『ここ』にある。」
自身の胸をウェイドは拳で叩く。
「次に何かをやる時は、思い切ってアクセルをベタ踏みしろ。ああ、今じゃないからな?ものの例えだ。大丈夫、アンタはやれる。」
そう言って、ドーピンダーの肩をポンポンと叩く。彼は、ウェイドの言葉に耳を傾けながら涙を流していた。今までこんなに優しい言葉をかけてもらったことはなかった。ハンドルから片手を離して涙を拭うと、彼は笑顔で返事した。
「ありがとな…オレ、もっと早くアンタに会いたかったよ…!」
「いいや、ヒーローになるのに遅すぎるってことはないんだ。今ここからでも十分間に合う。『なりたい』って思う心が大事なんだ。胸を張れ。」
先頭でバイクを走らせるガッチャード達。グリオンの基地へと繋がるゲートにどんどん近づいていく。
ある程度まで進んだ瞬間、道路に仕掛けられていたセンサーが彼らの到来を感知し、防衛システムが作動する。
固く閉ざされたトンネルの前にある棒状の砲台が、接近してくる敵に向けて発砲。ガッチャード達はゴルドダッシュを操縦し、右へ左へと躱しながら進む。
ガッチャードDBの後部にいた一香が口琴を鳴らすと、砲撃が止まってトンネルを塞いでいた灰色の障壁が上昇した。二台のバイクは砲台を避けて、結界が貼られたトンネルを通り抜ける。
「ウィール!」
DBマッドウィールがタクシーのドアから銃を展開すると、機能停止した砲台を木っ端微塵に破壊する。たちまち車一台分が通れるスペースが空き、ウェイド達のタクシーはスピードを緩めること無く一直線にトンネルに向かって進んでいく。
通り抜けると、ガッチャード達の目に異様な光景が飛び込んできた。
彼らが先ほどまで走っていたのは、青空広がる緑と潮の香りに満ちた海沿いの道だった。
だが今、目の前に広がるのはまるで別世界。周囲には荒れ果てた街並みが続き、建物は崩れて瓦礫が散乱している。
あちこちから火の手が上がり、黒い煙が空へと昇っていた。頭上を覆う空は鮮やかな青ではなく、一面灰色に染められている。
遥か向こうでそびえ立つグリオンのドームキャッスルの先端が花弁の様に開き、中に隠されていた装置が稼働を始めた。
牙城に着いた宝太郎達は、バイクやタクシーから降りる。
視線の先ではメイディレーヌが、数体のドレットルーパーと共に入り口の前で待ち構えていた。
「残念だけど、ここで行き止まりよぉ。グリオン様の実験は最終段階に入ってる。邪魔が入ったら、困っちゃうと思うのぉ。せっかく来てくれたところ悪いけど、アナタ達…死んでくれるぅ?」
「初期三部作当時の見た目でホント良かったよ。今の歳であの喋り方は、聞くに堪えないからな。」
それから、メイディレーヌは戦士達の中にかつて自身が心を折った者がいることに気付く。
「あらぁ?誰かと思えば、ローガンじゃなぁい?X-MENの腰抜けが何の用ぉ?もしかして、また夢を見させて欲しいのかしらぁ?グリオン様の邪魔をしないって誓えるなら、今度は『あの時』とは違う甘ぁい夢を見せてあげてもいいわよぉ—貴方が好きなこの顔、この身体でいーっぱい愛してあ・げ・る。」
滑らかな曲線を描く自身の身体に指を這わせるメイディレーヌ。上から下、下から上へと。
己が何で形成されているのかを自覚したうえで、メイディレーヌはやっている。死者の尊厳を冒涜し、関わった者達の精神を徹底的に甚振る。その行為に彼女を含めたデスマスクは快楽を覚えている。
ウェイドを含めたほとんどの者達が顔をしかめる中、ローガンとガッチャードDBは目の前の怪物に啖呵を切る。
「俺はもう惑わされない。今度はお前が悪夢を見る番だ。」
「グリオンは俺達が止める!お前達に奪われた未来を…絶対に取り戻してみせる!」
