赤い光弾ジリオン勝手続編シリーズ〜A GIFT FROM GOD〜   作:LLZILLION

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最終回ラストから直接繋がるお話です。


A GIFT FROM GOD序章

 「二人とも、いい加減にしないと」

 アップルはニコッと笑って、左手でアクセルを引き絞った。

 ホイールが空転し、ライディングセプターの巨体が跳ね馬のようにウィリーする。ただでさえ定員オーバーだった後部座席のJJとチャンプは、バランスをとり切れず哀れ空中へと放り出されるはめになった。

 「うわぁ~~っ!?」

 

――時に、西暦2387年。人類はノーザ星人の脅威からついに解放され、そして神からの贈り物を失った。

 

 

 「――報告ご苦労。君たちは我がマリス軍の、いや、私の誇りだ。ありがとう。こちらに戻るまで、ゆっくり休んでくれたまえ」

 ゴード長官はそう結んだ。

 「ラジャー!ありがとうございます」

 JJ、チャンプ、アップル、デイブが答礼した。

 「こっちはお祭り騒ぎだよ!ヒーローのご帰還だ、って。ちょっと遅れて来るくらいでちょうどいいかもね☆」

 エイミが映像の終わり際に顔を出し、手を振った。

 

 「――聞いての通り」

 モニターが消え、デイブが3人に向き直った。

 ビッグポーターが衛星リルから離脱して1時間。モニターの消えたコクピットから見える惑星マリスは、まだ遠かった。

 「これからマリスベースに帰還する。今回の戦闘で各部スラスターが損傷しているから、安全策を取って一旦マリスの静止軌道に入り、そこから大気圏に突入する。ベース到着は、だいたい26時間後だ。個室を解放するので、食事でもとってそれまでゆっくり身体を休めてくれ」

 デイブはそれだけ言ってパイロットシートを回すと、すとんと座り込んだ。

 「デイブはどうすんだ?」

 JJが聞いた。

 「まずは静止軌道へのジャイロ設定、それと、大気圏突入用の外面パネルの修理だな。それが終わったら、そこの作戦室で仮眠させてもらうよ」

 「……ありがとう。デイブには本当、最後まで頭が上がらないわ」

 「デイブ、マリスに帰ったらこの埋め合わせに、ホテルの一番いいスイートを予約するよ」

 「一人でいい部屋にいても落ち着かないなぁ。でも、期待してるよ」

 

 

 個室に入ったJJは戦闘服を脱ぎ、上半身裸のままベッドに倒れこんだ。

 ビッグポーターの2層に三部屋ある個室は本来VIPの護送用で、普段は使われていない。広さも装備も最低限ではあるものの、やはりベッドなど家具類の上質さは、作戦待機用の仮設ベッドなどとは雲泥の差があった。

 「は~……」

 久しぶりの柔らかな寝心地に、自然とため息が出た。

 無理もない。この12時間足らずで、色々な事が起きすぎた。

 ノーザ基地へエアロキャリッドで特攻、ノーザウォーリアーズとの最後の死闘、ノーザの養分にもされかけたし、ノーザの女王と直接対決もした。そして……ジリオンの真の力の発動にも立ち会った。ノーザの卵の旅立ちにも。

 「……」

 JJは右手をかざしてみた。銃の構えが身体に染み付いている。でもその銃はもう、存在しない。

 「……これが、はじまり。ってことなんだろーな」

 JJはひとりごちた。

 

 ”二人とも、いい加減にしないと”

 アップルの声がこだました。――そう、いい加減、アップルにちゃんと伝えないと、始まるものも始まりゃしない。問題は、その伝え方をどうするかだった。

 「俺は、アップルが好きだー!」

 これは、さっき言いそびれてしまった。もう使えない。

 「なぁ、俺ってさぁ、アップルにゾッコンなんだよねー」

 これじゃアップルには通じなさそうだ。ニコッと笑って「ありがと」。それでおしまい。

 「アップル、結婚してくれ」

 マジかよ!?俺、イキナリそこまで言っちゃう!?

 JJはガバと跳ね起き、頭を掻きむしった。頭が混乱してきた。ええい、そのときはそのときだ。

 JJはシャワー室に駆け込み、熱いシャワーを浴びた。

 

 火照った頭と身体に冷水を浴び、冷静さも戻ってきた頃、インターホンが鳴った。

 (……?)

 JJは手早く身体を拭き、シャツとトランクスを身に着けた。

 ドアを開けると、アップルが立っていた。

 「JJ……、ちょっといい?」

 やや上目遣いでアップルが言った。

 「あ、ああ……」

 JJは気圧されたようにアップルを招き入れた。アップルは後ろ手にドアをロックし、部屋を見回す。

 タンクトップにショートパンツのラフな服装に着替えたアップルも、シャワーを浴びてきたようだった。顔の汚れも落ち、腕のアザももう目立たない。肩から上腕、あと太股を覆うテーピングが痛々しいが、見たところ痛みはもうないようだ。

 

