赤い光弾ジリオン勝手続編シリーズ〜A GIFT FROM GOD〜 作:LLZILLION
A GIFT OF GODのアップル視点的な感じで繋がってます。
「俺はアップルが、俺はアップルがー!」
考えるより先に体が動いた。アップルはライディングセプターを急停止させると、怒りを抑えて後部座席に笑いかけた。
「二人とも、いい加減にしないと――」
*
この機会にVIP待遇を満喫するぜ! とさっさと個室に引っ込んでしまったJJを、アップルは呆れ気味に見送った。そこに、チャンプが声をかける。
「なぁにチャンプ? 女の子を紹介して、というのなら、さすがに今度にしてね」
「それは忘れてた。ぜひご紹介いただきたいところなんだが、生憎と、もっと奥手なヤツの話が今はしたいな」
「JJが奥手? まさか」
「あれぇ? 俺はJJの話なんてしてないぜ」
アップルの頬にさっと朱がさした。ニヤリと笑ったチャンプを、その強い瞳で睨めつける。
「……でもま、せっかくだから便乗させてくれ。あのバカ、勢いに任せてなんか口走ってたけど」
「そう、まったくデリカシーもなにもありゃしない!」
「……い、いやほんと。まったく同感、同感」つい声を荒げたアップルの剣幕に、チャンプはたじろいだ。
「そこで思うんだが……あれはバカならなりの、愚直さってやつじゃないかな」
「それにしたって……」
「あぁ、それにしたって、サイテー最悪な告白だ。それは認める。……でもアップル、そのバカな男のバカな思いを、一度、きちんと聞いてやってくれないか」
「チャンプ……」
チャンプはもう、笑ってはいなかった。憂いを含んだ瞳に、アップルの心がさざ波立つ。
「ま、その上でアイツを振るのも君の自由、そして俺の胸に飛び込んでくるのも自由、ってわけ。どう?」
照れ隠しのつもりなのか、チャンプはいつものとびきり気取った笑顔を見せた。その整った横顔に魅せられて、こちらもつい、いつものように茶化してしまう。
「ずいぶん仲間思いじゃない? 後ろの提案はいただけないけど」
「あーんな会話見せつけられたら、お節介もしたくなるって。これでも、男女関係にはちょっとばかり詳しいんでね。デリカシーゼロの鈍感野郎はもちろん、ことによると君よりも」
「そ~お? たいした自信ね、プレイボーイさん。せいぜい、参考にさせていただきます」
「そうしてくれ。じゃっ」
ウィンクとともに、チャンプも個室に消えた。まったく、お節介なんだから……。
「……ありがとう、チャンプ」
個室に落ち着いたアップルは、まず着替えを済ませた。
戦闘服の破れ方は、思った以上にひどいものだった。あらためて、よく生きていたものだと思う。そしてノーザが去ったいま、生命を掛けるほどの使命感は、もう持てないだろうことも。境遇は同じだったはずのJJの思い……嬉しかったけれど、身勝手だと思った。私を置いてリルに向かおうとしたこと、まるで遺言のような通信、そして……とにかく、ひとこと言ってやらなきゃ気が済まない。人の気も知らないで、なにが「いい旦那を見つけろ」よ!
アップルはシャワーを浴び、傷口を洗ってテーピングした。ふと鏡を見ると、そこには凱旋を待つ戦士ではなく、物思いに沈む女が写っていた。
チャンプに言われるまでもなく、JJの真意は問うつもりだったけれど……本当に、聞けるだろうか? 「言わねぇ!」と黙秘されたり、いつものように、はぐらかされたりするのでは? もっと悪くて、ただチャンプと張り合って、引っ込みがつかなくなって言い出したことだと謝られたら? 無理に聞いてしまうことで、かけがえのない仲間を失ってしまうことだって……
アップルは首を振った。
これまでは、ホワイトナッツの――情報部の――マリス軍の――マリスの人々の――ために、求められる役割を努めて果たし、それに満足もしてきた。ときに、自分を押さえつけることがあっても。
でもこれからは、自分の言葉で、自分の気持ちに従って生きていく。好きならば、好きと意思表示する。鏡の中の、裸の自分を励ました。
「ここから、はじめなくっちゃね」
JJの部屋はレイアウトが反転しているだけで、さっきまでいた部屋と同じ内装だった。こちらもシャワーを浴びたのだろう、さっぱりした格好で出迎えたJJは、アップルの訪問に少し驚いたようだった。
JJが不安げに目を逸らす。すごく、悪い兆候。どうしよう、本人を前にしたら気持ちが走ってしまって、もう止められない。そして駆け引きもなにもなく、アップルはただ自分の願いだけを、率直にJJに伝えた。
「ね、JJ。さっきの、“俺はアップルが”のあとを聞かせて」
JJの反応を伺う。鼓動が痛いほど激しくなり、JJに聞こえてしまいそう。苦しそうなJJの微妙な表情の変化一つ一つに、胸の奥から切ないものが込み上げてくる。やっぱり、性急すぎたんだろうか……
JJの回答は意外なものだった。アップルは歓喜に身を焦がし、次いで、激怒に身を震わせた。JJへの怒りと愛しさが錯綜し、アップルはJJを平手打ちし、そしてキスした。
そのまま、どちらから肌を合わせたのか、よく覚えていない。必死さだけは痛いほど伝わるJJを、アップルは自分も初めてなのにリードしなければならなかった。いまも目を閉じれば、JJの切なげな息遣いと熱い身体が――
コンソメの香りを吸い込んで、アップルは目をあけた。スープをコンロから下ろし、皿に移す。簡素なキッチンで缶詰を温めただけの食事でも、いまの二人にとっては、どんな豪華料理にもまさる特別なディナーだった。
アップルはエプロンをつけたまま、食べっぷりのいいJJの姿をいつまでも飽かずに見つめていた。
「な、なんだよアップル、ずっとニヤニヤして。なんか、気恥ずかしいな」JJが顔を赤くして言う。
「んもう、照れないでよJJ、こっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃない」
答えるアップルも頬を染める。JJとアップルは互いを横目に伺いながら、くすぐったそうに笑いあった。
「そろそろ定期連絡の時間だ。JJ、チャンプ、アップル、気が向いたらコクピットに来てくれ」
スピーカーからデイブの声が流れ、二人は顔を見合わせた。
「行こうか?」
「えぇ、行きましょ」
JJはスープを飲み干すと立ち上がった。アップルも立って、纏っていたエプロンを手早く畳む。
「あ、そうそう」
アップルはJJの手に指を絡め、耳元に唇を寄せた。
「できちゃったら責任とってね、パーパ」
今ごろ自分の発言と行為の重大さに気づいたのかどうか、JJは棒を飲んだような顔をしたまま固まってしまった。それでも、持ち前のカラ元気をすぐさま発揮してガッツポーズをとって見せる。
「お……、おう、任せろ!」
アップルはJJの胸に飛び込んだ。バランスを崩したJJはブンブンと腕を振り回し、かろうじてアップルを抱き止めた。
神がもたらした
アップルはその存在への感謝を込めて、JJの頬にキスをした。
<了>