地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~   作:かくろう

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燃ゆる王都

 ギルドでの会議が終わると、仲間達は一度拠点に戻って荷をまとめた。

 武具を点検し、ポーションを補充し、矢を数え、エリスが商会から手配した物資が次々と運び込まれる。

 

 そんな中、ルミナスが僕の袖をくい、と引いた。

 

 

「セージ。試す。リ・テレポ。王都、直接行ける、かも」

 

「……本当か? そんなに早く行けるなら助かるけど」

 

 ルミナスは小さく頷き、両手を組み合わせて呪文を紡ぎ始めた。

 空気が震え、青白い魔法陣が床に浮かび上がる。仲間達が息を呑んで見守る中、ルミナスの瞳が鋭く光った。

 

 だが次の瞬間、魔法陣はバチバチと火花を散らし、霧散する。

 

「……ダメ。王都……魔力、ぐちゃぐちゃ。渦、大きすぎて……座標、特定できない」

 

「魔力が渦巻いてる……? まるで結界か、あるいは……」

 

「おそらく……強大な術式が展開されているのです。教団の結界、あるいは魔将の結界……」

 

「つまり、正面から行くしかないってことね」

 

 ルミナスは小さく肩をすくめると、ため息を吐いて言った。

「……すぐには行けない。けど、歩きなら……行ける」

 

 準備を終えた僕達は、翌朝ギルドの前に集まった。

 まだ陽が昇りきる前だというのに、多くの冒険者や避難民が見送るために集まっている。

 

 ギルド長は腕を組み、いつもの厳しい顔で立っていたが、その眼差しは確かな信頼を宿していた。

「……王都に行けるのは、お前達ぐらいだろう。帰ってくるときは必ず勝利の報告を持ってこい」

 

 トトルムも隣で穏やかに微笑んだ。

「セージ様方……ご武運を。こちらは任せてくださいませ」

 

 リンカが弓を背負い直し、僕に頷いてみせる。

 ルミナスは無言で炎と氷の二重魔力を指先に灯し、セレスは胸に十字の印を描いて祈りを捧げていた。

 

 僕は仲間たちの顔を一人ずつ見渡し、剣を抜いて掲げる。

「行こう。――王都を救うために!」

 

 見送りの声が背中に降り注ぐ中、僕達は王都への街道を駆け出した。

 

◇◇◇

 

 

 王都へと続く街道は、すでに煙の匂いが漂っていた。空には不吉な赤い光が揺らめき、まるで火柱の残光が天を焼いているようだった。

 

「セージ君……空気が、焦げてる」

 リンカの銀狐の耳がぴくりと震えた。警戒の気配を隠さない。

 

「ん……ルミナスも感じる。魔力の渦。前方、待ち伏せ……いる」

 低く告げるルミナスの瞳は、すでに炎の気配を捉えていた。

 

 僕も剣を抜き、周囲を見渡す。嫌な予感は、確信に変わりつつあった。

 

 ――ゴウッ!

 

 次の瞬間、左右の森が爆ぜた。燃え盛る炎の壁が道を塞ぎ、黒い影がぞろぞろと現れる。アンデッドの群れだ。しかもその身体は炎を纏い、普通のゾンビやスケルトンよりもはるかに俊敏。

 

「炎を纏ったアンデッド……! これ、自然発生じゃないわ。完全に操作されてる」

 リンカが双剣を抜き、鋭い声を上げる。

 

「セージ、前方。尖兵……人型、いる」

 ルミナスが示した先に、鎧姿の人影が三つ。……いや、もう人間ではない。ハーカル、ベガルト、シェリルと同じような、教団に尖兵化された者たちだ。

 

「数……多すぎる」

 後方でセレスが思わず声を震わせる。彼女の瞳に、燃え盛る炎と異形の軍勢が映り込んでいた。

 

 冒険者の一団も王都へ向かっていたが、突如の待ち伏せに混乱し、押し返され始める。叫び声と炎が入り混じり、戦場は瞬く間に地獄へと変わった。

 

