赤い光弾ジリオン勝手続編シリーズ〜A GIFT FROM GOD〜   作:LLZILLION

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本編完結後半年くらいのお話。
ホワイトナッツ、最後のミッション。
こういうジリオンらしいパターンのお話を一度やってみたかったんですね。


ラスト・ミッション 〜A GIFT FROM GOD終章〜

 カーテンの隙間から光が射し、ふたりの裸体を照らした。アップルの背に突っ伏したJJの汗ばんだ身体が、冬の朝日を反射する。

 ふたりのまだ荒い呼吸に鳥の声が混じり、アップルが薄目を開けた。

「……んもぅ、朝から激しいんだから……」

 アップルが甘い声で訴えると、JJはごろんと仰向けになった。

「……だってよー、アップルがあんまりカワ……」

「……?」

 途中まで出かけた言葉を飲み込み、JJは言った。

「あんまり、色っぽいんでさ」

 

 今日は最後のC級待機。日曜だから大学の講義もない。ふたりは新居に入れる家具の下見に、シティの繁華街に出る予定を立てていた。

 

 アップルが身を起こした。その滑らかな背を抱きしめ、JJは息を吸い込んだ。アップルの芳香が鼻孔を快く刺激する。髪をかき分け、首筋にキスをした。そのまま、豊かな乳房に手を伸ばす。

「ぅうん…もうだめ。はやく準備しなきゃ」

「まぁだいいだろ? そんな急ぐこっちゃないし」

 

 通信機のアラームが鳴った。

『アップル? 早朝にごめんなさい!』

 エイミの緊迫した声がスピーカーから流れ、アップルのスイッチが切り替わった。

『緊急召集よ!ノーザの自動プラントが見つかったの』

「えぇっ! …ええ…えぇわかったわ。至急本部に向かい…あんっ!?」

 背中にキスしたJJをアップルが邪険に押し退け、エイミの耳に派手な物音とJJの呻き声が聞こえた。

「25分で向かいます!」

 アップルはそれだけ言うと通話を切った。

 

 

「――C級待機のところをすまない。しかし、これは緊急事態だ」

 Mr.ゴードが口を開いた。

 

 山麓の洞窟にノーザの自動プラントが発見された。これまでなぜ活動していなかったかはわからないが、偵察部隊との接触が引き金になった可能性もある。もちろんノーザはいないが、先遣隊はプラントの自動応戦マシンに襲われた。山は活火山だ。山ごと爆破するような手荒な手段は使えない。

 

「――ではやはり、内部に侵入しての破壊を?」

 チャンプの問いに、Mr.ゴードは頷いた。

「うむ、そういうことになる。大部隊を送るにしても、敵プラントの情報が皆無だ。そこで、諸君らの経験が必要とされている。……久々の実戦だ。ジリオンもない。くれぐれも、無理はしないように」

「JJ、無理シナイ」

「名指しすんなっつーの!」

 JJがオパオパをポカリと叩いた。

「ホワイトナッツ、出動せよ!」

「ラジャー!」

 

 

「――そろそろ現場上空だ。ランドキャリッドをスタンバってくれ」

 デイブの声とほぼ同時に、地上からビッグポーターへの砲撃が始まった。

「そらお出ましだ!」

 デイブは操縦捍を引き、砲撃を避けて機体をロールさせた。床が斜めになり、食パンをくわえたJJはたたらを踏んだ。

「おわっと、っとと! デイブ、操縦がちっとばかし荒くない?」

 慌ててシートにしがみついたJJをチャンプがからかった。

「どうしたJJ、久しぶりの実戦で感覚がナマったか?」

「ん、んなわけねーだろ!」

 食パンを一息に飲み下し、JJはシートをひらりと飛び越した。

「いくぜ、チャンプ、アップル!」

 

「ランドキャリッド、ジョイント・オフ!」

 デイブがスイッチを操作し、ランドキャリッドがビッグポーターから分離した。

 対空砲火をかすめて降下したランドキャリッドは着地とともに大きくバウンドし、次いで巨大なタイヤが大地を巻き上げ、力強く走り出した。

 

「オートパイロット、ロック!」

 飛び出そうとするJJにチャンプが言った。

「そういや、JJが動かすものに乗るのもこれで最後かもな」

「いつでも呼んでくれよな、チャンプが女から逃げたくなったときとか」

「バーカ、オマエのメチャクチャな運転からやっと逃れられるってのに、わざわざ車酔いを頼むようなマネするかよ」

「酔い止めなら出すぜ? 小児用なら」

「もう、二人ともバカ言ってないで出るわよ!」

「はいよっ!」

 

