地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~   作:かくろう

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揺れる想いと、新たな勅命【第4部 完】

領都の城門が見えたとき、胸の奥に張り詰めていた糸が少しだけ緩んだ。

出迎えの兵士たちが慌てて駆け寄り、僕たちの無事を確認する。

 

「セージ様、ご帰還を!」

「討伐は……成功したのですか?」

 

僕は短く頷いた。

「森に潜んでいた異形は、確かに討った。だが――完全な終わりではない」

 

その一言に、兵士たちの表情が強張る。

背後でリンカが小さく付け加えた。

「最後に、別の存在の名を残していったんだ。……“ラミエル”って」

 

兵士たちは互いに顔を見合わせ、不安げに囁き合った。 

 

 

◇◇◇

 

広場に戻ると、非戦闘組が待っていた。

ミレイユが真っ先に駆け寄り、僕の手を取る。

「お帰りなさいませ……! 本当に、ご無事で……」

その目に涙が浮かび、僕は小さく頷いて答えた。

 

「ただいま。けれど気を緩められる状況じゃない」

 

エリスが扇を閉じ、真剣な声を響かせる。

「“ラミエル”という名……記録にあるかもしれませんわ。アーリア、調べを」

 

「はい」

アーリアが抱えていた古文書をすぐに開き、めくる指先が震える。

 

「……ここにあります。“血翼の魔将ラミエル”。

黒翼を広げ、血に染めた軍勢を率いる将――と記されています」

 

空気が凍りついた。

セレスが眉を寄せ、祈りの言葉を呟く。

「血の軍勢……ヴァルナとは異なる、集団を滅ぼす力……」

 

アンナは無表情のまま告げる。

「早急に備えを整えるべきです。敵は必ず、領地そのものを狙ってくるでしょう」

 

仲間の言葉を聞きながら、僕は剣を腰に戻した。

(――ヴァルナを倒しても、すぐに次が来る。七魔将の連鎖……ここで終わりじゃない)

 

「準備を始めよう。次に待つのは、血の翼を持つ魔将だ」

 

誰も声を失わなかった。

全員の視線が、同じ方向を見ていた。

 

アーリアが古文書を広げ、炎にかざしながら慎重に読み上げる。

「……ここに記されています。《七魔将》の名が――」

 

仲間たちの視線が一斉に彼女へ注がれた。

 

「《烈火の魔将》イグニス、《氷刃の魔将》セレーネ、《瞬撃の魔将》アルジーナ、

《大食の魔将》ベロク、《千眼の魔将》ヴァルナ、《血翼の魔将》ラミエル……そして――」

 

彼女の指が最後の一文に止まり、小さく息を呑む。

「《奈落の魔将》ダゴン……これで、七人すべての名が揃いました」

 

静寂が広間を覆った。

その名を並べただけで、重苦しい空気が胸に圧し掛かる。

 

だが、アーリアの声はそこで終わらなかった。

「……けれど、ここに――」

古文書の末尾に、掠れた筆跡が残っていた。

 

「“七を束ねる更なる存在”と……しかし、名は掠れていて判別できません」

 

リンカが眉をひそめる。

「七魔将の上……? そんなの、聞いたこともないよ」

 

セレスは祈るように胸の前で手を組み、かすれた声で告げた。

「神に仇なす、影の支配者……そういう存在なのかもしれません」

 

僕は剣の柄を握り、重く息を吐いた。

(……七魔将ですら絶望的なのに、さらにその上が……。けど、逃げるわけにはいかない。仲間と共に進むしかない)

 

 

こうして、僕らは新たな名と、さらなる不安を抱えながら次の戦いへと備え始めた。

 

◇◇◇

 

 ヴァルナとの死闘から数日が過ぎた。

 森に潜んでいた魔の気配は完全に払われ、タブリンス領都はようやく安堵の息をつき始めていた。

 

 瓦礫の山となっていた家々は、領民たちの手で再建されつつある。広場では炊き出しの煙が立ちのぼり、子供たちの笑い声が響いていた。

(……母上。領地は、確かに立ち直り始めている)

 胸の奥でそう呟き、僕は剣の柄にそっと手を添えた。

 

 そんな折、エリスが静かに口を開いた。

「ここまでで、領内でできることは一通り済みましたわ。これからは商会の基盤を広げ、物資の流通を取り戻すため……私はダータルカーンに戻ろうと思います」

 

「エリス様……」

 ミレイユが小さく息を呑む。その瞳には迷いが揺れていた。

 

 僕の妻である彼女にとって、ここは生まれ育った故郷。領民たちと共に復興に尽力したい気持ちと、僕の隣に在りたい気持ちが拮抗しているのが痛いほど伝わってくる。

 

 

 そんなミレイユの背に、シャミーがぽんと手を置いた。

「ねえ、ミレイユ。セージ様をそばで支えてあげて。シャミ達の代表でエリス様についてってよ」

「わ、私が……代表……?」

 困惑する声に、アーリアが静かに頷いた。

「セージ様とエリス様。両方を支えられるのは、あなたしかいません」

 レイシスも真剣な眼差しで言葉を重ねる。

「領民にとっても安心です。あなたが共に行けば、ここに残る私たちも胸を張って復興に専念できます」

 

 ミレイユの瞳が大きく揺れ、やがて強い決意に変わっていった。

「……わかりました。私が代表として、セージ様とエリス様に同行します。故郷のことも、必ず胸に抱いて」

 

 その決断を聞き、僕は静かに頷いた。

「ありがとう、ミレイユ。君がいてくれるのは、何よりも心強い」

「はい、セージ様……」

 

 ◇◇◇

 

 その夜、炊き出しの列が途切れた頃。

 王国の紋章を掲げた騎馬隊が、領都の門をくぐった。

 

「王都よりの勅命を伝える!」

 騎士の声が広場に響き渡る。領民たちがざわめき、僕は自然と一歩前に出た。

 

「セージ・タブリンス殿――王都にて王の謁見を賜られたい。これは国王陛下直々のご意向である!」

 

 静まり返る広場に、凛とした声が響く。

 領民たちは驚きと期待の入り混じった眼差しを僕に向けていた。

 

(……ついに来たか。逃げることはできない。これは、僕たちが背負うべき道だ)

 

 僕は深く息を吸い込み、騎士に応じた。

「――謹んでお受けします。王都に参じ、陛下のお言葉を伺いましょう」

 

 こうして、王都への旅路が始まった。

 

~第4部 完~

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