地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~   作:かくろう

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士気を高める檄

 村に残された空気は重かった。

 騎馬兵たちが去った後も、布告の言葉が人々の耳に残り、心を締めつけていた。

 

「反逆は処刑」「村ごと焼き払う」――。

 その恐怖は理屈ではなく、本能を縛る鎖だった。

 

 広場の片隅で、子供が母親の袖を掴み、泣きながら叫ぶ。

「お母さん、僕たち殺されちゃうの……?」

 その声に、母親は言葉を失い、ただ抱きしめるしかなかった。

 

 (……このままでは駄目だ。恐怖に飲まれたままでは、立ち上がる力なんて出てこない)

 

 僕は深く息を吸い込み、広場に歩み出た。

 フードの影から見上げると、怯えに沈む人々の瞳が映る。

 

「皆さん!」

 声を張り上げると、広場にざわめきが走った。

 僕の胸の奥から、燃えるような言葉が自然にあふれていった。

 

「恐怖に震えるのは分かります。僕だって怖い。仲間を失うのも、自分が斬り伏せられるのも、怖いんです」

 

 その告白に、村人たちの表情が一瞬だけ揺らいだ。

 英雄でも戦士でもない。ただの人間の言葉として届いたのだろう。

 

「でも――僕は、守りたい。皆さんが生きて、笑って、未来を紡げるように。そのためなら、何度でも立ち上がる!」

 

 拳を握り、言葉を重ねる。

「恐怖に屈すれば、奴らの思うつぼです。けれど恐怖を越えて一歩を踏み出したなら……! 必ず道は開ける!」

 

 その瞬間、隣でリンカが一歩前に出た。

 彼女は大きく尾を揺らし、声を張り上げる。

「セージ君は口だけじゃない! 私だって、この目で見た! 魔将だって倒せるんだもの、こんな圧政なんて必ず打ち破れる!」

 

 続いてルミナスが淡々と、けれど強い瞳で言う。

「私も戦った。火傷だってした。でも……負けなかった。だって守りたいから。――あなた達も、守れるはず」

 

 セレスは胸に手を当て、祈るように声を重ねた。

「神は勇気を持つ者に寄り添います。どうか、自らの手で未来を掴む勇気を……」

 

 仲間たちの言葉が、次々と人々の心に刺さっていく。

 怯えで下がっていた視線が、少しずつ上を向き始める。

 

 沈黙の中、ひとりの青年が拳を握って声を張った。

「……俺たちも、できるだろうか」

 

 それに、別の男が続いた。

「やらなきゃ、ずっと奴らに踏みにじられるだけだ……!」

 

 波紋のように声が広がり、広場に熱が灯っていく。

 やがて――老人が震える足で立ち上がり、杖を高く掲げた。

 

「わしらはもう、これ以上奪われぬ! 命が惜しくても、誇りまでは差し出さん!」

 

 その叫びに、村人たちの声が一斉に弾けた。

「そうだ!」「奪わせてたまるか!」

 拳が振り上げられ、恐怖に沈んでいた空気が熱気へと変わっていく。

 

 その光景を見つめながら、胸の奥で強く思った。

(この炎を、消させはしない。必ず守り抜く)

 

 剣を腰に収め、村人たちへ告げる。

「これで終わりじゃありません。必ず報復が来る。けれど――僕たちは逃げません。必ず守り抜きます!」

 

 歓声が広場に広がった。

 怯えの影は完全には消えていない。けれど今、確かに人々の瞳に「抗う炎」が宿った。

 

 ――その炎こそが、圧政を打ち破る力になる。

 

 

◇◇◇

 

 徴税官を撃退してから、数日。

 村にはようやく安堵の空気が戻りつつあった。

 

 メイドたちは瓦礫を片づけ、リンカは子供たちの相手をし、ルミナスは井戸の火を整えていた。

 村人たちは口々に「助かった」と感謝してくれたが、同時にその瞳にはまだ怯えが残っていた。

 

