地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~   作:かくろう

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怒り、悲しみ……抱きしめて

「なんだよツレねぇなぁ。顔逸らさなくてもいいじゃんか」

 

 相当酔っ払ってるな。酒臭い息がこちらまで届いて非常に不快だ。

 

 加齢臭と混じってドブの腐ったような臭いが料理を駄目にしてしまうそうだ。

 

「あなたはどちら様ですか。僕たちは親睦を深め合ってる最中です。水を差すのはやめていただきたい」

「あ~~? なんだ小僧。眩しい銀髪しやがってよぉ。良い気分の酒が台無しだろうがぁ」

 

 台無しなのはこちらなのだが。

 

「へっへっへぇ。最近キツネ族の女に縁があってなぁ。アイツに似て可愛いじゃねぇか。胸はイマイチだが尻の形は最高じゃねぇか、ええ?」

 

 なんだこの品性の欠片もない男は。存在自体が不条理すぎるぞ。不愉快をそのまま人間にしたような奴だな。

 

「おいアンタ。くだらねぇマネはやめてくれ」

 

「なんだぁクソガキィ。俺様が声をかけてやってるんだ。邪魔するんじゃねぇぞ」

 

 タチの悪い酔っ払いだ。教養がある分だけマハルの方がマシに見える。

 

「誰が……」

「あ?」

 

 その時だった。静かな静かな……とても静かな怒りがその場に満ちているのが分かった。

 

 

 それと同時に思い出したことがある。

 

 銀狐族というのは獣人なのである。

 そしてキツネ型の獣人は本来恐ろしく好戦的であるというのを本で読んだのを思い出した。

 

「誰が胸無し尻デカ女だコラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼アああああああああああ嗚呼!!!!!」

「え、いや、そこまで言ってな――――――――」

 

 ズドォオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

「ゴホォアアアアアッ、アガァアアアアアアア!! 」

 

 腰だめに引き絞られた拳を思い切り振り上げたリンカ。

 ガチガチの防御力で知られるグランドタートルの甲羅でも粉々になりそうな凄まじい衝突音が酒場全体を振動させた。

 

 僕は見た。

 

 めり込んだリンカの拳が腹の肉と内臓を押し上げて反対側まで山なりに押し上げるのを。

 

――――――

 

【リンカニア】LV38

☆本能覚醒(NEW) 一時的にレベル2倍

☆野生解放(NEW) 一時的に能力2倍

☆凶暴化(NEW)

 ↓絆ゲージLV2でパワーアップ↓

☆凶暴化 理性を失って能力1.5倍 →☆最凶星(NEW) 理性を保ったまま全ての能力が一時的に4倍(但し口は悪くなる)

 

――――――

 

 おいおいおいっ。

 いきなりスキルが三つも解放されちゃったよ。どうしちゃったのリンカッ⁉

 

「リ、リンカ」

 

「ふざけたっ! ことっ! 抜かしてんじゃねぇぞっ札付きがぁあっ!」

「ぐほぁっ、おゴッ、どぼぁああっ⁉」

 

 倒れ込んだ小汚い男に容赦の無い蹴りを喰らわせ続けるリンカ。

 昼間の戦いで見せた美しさすら感じられるスマートな戦い方はどこへやら。

 

「いいぞいいぞ姉ちゃんヤレヤレッ!」

「そいつはロクデナシで有名なグレンってボンクラだ。そんくらいじゃ死なねぇから安心して殴れッ」

 

 周りの連中は好き勝手に野次を飛ばしてくる。いい気なもんだ。

 

 まるで地上げ屋か裏稼業のヤクザもののような暴虐な言葉遣いで罵倒し、呻き声しか上げられなくなった男を容赦なく蹴り続ける。

 

 グレンっていうのか。確かリンカから聞いた純白の剣に入ってきた新メンバーの名前だ。

 

「死ねッ、死ねッ、死に腐れゲス野郎ッ! よくも私をっ、よくも私をっ!」

「ぐぼぁ、ごげっ、ご、ごめんなざっ、ゆるぢ、ゆるじでぇ!」

 

「ストップリンカッ! それ以上やったら死んじゃうってっ」

 

