地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~   作:かくろう

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桃色の朝日を浴びて

 朝である。古い文献によると、睦み合った男女が迎える朝を【朝チュン】と表現するらしい。

 

 チュンってなんだろうか?

 

 だが厳密には僕らの状況は朝チュンには該当しない。

 

 高級宿屋のカーテンから漏れる朝の光が僕らのベッドを照らし出す。

 

 まどろみから浮き上がっていく僕の意識は、目の前に美しい女性を映し出した瞬間に心臓を高鳴らせた。

 

 艶のある唇が半分開き、漏れ出す吐息が胸板にかかる。

 

 夕べの暴虐的な言葉を吐き出していた唇も、今は桃色に艶を帯びてゼリー菓子のように甘みを含んでいるように見える。

 

 この唇に吸い付いたら、どんな味がするんだろう。

 女の子とキスをしたら、どんな感触なんだろう。

 

 

 

 僕だって年頃の男だ。そういった事には大いに興味がある。

 

 目の前にいるのは美しい女性。何歳か年上であるみたいだけど、その容姿の麗しさと若々しさも相まって、同年代の少女のようにすら見える。

 

 だから彼女を形容する言葉は、美女というより美少女と言った方が良い。相対的にミレイユ達と同じ年齢に見えるくらいだ。

 

「ん……んみゅ」

 

 良くないな……非常に良くない。昨日は紳士的な気持ちが大きくてなんとか理性で押さえ込んだけど、起き抜けのまどろんだ意識では欲望が抑えきれなくなりそうだ。

 

 

 ガマンにガマンを重ねて、あまりのガマンに色々なものが吹き出そうになりながら……。

 

(唇って……柔らかそうだ。耳も尻尾もフワフワで……触ってみたいな)

 

 耳くらいは触ってみてもいいかな……。『男の子していいよ』なんて言ってくれたんだ。耳や尻尾くらいは、許されるんじゃないか。

 

「ん……ぁ……おはよう、セージ君♡」

「お、おはよう、リンカ」

 

 鈴の音を転がしたような可憐な声。まだ半分夢の泉の中で揺蕩(たゆた)っているような掠れた美声が僕の理性を大いに揺さぶった。

 

 無意識に近づけていた顔を慌てて背ける。

 

 危ない危ない。理性が☆加速をかけてどこかへ行ってしまうところだった。

 

「んふふふ……セージ君のいっくじなし~♪」

「紳士と、言って欲しい……」

「獣人族は満月の夜しか妊娠しないから、好きにしてよかったのに♪」

 

 色っぽい仕草で身を寄せてくるリンカ。

 夕べ、彼女の懇願で一夜を共にした僕ら。

 誤解しないでほしいが、僕は決していかがわしい事はしていない。

 

 泣いている女の子に付け込んで欲望まっしぐらになるなんて紳士のすることじゃないからだ。

 

 断じてヘタレたわけではない。断じてな。ホントだぞ?

 

「んへへ……セージ君の胸板、硬くて厚くて、あったかいね。お父さんみたいに、大きくて……」

 

「あ、あの、リンカ……」

「うん? どうしたの?」

 

「えっと、そろそろ起きようか。流石にちょっと……」

「男の子、したくなっちゃう?」

 

「そ、そんなことは……」

 

 ない、とは言い切りたくない自分が情けない。

 

 まるで悪魔のような誘惑の言葉を投げかけてくる。

 僕の理性を溶かして心臓を鷲掴みにするような蠱惑的な微笑み。

 

 そうだ。古い文献では、こういうのを『小悪魔の誘惑』と言うのだ。

 

 リンカは僕の葛藤を見透かしたように小悪魔スマイルで胸板を指でなぞった。

 

「私は、いいよ♡ 昨日も言ったけど……私……セージ君なら。あげちゃうよ」

「嬉しい……嬉しいけど。今は、ね。リンカ」

 

「うん。分かってる。そういう所も、君の良い所だと思う」

 

 いっその事今日は休みにして……なんて言葉が喉まで出かかった。

 なんだろうな。屋敷にいる頃は同じ年のミレイユや他のメイド達に、こんな強い情動を感じたことはなかった。

 

 いや、そうじゃないな。

 

 彼女達だって決して魅力に欠けているわけではない。むしろ、誰1人としてリンカに勝るとも劣らない美少女ばかりだ。

 

 優しくて、温かくて、誰も彼もが僕を慕ってくれた。

 家族のような存在だから、そういう対象として見ないように一生懸命自分を律していた気がする。僕が平民だったら誰もがお嫁さんにしたいくらいに。

 

 いやまあ、自惚れなのは分かってるけどね。男として見られてはいかなったろうし、あくまで同じ屋敷で平民の血が入った同じような境遇というだけだ。

 

 

「今度こそ起きよう……」

「ふふ、そうだね。ありがとうセージ君。一緒にいてくれて、嬉しかった」

 

「うん。よかったよ」

 

――――――

 

・感情ゲージ リンカニア LV38

 35/50にアップ(リンク状態LV3にアップ) 

【ためる】及び、☆自動回復、パッシブ系スキル共有可能

 

――――――

 

 感情ゲージがかなりアップしている。自動回復が共有状態になっているな。

 

 やっぱりこのフィーリングリンクっていうのは、お互いが向け合ってる感情の強さが関係しているんだろう。

 

