地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~   作:かくろう

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新たな戦いへ

 屋敷の中は、外の喧噪とは対照的に静かだった。

 石造りの壁に灯されたランプの明かりが柔らかく揺れ、ほのかに漂うお茶の香りが心を落ち着かせる。

 

「皆さま、お疲れでしょう。軽い夜食をご用意しております」

 エリスが恭しく頭を下げると、奥からアンナが現れ、銀の盆を静かに卓上へ置いた。温かいスープと、焼きたてのパン。それだけなのに、戦場を渡り歩いてきた僕らにとってはどんなご馳走よりもありがたい。

 

「……ありがたいな。気が張ってたせいか、腹は空いてるみたいだ」

 口にしてみれば、スープは優しい味で、胃の奥にじんわりと染み渡っていった。

 自然と、肩の力が抜けていく。

 

 リンカがほっとしたように笑い、尻尾を揺らす。

「やっぱり……こうして仲間と落ち着いて食べるのが一番だね」

 その言葉に、セレスが祈るように頷いた。

「神の恵みは、こうした時にこそ実感できますね……」

 

 ルミナスはスープを飲み干し、小さく呟いた。

「……味、悪くない。おかわり」

 アンナがわずかに目を瞬かせる。だが無言で二杯目を用意し、そっと差し出すと、ルミナスは満足げに受け取った。

 

 それにしても、セレスもルミナスも大食い大会であれだけ食べたのにケロッとしている。

 

 特にセレスは普段の聖女然とした立ち振る舞いとは真逆でギャップがすごかったな。

 

 そのやりとりを見ながら、僕は深く息を吐いた。

(……戦いのことばかりで張り詰めていたけど。こうして仲間と笑い合う時間が、どれほど貴重か……)

 

 ふと目を上げると、エリスが静かにこちらを見守っていた。

 彼女の表情は母のように穏やかで――同時に、この先の道を共に切り拓こうとする覚悟を秘めているように見えた。

 

「セージ様。領地の復興は順調ですが……王都やギルドの情勢も無視できません。近々、再び動き出す必要があるでしょう」

 静かな声に、場の空気が引き締まる。

 

 祭りで浮き立っていた心が、少しずつ現実へと引き戻されていく。

 

 

 

 夕餉を終えた屋敷の一室に、僕たちは集まっていた。

 大きなランプが吊るされた部屋は温かな光で満たされていたが、その空気には静かな緊張が漂っていた。

 

 エリスが椅子から立ち上がり、皆を見渡す。

「……祭りを終えた今だからこそ、冷静に話すべき時かと存じます。王都の復興、そして冒険者ギルドの動向。どちらも、今後の我々の行動に大きく関わってまいります」

 

 その言葉に、リンカが姿勢を正した。銀の尻尾が揺れ、真剣な瞳でこちらを見据える。

「確かに……今まで私たちは戦いの渦中にばかりいた。でも、王国の中でどう見られているのかも、考えなきゃいけないよね」

 

 セレスは祈るように胸の前で手を組み、小さく頷いた。

「王も民も、救いを求めています。私たちの戦いは、その希望を繋ぐもの……。けれど、同時に恐れや疑念を抱かれてしまう危うさもあります」

 

 ルミナスはテーブルの端に肘をつき、ぼそりと呟いた。

「……人気。信用。どっちも大事。……でも、敵を叩く方が好き」

 彼女らしい率直すぎる一言に、思わず苦笑が漏れたが、言わんとすることは分かる。

 

 アンナが静かに続ける。

「王都とギルド、両方の視線を軽んじるべきではありません。場合によっては利用され、場合によっては警戒されるでしょう」

 

 その場にいる全員が頷く。確かに僕たちの力は突出している。だが、だからこそ警戒される危険もあるのだ。

 

 

◇◇◇

 

 

 冒険者ギルドの会議室。

 重厚な扉が閉ざされると、ざわめいていた空気が一気に静まり返った。

 僕ら《奈落の希望》と、《煉獄の騎士団》。二つのパーティが並んで腰掛ける光景は、それだけで場の緊張を引き締める。

 

「……依頼を伝える前に、ひとつ報告を」

 ギルドマスターが低い声で切り出した。

 褐色の顔に刻まれた皺は深く、その眼差しは老練な戦士の鋭さを宿していた。

 

「ここ数週間、国境付近の村々で――夜襲による被害が相次いでいる。

 最初は盗賊かと思われたが、生き残った者の証言は……どれも同じだ。血を浴びた人間が、理性を失って魔物のように襲いかかってきたと」

 

 場がざわめいた。

 僕は息を詰め、ヴァルナ戦の記憶が脳裏をかすめる。

(……やはり。血の紋様と繋がっている。あれは偶然じゃなかったんだ)

 

「被害は拡大の一途をたどっている。王都も把握しているが、兵士だけでは対応しきれん。そこで……」

 マスターの視線が、まっすぐ僕らに注がれる。

「この依頼を、《奈落の希望》と《煉獄の騎士団》の両隊に任せたい」

 

 アテンが静かに頷いた。

「承知した。我々も国境付近の調査で、その前兆を確認している。ここで動かねば、犠牲は雪だるま式に増えるだろう」

 

 フェンネルが杖を指先でくるくる回し、苦笑を浮かべた。

「ま、やるしかないってことよねぇ。セージちゃんたちと一緒なら、頼もしさは倍増だわ」

 

「血まみれの連中? 上等だ!」

 ザークが拳を鳴らす音が、会議室の静けさに響く。

 

 僕は剣の柄に触れ、はっきりと口にした。

「僕たち《奈落の希望》、正式に依頼をお受けします。――人を魔に堕とす術が広まる前に、必ず止めます」

 

 その言葉に、セレスが柔らかく微笑んだ。

「……神の導きに従い、力を尽くしましょう」

 

「ふむ。遠征、楽しみ」

 ルミナスが小さく呟き、肩を揺らす。

「敵。いっぱい。派手に燃やせる」

 

 リンカは腕を組み、真剣な眼差しで僕を見た。

「セージ君。気を引き締めていこう。もう“ただの魔将”じゃ済まないよ」

 

 その声に僕は深く頷き、仲間たちへ視線を巡らせる。

――誰一人として怯んでいない。

 それが心強く、同時に胸を熱くさせた。

 

 ギルドマスターは大きく頷き、机を叩いた。

「決まりだ。お前たち二組に、国境の調査と討伐を正式に依頼する! ……頼んだぞ、英雄たち!」

 

 その宣言に、場の空気が一気に張り詰めた。

 次なる戦場が、はっきりと定まった瞬間だった。

 

 

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