 JJとチャンプのトライチャージャーがランドキャリッドの後部から飛び出した。ついで、ライディングセプターでアップルが地面をとらえる。

 洞窟の入り口がチカリと光り、防御装置が砲撃を開始した。JJは大型ライフルを構えて反撃したが、あまり効果はなかった。

「ど~も慣れねえな、これ」

「餅は餅屋、俺に任せろ」

 チャンプがライフルを構え、器用に砲台を破壊した。

「助かるぜ!」

 JJが火線に飛び出し、トライチャージャーをアーモレーターに変形させた。そのまま扉に体当たりし、プラントに侵入する。一瞬ためらったアップルもそれに続く。

「うわぁーっ!」

 JJの悲鳴が聞こえた。

「JJッ……!」

 

アップルはまだ家具の揃わない部屋に崩れ折れ、彼の残り香の染み付いた冷たいベッドに顔を埋めた――

 

 アップルはかぶりを振ってその不吉な想像を断ち切った。やっぱり、思い切りが悪くなっている。左手のアクセルに力を込めた。

「アップル、無理するな!JJ、オマエは自重しろ!」

『チャンプ、中は要塞だ。こりゃ手間だぜ!』

「ったくアイツは……うおっ!?」

 手の形をした警備メカがわらわらとチャンプのアーモレーターに襲いかかり、あっという間にチャンプの動きを封じた。とっさにアーモレーターから離脱し、一匹づつ始末する。アーモレーターが爆発し、敵メカがターゲットを一瞬見失った。

「チャンプ、よけろ!」

 JJのアーモレーターが警備メカを踏み潰し、チャンプの前に立った。

「こいつら、ノーザウォーリアーズのスペアなんじゃねえのか!?」

 群がるメカを踏みつけ、叩き潰すJJのヘッドセットに通信が入った。

『こちらデイブ。いまアップルから受け取ったデータだが、解析が終わって洞窟の形状が判明した。そこの床下は空洞だ。天井を壊して床を崩落させれば、プラントも一気に破壊できる』

「聞いたか、チャンプ?まさか、ここまで来て偵察だけってことはねぇよな?」

「聞いた。ところでオマエ、不得意は承知で訊くが、天井の一点をスナイプできるか?」

「やるっきゃねーだろ。幸い、口の悪い先生もたまたまいることだし。……アップル、キャノンを頼む!」

「わかったわ!」

 アップルのライディングセプターが警備メカを蹴散らし、JJのアーモレーターがサイドカーのキャノンを掴んだ。そこに素早くチャンプが飛び乗る。

「デイブ、データを送ってくれ」

『わかった、頼むぞチャンプ』

「…なるほど…。おいJJ、トランポリンは任せるぜ」

 データを確認したチャンプがJJに言った。

「任せとけ!んでも、着地は保証外だぜ?」

 言うが早いか、JJは膝のタイヤを使って助走すると、キャノンとチャンプを抱えたまま、洞窟の奥に向かってハイジャンプした。

「JJ、左に三度、上一度!……いまだ、撃て!」

 JJとチャンプのアイサイトが連携し、天井の一点を捉えた。

 

「シュート!」

 JJが引き金を引き、大型キャノンが立て続けに火を噴いた。天井が早くも崩落し始め、JJたちにも瓦礫が降りかかる。

「アップル、脱出する!チャンプ、ちょっと無茶するぜ!」

 JJはキャノンごとチャンプを出口に向けて思いきり射出した。

「うおおっと!」

 JJは大きくジャンプして変形を解き、トライチャージャーをバギー形態にした。天井の瓦礫の重みが、ついに床の底を抜いた。JJはチャンプに追い付き、急速に崩壊する洞窟を駆け抜けた。

 

 アップルのライディングセプターが洞窟を飛び出し、スライドさせた後輪が大きな弧を描いて止まった。扉の防御装置は、すでに機能を停止していた。

「……JJ、チャンプ!」

 崩壊する洞窟から、轟音が鳴り響く。

 ランドキャリッドがアップルの位置を捉え、ホイールを駆動した。上空のビッグポーターが降下を始め、デイブの通信が入った。

『アップル、プラントの活動は停止した。JJとチャンプはどこだ?』

 アップルが返信しようとしたとき、洞窟の出口からトライチャージャーが飛び出した。アーモレーター形態で、チャンプを覆うようにガードしている。

『こちらJJ!ちょっと埃っぽいんで、シャワーの用意を頼む』

 

