地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~   作:かくろう

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森の入り口の不穏な影

 北へと馬を進め、数日。

 やがて視界の先に鬱蒼とした森が広がった。北方の森――古くから「迷いの樹海」と呼ばれ、旅人が戻らぬ場所として恐れられてきた場所だ。

 

 近づくにつれて、風が変わる。

 森の中から吹き出してくる空気は、ただ冷たいだけではない。湿った嫌な圧力が肌にまとわりつき、息をするだけで胸の奥に鉛のような重みを感じた。

 

「……やっぱりな。森の様子が普通じゃない」

 リンカが眉を寄せ、背負った弓に自然と手をかける。

 

「予想通り。魔素、濃い。ルミナスの皮膚がぞわぞわ」

 ルミナスは肩を抱き、覚悟を込めて頷いた。

 

 セレスも首を振り、祈りの印を胸に刻む。

「前と同じ……いえ、それ以上です。神の加護を祈ろうとしても、押し返される感覚が強い……」

 

(……間違いない。この森の奥に、“あれ”がいる)

 ヴァルナの影。前に斬ったのは分体にすぎない。本体は、まだこの先に潜んでいる。

 僕たちは覚悟していた。だが――実際に立ち入れば、この圧力は予想以上だ。

 

 僕が剣に手を添えた、その瞬間――。

 

 茂みが裂け、黒い霧をまとった魔物の群れが飛び出した。

 四足獣のようでいて、顔には眼が三つ、背にも眼が浮かんでいる。

 まるでヴァルナの眼の眷属のように、不気味に蠢きながら僕らに襲いかかってきた。

 

「来るぞ! やっぱり待ち構えてたか!」

 

 剣を抜き放ち、前に躍り出る。

 リンカはすかさず弓を構え、矢をつがえた。

「分かってたけど……ここは通さない!」

 

 光の矢が放たれ、群れの先頭を貫く。だが倒れた魔物の眼が開き、矢を砕くように爆ぜた。

 

「っ……!」

「ふざけんな、眼が爆弾かよ!」

 

 セレスがとっさに聖なる障壁を展開し、爆散の衝撃を押し止める。

「皆さん、下がって! この森……やっぱり普通の魔物じゃない!」

 

(やはり……。ここから先は、簡単には進ませてもらえない)

 

 僕は剣を握り直し、仲間に短く告げた。

「――突破するぞ。ここを抜けなきゃ、ヴァルナには辿り着けない!」

 

 森の入り口は、まるで僕らの侵入を拒むかのように不気味に蠢いていた。

 

 

 僕が踏み込んだ瞬間、黒霧に包まれた魔物が牙を剥いて飛びかかってきた。

 剣を振り抜く。だが切り裂かれたはずの身体から眼が浮かび上がり、血ではなく黒い光を撒き散らして再生していく。

 

「しつこいな……!」

 

 リンカが矢を連射する。だが、命中と同時に眼が爆ぜ、破片のような魔素が辺りに降り注いだ。

「ぐっ……矢が……! 普通の魔物じゃ、ない……!」

 

「やっぱり。ヴァルナの眼、直結してる。倒すたび、爆ぜる」

 ルミナスが両手を広げ、炎と氷を同時に呼び出す。

「燃やす。凍らせる。まとめて粉砕」

 

 轟音と共に炎と氷の奔流が群れを呑み込んだ。だが爆発はさらに連鎖し、煙と光が森を灼く。

 

「駄目……! このままじゃ森ごと……!」

 セレスが必死に祈りを捧げ、光の障壁を広げる。

「――聖障壁《ディバイン・シェル》!」

 

 爆散の衝撃を受け止めるように、光の半球が僕たちを包んだ。

 けれど障壁の表面に無数の眼が浮かび、爪を立てるように叩いてくる。

 

(……やはり、ヴァルナの本体に通じている。これじゃ際限なく湧いてくる……!)

 

「セージ君!」

 リンカの声が届く。矢を構えたまま、彼女の目は強く燃えていた。

「ただ撃つだけじゃ駄目。新しい矢筋を――あの眼を、混乱させる射ち方を……!」

 

 僕は一瞬、頷いた。

「やってみろ、リンカ! そのために俺たちがいる!」

 

 彼女は深呼吸し、矢をつがえ直した。

 次の瞬間――無数の光の矢が放たれ、まるで乱反射する星座のように森の奥を走った。

 

 眼の群れが一斉に震える。

「……視界が、乱れる……!?」

 

(よし……これなら……!)

 僕は剣を構え直し、仲間と共に眼の群れへ踏み込んだ。

 

 矢が幾筋も夜空を走り、森を覆う無数の眼に突き刺さった。

 一つ、また一つと弾けるように砕け、そのたびに視界が乱れていく。

 

「これが……!」

 リンカの瞳が鋭く輝く。

「――新技《星弓乱舞》!」

 

 弓を引き絞るたび、矢はまるで流星群のように分裂し、錯綜する光跡を描いて眼を翻弄した。

 直線ではなく、曲線を描いて弾ける矢。速度を変えて、意図的に軌道をずらした矢。

 乱反射のような矢筋が重なり、ヴァルナの未来視に大きなノイズを刻み込んでいく。

 

「見えない……!? 我が眼が……!」

 森にこだまする声は、焦りと怒りに満ちていた。

 

 僕は剣を振り抜き、乱れた隙を斬り裂く。

「やっぱり効いてる! リンカの新しい矢筋が、奴の未来を壊してる!」

 

 背後からルミナスが声を上げた。

「よーし、次はルミナス。炎! 氷! 風と雷も加える!」

 彼女の両手に四つの属性が重なり合い、眩い光の渦となって広がる。

 

「行けぇぇっ!」

 風が矢を加速させ、雷が軌跡を焼き、炎と氷が衝撃を強調する。

 矢と魔法が共鳴し、森はまるで星降る夜空のように閃光で満たされた。

 

 セレスが両手を胸に当て、力強く祈る。

「神よ……仲間を導き、この光を力へ!」

 彼女の声に応じて《聖障壁》が攻防一体の結界へと変わり、爆ぜる魔素を吸収しながら仲間の矢と魔法を増幅させていく。

 

「ぐぉぉぉぉぉ……!」

 眼を散らす影の群れが次々と弾け、森の奥に潜むヴァルナの視界が崩れていく。

 

(よし……これなら勝機が見える……!)

 僕は深く息を吸い、剣を掲げた。

 

 

 

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