マスクを被り爪を展開し、ガッチャートルネードを構える両者に続き、残りも戦闘態勢に入る。
その様子をつまらなそうに見ていたメイディレーヌは、ウィザードマルガムに変身した。
「行け。」
ドレットルーパーが一斉に、ガッチャード達に向けて襲いかかる。
「アイツは俺がやる!」
ローガンはウィザードマルガムのもとへと駆け出した。
残された七人は、自身に群がるドレットルーパーに応戦する。
ガッチャードとガッチャードDBはガッチャートルネードで切り払い、マジェードは拳や蹴りを黒き兵士達に打ち込む。幾度とない戦いを経験してきた三人の仮面の戦士達は、流れるような動きでドレットルーパー達を次々と倒していく。
ローラは小柄な体格を生かした戦法で、敵の大群を翻弄する。振るわれる剣を爪で弾き、がら空きになった胴体や脚部に爪を突き刺す。
ドレットルーパーの一体が彼女に向けて銃弾を連射するが、素早い身のこなしで躱されてしまった。そのままローラはドレットルーパーに飛びかかってしがみつくと、間髪を入れず爪を生やした拳を頭部に叩き込む。そして彼女は機能停止した個体から素早く、別の個体に飛び移ると同様の手順で撃破する。
ウェイドは戦い慣れしていない一香とドーピンダーのサポートに回っていた。
一香がサブマシンガンで目の前の敵達の銃撃に集中している間、彼は彼女に群がるドレットルーパーらを斬り捨てていく。刀で剣を弾き飛ばして、黒いボディに刀身をめり込ませる。
背後から一香に剣を振り下ろそうとした個体の側頭部を、日本刀が貫通した。投げつけた武器をウェイドは素早く引き抜くと、今度はドーピンダーのもとに向かう。
ドーピンダーは恐怖心を抱きながらも、必死にドレットルーパーに引き金を引き続ける。だが、悲しいかな。それらは全く当たらず、敵の進軍は止まらない。
弾切れになったためマガジンを交換しようとするが、そんな暇を相手が与えてくれるはずがない。無数の銃口が火を吹き、敵から目を逸らした獲物を蜂の巣にせんとする。
と、ここで赤い塊が両者の間に乱入した。ウェイドは二本の刀を振り回し、ドーピンダーに襲い来る弾丸を弾いていく。キンッキンッという音と共に刀から火花が散り、ブシュッブシュッと赤い血飛沫がウェイドの身体から短く吹き上がる。
相手側が攻撃をやめた時、ウェイドのスーツには所々小さな穴が空いていた。やっぱり『ZERO』の自分ほど上手くは行かない。彼は後ろにいるドーピンダーを安心させようと声を張り上げる。
「気にするな、致命傷だ!…ゴメン、嘘。そんな酷くない。」
そして、黒い集団に向かって走り出す。ヒーリングファクターの持ち主にとっては、銃創などかすり傷みたいなものだ。
マガジンを交換し終えたドーピンダーは、銃撃を再開する。手が震えているせいで弾の狙いが逸れまくるが、ウェイドが周囲にいるドレットルーパーを次々と射線上に蹴り飛ばすことでカバーしていった。
一方、ウィザードマルガムに辿り着いたローガンは唸り声を上げながら、交互に爪を振るう。
肉薄してくる鋭利な爪を身を捩りながら躱し、マルガムは魔力を纏った拳を叩きつけようとした。
ローガンは、地面を転がることでそれを回避。そこから胴体に向けて、腕を突き出す。
ガキィンという音が響いた。マルガムが召喚した大剣が、爪の侵攻を阻んだのだ。そのまま剣を持っている右腕を大きく振るう。衝撃でローガンの身体が、宙を舞った。地面に全身が叩きつけられそうになる瞬間、 彼は咄嗟に右腕を下に向けて伸ばす。
ドスッ、という衝撃音。めり込んだ爪で土に長い跡を刻みながら、ローガンはズザザザザッと滑り込むように着地した。