「ひゅーっ、やるぅ!」

 飛び出したJJをビッグポーターのコクピットから認めて、デイブは感嘆の声を上げた。

「まったく…JJ、オマエってヤツは最後まで楽しませてくれるぜ」

 チャンプがあきれたように呟いた。

 JJはトライチャージャーをバギーに変形させ、チャンプとタンデムになった。

「お互い様。ま、あとは任せたぜ、チャンプ」

 JJはチャンプを振り返り、親指を立てた。

 チャンプも親指を立て、JJと拳をぶつけた。

 

「JJ……っ」

 アップルが駆け寄って、JJの胸に飛び込んだ。ビッグポーターから降りたデイブとチャンプは、その姿をしげしげと眺め、頬を緩めた。

「ほぉほぉ~、これはこれは…」

 眼をしばたかせたアップルはその不躾な視線に気づくと、JJを突き飛ばし、腕を組んでそっぽを向いた。

「うへっ……な、なんでェ!?」

 バランスを崩して地面に倒れたJJを見ながら、デイブが心底残念そうに

「……なんだぁ、こっからもっといいシーンが見れると思ったのに」と言った。

 

 大学のラウンジでは、臨時ニュースが流れていた。

『――未明に発見されたノーザの無人プラントは、先ほどマリス軍の手により無事無力化されました。なお、これに伴い周囲2kmの禁止区域も解除され――』

 モニターには、ビッグポーターにランドキャリッドが接続され、離陸する映像が映っている。

「……無事でよかったわ」

 教授らしい女性は微笑して、しなやかな指でカップを持ち上げると、モニター内の白い機体に掲げた。

 

 ビッグポーターでは、アップルがメディカルルームの前で足を止めていた。

「……」

 思えば、ずいぶんとこの部屋には助けられた。よく生死不明になったJJ。負傷が絶えなかったチャンプ。アップルにしても、任務終了とともに何度この部屋を訪れたかわからない。

 目を移すと、メディカルルームの並びにVIP用の個室があった。アップルはくすぐったそうな笑みを浮かべて冷たい扉に近づくと、寄り添うように体を預けて瞳を閉じた。

 

 ランドキャリッドのガレージで、JJはトライチャージャーについた土をあらかた落とし終えた。

 もう、これらのマシンに乗ることもないだろう。トライチャージャー、ライディングセプター、各キャリッドマシン……そして、ビッグポーター。ともに死地を走り抜けた、頼もしい機械の相棒たち。

 土と硝煙で汚れ、凹凸が目立つトライチャージャーのシールドパネルを、JJはスッと撫でた。

「……世話んなったな」

 焼けたモーターの放つ独特の臭いが好きだったことを、JJはいまになって思い当たった。

 チャンプが扉からひょっこりと顔を出し、神妙な表情のJJに気づくと、微笑して言った。

「なにボサッとしてんだJJ、お別れ会か? 終わったらさっさとブリッジに向かえよ」

「へーいへい」

 

 ブリッジに向かおうとしたJJは、個室の扉に佇むアップルを目に留めた。

「あれ、どうしたんだよアップル?」

「きゃっ! じぇ、JJっ!?」

 アップルは扉から飛び退いた。その反応に驚いたJJは、何気なくその部屋の番号を読み取った。

「あれ、ここって……」

 個室のルームA。

 そう、忘れもしない、ノーザとの戦いが終わったあの日。俺とアップルは、ここで――

 

「うわっ!? な、なにすんだよイキナリ!?」

 手を掴んだアップルは、強引にJJをブリッジに引っ張った。

「な、なんでもないわJJ、はやく行きましょ!」

 

 

「――皆、よくやってくれた」

 その日の夕刻、ホワイトナッツ本部に戻った一行を迎えて、ゴード長官が言った。

「さきほど、プラントの完全な破壊が確認された。C級待機の返上を考慮し、アタックチームは本日只今をもって、その全任務を完了したとみなす。JJ、チャンプ、アップル……本当に、ご苦労だった」