 最大値が自動的に上がっている理由がよく分からないけど、考えても仕方ない。

 

「ねえセージ君」

「なんだいリンカ?」

「そろそろ着替えたいんだけど」

「あ、ご、ごめん。すぐに自分の部屋に戻るよ」

 

「ふふ、出て行けなんて言ってないよ。見てく?」

 

「か、からかわないでよっ!」

 

 何故だか積極的なリンカに戸惑いながら、僕は慌てて部屋を出るのだった。

 

◇◇◇

 

【sideリンカ】

 

 バタン……。

 

 セージ君は慌てた様子で、顔を真っ赤にしながら部屋を出て行った。

 

 

「あああああああああっ!!!!」

 

 悶えながらベッドに突っ伏してゴロゴロと転がる。

 

 

 なにやってるんだ私ぃいいいいいっ!!

 心臓が燃えるように熱いぃ!

 

 

 あんな風に男の子を誘惑するなんてっ!

 サキュバスか私はッ⁉ っていうかアレは誘惑になっていたのだろうかっ!!

 

『男の子、してもいいよ♡』

 

 どの口が言ってるんだぁあああっ! 処女のくせぃいいっ!

 経験なんてないくせにぃイイッ!

 

 なんだ男の子してもいいってっ⁉ もう少しマシなセリフ思いつかなかったのかよっ!

 

 お姉さんぶって年下の男の子誘惑する感じだそうとして変な事言ったッ!

 

 絶対に変な女って思われてるぅううっ!

 

 嗚呼、でも、だけど……

 

「セージ君、ウブだなぁ……」

 

 ふぁああああああっ!

 

 ときめくぅううっ!

 そしてカワイイよぉお、セージ君超カワイイぃいいいっ! 

 

 

 

「ふへへへっ、うへへへへ~~。セージ君、温かかったなぁ。男の子っていうより、もう男性、だよね」

 

 ガッシリしてて、硬くて、太くて、厚みがあって、それでいて、優しくて温かい(胸板の話ねっ!)。

 

 しかもまだ15歳。これからもっと、大きくなるんだもんね。

 

 こんな気持ちは初めてだった。

 年下の男の子に、何もかもを委ねたくなった。

 

 そのまま……そういう事になっても……。

 

 そこまで考えてまた心臓が熱くなった。血液が全身を巡って顔が真っ赤になっていくのが分かる。

 

「なに考えてるのよ私ったら……はしたない! うひぃいい恥ずかしぃいいっ! 誘惑しようとして自分のお尻と尻尾触らせるとかバカか?」

 

 そこは胸だろっ⁉ いや小さいけどっ! こんなデカ尻触らせようとして気持ち悪いとか思われないないよね?

 

 年上お姉さんムーブかまそうとして完全にしくじったっ!

 

 だって恋なんてしたことなかったんだもんっ!! 男性経験だって皆無だしっ! 浮いた話なんて一度もなかったしっ!

 

 私の周りにいる男って言ったら『極限ナルシスト』と『勘違いパワハラ男』だもん。

 

 あんなのに恋できる女がいたら、それはもう病気だよっ。すぐに治療院に行くことをオススメするわよっ!

 

 いやまあ、私に責任がないとは言わないし、言えない。

 ハーカルを勘違いさせちゃった私も大いに責任があると思う。

 

 自意識過剰って言われそうだけど、実際幼馴染み達を異性として意識したことは全くなくて、いきなり部屋に入ってきたハーカルに警戒しなかった以前の私も無知で無防備だった。

 

 男という生き物に対して無知だった。男女の感情に対して無知だったのだ。

 

 自分が女として意識されてるなんて欠片も思って無くて……。

 それから元メンバー達とは適切に距離を置こうとした。

 

 幼馴染みだし、同じ夢を持った仲間だったし。私は仲間だと思っていたから。

 

 段々と歪んでくる幼馴染み達との亀裂に目を背けていたような気がする。

 

 

 ホントになにやってるんだろ……。

 

 

 それもこれもアイツのせいだ……。

 

 昨日のあの男。純白の剣に新しく入ってきたグレンって奴だった。

 

 幸い私の正体に気が付いている様子はなかったけど、こんなに早く遭遇するなんて思わなかったから、完全に油断してたわ。

 

「ケジメ、付けなくちゃ……。セージ君に迷惑が掛かっちゃう前に……って、駄目だ。1人で抱えちゃ駄目。相談しなくっちゃ」

 

 この命は、セージ君に救ってもらったもの。私はそれを、彼の為に使って生きるって決めたんだ。

 

 今更復讐なんてする必要はない。あいつらはあいつらで勝手に生きていけばいい。

 

 だけど、もっともっと強くならくっちゃ。

 もしもあいつらが私達に何かちょっかいを出してきてもいいように、もっと強くなろう。

 

「さて、今日も頑張って魔物を狩りまくっちゃおっと」

 

 昨日からなんだか好戦的になってる自分に気が付く。

 やっぱり、もともと好戦的な性質を持っている獣人族だってことを思い知らされる。

 

 そういえば、自分の中に新しいスキルが目覚めてるのが分かった。

 

「接近戦、苦手だけど克服してみようかな……。セージ君に相談しよっと」

 

 気を取り直し、着替えを済ませてセージ君の元へと急ぐのだった。

 

 

 

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