赤い光弾ジリオン勝手続編シリーズ〜A GIFT FROM GOD〜   作:LLZILLION

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ジリオン最終回の直後あたりのお話です。
A GIFT OF GODのアップル視点的な感じで繋がってます。


神からの贈り物

 

 「俺はアップルが、俺はアップルがー!」

 考えるより先に体が動いた。アップルはライディングセプターを急停止させると、怒りを抑えて後部座席に笑いかけた。

 「二人とも、いい加減にしないと――」

 

 

 この機会にVIP待遇を満喫するぜ! とさっさと個室に引っ込んでしまったJJを、アップルは呆れ気味に見送った。そこに、チャンプが声をかける。

 「なぁにチャンプ? 女の子を紹介して、というのなら、さすがに今度にしてね」

 「それは忘れてた。ぜひご紹介いただきたいところなんだが、生憎と、もっと奥手なヤツの話が今はしたいな」

 「JJが奥手? まさか」

 「あれぇ? 俺はJJの話なんてしてないぜ」

 アップルの頬にさっと朱がさした。ニヤリと笑ったチャンプを、その強い瞳で睨めつける。

 「……でもま、せっかくだから便乗させてくれ。あのバカ、勢いに任せてなんか口走ってたけど」

 「そう、まったくデリカシーもなにもありゃしない!」

 「……い、いやほんと。まったく同感、同感」つい声を荒げたアップルの剣幕に、チャンプはたじろいだ。

 「そこで思うんだが……あれはバカならなりの、愚直さってやつじゃないかな」

 「それにしたって……」

 「あぁ、それにしたって、サイテー最悪な告白だ。それは認める。……でもアップル、そのバカな男のバカな思いを、一度、きちんと聞いてやってくれないか」

 「チャンプ……」

 チャンプはもう、笑ってはいなかった。憂いを含んだ瞳に、アップルの心がさざ波立つ。

 「ま、その上でアイツを振るのも君の自由、そして俺の胸に飛び込んでくるのも自由、ってわけ。どう?」

 照れ隠しのつもりなのか、チャンプはいつものとびきり気取った笑顔を見せた。その整った横顔に魅せられて、こちらもつい、いつものように茶化してしまう。

 「ずいぶん仲間思いじゃない? 後ろの提案はいただけないけど」

 「あーんな会話見せつけられたら、お節介もしたくなるって。これでも、男女関係にはちょっとばかり詳しいんでね。デリカシーゼロの鈍感野郎はもちろん、ことによると君よりも」

 「そ~お? たいした自信ね、プレイボーイさん。せいぜい、参考にさせていただきます」

 「そうしてくれ。じゃっ」

 ウィンクとともに、チャンプも個室に消えた。まったく、お節介なんだから……。

 「……ありがとう、チャンプ」

 

 個室に落ち着いたアップルは、まず着替えを済ませた。

 戦闘服の破れ方は、思った以上にひどいものだった。あらためて、よく生きていたものだと思う。そしてノーザが去ったいま、生命を掛けるほどの使命感は、もう持てないだろうことも。境遇は同じだったはずのJJの思い……嬉しかったけれど、身勝手だと思った。私を置いてリルに向かおうとしたこと、まるで遺言のような通信、そして……とにかく、ひとこと言ってやらなきゃ気が済まない。人の気も知らないで、なにが「いい旦那を見つけろ」よ!

 

 アップルはシャワーを浴び、傷口を洗ってテーピングした。ふと鏡を見ると、そこには凱旋を待つ戦士ではなく、物思いに沈む女が写っていた。

 チャンプに言われるまでもなく、JJの真意は問うつもりだったけれど……本当に、聞けるだろうか? 「言わねぇ!」と黙秘されたり、いつものように、はぐらかされたりするのでは? もっと悪くて、ただチャンプと張り合って、引っ込みがつかなくなって言い出したことだと謝られたら? 無理に聞いてしまうことで、かけがえのない仲間を失ってしまうことだって……

 

 アップルは首を振った。

 これまでは、ホワイトナッツの――情報部の――マリス軍の――マリスの人々の――ために、求められる役割を努めて果たし、それに満足もしてきた。ときに、自分を押さえつけることがあっても。

 でもこれからは、自分の言葉で、自分の気持ちに従って生きていく。好きならば、好きと意思表示する。鏡の中の、裸の自分を励ました。

 「ここから、はじめなくっちゃね」

 

 JJの部屋はレイアウトが反転しているだけで、さっきまでいた部屋と同じ内装だった。こちらもシャワーを浴びたのだろう、さっぱりした格好で出迎えたJJは、アップルの訪問に少し驚いたようだった。

 JJが不安げに目を逸らす。すごく、悪い兆候。どうしよう、本人を前にしたら気持ちが走ってしまって、もう止められない。そして駆け引きもなにもなく、アップルはただ自分の願いだけを、率直にJJに伝えた。

 「ね、JJ。さっきの、“俺はアップルが”のあとを聞かせて」

 

 JJの反応を伺う。鼓動が痛いほど激しくなり、JJに聞こえてしまいそう。苦しそうなJJの微妙な表情の変化一つ一つに、胸の奥から切ないものが込み上げてくる。やっぱり、性急すぎたんだろうか……

 

 JJの回答は意外なものだった。アップルは歓喜に身を焦がし、次いで、激怒に身を震わせた。JJへの怒りと愛しさが錯綜し、アップルはJJを平手打ちし、そしてキスした。

 

 そのまま、どちらから肌を合わせたのか、よく覚えていない。必死さだけは痛いほど伝わるJJを、アップルは自分も初めてなのにリードしなければならなかった。いまも目を閉じれば、JJの切なげな息遣いと熱い身体が――

 

 コンソメの香りを吸い込んで、アップルは目をあけた。スープをコンロから下ろし、皿に移す。簡素なキッチンで缶詰を温めただけの食事でも、いまの二人にとっては、どんな豪華料理にもまさる特別なディナーだった。

 アップルはエプロンをつけたまま、食べっぷりのいいJJの姿をいつまでも飽かずに見つめていた。

 

 「な、なんだよアップル、ずっとニヤニヤして。なんか、気恥ずかしいな」JJが顔を赤くして言う。

 「んもう、照れないでよJJ、こっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃない」

 答えるアップルも頬を染める。JJとアップルは互いを横目に伺いながら、くすぐったそうに笑いあった。

 

 「そろそろ定期連絡の時間だ。JJ、チャンプ、アップル、気が向いたらコクピットに来てくれ」

 スピーカーからデイブの声が流れ、二人は顔を見合わせた。

 「行こうか?」

 「えぇ、行きましょ」

 JJはスープを飲み干すと立ち上がった。アップルも立って、纏っていたエプロンを手早く畳む。

 「あ、そうそう」

 アップルはJJの手に指を絡め、耳元に唇を寄せた。

 「できちゃったら責任とってね、パーパ」

 

 今ごろ自分の発言と行為の重大さに気づいたのかどうか、JJは棒を飲んだような顔をしたまま固まってしまった。それでも、持ち前のカラ元気をすぐさま発揮してガッツポーズをとって見せる。

 「お……、おう、任せろ!」

 アップルはJJの胸に飛び込んだ。バランスを崩したJJはブンブンと腕を振り回し、かろうじてアップルを抱き止めた。

 

 神がもたらした神秘の銃(ジリオン)。それがなければ出会うこともなかった、かけがえのない(ひと)。これも、神からの贈り物(A GIFT FROM GOD)なのかも知れなかった。

 アップルはその存在への感謝を込めて、JJの頬にキスをした。

 

<了>

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