マルガムは剣の鍔を正面に向け、そこから熱線を発射する。 灼けるような光の奔流が、ローガンを射抜こうと一直線に迫ってきた。
彼はアダマンチウムで覆われた爪を交差させることで、それを受け止める。そしてその姿勢のまま、押し切るように真正面から突っ込んでいった。
両者を隔てていた熱線が、みるみる内に縮まっていく。眼と鼻の先にまで近づかれたマルガムは大剣を横薙ぎに振るおうとしたが、ローガンの片手の赤熱化した爪で受け止められ、そのまま手から弾き飛ばされた。
得物を失って一瞬の隙ができた敵に、彼は腕を左右に振り抜く。拳の爪が何度も何度も胴体に打ち込まれ、無数の刺創を与えていく。
ダメージの許容量を越えたのか、マルガムは青い稲妻を迸らせて爆発した。
ローガンは息を切らしながら、敵の殲滅を確認するために炎上する地面に駆け寄る。そこで彼は、驚愕の余りに目を見開いた。
地面には、一体のドレットルーパーが倒れていた。多くの刺し傷が機械の体に付けられており、その箇所から火花を散らしている。
ローガンは、一瞬混乱する。自分が倒した時は、確かにマルガムの姿だった。まさか、敵の能力で幻覚を見せられていたのか?だとしたら、本物は何処に—
その時、背後から殺気を感じた。咄嗟に振り返って、爪を突き立てようとするより先にマルガムのサイコキネシスで動きを止められてしまった。
「死なないってホント、めんどくさいのよねぇ。倒しても倒しても、起きてくるから鬱陶しいったらありゃあしない。だから、初めて会った時『外』じゃなくて『中』の方を攻めてみたんだけどぉ…まだ足りなかったみたいねぇ。」
マルガムがローガンの顔を掴んで、無理矢理自分と視線を合わさせる。
「今度は、頭の中を徹底的に壊してあげる。二度と
「ローガン!」
宝太郎達は彼のもとに駆け寄ろうとしたが、次々と押し寄せるドレットルーパーの軍団はそれを許さなかった。
必死に動こうとして体を震わせるローガンの意識を、マルガムの光る目が刈り取った。
「おやすみなさい」
暖かな光を瞼に感じたローガンは、ゆっくりと目を開けた。何やら随分と長い夢を見ていた。そんな気がする。
寝返りを打つと、ベッドが僅かに軋んだ。カーテンから差し込む光が、自室を明るく照らしている。側に置かれていた目覚まし時計は、心地の良い声で歌っていた。
ローガンはベッドから降りると、眠気を引きずりながらドアの方に歩を進める。
ドアを開けると廊下が見え、ちょうど授業開始を告げるベルが鳴り響いた。それぞれの個室から学生達が出てくる。
自室から出たローガンは、隣の部屋の方を見る。中からキティが姿を現し、ドアの前で待っていたコロッサスを出迎える。ふと気配を感じたのか、二人はローガンの方に笑顔を見せると、そのまま何処かへと歩き出した。
跡を追って廊下を曲がる。教室で子供達が席につくと、二人は授業を始めた。どうやら、建築家のことについてらしい。
再び、ローガンは廊下に視線を戻す。生徒が行き交う中、向こうから服を着た青い
「おはよう、ローガン!寝坊したか?」
彼に続いて、聖書を抱えた
階段を降りた先では、ストームが生徒達を導いていた。一人一人に声をかけて励まし、学ぶ意欲を喚起させている。ピエトロが大慌てで自分の隣を通り過ぎた。
いつもと変わらぬ学園の光景。だが、それに対して何故かローガンは違和感を覚えた。何処がどうとは上手く言い表せない。
拭いきれぬものを抱えたまま、彼はある場所に向かう。
着いたのは学園長室。ローガンが入るより先に、ビショップが部屋から出てきて立ち去っていく。用事は恐らく、以前から計画していた新たなミュータントの警備隊の構想についてだろう。尊敬する師であるチャールズの名前をチームに入れたいと、彼は過去に言っていた。