「離せっ! 離せッ! はなせぇえええっ!!」

 

 やっぱりリンカは怒っていたんだ。自身を売り飛ばしてゴミのように捨てた連中に、理性を失うほどの激しい憎しみと怒りを隠していた。

 

「大丈夫だよリンカ。僕がいる。こんな奴を殺す必要は無い」

 

 もの凄い力だっ。全力で抑え込んでいるのに腕が千切れそうなくらい抵抗される。

 

 尻尾と耳の体毛がビンビンに逆立ち、鋭く爪が伸びてきている。

 

 レベルが上がってなかったら振り切られてた。

 

 僕はリンカの気を落ち着かせるように正面から抱きしめ、背中をさする。

 

「ぐぅう、うううううっ!! うううぐうううぅううう」

 

 スキルの影響か理性のにおいが感じられない。だけどその悲痛な思いが伝わってくる。

 

 ボロボロと涙を流して悲しみに暮れながら蹴り続けるリンカの心は想像以上に傷付いている。

 

 このままではどうにもならなそうだ。僕はリンカを抱えたままその場を逃げる事にした。

 

「お騒がせしてごめんなさい。皆に奢ってあげて」

「え、あ、はいっ。またのお越しを」

 

 僕はサイフから壊してしまった机や床の木材の修理代を取り出して給仕のお姉さんに渡した。

 

 食事代と合わせて5万ルクスも散財することになってしまった。

 

「うがぁああああっ!」

 

 悲しみに叫び続けるリンカをなだめながら、急いでその場を後にした。

 

◇◇◇

 

「うう、ごめんなさいセージ君。私、頭に血が上ってしまって。目の前が真っ赤になって……何にも分からなくなっちゃった」

 

「いいんだよリンカ。無理もないさ。大丈夫、大丈夫だからね」

 

 とにかくその場にいられないと思った僕は、リンカを抱えたまま宿泊している宿に戻った。

 

 こんな状態の彼女を1人にするわけにはいかなかったので、落ち着くまで抱きしめ続けた。

 

 やがてスキルの効果が切れたのか、あるいは怒りがピークを過ぎて沈静化したのが原因か。

 

 リンカの理性が戻り始めて落ち着きを取り戻した。

 だけど怒りが収まったと同時に、今度は悲しみと、かつて感じた恐怖の記憶が蘇っていた。

 

 あれからずっと僕の腕の中で震え続ける彼女を懸命になだめ続けていた。

 

 抱きしめて、背中をさすり、髪を撫でて体温を伝えた。

 

 幼い頃、よく母上にこうして抱きしめてもらった事を思い出した。

 あの頃の僕は泣き虫だったからな。

 

「ありがとうセージ君。落ち着いたわ。もう大丈夫よ」

 

 最後にひと撫でして、もう大丈夫であることを確認した。

 

 リンカの目は涙で真っ赤に腫れており、恥ずかしそうにはにかんだ。

 

「リンカ……。大丈夫、僕がついてるから」

「あ……あはは……情けない所見られちゃったな。ああいう男、苦手なんだ」

 

「ひょっとして、さっき言いかけてた気分の良くない話に関係してる?」

「うん。そうだね」

 

「吐き出していいよ。ちゃんと聞くから」

「ありがとう……。ハーカル……元メンバーの幼馴染みに、迫られたことがあって、私達はそういうんじゃないからって断った。仲間だから、そういう関係になっちゃダメだって」

 

「うん」

 

「そりゃあさ、幼馴染みだし、昔からよく知ってる仲間だし……もしも冒険者にならずに、狭い村の中で一生を終えるなら、そういう未来もあったかもだけど……」

 

「……リンカ?」

 

 何かを思案して、一転して眉を吊り上げるリンカ。なんだか別のムカムカポイントが浮上してきたらしい。

 

「いや、ないわ。絶対ないっ。根本的に、タイプじゃないんだよね」

「はは……それはまた……」

 

「だって性格終わってるんだもん。世の中に自分以上のイケメンはいないって本気で思ってるタイプだよ」

「それは、なんというか、痛いな」

 

「でしょ? 追放された今なら、目を逸らしてたあいつらの劣悪な性格の悪さがよく分かる。パーティーにいる頃は、そこから目を逸らそうと必死だったのかも」

 