「ありがとうございます、Mr.ゴード」

「長官も……本当に、お疲れさまでした。いつも私たちのことを気にかけていただいて、感謝しています」

 そう答えたチャンプとアップルを見比べ、JJは不満そうに鼻をならした。

「……へっ、なーんか、ふたりともお堅すぎない? 卒業式じゃねーんだからさ」

「…JJっ!」

 アップルの鋭い視線に構わず、JJは続けた。

「リルに向かったときに援護してくれた長官、カッコ良かったぜ。でも、もうあんなムチャはしないでくれよな!」

「……ハッハッ! 本家にまでムチャするなと言われるとは、わたしもずいぶんとJJに影響されたものだ」

 破顔一笑したMr.ゴードは穏やかな表情に戻り、JJとアップルの肩に手を置いた。

「ふたりとも、これまで本当に、ありがとう。これからも、わたしが力になれることがあったら遠慮なく、連絡してきてほしい。……そしてチャンプ。君にも感謝しきれない。これからも、マリス軍のために力を貸してくれたまえ」

「あなたの下で働けて幸せでした、Mr.ゴード」

 チャンプが微笑して言った。

「Mr.ゴード……本当に、ありがとうございます」

 やや涙声でアップルも答えた。

 JJが突然両手を広げ、チャンプとアップルを抱き寄せた。

「Mr.ゴード! 俺やっぱ、ホワイトナッツ好きだぜ!」

 JJの突然の行動に面食らったチャンプとアップルが、JJを見つめた。JJはふたりに笑いかけ、ピースサインを出した。

「……わたしもだ」

 Mr.ゴードは胸がつかえ、それだけ答えるのがやっとだった。

「うわーん、JJー! アップルー! チャンプー!」

 感極まったデイブが巨体をぶつけ、三人をもみくちゃにした。

「みんな、ずっとホワイトナッツの仲間だよ!」

 続いてエイミもその塊にダイブし、オパオパの目を白黒させた。

 

「……神が我々に与えたのは……実は、この若者たちだったのかもしれんな……」

 Mr.ゴードは目を細め、空に向かって呟いた。

 

 

「はい皆さーん、お写真撮りますんで並んでくださーい」

 慣れた感じでカメラマンが指示を飛ばした。

「新郎新婦が中央、介添えの方が両隣にー」

「じゃあ俺がJJの横だな。悪いなJJ、新郎を霞ませちまって」

「うるせーチャンプ! オメーの結婚式で借り返すから覚悟しとけよ!」

 少し身長差が縮まったJJがチャンプに食ってかかった。

「そういやこれ、JJの結婚式なのか? こんなベッピンと? 嘘だろ?」

 マッシやモーガンと旧交を暖めていたボーが振り向いてJJに言った。

「ここまで来て今さらなに言ってんだボー!?」

 そのやりとりを横目に、エイミが人混みをかきわけ、前に出てきた。

「じゃあ、わたしがアップルの横ね」

「ねえエイミ…わたし、お腹が目立ってない?」

「うぅん、大丈夫大丈夫! とーっても可愛いお嫁さんになってるよ!」

 その声を聞き付けたデイブがふたりの前に歩み出た。

「じゃあ、僕がかわりに大きいお腹を」

「こらーデイブ! なんでオメーが真ん中に立ってんだよ!」

「ああゴメンゴメン、ここは僕の出る幕じゃなかったな。Mr.ゴード、お願いします」

「ん、うむ!?」

 いきなり名前を出されたMr.ゴードは慌てて振り向いた。

「そういう意味じゃねー!」

「ガハハハハッ」

「オパオパ! オパオパ!」

「アハハハ、おもしろーい!」

「こらジョニー、お腹引っ張んないでくれ」

 

「みなさん、笑って…と普段は言うんですがちょっと皆さんは笑いすぎですよ」

 カメラマンがあきれたように言った。

「俺たちらしいや、なぁアップル!」

 JJはアップルを抱き上げた。

「ひゅーっ! JJやるゥー!」

「ぱぱ頑張ってー!」

「JJ、腰やられんなよー」

「はーい撮りまーす」

 

<完>




勝手続編シリーズもこれにて一応の完結です。
「GIFT」が何か、がシリーズ内でコロコロ変わってまして、もう少しひねろうか…とも思うも、やっぱり最初にあんな話を書いた手前、これ以外の終わり方にはできませんでした。
フィクションの世界くらい幸せに終わらせたっていいじゃない、とか最近強く思っております。

ご感想などいただけると嬉しいです。
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