「セージ君……やっぱり皆、不安なんだね」

 リンカが小さく尾を揺らす。

 

 確かにそうだ。

 僕らが徴税官を退けたのは事実だが、同時に“領主に弓引いた”ことでもある。

 その報復があると考えるのは当然だった。

 

 その予感は、すぐに現実になった。

 

 ――地響き。

 

 村の外れから、鉄の足音が近づいてくる。

 槍の先が陽光を反射し、黒い旗がはためいた。

 

「……騎士団」

 誰かが震え声でつぶやいた。

 

 鎧に身を固めた数十名の騎士たちが、整然と村に入ってきた。

 先頭の騎士が剣を掲げ、高らかに叫ぶ。

 

「領主に刃向かった反逆者ども! ここに断罪を下す!」

 

 広場にいた村人たちは一斉に膝をつき、顔を伏せた。

 子供の泣き声が混ざり、空気が一瞬で凍りつく。

 

 僕の背後で、ルミナスが小さく炎を揺らし、セレスが眉を寄せて祈りの言葉を胸にこめた。

 リンカは矢を番えながら、僕に視線を向けてくる。

 

「セージ君……どうする?」

 

 騎士団は村を完全に包囲している。

 逃げ場はない。

 

 だが――僕は逃げるつもりなど最初からなかった。

 

「……選択肢なんて、ひとつしかない」

 

 剣の柄に手をかけると、冷たい鉄の感触が掌に馴染む。

 背後の村人たちが震えながらも、わずかに僕を見上げていた。

 

 ――彼らを守る。

 そのために、僕はここにいるんだ。

 

 

 広場を取り囲む騎士団の鎧が、ぎらりと光を放っていた。

 緊張に押し潰されそうな村人たちの怯えが、ひしひしと背中に伝わってくる。

 

「反逆者ども、ここで捕らえる! 領主に仇なす者は一族郎党もろとも処刑だ!」

 

 号令と同時に、鋭い槍先が一斉にこちらへと突き出された。

 

「来るぞ!」

 僕は剣を抜き放ち、仲間たちへ視線を送る。

 

 ――瞬間。

 村の空気が一変した。

 

 リンカが弓を引き絞り、氷の矢を雨のように放つ。

 その矢は正確に槍の柄や盾を叩き、敵の武器を次々と弾き飛ばしていった。

 

「ごめんね、でも倒れないで。……セージ君に触れさせるわけにはいかないんだから!」

 

 冷気をまとった矢がきらめき、兵士たちの列にざわめきが走る。

 

 すかさずルミナスが両腕を広げ、短く詠唱を紡いだ。

「燃えろ――《フレイム・スパイラル》!」

 

 赤い炎が螺旋を描き、前衛を一気に焼き払う。

 熱風が吹き抜け、騎士たちの整った隊列はたちまち崩れた。

 

 その隙にセレスが両手を掲げ、村人たちの周囲へ光の膜を展開する。

「――聖なる守りよ、どうかこの人々を包んで!」

 

 淡い聖光が結界となり、怯える村人を覆う。

 矢も炎も、この光の中では届かない。

 

 仲間がそれぞれの役割を果たす中、僕は前へ飛び出した。

 

「……はああッ!」

 

 剣に魔素をため、一気に解放する。

 光を帯びた刃が幾重にも重なり、迫る騎士を一瞬で無力化していった。

 

「ぐっ……! な、何だこの力は……!」

「ひとりで……十人をまとめて……!?」

 

 呻き声と悲鳴が次々と響き、広場は混乱の渦に呑まれる。

 

 恐怖に支配されていた村人たちの瞳が、次第に僕らを見つめ始めた。

 それは「救われるかもしれない」という、淡い光。

 

 剣を振るう腕に、さらに力が宿る。

 ――絶対に、ここは守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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