「僕も一緒だよ。屋敷の貴族達は、本当に愚劣な選民思想の持ち主ばかりだった」

 

「そっか。やっぱり私達って、似てるんだよね」

「僕もそう思う。まだあるでしょ? もっと吐き出して」

 

「うん。もう一人の男の仲間、ベガルトっていうんだけど、こいつはもっと最悪よ。粗暴で短絡的で女好き。パーティー資金を娼館の女につぎ込んでパアにしたこともあった……ああ、思い出したらムカムカしてきたわ」

 

「あ~、凄く分かる。僕もマハル……腹違いの弟に似たようなことされたよ。そのベガルトには何かされなかった?」

 

「一歩間違えば、あったかもしれない。まあ、常々胸の大きい女がいいとかなんとか言ってたから……」

 

 あ、ヤバい……。これはアレだ。古い文献に出てくる言葉を当てはめるなら【地雷を踏んだ】状態に違いない。

 

 地雷が何かは分からないが、とにかく触れちゃいけない部分を土足で踏みにじる時に使う言葉だったはず。

 

「村にいるときからずっとよ。私のこと尻デカ女とか、デカ尻キツネってバカにしてっ。女はからかえば喜ぶと思ってるのかしらっ。好きでもない男にからかわれたってムカつくだけだっつーのっ。飲み屋の女が仕事で作る愛想笑いを女の本心って思い込んでる勘違い男がっ」

 

 地雷は止まらないらしい。何か別の話題を振らないと。

 

「ねえリンカ。もう一人は? 女の人がもう一人いるんでしょ?」

「え、うん。たぶん、純白の剣で一番性格がねじ曲がってるのが彼女よ」

「シェリル、だっけ?」

 

「そう。私も追放されるまで気が付いてなかったんだけどね。ううん、仲間を信じたいから目を逸らしてた……。思い返せば、私物がなくなっていたりとか、あの子の仕業だったのよ……おまけに胸デカいし……。なんなのアレは。デカいスライムでも飼ってるのかしら」

 

 あ、駄目だ。これも地雷だ。ここで「リンカは胸がなくても素敵だよ」は一番良くない悪手だから気を付けないといけない。

 

 どうする? なんとかしなければ。何を言ったらいいんだろうか?

 

 くそっ、頑張れよ僕の語彙力ッ。

 

「ふ、ふふ……あはははは」

「え、リンカ?」

 

 なんと言おうか必死に思案していると、クスクスと笑い出すリンカに面食らう。

 

「そんなに必死になって何を考えてるの?」

「ん、いや、その……それはね、えっと」

 

「おっぱいが小さくても素敵だよ、とか?」

「い、いやいや、そういう事では」

 

「じゃあ胸が大きい方が好き?」

「そういう事ではない……っていうか、話がズレまくってるよ」

 

「ふふふ、あははは、セージ君のアタフタしてる顔見てたら、なんだかムカムカしてるのが馬鹿らしくなってきたわね」

 

「よかった。元気になったんだ」

 

「うん。ありがとうセージ君。慰めようと必死になってくれて……。嬉しかったよ」

 

「いいんだ。僕はリンカの味方だから……。リンカの全部を受け入れるから」

 

「うん、ありがとう。ねえ、今夜は、一緒にいてくれる?」

「……え、リンカ?」

 

「お願い……一緒に、いてほしい。その代わり……」

 

 願うリンカ。涙を浮かべる彼女を再び抱きしめると……。

 自らコンプレックスだと自己を揶揄していたお尻に僕の手を導いた。

 

 そして、その先にある尻尾の根元を掴むように導いた。

 

 種族学の家庭教師と雑談している時に聞いたことがある。獣人族にとって、自ら尻尾を触らせる行為は、求愛の証だと……。

 

 そして彼女の声は耳元でこう囁く……。魅惑的に、蠱惑的に……。

 

 まるで何かを差し出すように、僕が感じている、彼女に対して強く感じ始めている荒れ狂う感情を歓迎するように、僕にこう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『男の子、していいよ……♡』

 

 

 僕らはそのまま朝を迎えるのだった。

 

 

 

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