 僕は一歩前に出て、仲間へ短く告げた。

「ルミナス――例のアレだ」

 

「ん……ガッテン承知」

 ルミナスはにやりと笑みを浮かべ、両腕を広げた。その周囲に魔力の陣が何重にも展開し、赤熱した空気が空へ昇る。

 

 ――《ノヴァ・インフェルノ》。

 

 轟音と共に、炎の奔流が空から降り注いだ。無数の火柱が雨のように叩きつけられ、炎を纏ったアンデッドの群れが次々と爆散していく。まるで燃える隕石が地上に殺到するような光景だった。

 

「ふう……8割は焼けた。残り、片付けて」

 ルミナスが汗を拭う間もなく言う。

 

「任せろ!」

 僕は剣を掲げ、残る尖兵とアンデッドの群れへ飛び込む。

 

 リンカが双剣を振るい、セレスが聖属性の防壁を展開し、冒険者たちも勇気を取り戻して一斉に叫びながら突撃する。

 

 炎の残骸の中、戦いは再び苛烈さを増していった。

 

 

 王都の外壁が見えてきたとき、僕は思わず息を呑んだ。

 

 かつて壮麗を誇った白壁は半ば崩れ落ち、門は黒焦げに裂けている。あの堅牢な城門が……今は半壊し、辛うじてその形を留めているだけだ。風に乗って、焦げ臭い匂いと呻き声が流れてくる。

 

「……ひどい」

 リンカが声を震わせた。銀狐の耳が下がり、尻尾までしおれている。

 

「……王都、大火災。アンデッド、暴れてる」

 ルミナスの蒼い瞳が、燃え盛る街並みを映していた。

 

 城下町は瓦礫の山と化し、至る所に炎を纏ったアンデッドが徘徊している。避難する市民の悲鳴、必死に防衛線を張る冒険者や騎士団の怒号……王都は完全に地獄に沈んでいた。

 

「セージ様……わたくしの、祖国が……」

 セレスが膝をつきそうになったので、僕は慌てて肩を支える。彼女の青い瞳には涙が浮かび、燃え盛る炎を映し出していた。

 

「大丈夫だ、セレス。ここからだ。僕たちで――取り返す」

 

 気丈に振る舞ったつもりだったが、胸の奥は怒りと無力感で煮えたぎっていた。これが……魔将の力か。

 

 その時、炎の壁を突き破ってアンデッドの軍勢が押し寄せてきた。燃え盛る骨の巨兵、火の粉を散らしながら走るゾンビ、そして黒鎧の騎兵まで。

 

「来るぞ!」

 僕は剣を構える。

 

「任せて、セージ君!」

 リンカが素早く前に出て、炎を裂くように双剣を振るった。彼女の動きはまるで白銀の流星だ。

 

「ルミナス、広域魔法で援護を!」

「了解……《ノヴァ・インフェルノ》!」

 

 天空から紅蓮の奔流が降り注ぎ、アンデッドの群れを一気に焼き尽くす。爆炎と轟音が街を揺るがし、冒険者や騎士団から歓声が上がった。

 

「すごい……一瞬で戦況が変わったぞ!」

「まだ希望はある!」

 

 僕も【重ね斬り】で前衛を切り裂き、セレスが聖属性の防御結界を張って市民を守る。仲間と力を合わせ、押し寄せる軍勢を次々と薙ぎ払っていった。

 

 やがて――

「……あんた達、外から来た冒険者か!」

 

 血に塗れた鎧をまとった騎士が駆け寄ってきた。彼は肩を負傷していたが、必死に剣を握りしめている。

 

「状況を教えてくれ」

 僕が問いかけると、騎士は悔しげに唇を噛んだ。

 

「王城が……《烈火の魔将》イグニスと名乗る男に占拠された! 陛下も、王族方も人質に取られている!」

 

「……やっぱり、イグニスか」

 全員が顔を見合わせた。空気が一段と重くなる。

 

 燃え盛る王都の奥、王城を睨みつけながら、僕は剣を強く握った。

「行くしかない――あそこへ」

 

 

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