 安心したら、JJは急に気恥ずかしさに襲われた。アップルの露出した肩と胸元、ショートパンツから太股にかけての艶かしい曲線から、JJは思わず目を逸らす。

 「……JJ、疲れてるところにごめんなさい。聞きたいことがあるの」

 アップルのまっすぐな瞳に見据えられ、JJは自分の鼓動が高まるのを感じた。

 (そうだ、この瞳に俺はやられたんだ……)

 アップルは一瞬ためらって、しかし意を決したようにJJに向き直った。

 「ね、JJ。さっきの、“俺はアップルが”のあとを聞かせて」

 

 呼吸が止まった。

 頭が真っ白になる。あまりに突然に「そのとき」が来たことで、言うべきはずの言葉がなにも出てこない。JJはテンパった頭で、必死にさっきの問いを反芻する。

 「お、俺は、アップルが……好きだ。ゾッコンなんだ。結婚、してくれ」

 言ってしまって、JJは青くなった。対照的に一瞬赤くなったアップルの平手が、JJの頬に飛んだ。

 

 

 「――あの二人は、どうしてる?」

 「さぁ。いまごろ、コレなんじゃない?」

 チャンプはこぶしを握り、人差し指と中指のあいだから、親指をにゅっと突き出した。

 「えぇっ!?」

 デイブは目を丸くした。

 「あのお二人さん、そんな進んでたんだ!?」

 「いや、ぜーんぜん。……でも、今日は特別な日だし。な?」

 「ちえっ、部内恋愛ってのはズルいよなぁ。俺も、ベースの彼女のとこに早く行きたいぜ」

 「なんだ、一人じゃないじゃない。デイブ、スイートはその彼女と行けよ」

 「……まだ、そんな関係じゃないよ」

 チャンプはデイブに向き直り、真顔で言った。

 「デイブ。いいから誘ってみろって。ちょっと嫌らしいが、俺たちは今やマリスのヒーロー。そのヒーローの誘いをいったい誰が――」

 みるみる表情を変えたデイブはチャンプのセリフをみなまで言わせず、猛然と立ち上がった。

 「お、俺ちょっと連絡してみる!」

 作戦室から駆け出したデイブを見やり、チャンプはため息を漏らした。

 「……戦争が終わったと思ったら、あっという間にみんな色気づいちゃって、まあ」

 「チャンプ、恋のキューピッド」

 オパオパがチャンプの肩越しに話しかけた。

 「オパオパ、アレを出してくれ」

 オパオパから目的のものを受けとると、チャンプは誰ともなく呟いた。

 「……やっぱり俺は、恋の弓矢よりこの編み棒のほうが落ち着くなァ……」

 そしてドアの向こうへ、寂しげな笑みを微かにたたえてウィンクした。

 「……JJ、俺の惚れた女だ。大事にしろよ」

 

 

 アップルの突然のキスに、JJは面食らっていた。突然の平手からの、突然のキス。その柔らかな感触になにか身に覚えがあったことも、JJの混乱を深めていた。目を閉じたアップルから、その表情は読めない。

 その瞼の間から、涙が零れた。

 (アップル……)

 アップルはなにも言わずに突然JJを突き飛ばすと、格闘訓練の要領でベッドに押し倒し、覆いかぶさった。

 「JJのバカ!あんなに約束したのに、一人で突っ込んで行って……あのとき私……私……!」

 畳み掛けるように一気に吐き出し、アップルは身を起こして、顔を覆った。

 JJは泣きじゃくるアップルを見つめた。ノーザ基地への特攻をかけたとき、JJはたしかに死を覚悟していた。あのときの自分が間違っていたとは思わない……が、JJの心の奥がずきりと痛んだ。JJも身を起こし、怪我に気をつけながらアップルの肩を抱いた。

 顔を伏せたままのアップルから、ぽつりぽつりと言葉が零れる。

 「……JJ、私が好きなら、私を悲しませないで。……あんなことはもう、しないで。……もう、戦いはたくさん。……JJ、私を……離さないで」

 「ごめん、アップル……!」

 JJはアップルの顔を振り向かせ、その唇を、今度は自分から力強く吸った。

 「ん、んんっ……んっ……」

 アップルもそれに応えるように、JJの唇を強く吸う。どちらともなく舌が絡み合い、もつれ込むようにベッドに倒れ込んだ二人は、何度も何度もキスを交わした。

 

――JJは理解した。アップルは、ノーザとの戦いが終わるまで、この気持ちを抑え込んでいたのだろう。一瞬のためらいが死に直結する戦場で、必要以上にパートナーを気にかけることは、逆にチーム全体の生存率を低下させる。JJにもそれがわかっているだけに、突然感情を溢れさせたアップルを、いっそう愛おしく感じた。

 

 

 汗に濡れた乳房をJJに密着させ、アップルはJJの髪に触れた。JJもアップルの後頭部に手を回し、愛しげに髪をとかす。

 そしてどちらともなく頬を寄せ、長いキスをした。戦いばかりだったこれまでの日々から時間を取り戻すかのような、長い長いキス。

 

「これからもよろしくね、JJ……」

「こちらこそ。俺の、アップル……」

 

マリスの蒼い光を受け、アップルが微笑んだ。

凛として艶かしく、神からの贈り物のように美しい微笑だった。

 

<了>

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