地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~   作:かくろう

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領都に迫る魔眼

 分体を斬り伏せたあと、僕たちは深い森を抜け、領地へ戻る道を歩んでいた。

 だが――足を進めるたび、背筋を撫でるような寒気が離れなかった。

 

(……消えたはずだ。確かに斬った。なのに……なぜだ?)

 

 森の木々はざわめき、風が葉を揺らすだけでなく、どこか僕らを「見ている」ようだった。

 振り返れば、遠くの枝にぽつりと“眼”が浮かび、こちらをじっと覗き込んでいる。

 

「セージ君……!」

 リンカが震える声をあげた瞬間、その眼は音もなく霧散した。

 

「……残滓、か」

 セレスが小さく祈りを捧げ、消えた気配に聖なる光を向ける。

「でも、これでは……倒したというより、ほんの一部を削ぎ落としただけ……」

 

 ルミナスは唇を噛み、拳を握った。

「ふん。分身ごときで調子に乗られたら困る。本体、必ず叩き潰す」

 

 ――そうだ。これは終わりじゃない。

 むしろ、これからが始まりだ。

 

 僕は剣を握り直し、前を向いた。

(ヴァルナ……本体は必ずいる。待っていろ。次は――逃がさない)

 

 森の外れに差しかかる頃、夜空にちらりと光が走った。

 それは星ではなく、歪んだ“眼”の残滓が最後に残した光。

 

 不吉な予感を胸に抱えながら、僕らは領地への帰路を急いだ。

 

◇◇◇

 

 領都の城壁が見えたとき、僕はようやく肩の力を抜いた。

 瓦礫だったはずの街並みは少しずつ整い始め、広場では子供たちの笑い声が響いている。

 

「セージ様!」

 駆け寄ってきたのはミレイユだった。両手にはまだ土のついた鍋を抱えている。

「炊き出しも順調です。皆さん、帰ってきてくださって……本当に……」

 潤んだ瞳で僕の手を握る。その温もりに、胸が少し軽くなった。

 

「おかえりなさいませ、セージ様」

 アンナは相変わらず無表情で頭を下げる。

「領内は異常ありません。ですが……街の者が“誰かに見られている気がする”と訴えておりまして」

 

 その言葉に、僕は思わず仲間と視線を交わした。

(……やはり、ここまで“眼”の影響が残っているのか)

 

「……セージ君」

 リンカが袖をつかみ、小声で囁いた。

「街にまで入り込んでるなら……やっぱり、本体が別にいるんだよ」

 

 セレスは祈りを捧げるように胸の前で手を組み、低くつぶやいた。

「神よ……どうか、人々を惑わす影を、打ち払う力を……」

 

 ルミナスは城門を仰ぎ見て、ふんと鼻を鳴らした。

「ちょっとやそっとじゃ終わらない。ルミナス、知ってる。あれはまだ“途中”」

 

 賑わう領都の空気に混じり、確かに薄暗い影が差している。

 分体を倒しただけでは、この地はまだ解放されていない。

 

(……ヴァルナ。本体を探し出さなきゃならない)

 

 心にそう誓いながら、僕は広場に集まる人々のもとへ足を進めた。

 

 

 

 広場には既に多くの領民が集まっていた。

 誰もが復興の喜びを分かち合っているはずなのに、目の奥には拭いきれない不安が揺れている。

 

「セージ様!」

 子供たちが駆け寄り、僕のマントをつかんだ。

「また魔物が出るんじゃないかって、みんな心配してるんだ……」

 

 小さな声に、胸が痛む。

 倒したはずの魔将の影が、まだこの地に残っている。

 

「大丈夫だ。君たちの未来は俺たちが守る」

 

 僕はしゃがみ込み、子供たちの頭を順に撫でていった。

 

 背後でルミナスが腕を組む。

「そのとーり。ルミナスがいる。炎でも氷でも、ぜーんぶ吹っ飛ばす」

 

 リンカも矢筒に手を置き、きっぱりとうなずく。

「何度だって射抜くよ。セージ君の隣で」

 

 セレスは両手を胸に当て、祈りを捧げていた。

「……神の御前に誓います。人々を二度と恐怖にさらさぬと」

 

 領民の視線が自然と集まる。

 その熱に背を押されながらも、僕の心の奥には重いものが沈んでいた。

 

(……本体を倒さなければ、安心なんて訪れない)

 

 笑顔を作りつつ、僕は仲間たちと広場を抜け、城へ向かう。

 次の一手を、ここで考えなければならなかった。

 

 

 

 城の作戦室に入ると、既にエリスやレイシス、アーリアたちが待っていた。

 

 机の上には北方の地図が広げられ、赤い印が点々と記されている。

 

「セージ様」

 エリスが最初に口を開いた。落ち着いた声音だが、その瞳には緊張が宿っている。

「領民の証言からして、あの“影”はまだ完全に消えておりません。商会の網でも異常な流通の乱れを掴んでいます」

 

 レイシスが硬い声で続ける。

「残存兵の巡回報告でも、北方の森で不可解な失踪が相次いでいます。……幻惑か、攫われているか」

 

 アーリアは古文書を開きながら、低く告げた。

「“千の眼は影に潜み、見えざる未来を縛る”。古代の記録に、同じ文言がありました。つまり――」

 

「ヴァルナは、まだ本体を隠している」

 僕が言葉を継ぐと、仲間たちが息を呑む。

 

「……やっぱりそうなんだね」

 リンカが矢筒に触れ、不安そうに眉を寄せた。

 

「なら、やることは一つ」

 ルミナスが不敵に笑みを浮かべる。

「本体、見つけて、叩く。それで終わり」

 

 セレスが真剣な表情で祈りの指を組む。

「その時こそ……力を合わせ、神の御名にかけて滅ぼしましょう」

 

 僕は深く息を吸い込み、地図の上に手を置いた。

「……ああ。ヴァルナ本体を見つけ出し、必ず討つ。それが、俺たちの次の戦いだ」

 

 決意が部屋の空気を張り詰めさせた。

 まだ見ぬ本体が、確かにどこかで蠢いている――。

 

 

 

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