ローガンは部屋に入る。目の前の机でチャールズが資料を読んでいる。
しばらくして、彼はこちらに気がつくと聞き慣れた優しい口調で話しかけた。
「ローガン。生徒を教えなくて良いのか?」
「俺が…教える?」
「ああ、歴史だよ。ジーンと一緒にな。子供達が、君の話を楽しみにしているぞ。」
呆然としていると、後ろから名を呼ばれた。見ると、そこにはスコットとジーンが立っている。X-MENの頼れるリーダー、そして自身の恋人。
「ここにいたの、ローガン。探したのよ?」
「ああ…すまない。」
「大丈夫か?何処か具合でも悪いのか?」
「いいや、平気だ…ありがとう、スコット。ジーン。」
それを聞いた二人は満足そうに微笑んだ。「もう、『カノジョ』を待たせるなよ?」とスコットはローガンの肩を叩き、そのまま一人去って行く。
その場に残されたジーンとローガン。彼女もまた教室に向かおうとするが、ローガンが着いてきていないことに気づいて振り向いた。
「どうしたの、ローガン?早く行かないと、子供達が退屈しちゃうわよ?」
「なあ、ジーン。俺には、やるべきことがあった筈だ…戦わなくちゃいけない…」
戸惑いを含んだ表情で言葉を絞り出すローガンに、ジーンは近づいた。
「ローガン…」
彼女の声はとても柔らかく、けれども確かな意志を秘めていた。
「もう、貴方は戦わなくていいの。貴方がやるべきことは、ただ一つ—この世界で幸せに生きること。」
ローガンの奥深くに、彼女の声が響いていく。
「幸せに…」
「そう。貴方は十分戦った。この世界は、そんな貴方のためにあるの。もう誰も傷つけなくて良い。誰も殺さなくて良い。何も考えなくていいの。」
彼女はまるで諭すように一言一言を優しく、しかし力強く言った。
「終わりにしましょう?」
ジーンは笑顔でこちらを真っ直ぐ見つめた。
ローガンはしばらく何も言えずにいたが、その後口を開いてゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「ああ、そうだな…」
彼の目が閉じられる。
「もう、終わりにしよう…」
ジーンの笑みが深くなる。
「茶番をな。」
ローガンが目を開いた。獣を思わせる眼光で、彼は彼女を睨みつけた。
ジーンの顔が強張る。彼女は、ゆっくりと目線を下に向ける。
三本の爪が、自身の胸を深々と貫いていた。それは現実でのマルガムも同じ状況だった。
一瞬にして意識を覚醒させたローガンは、目にも止まらぬ早さでマルガムに爪を振るう。そして右腕の爪を胴体に打ち込むと、そのまま下から一気に振り抜く。
深く食い込んだ三本の刃が上まで駆け上がり、怪物の顔面と頭脳を斬り裂いた。火花を散らしながら、紫の魔術師は断末魔と共に爆散する。
やがて爆煙から姿を現したメイディレーヌは未だに驚愕の表情を浮かべたまま崩れ落ち、土の山と化した。
ドレットルーパーの群集をようやく倒しきったガッチャード達は、マルガムを撃破したローガンの背中を見つめた。
彼は自身の後ろにいる仲間に視線をやり、口を開く。
「行くぞ。」
その声にもう迷いはなかった。
メイディレーヌがドレットルーパーを自身の姿に変えたのは、ジーンが『アポカリプス』などで披露した幻覚投影能力によるもの。また、彼女がローガンに見せた夢は『フューチャー&パスト』のラストシーンをベースにしています。
また、ビショップが構想していたミュータントの警備隊は原典で彼が所属していた『XSE(エグゼビア・セキュリティ・エンフォーサーズ)』のことです。